説明

地上タンク

【課題】円周方向PC鋼材による曲げモーメントを低減することができ、施工性も改善し、工費を削減できる地上タンクを提供する。
【解決手段】地上タンク1のPC防液堤7に、プレストレスを導入した鉛直方向PC鋼材15、円周方向PC鋼材17が埋設される。地上タンク1の鉛直杭13のうち、基礎版5の外周部に配置される、最外部の鉛直杭13aの杭心23を、PC防液堤7の厚さ方向の中心21よりも基礎版5の外周側に位置させ、PC防液堤7の自重によるタンク外側方向の曲げモーメントCをPC防液堤7に作用させる。これにより円周方向PC鋼材17の腹圧によりPC防液堤7に加わるタンク内側方向の曲げモーメントGを低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上タンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液化天然ガス、液化石油ガス、水(上水、下水)などを貯蔵するために、PC(Pre−stressed Concrete)地上タンクが用いられている。図4は、従来の地上タンク101を示す図である。地上タンク101は、液化天然ガスや液化石油ガスを貯蔵する地上タンクの例である。図4に示すように、従来の地上タンク101は、地盤103に設けられた複数の鉛直杭113、鉛直杭113に支持された略円形の平面形状を有する基礎版105、基礎版105上に形成された略円筒状の壁部であるPC防液堤107、PC防液堤107の内部に設けられた内槽109等からなる。
【0003】
図5は、図4の範囲Eで示す、基礎版105とPC防液堤107の交差部付近の拡大図である。図5に示すように、PC防液堤107には、鉛直方向PC鋼材115、円周方向PC鋼材117が埋設される。鉛直方向PC鋼材115、円周方向PC鋼材117には、それぞれプレストレスが導入される。
【0004】
円周方向PC鋼材117は、PC防液堤107に周方向の圧縮力を導入することによりPC防液堤107の強度を高め、外部から大きな力が加わった場合にもPC防液堤107の破壊を防ぎ、内槽109が破壊した場合でも漏液を防いで液密性を確保するための部材であるが、常時にはタンク内部より液圧がかかっていない状態にある。
このため、PC防液堤107と基礎版105の交差部付近では、円周方向PC鋼材117によりタンク内側方向に加わる腹圧のため、矢印Gに示すタンク内側方向の曲げモーメントがPC防液堤107に常時作用している。これによりPC防液堤7にタンク内側方向の曲げが発生し、交差部でのひび割れ発生の一因となっていた。
【0005】
これを抑制するための一方策として、図5に示す、PC防液堤107へ更に鉛直方向追加PC鋼材119を埋設する例がある。PC防液堤107の下部に、タンク外側に増厚する増厚部123を設け、増厚部123に鉛直方向追加PC鋼材119を埋設し、プレストレスを導入する(例えば、特許文献1参照)。これにより、矢印Fに示すタンク外側方向の曲げモーメントをPC防液堤107に作用させ、円周方向PC鋼材117の腹圧によるタンク内側方向の曲げモーメントを相殺することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−83572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、鉛直方向追加PC鋼材119を設置し、円周方向PC鋼材117の腹圧による曲げモーメントを相殺するような曲げモーメントを作用させるためには、鉛直方向追加PC鋼材119に高仕様の材料を使用したり、大きな緊張力を導入したりする必要があり、工費が増大するという問題があった。
【0008】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、円周方向PC鋼材による曲げモーメントを低減することができ、施工性も改善し、工費を削減できる地上タンクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための本発明は、基礎版の外周部に、筒状の壁部が形成された地上タンクであって、前記壁部に、プレストレスが導入された周方向のPC鋼材が埋設され、前記基礎版が下方の杭により支持され、前記基礎版の外周部に配置される杭の杭心の位置を、前記壁部の厚さ方向の中心よりも前記基礎版の外周側とし、前記壁部の自重によるタンク外側方向の曲げモーメントを前記壁部に加えることにより、前記周方向のPC鋼材により加わる、前記壁部におけるタンク内側方向の曲げモーメントを低減することを特徴とする地上タンクである。
【0010】
本発明では、前記杭心の位置が、前記壁部の外周、もしくは、前記壁部の厚さ方向の中心よりも外周側かつ前記壁部の外周の内側にあることが望ましい。
