説明

地下構築物の浮き上がり防止構造

【課題】 構築物に作用する浮力とそれに伴う変形を防止可能な地下構築物の浮き上がり防止構造を実現する。
【解決手段】 地下構築物の周壁に、凹部及びこれに続く貫通孔を複数穿設し、該凹部及び貫通孔には内管を配置し、該内管の先端部には集水管を取り付け、内管は止水材及び外管を介して固定し、止水バンドで凹部を封止し、前記内管の後端部には排水圧調整装置を設置してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等の振動で地盤に過剰間隙水圧が発生した時に起こるマンホール等地下構築物の浮き上がり防止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術においては、マンホールの周壁に貫通孔を設け、該貫通孔に受圧板や逆止弁を取り付け、地震等の振動で地盤に過剰間隙水圧が発生した時に該受圧板を取り外して逆止弁により水をマンホール内に排水し、地下構築物の浮き上がりを防止する構造のものがある(特許文献1−3参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−124966
【特許文献2】特開2007−23679
【特許文献3】特開2007−154543
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、以下の問題があります。
(1)受圧板が外れた後は、地下水が地下構築物に流入した状態のままであるため、マンホール等の地下構築物内が水で充満する。その結果、地下構築物への人の入孔が困難くなり、復旧工事の際には障害になるという問題点がある。
【0005】
(2)また、外れた受圧板は、人が地下構築物内に入り再度設置し修復する必要があるが、該受圧板の再設置に際しては止水工事が必要である。また、予備の受圧板を多数備蓄しておく必要である。従って、受圧板の再設置が困難であり、メンテナンス時のコストが高くなるという問題点がある。
【0006】
(3)地盤側に面した貫通孔の孔径、面積、メッシュサイズ等により集水範囲と集水能力が制約される。その結果、過剰間隙水圧に対する水圧の消散効果が小さくなるという問題点がある。
【0007】
(4)例えば、レベル2クラス等の大規模な地震や衝撃型の地震が発生した場合は、過剰間隙水圧の上昇速度に対して消散速度(消散効果)が追従不能となり、マンホール等地下構築物が浮上がり、地下構築物が不安定になるという問題点がある。
【0008】
(5)貫通孔(消散弁)の設置個数や,設置面積(貫通孔の孔径)が大きくなった場合は、その部分が構造的な弱点部になる危険性が発生するという問題点がある。
【0009】
(6)その他の過剰間隙水圧消散工法においても,集水範囲が集水口の口径で決まるため,上記(3)、(4)(5)の欠点がある。
【0010】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて発明されたもので、液状化によって発生する過剰間隙水圧(浮力)を地下構築物である例えば、マンホールや管きょ内に取り込み,構築物に作用する浮力とそれに伴う変形を防止可能な地下構築物の浮き上がり防止構造を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記発明が解決しようとする課題を解決するため、本発明における請求項1の発明の地下構築物の浮き上がり防止構造は、
マンホール等の地下構築物の周壁に、地中側と地下埋設物内部に連通する凹部及びこれに続く貫通孔を複数穿設し、該凹部及び貫通孔には、先端部を地中側にやや突出させ、後端部を地下埋設物内部に配置した内管を配置し、該内管の先端部には集水管を所定長さ地中に突入させた形態で取り付け、凹部に止水材を取り付け、その内部に外管を介して前記内管を固定すると共に、内管に挿通させた止水バンドで凹部を封止し、前記内管の後端部には排水圧調整装置を設置してなり、所定水圧の過剰間隙水圧が集水管に進入した時、前記排水圧調整装置が駆動して間隙水を内管から地下埋設物内部に排出することを特徴としている。
【0012】
本発明における請求項2の発明は、請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造において、
止水材は、地震等の振動による内管の破損防止が可能に、可撓性の止水ゴムを用いることを特徴としている。
【0013】
本発明における請求項3の発明は、請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造において、
凹部と内管との間に、モルタル等の充填材を充填して内管を水密に固定することを特徴とする請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造。
【0014】
