説明

地盤改良工法

【課題】ロータリー式混合攪拌機を用いた地盤改良工法において、施工中の定量的な品質管理が可能になり、その結果、所定の品質を安定して確保することを実現した地盤改良工法を提供する。
【解決手段】ロータリー式混合攪拌機4は、一対の攪拌腕14を備えている。攪拌腕14は複数の腕部14a〜14dを有しており、腕部14a〜14dの先端部には複数の攪拌爪15a〜15dが設けられている。ロータリー式混合攪拌機4を用いた地盤改良工法において、単位貫入時間V(min/m)、単位引抜き時間V(min/m)、貫入時回転数a(rpm)、引抜き時回転数a(rpm)、一方の攪拌腕14側に設けられた攪拌爪15a〜15dの片側枚数nとすると、単位貫入時間V、単位引抜き時間V、貫入時回転数a、引抜き時回転数a、片側枚数nは、
770≦(V・a+V・a)n≦980
を満たすように決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は地盤改良工法に係り、特にロータリー式混合攪拌機を用いた地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
改良対象地盤を固化処理する地盤改良工法において、改良対象地盤を掘削しながら固化材スラリーを吐出し、改良対象地盤の土壌と固化材スラリーとを混合攪拌することによって固化処理が行われる。このような地盤改良工法において、回転可能に設けられた攪拌腕を有するロータリー式混合攪拌機を用いた地盤改良工法が公知である。ロータリー式混合攪拌機は、改良対象地盤に対して略垂直に貫入された後、引抜かれる。この貫入及び引抜きを繰り返して、改良対象地盤内に改良体が造成される。
例えば特許文献1には、複数の攪拌腕を有するロータリー式混合攪拌機と、このロータリー式混合攪拌機を用いた地盤改良工法が開示されている。これによれば、自走式車両のブーム先端部にロータリー式混合攪拌機が取り付けられて垂下される。ロータリー式混合攪拌機は、自走式車両から遠い位置にある改良対象地盤に貫入された後、ブームの操作によって自走式車両側に引き寄せられ、改良対象地盤より引抜かれる。貫入から引抜までの過程において、ロータリー式混合攪拌機は攪拌腕を回転させて土壌をせん断するとともに固化材スラリーを吐出して、土壌と固化材スラリーとの混合攪拌を行う。ロータリー式混合攪拌機の貫入から引抜きまでの過程を繰り返すことによって、改良対象地盤の所定領域に対する固化処理が行われる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−342947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている地盤改良工法は、その手順については示しているものの、所定の品質を確保するための混合攪拌の程度については示していない。ロータリー式混合攪拌機を用いた地盤改良においては、ロータリー式混合攪拌機の貫入及び引抜きに要する時間や攪拌腕の回転数等を改良対象地盤の土質や硬さ等に応じて調整し、混合攪拌の程度を管理する必要が生じる。しかしながら、実情では定性的な管理基準であり、所定の品質を安定して確保することが困難であった。したがって、混合攪拌の程度が不足して改良地盤の品質が悪くなったり、混合攪拌の程度が過剰となって所望する品質を上回り、経済性が悪くなるという問題点を有していた。
【0005】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、ロータリー式混合攪拌機を用いた地盤改良工法において、施工中の定量的な品質管理が可能になり、その結果、所定の品質を安定して確保することを実現した地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る地盤改良工法は、支持体と、複数の腕部を有し、支持体の両側部に回転可能に設けられる一対の攪拌腕と、腕部の先端部にそれぞれ設けられる複数の攪拌爪とを備えるロータリー式混合攪拌機を、改良対象地盤に貫入して引抜くとともに、一対の攪拌腕を回転させながら、固化材スラリーを吐出して