説明

地中探査装置

【課題】埋設物からの微弱な反射波の識別性に優れた地中探査装置を提供する。
【解決手段】地中探査装置100は、地表面を移動する台車10と、台車10に搭載され地中に探査用電磁波を放射する送信アンテナ11と、送信アンテナ11と異なる距離離間して台車10にそれぞれ搭載され埋設物からの反射波を受信する第1及び第2の受信アンテナ(12,13)と、両受信アンテナの受信信号をそれぞれ記憶するバッファメモリ21と、記憶された少なくとも一方の受信信号から埋設物の深度を算出する深度算出回路24と、両受信信号を比較し、台車10の移動方向距離と深度の両者に基づいて受信信号の埋設物同定を行う同定回路22と、同定された埋設物の両受信信号の台車移動方向偏差を深度値から補正する補正回路23と、補正された両受信信号を合成する合成表示回路25と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に探査用電磁波を放射して埋設物からの反射波を受信することにより埋設物を探査する地中探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の地中探査装置においては、探査用電磁波を送信アンテナから地中に向けて放射し、探査用電磁波が土砂と電気的性質の異なる埋設物との境界面で反射され、反射波が受信アンテナに到達するまでの伝搬時間から反射物体までの距離を求め、地中探査装置が地表を移動することにより所望の地中画像を得ている。
【0003】
この地中画像は、一つの受信アンテナにより受信された受信信号に基づいて形成されるため、地表による反射やその表面に沿う漏洩による干渉電磁波の影響により、小形状の埋設物からの微弱な反射波を識別するには限界があった。
【0004】
このような問題を解決するために特許文献1には、複数の受信アンテナを送信アンテナの中心線に対して左右が線対称となるように配置し、干渉電磁波の影響を低減して埋設物からの微弱な反射波を識別する技術が開示されている。
【0005】
また、埋設物の深度を正確に測定するためには地中の比誘電率を正確に測定する必要があるため、特許文献2には二つの受信アンテナを用いて地中の比誘電率を正確に測定し、埋設物の深度を測定する技術が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−166977号公報
【特許文献2】特開平11−84020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術は、二つの受信アンテナの中央に送信アンテナを配置して埋設物から両方向への反射波を両受信アンテナが受信し、二つの地中画像を作成して重ね合わせることで小形状の埋設物の識別を可能としている。
【0008】
特許文献1に示される装置は、送信アンテナから二つの受信アンテナまでの経路の長さが同じであるため、両受信信号を単純に加算して埋設物からの信号を雑音や干渉電磁波から識別容易であるという利点を有する。しかしながら、一方で受信アンテナの配置を送信アンテナに対して偏在させたことによる効果を得ることができないという欠点があった。
【0009】
例えば特許文献2に示されているように、送信アンテナ及び二つの受信アンテナを水平方向に一直線上で所定距離離間して配置する地中探査装置により、埋設物の正確な深度及び比誘電率を測定することが可能であるが、特許文献1の従来技術ではこのような測定が不可能であった。
【0010】
しかしながら、特許文献2の従来技術では、送信アンテナから二つの受信アンテナまでのおのおの経路の長さが異なるため、送信アンテナから放射された探査用電磁波が同一埋設物で反射し、受信アンテナにてそれぞれ受信される経路及び角度が異なる。このため、得られた地中画像における埋設物の表示位置が異なり、そのままでは重ねて表示することができないという別の問題があった。
【0011】
そこで、本発明に係る地中探査装置は、特許文献1に示されるような小形状の埋設物の重ね合わせによる識別機能を維持しながら、特許文献2で示される正確な深度を測定する機能の二つを併せ持つ地中探査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上のような目的を実現するために、本発明に係る地中探査装置は、地表面を移動する台車と、台車に搭載され地中に探査用電磁波を放射する送信アンテナと、送信アンテナと異なる距離離間して台車にそれぞれ搭載され埋設物からの反射波を受信する第1及び第2の受信アンテナと、両受信アンテナの受信信号をそれぞれ記憶するバッファメモリと、少なくとも一方の受信信号に基づいて深度を算出する深度算出回路と、両受信信号を比較し、台車の移動方向距離と深度の両者に基づいて受信信号の埋設物同定を行う同定回路と、同定された埋設物の両受信信号の台車移動方向偏差を深度値から補正する補正回路と、補正された両受信信号を合成する合成表示回路と、を備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る地中探査装置において、合成表示回路は、補正された両受信信号の和演算にて合成することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る地中探査装置において、合成表示回路は、補正された両受信信号の差演算にて合成することを特徴とする。
【0015】