本発明における請求項4の発明は、請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造において、
集水管は、胴部に多数の孔を設けて多孔群を形成し、該多孔群を、土砂の侵入を阻止し水のみを侵入させる被覆材で被覆してなることを特徴としている。
【0015】
本発明における請求項5の発明は、請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造において、
集水管は、集水範囲及び集水能力を調整可能に、該集水管の径及び長さ、設置個数を調整することを特徴としている。
【0016】
本発明における請求項6の発明は、請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造において、
内管には、発生する過剰間隙水圧に対応させ、弁の開閉調整が可能な排水圧調整装置と該内管内の洗浄とエアー抜きのための洗浄孔を設置したことを特徴としている。
【0017】
本発明における請求項7の発明は、請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造において、
凹部及びこれに続く貫通孔を同じ高さ又は千鳥足状に多段に穿設し、複数の内管の後端部を内側配管で連結し、該内側配管の一端に排水調整弁装置及びエアー抜き口並びに洗浄口を設置したことを特徴としている。
【0018】
本発明における請求項8の発明は、請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造において、
排水調整弁装置には、安全弁又は圧力調整弁並びに逆止弁、電磁弁等の排水弁を用いてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以下の効果を奏するものである。
(1)集水機能の高い集水管を地中内に突出させた形態で配置しているため、過剰間隙水圧の消散効果(消散速度)を大きく発揮し、かつ消散範囲を広くできるものである。
【0020】
(2)過剰間隙水圧の消散効果(消散速度)を大きくし、かつ消散範囲を広くできる結果、単に地下構築物の浮上がり力を抑制するだけでなく,液状化による周辺地盤の水平地盤反力の低下(周辺地盤の液状化)を防止することが出来る。
【0021】
(3)さらには、周辺地盤の液状化を抑制または防止することによって,マンホール等地下構築物本体を水平方向姿勢に維持できるため地下構築物の安定性を確保出来るものである。また、浮上がりの抑制及びマンホール等地下構築物の壁体に作用する土圧の軽減と水平地盤反力の増加による躯体の安定性も確保出来るものである。
【0022】
(4)上記理由から、マンホール等地下構築物の設置状態が安定するため、管きょとの継ぎ手部の負荷が抑制され、継ぎ手部における損傷を軽減できる。
【0023】
(5)また,地下構築物内に、排水調整弁装置として安全弁や圧力調整弁を設置することにより、地震等の振動で予想される地盤の過剰間隙水圧に対応して排水し、過剰間隙水圧の消散が発揮出来るものである。
【0024】
地下構築物である下水管、共同溝等の場合も上記(1)乃至(5)までの効果が生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明における地下構築物の浮き上がり防止構造は、図1乃至図7を参照して説明する。
図1は本発明の第一実施例におけるマンホールの設置状態図、図2は本構造の地下構築物の浮き上がり防止構造の一部断面図、図3は本発明の第二実施例における地下構築物の浮き上がり防止構造の平面図、図4は本発明の第二実施例の展開図である。また、図5は施工方法の説明図、図6は本発明の第一実施例の基本構造説明図、図7は本発明の第三実施例の基本構造説明図である。
本発明の地下構築物とは、図1のような、マンホール1、下水管22、共同溝等の地下構築物を指している。
【0026】
先ず、本発明の第一実施例は、図1、図2、図6を参照して説明する。地下構築物がマンホール1の場合は、後述する施工方法により、該マンホールの周壁6に、地中側2とマンホール内部3に連通する凹部7及びこれに続く貫通孔8が複数穿設されている。
前記凹部7は、マンホールの周壁6の厚さ約20mm程度を残してコアビットで掘削されている。また、貫通孔8は、次に説明する内管18が挿通可能な径に形成されるものである。
【0027】
前記該凹部7及び貫通孔8には、内管18を挿通させて配置し、該内管18の先端部は地中2側にやや突出させる態様で配置され、後端部は地下構築物内部3に配置さている。
【0028】
また、前記内管18の先端部には集水管9を所定長さ地中に突入させた形態で取り付けられ、前記凹部7には止水材14を取り付け、その内部に外管15を介して前記内管18が固定され、該内管18以外の場所からは地中2の水が侵入しない構成にされている。
【0029】
さらに、ほぼ中央に内管18よりやや大きい径の孔を有する止水バンド16を内管18に挿通させて凹部7が封止されている。また、止水バンド16は取付金具19でビス17止めされて固定されている。
