説明

地中防振壁の施工方法

【課題】地中防振壁の施工に際し、埋め戻し後の地盤転圧が十分にできない場合であっても、施工後、速やかに防振壁による防振効果を発揮させることができる、地中防振壁の施工方法を提案すること。
【解決手段】地面2を掘削して凹部3を形成する過程と、該凹部3に、表面に開口する多数の空隙を有し、密度が10〜50kg/m3 の熱可塑性樹脂発泡体からなる防振材1を挿入配置する過程と、上記凹部3と上記防振材1の隙間5,6に、土砂にセメントを混合してなる埋め戻し材7を充填して埋め戻す過程とを含む地中防振壁の施工方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車道や鉄道から地面を伝わってくる振動を低減するために、それらの施設の周辺に設置される地中防振壁に関し、特に、その地中防振壁の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車道や鉄道に隣接する地盤には、自動車や列車の走行に伴う振動が地面を介して伝わり、近隣の住宅やマンションの住民、あるいは学校や病院の人から苦情が出されることがある。これを防止するために、種々の防振方法が提案されている。
【0003】
車道や鉄道から地面を伝わってくる振動を防止する最も簡単な方法は、それらの施設の周囲に深い溝を設けることである。地面の硬さと空気の硬さとは大きく違うので、地面と空気の境界で振動の透過率を小さくできる。
【0004】
しかしながら、現実には、振動防止のための恒久的な溝を設けることはできず、地面を平らにする必要がある場合が多い。このために、溝を掘り、その中を柔らかい物で充填し、埋め戻すことが提案され、実行されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂発泡体片を結合して形成した、直方体あるいは柱状等の形状を有する防振材を、道路等に沿って、線状に掘った穴、あるいは千鳥状に掘った穴に挿入し、土砂等で埋め戻すことが提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−188264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、地中防振壁による交通振動の低減は、種々試みられており、その多くの場合、防振材として発泡合成樹脂やゴム材が用いられている。そして、特許文献1の施工方法のように、地中防振壁の施工方法は、一般的には、先ず地面を必要量掘削し、その穴に防振材を埋設し、掘削した穴と防振材との隙間を土砂等で埋め戻し、その後、振動ローラ等の転圧作業用重機を用いて転圧している。
【0008】
しかしながら、地中防振壁の施工は、道路脇等の狭く限られた場所で行われることが多く、上記したような転圧作業用重機が使用できずに、小型タンパー等の小型機械による転圧しかできない場合が多いことから、転圧が不十分なものになりやすい。さらに、防振材と埋め戻し材との境界付近では、転圧を行うと防振材を破損してしまう虞があるため、狭小地においては、転圧すること自体が難しくなる。ここで、地中の振動の伝播においては、十分に転圧されていない軟弱な地盤では、振動がその箇所で増幅されることが多く、特に、工事直後においては、転圧が不十分であることにより、地中防振壁の振動防振効果が十分に発揮されず、周辺住民から苦情が出る場合が少なくない。
【0009】
本発明は、上述したような地中防振壁の施工に際し、埋め戻し後の地盤転圧が十分にできない場合であっても、施工後、速やかに防振壁による防振効果を発揮させることができる、地中防振壁の施工方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決するため、請求項1の地中防振壁の施工方法は、地面を掘削して凹部を形成する過程と、該凹部に、表面に開口する多数の空隙を有し、密度が10〜50kg/m3 の熱可塑性樹脂発泡体からなる防振材を挿入配置する過程と、上記凹部と上記防振材の隙間に、土砂にセメントを混合してなる埋め戻し材を充填して埋め戻す過程とを含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2の地中防振壁の施工方法は、上記請求項1の発明において、上記防振材が、複数の熱可塑性樹脂発泡体片を結合してなる成形体からなり、空隙率が10〜60%であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3の地中防振壁の施工方法は、上記請求項2の発明において、上記防振材が、最長部分の長さが5〜50mmである非球状の複数のスチレン系樹脂発泡チップによる型内発泡成形体であることