説明

地盤注入工法

【課題】環境にほとんど負荷をかけることのない地盤注入工法を提供する。
【解決手段】地盤中に埋設された、生分解性プラスチックを主要な構成成分とする埋設注入管を通して、前記生分解性プラスチックを分解可能な微生物および/または該微生物の栄養源を含むグラウトを地盤中に注入するか、或いは前記生分解性プラスチックを分解可能な微生物および/または該微生物の栄養源を含むシール材を特徴とする地盤注入工法である。前記グラウトが、さらにシリカ化合物を含有することが好ましく、前記グラウトが、さらにカルシウム塩を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤注入工法に関し、詳しくは生分解性プラスチックを主要な成分とする埋設注入管を通して特定の構成成分を有するグラウトを注入することによる、環境にほとんど負荷をかけることのない地盤注入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ダム、地下ダム、トンネル等の岩盤亀裂注入はもとより、放射性廃棄物の地下空洞内の封じ込め、LPG等の地空洞内の貯溜等において岩盤の微細な亀裂の充填が重要な国家的課題になっている。
【0003】
また、高浸透水圧下におけるトンネル掘削工事、大深度地下開発、あるいはダムや地下ダムの止水層の構築、また、近年は放射性廃棄物の岩盤空洞封じ込め、液化プロパンガスの岩盤空洞貯溜のための水封式地下岩盤タンク等の構築における、グラウト注入での強度と止水効果に優れた地盤注入が求められている。特に、高水圧下における掘削工事や大深度地下開発が長期間にわたる場合、あるいは岩盤空洞の構築や空洞周辺の止水層の形成においては、特に岩盤の微細な亀裂に広範囲にゲル化物を充填して、長期の止水性および長期の強度耐久性が要求されている。これらの問題が解決されれば、被圧下における掘削工事の安全性のみならず、また、止水層の形成、有害物の周辺への漏出、外部から空洞への浸透を防ぎ、周辺地盤の地下水位の低下や地盤変異が抑えられ、さらに、本設後の漏水等の補修費が低減される。
【0004】
一般に軟弱地盤や砂地盤等の地盤改良に用いられるグラウトとして、水ガラスを原料とした種々の溶液型シリカグラウトが知られている。例えば、水ガラス系アルカリ性グラウト、酸性シリカゾルを主成分としたグラウト、水ガラスを陽イオン交換樹脂またはイオン交換膜で処理して得られる活性シリカを主成分としたグラウト、活性シリカを濃縮増粒してpHが9〜10の弱アルカリ性で安定したシリカコロイド等である。
【0005】
また、環境に対する関心の高まりから、地盤改良の分野においてもなるべく施工箇所周辺環境に対する負荷の少ない技術が求められており、具体的には、地下水、土壌などへの有害物質の流出、滞留や、施工後の残留資材の無い工法の開発が行われている。例えば、本出願人等においても施工後に地中に存在する微生物により分解される地盤注入装置を用いた地盤注入工法(特許文献1参照)、強アルカリや強酸を使用せずに固結可能なグラウトについて開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3406567号公報
【特許文献2】特開2008−161778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1および2記載のグラウトは、土壌中の微生物、植生、地下水などの施行箇所周辺環境に対する配慮はなされていない。また、上記特許文献3記載の方法は、施工後に埋設管が長期に渡り地盤中に残存することを防ぐことはできるが、従来の工法と同様のグラウトを用いることから、強アルカリまたは強酸により土壌に悪影響を与える恐れがある。また、上記特許文献4記載の方法は、改良地盤周辺や、地盤改良後においても、グラウト由来の有害物質の発生を防止することができるが、埋設管を構成するプラスチックは分解されにくく、コスト削減のため施工後に除去せずに放置した場合にはプラスチックを合成するための成分、添加剤等の物質が周囲に溶出し、土壌および地下水汚染の原因となる可能性があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記従来技術における問題を解消して、環境にほとんど負荷をかけることのない地盤注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、生分解性プラスチックを主要な構成成分とした埋設注入管を通して、特定の成分を含