説明

地盤段差部の補強構造

【課題】上部構造物の位置にかかわらず埋め戻し部分の土質改良による地中構造物に作用する荷重の軽減効果を高いレベルで発揮することができる地盤段差部の補強構造を提供することを目的とする。
【解決手段】片持ち式擁壁3と既存地盤6との間の空間には改良土7が充填されている。改良土7は現場での掘削工事により発生した残土を埋め戻した上で、埋め戻した残土にセメント系固化材を投入し油圧ショベルで混合攪拌した後転圧し固化させたものである。改良部8と既存地盤6にまたがるように上部構造物の基礎4が配置されて、更に改良部8には既存地盤と同一レベルとなるように、改良されていない普通土9が埋め戻されている。上部構造物の基礎4の形式は布基礎であり、既存地盤6の傾斜面10(改良部8と既存地盤6との境界面)と基礎4とが略直交するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁等の地中構造物を構築して地盤の段差部を補強する際の補強構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から地盤の段差部において地盤の崩壊防止や土地の有効利用を目的として擁壁等の地中構造物が構築されてきた。擁壁等の地中構造物を構築する場合、(a)地中構造物を構築する上で障害となる地盤が存在する場合には該当部分を掘削し、(b)地中構造物を構築し、(c)地中構造物の背面の埋め戻しを行い地盤面を復旧あるいは新設する、という手順で構築される。
【0003】
この場合、地中構造物の背面の埋め戻しに使われるのは、一般には地盤を掘削して発生した残土や山砂であるが、埋め戻し部上部に構造物を構築するような場合、埋め戻し部の沈下を防止する為に砕石が使用されることもある。いずれの場合であっても、地中構造物に対して水平方向に土圧等の側圧が作用するので地下構造物を設計する際には、側圧を考慮する必要がある。
【0004】
また、特許文献1に開示されているように、段差部近傍の地盤面に建造物が構築される場合、建造物の荷重によって擁壁の立ち上がり部に作用する土圧を可及的に低減させる為に、建造物の基礎の直下の土質層を改良することが行なわれてきた。この場合、建造物の荷重による土圧については低減が可能である。
【0005】
【特許文献1】特開2001−164557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された技術では、改良土質層の土圧は擁壁には作用しないが、非改良土質層の土圧が擁壁に直接あるいは改良土質層を介して作用するので、この土圧を考慮して擁壁の設計を行わなければならず、特に、改良土質層の縦横の比が小さいほど(縦長になればなるほど)、改良土質層が非改良土質層による土圧に対する「盾」としての機能が薄らいでしまい、改良土質層形成の効果が損なわれるという問題があった。
【0007】
また、改良土質層が上部構造物の基礎直下に限定されている為、上部構造物を建替えた場合には基礎が改良土質層以外の領域に配置される可能性があり、その際には非改良土質層の土圧以外に建造物の荷重による土圧が作用することになるので建替え後の基礎の配置に応じて再度土質を改良しなければならないという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、上部構造物の位置にかかわらず埋め戻し部分の土質改良による地中構造物に作用する荷重の軽減効果を高いレベルで発揮することができる地盤段差部の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る地盤段差部の補強構造の第1の構成は、土圧に対抗し得る地中構造物によって構成される地盤段差部の補強構造であって、所定の傾斜角を持つ斜面が形成された地盤段差部に底版端部が斜面の起点に接し又はその近傍に位置するように地中構造物を構築するとともに、前記地中構造物と高所側の既存地盤との間の空隙を所定の高さまで所定の圧縮強度とせん断強度とを有する改良土で埋め戻して構成したことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る地盤段差部の補強構造の第2の構成は、前記第1の構成において改良土を低吸水性材料としたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る地盤段差部の補強構造の第3の構成は、前記第1又は2の構成において、地盤段差部の高所側に構築された上部構造物の基礎梁に対し、既存地盤の傾斜面を略直交するように設定したことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る地盤段差部の補強構造の第4の構成は、前記第1〜3の何れかの構成において、所定の高さを、前記上部構造物の基礎の根切り底面あるいは地業面の高さと略同一としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る第1の地盤段差部の補強構造によれば、所定の圧縮強度とせん断強度を有する改良土で埋め戻しを行うことによって地中構造物に作用する土圧を低減することができ、更に既存地盤が所定の傾斜角度を有する傾斜面を形成しているので改良部分に比べて土圧係数の大きな既存地盤の土圧の影響を可及的に排除することができる。また、埋め戻し部を全面的に改良するので、上部構造物の配置を考慮することなく施工することができる。
