説明

地中埋設構造物浮上抑制装置

【課題】地震発生時に生ずるマンホールなどの地中埋設構造物の浮き上がり現象を地盤の安定した地中に設置したアンカーによって効果的に阻止すると共に、アンカーの設置工事の際に、アンカーの掘進に用いる回転ロッドとアンカーとの離脱をスムーズに行える様にすること。
【構成】下面に掘削刃(3)を有し、上面中央には固定対象である地中埋設構造物(15)に接続される構造物固定ロッド(13)の末端を螺合固定する為の固定ボルト(7)が突設されている底板(2)により下方開口端が閉塞され、周壁には螺旋翼(5)が取り付けられた丈の短い角筒状をなし、内径側がソケット部(9)となっているアンカー本体(1)と;前記ソケット部(9)の寸法よりわずかに小さい相似形の外径寸法を有し、ソケット部(9)に挿入可能な角筒状をなした挿入係合体(12)を長尺状の本体(16)の下端に有し、外部動力によって回転させることが出来る回転ロッド(10);とから地中埋設構造物浮上抑制装置を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は地中埋設構造物浮上抑制装置、詳しくは、地震によってマンホールなどの地中埋設構造物が浮き上がる現象を効果的に阻止出来る装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過去に発生した多くの大規模地震の際には、マンホールや地下水槽などの地中埋設構造物が地表に浮き上がる現象が発生しており、下水道、上水道などのライフラインの破壊や救援に向かう緊急自動車の通行を阻害したりする事態を招いていた。
【0003】
この地中埋設構造物の浮き上がり現象は、地盤が緩く地下水位の高いところでは、地震発生の際に、地盤内の間隙水圧が上昇して過剰間隙水圧となり、この過剰間隙水圧がマンホールなどの地中埋設構造物を押し上げることによって発生するものと考えられている。
【特許文献1】特願2006−249050
【非特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来においては、この浮き上がり現象を防ぐ為、マンホールなどの地中埋設構造物の下部や下端に、セメントミルクを注入固化して地盤との間で抵抗を得る方法が多く用いられていたが、繰り返し起こる地震によって、セメントミルクが老化剥離し、最終的には地震に耐えられなくなってしまうことが多く、十分な対策とは言えなかった。
【0005】
又、マンホールなどの地中埋設構造物の周壁の各所に、静水圧では開放されず、過剰間隙水圧が加わった際にのみ開放される過剰間隙水圧消散弁を複数個取付け、この消散弁によって過剰間隙水圧の上昇を軽減させて地中埋設構造物の浮き上がりを抑制する試みもなされているが、必ずしも十分な効果を発揮するには到っておらず、根本的な解決策とは言えなかった。
【0006】
そこで、本発明者は、地震発生時のライフライン破壊や救援車両の通行の阻げとなる地中埋設構造物の浮き上がり現象を阻止する方策を研究した結果、低コストでこの現象を効果的に阻止出来る便利な装置を開発し、特願2006−249050として提案した。この装置は、円筒状をなし、上部は蓋板によって閉塞され、下端には掘進用の掘削刃が、外周には螺旋翼がそれぞれ固定され、回転推進により地盤強度の十分な深さに定着せしめられる翼付アンカーと;下端が前記翼付アンカーの上部に固定され、上部が固定対象である地中埋設構造物に接続される構造物固定用シャフト;とからなり、翼付アンカーを地盤強度の十分な支持層まで回転推進させ、そこに定着させ、構造物固定用シャフトによってマンホールなどの地中埋設構造物と翼付アンカーとを繋ぐことにより、地中埋設構造物の浮き上がりを抑制するものである。
【0007】
しかしながら、この特願2006−249050で提案した装置においては、埋設深度が15mより深くなると、翼付きアンカーと回転ロッドとを切り離す為、回転ロッドを逆転させると、翼付きアンカーもこれに追従して逆転してしまい、切り離しが出来なくなってしまうことがあった。これは、翼付きアンカーが短躯の為、地盤中における抵抗が予想以上に小さく、係合用切欠部に小石などが詰まってしまうことに起因していることが判明した。
【0008】
