説明

地中連続壁接合面の洗浄装置及び地中連続壁接合面の洗浄方法

【課題】地中連続壁を構成する先行エレメントの、後行エレメントとの接合面を確実に洗浄する。
【解決手段】洗浄装置1は、接合面42に沿って上下動する本体11と、本体11に設けられ、その毛先を接合面42に当接させるとともに、本体11に対して回転するブラシ13と、ブラシ13を回転させる回転手段12と、を備え、毛先が接合面42に当接した状態のとき、ブラシ13の回転軸は接合面42に対し略垂直となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中連続壁の接合面を洗浄するための装置と、地中連続壁の接合面を洗浄する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中連続壁は、溝中に設けた先行エレメントに後行エレメントを継ぎ足す工程を繰り返すことにより構築される。その際、先行エレメントの接合面に、溝を掘削した際の泥等がスライムとなって付着する。先行エレメントと後行エレメントとの間に隙間が生じにくい高品質の地中連続壁を構築するためには、後行エレメントを構築する前に、先行エレメントの接合面に付着しているスライムを除去する必要がある。
【0003】
スライムを除去する方法としては、従来、接合面を形成する掘削機を利用したものが知られている。具体的には、この掘削機(12)の回転ドラム(10)に取り付けられているカッター(22)は着脱可能となっている。そして、カッターをはずした回転ドラムには、カッターの代わりにブラシ(26)を取り付けることが可能となっている(特許文献1参照)。この掘削機によって接合面(16)を形成した後、回転ドラムのカッターをブラシに付け替える。そして、回転ドラムを回転させながら、接合面に沿って掘削機を下降させることにより、接合面の洗浄が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−172668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、掘削機を用いたこの方法では、ブラシの回転軸がエレメントの厚さ方向を向くので、接合面とブラシの接点において、ブラシの移動方向及びブラシの回転方向が共に下向きになる。このため、ブラシはスライムを上下方向に直線状にこすり落としていくが、ブラシの毛先と毛先との間にはある程度の間隔があるので、接合面にスライムが直線状に残ってしまうおそれがある。
【0006】
本発明の課題は、地中連続壁を構成する先行エレメントの、後行エレメントとの接合面を確実に洗浄することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、地中連続壁を構成する先行エレメントの、後行エレメントとの接合面に付着したスライムを除去する地中連続壁接合面の洗浄装置であって、前記接合面に沿って上下動する本体と、前記本体に設けられ、その毛先を前記接合面に当接させるとともに、前記本体に対して回転するブラシと、前記ブラシを回転させる回転手段と、を備え、前記毛先が前記接合面に当接した状態のとき、前記ブラシの回転軸は前記接合面に対し略垂直となることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の地中連続壁接合面の洗浄装置であって、前記ブラシが、前記地中連続壁の厚さ方向に複数並べて設けられることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の地中連続壁接合面の洗浄装置であって、前記接合面に高圧の水を吹きかける噴射装置を更に備えることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の地中連続壁接合面の洗浄装置であって、前記接合面に設けられる止水用の鋼材に係合するとともに、前記鋼材に対し上下動可能な被ガイド部を更に備え、前記鋼材をガイドにして上下方向に移動することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、地中連続壁を構成する先行エレメントの、後行エレメントとの接合面に付着したスライムを除去する地中連続壁接合面の洗浄方法であって、前記接合面にブラシの毛先を当接させ、前記ブラシを、その回転軸が前記接合面に対し略垂直となるように回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、地中連続壁を構成する先行エレメントの、後行エレメントとの接合面を確実に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した一実施形態における洗浄装置を示す上面図である。
【図2】図1の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
図1は、本発明を適用した一実施形態の構成を示すもので、1は洗浄装置、2は地山、3は溝、4は先行エレメントである。
【0015】