有するグラウトを用いて地盤処理を行うことにより、有害物質の使用、発生を抑えることができ、施工箇所周辺の環境に対する負荷を低減することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の地盤注入工法は、地盤中に埋設された、生分解性プラスチックを主要な構成成分とする埋設注入管を通して、前記生分解性プラスチックを分解可能な微生物および/または該微生物の栄養源を含むグラウトを地盤中に注入することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の地盤注入工法は、前記グラウトが、さらにシリカ化合物を含有することが好ましく、前記グラウトが、さらにカルシウム塩を含有することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の地盤注入工法は、前記栄養源が糖であることが好ましく、前記グラウトを地盤に注入した後、前記生分解性プラスチックを分解する微生物を含有する材料を前記生分解性プラスチック内に充填することが好ましい。また、本発明の地盤注入工法は、汚染した土壌に前記グラウトを注入することが好ましく、さらに炭酸ガスを注入することが好ましい。また、本発明の地盤注入工法は、前記生分解性プラスチックが脂肪族ポリエステル樹脂組成物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、強アルカリや強酸などの有害な薬品を含むグラウトを使用する必要がなく、施工後に、地盤注入に用いた埋設管を地盤中に放置しても、微生物等により無害な物質に分解されることから、環境に対する悪影響が少ない地盤注入工法を提供することが可能になった。特に、埋設注入管の主要な構成成分である生分解性プラスチックを分解することができる微生物をグラウトに含ませることにより、グラウトを注入後、グラウトに含まれる微生物が埋設注入管も分解することにより、ただ埋設注入管を地中に放置しておくだけの場合よりも著しく早く埋設注入管を分解することが可能になった。そのため、地盤注入工法を行った後の不要な残骸物が消滅するまでの時間が大幅に短縮され、環境への負荷をさらに軽減できるようになった。また、上記微生物の栄養源を含むグラウトを用いることにより、地中に存在する生分解性プラスチックを分解することができる微生物が栄養源の利用を通じて増加し、埋設注入管の分解が促進され、上記と同様に、より早く埋設注入管を分解することが可能になり、工法を行った後の不要な残骸物が消滅するまでの時間が大幅に短縮されて環境への負荷が軽減できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の注入管の埋設試験の説明図である。
【図2】図2は、本発明にかかる注入材の注入装置の一具体例の説明図である。
【図3】図3は、本発明を孔壁防護材または注入材として実施する一具体例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
本発明に用いられる埋設注入管の主要な構成成分となる生分解性プラスチックは、微生物により分解される高分子化合物からなるものであって、熱可塑性であることが好ましく、従来公知の方法により加工でき、埋設注入管としての機械的強度を有するものである。施工後、地中に放置しておいても地中の微生物により分解され、残存することがないので周囲環境に負荷を与えない。また、燃やしても有害なガスを発生することもない。
【0016】
上記生分解性プラスチックとしては、主鎖が脂肪族で、これにエーテル結合またはエステル結合を有する構造の樹脂、主鎖もしくは側鎖に水酸基、カルボキシル基を有するものなどが挙げられる。具体的には、ポリヒドロキシブチレート/バリレート(PHB/V)、デンプン/ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)、エステル化澱粉、酢酸セルロース、キトサン/セルロース/澱粉、澱粉/化学合成系グリーンプラ、ポリ乳酸、(ポリ乳酸/ポリブチレンサクシネート系)ブロックコポリマー、ポリカプロラクトン、ポリ(カプロラクトン/ブチレンサクシネート)、ポリブチレンサクシネート、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート/カーボネート)、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)、ポリ(テトラメチレンアジペート/テレフタレート)、ポリエチレンサクシネート、ポリビニールアルコール、ポリグリコール酸などが挙げられ、これらを2種以上用いてもよい。その他、本発明の埋設注入管に適用可能な生分解性プラスチックの例として具体的な商品名を挙げると、セルグリーン(ダイセル化学(株)製)、ビオノーレ(昭和電工(株)、昭和高分子(株)製)、ラクティ(島津製作所(株)製)、ポバール(クラレ(株)製)、ワンダースターケン(ワンダー(株)製)、Biomax(デュポン社製)、Ecoflex(BASF社製)などがある。
