説明

地盤埋設杭の支持力試験方法および試験装置

【課題】 試験時間が短く、信頼性の高いデータを得ること。
【解決手段】 試験装置は、地盤10中に埋設された杭12の支持力を測定するものであって、杭12の上端側に位置する杭頭部14に加えられる載荷荷重と変位とを測定する計測器16が使用される。そして、杭頭部14の上方から所定質量の錘18を落下させた際の、錘18の落下衝撃による、杭頭部14の載荷荷重と変位とを計測器16で測定し、これによって得られた測定値に基づいて、杭12の支持力を求めることが基本構成となっている。この支持力を求める際には、杭頭部14上に、錘18の落下衝撃により、圧縮変形する非可塑性クッション材20を載置する。非可塑性クッション材20は、平板状のものであって、複数枚が席そう状態で、杭頭部14上に載置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤埋設杭の支持力の試験方法および試験装置に関し、特に、杭頭部に上方から錘を落下させた際の衝撃により、杭の支持力を求める試験方法および試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤中に打設された基礎杭の、地中での負荷支持力の試験方法および試験装置としては、従来、以下に説明する概ね3つの方式が知られている。
【0003】
第一の方式は、杭頭部の直上上方から所定質量の錘を落下させ、その際の落下衝撃に基づいて、杭の抵抗を試験する動的載荷試験方法である。
【0004】
第二の方式は、載荷試験をする杭の両側の2箇所ないしは4箇所に、補助基礎杭を設け、試験対象となる杭を挟んで補助基礎杭間に梁を架設固定する。そして、試験用杭と梁との間に油圧ジャッキを設置して、油圧ジャッキの下方側への圧力を杭に作用させた際の反発力により、杭の支持力を求める静的載荷試験方法である。
【0005】
第三の方式は、杭頭に載せた反力マスを、推進剤の燃焼ガス圧により打ち上げ、反力マスの慣性反力を杭頭に載荷する急速載荷試験方法である。
【0006】
しかしながら、このような従来の試験方法には、以下に説明する技術的な課題があった。
【0007】
すなわち、まず、動的載荷試験方法では、落下する錘が直接杭頭に打撃を加えるので、載荷時間が短く、しかも、測定によって得られる変位波形などが、脈動となるため、正確なデータの取得が困難であった。
【0008】
また、動的載荷試験方法では、落下する錘が直接杭頭に打撃を加えるので、例えば、コンクリート杭の支持力を試験する場合には、杭にクラックが発生する恐れもあった。
【0009】
一方、静的載荷試験方法は、補助杭の設置や、その養生に時間がかかり、さらに、油圧ジャッキで徐々に圧力を加えるため、試験の開始から終了までに、非常に時間がかかり、大きな費用がかかるという問題があった。
【0010】
また、急速載荷試験方法は、大型の装置を必要とし、重量物である反力マスの運搬費や現場設置に費用がかかると共に、推進剤に火薬類を用いるので、その保管,運搬時の取り扱いが厳しく、簡単に試験できないという欠点があった。
【0011】
つまり、前述した従来の試験方法および試験装置には、得られるデータの信頼性に欠けたり、試験設備に大きな費用がかかるとか、あるいは、試験時間が長くかかるという解決すべき課題があった。
【0012】
そこで、本発明者らは、このような問題を解決できる試験方法および試験装置を開発し、特許文献1に提案している。この特許文献1に係る試験方法および試験装置では、試験対象となる杭頭部上に、塑性変形可能な可塑性クッション材を載置し、錘をこれに落下させた際の衝撃により、可塑性クッション材を塑性変形させることを要旨としている。
【0013】
この特許文献1の試験方法では、錘の落下衝撃が、可塑性クッション材を塑性変形させながら杭頭部に加えられるので、この塑性変形をさせる間、載置時間が長くなり、信頼性の高いデータが得られると考えた。
【0014】
しかしながら、この特許文献1に係る試験方法および試験装置にも、その後の検討によると、以下の技術的な課題があった。
【0015】
【特許文献1】特開2003−42865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
すなわち、特許文献1に係る試験方法および試験装置では、杭頭部に載置するクッション材が可塑性のため、錘の落下衝撃で簡単に打ち壊れ、錘が直接杭頭部を打撃することになり、耐圧載置時間が短くなり、その結果、得られるデータは、脈動状態となり、正確なデータを取得することができなかった。