本発明者は上記事態を解決すべく研究を行った結果、どんな場合でも翼付きアンカーと回転ロッドを確実に切り離すことが出来る地中埋設構造物浮上抑制装置を開発することに成功し、本発明としてここに提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
下面に掘削刃(3)を有し、上面中央には固定対象である地中埋設構造物(15)に接続される構造物固定ロッド(13)の末端を螺合固定する為の固定ボルト(7)が突設されている底板(2)により下方開口端が閉塞され、周壁には螺旋翼(5)が取り付けられた丈の短い角筒状をなし、内径側がソケット部(9)となっているアンカー本体(1)と;前記ソケット部(9)の寸法よりわずかに小さい相似形の外径寸法を有し、ソケット部(9)に挿入可能な角筒状をなした挿入係合体(12)を長尺状の本体(16)の下端に有し、外部動力によって回転させることが出来る回転ロッド(10);とから地中埋設構造物浮上抑制装置を構成することにより、又、上部は蓋板(22)によって閉塞され、下端には掘進用の掘削刃(3)が、周壁には螺旋翼(5)が固定された円筒体(23)の上部に、丈の短い角筒状をなしたソケット部(24)を固定すると共に、前記蓋板(22)の上面中央には固定対象である地中埋設構造物(15)に接続される構造物固定ロッド(13)の末端を螺合固定する為の固定ボルト(7)を突設したアンカー本体(21)と;前記ソケット部(24)の寸法よりわずかに小さい相似形の外径寸法を有し、ソケット部(24)に挿入可能な角筒状をなした挿入係合体(12)を円筒長尺状の本体(16)の下端に有し、外部動力により回転させることが出来る回転ロッド(10);とから地中埋設構造物浮上抑制装置を構成することにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0010】
アンカー本体1の四角筒状をしたソケット部9に回転ロッド10の四角筒状をした挿入係合体12が挿入されて、回転ロッド10からアンカー本体1に回転力が伝達される様になっているので、回転ロッド10を上方に引き上げればアンカー本体1のソケット部9と回転ロッド10の挿入係合体12との係合関係は簡単に解除されるので、回転ロッド10の撤去をスムーズに実施することが可能である。従って、アンカー本体1を地盤強度の十分な支持層まで回転推進させ、そこに定着させた後、回転ロッド10を撤去し、構造物固定ロッド13によってマンホールなどの地中埋設構造物15を強固に固定すれば、無排土で地中埋設構造物の浮き上がり現象を阻止することが出来、上下水道などの地震による被害の拡大を最小限に抑えることが出来る効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
アンカー本体と回転ロッドとの係合を、角筒状のソケット部とその中に挿入される挿入係合体とによって行う様にした点に最大の特徴が存する。
【実施例1】
【0012】
図1はこの発明に係る地中埋設構造物浮上抑制装置の実施例1の要部の拡大縦断面図、図2はアンカー本体1と回転ロッド10とを分離した状態の拡大斜視図、図3は同じくアンカー本体1と回転ロッド10とを結合した状態の拡大斜視図、図4は同じくアンカー本体1と回転ロッド10とを結合した状態の斜視図である。
【0013】
図1はこの発明に係る地中埋設構造物浮上抑制装置の主要構成要素であるアンカー本体であり、丈の短い四角筒状をなし、その内径側はソケット部9となっており、下方開口端は底板2によって閉塞されている。底板2には、三角形をした一対の掘削刃3が、アンカー本体1の軸芯からそれぞれ逆方向へ斜めにわずかに傾いた状態で固定されており、アンカー本体1の周壁4には螺旋翼5が周壁4に巻き付く様に固定されている。又、この螺旋翼5の前端にも掘削刃3が固定されている。なお、図中6は掘削刃3を所定の角度に保つ為の保持板である。
【0014】
又、底板2の上面中央には、固定ボルト7が突設されており、固定対象である地中埋設構造物に接続される構造物固定ロッド13の末端内径に形成されているメネジ溝8と螺合することにより、構造物固定ロッド13の末端を底板2に固定する様になっている。
【0015】
