説明

地下水開発施設における地下水管理システム

【課題】 地下水開発施設における地下水環境および地表水環境のモニタリングシステム、並びに環境への影響を考慮した地下水開発施設の運転管理システムを構築する。
【解決手段】 井戸1の近傍には、井戸水位W、揚水量、受水槽水位、浄水場5への送水量などを計測するための第一測定器7が設置されており、計測されたデータDは、浄水場5内に設置された監視・制御装置6に送信される。また、井戸1の周辺には、環境モニタリング地点として、観測孔2、堰3、地表点4が複数設定されており、それぞれ第二測定器10が設置され、計測されたデータDは監視・制御装置6に送信される。監視・制御装置6は、受信した計測データD、Dの保存および出力を行う機能、並びに計測データD、Dを分析して井戸1およびその周辺水位W、Wの将来予測を行なう機能に加え、井戸1に設置されたポンプ8に制御指令Sを発する機能を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水開発施設における地下水管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地下水は比較的安価に利用できる水資源として、井戸や地下ダムなど各種の地下水開発施設を用いて取水・利用されているが、涵養能力を超えた大量の地下水を利用する場合には、地下水位の低下や近傍の河川流量の減少など、地下水環境や地表水環境に悪影響を及ぼす場合がある。特に、地下水位の低下は地下水取水能力の低下に直結するものであるため、環境への影響を考慮した地下水開発を行うことが不可欠となる。
特許文献1では、管理対象地域に配置された地下水観測井戸に通信機能付きの水位計を設置し、且つ、揚水井戸には通信機能付きの流量計と流量制御装置を設置し、上記各計測装置は管理センターから指示されたサンプリング間隔で計測してデータを保持するとともに、要求に応じて管理センターにデータを転送するものとし、一定時間以上基準水位を下回るところが出現した場合もしくは予想される場合には自動的に適切な揚水制御処置が行える広域地下水管理システムが提案されている。
【特許文献1】特開2001−289691号公報 (第2−3頁、第1−2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された発明の場合、地下水位の管理対象とされている観測・揚水設備が井戸に限定され、降水量等の気象データや河川流量などが考慮されていないため、揚水規制の判断が難しいという問題がある。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、地下水開発施設における地下水環境および地表水環境のモニタリングシステム、並びに環境への影響を考慮した地下水開発施設の運転管理システムを構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る地下水開発施設における地下水管理システムは、地下水開発施設に設置され、当該地下水開発施設の水位および揚水量を計測し、計測したデータを送信する第一測定器と、前記地下水開発施設の周辺に設定された環境モニタリング地点に設置され、当該環境モニタリング地点の水位、流量、降水量を計測し、計測したデータを送信する第二測定器と、前記計測データを受信して、その保存および出力を行う機能、並びに前記計測データを分析して前記地下水開発施設およびその周辺水位の将来予測を行なう機能に加えて、前記地下水開発施設の揚水量の制御を行う機能を有する監視・制御装置とを備えることを特徴とする。
ここで、地下水開発施設とは、浅層地下水開発を対象とした井戸や地下ダムに加え、深層地下水(岩盤地下水)の開発を目的とした岩盤地下水取水システムなどの総称である。また、環境モニタリング地点は、地表や観測孔、河川などを計測点として必要に応じて設定するものであり、地表面では降水量、観測孔では地下水環境の指標となる観測孔水位、河川では地表水環境の指標となる河川流量などを計測する。
本発明によれば、地下水開発施設およびその周辺の水位、流量、降水量を計測し、計測データを分析して地下水開発施設およびその周辺水位の将来予測を行い、その結果に基づいて地下水開発施設の揚水量の制御を行うことができるので、環境への影響を考慮した地下水開発施設の運転管理が可能となる。
【0006】
また、本発明に係る地下水開発施設における地下水管理システムでは、前記第一測定器は、計測したデータを表示するとともに前記地下水開発施設の揚水量の制御を行う表示・操作部を備えていることが好ましい。