【0017】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、試験時間が短く、費用もそれほどかからず、しかも、信頼性の高いデータが得られる地盤埋設杭の支持力の試験方法および試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明は、地盤中に埋設された杭の杭頭部に、上方から錘を落下させて、その際の前記錘の衝撃に基づいて、前記杭の支持力を求める地盤埋設杭の支持力の試験方法において、前記杭頭部上に非可塑性クッション材を複数枚積層して載置し、前記錘を落下させた際の衝撃により、前記非可塑性クッション材を圧縮変形させるようにした。
【0019】
このように構成した地盤埋設杭の支持力の試験方法によれば、試験対象となる杭頭部上に非可塑性クッション材を複数枚積層載置し、錘を落下させた際の衝撃により、非可塑性クッション材を圧縮変形させるので、錘の落下衝撃力は、非可塑性クッション材を圧縮変形させながら杭頭部に加えられることになり、複数枚の非可塑性クッション材が圧縮変形する間だけ、載荷時間が長くなる。
【0020】
また、複数枚積層した非可塑性クッション材を圧縮変形させながら杭頭部に、錘の落下衝撃力を加えると、変位の脈動がなくなり、高精度のデータが得られる。
【0021】
さらに、本発明の試験方法は、基本的には、動的載荷試験方法に準じているので、大型の試験設備が不要で、試験時間がかからず、また、試験の費用も嵩まない。
【0022】
前記非可塑性クッション材は、外力の除去により、通常状態に復元する復元力を有するもので構成することができる。このような非可塑性クッション材としては、例えば、天然ゴム,合成ゴム,塩化ビニルなど、あるいは、これらの合成物の板状態が好適であって、内部に天然または合成繊維を介在させても良い。
【0023】
非可塑性クッション材単体の厚みは、12mmが最良であるが、50〜60mmであっても良い。
【0024】
前記非可塑性クッション材は、複数枚を積層した際に、上下方向に隣接する前記非可塑性クッション材間に空気層を有することが望ましい。前記非可塑性クッション材は、前記空気層を形成するための凹凸部を有することができる。
【0025】
前記空気層は、前記非可塑性クッション材の表面に、粉体スペーサを介在させることにより形成することができ、粉体スペーサには、例えば、ガラス,陶器,砂,金属などの所定粒径の粉体が好適である。なお、非可塑性クッション材の外形は、正方形が望ましいが、杭頭部の形状に合わせて、矩形,円形,多角形,菱形などであっても良い。
【0026】
また、本発明は、地盤中に埋設された杭の杭頭部に、当該杭頭部の上方から錘を落下させた際の、前記錘の落下衝撃による、前記杭の載荷荷重と変位とを計測器で測定し、得られた測定値に基づいて前記杭の支持力を求める地盤埋設杭の支持力の試験装置において、前記杭頭部上に、前記錘の落下衝撃により圧縮変形する非可塑性クッション材を複数枚積層載置した。
【0027】
このように構成した地盤埋設杭の支持力試験装置によれば、試験方法と同様に、試験時間が短く、費用もそれほどかからず、しかも、信頼性の高いデータが得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る地盤埋設杭の支持力試験方法および試験装置によれば、試験時間が短く、費用もそれほどかからず、しかも、信頼性の高いデータが得られる
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1および図2は、本発明にかかる地盤埋設杭の支持力試験方法および試験装置の一実施例を示している。
【0030】
同図に示した試験装置は、地盤10中に埋設された杭12の支持力を測定するものであって、杭12の上端側に位置する杭頭部14の上面に加えられる載荷荷重と変位とを測定する計測器16が用いられる。
【0031】
そして、杭頭部14の上方から所定質量の錘18を落下させた際の、錘18の落下衝撃による、杭頭部14の載荷荷重と変位とを計測器16で測定し、これによって得られた測定値に基づいて、杭12の支持力を求めることが基本構成となっている。
【0032】
この場合、本実施例では、杭頭部14上に、錘18の落下衝撃により、圧縮変形する非可塑性クッション材20を複数枚積層状態で載置する。杭12は、例えば、円形断面のコンクリート杭から構成され、杭頭部14が地表上に若干突出するようにして、地盤10中に打設されている。
【0033】