一方、10は回転ロッドであり、図示を省略した外部動力によって回転する様になっており、円筒長尺状をなした本体16の下端にはつば部11を介して丈の短い四角筒状をなした挿入係合体12が設けられている。この挿入係合体12はアンカー本体1のソケット部9に挿入係合させる為の部材であり、その外形はソケット部9の寸法よりわずかに小さい相似形をなしており、回転ロッド10を回転させたとき、挿入係合体12の周壁とソケット部9の内壁とが当接し、回転ロッド10の回転力がアンカー本体1に伝達されると共に、ソケット部9からの離脱がスムーズに行える寸法となっている。
【0016】
なお、構造物固定ロッド13の上部は図5に示す様に、固定補助具14を介してマンホールなどの地中埋設構造物15の上部周壁に固定される様になっている。又、この構造物固定ロッド13の長さは、アンカー本体1を十分に地盤強度がある所定深さに位置させることが出来るに足る寸法となっている。
【0017】
次に、この実施例1の使用方法について説明する。アンカー本体1のソケット部9に回転ロッド10の挿入係合体12を挿入してアンカー本体1と回転ロッド10とを接続し、回転ロッド10を適宜手段によって回転させて、固定すべき地中埋設構造物15近傍の地表から、十分に地盤強度のある所定深さまで無排土で回転推進させて、アンカー本体1をその位置に定着させる。
【0018】
アンカー本体1の定着が完了したなら、回転ロッド10を上方に引き上げれば、回転ロッド10の下端の挿入係合体12はアンカー本体1のソケット部9から簡単に離脱し、回転ロッド10とアンカー本体1との係合は解除される。この様に、回転ロッド10を引き抜いたなら、アンカー本体1に結合されている構造物固定用ロッド13の上部を固定補助具14を介してマンホールなどの地中埋設構造物15の上部にしっかりと固定する。
【0019】
この様に、この実施例においては、アンカー本体1の四角筒状をしたソケット部9に回転ロッド10の四角筒状をした挿入係合体12が挿入されて、回転ロッド10からアンカー本体1に回転力が伝達される様になっているので、回転ロッド10を上方に引き上げれば、アンカー本体1のソケット部9と回転ロッド10の挿入係合体12との係合関係は簡単に解除されるので、回転ロッド10の撤去をスムーズに実施することが可能である。従って、アンカー本体1を地盤強度の十分な支持層まで回転推進させ、そこに定着させた後、回転ロッド10を撤去し、構造物固定ロッド13によってマンホールなどの地中埋設構造物15を強固に固定すれば、マンホールなどの地中埋設構造物の浮き上がり現象を阻止することが出来る。
【実施例2】
【0020】
次に、図6乃至図8に基づいて、この発明の実施例2について説明する。図中23はアンカー本体21を構成する円筒体であり、上部は蓋板22によって閉塞され、下端には掘進用の掘削刃3が、周壁には螺旋翼5がそれぞれ固定されている。そして、この円筒体23の上部には蓋板22を介して丈の短い四角筒状をしたソケット部24が固定されており、蓋板22の上面中央には固定対象である地中埋設構造物15に接続される構造物固定ロッド13の末端を螺合固定する為の固定ボルト7が突設されている。
【0021】
一方、10は回転ロッドであり、図示を省略した外部動力によって回転する様になっており、円筒長尺状をなした本体16の下端にはつば部11を介して丈の短い四角筒状をなした挿入係合体12が設けられている。この挿入係合体12はアンカー本体21のソケット部24に挿入係合させる為の部材であり、その外形はソケット部24の寸法よりわずかに小さい相似形をなしており、ソケット部24への挿入離脱がスムーズに行える寸法となっている。
【0022】
なお、構造物固定ロッド13の上部は実施例1の場合と同様、固定補助具14を介してマンホールなどの地中埋設構造物15の上部周壁に固定される様になっている。又、この構造物固定ロッド13の長さは、アンカー本体21を十分に地盤強度がある所定深さに位置させることが出来るに足る寸法となっている。
【0023】
次に、この実施例2の使用方法について説明する。アンカー本体21のソケット部24に回転ロッド10の挿入係合体12を挿入してアンカー本体21と回転ロッド10とを接続し、回転ロッド10を適宜手段によって回転させて、固定すべき地中埋設構造物15近傍の地表から、十分に地盤強度のある所定深さまで無排土で回転推進させて、アンカー本体21をその位置に定着させる。
【0024】
アンカー本体21の定着が完了したなら、回転ロッド10を上方に引き上げれば、回転ロッド10の下端の挿入係合体12はアンカー本体21のソケット部24から簡単に離脱し、回転ロッド10とアンカー本体21との係合は解除される。回転ロッド10を引き抜き、アンカー本体21に結合されている構造物固定ロッド13の上部を固定補助具14を介してマンホールなどの地中埋設構造物15の上部にしっかりと固定する。
