地下躯体の切断撤去工法
【課題】構内壁の形状に沿って保護壁を保形し、また、構内壁の切断撤去の際に軌道側で作業を行なう必要がない地下躯体の切断撤去工法を提供する。
【解決手段】既設躯体の構内壁2にアンカー5,5,…を打設し、打設されたアンカー5,5,…に支持棒材511(512)を、支持棒材511に溶接された各連結具52をアンカー5にナット53で取り付けることによって、夫々着脱可能に固定し、支持棒材511に保護壁3をビス留めして保形する。撤去すべき構内壁2の各アンカー5と連結具52との連結を解除し、構内壁2が撤去された後で、既設躯体の残部に補助棒材を固定して、この補助棒材に連結具52を固定することによって支持棒材511を支持し保護壁3を保形する。
【解決手段】既設躯体の構内壁2にアンカー5,5,…を打設し、打設されたアンカー5,5,…に支持棒材511(512)を、支持棒材511に溶接された各連結具52をアンカー5にナット53で取り付けることによって、夫々着脱可能に固定し、支持棒材511に保護壁3をビス留めして保形する。撤去すべき構内壁2の各アンカー5と連結具52との連結を解除し、構内壁2が撤去された後で、既設躯体の残部に補助棒材を固定して、この補助棒材に連結具52を固定することによって支持棒材511を支持し保護壁3を保形する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下に埋設された躯体の内側、例えば地下鉄の構内壁の軌道側に、保護壁を仮設する地下躯体の切断撤去工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下鉄構内におけるプラットホームの延伸増設、増幅、拡張、補修、補強、駅の新設等の工事に際して、鉄筋コンクリート製の構内壁を切断撤去することがある。
地下鉄線路に沿って構築された構内壁の切断撤去工法としては、構内壁の外側に通路空間を穿設し、構内壁の切断予定部分に切断用ワイヤを巻き掛け、切断用ワイヤの駆動装置(ワイヤソー)によって走行駆動させて構内壁を切断し撤去する工法が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
この工法による場合、構内壁の切断撤去作業は通路空間で行なうことができ、地下鉄の軌道側で切断撤去作業を行なう必要がない。このため、特許文献1においては、構内壁の切断撤去に伴う塵芥の軌道側への飛散、騒音の拡散、切断撤去作業が地下鉄利用者に見られることによる美観の低下等を防止すべく、軌道側を保護する保護壁を、構内壁の軌道側に仮設することが提案されている。
一般的な構内壁は略鉛直に設けられているため、保護壁は、構内壁を側壁とする躯体の天井に、例えばアンカーを用いて固定されて垂下し、更に路面に固定される。
【特許文献1】特公平4−20480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撤去すべき構内壁と、工事中にも地下鉄が安全に走行するための縮小建築限界とのクリアランスが小さい(例えば70mm)場合、保護壁は構内壁に近接して仮設される。しかしながら、構内壁の下部が軌道側へ傾斜しており(ハンチ形状であり)、構内壁の下部も被覆するように保護壁を設ける場合、躯体の天井及び路面夫々に固定された保護壁がクリアランスの内部に配置できないという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、構内壁に設置したアンカーに保護壁をビス留め固定して、構内壁の形状に沿って保護壁を配置することが考えられる。しかしながら、この場合、構内壁を撤去することによって保護壁の固定先が失われ、保護壁を保形できないという問題があった。また、アンカーと保護壁との固定を解除するために、軌道側の作業を要するという問題があった。
【0006】
本発明は斯かる問題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、躯体の側壁に設置された固定具に、着脱可能に支持棒材を固定し、固定した支持棒材に保護壁を固定することにより、側壁の形状に沿って保護壁を保形し、また、側壁の切断撤去の際に保護壁の内側(例えば軌道側)で作業を行なう必要がない地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、側壁の鉛直壁部及び傾斜壁部に沿って連続的又は断続的に支持棒材を固定することにより、複雑な側壁の形状に沿って保護壁を保形することができる地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、固定具及び支持棒材を連結する連結具と、支持棒材を補助する補助棒材とを用いて保護壁を固定することにより、固定具と支持棒材との着脱作業を容易に行なうことができ、更に側壁の撤去後も保護壁の確実な固定先を確保することができる地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、保護壁の仮設前に、切断用ワイヤ巻回用の仮設ワイヤを予め側壁に巻回することにより、ワイヤソーによる側壁の切断作業を行なう場合に、保護壁の除去及び保護壁の内側での作業が必要ない地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【0010】
本発明の更に他の目的は、転倒防止用の壁支持具と、側壁撤去用の滑り台とを用いることにより、切断した側壁を安全かつ容易に撤去することができる地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、地下に埋設された躯体の内側を保護する保護壁を前記内側に仮設し、前記躯体の側壁を切断撤去する地下躯体の切断撤去工法において、前記保護壁の仮設のために、前記内側から前記側壁に複数の固定具を設置し、前記側壁の内面の形状に沿う支持棒材を、略縦方向に1又は複数かつ略水平方向に複数、前記側壁に設置した固定具に夫々着脱可能に固定し、略水平方向に並設された複数の前記支持棒材にわたって、前記形状に沿う前記保護壁を前記内側から前記支持棒材に固定することを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、前記側壁は、前記内面が略鉛直である鉛直壁部と、前記内面が前記鉛直壁部の内面から連続的に前記内側へ傾斜している傾斜壁部とを有し、前記鉛直壁部及び前記傾斜壁部に沿って前記支持棒材を、連続的に又は並置して固定することを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、前記側壁の外側に切断撤去作業可能な空間を設け、前記固定具と前記支持棒材とを固定する場合、該支持棒材に、前記固定具との連結用の連結具を固定しておき、前記支持棒材に固定されている連結具を前記固定具に着脱可能に連結し、前記側壁の撤去前に、前記側壁に設置されている固定具と前記連結具との連結を解除し、前記側壁を切断して前記外側へ撤去し、前記支持棒材を補助する補助棒材を、前記側壁が撤去された後の前記躯体の空隙に配して、前記躯体の残部の上部及び下部夫々に固定し、固定された前記補助棒材に前記連結具を連結することを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、前記保護壁の仮設前に、前記側壁に孔を形成し、形成された孔に挿通させて仮設ワイヤを前記側壁に巻回し、前記仮設ワイヤの巻回後、前記保護壁を前記支持棒材に固定し、前記仮設ワイヤを用いて、前記側壁を切断する切断用ワイヤを前記側壁に巻回し、前記切断用ワイヤを駆動するワイヤソーを用いて前記外側から前記側壁を切断することを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、切断すべき前記側壁の下側切断面が前記外側へ下降する傾斜面となるように切断し、該傾斜面に対応する傾斜面を上面に有する滑り台を前記外側から前記側壁に近接配置し、前記滑り台の上面に、前記側壁の転倒防止用の壁支持具を配して前記側壁を支持し、切断された前記側壁の下側切断面が前記上面を滑るように、前記側壁を前記外側へ牽引することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、躯体の側壁に設置された複数の固定具に、側壁の内面の形状に沿う支持棒材を着脱可能に固定し、この支持棒材に保護壁を固定するため、保護壁を側壁の形状に沿って保形することができる。この結果、側壁と縮小建築限界とのクリアランスが小さいときでも、保護壁は可及的に側壁に近接して仮設することができる。
また、略水平方向(更に詳細には躯体の長手方向)に並設された複数の支持棒材にわたって保護壁を固定するため、側壁の切断撤去のために側壁と一の支持棒材との固定を解除したときでも、側壁に対する固定が未解除である他の支持棒材によって、保護壁の固定が維持される。
【0017】
更に、保護壁ではなく支持棒材が側壁に直接的に固定されており、保護壁は内側(例えば地下鉄構内の場合は軌道側)から支持棒材に固定されているため、保護壁の外側(保護壁の該保護壁が固定されている側壁との対向面側)の空間で、側壁と支持棒材との固定を解除することができ、躯体の内側(軌道側)の空間で解除作業を行なう必要がない。
更にまた、側壁と支持棒材とは着脱可能に固定されているため、側壁と支持棒材との固定を容易に解除することができる。
【0018】
また、保護壁は該保護壁の内側(軌道側)から支持棒材に固定されているため、躯体の内側に存在する者(例えば地下鉄の利用客)から支持棒材、切断撤去作業中の側壁等を覆い隠すことができ、更に保護壁に対して彩色、駅看板の設置等が可能であるため、美観を向上させることができる。
更にまた、保護壁によって側壁の切断撤去に伴う塵芥の躯体の内側への飛散、騒音の拡散等を防止することができる。
【0019】
第2発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、鉛直壁部と傾斜壁部とを有する複雑な形状の側壁に対し、鉛直壁部及び傾斜壁部の連続部分の形状に沿う1本の支持棒材を固定具に固定する(連続的)。又は、鉛直壁部の形状に沿う支持棒材と傾斜壁部の形状に沿う支持棒材とを略縦方向に並置して固定具に固定する(断続的)。以上のように固定された支持棒材に保護壁を固定するため、保護壁を側壁の形状に沿って保形することができる。
【0020】
第3発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、側壁に設置されている固定具と支持棒材に固定されている連結具とを着脱可能に連結するため、固定具と支持棒材との連結箇所を、支持棒材に直接的に設ける必要がない。つまり、固定具と支持棒材との連結箇所を適宜の箇所に設けることができ、このため、作業者が固定具と連結具との着脱作業、延いては固定具と支持棒材との着脱作業を容易に行なうことができる。