【0017】
埋設注入管の厚みが厚いほど地中における微生物による分解時間は長くなる。また、注入地盤は、酸性からアルカリ性まで、あるいは海水浸透等様々な条件下にあり、さらに注入剤の種類によっても埋設注入管の分解時間は変わってくるが、埋設注入管は概ね1年以内には分解されるものが好ましい。
【0018】
本発明の方法に用いる埋設注入管は必要に応じて耐候性を落とすことにより分解または強度の低下を促進させることもでき、そのような埋設注入管を使用する場合には、特に、地盤注入工法の施工前の埋設注入管の保存、管理に注意し、例えば、直射日光に長時間曝すとか、雨中に放置することはできるだけ避けるのが好ましい。また、本発明に用いる埋設注入管の構成成分としてセルロース繊維を用いて、埋設注入管が粉砕されやすいようにしてもよい。上記セルロース繊維として、古紙、木粉、麻、コットンパルプおよび木材パルプなどが挙げられる。
【0019】
本発明の地盤注入工法に用いるグラウトは微生物もしくは微生物の栄養源またはその両方を含むものであり、それ以外の成分は環境に悪影響を与えるものでなければ、従来公知のグラウトと同様のものを用いることができる。外部から加えた微生物もしくは地中にもともと存在する微生物の代謝により栄養源がエタノールと二酸化炭素に分解されることで、大掛かりな装置や、薬品を使うことなく地盤を改良することができ、また施工箇所周辺環境に対する影響も少なくて済む。
【0020】
すなわち、例えばシリカ化合物と、微生物もしくは微生物の栄養源またはその両方を地盤中に注入すると、外部から加えた微生物もしくはもともと地中に存在する微生物が代謝を行って二酸化炭素を放出し、その二酸化炭素がグラウトのpHを下げる。するとシリカ化合物がゲル化し、土粒子間で固結して地盤を改良する。また、アルコール類も水ガラス等のシリカ溶液をゲル化させる能力を持つ。
【0021】
シリカ化合物としては水ガラスの他に、水ガラスをイオン交換樹脂又はイオン交換膜を用いて、水ガラス中のアルカリ分を除去して得られる活性シリカ、酸性水ガラスの酸根やアルカリ金属をイオン交換樹脂、イオン交換膜で除去して得られる活性シリカ、活性シリカを濃縮して造粒したコロイダルシリカ等があり、或いはこれらに水ガラスを混合したシリカ溶液でもよい。これらを用いることで確実にゲル化させることができる。また、水ガラスに微量の酸を加え、コロイド化させたものを用いることで、ゲル化に要する時間を短縮することもできる。また、マイクロバブルグラウトのように水またはシリカ溶液に微粒子気泡を混入したグラウトを用いることもできる。また、活性シリカを水ガラスまたは苛性ソーダで安定化させて一週間放置、熟成し、コロイドとしたものを用いることもできる。
【0022】
さらに、微生物と有機物を同時に注入することで、あるいは微生物が多く存在する地盤において施工する場合には有機物を地盤中に注入することで、微生物の呼吸量、代謝量つまり二酸化炭素の発生量を調節し、シリカ化合物のゲル化を促進あるいは調節することができる。
【0023】
また、二酸化炭素や酸素等の気体を同時に注入することで微生物の代謝量を調整し、ゲル化を促進あるいは調節することが可能である。
【0024】
シリカ化合物のゲル化促進或いは調整剤として、微生物に影響の少ないものを添加することでゲル化時間を調節することもできる。例としては、塩化カリウム、塩化ナトリウム等の無機塩や微量の酸、有機塩が挙げられる。また、カルシウム化合物やマグネシウム化合物などの多価金属化合物を添加することで、微生物の代謝で放出した炭酸ガスと多価金属化合物が反応して不溶性の多価金属炭酸塩を形成し、ゲル化時間を調整できるのみならず、注入材の強度を上げることもできる。また、微生物が活性化するpHに調整する必要があるため、少量のpH調整剤を用いても良い。
【0025】