【0014】
本発明に係る第2の地盤段差部の補強構造によれば、改良土を吸水性の低いものにすることによって地中構造物に対して含水による側圧の増大をも抑制することができる。
【0015】
本発明に係る第3の地盤段差部の補強構造によれば、既存地盤と改良部との境界部を上部構造物の基礎梁に対し略直交するように配置することにより、上部構造物が異なる性状を示す既存地盤と改良部とにまたがって配置された場合でも、基礎梁の有する剛性が充分に機能して構造安全性を高めることができる。
【0016】
本発明に係る第4の地盤段差部の補強構造によれば、改良面を上部構造物の基礎の根切り底面あるいは地業面と一致させたので、改良面上に直に基礎が構築できるので施工の手間が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る地盤段差部の補強構造を実施する為の最良の形態について説明する。本発明は、上部構造物がどのように配置されたとしてもその位置にかかわらず、土質改良による地中構造物に作用する荷重の軽減効果が高いレベルで発揮できる地盤段差部の補強構造を実現するものである。
【0018】
本発明において地盤段差部に構築される地中構造物とは、地中に完全に埋め込まれた状態にあるものではなく、地盤の段差部に構築され高所側の土壌や上部構造物による土圧を受ける擁壁、地下車庫、建物の布基礎等の構造物をさす。
【0019】
地中構造物が擁壁の場合、その構造形式は特に限定されるものではなく、鉄筋コンクリート製のL字状、逆T字状等の片持ち式擁壁、コンクリート製の重力式擁壁、間知石、間知ブロック等を傾斜させて積み上げて構成したもたれ式擁壁など、多様な形式に適用が可能である。
【0020】
地中構造物の背面の改良部に充填される改良土は、所定の圧縮強度とせん断強度とを有しており地中構造物に作用する土圧を低減し得るものであればよいが、掘削の際に発生する残土に改良材を加えて混合攪拌し固化させたものが、残土の処分量の低減という点で好ましい。改良材としては粉状のセメント系の固化材が好ましく、固化材の成分や混合比を調整することによって改良土の圧縮強度と剪断強度を所望の数値に設定することができ、鉛直荷重が作用しても土圧が発生しない程度の強度を持たせることが可能である。また、改良材と混合攪拌して転圧し固化させることにより、雨水等の吸水が制限され地中構造物に作用する側圧を可及的に低減させることも可能である。
【0021】
地盤の段差部に形成される斜面は、高所側の既存地盤に地盤を構成する土壌の応力分散角に基づく傾斜角を持たせることが好ましい。ここで応力分散角とは、地盤上のある点に下向きの鉛直荷重を作用させたときにその荷重が地盤の下方に向かって伝達されていく際の応力の広がる角度である。
【0022】
既存地盤の傾斜角(地中構造物の底版の高所側の先端部と既存地盤の突端を結ぶ直線がなす仰角)を応力分散角(α)に基づく値、すなわち(90−α)度以下とすることにより、既存地盤の自重や既存地盤に加わる鉛直荷重が改良土に伝達されなくなり、地中構造物に作用する土圧も低減することができる。また、段差部が安定するので段差部の崩壊防止の為の親杭、矢板等による仮設工事を省略あるいは簡略化できる。応力分散角は土壌の構成により変動するが、関東地区の一般的な粘性土の場合、凡そ30度から45度とみなすことができる。
【0023】
地盤段差部に構築される地中構造物は、底版端部が斜面の起点に接した位置に或いは起点の近傍に位置する。底版端部が斜面の起点に接した位置にある場合、段差部における土砂の掘削量を少なくすることができ好ましい。底版端部は斜面の起点に接した位置になくとも本発明の目的とする補強構造を実現できるが、底版端部が斜面の起点から離隔するに従って土砂の掘削量が増加するため、斜面の起点の近傍であることが好ましい。
【0024】
上記の構成で補強された地盤段差部の高所側において、既存地盤と改良部とに跨って建物等の上部構造物を構築する際には、既存地盤と改良部の圧縮強度やばね定数等の違いによる上部構造物への影響を低減させる為に高い剛性を有する基礎を備えていることが好ましい。高い剛性を持たせる為の基礎形式は連続基礎(布基礎)であることが好ましく、更に既存地盤の傾斜面(既存地盤と改良部との境界面)が基礎と略直交するように設定するのが好ましい。このように構成することで基礎の有する剛性が充分に機能して上部構造物の構造安全性を高めることができる。