【0030】
また、マンホール内部3であって前記内管18の後端部には、排水圧調整装置20が設置されていて、所定水圧の過剰間隙水圧(図2、図6、図7の鎖線内の矢印で表示)が集水管9に侵入した時、前記排水圧調整装置20が駆動して間隙水を内管18からマンホール内部3に排出されるように構成されている。
【0031】
前記止水材14は、地震等の振動による内管18の破損防止が可能に、可撓性の止水ゴム及びこの材質と同等の止水材を用いるのがよい。
【0032】
前記凹部7と内管18との間には、モルタル等の充填材を充填して内管18を水密に固定してもよい。
【0033】
前記集水管9は、胴部に多数の孔10を設けて多孔群10aを形成し、該多孔群10aを土砂の侵入を阻止し水のみを侵入させることが可能な、例えば、所定網目のメッシュ、スリットを設けたシート材やフエルム材等の被覆材11で被覆されている。
【0034】
本発明の集水管9を地中に突出(突き刺す)形態で配置した場合は、貫通孔8より突出しない集水材と比較した場合集水面積が大きく確保でき集水管9の集水機能を高めることができる。すなわち、貫通孔8の集水断面積は,a=πr2(r:貫通孔の半径)であるが,集水管8の集水面積は,A=πRL(R:通水管の直径,L:集水管の長さ)であり、管の周面積が集水部になり,同じ孔径または管径でも集水管9の長さが長いほど集水機能が高くなる。このことは、集水管9を地中に突出させる形態で配置した場合は、突出させない場合より約5倍強の集水機能を発揮することが実験例から判明した。
【0035】
上記の理由から、集水管9は、集水範囲及び集水能力を調整可能に、該集水管9の径及び長さ、設置個数を変更して調整される。
【0036】
また、図1,2、6の集水管9は、地中にほぼ水平方向に突出させて設置されているが、図7の第三実施例の場合は集水管9を地中に斜め下方に配置している。この場合、液状化対象層29における地中の水は下方から垂直方向に流れるので、地中内における水の回収率が高いため集水機能が高く出来る。
【0037】
内管18には、発生する過剰間隙水圧に対応させ、弁の開閉調整が可能な排水圧調整装置20と該内管18内のバクテリアの発生阻止及び目詰まり防止のため、洗浄とエアー抜きのための洗浄孔21が設置されている。
【0038】
排水調整弁装置20には、例えば、安全弁又は圧力調整弁並びに逆止弁、電磁弁等の排水弁が用いられている。前記排水弁は、任意の組み合わせで使用してもよいものである。
【0039】
集水管9に進入した水(過剰間隙水圧)は,排水調整弁装置20の安全弁や圧力調整弁,または逆止弁を介して,管路施設内に排水される。この排水調整弁装置20に使用されている安全弁や圧力調整弁,または逆止弁は、水処理プラント等で使用されているもので機能性と効果は立証されている。静水圧以上の過剰間隙水圧が発生した場合に弁が開き,間隙水圧を排水するものである。
【0040】
また、この排水調整弁装置20の設定圧力は,管路施設の浮上がり安全率と過剰間隙水圧の関係から,浮上がり安全率がFu≧1.0になるように設定されている。このとき,深度方向に『静水圧+過剰間隙水圧』が異なることから,設置深度に応じて,排水弁の開閉圧力を調整する。
一つの管路施設には、上記3種類の排水調整弁装置20を設置する必要はないが,目的と経済性,及び機能性を比較して使い分けるのがよい。
【0041】
また、排水調整弁装置20は、一つの集水管に必ず一つ設置する必要はなく、図3、図4に図示した第二実施例のように、同じ深度レベル(同じ排水圧力レベル)で一箇所にまとめて排水することも可能である。その場合,同じ深度の集水口を内側配管23で連結する。すなわち、凹部7及びこれに続く貫通孔8を同じ高さ又は千鳥足状に多段に穿設し、複数の内管18の後端部を内側配管23で連結し、該内側配管23の一端に排水調整弁装置20及びエアー抜き口並びに洗浄口21が設置されている。
【0042】
本発明の第1実施例の施工方法は、図5を参照して説明する。
第1工程 凹部7を形成するためコア26及び貫通孔8の位置出し後、鉄筋探査により設置位置の微調整を行う(図示省略)。
第2工程 図5aのように、マンホール等地下構築物1の周壁6にスライドポール又は支柱28を取り付けてコアドリル25を設置後、凹部7形成のためにコア26抜き工事を行う。
第3工程 図5bのように、凹部7に止水材14を設置し、外管15を設置して内管18を固定し、止水バンド16で封止し、取付金具19及びビス17で固定する。
第4工程 図5cのように、先端部に削孔用ビット13を取り付けた集水管9を内管18の先端に設置した後コアボーリングを行い、内管18に止水バルブ27を設置して内管18からの水の侵入を阻止する。他方、集水管9および内管18内部における目詰まり防止又はバクテリアの付着防止のため、該集水管9および内管18の洗浄を行う。