また、例えば、撤去すべき側壁を有する躯体の外側に、この躯体より大きい躯体を新設し、新設した躯体の内面と撤去すべき側壁の外面との間に切断撤去作業可能な空間を設けるか、撤去すべき側壁を有する躯体の外側に適宜の穴を穿設して切断撤去作業可能な空間を設けるため、躯体の内側で切断撤去作業を行なう必要がない。
【0021】
更に、側壁が撤去された後の躯体の空隙に補助棒材を配して、躯体の残部の上部及び下部夫々に固定し、固定された補助棒材に連結具、延いては支持棒材に固定された保護壁を連結するため、側壁の撤去後も保護壁の確実な固定先を確保することができる。
【0022】
第4発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、保護壁の仮設前に、側壁に形成された孔に挿通させて予め仮設ワイヤを側壁に巻回し、仮設ワイヤを用いて切断用ワイヤを側壁に巻回するため、切断用ワイヤを巻回するときに、保護壁の除去及び躯体の内側での作業が必要ない。
また、ワイヤソーによる側壁の切断作業は、躯体の内側での作業が必要ないため、例えば地下鉄の走行中にも切断作業を行なうことができ、工期の短縮が可能となる。
【0023】
第5発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、側壁に転倒防止用の壁支持具を配し、側壁の下側切断面(傾斜面)を滑り台の上面(前記傾斜面に対応する傾斜面)に滑らせて、切断した側壁を牽引して撤去するため、安全かつ容易に、切断した側壁を撤去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を、その実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0025】
図1〜図3は、本発明に係る地下躯体の切断撤去工法を用いて行なうプラットホーム45,45の増設工事の手順を説明するための横断面図であり、地下鉄構内の構成を示している。
図1〜図3中Gは地面であり、地面Gの地下に、鉄筋コンクリート製の既設躯体1が埋設されている。既設躯体1は、長手方向が地下鉄の走行すべき方向に沿う横断面略矩形の筒状である(図1)。また、既設躯体1は、側壁である構内壁2,2、天井である上床板11、床である下床板12、及び横方向に略2分割する位置に設けられ、上床板11と下床板12とに介在して、既設躯体1の長手方向に複数本並置された支持柱13,13,…(1本だけ図示)で構成されている。
【0026】
支持柱13の両側方かつ下床板12の上面には、地下鉄用の軌道としてレールL,L,…が一対ずつ敷設されている。また、支持柱13の両側方に突出するようにして既設躯体1内部にプラットホーム15が設けられている。図中Wは、工事中にも地下鉄が安全に走行するための縮小建築限界であり、縮小建築限界Wと構内壁2との最小離隔距離は約70mmである。
各構内壁2の厚みは、上部よりも下部の方が軌道側へ大きくなるよう形成されている。具体的には、構内壁2は、その内面が略鉛直である上側の鉛直壁部2aと、その内面が鉛直壁部2aの内面から連続的に軌道側(既設躯体1内側)へ傾斜している下側の傾斜壁部2b(ハンチ部分)とを有する。
【0027】
プラットホーム45,45の増設工事に際し、まず、地面Gの地下に穴を掘設し、既設躯体1を内包するように鉄筋コンクリート製の新設躯体4を形成する(図1)。
【0028】
形成された新設躯体4は、長手方向が地下鉄の走行すべき方向(即ち既設躯体1の長手方向)に沿い、下部中央が開口して開口部に既設躯体1の下床板12が配されている横断面略矩形の筒状である。このような新設躯体4は、その中央部が既設躯体1の上床板11に一体的に設けられた天井である上床板41、側壁44,44、既設躯体1の下床板12の外側に設けられた下床板42,42、及び上床板41と下床板42,42とに介在して前記長手方向に複数本並置された支持柱43,43,…(2本だけ図示)を備える。
以下では、既設躯体1(新設躯体4)の長手方向である水平方向を、単に長手方向という。
【0029】
新設躯体4の側壁44,44夫々内面と既設躯体1の構内壁2,2夫々の外面との間には撤去作業用の作業空間S,Sが設けられる。つまり、構内壁2,2の外側に切断撤去作業可能な空間が設けられる。作業空間S,Sで行なう作業は、地下鉄の営業時間中でも実行可能であるが、軌道側で行なう作業は、地下鉄の営業時間外に行なう必要がある。
【0030】
次に、既設躯体1の構内壁2,2を切断撤去する(図2)。
このために、新設躯体4の作業空間S,Sにおける上床板41の内面には、構内壁2,2の切断撤去に用いられるホイスト式クレーン40(図11の横断面図参照)のホイストレール40a,40aが長手方向に設置される。
切断された構内壁2,2は、作業空間S,Sを通過して、図示しない出口から地上へ搬送される。
【0031】
最後に、各支持柱43の両側方に突出するようにしてプラットホーム45,45が設けられる(図3)。
以下では、構内壁2,2の切断撤去作業について、図1中左側の構内壁2を例示して説明する。
【0032】
図4〜図16は、本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の説明図であり、図4は、仮設ワイヤ71の巻回手順を説明する横断面図である。
後述するように、本実施の形態においてはワイヤソー7を用いて構内壁2を切断するため、保護壁3を仮設した状態で、構内壁2に切断用ワイヤ70を巻回する必要がある(図7の拡大横断面図参照)。
【0033】
このために、作業者は、作業空間S側から例えばコアドリルを用いて、各貫通孔20a,20b,20c,20dを構内壁2に対し横方向に形成する(図4)。貫通孔20a,20b,20c,20d(又は貫通孔20a,20c,20d)は略上下方向に並置して、また、貫通孔20a,20a,…、貫通孔20b,20b,…、貫通孔20c,20c,…、及び貫通孔20d,20d,…が長手方向に夫々複数並置して形成される(図8の側面図参照)。
【0034】
貫通孔20a,20b,20c,20dは、切断用ワイヤ70及び仮設ワイヤ71夫々を挿通するための孔であり、切断用ワイヤ70及び仮設ワイヤ71夫々の外径よりも大きく、切断用ワイヤ70及び仮設ワイヤ71夫々の最低曲げ半径に応じた内径を有し、また、切断用ワイヤ70及び仮設ワイヤ71を円滑に回転させるために、軌道側から貫通孔20a,20b,20c,20dの開口部が適宜面ばつりされる。
【0035】
本実施の形態における構内壁2は、上下方向に関し、鉛直壁部2aの上側の一部である一ブロック(以下、構内壁上部21という)と、鉛直壁部2aの下側の残部及び傾斜壁部2bの上側の一部を含む一ブロック(以下、構内壁下部22という)とに分けて切断撤去される(図13及び図16の各横断面図参照)。また、構内壁2は、長手方向に関し、各複数の構内壁上部21,21,…及び構内壁下部22,22,…に分割して切断撤去される(図8参照)。
更に、構内壁2は、鉛直壁部2aの縦方向の切断を行なってから、構内壁上部21,21,…に係る水平方向の切断を行ない、次いで構内壁下部22,22,…に係る水平方向の切断を行なってから、傾斜壁部2bの縦方向の切断を行なう。
【0036】
このために、作業者は各貫通孔20aを構内壁上部21の最上位置となすべき位置に、各貫通孔20dを構内壁下部22の最下位置となすべき位置に、各貫通孔20cを鉛直壁部2aと傾斜壁部2bとの境界位置に穿設する。また、各貫通孔20bを、構内壁上部21と構内壁下部22との境界位置となすべき位置に、しかも既設躯体1の外側へ下降する傾斜(作業空間Sで貫通孔20bを形成する作業者の手前側から奥側へ上昇する傾斜)を有して穿設する。
【0037】
本実施の形態においては、保護壁3の強度に基づく保護壁3の支持最大スパンが約2.4mであり、このため、各構内壁上部21及び構内壁下部22の長手方向長さは1.2m、重量は約4トンとする。ただし、水平方向の切断間隔は、出来形精度を考慮し、約2.4m毎とする。以上のことから、隣り合う貫通孔20a,20a同士、貫通孔20c,20c同士、及び貫通孔20d,20d同士の長手方向の離隔距離は約1.2mとし、貫通孔20b,20b同士の離隔距離は約2.4mとする。
【0038】
貫通孔20a,20b,20c,20dの穿設後、作業空間S側及び軌道側から、作業者は、切断用ワイヤ70を構内壁2に巻回するために用いる一の仮設ワイヤ71を貫通孔20a,20cに挿通させて鉛直壁部2aに巻回し、他の仮設ワイヤ71を貫通孔20c,20dに挿通させて傾斜壁部2bに巻回し、各仮設ワイヤ71の両端を、ターンバックルのような緊張用金具71aを用いて構内壁2の外側で締結する(図5の横断面図参照)。
【0039】
また、各隣り合う貫通孔20a,20a同士、及び隣り合う貫通孔20d,20d同士夫々にわたって仮設ワイヤ71,71を鉛直壁部2a及び傾斜壁部2b夫々に巻回し、緊張用金具71aを用いて構内壁2の外側で締結する(図5参照)。
ここで、仮設ワイヤ71は、切断用ワイヤ70とスリーブ圧着接続可能なワイヤロープを用いてなる。
【0040】
次に、保護壁3の仮設手順を詳述する。
図5及び図6は、保護壁3の仮設手順を説明する横断面図及び拡大横断面図であり、図7は、保護壁3の上端部を示す拡大横断面図である。また、図8及び図9は、各支持棒材511,512,513の固設手順を説明する側面図及び拡大斜視図であって、図8は構内壁2の内面側を示している。ここで、本実施の形態においては、構内壁2の撤去の際、各構内壁上部21及び構内壁下部22夫々は、後述するように、図8中の左側の構内壁上部21及び構内壁下部22から順に撤去される。
【0041】
仮設ワイヤ71,71,…の巻回後、作業者は軌道側から、構内壁2の内側に、軌道側を保護する保護壁3を仮設する。
このために、作業者は、まず、軌道側から構内壁2に保護壁3固定のための複数の固定具を設置する。具体的には、図6、図8及び図9に示すように、縦方向の各仮設ワイヤ71近傍の図8中右側に、各構内壁上部21の上下方向の中央部及び下部夫々と、各構内壁下部22の上部と、鉛直壁部2aの下部と傾斜壁部2bの上部とに、夫々の頂部がボルト状に形成してあるアンカー5,5,…を打設する。また、図5及び図7に示すように、上床板11の構内壁2近傍、及び下床板12の路面12aの構内壁2近傍に、固定金具31,31,…、及び固定金具32,32,…(各1個のみ図示)を打設する。
【0042】
次に作業者は、保護壁3を支持する支持棒材511,511,…、支持棒材512,512,…、及び支持棒材513,513,…を準備する。縮小建築限界Wと鉛直壁部2aとのクリアランスは最小約70mmであり、このクリアランスの範囲内に保護壁3を仮設するためには、保護壁3の形状が構内壁2の形状に沿う形状である必要がある。
仮に、保護壁3の上端部を固定金具31,31,…に固定し、固定金具31,31,…から垂下している保護壁3の下端部を固定金具32,32,…に固定した場合、保護壁3は上端から下端にかけて軌道側へ傾斜した平面状となり、クリアランスの範囲外に配される。
【0043】