なお、本実施例の試験方法および試験装置では、試験対象となる杭12は、鉄筋コンクリート製の既製杭だけでなく、例えば、鋼管杭や鋼管とコンクリートの複合杭などにも適用することができるし、また、場所打ち杭にも適用することができる。
【0034】
計測器16は、例えば、載荷荷重と変位とを検知する歪ゲージセンサ16aを備えていて、この歪ゲージセンサ16aが、杭頭部14の上面と非可塑性クッション材20の下面との間に、挿入設置されている。
【0035】
本実施例の場合、非可塑性クッション材20は、図2にその詳細を示すように、杭頭部14に積層された初期状態では、同じ厚みと大きさの複数枚から構成されているので、端縁が外方に突出していない、整列状態になっているが、これに荷重が加えられると、同図(B)に示すように、上方側の非可塑性クッション材20から、順次厚みが小さくなるようにして、圧縮変形する。
【0036】
図3は、杭頭部14に、非可塑性クッション材20を複数枚積層した状態で、錘18を落下させた際に、測定器16で得られたデータを示している。同図(A)は、本発明の実施例に係るものであり、非可塑性クッション材20は、縦が450mm、横が450mmの正方形で、厚みが12mmの、無地(添加物のない合成軟質ゴムであって、硬度10IRHD)を25枚積層した。
【0037】
本発明との比較のために、図4に示すブロック状非可塑性クッション材21を準備した。(ブロック状非可塑性クッション材21は、その形状が、縦450mm,横450mm,厚みが300mmの無地の合成ゴムブロック(クッション材20と同一材質)とした。
【0038】
杭12は、外形400mmで、長さが20mの円柱PCコンクリート杭を使用した。杭12の杭頭部14の外周には、環状の枠体22を嵌着固定し、枠体22と杭頭部14の上面を覆うようにして、受け板24を載置し、この受け板24の上面側に、クッション材20,21を載置した。
【0039】
受け板24は、700×700mmの正方形の鉄板で、厚み15mmのものを用いた。錘18は、直径が400mmの円筒状で、高さが500mmのものであって、質量を500kgとした。錘18は、縦500mm×横500mm、高さが520mmの鉄製の箱体26内に固定状態で収納した。測定器16には、FPD−5(オランダ応用科学研究所建設工学研究所(TNO)製のFPOS(Foundationpile Diagnostic System)を用いた。歪みゲージセンサ16aは、受け板24上に貼付した。
【0040】
そして、複数枚非可塑性クッション材20を25枚積層したものと、ブロック状非可塑性クッション材21を、杭頭部14に別々に設置し、その先端から1m上方の直上位置から、錘18が収容された箱体26をクレーンにより吊下げ支持して落下させて試験を行った。
【0041】
図3はその時の測定結果であり、同図(A)が非可塑性クッション材20を積層した場合の測定結果であり、同図(B)は、ブロック状非可塑性クッション材21の測定結果である。
【0042】
錘18の落下衝撃により、本発明の非可塑性クッション材20の場合には、図2に示したように圧縮変形する。この際の変形態様は、図2(B)に示すように、錘18を積層した非可塑性クッション材20の中央に落下させると、最上段側のものが最も大きく圧縮変形し、厚みが大きく低減し、このような圧縮変形は、下段側になるに従って徐々に少なくなり、最下段のものは、殆ど変形が発生しない。
【0043】
一方、非可塑性でブロック状のクッション材21の場合には、錘18の衝撃荷重により、図4に示すような態様で圧縮変形する。この場合の変形態様は、錘18がブロック状クッション材21上に落下すると、全体の厚みが減じるようにして、圧縮変形する。
【0044】
測定結果において、図3(A)に示した本発明に係るクッション材20の場合には、左右対称の相似曲線となっているが、(B)に閉めたブロック状クッション材21の場合には、曲線が経過時間に対して、ピークが早期に現れている。このため、正確なデータが得られなかった。
【0045】
このようにピークが早期に現れるのは、非可塑性クッション材21がブロック状であることに起因するものと考えられる。ブロック状非可塑性クッション材21は、錘18の落下衝撃を受けて、図4のように圧縮変形する。この際に、荷重方向のクッション材21の変形σは、荷重の大きさをFとすると、次式で表される。
σ=F×H/E/A
ここで、荷重方向のクッション材21の変形量:σ
衝突荷重の大きさ:F
クッション材21の厚み:H
クッション材21の断面積:A
【0046】