また、前記基礎版の外周部に配置される杭が、前記基礎版の全周にわたって配置されることが望ましい。
【0011】
本発明により、杭心を壁部の中心より基礎版の外周側に位置させて、壁部の自重によるタンク外側方向の曲げモーメントを壁部に発生させることで、円周方向PC鋼材の腹圧により発生するタンク内側方向の曲げモーメントを低減することができる。これにより、円周方向PC鋼材の腹圧による曲げモーメントにより壁部と基礎版の交差部に生じる曲げが低減される。
そして、壁部の自重による曲げモーメントを作用させることで、円周方向PC鋼材による曲げモーメントを相殺するための別の機構、例えば図5のような鉛直方向追加PC鋼材の仕様を低減することができる。鉛直方向追加PC鋼材の場合であれば、上記の構成との組み合わせにより、PC鋼材の本数を減らす、導入する緊張力を低減する、材料を変更するなどの仕様の緩和が可能となり、施工性が改善し、工費を削減できる。
また、杭心は壁部の中心より基礎版の外周側にあればよいが、地上タンクの壁部を有効に支持させる必要も鑑みれば、杭心は壁部の外周、もしくは、壁部の中心よりも外周側かつ壁部の外周の内側にあることが望ましい。
加えて、基礎版の全周にわたって上記の杭を配置することにより、壁部の周方向に沿って均一に上記の曲げモーメントを作用させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、円周方向PC鋼材による曲げモーメントを低減することができ、施工性も改善し、工費を削減できる地上タンクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】地上タンク1の垂直断面図
【図2】基礎版5とPC防液堤7の交差部25付近の拡大図
【図3】曲げモーメント低減のメカニズムを説明する図
【図4】従来の地上タンク101を示す図
【図5】基礎版105とPC防液堤107の交差部付近の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1は、地上タンク1の垂直断面図である。図1に示す地上タンク1は液化天然ガスや液化石油ガスを貯蔵する地上タンクの例であり、基礎版5、PC防液堤7、内槽9、鉛直杭13等からなる。
基礎版5、PC防液堤7、内槽9は、それぞれ図4等で説明した基礎版105、PC防液堤107、内槽109と同様である。
【0015】
図2は、図1の範囲Aで示す、基礎版5とPC防液堤7の交差部25付近の拡大図である。図5と同様、地上タンク1のPC防液堤7には、鉛直方向PC鋼材15と円周方向PC鋼材17が埋設される。また、PC防液堤7の下部に増厚部27が形成され、増厚部27に鉛直方向追加PC鋼材19が埋設される。鉛直方向PC鋼材15、円周方向PC鋼材17、鉛直方向追加PC鋼材19にはプレストレスが導入される。
【0016】
そして、本実施形態では、地盤3に設置された、地上タンク1を支持する鉛直杭13のうち、基礎版5の外周部に配置される最外部の鉛直杭13aの杭心23の、基礎版5の径方向の位置が図4、5の例とは異なる。即ち、図5等に示すように、通常、基礎版105の最も外側に配置される鉛直杭113aの杭心は、(増厚部123が形成された)PC防液堤107の厚さ方向の中心121の位置にあるが、本実施形態では、これを外側へずらし、杭心23を、(増厚部27が形成された)PC防液堤7の厚さ方向の中心21よりも基礎版5の外周側に位置させる。鉛直杭13aは、基礎版5の全周にわたって配置される。
これにより、以下示すように、円周方向PC鋼材17の腹圧のためPC防液堤7に加わるタンク内側方向の曲げモーメントを低減させる。
【0017】
図3は、上記の曲げモーメント低減のメカニズムを説明する図である。図5等と同様、地上タンク1では、図3(a)に示すように、円周方向PC鋼材17の腹圧によりタンク内側方向の曲げモーメントGがPC防液堤7に加わる。
【0018】
そして、本実施形態では、鉛直杭13aの杭心23が、PC防液堤7の厚さ方向の中心21よりも基礎版5の外周側にずれているため、図3(b)の破線で示すように、PC防液堤7の自重により、鉛直杭13aの内側で基礎版5が下方にたわむ。これによりPC防液堤7の下部はタンク内側へ傾斜するが、上方に行くにつれ、防液堤のリング剛性によって元の平面形状に戻るようにタンク外側へ傾斜する。この元の平面形状に戻ろうとする力が、図3(a)に示すタンク外側方向の曲げモーメントCとしてPC防液堤7に作用する。鉛直杭13aは、基礎版5の全周にわたって配置されるので、上記の曲げモーメントCはPC防液堤7の周方向に均一に作用する。なお、基礎版5のPC防液堤7の外側では、タンク内側方向の曲げモーメントC’が作用する。また、図3(b)は上記のメカニズムを説明するため変形を強調して表示しているが、実際には地上タンク1の使用に問題が生じるほどの変形は起こらない。