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4の地中防振壁の施工方法は、上記請求項1〜3のいずれかの発明において、上記埋め戻し材が、土砂1m3に対してセメントを50〜200kg混合してなることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5の地中防振壁の施工方法は、上記請求項1〜4のいずれかの発明において、上記土砂が、現地掘削土であることを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項6の地中防振壁の施工方法は、上記請求項1〜5のいずれかの発明において、上記地面に形成する凹部の幅が、1〜2.5mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上記した請求項1の本発明によれば、凹部と防振材との隙間に、土砂にセメントを混合してなる埋め戻し材を充填して埋め戻すため、埋め戻し後の地盤の転圧を十分に行えない場合であっても、防振材の周囲が短時間で硬化するので、確実に防振効果が得られ、特に、防振工事をした直後からその効果を得ることができる。また、施工後の余り地盤の締め固めが進んでいない時期の大雨により地盤が緩んでも、既に地盤が硬化しているので、そのようなときに起こりがちな振動の増幅現象も起こらない。
【0017】
また、請求項1の本発明によれば、防振材が表面に開口する多数の空隙を有しているものであるため、降雨や地下湧水により水が掘削した凹部へ浸入した場合に、防振材にかかる浮力が軽減されるとともに、上記埋め戻し材が少なくとも表層部の空隙に入り込み、硬化することによって防振材の浮き上がりが防止されるので、地中防振壁の施工性及び安定性に優れたものとなる。
【0018】
更に、請求項1の本発明によれば、防振材として、熱可塑性樹脂発泡体を用いているため、コンクリートよりも5〜30Hzの振動を効果的に防振できると共に、その熱可塑性樹脂発泡体の密度が10〜50kg/m3 であるため、機械的強度と軽量性とのバランスに優れ、施工性が良好なものとなる。
【0019】
また、上記した請求項2の本発明によれば、防振材として、複数の熱可塑性樹脂発泡体片を結合してなる空隙率が10〜60%の成形体を用いているため、特に防振性能が優れたものとなる。
【0020】
また、上記した請求項3の本発明によれば、防振材として、最長部分の長さが5〜50mmである非球状の複数のスチレン系樹脂発泡チップによる型内発泡成形体を用いているため、機械的強度に優れると共に、表面に開口する空隙が適度な大きさのものとなり、埋め戻し材が防振材の空隙に効果的に入り込むことができ、さらに浮き上がり防止効果が優れたものとなる。
【0021】
また、上記した請求項4の本発明によれば、埋め戻し材として、土砂1m3に対してセメントを50〜200kg混合してなるものを用いているため、埋め戻し材が短時間のうちに硬化し、防振性能を早期に発揮し得るものとなる。
【0022】
また、上記した請求項5の本発明によれば、土砂として現地掘削土を用いているため、骨材としての砂利等を搬入する作業や、現地で発生した掘削土等を搬出する作業を低減できる。
【0023】
また、上記した請求項6の本発明によれば、地面に形成する凹部の幅を1〜2.5mとしたので、歩道等の狭小地においても、地中防振壁の施工が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、上記した本発明に係る地中防振壁の施工方法について、図面等を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る地中防振壁の施工方法に使用する防振材1の一例を示した斜視図である。
本発明において使用できる防振材1としては、種々の防振材が使用できるが、特に、次の防振材が好適に用いられる。
【0026】
先ず、本発明において好適に使用できる防振材は、密度が10〜50kg/m3 、好ましくは12〜30kg/m3 、より好ましくは12〜20kg/m3 である熱可塑性樹脂発泡体からなる。密度が小さすぎる場合は、防振材の機械的強度、特に圧縮強さの低下により、防振材が損傷する虞がある。一方、密度が大きすぎる場合は、軽量性が不十分となり、施工性が悪化する。
なお、本明細書における防振材の密度は、防振材の全重量を防振材の外形寸法から求められる体積にて除することにより求められる。前記外形寸法から求められる防振材の体積には、空隙の体積も含まれる。
【0027】
また、本発明において好適に使用できる防振材は、熱可塑性樹脂発泡体片(以下、単に発泡体片ともいう。)を結合してなる、表面に開口する多数の空隙を有する成形体からなる。