さらにまた、本発明に係る地中探査装置において、合成表示回路は、補正された両受信信号の積演算にて合成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いると、 小形状の埋設物の識別機能を維持しながら、正確な深度を測定する機能の二つを併せ持つ地中探査装置を提供することをが可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0018】
図1には地中探査装置100の全体構成が示されている。地中探査装置100は、車輪31によって地表面を移動する台車10と、台車10の移動方向と移動距離とを検出するロータリエンコーダ14と、台車10に搭載され地中に探査用電磁波を放射する送信アンテナ11と、送信アンテナ11と異なる距離離間して台車10にそれぞれ搭載され埋設物からの反射波を受信する第1及び第2の受信アンテナ(12,13)と、制御部15と、を含んでいる。
【0019】
制御部15は、両受信アンテナ(12,13)の受信信号をそれぞれ記憶するバッファメモリ21と、記憶された少なくとも一方の受信信号から埋設物の深度を算出する深度算出回路24と、両受信信号を比較し、台車10の移動方向距離と深度の両者に基づいて受信信号の埋設物同定を行う同定回路22と、同定された埋設物の両受信信号の台車移動方向偏差を深度値から補正する補正回路23と、補正された両受信信号を合成する合成表示回路25と、操作スイッチ26と、を備えている。
【0020】
なお、合成表示回路25は、操作スイッチ26からの入力に応じて後述する演算表示を実行し、操作者に対して埋設物に関する様々な情報を提供する。
【0021】
図2は、地中探査装置100が地表面に沿って埋設管40の上を移動する場合の探査用電磁波の伝達経路を示している。地中探査装置100には、送信アンテナ11と受信アンテナ1(12)が距離a離間して配置されており、送信アンテナ11と受信アンテナ2(13)は距離“a+b”離間して配置されている。図2(A)は装置100が測定スタート点から距離X移動して埋設管40の上に移動した状態を示しており、図2(B)は進行方向に装置100が距離c移動(X+c)した状態を示している。
【0022】
図2(A)の状態では送信アンテナ11から放射された探査用電磁波が埋設管40の境界面で反射して受信アンテナ13にT2時間で到達する。以下、この伝達経路を平行型2という。図2(B)の状態では送信アンテナ11から放射された探査用電磁波が埋設管40の境界面で反射して受信アンテナ12にT1時間で到達する。以下、この伝達経路を平行型1という。装置100は、送受信アンテナ(11,12,13)の離間距離と、到達時間T2,T1と、に基づいて特許文献2の公知技術で算出した比誘電率から埋設管40の深度dを算出する。なお、比誘電率と深度dの算出方法の説明は省略する。
【0023】
図3には、地中探査装置100によって得られた地中画像を示し、地中画像を受信アンテナ(12,13)の設置位置により補正する処理の概要が示されている。なお、受信アンテナ(12)で得られた平行型1における同一埋設物のエコーを破線で示し、受信アンテナ(13)で得られた平行型2における同一埋設物のエコーを実線で示す。
【0024】
図3の地中画像に示されるように、深度は同じであるが、エコーの表示位置と形状とは一致しない。これは、送受信アンテナの離間距離によるものである。そこで、本実施形態では平行型1と平行型2で得られた地中画像から同一深度の同一埋設物のエコーを探す処理を同定回路22で実行する。同定回路22によって得られた同一埋設物のエコーは次に示す処理により補正される。
【0025】
受信アンテナ13を基準とし、受信アンテナ13から平行型1における同一埋設物のエコー(破線)までの距離は“b+a/2”であり、受信アンテナ13から平行型2における同一埋設物のエコー(実線)までの距離は“(a+b)/2”である。二つのエコーのオフセット距離は“b/2”であるので、この水平方向オフセットを与えることにより同一埋設物のエコーは一致する。本実施形態では、水平方向オフセット処理を補正回路23で実行している。
【0026】
図4は、地中探査装置100で得られた地中画像のエコー合成イメージを示している。受信アンテナR1(12)によるエコーと受信アンテナR2(13)によるエコーから上述した同定回路22にて同一埋設物のエコーを同定し、補正回路23にて水平方向オフセットを与えて補正する。さらに、合成表示回路25はエコーの重ね合わせ表示をする。
【0027】
図5には、地中探査装置100によって得られた(A)平行型1と(B)平行型2の受信信号を用いた演算表示(C,D)を示している。また、地中画像の中の4本の矢印は埋設管の位置を示し、近接した2本の埋設管とその他2本の埋設管とのエコーが示されている。
【0028】
合成表示回路25による演算表示は、重なり合った平行型1と平行型2の二つの受信信号の各データを演算することにより二つの画像間で相関のあるデータを強調するものである。例えば図5に示す(C)和演算は、平行型1と平行型2の和を取る演算であり、アベレージング効果により滑らかな画像が得られる。図5(C)の和演算において近接した2本の埋設管からのエコーが強調され、歪んだエコーとして表示されていることが分かる。
【0029】