鉛直壁部2a及び傾斜壁部2bを有する構内壁2の形状は複雑であるが、構内壁上部21、構内壁下部22の鉛直壁部2a部分、及び構内壁下部22の傾斜壁部2b部分の内面は夫々平面であるため、各内面に対応する支持棒材511,512,513を準備する。
【0044】
図6、図8及び図9に示すように、各支持棒材511,512,513は、断面形状が約60mm×約30mmの直状の角鋼管であり、支持棒材511の長さは構内壁上部21の高さよりやや短く、支持棒材512の長さは構内壁下部22の鉛直壁部2a部分の高さよりやや短く、支持棒材513の長さは構内壁下部22の傾斜壁部2b部分の内面に沿った縦方向長さよりやや短く、夫々形成してある。つまり、各支持棒材511,512,513は、各支持棒材511,512,513を取り付けるべき部分の構内壁2の内面の形状に沿う形状である。
【0045】
各支持棒材511,512,513の約60mmの長さを有する一面には、支持棒材511,512,513とアンカー5との連結用の連結具52が、アンカー5,5,…の位置に応じて、各支持棒材511,512に関しては2個ずつ、各支持棒材513に関しては1個ずつ、溶接固定してある。
各連結具52は厚さ約6mmの略長方形の金属板であり、一側端部にU字状の凹部が形成されており、一側端部が支持棒材511,512,513の図8中の左側(図9においては左下側)に突出するよう、他側が支持棒材511,512,513に溶接される。なお、溶接ではなく例えばビス留めで固定されていてもよい。
【0046】
作業者は、各支持棒材511を構内壁上部21に縦方向に配し、連結具52,52の各凹部内にアンカー5,5を配し、ナット53,53を用いて連結具52,52をアンカー5,5に連結することによって、支持棒材511をアンカー5,5に固定する。
同様に、各支持棒材512を構内壁下部22の鉛直壁部2a部分に配してナット53,53を用いてアンカー5,5に固定し、各支持棒材513を構内壁下部22の傾斜壁部2b部分に、支持棒材513の下端部を下床板12の路面12aに当接させて配置してナット53を用いてアンカー5に固定する。
支持棒材511の上端及び支持棒材513の下端夫々は、既設躯体1の切断撤去されない部分(具体的には上床板11及び下床板12夫々)に固定する。
【0047】
以上のようにして、支持棒材511,511,…、支持棒材512,512,…、及び支持棒材513,513,…を、略縦方向に3本、かつ長手方向に複数並置して(図8)、ナット53,53,…を取り付けて締めるか、緩めて取り外すことによって、アンカー5,5,…に着脱可能に固定する。
ここで、隣り合う支持棒材511,511同士、支持棒材512,512同士、及び支持棒材513,513同士の長手方向の離隔距離は約1.2mである。
【0048】
保護壁3は折板型のデッキプレートであるキーストンプレートを用いてなり、複数の平行な溝が長手方向に配される。保護壁3の最大厚み(溝の深さ)は約25mmである。保護壁3は、上端部が固定金具31,31,…に固定され、また、支持棒材511,511,…、支持棒材512,512,…、及び支持棒材513,513,…夫々に軌道側から接触して適宜の位置にビス留めされ、更に、下端部が固定金具32,32,…に固定される。つまり、保護壁3は構内壁2の内面の形状に沿うように、軌道側から複数の支持棒材511,511,…、支持棒材512,512,…、及び支持棒材513,513,…にわたって固定される。
【0049】
ここで、図示はしないが、保護壁3は、構内壁上部21,21,…と構内壁下部22,22,…との境界近傍が部分的に着脱可能としてある。また、構内壁2の切断の際に水を用いるため、軌道側へ水が漏出することを防止すべく保護壁3の下端部は、例えばモルタルにて閉塞される。
以上のようにして仮設された保護壁3は、鉛直壁部2aにおける構内壁2から保護壁3内面までの距離が約61mmとなるため、クリアランス内に配される。
【0050】
図10は、構内壁上部21の切断手順を説明する横断面図である。以下では、特許文献1で開示されているようなワイヤソーを用いた切断工法で構内壁2を切断する。
保護壁3の仮設後、作業者は作業空間S側から、鉛直壁部2aの縦方向の仮設ワイヤ71,71,…に関し、ダイヤモンドワイヤを用いてなる切断用ワイヤ70を、各仮設ワイヤ71に接続することによって貫通孔20a,20cに挿通して鉛直壁部2aに巻回する。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、鉛直壁部2aを縦方向に切断する。
【0051】
次に作業者は、軌道側から保護壁3の一部を取り外して、構内壁上部21,21,…に関し、隣り合う貫通孔20b,20b同士(図8参照)にわたって切断用ワイヤ70を巻回して、取り外した保護壁3の一部を再び取り付ける。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、構内壁上部21,21,…の下部を長手方向に切断する。このとき、各貫通孔20bの傾斜によって、各構内壁上部21の下側切断面は作業空間S側へ下降する傾斜面21aとなる(図11参照)。
【0052】
そして作業者は作業空間S側から、構内壁上部21,21,…の上部の長手方向の仮設ワイヤ71,71,…に関し(図8参照)、各仮設ワイヤ71を用いて、切断用ワイヤ70を貫通孔20a,20a,…に挿通して構内壁上部21,21,…に巻回する。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、構内壁上部21,21,…の上部を長手方向に切断する。
【0053】
図11〜図13は、構内壁上部21の撤去手順を説明する横断面図である。
構内壁上部21,21,…の切断後、作業者は作業空間S側から、撤去すべき構内壁上部21(図8に示す左端の構内壁上部21)に関し、構内壁上部21転倒防止用の倒れ止め金具80を構内壁上部21と上床板11との境界部分に配して構内壁上部21に固定する。この倒れ止め金具80によって、構内壁上部21の特に軌道側への転倒が防止される。
【0054】
また、作業者は作業空間S側から、撤去すべき構内壁上部21に係るナット53,53を緩めて、アンカー5,5に対する支持棒材511の固定を解除する。構内壁上部21は図8に示す左側から順に撤去され、また、連結具52,52とアンカー5,5との連結位置は支持棒材511の左側に配されているため、作業者はナット53,53による連結解除を容易に実行することができる。
【0055】
アンカー5,5に対する支持棒材511の固定を解除することによって、撤去すべき構内壁上部21を覆う保護壁3の一部は確固たる支持を失う。ただし未だ撤去されていない各構内壁上部21に固定されている支持棒材511、撤去された各構内壁上部21の撤去後の空隙に配されている補助棒材61(後述。図14の横断面図参照)に固定されている支持棒材511,511,…、及び各構内壁下部22に固定されている支持棒材512,513にわたって固定されているため、保護壁3が完全に支持を失うことはない。
【0056】
次に、作業者は作業空間S側から、構内壁上部21の下側切断面である傾斜面21aに対応する傾斜面8aを上面に有する滑り台8を、傾斜面8aの最上端が傾斜面21aの最下端に略一致するよう、作業空間S側から構内壁上部21の下側に近接配置する。滑り台8は、構内壁上部21の仮受架台であり、下床板42と構内壁下部22とに固定される。
【0057】
更に、作業者は作業空間S側から、構内壁上部21転倒防止用の壁支持具81を滑り台8の傾斜面8aに配して構内壁上部21の下部を支持する。壁支持具81は正面視三角形状のアングルブラケットである。壁支持具81の一辺は構内壁上部21に固定され、他辺は傾斜面8aを上側から下側へ摺動する。
【0058】
また、作業者は作業空間Sにおいて、新設躯体4の上床板41内面(天井)に、構内壁上部21を吊り下げるための2個のホイスト式クレーン40,40(ただし1個のみ図示)をホイストレール40aに準備する。各ホイスト式クレーン40の吊り下げ可能な重量は2.8トンである。更に、新設躯体4の側壁44に、構内壁上部21を横方向に牽引するためのホイスト式クレーン82を配置する。
構内壁上部21の作業空間S側表面の長手方向両端部にはフックを係止する係止金具82b,82b(1個のみ図示)が取り付けられ、係止金具82b,82bに係止されたフック付きのワイヤ82aがホイスト式クレーン82に巻き取られることによって、構内壁上部21は作業空間S側へ牽引される(図11)。
【0059】
ホイスト式クレーン82によって牽引された構内壁上部21は、傾斜面21aが傾斜面8aを滑って、作業空間S内へ移動する。
作業者は作業空間Sにおいて、構内壁上部21が構内壁2の残部から完全に抜け出す前に、構内壁上部21の長手方向両端面に、フックを係止する係止金具40b,40b(1個のみ図示)を取り付け、係止金具40b,40bに係止されたフック付きのワイヤ40cをホイスト式クレーン40に巻き上げさせることによって、構内壁上部21をホイスト式クレーン40で懸吊する(図12)。
ホイスト式クレーン40で懸吊されることによって、構内壁上部21の転倒が更に防止される。
【0060】
作業者は作業空間Sにおいて、ホイスト式クレーン82による構内壁上部21の牽引を続行し、構内壁上部21が構内壁2の残部から完全に抜け出した場合に、ホイスト式クレーン82による構内壁上部21の牽引を終了し、ワイヤ40cに構内壁上部21を吊り下げた状態で、ホイスト式クレーン40をホイストレール40aに沿って移動させて、滑り台8から構内壁上部21を離隔させ、構内壁上部21を下床板42に降ろす(図13)。ただし、図13においては滑り台8の図示は省略している。
この後、撤去された構内壁上部21は、作業空間Sを通過して、図示しない出口から地上へ搬送撤去される。
構内壁上部21が撤去されることによって、構内壁2には空隙23が生じる。
【0061】
図14は、補助棒材61による支持棒材511補助手順を説明する横断面図である。
構内壁上部21の撤去後、作業者は作業空間Sにおいて、構内壁上部21が撤去された後の構内壁2の空隙23に、補助棒材61を配する。補助棒材61は支持棒材511,512,513同様の角鋼管であり、上端及び下端に固定金具60,60が配される。この固定金具60,60が空隙23の上端面及び下端面、即ち上床板11の構内壁2近傍下端面及び構内壁下部22上端面に固定されることによって、補助棒材61は既設躯体1の残部に固定される。
【0062】
補助棒材61には、アンカー5に形成してあるボルトと同様のボルトが支持棒材511の連結具52,52に対応する位置に配置してある。作業者は作業空間Sにおいて、連結具52,52と補助棒材61とをナット53,53によって連結する。
この結果、撤去された構内壁上部21に固定されていた支持棒材511、延いては保護壁3は、既設躯体1に固定してある補助棒材61に固定される。
【0063】
図15は、構内壁下部22の切断手順を説明する横断面図である。