本発明に用いられるシール材は注入孔の削孔壁と注入管周りの空隙を填充して、注入管の吐出口からの注入液の吐出圧力で破壊される程度の強度(50〜100kN/m程度の懸濁液が好ましい。具体例としては、リージングが少ないポルトランドセメント、低アルカリセメント、フライアッシュセメント等のセメント類、ベントナイト等の粘土、カルシウムアルミネート、石膏、硫酸ナトリウムなどの無機硫酸塩を混合あるいは溶融したものや、スラグ、石灰等、繊維やセルロース、CMC等の高分子化合物、多糖類があげられる。これらの組合せに微生物及び栄養源を混合したものを用いる。
【0026】
本発明に用いられる微生物は、本発明に用いられる埋設注入管の主成分である上記生分解性プラスチックを分解することができ、人体や環境に影響を与え難いものならば、いずれも使用可能である。特に、乳酸菌や納豆菌、パン酵母やビール酵母等の従来食品に利用されているものや、一般の地盤中に多く存在するもの、スタフィロコッカス属細菌、ペニバチルス属細菌、バチルス属細菌や、サーモアクチノマイセス属細菌、アミコラトプシス属放線菌、サッカロスリクス属放線菌、アクチノマデュラ属放線菌、ストレプトマイセス属放線菌などの放線菌なども利用できる。地中にて活性化する微生物として爆気、攪拌による空気を送る必要のない通性嫌気性菌である醗酵菌、腐敗菌を用いることもできる。また、圃場の土砂を採取してその混合液或いはその上澄液を用いても良い。乳酸菌による代謝では乳酸を生成することにより、pHを下げゲル化を促進或いは調節する。
【0027】
生分解性プラスチックを分解可能な微生物は、植物の葉に生息する微生物が有効であり好ましい。菌類、細菌類を問わず何れでもよく、典型的には酵母、糸状菌、細菌である。葉の表面に生息できる酵母の種類としては例えばPseudozyma属(P.antarctica、P.ruglosa、P.parantarctica、P.aphidisなど)やCryptococcus属(Cryptococcus laurenti、Cryptococcus flavusなど)、その他、Rhodotorula glutinis、Rhodotorulamucilaginosa、Sakaguchia dacryoidea、Sporidiobolus pararpseusやUstilago maydisなどが知られている。上記酵母のうち、Pseudozyma属またはCryptococcus属の酵母が好ましい。例えばPseudozyma antarctica JCM3941、Pseudozymaantarctica JCM10317、Pseudozyma antarctica JCM3941、Pseudozyma ruglosaJCM10323およびPseudozymaparantarctica JCM11752の酵母が挙げられ、Pseudozyma antarcticaJCM10317およびPseudozyma parantarctica JCM11752が特に好ましい。上記糸状菌としては、例えば、Acremonium属、Alternaria属、Arthrinium属、Aspergillus属、Aureobasidium属、Cladosporium属、Epicoccum属、Exophiala属、Fusarium属、Leptosphaeria属、Paecilomyces属、Penicillium属、Phoma属、Trichoderma属、Pseudotaeniolina属、Ulocladium属、Phaeosphaeriopsis属、Galactomyces属の糸状菌が挙げられ、このうち、Cladosporium属、Penicillium属、Leptosphaeria属およびAlternaria属の糸状菌が好ましい。例えば、Alternariaalternata、 Cladosporium cladosporioides、 Cladosporium oxysporum、 Penicilliumpinophilum の糸状菌が特に好ましい。
【0028】
現在、現地汚染地盤において栄養源を注入し、その土壌の微生物を増殖させ、汚染物質を分解させる方法が利用されていることより、現地より採取した微生物から、目的の分解能を持つ微生物を単離培養し、利用することもできる。
【0029】
本発明の地盤注入工法で用いる、微生物の栄養源とは、微生物によって代謝されるものであり、好ましくは土壌中の微生物によって代謝分解される糖類である。例えば、グルコースやフラクトースなどの単糖類、スクロース、マルトースあるいはガラクトースなどの2糖類、その他のオリゴ糖、デンプンやマルトデキストリンなどの多糖類、その他糖類を例示することができる。