第5工程 図5dのように、マンホール内部3に配置された内管18の後端部に排水調整弁装置20の例えば、安全弁又は圧力調整弁並びに逆止弁、電磁弁等の排水弁を設置する。該内管18の延長線に過剰間隙水圧がマンホール内に排出可能に排水管を配管してもよい。
【0043】
以上はマンホール1の場合について説明したが、図1に図示の下水管22、共同溝等の地下構築物の場合も同様な構成にされる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第一実施例におけるマンホールの設置状態図。
【図2】本発明の地下構築物の浮き上がり防止構造の一部断面図。
【図3】本発明の第二実施例における地下構築物の浮き上がり防止構造の平面図。
【図4】本発明の第二実施例の展開図。
【図5】本発明の施工方法の工程説明図。
【図6】本発明の集水管を水平方向に設置した第一実施例の基本構造説明図。
【図7】本発明の集水管を斜め下方の方向に設置した第三実施例の基本構造説明図。
【符号の説明】
【0045】
1 マンホール等地下構築物
2 地中
3 マンホール内部
4 液状化対象層
5 マンホール蓋
6 マンホールの周壁
7 凹部
8 貫通孔
9 集水管
10 孔
10a 多孔群
11 被覆材
12 ヘッド
13 削孔用ビット
14 止水材
15 外管
16 止水バンド
17 ビス
18 内管
19 取付金具
20 排水圧調整装置
21 エアー抜き口並びに洗浄口
22 下水管
23 内側配管
24 排水管
26 コア
27 止水バルブ
28 スライドポール又は支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンホール等の地下構築物の周壁に、地中側と地下構築物内部に連通する凹部及びこれに続く貫通孔を複数穿設し、該凹部及び貫通孔には、先端部を地中側にやや突出させ、後端部を地下構築物内部に配置した内管を配置し、該内管の先端部には集水管を所定長さ地中に突入させた形態で取り付け、凹部に止水材を取り付け、その内部に外管を介して前記内管を固定すると共に、内管に挿通させた止水バンドで凹部を封止し、前記内管の後端部には排水圧調整装置を設置してなり、所定水圧の過剰間隙水圧が集水管に進入した時、前記排水圧調整装置が駆動して間隙水を内管から地下構築物内部に排出することを特徴とする地下構築物の浮き上がり防止構造。
【請求項2】
止水材は、地震等の振動による内管の破損防止が可能に、可撓性の止水ゴムを用いることを特徴とする請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造。
【請求項3】
凹部と内管との間に、モルタル等の充填材を充填して内管を水密に固定することを特徴とする請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造。
【請求項4】
集水管は、胴部に多数の孔を設けて多孔群を形成し、該多孔群を、土砂の侵入を阻止し水のみを侵入させる被覆材で被覆したことを特徴としてなる請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造。
【請求項5】
集水管は、集水範囲及び集水能力を調整可能に、該集水管の径及び長さ、設置個数を調整することを特徴とする請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造。
【請求項6】
内管には、発生する過剰間隙水圧に対応させ、弁の開閉調整が可能な排水圧調整装置と該内管内の洗浄とエアー抜きのための洗浄孔を設置したことを特徴とする請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造。
【請求項7】
凹部及びこれに続く貫通孔を同じ高さ又は千鳥足状に多段に穿設し、複数の内管の後端部を内側配管で連結し、該内側配管の一端に排水調整弁装置及びエアー抜き口並びに洗浄口を設置したことを特徴とする請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造。
【請求項8】
排水調整弁装置には、安全弁又は圧力調整弁並びに逆止弁、電磁弁等の排水弁を用いてなることを特徴とする請求項1記載の地下構築物の浮き上がり防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−24441(P2009−24441A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190665(P2007−190665)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000210908)中央開発株式会社 (25)
【出願人】(000224215)藤村ヒューム管株式会社 (24)
【出願人】(000146582)株式会社信明産業 (17)
【Fターム(参考)】