構内壁上部21,21,…の切断撤去後、作業者は作業空間S側から、撤去すべき構内壁下部22(図8に示す左端の構内壁下部22)に関してナット53,53を緩めてこの構内壁下部22上の空隙23から補助棒材61を取り外す。
また、傾斜壁部2b下部の横方向の仮設ワイヤ71を用い、切断用ワイヤ70を貫通孔20d,20dに挿通して巻回する(図8)。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、傾斜壁部2bを横方向に切断する。
同様に、作業者は作業空間S側から、傾斜壁部2bの縦方向の仮設ワイヤ71を用いて、切断用ワイヤ70を貫通孔20c,20dに挿通して傾斜壁部2bに巻回する。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、傾斜壁部2bを縦方向に切断する。
【0064】
構内壁下部22の切断後、作業者は作業空間S側から、構内壁上部21の場合と同様に、撤去すべき構内壁下部22に係るナット53,53,…を緩めて、アンカー5,5,…に対する支持棒材512,513の固定を解除する。このときも、保護壁3は他部に固定されているため、保護壁3が完全に支持を失うことはない。
【0065】
図16は、構内壁下部22の撤去手順を説明する横断面図である。
作業者は作業空間Sにおいて、新設躯体4の上床板41天井に、構内壁下部22を吊り下げるための2個のホイスト式クレーン40,40(ただし1個のみ図示)をホイストレール40aに準備し、更に、新設躯体4の側壁44に、構内壁下部22を横方向に牽引するためのホイスト式クレーン82を配置する。
【0066】
作業者は作業空間Sにおいて、構内壁下部22の上端面に、フックを係止する係止金具40b,40b(1個のみ図示)を取り付け、係止金具40b,40bに係止されたフック付きのワイヤ40cをホイスト式クレーン40に巻き上げさせることによって、構内壁下部22をホイスト式クレーン40で懸吊する。
構内壁下部22の作業空間S側表面の長手方向両端部にはフックを係止する係止金具82b,82b(1個のみ図示)が取り付けられ、係止金具82b,82bに係止されたフック付きのワイヤ82aがホイスト式クレーン82に巻き取られることによって、構内壁下部22は作業空間S側へ牽引される
【0067】
作業者は作業空間Sにおいて、ホイスト式クレーン40,40及びホイスト式クレーン82を用いて構内壁下部22を下床板42に降ろす。
この後、撤去された構内壁下部22は、作業空間Sを通過して、図示しない出口から地上へ搬送撤去される。
【0068】
構内壁下部22の撤去後、作業者は作業空間Sにおいて、構内壁上部21及び構内壁下部22が撤去された後の構内壁2の空隙24に、補助棒材61ではなく補助棒材62を配する。補助棒材62は補助棒材61より長い角鋼管であり、上端及び下端に固定金具60,60が配される。この固定金具60,60が空隙24の上端面及び下端面、即ち上床板11下端面及び下床板12上端面に固定されることによって、補助棒材62は既設躯体1の残部に固定される。
【0069】
補助棒材62には、アンカー5に形成してあるボルトと同様のボルトが支持棒材512,513の連結具52,52,52に対応する位置に形成してある。作業者は作業空間Sにおいて、連結具52,52,52と補助棒材62とをナット53,53,53によって連結する。
この結果、撤去された構内壁上部21及び構内壁下部22に固定されていた支持棒材511,512,513、延いては保護壁3は、既設躯体1に固定してある補助棒材62に固定される。ここで、補助棒材62には下部に突出部62aが設けてあり、保護壁3が傾斜壁部2bの形状に沿うようにしてある。
なお、補助棒材61の代わりに補助棒材62を配する構成ではなく、補助棒材61に新たな補助棒材を追加連結して補助棒材62となす構成でもよい。
【0070】
作業空間Sにおける作業が全て終了した場合、作業者は作業空間S及び軌道側から、保護壁3、支持棒材511,512,513、補助棒材61,62等を撤去する。
【0071】
以上のような地下躯体の切断撤去工法は、撤去すべき構内壁2と、縮小建築限界Wとのクリアランスが小さい(約70mmである)ときでも、保護壁3を構内壁2に近接してクリアランスの範囲内に仮設することができる。また、構内壁2を撤去しても、保護壁3の固定先を確保することができる。
更に、保護壁3によって、軌道側へのワイヤソー7の施工水、粉塵、煙等の飛散、騒音の拡散、資材の落下等を防止することができ、地下鉄構内の美観も向上させることができる。
【0072】
更にまた、ホイスト式クレーン40,40の能力に応じた適切なサイズ及び重量で、構内壁2を構内壁上部21及び構内壁下部22の縦方向2個に分割して切断撤去するため、3分割以上に分割する場合よりも工期を短縮することができる。
【0073】
なお、地下鉄の構内に限らず、例えばトンネルの拡張工事のために本発明の工法を用いてもよい。
また、本実施の形態においては、支持棒材511,512,513を鉛直壁部2a及び傾斜壁部2bに沿って断続的に固定してあるが、構内壁2の内面に沿う形状を有する1本の支持棒材を鉛直壁部2a及び傾斜壁部2bに沿って連続的に固定する構成でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法を用いて行なうプラットホームの増設工事の手順を説明するための横断面図である。
【図2】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法を用いて行なうプラットホームの増設工事の手順を説明するための横断面図である。
【図3】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法を用いて行なうプラットホームの増設工事の手順を説明するための横断面図である。
【図4】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の仮設ワイヤの巻回手順を説明する横断面図である。
【図5】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の保護壁の仮設手順を説明する横断面図である。
【図6】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の保護壁の仮設手順を説明する拡大横断面図である。
【図7】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法によって仮設された保護壁の上端部を示す拡大横断面図である。
【図8】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の支持棒材の固設手順を説明する側面図である。
【図9】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の支持棒材の固設手順を説明する拡大斜視図である。
【図10】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁上部の切断手順を説明する横断面図である。
【図11】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁上部の撤去手順を説明する横断面図である。
【図12】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁上部の撤去手順を説明する横断面図である。
【図13】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁上部の撤去手順を説明する横断面図である。
【図14】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の補助棒材による支持棒材補助手順を説明する横断面図である。
【図15】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁下部の切断手順を説明する横断面図である。
【図16】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁下部の撤去手順を説明する横断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 既設躯体(躯体)
2 構内壁(側壁)
2a 鉛直壁部
2b 傾斜壁部
20a,20b,20c,20d 貫通孔(孔)
21a 傾斜面
23,24 空隙
3 保護壁
5 アンカー(固定具)
511,512,513 支持棒材
52 連結具
61,62 補助棒材
7 ワイヤソー
70 切断用ワイヤ
71 仮設ワイヤ
8 滑り台
8a 傾斜面
81 壁支持具
S 作業空間(切断撤去作業可能な空間)
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下に埋設された躯体の内側、例えば地下鉄の構内壁の軌道側に、保護壁を仮設する地下躯体の切断撤去工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地下鉄構内におけるプラットホームの延伸増設、増幅、拡張、補修、補強、駅の新設等の工事に際して、鉄筋コンクリート製の構内壁を切断撤去することがある。
地下鉄線路に沿って構築された構内壁の切断撤去工法としては、構内壁の外側に通路空間を穿設し、構内壁の切断予定部分に切断用ワイヤを巻き掛け、切断用ワイヤの駆動装置(ワイヤソー)によって走行駆動させて構内壁を切断し撤去する工法が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
この工法による場合、構内壁の切断撤去作業は通路空間で行なうことができ、地下鉄の軌道側で切断撤去作業を行なう必要がない。このため、特許文献1においては、構内壁の切断撤去に伴う塵芥の軌道側への飛散、騒音の拡散、切断撤去作業が地下鉄利用者に見られることによる美観の低下等を防止すべく、軌道側を保護する保護壁を、構内壁の軌道側に仮設することが提案されている。
一般的な構内壁は略鉛直に設けられているため、保護壁は、構内壁を側壁とする躯体の天井に、例えばアンカーを用いて固定されて垂下し、更に路面に固定される。
【特許文献1】特公平4−20480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撤去すべき構内壁と、工事中にも地下鉄が安全に走行するための縮小建築限界とのクリアランスが小さい(例えば70mm)場合、保護壁は構内壁に近接して仮設される。しかしながら、構内壁の下部が軌道側へ傾斜しており(ハンチ形状であり)、構内壁の下部も被覆するように保護壁を設ける場合、躯体の天井及び路面夫々に固定された保護壁がクリアランスの内部に配置できないという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、構内壁に設置したアンカーに保護壁をビス留め固定して、構内壁の形状に沿って保護壁を配置することが考えられる。しかしながら、この場合、構内壁を撤去することによって保護壁の固定先が失われ、保護壁を保形できないという問題があった。また、アンカーと保護壁との固定を解除するために、軌道側の作業を要するという問題があった。