【0030】
また、栄養分としてグリオキザールや炭酸や酢酸等の有機酸エステル等、水ガラスの反応剤を用いることで水ガラスのゲル化後の反応生成物を微生物の栄養源に利用すれば強度増加と反応性生物の分解に役立つことができる。
【0031】
微生物によって、あるいは有機栄養源によって代謝速度が変化するため、施工時地盤によって選択する必要がある。
【0032】
上記多価金属化合物とは、塩化カルシウム等のカルシウム塩や塩化マグネシウム等の多価金属塩、カルシウム水酸化物等として微粒子石灰や、微粒子セメント、微粒子スラグ、石膏、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、地盤中に含まれる貝殻等のカルシウムや、石灰等も反応に影響する。本発明においてシリカとカルシウムの併用は珪酸カルシウムの生成による強度増加をもたらす。
【0033】
本発明において、有害物を含む土又は廃棄物中に本発明の注入液を浸透、又は混合、被覆することにより有害物や廃棄物からの汚染領域の拡散を防ぐとともに、注入液中の微生物、或いは更に微生物、又は土壌浄化材を注入することにより、地盤を限定して浄化することもでき効果的である。
【0034】
本発明における有害物とは、6価クロム、水銀、鉛、カドミウム等の重金属、土木工事等によって発生する廃泥土、焼却灰、汚泥、産業廃棄物、環境ホルモン、農薬残留物、有機溶剤、有機洗剤等の有機化合物、ダイオキシン等人体や環境に悪影響を及ぼす有害物を含む地盤であり、例として、アルキル水銀、総水銀、カドミウム、鉛、有機リン、六価クロム、ヒ素、シアン、PCB、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロメタン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエチレン、シス−1,2−ジクロロエチレン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,3−ジクロロプロペン、チウラム、シマジン、チオベンカルブ、ベンゼン、セレン等が挙げられる。
【0035】
微生物による分解例としては、一例を示すと次のとおりである。
【0036】
産業廃棄物中の有機物は細菌や糸状金菌等の微生物によって分解される。発ガン物質であるトリハロメタンの生成に関与するアンモニアは硝化菌により、工業用溶剤トリクロロエチレンはアンモニア酸化菌により分解される。また、農薬は土壌中の糸状菌、細菌、放射菌によって分解される。
【0037】
例えば、パラチオンはPseudomonas stuzeriとPseudomonasaeruginosaの共同により分解される。また、カーバメイト系殺虫剤はPenicillium 、Trichoderma によって分解される。さらに、PCBはPseudomonas、Alcaligenesによって分解され、クロロベンゼンもPseudomonasによって分解される。これらの微生物、菌類を本発明において使用することはもちろん可能である。
【0038】
また、本発明において、シリカを使用しない場合は土粒子間に炭酸カルシウムが沈積して水密性を付与することにより透水性が低下するが、ゲル化を伴わないため、何回も繰り返して注入することによって止水性を向上させることができる。しかし、シリカを併用するとゲル化を伴うために1回の注入でも透水性の低下と固結が可能になる。勿論、何回も注入を繰り返せばその改良効果は更に向上するので好ましい。
【0039】
本発明に用いるグラウトは、微生物もしくは微生物の栄養源以外の成分として、硬化剤を用いてもよい。硬化剤としては、重炭酸塩、塩化カルシウム、重硫酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、硫酸バンド、みょうばん等の無機塩、炭酸、炭酸ガス、炭酸水、硫酸、燐酸、塩酸等の無機酸類、酢酸等の有機酸類、ジアセチン、トリアセチン、エチレンカーボネート等のエステル類、グリオキザール、微粒子セメント等のセメント類、微粒子スラグ等のスラグ類、消石灰や苛性アルカリ等のアルカリ剤等が挙げられる。この組成物の併用方法としては、いかなる方法でもよいが、本発明にかかる注入液を注入する前後に浸透させて併用する。
【0040】