図5に示す(D)差演算は、平行型1と平行型2との差分を求める演算であり、相関性のあるデータが弱まり、ノイズ性のデータが強まる。このため、差演算においてノイズ性の異常データがない場合は正常な測定であることがわかる。このように差演算は、測定結果を評価する場合に用いられ、データ検証用として使用される。
【0030】
図6には、地中探査装置100によって測定された受信信号による空洞や埋設管の強調処理結果が示されている。図6に示す(E)積演算は、平行型1と平行型2の積を求める演算であり、相関性のあるデータを明瞭にする。また、他の積演算と区別するため(単純)と示した。図6に示す(F)積演算(負極性)は、平行型1と平行型2の負極性データのみを積し、演算結果に“−1”を積することにより、空洞反射などが明瞭になる。これは例えば地中探査装置100において、空洞からの反射波は負極を示すことが多く、逆に埋設管からは正極の反射波が得られることから、このような演算を施すことにより空洞を際だたせることが可能となる。
【0031】
図6に示す(G)積演算(正極性)は、平行型1と平行型2の正極性データのみを積することで埋設管反射などを明瞭にする。また、(H)積演算(両極性)は、(F)積演算(負極性)と(G)積演算(正極性)の和を取ることにより、空洞反射と埋設管反射とを明瞭にする。
【0032】
なお、地中の比誘電率が非均一な場合や電磁波の伝達経路が図2又は図3に示した単純モデリング通りにならない場合があるため、二つの地中画像の同一埋設物のエコーが同定処理や補正処理を用いても画像ずれが発生する。そこで、本実施形態では、例えば積演算(正極性又は両極性)を得た後に、再度、同定回路22にてエコーのピークが最大となる位置を見つけて、後段の補正回路23により再補正する。この処理により、地中画像ぼけに対応することが可能となる。なお、このような再同定及び再補正は、自動的に処理してもよいし手動により処理を開始してもよい。
【0033】
以上、上述したように、本実施形態に係る地中探査装置を用いることにより、小形状の埋設物の識別機能と、正確な深度を測定する機能との二つを併せ持つ地中探査装置を提供することが可能となる。
【0034】
なお、本実施形態では、単一の平行型1と平行型2との受信信号を利用したエコー合成表示の流れを示したが、これに限定するものではなく、複数回測定した平行型1と平行型2との受信信号を利用することも可能である。その場合、単一の受信信号を利用した場合に比べて、土砂などの媒質の非均一性による誤差を小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係る地中探査装置の全体構成図である。
【図2】電磁波の伝達経路を説明する。
【図3】地中画像を受信アンテナの設置位置により補正する概要を示す概要図である。
【図4】地中画像の合成イメージ図である。
【図5】地中探査装置によって得られた演算表示のイメージ図である。
【図6】地中探査装置によって得られた演算表示のイメージ図である。
【符号の説明】
【0036】
10 台車、11 送信アンテナ、12 受信アンテナ、13 受信アンテナ、14 ロータリエンコーダ、15 制御部、21 バッファメモリ、22 同定回路、23 補正回路、24 深度算出回路、25 合成表示回路、26 操作スイッチ、31 車輪、40 埋設管、100 地中探査装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面を移動する台車と、台車に搭載され地中に探査用電磁波を放射する送信アンテナと、送信アンテナと異なる距離離間して台車にそれぞれ搭載され埋設物からの反射波を受信する第1及び第2の受信アンテナと、
両受信アンテナの受信信号をそれぞれ記憶するバッファメモリと、
少なくとも一方の受信信号に基づいて深度を算出する深度算出回路と、
両受信信号を比較し、台車の移動方向距離と深度の両者に基づいて受信信号の埋設物同定を行う同定回路と、
同定された埋設物の両受信信号の台車移動方向偏差を深度値から補正する補正回路と、
補正された両受信信号を合成する合成表示回路と、
を備えることを特徴とする地中探査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地中探査装置において、
合成表示回路は、補正された両受信信号の和演算にて合成することを特徴とする地中探査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の地中探査装置において、
合成表示回路は、補正された両受信信号の差演算にて合成することを特徴とする地中探査装置。
【請求項4】
請求項1に記載の地中探査装置において、
合成表示回路は、補正された両受信信号の積演算にて合成することを特徴とする地中探査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−263882(P2007−263882A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92040(P2006−92040)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成14年度、経済産業省、地方都市ガス事業天然ガス化促進対策調査(経年内管対策更新技術開発)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【出願人】(000196680)西部瓦斯株式会社 (47)
【Fターム(参考)】