【0006】
本発明は斯かる問題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、躯体の側壁に設置された固定具に、着脱可能に支持棒材を固定し、固定した支持棒材に保護壁を固定することにより、側壁の形状に沿って保護壁を保形し、また、側壁の切断撤去の際に保護壁の内側(例えば軌道側)で作業を行なう必要がない地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、側壁の鉛直壁部及び傾斜壁部に沿って連続的又は断続的に支持棒材を固定することにより、複雑な側壁の形状に沿って保護壁を保形することができる地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、固定具及び支持棒材を連結する連結具と、支持棒材を補助する補助棒材とを用いて保護壁を固定することにより、固定具と支持棒材との着脱作業を容易に行なうことができ、更に側壁の撤去後も保護壁の確実な固定先を確保することができる地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、保護壁の仮設前に、切断用ワイヤ巻回用の仮設ワイヤを予め側壁に巻回することにより、ワイヤソーによる側壁の切断作業を行なう場合に、保護壁の除去及び保護壁の内側での作業が必要ない地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【0010】
本発明の更に他の目的は、転倒防止用の壁支持具と、側壁撤去用の滑り台とを用いることにより、切断した側壁を安全かつ容易に撤去することができる地下躯体の切断撤去工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、地下に埋設された躯体の内側を保護する保護壁を前記内側に仮設し、前記躯体の側壁を切断撤去する地下躯体の切断撤去工法において、前記保護壁の仮設のために、前記内側から前記側壁に複数の固定具を設置し、前記側壁の内面の形状に沿う支持棒材を、略縦方向に1又は複数かつ略水平方向に複数、前記側壁に設置した固定具に夫々着脱可能に固定し、略水平方向に並設された複数の前記支持棒材にわたって、前記形状に沿う前記保護壁を前記内側から前記支持棒材に固定することを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、前記側壁は、前記内面が略鉛直である鉛直壁部と、前記内面が前記鉛直壁部の内面から連続的に前記内側へ傾斜している傾斜壁部とを有し、前記鉛直壁部及び前記傾斜壁部に沿って前記支持棒材を、連続的に又は並置して固定することを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、前記側壁の外側に切断撤去作業可能な空間を設け、前記固定具と前記支持棒材とを固定する場合、該支持棒材に、前記固定具との連結用の連結具を固定しておき、前記支持棒材に固定されている連結具を前記固定具に着脱可能に連結し、前記側壁の撤去前に、前記側壁に設置されている固定具と前記連結具との連結を解除し、前記側壁を切断して前記外側へ撤去し、前記支持棒材を補助する補助棒材を、前記側壁が撤去された後の前記躯体の空隙に配して、前記躯体の残部の上部及び下部夫々に固定し、固定された前記補助棒材に前記連結具を連結することを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、前記保護壁の仮設前に、前記側壁に孔を形成し、形成された孔に挿通させて仮設ワイヤを前記側壁に巻回し、前記仮設ワイヤの巻回後、前記保護壁を前記支持棒材に固定し、前記仮設ワイヤを用いて、前記側壁を切断する切断用ワイヤを前記側壁に巻回し、前記切断用ワイヤを駆動するワイヤソーを用いて前記外側から前記側壁を切断することを特徴とする。
【0015】
第5発明に係る地下躯体の切断撤去工法は、切断すべき前記側壁の下側切断面が前記外側へ下降する傾斜面となるように切断し、該傾斜面に対応する傾斜面を上面に有する滑り台を前記外側から前記側壁に近接配置し、前記滑り台の上面に、前記側壁の転倒防止用の壁支持具を配して前記側壁を支持し、切断された前記側壁の下側切断面が前記上面を滑るように、前記側壁を前記外側へ牽引することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、躯体の側壁に設置された複数の固定具に、側壁の内面の形状に沿う支持棒材を着脱可能に固定し、この支持棒材に保護壁を固定するため、保護壁を側壁の形状に沿って保形することができる。この結果、側壁と縮小建築限界とのクリアランスが小さいときでも、保護壁は可及的に側壁に近接して仮設することができる。
また、略水平方向(更に詳細には躯体の長手方向)に並設された複数の支持棒材にわたって保護壁を固定するため、側壁の切断撤去のために側壁と一の支持棒材との固定を解除したときでも、側壁に対する固定が未解除である他の支持棒材によって、保護壁の固定が維持される。
【0017】
更に、保護壁ではなく支持棒材が側壁に直接的に固定されており、保護壁は内側(例えば地下鉄構内の場合は軌道側)から支持棒材に固定されているため、保護壁の外側(保護壁の該保護壁が固定されている側壁との対向面側)の空間で、側壁と支持棒材との固定を解除することができ、躯体の内側(軌道側)の空間で解除作業を行なう必要がない。
更にまた、側壁と支持棒材とは着脱可能に固定されているため、側壁と支持棒材との固定を容易に解除することができる。
【0018】
また、保護壁は該保護壁の内側(軌道側)から支持棒材に固定されているため、躯体の内側に存在する者(例えば地下鉄の利用客)から支持棒材、切断撤去作業中の側壁等を覆い隠すことができ、更に保護壁に対して彩色、駅看板の設置等が可能であるため、美観を向上させることができる。
更にまた、保護壁によって側壁の切断撤去に伴う塵芥の躯体の内側への飛散、騒音の拡散等を防止することができる。
【0019】
第2発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、鉛直壁部と傾斜壁部とを有する複雑な形状の側壁に対し、鉛直壁部及び傾斜壁部の連続部分の形状に沿う1本の支持棒材を固定具に固定する(連続的)。又は、鉛直壁部の形状に沿う支持棒材と傾斜壁部の形状に沿う支持棒材とを略縦方向に並置して固定具に固定する(断続的)。以上のように固定された支持棒材に保護壁を固定するため、保護壁を側壁の形状に沿って保形することができる。
【0020】
第3発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、側壁に設置されている固定具と支持棒材に固定されている連結具とを着脱可能に連結するため、固定具と支持棒材との連結箇所を、支持棒材に直接的に設ける必要がない。つまり、固定具と支持棒材との連結箇所を適宜の箇所に設けることができ、このため、作業者が固定具と連結具との着脱作業、延いては固定具と支持棒材との着脱作業を容易に行なうことができる。
また、例えば、撤去すべき側壁を有する躯体の外側に、この躯体より大きい躯体を新設し、新設した躯体の内面と撤去すべき側壁の外面との間に切断撤去作業可能な空間を設けるか、撤去すべき側壁を有する躯体の外側に適宜の穴を穿設して切断撤去作業可能な空間を設けるため、躯体の内側で切断撤去作業を行なう必要がない。
【0021】
更に、側壁が撤去された後の躯体の空隙に補助棒材を配して、躯体の残部の上部及び下部夫々に固定し、固定された補助棒材に連結具、延いては支持棒材に固定された保護壁を連結するため、側壁の撤去後も保護壁の確実な固定先を確保することができる。
【0022】
第4発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、保護壁の仮設前に、側壁に形成された孔に挿通させて予め仮設ワイヤを側壁に巻回し、仮設ワイヤを用いて切断用ワイヤを側壁に巻回するため、切断用ワイヤを巻回するときに、保護壁の除去及び躯体の内側での作業が必要ない。
また、ワイヤソーによる側壁の切断作業は、躯体の内側での作業が必要ないため、例えば地下鉄の走行中にも切断作業を行なうことができ、工期の短縮が可能となる。
【0023】
第5発明の地下躯体の切断撤去工法による場合、側壁に転倒防止用の壁支持具を配し、側壁の下側切断面(傾斜面)を滑り台の上面(前記傾斜面に対応する傾斜面)に滑らせて、切断した側壁を牽引して撤去するため、安全かつ容易に、切断した側壁を撤去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を、その実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
【0025】
図1〜図3は、本発明に係る地下躯体の切断撤去工法を用いて行なうプラットホーム45,45の増設工事の手順を説明するための横断面図であり、地下鉄構内の構成を示している。
図1〜図3中Gは地面であり、地面Gの地下に、鉄筋コンクリート製の既設躯体1が埋設されている。既設躯体1は、長手方向が地下鉄の走行すべき方向に沿う横断面略矩形の筒状である(図1)。また、既設躯体1は、側壁である構内壁2,2、天井である上床板11、床である下床板12、及び横方向に略2分割する位置に設けられ、上床板11と下床板12とに介在して、既設躯体1の長手方向に複数本並置された支持柱13,13,…(1本だけ図示)で構成されている。
【0026】
支持柱13の両側方かつ下床板12の上面には、地下鉄用の軌道としてレールL,L,…が一対ずつ敷設されている。また、支持柱13の両側方に突出するようにして既設躯体1内部にプラットホーム15が設けられている。図中Wは、工事中にも地下鉄が安全に走行するための縮小建築限界であり、縮小建築限界Wと構内壁2との最小離隔距離は約70mmである。
各構内壁2の厚みは、上部よりも下部の方が軌道側へ大きくなるよう形成されている。具体的には、構内壁2は、その内面が略鉛直である上側の鉛直壁部2aと、その内面が鉛直壁部2aの内面から連続的に軌道側(既設躯体1内側)へ傾斜している下側の傾斜壁部2b(ハンチ部分)とを有する。
【0027】
プラットホーム45,45の増設工事に際し、まず、地面Gの地下に穴を掘設し、既設躯体1を内包するように鉄筋コンクリート製の新設躯体4を形成する(図1)。
【0028】
形成された新設躯体4は、長手方向が地下鉄の走行すべき方向(即ち既設躯体1の長手方向)に沿い、下部中央が開口して開口部に既設躯体1の下床板12が配されている横断面略矩形の筒状である。このような新設躯体4は、その中央部が既設躯体1の上床板11に一体的に設けられた天井である上床板41、側壁44,44、既設躯体1の下床板12の外側に設けられた下床板42,42、及び上床板41と下床板42,42とに介在して前記長手方向に複数本並置された支持柱43,43,…(2本だけ図示)を備える。