溝3は、地山2を掘削することにより形成されたもので、その内部には地中連続壁が構築される。溝3の深さは、地中連続壁の高さとほぼ等しく、溝3の幅は、地中連続壁の厚さよりやや大きくなっている。溝3の内部は、地山2の崩壊を防ぐための安定液(図示省略)で満たされている。
【0016】
先行エレメント4は、溝3の内部に設けられ、地中連続壁の一部を構成するものである。すなわち、この先行エレメント4に連続するように後行エレメントが複数設けられることにより地中連続壁が構築される。先行エレメント4は、溝3の内部に鉄筋籠41を組み、鉄筋籠41に固定された左右一対の仕切鋼板42(一方は図示省略)と、両仕切鋼板42の間に張られた前後一対のシート43とによって囲まれた空間にコンクリートを打設することにより設けられている。先行エレメント4の端部では仕切鋼板42が露出し、その表面が後で設けられる後行エレメントの方向を向いている。この仕切鋼板42の表面が、先行エレメント4の、後行エレメントとの接合面である。仕切鋼板42の表面には、溝3の掘削などで生じた泥がスライムとなって付着している。
【0017】
仕切鋼板42には、ガイド鋼材44が取り付けられている。ガイド鋼材44は、洗浄装置1の上下動をガイドするH形鋼で、ウェブ44a及びフランジ44b,44cからなる。ガイド鋼材44は、仕切鋼板42に沿って鉛直に、且つ仕切鋼板42の中心を通るように立てられている。そして、一方のフランジ44bが、外面を鋼板に当接させた状態で仕切鋼板42に溶接され、仕切鋼板42とフランジ44bとの間は完全に塞がれている。また、このガイド鋼材44は、地中連続壁の構築後、止水材としての役割も果たす。つまり、後行エレメント構築後、仕切鋼板42と後行エレメントのコンクリートとの間に僅かな隙間ができた場合に、ガイド鋼材44が隙間に浸入した高圧の地下水を迂回させるので、地下水が地中連続壁の反対側に漏れにくくなる。
【0018】
次に、洗浄装置1の具体的構成について説明する。
洗浄装置1は、仕切鋼板42の表面、すなわち、先行エレメント4の、後行エレメントとの接合面を洗浄するもので、本体11、モータ12、ブラシ13、噴射装置14等を備えている。
【0019】
本体11は、図1、図2に示したように、被ガイド部11a、吊下部11b、モータ支持部11c等からなる。被ガイド部11aは、扁平な角筒状の鋼材である。被ガイド部11aの長手方向の両端は開口している。被ガイド部11a内部の空間は、フランジ44cが納まる程度の大きさを有している。被ガイド部11aの正面には、その中心を通り、被ガイド部11aの長手方向に沿うようにスリット11dが形成され、両端の開口と繋がっている。スリット11dは、ウェブ44aの厚さよりも幅広く形成されている。吊下部11bは、被ガイド部11aの背面上部から左右に延びるように設けられている。吊下部11bの左右両側には孔11eがそれぞれ形成されている。モータ支持部11cは、被ガイド部11a背面下部から、その背面に対し垂直に取り付けられた2本のH形鋼である。モータ支持部11cの左右両側には、モータ12を取り付けるための取り付け部材11fが取り付けられている。
【0020】
回転手段であるモータ12は、モータ支持部11cの左右両側方に、取り付け部材11fによってそれぞれ取り付けられている。各モータ12のシャフトは、仕切鋼板42に対向するとともに、その回転軸が仕切鋼板42の表面に対し垂直となる方向を向いている。各モータ12には、コード(図示省略)の一端がそれぞれ接続されている。コードは地上まで延び、その他端がコントローラ(図示省略)に接続されている。各モータ12の回転速度や回転方向は、地上のコントローラによって自由に変更できるようになっている。
【0021】
ブラシ13は、各モータ12のシャフトにそれぞれ取り付けられている。ブラシ13は、回転板13aにブラシ毛13bを複数植えつけたものである。回転板13aは、その直径が仕切鋼板42の側端からガイド鋼材44までの距離とほぼ等しい円形をしている。そして、回転板13aの中心にシャフトの差込口が設けられている。ブラシ毛13bは、細い鋼線をより合わせたもので、回転板13aに垂直に植えつけられている。各ブラシ毛13bの長さは全て等しく、その毛先がほぼ同一面上に揃えられている。
【0022】
噴射装置14は、管14a、ホース14b、図示しないポンプ(図示省略)等からなる。管14aは、図2に示したように、各ブラシ13の上方を横断するように設けられている。管14aの各ブラシ13の付近には、仕切鋼板42の方向へ向かって噴射口14cが複数形成されている。管14aの両端は塞がれ、その中央にはホース14bの一端が接続されている。ホース14bは地上まで延び、その他端がポンプに接続されている。ポンプから管14aに高圧の水を供給することにより、噴射口14cから仕切鋼板42の方向へ向かって水が勢いよく噴射されるようになっている。
【0023】
次に、洗浄装置1による、仕切鋼板42の洗浄方法について説明する。