、改良対象地盤の土壌と固化材スラリーとを混合攪拌する地盤改良工法であって、ロータリー式混合攪拌機を改良対象地盤に貫入する際に、ロータリー式混合攪拌機が1(m)移動するのに要する時間を単位貫入時間V(min/m)、ロータリー式混合攪拌機を改良対象地盤から引抜く際に、ロータリー式混合攪拌機が1(m)移動するのに要する時間を単位引抜き時間V(min/m)、ロータリー式混合攪拌機を改良対象地盤に貫入する際の、攪拌腕の回転数を貫入時回転数a(rpm)、ロータリー式混合攪拌機を改良対象地盤から引抜く際の、攪拌腕の回転数を引抜き時回転数a(rpm)、一対の攪拌腕のうち、一方の攪拌腕が有する複数の腕部に設けられた複数の攪拌爪の総数を片側枚数n(枚)としたときに、
770≦(V・a+V・a)n≦980
を満たすことを特徴とするものである。
【0007】
ロータリー式混合攪拌機を用いた地盤改良工法において、単位貫入時間V、単位引抜き時間V、貫入時回転数a、引抜き時回転数a、片側枚数nとすると、一方の攪拌腕に設けられたn枚の攪拌爪が、貫入及び引抜きの深度方向における距離1(m)の間に土壌をせん断する回数が、
(V・a+V・a)n(回)
で示される。一方で、単位貫入時間V、単位引抜き時間V、貫入時回転数a、引抜き時回転数aは、改良対象地盤の土質や硬さ等に応じて調整される施工条件であって、常に一定にはならない変数である。これらの変数を、
770≦(V・a+V・a)n≦980
を満たすように決定することによって、改良体の一軸圧縮強さにおける変動係数CVが、地盤改良の一般的な要求品質の目安とされている0.25以下に抑制できることが実験的に確認されている。したがって、ロータリー式混合攪拌機を用いた地盤改良工法において、施工中の定量的な品質管理が可能になり、その結果、所定の品質を安定して確保することを実現できる。
【0008】
ロータリー式混合攪拌機を、改良対象地盤に貫入して引抜く1施工サイクルにおいて、改良対象地盤には、平面断面形状が矩形である改良体が造成されてもよい。改良対象地盤に対して部分的な改良を行うことが可能となり、所定の品質を低いコストで得ることが可能となる。
【0009】
ロータリー式混合攪拌機が改良対象地盤内を移動する際に、ロータリー式混合攪拌機が1(m)移動するのに要する時間を単位掘削時間V(min/m)、ロータリー式混合攪拌機が改良対象地盤内を移動する際の、攪拌腕の回転数を掘削時回転数α(rpm)、一対の攪拌腕のうち、一方の攪拌腕が有する複数の腕部の総数をs(本)、攪拌爪の長さをt(m)としたときに、
t≧1/(V・α・s)
を満たしてもよい。
【0010】
ロータリー式混合攪拌機は、改良対象地盤内を1/V(m/min)の速度で移動する。また、攪拌腕が1回転するのに要する時間は、1/α(min)であり、この1/α(min)の間にロータリー式混合攪拌機が移動する距離は、1/(V・α)(m)となる。一方、s(本)の腕部にそれぞれ設けられた長さt(m)の攪拌爪が、1/α(min)の間に通過する領域において、攪拌爪が描く軌跡同士が互いに重ならないように並べると、その長さはts(m)となる。ここで、ts≧1/(V・α)、すなわち、
t≧1/(V・α・s)
とすることによって、攪拌爪が回転して描く軌跡が、ロータリー式混合攪拌機が移動する領域全体を隙間無く通過し、この領域内の土壌をすべてせん断する。したがって、ロータリー式混合攪拌機の攪拌爪が通過する領域のすべてが確実に混合攪拌されるため、地盤改良の品質を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、ロータリー式混合攪拌機を用いた地盤改良工法において、施工中の定量的な品質管理が可能になり、その結果、所定の品質を安定して確保することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、この発明の実施の形態について添付図に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1に、この実施の形態1に係る地盤改良工法に用いられる地盤改良施工機1を示し、その構造について説明する。尚、以下の説明は、ロータリー式混合攪拌機が、例えばバックホウ等であるベースマシンに取り付けられて地盤改良施工機1を構成している場合を例として示したものである。