以下では、既設躯体1(新設躯体4)の長手方向である水平方向を、単に長手方向という。
【0029】
新設躯体4の側壁44,44夫々内面と既設躯体1の構内壁2,2夫々の外面との間には撤去作業用の作業空間S,Sが設けられる。つまり、構内壁2,2の外側に切断撤去作業可能な空間が設けられる。作業空間S,Sで行なう作業は、地下鉄の営業時間中でも実行可能であるが、軌道側で行なう作業は、地下鉄の営業時間外に行なう必要がある。
【0030】
次に、既設躯体1の構内壁2,2を切断撤去する(図2)。
このために、新設躯体4の作業空間S,Sにおける上床板41の内面には、構内壁2,2の切断撤去に用いられるホイスト式クレーン40(図11の横断面図参照)のホイストレール40a,40aが長手方向に設置される。
切断された構内壁2,2は、作業空間S,Sを通過して、図示しない出口から地上へ搬送される。
【0031】
最後に、各支持柱43の両側方に突出するようにしてプラットホーム45,45が設けられる(図3)。
以下では、構内壁2,2の切断撤去作業について、図1中左側の構内壁2を例示して説明する。
【0032】
図4〜図16は、本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の説明図であり、図4は、仮設ワイヤ71の巻回手順を説明する横断面図である。
後述するように、本実施の形態においてはワイヤソー7を用いて構内壁2を切断するため、保護壁3を仮設した状態で、構内壁2に切断用ワイヤ70を巻回する必要がある(図7の拡大横断面図参照)。
【0033】
このために、作業者は、作業空間S側から例えばコアドリルを用いて、各貫通孔20a,20b,20c,20dを構内壁2に対し横方向に形成する(図4)。貫通孔20a,20b,20c,20d(又は貫通孔20a,20c,20d)は略上下方向に並置して、また、貫通孔20a,20a,…、貫通孔20b,20b,…、貫通孔20c,20c,…、及び貫通孔20d,20d,…が長手方向に夫々複数並置して形成される(図8の側面図参照)。
【0034】
貫通孔20a,20b,20c,20dは、切断用ワイヤ70及び仮設ワイヤ71夫々を挿通するための孔であり、切断用ワイヤ70及び仮設ワイヤ71夫々の外径よりも大きく、切断用ワイヤ70及び仮設ワイヤ71夫々の最低曲げ半径に応じた内径を有し、また、切断用ワイヤ70及び仮設ワイヤ71を円滑に回転させるために、軌道側から貫通孔20a,20b,20c,20dの開口部が適宜面ばつりされる。
【0035】
本実施の形態における構内壁2は、上下方向に関し、鉛直壁部2aの上側の一部である一ブロック(以下、構内壁上部21という)と、鉛直壁部2aの下側の残部及び傾斜壁部2bの上側の一部を含む一ブロック(以下、構内壁下部22という)とに分けて切断撤去される(図13及び図16の各横断面図参照)。また、構内壁2は、長手方向に関し、各複数の構内壁上部21,21,…及び構内壁下部22,22,…に分割して切断撤去される(図8参照)。
更に、構内壁2は、鉛直壁部2aの縦方向の切断を行なってから、構内壁上部21,21,…に係る水平方向の切断を行ない、次いで構内壁下部22,22,…に係る水平方向の切断を行なってから、傾斜壁部2bの縦方向の切断を行なう。
【0036】
このために、作業者は各貫通孔20aを構内壁上部21の最上位置となすべき位置に、各貫通孔20dを構内壁下部22の最下位置となすべき位置に、各貫通孔20cを鉛直壁部2aと傾斜壁部2bとの境界位置に穿設する。また、各貫通孔20bを、構内壁上部21と構内壁下部22との境界位置となすべき位置に、しかも既設躯体1の外側へ下降する傾斜(作業空間Sで貫通孔20bを形成する作業者の手前側から奥側へ上昇する傾斜)を有して穿設する。
【0037】
本実施の形態においては、保護壁3の強度に基づく保護壁3の支持最大スパンが約2.4mであり、このため、各構内壁上部21及び構内壁下部22の長手方向長さは1.2m、重量は約4トンとする。ただし、水平方向の切断間隔は、出来形精度を考慮し、約2.4m毎とする。以上のことから、隣り合う貫通孔20a,20a同士、貫通孔20c,20c同士、及び貫通孔20d,20d同士の長手方向の離隔距離は約1.2mとし、貫通孔20b,20b同士の離隔距離は約2.4mとする。
【0038】
貫通孔20a,20b,20c,20dの穿設後、作業空間S側及び軌道側から、作業者は、切断用ワイヤ70を構内壁2に巻回するために用いる一の仮設ワイヤ71を貫通孔20a,20cに挿通させて鉛直壁部2aに巻回し、他の仮設ワイヤ71を貫通孔20c,20dに挿通させて傾斜壁部2bに巻回し、各仮設ワイヤ71の両端を、ターンバックルのような緊張用金具71aを用いて構内壁2の外側で締結する(図5の横断面図参照)。
【0039】
また、各隣り合う貫通孔20a,20a同士、及び隣り合う貫通孔20d,20d同士夫々にわたって仮設ワイヤ71,71を鉛直壁部2a及び傾斜壁部2b夫々に巻回し、緊張用金具71aを用いて構内壁2の外側で締結する(図5参照)。
ここで、仮設ワイヤ71は、切断用ワイヤ70とスリーブ圧着接続可能なワイヤロープを用いてなる。
【0040】
次に、保護壁3の仮設手順を詳述する。
図5及び図6は、保護壁3の仮設手順を説明する横断面図及び拡大横断面図であり、図7は、保護壁3の上端部を示す拡大横断面図である。また、図8及び図9は、各支持棒材511,512,513の固設手順を説明する側面図及び拡大斜視図であって、図8は構内壁2の内面側を示している。ここで、本実施の形態においては、構内壁2の撤去の際、各構内壁上部21及び構内壁下部22夫々は、後述するように、図8中の左側の構内壁上部21及び構内壁下部22から順に撤去される。
【0041】
仮設ワイヤ71,71,…の巻回後、作業者は軌道側から、構内壁2の内側に、軌道側を保護する保護壁3を仮設する。
このために、作業者は、まず、軌道側から構内壁2に保護壁3固定のための複数の固定具を設置する。具体的には、図6、図8及び図9に示すように、縦方向の各仮設ワイヤ71近傍の図8中右側に、各構内壁上部21の上下方向の中央部及び下部夫々と、各構内壁下部22の上部と、鉛直壁部2aの下部と傾斜壁部2bの上部とに、夫々の頂部がボルト状に形成してあるアンカー5,5,…を打設する。また、図5及び図7に示すように、上床板11の構内壁2近傍、及び下床板12の路面12aの構内壁2近傍に、固定金具31,31,…、及び固定金具32,32,…(各1個のみ図示)を打設する。
【0042】
次に作業者は、保護壁3を支持する支持棒材511,511,…、支持棒材512,512,…、及び支持棒材513,513,…を準備する。縮小建築限界Wと鉛直壁部2aとのクリアランスは最小約70mmであり、このクリアランスの範囲内に保護壁3を仮設するためには、保護壁3の形状が構内壁2の形状に沿う形状である必要がある。
仮に、保護壁3の上端部を固定金具31,31,…に固定し、固定金具31,31,…から垂下している保護壁3の下端部を固定金具32,32,…に固定した場合、保護壁3は上端から下端にかけて軌道側へ傾斜した平面状となり、クリアランスの範囲外に配される。
【0043】
鉛直壁部2a及び傾斜壁部2bを有する構内壁2の形状は複雑であるが、構内壁上部21、構内壁下部22の鉛直壁部2a部分、及び構内壁下部22の傾斜壁部2b部分の内面は夫々平面であるため、各内面に対応する支持棒材511,512,513を準備する。
【0044】
図6、図8及び図9に示すように、各支持棒材511,512,513は、断面形状が約60mm×約30mmの直状の角鋼管であり、支持棒材511の長さは構内壁上部21の高さよりやや短く、支持棒材512の長さは構内壁下部22の鉛直壁部2a部分の高さよりやや短く、支持棒材513の長さは構内壁下部22の傾斜壁部2b部分の内面に沿った縦方向長さよりやや短く、夫々形成してある。つまり、各支持棒材511,512,513は、各支持棒材511,512,513を取り付けるべき部分の構内壁2の内面の形状に沿う形状である。
【0045】
各支持棒材511,512,513の約60mmの長さを有する一面には、支持棒材511,512,513とアンカー5との連結用の連結具52が、アンカー5,5,…の位置に応じて、各支持棒材511,512に関しては2個ずつ、各支持棒材513に関しては1個ずつ、溶接固定してある。
各連結具52は厚さ約6mmの略長方形の金属板であり、一側端部にU字状の凹部が形成されており、一側端部が支持棒材511,512,513の図8中の左側(図9においては左下側)に突出するよう、他側が支持棒材511,512,513に溶接される。なお、溶接ではなく例えばビス留めで固定されていてもよい。
【0046】
作業者は、各支持棒材511を構内壁上部21に縦方向に配し、連結具52,52の各凹部内にアンカー5,5を配し、ナット53,53を用いて連結具52,52をアンカー5,5に連結することによって、支持棒材511をアンカー5,5に固定する。
同様に、各支持棒材512を構内壁下部22の鉛直壁部2a部分に配してナット53,53を用いてアンカー5,5に固定し、各支持棒材513を構内壁下部22の傾斜壁部2b部分に、支持棒材513の下端部を下床板12の路面12aに当接させて配置してナット53を用いてアンカー5に固定する。
支持棒材511の上端及び支持棒材513の下端夫々は、既設躯体1の切断撤去されない部分(具体的には上床板11及び下床板12夫々)に固定する。
【0047】
以上のようにして、支持棒材511,511,…、支持棒材512,512,…、及び支持棒材513,513,…を、略縦方向に3本、かつ長手方向に複数並置して(図8)、ナット53,53,…を取り付けて締めるか、緩めて取り外すことによって、アンカー5,5,…に着脱可能に固定する。
ここで、隣り合う支持棒材511,511同士、支持棒材512,512同士、及び支持棒材513,513同士の長手方向の離隔距離は約1.2mである。
【0048】
保護壁3は折板型のデッキプレートであるキーストンプレートを用いてなり、複数の平行な溝が長手方向に配される。保護壁3の最大厚み(溝の深さ)は約25mmである。保護壁3は、上端部が固定金具31,31,…に固定され、また、支持棒材511,511,…、支持棒材512,512,…、及び支持棒材513,513,…夫々に軌道側から接触して適宜の位置にビス留めされ、更に、下端部が固定金具32,32,…に固定される。つまり、保護壁3は構内壁2の内面の形状に沿うように、軌道側から複数の支持棒材511,511,…、支持棒材512,512,…、及び支持棒材513,513,…にわたって固定される。
【0049】
ここで、図示はしないが、保護壁3は、構内壁上部21,21,…と構内壁下部22,22,…との境界近傍が部分的に着脱可能としてある。また、構内壁2の切断の際に水を用いるため、軌道側へ水が漏出することを防止すべく保護壁3の下端部は、例えばモルタルにて閉塞される。