なお、本明細書における発泡体片とは、発泡粒子、発泡ストランド、発泡成形体および押出発泡体の粉砕物、チップ状の発泡体、筒状発泡粒子等を含むものである。
【0028】
上記発泡体片を構成する熱可塑性樹脂には、特に制限はないが、発泡が容易で、圧縮強さ等の圧縮特性に優れる点で、ポリスチレン系樹脂が好ましく、また、脆性改善性に優れる点で、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂が好ましい。さらに、セメントとの接着性に優れるという点で、ポリスチレン系樹脂が特に好ましい。
【0029】
上記発泡体片の製造法には制限はなく、樹脂の種類に応じて従来公知の方法を適宜選択することができる。
また、発泡体片を結合し、表面に開口する多数の空隙を有する成形体とする方法にも制限はなく、発泡体片の種類に応じて従来公知の方法を適宜選択することができる。
例えば、発泡体片を金型のキャビティ内に充填し、次いで、型締めを行なった後に加圧蒸気を上記キャビティ内に導入し、発泡体片個々の表面を溶融させて該発泡体片同士を空隙が残るように互いに融着させることにより、表面に開口する多数の空隙を有する防振材を製造することができる。
また、空隙のない成形体を製造した後、成形体の表面及び裏面に複数の溝を互いに交差するように掘削することにより、表面に開口する多数の空隙を有する防振材を製造することもできる。
【0030】
また、本発明において好適に使用できる防振材は、空隙率が10〜60%が好ましく、より好ましくは15〜55%であり、さらに好ましくは20〜50%である。空隙率が低すぎる場合は、防振性能向上効果が不十分となる虞があり、また表面に開口する空隙が少なすぎて湧水等による浮力を低減する効果が小さくなる虞がある。一方、空隙率が高すぎる場合は、空隙が多すぎて防振材の機械的強度が低下しすぎる虞がある。特に、圧縮強さの低下により防振材が損傷する虞がある。
なお、本明細書における空隙率(A)は次式によって算出される。

A(%)=〔(B−C)/B〕×100

但し、上記Bは発泡体片成形体の見かけ体積(cm3 )、上記Cは発泡体片成形体の真の体積(cm3 )である。見かけ体積Bは発泡体片成形体の外形寸法から算出される体積、真の体積Cは発泡体片成形体の空隙部を除いた実質体積をそれぞれ指す。また真の体積Cは発泡成型体を液体(例えば水)中に沈めた時の増量した体積を測定することによって知ることができる。
【0031】
上記空隙率を有する防振材を形成する発泡体片の形状は特に制限はないが、高い空隙率のものを形成することができることから、チップ状、筒状粒子、或いは長さ(L)と直径(D)の比L/Dが大きな発泡粒子または発泡ストランドが好ましく、更に、複雑な空隙を形成することができることから、チップ状のものが特に好ましい。
発泡体片の大きさは、発泡体片形状がチップ状の場合、発泡体片成形体を成形する際の成形金型充填性に優れ、さらに高い空隙率と高い圧縮強さとを兼備する発泡体片成形体を得る上で、最長部分の長さにおいて5〜50mmが好ましく、10〜35mmがより好ましい。また、発泡体片形状が筒状の場合、発泡体片の大きさは、チップ状のものと同様の理由により、最長部分の長さにおいて2〜20mmが好ましく、3〜10mmがより好ましい。また、L/Dの大きな発泡粒子または発泡ストランドの場合、チップ状のものと同様の理由により、最長部分の長さにおいて2〜20mmであると共にL/Dは2以上であることが好ましく、3〜10mmであると共にL/Dは2以上であることがより好ましい。L/Dの上限は特に限定されるものではないが、概ね10程度である。
なお、本明細書における発泡体片の最長部分の長さとは、発泡体片のあらゆる方向において外形寸法をノギスにより測定した際の最大寸法を意味する。そして、最長部分の長さとは、複数(少なくとも50個以上)の発泡体片の最長部分の長さの算術平均値を意味する。
【0032】
また、本発明において好適に使用できる防振材は、圧縮強さが30〜300kPaであることが好ましく、40〜250kPaであることが更に好ましく、40〜200kPaであることが特に好ましい。圧縮強さが30kPa未満の場合は、土圧により防振材が損傷する虞がある。一方、圧縮強さが300kPaを超えること自体は特に問題はないが、圧縮強さが高いものは発泡体片成形体の見かけ密度が大きいもの、或いは空隙率の小さいものとなる傾向にある為、圧縮強さの上限は概ね300kPaであることが好ましい。
なお、本明細書における圧縮強さは、JIS K7220(1999)に準拠して求められる5%圧縮強さとして測定される値である。
【0033】