地盤改良施工機1は、ベースマシン2を備えている。ベースマシン2はアーム2aを有しており、アーム2aの先端部には、矩形断面を有する管状部材からなるフレーム3の一端が取り付けられている。フレーム3の他端には、ロータリー式混合攪拌機4(以下、攪拌機4と略称する)が取り付けられており、攪拌機4が、フレーム3を介してベースマシン2のアーム2aに垂下された状態となっている。攪拌機4は、矩形断面を有する管状部材からなる支持体11を有しており、支持体11の一端がフレーム3に取り付けられている。また、フレーム3は、ベースマシン2のアーム2a及び攪拌機4の支持体11に対して着脱自在となっており、改良目標深度に応じてフレーム3の長さを選択することが可能となっている。
【0013】
支持体11の長手方向における中間部には、モータ部12が設けられている。また、支持体11の先端部近傍には回転軸13が支持体11に対して回転可能に設けられている。図2に示すように、回転軸13は、その軸中心線が支持体11の長手方向に対して直交するように設けられており、回転軸13の両端部は、支持体11の両側部を貫通して外部に露出した状態となっている。また、モータ部12と回転軸13とは、支持体11の内部に設けられた図示しないチェーン等の伝達手段を介して接続されており、モータ部12によって回転軸13が駆動されて回転する構造となっている。
【0014】
支持体11の両側部において、外部に露出している回転軸13には一対の攪拌腕14がそれぞれ設けられており、回転軸13と一対の攪拌腕14とが一体となって回転するように固定されている。攪拌腕14は、図3に示すように、回転軸13の軸中心から径方向外側に向かって延びる4本の腕部14a、14b、14c、14dを有しており、回転方向において互いに隣り合う腕部同士が、直交するように配置されている。ここで、一対の攪拌腕14は、4本の腕部14a〜14dをそれぞれ有しているが、腕部の総数は、4〜6本とすることが望ましい。
【0015】
腕部14a〜14dの先端部には、台形形状の側面を有する板状の攪拌爪15a〜15dが、それぞれ設けられている。図2に示すように、腕部14a〜14dには攪拌爪15a〜15dがそれぞれ複数設けられており、図示の場合では、腕部14a及び14cには、攪拌爪15a及び15cがそれぞれ4枚ずつ設けられている。また、腕部14b及び14dには、攪拌爪15b及び15dがそれぞれ3枚ずつ設けられている。攪拌爪15a〜15dの枚数は、各腕部に設けられる攪拌爪の枚数を2〜4枚とすることが望ましい。
【0016】
また、攪拌爪15a及び15cは、攪拌腕14が回転したときに、同じ軌跡上を通過するように配置されている。攪拌爪15b及び15dも、攪拌腕14が回転したときに、同じ軌跡上を通過するように配置されている。一方、例えば攪拌爪15aに対する攪拌爪15bのように、回転方向において互いに隣り合う腕部(腕部14a及び14b)に設けられている攪拌爪同士は、攪拌腕14が回転したときに同じ軌跡上を通過しないように配置されている。したがって、全ての攪拌爪15a〜15dが、同じ軌跡上を通過するように配置されている場合と比較して、改良対象度の地盤をより細分化することが可能となっている。
【0017】
ここで、攪拌爪15a〜15dの側面形状である台形(図3参照)において、その上底と下底との距離を、攪拌爪15a〜15dの長さt(m)とする。1本の腕部、例えば図2に示す腕部14aに設けられている4枚の攪拌爪15aは、異なる二種類の長さtを有しており、外側に位置する2枚の攪拌爪15aの長さtが、内側に位置する攪拌爪15aの長さtより長い状態となっている。このように、攪拌爪15a〜15dにおいて、その長さtがそれぞれ異なるように構成することも可能であり、長さtを0.05〜0.3(m)の範囲内とすることが望ましい。ただし、攪拌爪15a〜15dがそれぞれ有する最大の長さtは全て等しくなっており、最大の長さtを有する攪拌爪15a〜15dの先端部が回転して描く軌跡は、同一径を有する円となるように構成されている。