本発明では、地下水開発施設に設置される第一測定器が表示・操作部を備えているので、現地で地下水開発施設の水位を把握し、迅速に揚水量の制御を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、地下水開発施設およびその周辺の水位、流量、降水量を計測し、計測データを分析して地下水開発施設およびその周辺水位の将来予測を行い、その結果に基づいて地下水開発施設の揚水量の制御を行うことができるので、環境への影響を考慮した地下水開発施設の運転管理が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、地下水開発施設における地下水管理システムの実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、地下水開発施設における地下水管理システムの一例を示す概念図である。本実施形態では、地下水開発施設が井戸である場合について説明するが、地下水開発施設が地下ダムや岩盤地下水取水システムなどである場合も、以下に説明するシステムと基本的に同様である。
【0009】
井戸1の底部には、地下水を吸い上げるためのポンプ8が設置されており、ポンプ8で吸い上げられた地下水は、地表部に設置された受水槽9を経由し、送水管Tにより浄水場5に送られる。
井戸1の近傍には、井戸水位W、揚水量、受水槽水位、浄水場5への送水量などを計測するための第一測定器7が設置されており、計測されたデータDは、浄水場5内に設置された監視・制御装置6に送信される。なお、第一測定器7は表示・操作部7aを備えており、現地で計測データDの表示とポンプ8の制御を行うことができる。
【0010】
また、井戸1の周辺には、環境モニタリング地点として、観測孔2、堰3、地表点4が複数設定されており、各環境モニタリング地点には、それぞれ第二測定器10が設置されている。観測孔2では、地下水位環境の指標となる観測孔水位Wが第二測定器10で計測され、堰3では河川流量の指標となる堰水位Wおよび堰流量が第二測定器10で計測され、地表点4では気象情報である降水量が第二測定器10でそれぞれ計測される。計測されたデータDは、浄水場5内に設置された監視・制御装置6に送信される。
【0011】
浄水場5に設置された監視・制御装置6は、演算・記憶装置としてのパソコン、およびディスプレイ、プリンター等からなり、受信した計測データD、Dの保存および出力を行う機能、並びに計測データD、Dを分析して井戸1およびその周辺水位W、Wの将来予測を行なう機能に加え、井戸1に設置されたポンプ8に制御指令Sを発する機能を備えている。
また、監視・制御装置6に格納されている計測データや分析・予測処理結果などのデータDは、浄水場5以外の地点(例えば、自治体の水道局11など)においても表示できるようになっている。
【0012】
なお、第一測定器7および第二測定器10と監視・制御装置6間のデータ転送方式は、地下水開発施設や環境モニタリング地点の状況に応じ、NTT専用回線や公衆回線、光ファイバー、携帯電話等を利用するものとする。
【0013】
図2は、監視・制御装置の機能構成を示すブロック図である。
監視・制御装置6では、井戸1の運転管理データBと観測孔2、堰3、地表点4における環境モニタリングデータBが、時系列データとしてリレーショナル型のデータベースBに保存・保管される。保存された計測データは必要に応じて編集され、計測データの出力・表示機能Bを用いれば、運転状況(履歴)表示、全計測データ一括表示、各計測データの経時変化表示など目的に応じて表示させることができる。例えば、環境モニタリングデータBの管理基準(許容範囲)が設定されていれば、環境モニタリングデータBを経時変化表示することにより環境監視を行うことができる。
【0014】
なお、リレーショナル型のデータベースとは、1 件のデータを複数の項目( フィールド) の集合として表現し、データの集合をテーブルと呼ばれる表で表す方式のことであり、ID 番号や名前などのキーとなるデータを利用して、データの結合や抽出を容易に行なうことができる。
【0015】
一方、監視・制御装置6が有する計測データの分析・予測機能Bは、定期点検時(例えば年1回)と臨時点検時(例えば管理基準を超えたとき)に、異常現象の検出や環境変化の要因分析、さらには井戸1およびその周辺水位の将来予測を行うものである。
計測データを分析・予測するための方法として以下の2つの手法を採り上げ、観測孔水位が管理基準を超えた場合を例に説明する。
a.類似条件下の計測データの検索
降水量や取水量(揚水量)および/または季節等が類似する過去の計測データを抽出し、現在のデータと比較検討する。
b.統計解析