また、本発明の方法は、カルシウム塩と、微生物もしくは微生物の栄養源またはその両方を地盤中に注入することが好ましい。外部から加えた微生物もしくはもともと地中に存在する微生物が代謝を行って二酸化炭素を放出し、その二酸化炭素が地盤に注入された二酸化炭素と反応して、炭酸カルシウムとなって析出する。析出した炭酸カルシウムが固化することで地盤が改良される。本発明の方法で使用可能なカルシウム塩としては、中性pH付近で水に溶解可能な塩であれば特に制限はないが、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられ、特に中性pH付近における水溶性の観点から、硝酸カルシウムの利用が好ましい。
【0041】
また、カルシウム塩を用いる場合には、pH緩衝剤を併用することが好ましい。pH緩衝剤は、微生物による炭酸ガスの発生および炭酸カルシウムの析出に好適なpH環境を提供すると共に、炭酸カルシウムの析出に伴った地盤中のpHの大きな変動を防止する作用も有する。pH緩衝剤は、弱酸性から弱アルカリ性付近にpHを保持することのできるものであれば特に制限されないが、環境に対する安全性を考慮して、クエン酸とクエン酸ナトリウムなどの有機酸と有機酸塩の組み合わせ、リン酸系緩衝剤、トリス緩衝剤などが好ましい。
【0042】
また、本発明の方法においては、グラウトの注入が終了した後、生分解性プラスチックを分解する微生物を含有する材料をさらに埋設注入管に充填してもよい。これにより、微生物をあまり多く含まない土壌における施工においても施工後不要になった埋設注入管の分解を引き起こすことができる。上記微生物を含有する材料としては、環境に対する悪影響がなければ特に制限されないが、例えば、微生物が存在しているコンポスト、土、堆肥成分、埴土、微生物を含む分散液、有機物を分解する細菌や糸状菌等の微生物を多く含む醗酵堆肥などが挙げられる。醗酵堆肥としては、腐葉土、鶏糞等の微生物を多く含む材料を混入し、高湿度にて十分に微生物を培養させた土を用いることができる。また、堆肥を混ぜ流動性を持たせた微生物を含む分散液を、地盤固結材を注入の後、引きつづいて注入地盤付近の土に、注入することで、注入管内のみならず、注入管の外側にも生分解しやすい環境をつくって一層分解を促進することができる。また、微生物が生分解しやすいように時々空気を管内に送り込むことが好ましい。
【実施例】
【0043】
(分解試験)
生分解注入管の分解を、各注入材もしくはグラウトとの組み合わせによる埋設試験により試験した。
紙と乳酸ポリマーの混合物、脂肪族ポリエステルポリマー、塩化ビニール、を素材とした注入管の埋設試験を行った。図1に示すような試験装置を用い、模擬地盤に埋設した注入管の周辺に、生分解性プラスチックを分解可能な微生物、微生物の栄養源、微生物と微生物の栄養源を含む注入材や孔壁防護材を注入管周辺に埋設し、注入管の分解の様子を観察した。各注入材、グラウトの配合は下記に示す。シリカ系微生物グラウト、カルシウム系微生物グラウト、及びシリカ系グラウトと栄養源は砂300gに対し薬液100mlの割合で混合した。注入管は、長さ100mm、外径50mm、管厚2.5mmのサイズのものを用いた。埋設した試験管は、58℃、水分含有100%で暗所にて約120日静置した。分解の度合いは目視による外観観察とペネトロ計による針貫入試験を行って評価した。結果を下記表3にまとめた。
【0044】
(注入材、グラウトの配合)
[砂]:園芸用川砂。滅菌したイオン交換水にて表面に薄く水の層が出来るほど、水を加えた。
[シリカ系微生物グラウト]:下記表1記載の通り。シリカ化合物として、市販コロイダルシリカ(SiO濃度30.0重量%、pH10付近、粒径10〜20nm)を用いた。
【表1】

※1 微生物として食用酵母を用いた。
※2 栄養源としてグルコースを用いた。
※3 水を足し、グラウトの全量を200mlとした。
[カルシウム系微生物グラウト]:下記表2記載の通り。低アルカリセメントとして、ジオパックグラウト(強化土エンジニヤリング株式会社製)を用いた。
【表2】

※1 微生物混合土として園芸用腐葉土を用いた。
※2 水を足し、グラウトの全量を200mlとした。
[シリカ系グラウトと栄養源]:下記表3記載の通り。シリカ化合物として、市販コロイダルシリカ(SiO濃度30.0重量%、pH10付近、粒径10〜20nm)を用いた。
【表3】

※1 pH調整剤として75%リン酸を使用した。
※2 栄養源としてグルコースを用いた。
※3 水を足し、グラウトの全量を200mlとした。
【0045】
【表4】

【0046】