【0018】
支持体11の両側部において、支持体11から最も遠い位置、図2の場合では攪拌爪15a同士または攪拌爪15c同士の間は、間隔Aとなるように配置されている。また、図3に示すように、最大の長さtを有する攪拌爪15bの先端部と攪拌爪15dの先端部との間、すなわち最大の長さtを有する攪拌爪15a〜15dの先端部が回転して描く軌跡である円も、直径Aとなるように構成されている。したがって、攪拌機4を改良対象地盤に貫入して引抜く1施工サイクルにおいて、改良対象地盤には、平面断面形状が1辺の長さAを有する矩形である改良体が造成されるようになっている。
また、支持体11の先端部には、攪拌機4を改良対象地盤に貫入する際に、左右両側の攪拌腕14の間に挟まれた中心部分の改良対象土を左右に分割し、支持体11の両側部に押し分けるためのスタビライザ16が設けられている。さらに、支持体11の先端部には、地盤改良施工機1の外部から供給される固化材スラリーを、改良対象地盤内に吐出するための下部固化材スラリー吐出口17が設けられている。また、支持体11の、攪拌爪15a〜15dが回転して描く軌跡である円の外周側にも上部固化材スラリー吐出口18が設けられており、固化材スラリーを改良対象地盤内に吐出可能となっている。
【0019】
以上のように構成される攪拌機4を、ベースマシン2のアーム2aを操作して移動させ、改良対象地盤に対する貫入及び引抜きを行うことによって、実施の形態1に係る地盤改良工法が行われる。ここで、攪拌機4を改良対象地盤に貫入する際に、攪拌機4が1(m)移動するのに要する時間を単位貫入時間V(min/m)とし、攪拌機4を改良対象地盤から引抜く際に、攪拌機4が1(m)移動するのに要する時間を単位引抜き時間V(min/m)とする。また、攪拌機4を改良対象地盤に貫入する際の、攪拌腕14の回転数を貫入時回転数a(rpm)とし、攪拌機4を改良対象地盤から引抜く際の、攪拌腕14の回転数を引抜き時回転数a(rpm)とする。さらに、支持体11の両側部にそれぞれ設けられた一対の攪拌腕14のうち、一方の攪拌腕14に設けられた攪拌爪15a〜15dの総数を片側枚数n(枚)とする。尚、貫入時回転数a及び引抜き時回転数aは、負荷回転時、すなわち攪拌腕14の改良対象地盤中での回転数を示すものとする。
【0020】
ここで、単位貫入時間V、単位引抜き時間V、貫入時回転数a、引抜き時回転数aは、改良対象地盤の土質や硬さ等に応じてそれぞれ調整される施工条件であって、常に一定とはならない変数である。これらの変数は、次式(1)を満たすように決定される。
770≦(V・a+V・a)n≦980・・・(1)
上記(1)式に示される(V・a+V・a)nは、一方の攪拌腕14に設けられたn枚の攪拌爪15a〜15dが、貫入及び引抜きの深度方向における距離1(m)の間に土壌をせん断する回数を示すものである。
【0021】
ただし、単位貫入時間V及び単位引抜き時間V、貫入時回転数a及び引抜き時回転数a、片側枚数nは、より定量的な品質の管理を可能とするために、それぞれ次式(2)〜(4)を満たす範囲にある値から選択される。
0.5≦V,V≦2.0・・・(2)
20≦a,a≦40・・・(3)
10≦n≦18・・・(4)
【0022】
また、攪拌機4が改良対象地盤内を1(m)移動するのに要する時間を単位掘削時間V(min/m)、攪拌機4が改良対象地盤内を移動する際の攪拌腕14の回転数を掘削時回転数α(rpm)、一対の攪拌腕14のうち、一方の攪拌腕14が有する複数の腕部の総数をs(本)、攪拌爪15a〜15dの長さをt(m)とすると、攪拌機4は、改良対象地盤内を1/V(m/min)の速度で移動する。また、攪拌腕14が1回転するのに要する時間は、1/α(min)であり、この1/α(min)の間に攪拌機4が移動する距離は、1/(V・α)(m)となる。一方、s(本)の腕部14a〜14dにそれぞれ設けられた長さt(m)の攪拌爪15a〜15dが、1/α(min)の間に通過する領域において、攪拌爪15a〜15dが描く軌跡同士が互いに重ならないように並べると、その長さはts(m)となる。