【0025】
また、上記の構成で補強された地盤段差部の高所側において建物等の上部構造物を構築する際には、改良土は上部構造物の基礎の根切り底面あるいは地業面の高さと等しくすることが好ましい。このように構成することで、上部構造物の基礎を構築する際に改良部のレベル調整をすることなく直接基礎を構築することができ、施工の手間を軽減させることができる。
【実施例1】
【0026】
次に、図を用いて本発明にかかる地盤段差部の補強構造の第1実施例について具体的に説明する。本実施例はL字状の片持ち式擁壁を構築した地盤段差部における補強構造であり、図1は地盤段差部の補強構造の第1実施例の平面図、図2は断面図である。
【0027】
図1において、一点鎖線は本実施例の補強構造を施して上部構造物を構築する敷地1の範囲を示しており、当該敷地1に比べ図の左側の隣地2が一段低くなっており、この地盤の段差部を補強する為に地中構造物である片持ち式擁壁3が隣地境界に沿って構築されている。片持ち式擁壁3は鉄筋コンクリート製であり、図2に示すように、底版3aと立ち上がり壁3bとからなるL字型の断面形状を持ち、割栗石、砕石、捨てコンクリート等で構成された地業面3cの上部に構築されている。
【0028】
片持ち式擁壁3の構築に先立って地盤の掘削工事が行われるが、掘削工事は地業面3cの上部の領域及び底版3aの先端より所定の角度を持って地盤の段差部の高所側に引いた二点鎖線で示すライン5よりも上の領域について施される。ここで所定の角度とは、先に説明した敷地1を構成する地盤の応力分散角αに基づくものであり、例えば応力分散角αを30度とした場合、90−30=60度以下の角度である。この角度は60度以下であればよいが角度を小さくする程地盤の掘削量が増大し手間やコストがかさむことになるので60度に近い角度に設定するのが好ましい。
【0029】
図2に示すように、片持ち式擁壁3と高所側の既存地盤6との間の空間には改良土7が充填されている。改良土7は現場での掘削工事により発生した残土を埋め戻した上で、埋め戻した残土にセメント系固化材を投入し油圧ショベルで混合攪拌した後転圧し固化させたものである。固化材の投入量は、残土1m3 に対し、50〜150kgであり、固化後の改良土7の圧縮強度は、0.073N/mm2 以上、せん断強度は、0.036N/mm2 以上である。これは上部構造物が中低層の住宅程度の規模であれば十分な強度であり、片持ち式擁壁3等の地中構造物に対する土圧の影響はごくわずかである。また、改良土7の上端のレベルは予め後述する上部構造物の基礎4のフーチング4bの底面のレベルに等しく設定されており、レベル合わせをすることなく改良部8の上に直接基礎4を構築することができる。
【0030】
上部構造物の基礎4は鉄筋コンクリート造で、図2に示すように基礎梁4aとフーチング4bとからなる逆T字の断面形状を有し、上部構造物の外周部及びその内部に格子状に連続的に構築され、改良部8の上部には既存地盤6と同一レベルとなるように、改良されていない普通土9が埋め戻されている。
【0031】
改良部8は改良を施さない普通土に比べて圧縮強度や剪断強度が向上している為、改良土7の自重や上部構造物等による荷重によって片持ち式擁壁3の立ち上がり壁3bに作用する土圧が低減される。更に、既存地盤6は応力分散角に基づく傾斜角を有するので、既存地盤6の自重や上部構造物等による荷重が作用してもその荷重が既存地盤6の範囲を超えて改良部8側に伝達されることはない。従って、片持ち式擁壁3の立ち上がり壁3bが改良土7及び既存地盤6から受ける土圧は低減され、立ち上がり壁3bの厚みや鉄筋量を削減することや、底版3aの長さを小さくすることが可能となり、片持ち式擁壁3の構築の手間やコストを大幅に削減することができる。このような効果は、地上構造物の位置によらず発揮されるものであり、地上構造物の建替え等により鉛直荷重の値や作用する位置が変化した場合にも対応することができる。また、改良土7は改良を施さない普通土に比べ吸水性が低いので降雨時に吸水して立ち上がり壁3bに作用する側圧が増加することを可及的に低減することができる。
【0032】
また、上部構造物は片持ち式擁壁3と平行に配置されており、改良部8も片持ち式擁壁3と平行に形成されているので、基礎4のうち図1、2の左右方向に連続するものは既存地盤6の傾斜面10(改良部8と既存地盤6との境界面)に直交するように配置されている。このように構成することで上部構造物が強度や硬度等の異なる改良部8と既存地盤6とにまたがって配置されていても、基礎4の剛性が充分に機能して構造安全性を高めることができる。