観測孔水位の変動には多くの要因が関係するため、管理基準を超えた場合も原因の特定が難しい。そこで、例えば、時系列の運転管理データBと環境モニタリングデータBを用いて多変量自己回帰モデルを構築すれば、各要因の影響を定量評価することができる。また、観測孔水位の低下を回復させるために、「取水量を減らす」や「立坑水位を上げる」等の要因について条件を変えた予測解析も可能であるため、対策の効果を把握することができる。
【0016】
なお、多変量自己回帰モデルとは 、複数の時系列データを、同時に 、あるいはタイムラグを伴いながら相互に影響し合って変動する体系と捉えたうえで、全体として現実のデータに最も当てはまるように、 変数相互間の定量的な関係を推計したモデルのことである。このようなモデルを作ると、変数α を震源とする新しい変動が、ある時点 に発生した場合に、それが変数α を含めたすべての変数に、それ 以降どのような影響を与えていくのか定量的に分析することが可能となる 。
【0017】
計測データの分析・予測機能Bは、上記の2つの方法に限定されるものではないが、要因分析と対策の立案に資するものである。別途、地下水解析等の数値シミュレーションを実施して本機能を補完することもあり得るが、これらの分析・予測結果に基づいて、ポンプ8等の運転制御が適切に行えるようになる。
ポンプの運転制御Bは、例えば運転状況を表示する画面中のボタンをクリックすることにより、ON/OFFの切換や揚水量の制御が可能となるようにすればよい。
【0018】
本実施形態によれば、井戸水位W、観測孔水位W、堰水位Wおよび堰流量、さらには地表点4の降水量を計測し、各計測データD、Dを分析して井戸1およびその周辺水位の将来予測を行い、その結果に基づいて井戸1の揚水量の制御を行うことができるので、環境への影響を考慮した井戸1の運転管理が可能となる。
また、本実施形態では、監視・制御装置6が、計測データの出力・表示機能Bとともに、計測データの分析・予測機能Bも備えているので、比較的大きな環境変化の検出や原因の解明に加えて対策立案に活用できる資料を得ることができる。
さらに、本実施形態によれば、浄水場5に設置された監視・制御装置6で各地下水開発施設の環境評価や運転管理ができるので、浄水場5が管理しているダムや他の水資源開発施設などとの総合管理が可能となり、省力化と低コスト化を図ることができる。
【0019】
以上、地下水開発施設における地下水管理システムの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、監視・制御装置は浄水場内に設置されているとしたが、地下水開発施設や他の場所に設置されていてもよい。要は、本発明において所期の機能が得られればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】地下水開発施設における地下水管理システムの一例を示す概念図である。
【図2】監視・制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0021】
1 井戸(地下水開発施設)
2 観測孔(環境モニタリング地点)
3 堰(環境モニタリング地点)
4 地表点(環境モニタリング地点)
5 浄水場
6 監視・制御装置
7 第一測定器
7a 表示・操作部
8 ポンプ
9 受水槽
10 第二測定器
11 水道局

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水開発施設に設置され、当該地下水開発施設の水位および揚水量を計測し、計測したデータを送信する第一測定器と、
前記地下水開発施設の周辺に設定された環境モニタリング地点に設置され、当該環境モニタリング地点の水位、流量、降水量を計測し、計測したデータを送信する第二測定器と、
前記計測データを受信して、その保存および出力を行う機能、並びに前記計測データを分析して前記地下水開発施設およびその周辺水位の将来予測を行なう機能に加えて、前記地下水開発施設の揚水量の制御を行う機能を有する監視・制御装置とを備えることを特徴とする地下水開発施設における地下水管理システム。
【請求項2】
前記第一測定器は、計測したデータを表示するとともに前記地下水開発施設の揚水量の制御を行う表示・操作部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の地下水開発施設における地下水管理システム。

【図1】
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【図2】
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