【0023】
改良対象地盤内における攪拌機4の速度1/V(m/min)と、攪拌爪15a〜15dが描く軌跡同士が互いに重ならないように並べた場合の長さts(m)とは、攪拌機4が移動する領域全体を攪拌爪15a〜15dが隙間無く通過し、この領域内の土壌をすべてせん断するように、
ts≧1/(V・α)
すなわち、
t≧1/(V・α・s)・・・(5)
を満たすように規定される。
【0024】
ここで、単位掘削時間V及び掘削時回転数αにおいて、その値をV=V及びα=aとすることも、V=V及びα=aとすることも可能であるが、混合攪拌がより確実に行われるように、V・aとV・aとのうち、小さな値となる方が選択される。また、攪拌爪15a〜15dが異なる長さtを有する場合においても、混合攪拌がより確実に行われるように、最も短い長さtが(5)式に適用される。
【0025】
次に、この実施の形態1に係る地盤改良工法について説明する。
まず、地盤改良施工機1を稼動して改良対象地盤の改良を行う前に、片側枚数n、図示の場合では計14枚の攪拌爪15a〜15dを有する攪拌機4が、フレーム3の先端部に取り付けられて地盤改良施工機1が構成される。次いで、式(1)を満たし、且つ固化材添加量や固化材スラリー吐出量等の施工条件を勘案しながら、単位貫入時間V、単位引抜き時間V、貫入時回転数a、引抜き時回転数aが決定される。ここで、単位貫入時間V及び単位引抜き時間V、貫入時回転数a及び引抜き時回転数a、攪拌爪の片側枚数nは、それぞれ式(2)〜(4)を満たす範囲にある値から選択される。単位貫入時間V及び貫入時回転数a、単位引抜き時間V及び引抜き時回転数aが決定されると、改良対象地盤の改良が行われる。
【0026】
図1に示す地盤改良施工機1は、決定された単位貫入時間Vに従ってベースマシン2のアーム2aを鉛直方向に下降させ、攪拌機4を改良対象地盤に貫入する。攪拌機4が改良対象地盤に貫入されるとともに、モータ部12が回転軸13を駆動して、攪拌腕14を貫入時回転数aで回転させる。攪拌腕14とともに回転する攪拌爪15a〜15dが改良対象地盤の土壌をせん断しながら、改良対象地盤を掘削が行われる。また、攪拌機4が改良対象地盤を掘削するとともに、支持体11に設けられた下部固化材スラリー吐出口17からは固化材スラリーが吐出される。攪拌爪15a〜15dは、改良対象地盤の土壌をせん断するとともに、土壌と固化材スラリーとを混合攪拌する。この際、支持体11の両側部に設けられた一対の攪拌腕14に挟まれて、攪拌爪15a〜15dが通過しない領域、すなわち支持体11の両側部において隣り合う攪拌爪15a〜15d同士の間にある土壌は、スタビライザ16によって分割される。分割された土壌は支持体11の両側部に押し分けられ、攪拌爪15a〜15dによってせん断されるとともに混合攪拌される。
【0027】
改良対象地盤の掘削が進んでスタビライザ16の下端部が改良目標深度に到達すると、地盤改良施工機1はアーム2aを単位引抜き時間Vで上昇させ、攪拌機4が改良対象地盤から引抜かれる。攪拌機4の引抜き時において、攪拌腕14が引抜き時回転数aで回転するとともに、支持体11の上部固化材スラリー吐出口18からは固化材スラリーが吐出される。したがって、攪拌機4の引抜き時においても、貫入時と同様に土壌と固化材スラリーとが攪拌爪15a〜15dによって混合攪拌される。また、貫入時にスタビライザ16が支持体11の両側部に押し分けた土壌は、攪拌機4を引抜く際に元の位置に戻るため、地盤改良が行われた範囲内には混合攪拌されていない土壌が存在しない状態となる。
【0028】
ここで、単位掘削時間V、腕部14a〜14dの総数s、掘削時回転数α、攪拌爪の片側枚数nは式(5)を満たすため、攪拌機4の移動方向において、改良対象地盤には攪拌爪15a〜15dが通過しない領域がない状態で混合攪拌が行われる。また、攪拌爪15a〜15dが回転して描く軌跡が直径Aを有する円であるとともに、支持体11から最も遠い位置にある攪拌爪15a同士または攪拌爪15d同士の距離もAであるため、貫入及び引抜きの1施工サイクルが済むと、改良対象地盤には、断面形状が一辺長さAを有する矩形形状である角柱状の改良体が造成される。