【実施例2】
【0033】
次に、図を用いて本発明にかかる地盤段差部の補強構造の第2実施例について具体的に説明する。本実施例は間知ブロックを使用したもたれ式擁壁を構築した地盤段差部における補強構造であり、図3は地盤段差部の補強構造の第2実施例の断面図である。
【0034】
図3において、11は間知ブロックを使用したもたれ式擁壁、11aはコンクリート製の底版、11bは間知ブロック、11cは地業面である。他の構成は第一実施例と同一の為説明は省略する。間知ブロック11cは自立しない構造の為、間知ブロックの積み上げが全て完了した後に改良土を充填するという手順で施工することはできない。本実施例では(a)間知ブロック11cを1段積み上げる。(b)上段の間知ブロック7を載置可能なレベルまで改良土7を充填する。という工程を間知ブロック11bが所定の高さになるまで複数回繰り返すことによって、間知ブロック11bを使用したもたれ式擁壁11が構築された地盤段差部の補強構造を実現している。なお、図3において12は土留めコンクリートである。
【0035】
改良部8は改良を施さない土壌に比べて圧縮強度や剪断強度が向上している為、改良土7の自重や上部構造物等による荷重によって間知ブロック11bに作用する土圧が低減される。更に、既存地盤6は応力分散角αに基づく傾斜角を有するので、既存地盤6の自重や上部構造物等による荷重が作用してもその荷重が既存地盤6の範囲を超えて改良部8側に伝達されることはない。従って、間知ブロック11bが改良土7及び既存地盤6から受ける土圧は低減され、間知ブロック11bの傾斜角度を大きくし敷地1の有効面積を広げることができる。また、改良土7は改良を施さない普通土に比べ吸水性が低いので降雨時に吸水して間知ブロック11bに作用する側圧が増加することを可及的に低減することができる。
【0036】
また、上部構造物はもたれ式擁壁11と平行に配置されており、改良部8ももたれ式擁壁11と平行に形成されているので、基礎4のうち図3の左右方向に連続するものは既存地盤6の傾斜面10(改良部8と既存地盤6との境界面)に直交するように配置されている。このように構成することで上部構造物が強度や硬度等の異なる改良部8と既存地盤6とにまたがって配置されていても、基礎4の剛性が充分に機能して構造安全性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、地中構造物に対する土圧の影響を低減する補強構造であるので、特に転倒や滑動の検討で断面形状が決定する擁壁において利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る地盤段差部の補強構造の第一実施例の平面図である。
【図2】本発明に係る地盤段差部の補強構造の第一実施例の断面図である。
【図3】本発明に係る地盤段差部の補強構造の第二実施例の断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1…敷地
2…隣地
3…片持ち式擁壁
3a…底版
3b…立ち上がり壁
3c…地業面
4…基礎
4a…基礎梁
4b…フーチング
5…ライン
6…既存地盤
7…改良土
8…改良部
9…普通土
10…傾斜面
11…もたれ式擁壁
11a…底版
11b…間知ブロック
11c…地業面
12…土留めコンクリート
α…応力分散角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土圧に対抗し得る地中構造物によって構成される地盤段差部の補強構造であって、所定の傾斜角を持つ斜面が形成された地盤段差部に底版端部が斜面の起点に接し又はその近傍に位置するように地中構造物を構築するとともに、前記地中構造物と高所側の既存地盤との間の空隙を所定の高さまで所定の圧縮強度とせん断強度とを有する改良土で埋め戻して構成したことを特徴とする地盤段差部の補強構造。
【請求項2】
前記改良土を低吸水性材料としたことを特徴とする請求項1に記載した地盤段差部の補強構造。
【請求項3】
前記地盤段差部の高所側に構築された上部構造物の基礎梁に対し、前記既存地盤の傾斜面を略直交するように設定したことを特徴とする請求項1又は2に記載した地盤段差部の補強構造。
【請求項4】
前記所定の高さを、前記上部構造物の基礎の根切り底面あるいは地業面の高さと略同一としたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載した地盤段差部の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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