以上のようにして仮設された保護壁3は、鉛直壁部2aにおける構内壁2から保護壁3内面までの距離が約61mmとなるため、クリアランス内に配される。
【0050】
図10は、構内壁上部21の切断手順を説明する横断面図である。以下では、特許文献1で開示されているようなワイヤソーを用いた切断工法で構内壁2を切断する。
保護壁3の仮設後、作業者は作業空間S側から、鉛直壁部2aの縦方向の仮設ワイヤ71,71,…に関し、ダイヤモンドワイヤを用いてなる切断用ワイヤ70を、各仮設ワイヤ71に接続することによって貫通孔20a,20cに挿通して鉛直壁部2aに巻回する。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、鉛直壁部2aを縦方向に切断する。
【0051】
次に作業者は、軌道側から保護壁3の一部を取り外して、構内壁上部21,21,…に関し、隣り合う貫通孔20b,20b同士(図8参照)にわたって切断用ワイヤ70を巻回して、取り外した保護壁3の一部を再び取り付ける。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、構内壁上部21,21,…の下部を長手方向に切断する。このとき、各貫通孔20bの傾斜によって、各構内壁上部21の下側切断面は作業空間S側へ下降する傾斜面21aとなる(図11参照)。
【0052】
そして作業者は作業空間S側から、構内壁上部21,21,…の上部の長手方向の仮設ワイヤ71,71,…に関し(図8参照)、各仮設ワイヤ71を用いて、切断用ワイヤ70を貫通孔20a,20a,…に挿通して構内壁上部21,21,…に巻回する。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、構内壁上部21,21,…の上部を長手方向に切断する。
【0053】
図11〜図13は、構内壁上部21の撤去手順を説明する横断面図である。
構内壁上部21,21,…の切断後、作業者は作業空間S側から、撤去すべき構内壁上部21(図8に示す左端の構内壁上部21)に関し、構内壁上部21転倒防止用の倒れ止め金具80を構内壁上部21と上床板11との境界部分に配して構内壁上部21に固定する。この倒れ止め金具80によって、構内壁上部21の特に軌道側への転倒が防止される。
【0054】
また、作業者は作業空間S側から、撤去すべき構内壁上部21に係るナット53,53を緩めて、アンカー5,5に対する支持棒材511の固定を解除する。構内壁上部21は図8に示す左側から順に撤去され、また、連結具52,52とアンカー5,5との連結位置は支持棒材511の左側に配されているため、作業者はナット53,53による連結解除を容易に実行することができる。
【0055】
アンカー5,5に対する支持棒材511の固定を解除することによって、撤去すべき構内壁上部21を覆う保護壁3の一部は確固たる支持を失う。ただし未だ撤去されていない各構内壁上部21に固定されている支持棒材511、撤去された各構内壁上部21の撤去後の空隙に配されている補助棒材61(後述。図14の横断面図参照)に固定されている支持棒材511,511,…、及び各構内壁下部22に固定されている支持棒材512,513にわたって固定されているため、保護壁3が完全に支持を失うことはない。
【0056】
次に、作業者は作業空間S側から、構内壁上部21の下側切断面である傾斜面21aに対応する傾斜面8aを上面に有する滑り台8を、傾斜面8aの最上端が傾斜面21aの最下端に略一致するよう、作業空間S側から構内壁上部21の下側に近接配置する。滑り台8は、構内壁上部21の仮受架台であり、下床板42と構内壁下部22とに固定される。
【0057】
更に、作業者は作業空間S側から、構内壁上部21転倒防止用の壁支持具81を滑り台8の傾斜面8aに配して構内壁上部21の下部を支持する。壁支持具81は正面視三角形状のアングルブラケットである。壁支持具81の一辺は構内壁上部21に固定され、他辺は傾斜面8aを上側から下側へ摺動する。
【0058】
また、作業者は作業空間Sにおいて、新設躯体4の上床板41内面(天井)に、構内壁上部21を吊り下げるための2個のホイスト式クレーン40,40(ただし1個のみ図示)をホイストレール40aに準備する。各ホイスト式クレーン40の吊り下げ可能な重量は2.8トンである。更に、新設躯体4の側壁44に、構内壁上部21を横方向に牽引するためのホイスト式クレーン82を配置する。
構内壁上部21の作業空間S側表面の長手方向両端部にはフックを係止する係止金具82b,82b(1個のみ図示)が取り付けられ、係止金具82b,82bに係止されたフック付きのワイヤ82aがホイスト式クレーン82に巻き取られることによって、構内壁上部21は作業空間S側へ牽引される(図11)。
【0059】
ホイスト式クレーン82によって牽引された構内壁上部21は、傾斜面21aが傾斜面8aを滑って、作業空間S内へ移動する。
作業者は作業空間Sにおいて、構内壁上部21が構内壁2の残部から完全に抜け出す前に、構内壁上部21の長手方向両端面に、フックを係止する係止金具40b,40b(1個のみ図示)を取り付け、係止金具40b,40bに係止されたフック付きのワイヤ40cをホイスト式クレーン40に巻き上げさせることによって、構内壁上部21をホイスト式クレーン40で懸吊する(図12)。
ホイスト式クレーン40で懸吊されることによって、構内壁上部21の転倒が更に防止される。
【0060】
作業者は作業空間Sにおいて、ホイスト式クレーン82による構内壁上部21の牽引を続行し、構内壁上部21が構内壁2の残部から完全に抜け出した場合に、ホイスト式クレーン82による構内壁上部21の牽引を終了し、ワイヤ40cに構内壁上部21を吊り下げた状態で、ホイスト式クレーン40をホイストレール40aに沿って移動させて、滑り台8から構内壁上部21を離隔させ、構内壁上部21を下床板42に降ろす(図13)。ただし、図13においては滑り台8の図示は省略している。
この後、撤去された構内壁上部21は、作業空間Sを通過して、図示しない出口から地上へ搬送撤去される。
構内壁上部21が撤去されることによって、構内壁2には空隙23が生じる。
【0061】
図14は、補助棒材61による支持棒材511補助手順を説明する横断面図である。
構内壁上部21の撤去後、作業者は作業空間Sにおいて、構内壁上部21が撤去された後の構内壁2の空隙23に、補助棒材61を配する。補助棒材61は支持棒材511,512,513同様の角鋼管であり、上端及び下端に固定金具60,60が配される。この固定金具60,60が空隙23の上端面及び下端面、即ち上床板11の構内壁2近傍下端面及び構内壁下部22上端面に固定されることによって、補助棒材61は既設躯体1の残部に固定される。
【0062】
補助棒材61には、アンカー5に形成してあるボルトと同様のボルトが支持棒材511の連結具52,52に対応する位置に配置してある。作業者は作業空間Sにおいて、連結具52,52と補助棒材61とをナット53,53によって連結する。
この結果、撤去された構内壁上部21に固定されていた支持棒材511、延いては保護壁3は、既設躯体1に固定してある補助棒材61に固定される。
【0063】
図15は、構内壁下部22の切断手順を説明する横断面図である。
構内壁上部21,21,…の切断撤去後、作業者は作業空間S側から、撤去すべき構内壁下部22(図8に示す左端の構内壁下部22)に関してナット53,53を緩めてこの構内壁下部22上の空隙23から補助棒材61を取り外す。
また、傾斜壁部2b下部の横方向の仮設ワイヤ71を用い、切断用ワイヤ70を貫通孔20d,20dに挿通して巻回する(図8)。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、傾斜壁部2bを横方向に切断する。
同様に、作業者は作業空間S側から、傾斜壁部2bの縦方向の仮設ワイヤ71を用いて、切断用ワイヤ70を貫通孔20c,20dに挿通して傾斜壁部2bに巻回する。更に作業者は作業空間S側から、巻回した切断用ワイヤ70をワイヤソー7で駆動して、傾斜壁部2bを縦方向に切断する。
【0064】
構内壁下部22の切断後、作業者は作業空間S側から、構内壁上部21の場合と同様に、撤去すべき構内壁下部22に係るナット53,53,…を緩めて、アンカー5,5,…に対する支持棒材512,513の固定を解除する。このときも、保護壁3は他部に固定されているため、保護壁3が完全に支持を失うことはない。
【0065】
図16は、構内壁下部22の撤去手順を説明する横断面図である。
作業者は作業空間Sにおいて、新設躯体4の上床板41天井に、構内壁下部22を吊り下げるための2個のホイスト式クレーン40,40(ただし1個のみ図示)をホイストレール40aに準備し、更に、新設躯体4の側壁44に、構内壁下部22を横方向に牽引するためのホイスト式クレーン82を配置する。
【0066】
作業者は作業空間Sにおいて、構内壁下部22の上端面に、フックを係止する係止金具40b,40b(1個のみ図示)を取り付け、係止金具40b,40bに係止されたフック付きのワイヤ40cをホイスト式クレーン40に巻き上げさせることによって、構内壁下部22をホイスト式クレーン40で懸吊する。
構内壁下部22の作業空間S側表面の長手方向両端部にはフックを係止する係止金具82b,82b(1個のみ図示)が取り付けられ、係止金具82b,82bに係止されたフック付きのワイヤ82aがホイスト式クレーン82に巻き取られることによって、構内壁下部22は作業空間S側へ牽引される
【0067】
作業者は作業空間Sにおいて、ホイスト式クレーン40,40及びホイスト式クレーン82を用いて構内壁下部22を下床板42に降ろす。
この後、撤去された構内壁下部22は、作業空間Sを通過して、図示しない出口から地上へ搬送撤去される。
【0068】
構内壁下部22の撤去後、作業者は作業空間Sにおいて、構内壁上部21及び構内壁下部22が撤去された後の構内壁2の空隙24に、補助棒材61ではなく補助棒材62を配する。補助棒材62は補助棒材61より長い角鋼管であり、上端及び下端に固定金具60,60が配される。この固定金具60,60が空隙24の上端面及び下端面、即ち上床板11下端面及び下床板12上端面に固定されることによって、補助棒材62は既設躯体1の残部に固定される。
【0069】
補助棒材62には、アンカー5に形成してあるボルトと同様のボルトが支持棒材512,513の連結具52,52,52に対応する位置に形成してある。作業者は作業空間Sにおいて、連結具52,52,52と補助棒材62とをナット53,53,53によって連結する。
この結果、撤去された構内壁上部21及び構内壁下部22に固定されていた支持棒材511,512,513、延いては保護壁3は、既設躯体1に固定してある補助棒材62に固定される。ここで、補助棒材62には下部に突出部62aが設けてあり、保護壁3が傾斜壁部2bの形状に沿うようにしてある。