【0029】
以上のように、改良対象地盤に攪拌機4を貫入して引抜く1施工サイクルが済んで改良体が配置されると、ベースマシン2を移動して、改良対象地盤の他の領域に対する貫入及び引抜きが行われる。改良体の配置間隔は、所定の改良率を満たすように予め設定されており、この設定に基づいて以後の改良が行われる。図4に、50%の割合で改良を行った場合に改良体が形成されている様子を示す。
【0030】
次に、実施の形態1に係る地盤改良工法によって改良を行った際に収集されたデータを表1に示し、表1のデータをグラフ化したものを表2に示す。尚、表1及び表2に記載の変動係数CVは、No.1〜No.12の各現場にて造成された複数の改良体について、その一軸圧縮強さを測定して算出したものである。改良体の一軸圧縮強さにおける変動係数CVは、地盤改良品質の基準値として用いられており、変動係数CVを0.25以下とすることが一般的な要求品質の目安とされている。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表1及び表2より、せん断回数の下限値を770回(現場No.5のデータ参照)とすれば、変動係数CVを0.25以下とすることを実現できることが確認できる。したがって、単位貫入時間V、貫入時回転数a、単位引抜き時間V、引抜き時回転数a、片側枚数nを、式(1)〜(5)を満たすように決定することによって、所定の品質が確保されることを確認できる。
【0034】
このように、攪拌機4を、改良対象地盤に貫入して引抜くとともに、攪拌機4が有する一対の攪拌腕14を回転させながら、固化材スラリーを吐出して、改良対象地盤の土壌と固化材スラリーとを混合攪拌する地盤改良工法において、攪拌機4の単位貫入時間V、単位引抜き時間V、貫入時回転数a、引抜き時回転数a、片側枚数nとすると、一方の攪拌腕14に設けられた攪拌爪15a〜15dが、貫入及び引抜きの深度方向における距離1(m)の間に土壌をせん断する回数が、
(V・a+V・a)n
で示される。このせん断回数(V・a+V・a)nを、
770≦(V・a+V・a)n≦980
を満たすものとしたので、混合攪拌の程度を、施工者が決定する施工条件である単位貫入時間V、単位引抜き時間V、貫入時回転数a、引抜き時回転数a、片側枚数nによって定量的に管理することが可能となる。上式の値が小さく、770未満になった場合、変動係数CVを、土壌改良における一般的な要求品質の目安である0.25以下に抑えることが困難になる。一方、上式の値が980を超えた場合は、これ以上せん断回数を多くしても変動係数CVの抑制効果が得られず、経済性が悪くなる。すなわち、せん断回数を上式の範囲で設定すると、改良品質と経済性の両面を最も効率的に満足するものとなる。したがって、攪拌機4を用いた地盤改良工法において、施工中の定量的な品質管理が可能になり、その結果、所定の品質を安定して確保することを実現できる。
【0035】
また、攪拌機4を改良対象地盤に貫入して引抜く1施工サイクルにおいて、改良対象地盤には、平面断面形状が、1辺の長さAを有する矩形である改良体が造成されるように構成したので、改良対象地盤に対して部分的な改良を行うことが可能となり、所定の品質を低いコストで得ることが可能となる。
【0036】
さらに、攪拌機4が改良対象地盤内を移動する際の単位掘削時間V、掘削時回転数をα、腕部14a〜14dの総数をs、攪拌爪15a〜15dの長さt(m)とすると、攪拌機4は、改良対象地盤内を1/V(m/min)の速度で移動する。また、攪拌腕14が1回転するのに要する時間は、1/α(min)であり、この1/α(min)の間に攪拌機4が移動する距離は、1/(V・α)(m)となる。一方、s(本)の腕部14a〜14dにそれぞれ設けられた長さt(m)の攪拌爪15a〜15dが、1/α(min)の間に通過する領域において、攪拌爪15a〜15dが描く軌跡同士が互いに重ならないように並べると、その長さはts(m)となる。改良対象地盤内における攪拌機4の速度1/V(m/min)と、攪拌爪15a〜15dが描く軌跡同士が互いに重ならないように並べた場合の長さts(m)とにおいて、