また、本発明において好適に使用できる防振材の形状は、立方体、直方体などの板状、或いは円柱、多角柱などの柱状である。かかる形状の発泡体片成形体は、製造が容易であり、地中に埋設する際の施工性にも優れている。特に、板状の防振材は、溝を地面に形成さえすれば埋設できるので、大きな掘削機を用いる必要がなく、小さな掘削機、例えばユンボを用いれば埋設工事をすることができるので好ましい。また、防振材は道路の端に埋設することが多いことから、板状の防振材は、道幅の短い、作業スペースが狭い道路であっても容易に埋設工事をすることができるので好ましい。一方、柱状の防振材は、円柱状の孔を地面にあけさえすれば埋設できるので、例えばボーリング用の掘削機を用いれば埋設工事をすることができ、容易に地中深くから防振壁を形成することができるので好ましい。また、防振材は限られた土地に埋設することが多いことから、変形した土地であっても土地形状に合わせて複数本の該柱状の防振材を曲線的に埋設する等して、防振壁を容易に形成することができるので好ましい。
【0034】
直方体の防振材の場合、その大きさは特には制限はないが、通常は縦1820〜2000mm、横910〜1000mm、厚さ400〜500mm程度が好適に用いられる。また、柱状の防振材の場合、その断面形状は円形か楕円形が好ましく、その断面積は、製造し易さや施工の容易性を考慮して、700〜5100cm2であることが好ましく、長さは500〜1000mmが好ましい。
【0035】
図2は、防振壁を作るために地面2に溝(または穴)3を掘った状態を示す。溝(または穴)3を掘るときに、掘り出された土砂4がその隣に山積みにされている。図3は、上記溝(または穴)3の中に、予め用意された図1の防振材1を挿入配置した状態を示す。形成する溝(または穴)3の大きさは、挿入配置する防振材1よりも一回り大きいものである必要があり、特に、防振材1が直方体である場合には、上記溝3の幅は、歩道等の狭小地においても地中防振壁の施工を可能とする等の観点から1〜2.5mであることが好ましく、1.5〜2mであることがより好ましい。
【0036】
図3に示すように防振材1を挿入配置した状態で、溝(または穴)3の壁面2aと防振材1との間の隙間5の幅Xが500mm以上となり、その上方のかぶり6の厚さYが500〜1000mm程度となる大きさの溝(または穴)3とすることが、施工性、挿入配置した防振材の安定性、更には防振性能の観点から好ましい。幅Xの上限は特に限定されるものではないが、コスト面を考慮すると、その上限は1000mm程度であることが好ましい。
【0037】
本発明に係る地中防振壁の施工方法においては、上記溝(または穴)3の壁面2aと防振材1との間の隙間5、及びその上方のかぶり6に、土砂にセメントを混合して迅速に固化するように調整された埋め戻し材7を充填し、埋め戻される。
【0038】
具体的には、埋め戻し材7は、土砂4に、セメント8を混合して作製される。土砂4へのセメント8の混合割合、及び混合するセメント8の種類は、土砂4の性質に応じて適宜決定することができる。土砂4へのセメント8の混合割合は、セメント8の割合が少ないほど埋め戻し材7の一軸圧縮強度を弱め、多いほど埋め戻し材7の一軸圧縮強度を強めるが埋め戻し材7の固化が遅くなる。このことから、土砂4へのセメント8の適切な混合割合は自ずと規定され、土砂1m3に対し、セメント50〜200kgを混合することが好ましく、50〜100kgを混合することがより好ましい。
【0039】
また、本発明で使用される埋め戻し材7の含水比は、通常は埋め戻し材として使用する土砂の自然含水比のままで問題ないが、多くても液性限界未満とすることが好ましい。本発明における液性限界未満とは、JIS A 1205(1999年)にて測定される落下回数が26回以上であることを言う。液性限界は土砂の性質によって決定されるため、実際の作業における埋め戻し材への水の配合量は、土砂の性質によって液性限界未満の含水比となるように適宜決定する必要がある。埋め戻し材の含水比が液性限界未満であると、埋め戻し材の流動性と硬化速度とのバランスが優れるため、施工後の埋め戻し材が適度に固く、また硬化速度が速くなるので、さらに防振効果が早期に発揮されるばかりでなく、施工後直ちに地中防振壁上部の通行が可能となるため好ましい。
【0040】
埋め戻し材7の作製に使用するセメント8には、通常一般に使用されるポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、膨張セメント等を使用でき、これらは単独であっても2種以上を混合したものであってもよい。これらの中でも、高炉セメント、特に高炉セメントB種(JIS R 5211(2003年))が、長期強度に優れ、六価クロムの溶出が少ないことから好ましく使用できる。
【0041】