【0025】
この様に、この実施例においては、アンカー本体21の四角筒状をしたソケット部24に回転ロッド10の四角筒状をした挿入係合体12が挿入されて、回転ロッド10からアンカー本体21に回転力が伝達される様になっているので、回転ロッド10を上方に引き上げれば、アンカー本体21のソケット部24と回転ロッド10の挿入係合体12との係合関係は簡単に解除されるので、回転ロッド10の撤去をスムーズに実施することが可能である。従って、アンカー本体21を地盤強度の十分な支持層まで回転推進させ、そこに定着させた後、回転ロッド10を撤去し、マンホールなどの地中埋設構造物15を強固に固定すれば、マンホールなどの地中埋設構造物の浮き上がり現象を阻止することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0026】
水槽やマンホール、その他地中埋設構造物一般に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明に係る地中埋設構造物浮上抑制装置の実施例1の要部の拡大縦断面図。
【図2】同じく、アンカー本体1と回転ロッド10とを分離した状態の拡大斜視図。
【図3】同じく、アンカー本体1と回転ロッド10とを結合した状態の拡大斜視図。
【図4】同じく、アンカー本体1と回転ロッド10とを結合した状態の斜視図。
【図5】実際に、実施例1を地中埋設構造物の固定に用いた状態の説明図。
【図6】実施例2の要部の拡大縦断面図。
【図7】同じく、アンカー本体21と回転ロッド10とを分離した状態の拡大斜視図。
【図8】同じく、アンカー本体21と回転ロッド10とを結合した状態の拡大斜視図。
【符号の説明】
【0028】
1 アンカー本体
2 底板
3 掘削刃
4 周壁
5 螺旋翼
6 保持板
7 固定ボルト
8 メネジ溝
9 ソケット部
10 回転ロッド
11 つば部
12 挿入係合体
13 構造物固定ロッド
14 固定補助具
15 地中埋設構造物
16 本体
21 アンカー本体
22 蓋板
23 円筒体
24 ソケット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下面に掘削刃(3)を有し、上面中央には固定対象である地中埋設構造物(15)に接続される構造物固定ロッド(13)の末端を螺合固定する為の固定ボルト(7)が突設されている底板(2)により下方開口端が閉塞され、周壁には螺旋翼(5)が取り付けられた丈の短い角筒状をなし、内径側がソケット部(9)となっているアンカー本体(1)と;前記ソケット部(9)の寸法よりわずかに小さい相似形の外径寸法を有し、ソケット部(9)に挿入可能な角筒状をなした挿入係合体(12)を長尺状の本体(16)の下端に有し、外部動力によって回転させることが出来る回転ロッド(10);とからなることを特徴とする地中埋設構造物浮上抑制装置。
【請求項2】
上部は蓋板(22)によって閉塞され、下端には掘進用の掘削刃(3)が、周壁には螺旋翼(5)が固定された円筒体(23)の上部に、丈の短い角筒状をなしたソケット部(24)を固定すると共に、前記蓋板(22)の上面中央には固定対象である地中埋設構造物(15)に接続される構造物固定ロッド(13)の末端を螺合固定する為の固定ボルト(7)を突設したアンカー本体(21)と;前記ソケット部(24)の寸法よりわずかに小さい相似形の外径寸法を有し、ソケット部(24)に挿入可能な角筒状をなした挿入係合体(12)を円筒長尺状の本体(16)の下端に有し、外部動力により回転させることが出来る回転ロッド(10);とからなることを特徴とする地中埋設構造物浮上抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−240314(P2008−240314A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80906(P2007−80906)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(592198404)千代田工営株式会社 (25)
【Fターム(参考)】