ts≧1/(V・α)
すなわち、
t≧1/(V・α・s)
を満たすようにしたので、攪拌機4の移動方向において、その移動範囲のすべての領域を攪拌爪15a〜15dが通過する。したがって、攪拌爪15a〜15dが、通過する領域のすべてを確実に混合攪拌するため、地盤改良の品質を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施の形態1に係る地盤改良工法に用いられる地盤改良施工機を示す側面図である。
【図2】実施の形態1に係る地盤改良工法に用いられるロータリー式混合攪拌機を示す正面図である。
【図3】実施の形態1に係る地盤改良工法に用いられるロータリー式混合攪拌機を示す側面図である。
【図4】実施の形態1に係る地盤改良工法によって改良率50%の改良を行った場合の改良体配置図である。
【符号の説明】
【0038】
4 ロータリー式混合攪拌機、11 支持体、14 攪拌腕、14a,14b,14c,14d 腕部、15a,15b,15c,15d 攪拌爪、a 貫入時回転数、a 引抜き時回転数、n 攪拌爪の片側枚数、s 腕部の総数、t 攪拌爪の長さ、V 単位掘削時間、V 単位貫入時間、V 単位引抜き時間、α 掘削時回転数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
複数の腕部を有し、前記支持体の両側部に回転可能に設けられる一対の攪拌腕と、
前記腕部の先端部にそれぞれ設けられる複数の攪拌爪と
を備えるロータリー式混合攪拌機を、改良対象地盤に貫入して引抜くとともに、前記一対の攪拌腕を回転させながら、固化材スラリーを吐出して、前記改良対象地盤の土壌と前記固化材スラリーとを混合攪拌する地盤改良工法であって、
前記ロータリー式混合攪拌機を前記改良対象地盤に貫入する際に、前記ロータリー式混合攪拌機が1(m)移動するのに要する時間を単位貫入時間V(min/m)、
前記ロータリー式混合攪拌機を前記改良対象地盤から引抜く際に、前記ロータリー式混合攪拌機が1(m)移動するのに要する時間を単位引抜き時間V(min/m)、
前記ロータリー式混合攪拌機を前記改良対象地盤に貫入する際の、前記攪拌腕の回転数を貫入時回転数a(rpm)、
前記ロータリー式混合攪拌機を前記改良対象地盤から引抜く際の、前記攪拌腕の回転数を引抜き時回転数a(rpm)、
前記一対の攪拌腕のうち、一方の前記攪拌腕が有する前記複数の腕部に設けられた前記複数の攪拌爪の総数を片側枚数n(枚)
としたときに、
770≦(V・a+V・a)n≦980
を満たすことを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
前記ロータリー式混合攪拌機を、前記改良対象地盤に貫入して引抜く1施工サイクルにおいて、前記改良対象地盤には、平面断面形状が矩形である改良体が造成されることを特徴とする請求項1に記載の地盤改良工法。
【請求項3】
前記ロータリー式混合攪拌機が前記改良対象地盤内を移動する際に、前記ロータリー式混合攪拌機が1(m)移動するのに要する時間を単位掘削時間V(min/m)、
前記ロータリー式混合攪拌機が前記改良対象地盤内を移動する際の、前記攪拌腕の回転数を掘削時回転数α(rpm)、
前記一対の攪拌腕のうち、一方の前記攪拌腕が有する前記複数の腕部の総数をs(本)、
前記攪拌爪の長さをt(m)
としたときに、
t≧1/(V・α・s)
を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の地盤改良工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−280695(P2008−280695A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124305(P2007−124305)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000185972)小野田ケミコ株式会社 (58)
【Fターム(参考)】