なお、補助棒材61の代わりに補助棒材62を配する構成ではなく、補助棒材61に新たな補助棒材を追加連結して補助棒材62となす構成でもよい。
【0070】
作業空間Sにおける作業が全て終了した場合、作業者は作業空間S及び軌道側から、保護壁3、支持棒材511,512,513、補助棒材61,62等を撤去する。
【0071】
以上のような地下躯体の切断撤去工法は、撤去すべき構内壁2と、縮小建築限界Wとのクリアランスが小さい(約70mmである)ときでも、保護壁3を構内壁2に近接してクリアランスの範囲内に仮設することができる。また、構内壁2を撤去しても、保護壁3の固定先を確保することができる。
更に、保護壁3によって、軌道側へのワイヤソー7の施工水、粉塵、煙等の飛散、騒音の拡散、資材の落下等を防止することができ、地下鉄構内の美観も向上させることができる。
【0072】
更にまた、ホイスト式クレーン40,40の能力に応じた適切なサイズ及び重量で、構内壁2を構内壁上部21及び構内壁下部22の縦方向2個に分割して切断撤去するため、3分割以上に分割する場合よりも工期を短縮することができる。
【0073】
なお、地下鉄の構内に限らず、例えばトンネルの拡張工事のために本発明の工法を用いてもよい。
また、本実施の形態においては、支持棒材511,512,513を鉛直壁部2a及び傾斜壁部2bに沿って断続的に固定してあるが、構内壁2の内面に沿う形状を有する1本の支持棒材を鉛直壁部2a及び傾斜壁部2bに沿って連続的に固定する構成でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法を用いて行なうプラットホームの増設工事の手順を説明するための横断面図である。
【図2】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法を用いて行なうプラットホームの増設工事の手順を説明するための横断面図である。
【図3】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法を用いて行なうプラットホームの増設工事の手順を説明するための横断面図である。
【図4】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の仮設ワイヤの巻回手順を説明する横断面図である。
【図5】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の保護壁の仮設手順を説明する横断面図である。
【図6】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の保護壁の仮設手順を説明する拡大横断面図である。
【図7】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法によって仮設された保護壁の上端部を示す拡大横断面図である。
【図8】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の支持棒材の固設手順を説明する側面図である。
【図9】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の支持棒材の固設手順を説明する拡大斜視図である。
【図10】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁上部の切断手順を説明する横断面図である。
【図11】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁上部の撤去手順を説明する横断面図である。
【図12】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁上部の撤去手順を説明する横断面図である。
【図13】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁上部の撤去手順を説明する横断面図である。
【図14】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の補助棒材による支持棒材補助手順を説明する横断面図である。
【図15】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁下部の切断手順を説明する横断面図である。
【図16】本発明に係る地下躯体の切断撤去工法の構内壁下部の撤去手順を説明する横断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 既設躯体(躯体)
2 構内壁(側壁)
2a 鉛直壁部
2b 傾斜壁部
20a,20b,20c,20d 貫通孔(孔)
21a 傾斜面
23,24 空隙
3 保護壁
5 アンカー(固定具)
511,512,513 支持棒材
52 連結具
61,62 補助棒材
7 ワイヤソー
70 切断用ワイヤ
71 仮設ワイヤ
8 滑り台
8a 傾斜面
81 壁支持具
S 作業空間(切断撤去作業可能な空間)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下に埋設された躯体の内側を保護する保護壁を前記内側に仮設し、
前記躯体の側壁を切断撤去する地下躯体の切断撤去工法において、
前記保護壁の仮設のために、前記内側から前記側壁に複数の固定具を設置し、
前記側壁の内面の形状に沿う支持棒材を、略縦方向に1又は複数かつ略水平方向に複数、前記側壁に設置した固定具に夫々着脱可能に固定し、
略水平方向に並設された複数の前記支持棒材にわたって、前記形状に沿う前記保護壁を前記内側から前記支持棒材に固定することを特徴とする地下躯体の切断撤去工法。
【請求項2】
前記側壁は、
前記内面が略鉛直である鉛直壁部と、
前記内面が前記鉛直壁部の内面から連続的に前記内側へ傾斜している傾斜壁部と
を有し、
前記鉛直壁部及び前記傾斜壁部に沿って前記支持棒材を、連続的に又は並置して固定することを特徴とする請求項1に記載の地下躯体の切断撤去工法。
【請求項3】
前記側壁の外側に切断撤去作業可能な空間を設け、
前記固定具と前記支持棒材とを固定する場合、該支持棒材に、前記固定具との連結用の連結具を固定しておき、前記支持棒材に固定されている連結具を前記固定具に着脱可能に連結し、
前記側壁の撤去前に、前記側壁に設置されている固定具と前記連結具との連結を解除し、
前記側壁を切断して前記外側へ撤去し、
前記支持棒材を補助する補助棒材を、前記側壁が撤去された後の前記躯体の空隙に配して、前記躯体の残部の上部及び下部夫々に固定し、
固定された前記補助棒材に前記連結具を連結することを特徴とする請求項1又は2に記載の地下躯体の切断撤去工法。
【請求項4】
前記保護壁の仮設前に、前記側壁に孔を形成し、
形成された孔に挿通させて仮設ワイヤを前記側壁に巻回し、
前記仮設ワイヤの巻回後、前記保護壁を前記支持棒材に固定し、
前記仮設ワイヤを用いて、前記側壁を切断する切断用ワイヤを前記側壁に巻回し、
前記切断用ワイヤを駆動するワイヤソーを用いて前記外側から前記側壁を切断することを特徴とする請求項3に記載の地下躯体の切断撤去工法。
【請求項5】
切断すべき前記側壁の下側切断面が前記外側へ下降する傾斜面となるように切断し、
該傾斜面に対応する傾斜面を上面に有する滑り台を前記外側から前記側壁に近接配置し、
前記滑り台の上面に、前記側壁の転倒防止用の壁支持具を配して前記側壁を支持し、
切断された前記側壁の下側切断面が前記上面を滑るように、前記側壁を前記外側へ牽引することを特徴とする請求項3又は4に記載の地下躯体の切断撤去工法。
【請求項1】
地下に埋設された躯体の内側を保護する保護壁を前記内側に仮設し、
前記躯体の側壁を切断撤去する地下躯体の切断撤去工法において、
前記保護壁の仮設のために、前記内側から前記側壁に複数の固定具を設置し、
前記側壁の内面の形状に沿う支持棒材を、略縦方向に1又は複数かつ略水平方向に複数、前記側壁に設置した固定具に夫々着脱可能に固定し、
略水平方向に並設された複数の前記支持棒材にわたって、前記形状に沿う前記保護壁を前記内側から前記支持棒材に固定することを特徴とする地下躯体の切断撤去工法。
【請求項2】
前記側壁は、
前記内面が略鉛直である鉛直壁部と、
前記内面が前記鉛直壁部の内面から連続的に前記内側へ傾斜している傾斜壁部と
を有し、
前記鉛直壁部及び前記傾斜壁部に沿って前記支持棒材を、連続的に又は並置して固定することを特徴とする請求項1に記載の地下躯体の切断撤去工法。
【請求項3】
前記側壁の外側に切断撤去作業可能な空間を設け、
前記固定具と前記支持棒材とを固定する場合、該支持棒材に、前記固定具との連結用の連結具を固定しておき、前記支持棒材に固定されている連結具を前記固定具に着脱可能に連結し、
前記側壁の撤去前に、前記側壁に設置されている固定具と前記連結具との連結を解除し、
前記側壁を切断して前記外側へ撤去し、
前記支持棒材を補助する補助棒材を、前記側壁が撤去された後の前記躯体の空隙に配して、前記躯体の残部の上部及び下部夫々に固定し、
固定された前記補助棒材に前記連結具を連結することを特徴とする請求項1又は2に記載の地下躯体の切断撤去工法。
【請求項4】
前記保護壁の仮設前に、前記側壁に孔を形成し、
形成された孔に挿通させて仮設ワイヤを前記側壁に巻回し、
前記仮設ワイヤの巻回後、前記保護壁を前記支持棒材に固定し、
前記仮設ワイヤを用いて、前記側壁を切断する切断用ワイヤを前記側壁に巻回し、
前記切断用ワイヤを駆動するワイヤソーを用いて前記外側から前記側壁を切断することを特徴とする請求項3に記載の地下躯体の切断撤去工法。
【請求項5】
切断すべき前記側壁の下側切断面が前記外側へ下降する傾斜面となるように切断し、
該傾斜面に対応する傾斜面を上面に有する滑り台を前記外側から前記側壁に近接配置し、
前記滑り台の上面に、前記側壁の転倒防止用の壁支持具を配して前記側壁を支持し、
切断された前記側壁の下側切断面が前記上面を滑るように、前記側壁を前記外側へ牽引することを特徴とする請求項3又は4に記載の地下躯体の切断撤去工法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−138596(P2007−138596A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334862(P2005−334862)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(593184363)コンクリート・コーリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(593184363)コンクリート・コーリング株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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