本体11の孔11eにクレーンのフックを掛け、洗浄装置1をクレーンで吊り上げる。そして、図1に示したように、フランジ44cの上端を、被ガイド部11aの下端から被ガイド部11aの内部に入り込ませ、スリット11dにウェブ44aを通すことにより、洗浄装置1をガイド鋼材44に係合させる。そのまま、洗浄装置1を下降させ、溝3の安定液中に沈めていく。すると、ブラシ13の毛先が仕切鋼板42の上部に当接する。
【0024】
そして、モータ12を作動させることによりブラシ13を回転させる。そして、ブラシ13を回転させたまま洗浄装置1を更に下降させる。すると、ブラシ13が、仕切鋼板42の表面に当接しながら回転し、仕切鋼板42の表面に付着したスライムをこすり落としていく。この間、洗浄装置1が揺れ動いて仕切鋼板42から離れそうになっても被ガイド部11aがフランジ44cに引っかかるので、ブラシ13が仕切鋼板42に当接した状態が保たれる。
【0025】
ブラシ13の回転開始と平行して、噴射装置14による水の噴射を開始する。噴射装置14は、ブラシ13が通り過ぎた後の仕切鋼板42の表面に高圧の水を噴射していく。こうして、こすられた後もなお仕切鋼板42の表面に残るスライムが高圧の水によって吹き飛ばされる。洗浄装置1が溝3の底まで達したところでブラシ13の回転、噴射装置14による水の噴射を止め、洗浄装置1を引き上げる。必要であれば、ブラシ13を回転させながら洗浄装置1を引き上げる。こうすることにより、仕切鋼板42の表面からスライムが除去される。
【0026】
この洗浄装置1によれば、ブラシ13が、上下動するとともに、接合面から見て時計回りまたは反時計回りに回転するので、仕切鋼板42の表面がブラシ13によって縦横に満遍なくこすられ、仕切鋼板42表面のスライムが残らずこすり落とされる。従って、仕切鋼板42の表面、すなわち、先行エレメント4の、後行エレメントとの接合面を確実に洗浄することができる。そして、この洗浄装置1によって仕切鋼板42の表面を洗浄した後に後行エレメントを設ければ、仕切鋼板42とコンクリートとの間に隙間が生じにくい高品質の地中連続壁を構築することができる。
【0027】
また、ブラシ13を先行エレメント4の厚さに合わせて複数設けることにより、洗浄装置1を一度下降させるだけで仕切鋼板42の表面の洗浄を終えることができる。
また、ブラシ13でこすった後の仕切鋼板42の表面に高圧の水を噴射することにより、ブラシ13でこすった後もなお仕切鋼板42の表面に残るスライムを吹き飛ばし、仕切鋼板42の表面をより確実に洗浄することができる。
また、ガイド鋼材44をガイドに用いることにより、ブラシ13が仕切鋼板42の表面に当接した状態を確実に保持することができる。
【0028】
なお、以上の実施形態においては、地中連続壁の接合面を鋼板としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、コンクリート面であっても良い。
また、上下方向にもブラシを複数設ける、ギア等を用いて一つのモータで複数のブラシを回転させる、駆動装置を設けて自動昇降させる等も任意であり、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
1 洗浄装置
11a 被ガイド部
12 モータ(回転手段)
13 ブラシ
14 噴射装置
2 地山
3 溝
4 先行エレメント(地中連続壁)
42 仕切鋼板(接合面)
44 鋼材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中連続壁を構成する先行エレメントの、後行エレメントとの接合面に付着したスライムを除去する地中連続壁接合面の洗浄装置であって、
前記接合面に沿って上下動する本体と、
前記本体に設けられ、その毛先を前記接合面に当接させるとともに、前記本体に対して回転するブラシと、
前記ブラシを回転させる回転手段と、を備え、
前記毛先が前記接合面に当接した状態のとき、前記ブラシの回転軸は前記接合面に対し略垂直となることを特徴とする地中連続壁接合面の洗浄装置。
【請求項2】
前記ブラシが、前記地中連続壁の厚さ方向に複数並べて設けられることを特徴とする請求項1に記載の地中連続壁接合面の洗浄装置。
【請求項3】
前記接合面に高圧の水を吹きかける噴射装置を更に備えることを特徴とする請求項1または2に記載の地中連続壁接合面の洗浄装置。
【請求項4】
前記接合面に設けられる止水用の鋼材に係合するとともに、前記鋼材に対し上下動可能な被ガイド部を更に備え、
前記鋼材をガイドにして上下方向に移動することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の地中連続壁接合面の洗浄装置。
【請求項5】
地中連続壁を構成する先行エレメントの、後行エレメントとの接合面に付着したスライムを除去する地中連続壁接合面の洗浄方法であって、
前記接合面にブラシの毛先を当接させ、
前記ブラシを、その回転軸が前記接合面に対し略垂直となるように回転させることを特徴とする地中連続壁接合面の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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