本発明においては、骨材としての砂利等を搬入する作業や、現地で発生した掘削土等を搬出する作業を低減できることから、上記埋め戻し材として、現地掘削土である土砂4にセメント8を混合した、所謂ソイルセメントを使用することが好ましい。
【0042】
上記した適性な混合割合に調整された埋め戻し材7は、図3に示すように上記溝(または穴)3の中に防振材1を挿入配置した後、図4に示すように上記溝(または穴)3の壁面2aと防振材1との間の隙間5、及びその上方のかぶり6に充填され、その充填後、直ちに固化する。
【0043】
地盤の振動についてのインピーダンスは、固い物は大きく、柔らかいものは小さい。すなわち、埋め戻し材7は硬いのでインピーダンスは大きく、防振材1は柔らかいのでインピーダンスは小さい。波動の透過率は、その波動に関係するインピーダンスの変化が大きい境界面で小さく、インピーダンスの差が小さい境界面で大きい。従って、埋め戻し材7から防振材1への境界と、防振材1から埋め戻し材7への境界において振動の透過率は小さく、振動は急激に減衰する。
【0044】
図5に示すように、地面2の上の車道等を走行する車両10による振動は、地面2、埋め戻し材7、防振材1、埋め戻し材7、地面2を通って住宅11等に達するが、埋め戻し材7が固化した後は、埋め戻し材7と防振材1の硬さの差が大きいので、両者の境界面における振動の透過率は非常に小さい。このようにして、車両10等による振動は、住宅11等に達する前にかなり弱くなる。すなわち、埋め戻し材7が固化すると同時に、つまり防振工事が完了すると同時に、直ぐに防振効果が得られる。この結果、防振工事の終了と同時に防振効果が発揮でき、近所の住民等からの苦情を少なくすることができる。
【0045】
本発明に係る地中防振壁の施工方法により形成する防振壁の厚み(防振材の厚み+埋め戻し材の厚み)は、波動透過理論にもとずき、施工現場のスペース、防振材の防振性能、目的の防振性等の条件に基づき決定することができる。また、防振壁の施工深さは、振動の伝播経路による軽減効果、防振壁の設置幅、形状、配列などに応じて既往の調査研究事例と本発明に係る地中防振壁の施工方法の防振性能により決定することができる。
【0046】
また、本発明に係る地中防振壁の施工方法により形成する防振壁は、振動源から伝播される振動に対してそれを遮るように一列、或いは複数列形成される。更に、防振材は、上下方向及び/又は左右方向に連接させて所望の大きさの防振壁を形成することができる。また、前記柱状の防振材を用いて地中防振壁構造を構成する場合、平面視で直線状、曲線状或いはジグザグ状に配列して、該防振材の長手方向を垂直方向に向けて振動源と構造物との間の地中に埋設すれば、震動の伝播を効果的に遮断することができる。なお、平面視とは空中から地中に形成された地中防振壁構造を平面的に見た場合をいう。
【実施例】
【0047】
以下、本発明に係る地中防振壁の施工方法の実施例を、比較例と共に記載するが、本発明は、何ら下記の実施例に限定されるものではない。
【0048】
−実施例−
〔防振材〕
汎用ポリスチレン樹脂とタルクとを第一押出機に供給して、加熱、溶融、混練してから、発泡剤としてブタンを押出機中に圧入し、次いで第二押出機中で混練しながら押出適正温度に冷却することにより得た発泡性溶融樹脂をダイから常温の水中に円柱状に押出して発泡性ポリスチレン円柱樹脂とし、該発泡性ポリスチレン円柱樹脂が軟化状態を維持している段階でニップロールにより押し潰して断面を楕円形状とした後、押出方向と直角にカッターで切断して、断面が楕円形状の発泡性ポリスチレンチップを得た。この発泡性チップを水蒸気で発泡させて、最長部分の長さ20mmのチップ状の発泡体片を得た。
【0049】
次いで、上記発泡体片を金型のキャビティ内に充填し、型締めを行なった後に加圧蒸気を上記キャビティ内に導入し、チップ個々の表面を溶融させて該チップ同士を互いに融着させることにより、空隙率25%、密度14kg/m3 、圧縮強さ50kPa、縦2000mm、横1000mm、厚さ500mmの、表面に開口する多数の空隙を有する防振材を得た。
【0050】
〔埋め戻し材〕
下記する地中防振壁の施工に際して発生した掘削土に、セメントを混合して埋め戻し材(ソイルセメント)を作製した。セメントは高炉セメントB種を使用した。混合割合は、1m3の掘削土に対して、50kgの高炉セメントB種を配合して混練した。得られた埋め戻し材中の含水比は液性限界未満であった。
【0051】
〔地中防振壁の構築〕
地面に、縦が約300cm、横が約150cm、深さが約250cmの穴を堀り、該穴に、上記防振材を長辺側側面を合わせるように2枚連接し、その板面が鉛直になるように挿入配置した。そして、穴の壁面と防振材との間の隙間に、上記作製した埋め戻し材を充填して小型タンパーを使用して締め固めながら埋め戻した。その後、その上方のかぶりにも上記埋め戻し材を埋め戻し、小型タンパーを使用して締め固めて、地中防振壁を構築した。