この式からすれば、ブロック状の非可塑性クッション材21は、錘18の落下衝撃力を直接杭頭部14に伝えるため、載荷荷重曲線のピークの立ち上がりが早くなるものと思われる。
【0047】
一方、非可塑性クッション材20を複数枚積層した場合には、各層間の摩擦が小さいので、圧縮による変形は、積層した上層部の非可塑性クッション材20の変形量が大きくなるが、積層下層部に順次伝達される際に、変形量が漸減して、杭頭部14への急激な荷重伝達が緩和され、その結果、図3(A)に示すように、載荷荷重曲線のピークが遅れて、左右対称の相似曲線となる。
【0048】
この場合、積層された複数枚の非可塑性クッション材20間に空気層が存在すると、ピークの遅れがより顕著になり、さらに、凹凸や粉体スペーサを介在させると、より一層顕著になる。なお、非可塑性クッション材20間には、油,水などの液体の塗布または附着を排除することが望ましい。
【0049】
本発明の非可塑性クッション材20は、例えば、厚みが約12mm〜60mm程度の市販のゴム板、または、繊維入りゴム板を、所定の面積および形状に切断して、複数枚を積層することで使用できるので、コストが非常に安価になるし、再使用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明にかかる地盤埋設杭の支持力試験方法および試験装置によれば、試験時間が短く、費用もそれほどかからず、信頼性の高いデータが得られるので、杭の支持力を測定する際に広く活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明にかかる地盤埋設杭の支持力試験方法および試験装置の一実施例を示す装置設置状態の側面説明図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図1に示した試験方法で得られる測定値の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の試験方法に対比する試験方法で用いる非可塑性クッション材の例の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10 地盤
12 坑
14 杭頭部
16 計測器
18 錘
20 可塑性クッション材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に埋設された杭の杭頭部に、上方から錘を落下させて、その際の前記錘の衝撃に基づいて、前記杭の支持力を求める地盤埋設杭の支持力の試験方法において、
前記杭頭部上に非可塑性クッション材を複数枚積層して載置し、前記錘を落下させた際の衝撃により、前記非可塑性クッション材を圧縮変形させることを特徴とする地盤埋設杭の支持力試験方法。
【請求項2】
前記非可塑性クッション材は、外力の除去により、通常状態に復元する復元力を有することを特徴とする請求項1記載の地盤埋設杭支持力の試験方法。
【請求項3】
前記非可塑性クッション材は、複数枚を積層した際に、上下方向に隣接する前記非可塑性クッション材間に空気層を有することを特徴とする請求項2記載の地盤埋設杭の支持力試験方法。
【請求項4】
前記非可塑性クッション材は、前記空気層を形成するための凹凸部を有することを特徴とする請求項3記載の地盤埋設杭の支持力試験方法。
【請求項5】
前記空気層は、前記非可塑性クッション材の表面に、粉体スペーサを介在させることにより形成することを特徴とする請求項3記載の地盤埋設杭の支持力試験方法。
【請求項6】
地盤中に埋設された杭の杭頭部に、当該杭頭部の上方から錘を落下させた際の、前記錘の落下衝撃による、前記杭の載荷荷重と変位とを計測器で測定し、得られた測定値に基づいて前記杭の支持力を求める地盤埋設杭の支持力の試験装置において、
前記杭頭部上に、前記錘の落下衝撃により圧縮変形する非可塑性クッション材を複数枚積層載置したことを特徴とする地盤埋設杭の支持力試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−69535(P2008−69535A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248116(P2006−248116)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(599165968)多摩火薬機工株式会社 (5)
【出願人】(502439005)
【出願人】(000247270)有限会社ハマ.コーポレイション (4)
【Fターム(参考)】