【0019】
上記の曲げモーメントCは、円周方向PC鋼材17の腹圧によってPC防液堤7に生じるタンク内側方向の曲げモーメントGを低減し、鉛直方向追加PC鋼材19によって生じるタンク外側方向の曲げモーメントFとあわせて、上記の曲げモーメントGを相殺する。
なお、図2等では、杭心23の位置がPC防液堤7の外周に対応するが、PC防液堤7の厚さ方向の中心21よりも基礎版5の外周側にあればよく、その位置は曲げモーメント低減の目的に応じて様々に設定できる。ただし、鉛直杭13aによりPC防液堤7を効果的に支持させることも鑑みれば、杭心23の位置は、PC防液堤7の外周、もしくはPC防液堤7の厚さ方向の中心21より外周側かつPC防液堤7の外周の内側にあることが望ましい。
【0020】
なお、PC防液堤7に増厚部27(および鉛直方向追加PC鋼材19)が形成されない場合も考えられるが、この場合でも、鉛直杭13aの位置をPC防液堤7の位置に対し上記のように定めることで、円周方向PC鋼材17の腹圧によってPC防液堤7に生じるタンク内側方向の曲げモーメントGを低減、あるいは相殺することができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態の地上タンク1では、円周方向PC鋼材17の腹圧によってPC防液堤7に生じるタンク内側方向の曲げモーメントGを、鉛直杭13aの杭心23をPC防液堤7の厚さ方向の中心21よりも外周側にずらして配置することによって生じるタンク外側方向の曲げモーメントCにより低減することができる。これにより、上記の曲げモーメントGにより交差部25に生じる曲げが低減される。
本実施形態では、上記の曲げモーメントGを、上記の曲げモーメントC、及び、鉛直方向追加PC鋼材19によるタンク外側方向の曲げモーメントFにより相殺し交差部25でのひびわれを防止するが、この際、曲げモーメントGは曲げモーメントCにより低減されるので、図4等のように鉛直方向追加PC鋼材19のみ設置する場合に比べ、鉛直方向追加PC鋼材19の仕様を低減することができる。例えば、鉛直方向追加PC鋼材19の本数を減らす、導入する緊張力を低減する、材料を変更するなどの、仕様の緩和が可能となり、地上タンク1の構築時の施工性を改善し、工費を削減できる。
なお、鉛直方向PC鋼材19に代えて、他の機構を上記の曲げモーメントGを相殺するため用いてもよく、その場合でも、当該機構の仕様を低減することができる。
【0022】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、本発明の実施形態は液化天然ガス等を貯蔵する地上タンクの例について説明したが、水等を貯蔵する地上タンクであっても同様の構成を適用可能である。
【符号の説明】
【0023】
1………地上タンク
5………基礎版
7………PC防液堤
13、13a………鉛直杭
15………鉛直方向PC鋼材
17………円周方向PC鋼材
19………鉛直方向追加PC鋼材
21………中心
23………杭心
25………交差部
27………増厚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎版の外周部に、筒状の壁部が形成された地上タンクであって、
前記壁部に、プレストレスが導入された周方向のPC鋼材が埋設され、
前記基礎版が下方の杭により支持され、
前記基礎版の外周部に配置される杭の杭心の位置を、前記壁部の厚さ方向の中心よりも前記基礎版の外周側とし、前記壁部の自重によるタンク外側方向の曲げモーメントを前記壁部に加えることにより、前記周方向のPC鋼材により加わる、前記壁部におけるタンク内側方向の曲げモーメントを低減することを特徴とする地上タンク。
【請求項2】
前記杭心の位置が、前記壁部の外周、もしくは、前記壁部の厚さ方向の中心よりも外周側かつ前記壁部の外周の内側にあることを特徴とする請求項1記載の地上タンク。
【請求項3】
前記基礎版の外周部に配置される杭が、前記基礎版の全周にわたって配置されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の地上タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−14350(P2013−14350A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146970(P2011−146970)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】