【0052】
〔振動試験〕
埋め戻し後2週間養生を行った後、構築した地中防振壁に対し、該防振壁の壁面に対して垂直方向に2.5m離れた位置の地面上に振動源を置き、該振動源から加速度30galで、周波数5Hz、10Hz、15Hzの振動を発振し、防振壁の前後(振動源から2.5m、4m離れた位置)における振動加速度レベルを、それぞれの周波数の振動に対して測定した。そして、測定した防振壁前の振動加速度レベルに対する防振壁後の振動加速度レベルの比を振動加速度レベル比として算出した。その算出結果を、表1および図6〜8に実施例として示す。
【0053】
−比較例−
埋め戻し材として、地中防振壁の施工に際して発生した掘削土をそのまま用いた以外は、上記実施例と同様の方法で地中防振壁を構築し、その防振壁の防振効果を、上記実施例と同様の方法で測定し、また、同様の方法で振動加速度レベル比を算出した。その算出結果を、表1および図6〜8に比較例として示す。
また、更なる比較のために、地中防振壁を構築する前の地面上に振動源を置き、上記実施例と同様の振動について同様の位置において振動加速度レベルを測定し、振動源から2.5m離れた位置の振動加速度レベルに対する振動源から4m離れた位置の振動加速度レベルの比を振動加速度レベル比として算出した。その算出結果を、表1および図6〜8に施工前として示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1および図6〜図8から、土砂にセメントを混合してなる埋め戻し材を使用すると、転圧が不十分であっても、防振効果が埋め戻し直後から得られることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係る地中防振壁の施工方法に使用する防振材の一例を示した概念的な斜視図である。
【図2】防振壁を作るために地面に溝(または穴)を掘った状態を示す概念的な断面図である。
【図3】溝(または穴)の中に、予め用意された防振材を挿入配置した状態を示す概念的な断面図である。
【図4】溝(または穴)と防振材の隙間に埋め戻し材を充填して埋め戻した状態を示す概念的な断面図である。
【図5】本発明に係る地中防振壁の施工方法に従って、防振壁を形成した地盤の概念的な断面図である。
【図6】加速度30gal、周波数5Hzの振動を発振し、防振材の前後における振動加速度レベル比を測定した結果を示すグラフである。
【図7】加速度30gal、周波数10Hzの振動を発振し、防振材の前後における振動加速度レベル比を測定した結果を示すグラフである。
【図8】加速度30gal、周波数15Hzの振動を発振し、防振材の前後における振動加速度レベル比を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面を掘削して凹部を形成する過程と、該凹部に、表面に開口する多数の空隙を有し、密度が10〜50kg/m3 の熱可塑性樹脂発泡体からなる防振材を挿入配置する過程と、上記凹部と上記防振材の隙間に、土砂にセメントを混合してなる埋め戻し材を充填して埋め戻す過程とを含むことを特徴とする、地中防振壁の施工方法。
【請求項2】
上記防振材が、複数の熱可塑性樹脂発泡体片を結合してなる成形体からなり、空隙率が10〜60%であることを特徴とする、請求項1に記載の地中防振壁の施工方法。
【請求項3】
上記防振材が、最長部分の長さが5〜50mmである非球状の複数のスチレン系樹脂発泡チップによる型内発泡成形体であることを特徴とする、請求項2に記載の地中防振壁の施工方法。
【請求項4】
上記埋め戻し材が、土砂1m3に対してセメントを50〜200kg混合してなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の地中防振壁の施工方法。
【請求項5】
上記土砂が、現地掘削土であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の地中防振壁の施工方法。
【請求項6】
上記地面に形成する凹部の幅が、1〜2.5mであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の地中防振壁の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−106552(P2008−106552A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291768(P2006−291768)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】