実験より、生分解性注入管を模擬地盤に埋設していないもの(比較例4、5)や、砂地盤に埋設したもの(比較例1、2)に比べ、微生物を含むグラウトに埋設した実施例1、2、4および5において60日、120日経過後ともに強度低下が早くおこった。また、実施例3、6の結果から明らかなように、栄養源のみでも強度低下がおきた。平板法により微生物の数を測定した結果、栄養源注入前の地盤に比べカビと放線菌が共に約104〜8倍に増加したことから、微生物の代謝が活性化して、分解を促進していると考えられる。塩化ビニールからなる注入管である比較例3では、シリカ系微生物グラウトに埋設したものであっても120日後においても強度低下が見られなかった。
【0047】
(気体混合方法のフロー)
図2は本発明において実際の地盤において気体を混合する方法を説明したフローシートの一例である。主にA、B液送液管路21、複数系統(図2では2系統)の気体圧送管路、すなわち、高圧気体圧送管路19および低圧気体圧送管路23、および地盤9中に挿入された注入管10を含んで構成される。A、B液貯槽4、5には一方に主剤、一方にゲル化調整剤と微生物水溶液をいれてもよいし、一方に主剤とゲル化調整剤、一方に微生物と栄養源をいれてもよい。
A、B液送液管路21はA液貯槽4、B液貯層5から地盤9中に挿入された注入管10に配管され、図2に示されるように上流側からそれぞれ、混合槽8、注入ポンプ6および流量計7が送液管路21に配置される。
高圧気体圧送管路19は高圧気体容器12と連結管14を介して連結され、注入管10まで配管される。管路19内には電磁弁16、減圧弁18および気体吹き出しノズル20がそれぞれ配置される。この気体吹き出しノズル20は図示しないが注入管10に備えることもできる。
低圧気体圧送管路23は上述高圧気体圧送管路19と同様、圧力の低下された高圧気体容器11と連結管13を介して連結され、水溶液貯槽4、5、または水溶液送液管路21の混合槽8よりも上流側まで配管される。管路23内には上述と同様、電磁弁15、減圧弁17および上記と同様な気体吹き出しノズル22がそれぞれ配置される。
上述構成からなる本発明装置によれば、溶液送液管路21の上流側、または水溶液貯槽4,5中に、低圧気体圧送管路23を介し、低圧気体容器11から電磁弁15、減圧弁17および気体吹き出しノズル22を経て水溶液に気体を噴射し、次いで混合槽8で水溶液と気体を充分混合して気体の水溶液への吸収率を高め、かつ注入ポンプ6により気体の吸収されたシリカ化合物水溶液を液送液管路21を介して注入管10に送液する。
さらに、高圧気体圧送管路19を介し、高圧気体容器12から電磁弁16、減圧弁18および気体吹き出しノズル20を経て注入管10中に気体を噴射する。
さらに、気体吹き出しノズル20、気体吹き出しノズル22、水溶液送液管路21の先端にマイクロバブルの発生装置を取り付け、気体をマイクロバブル化することもできる。
【0048】
(本発明の施工例)
本発明を孔壁防護材または注入材として実施する場合を図3に示す。
(a)ケーシング24により地盤を掘削し、(b)掘削孔に孔壁防護材25を入れる。(c)生分解性注入管26を設置し(d)ケーシング24を引き抜く。(e)注入材29を注入する。
【0049】
(汚染土壌の浄化試験)
有機化合物トリクロロエチレン(TCE)により汚染された地盤の原位置浄化後の生分解注入管の分解状況を試験した。
1.土槽
直径1m、高さ1mの簡易土槽に硅砂を詰め、間隙率40%含水比20%となるように調整した。その後、トリクロロエチレン(TCE)濃度0.1mg/lを、簡易土槽の中心に生分解性注入管を用いて直径約30cm浸透させ、汚染土壌を作成した。
2.土壌浄化方法
以下の方法により地盤中のTCEの分解を行った。
実施例7:汚染土壌周辺に上記表1の配合のシリカ化合物と微生物の混合液により遮断壁を作成し、汚染地盤に硫化第一鉄を注入した。
比較例6:汚染地盤中に硫化第一鉄を注入した。
土壌浄化後、改良地盤のTCE量を測定した結果を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
その後、土槽中で生分解性注入管を埋設したままにし、1年後に掘り出し外観の観察および、ペネトロ計での針貫入試験を行った。実施例7は外観が茶色に変色し、指で押すと柔らかく、針貫入試験の結果が15.3N/mmだったのに対し、比較例6は外観が薄茶色で針貫入試験の結果が28.6N/mmだった。
【0052】
上記結果より、本発明の方法を用いた方が土壌浄化後において生分解性注入管の分解速度が高まり、土壌浄化後の掘削工事等にも影響を与えにくいことが分かった。
【符号の説明】
【0053】
1 容器
2 グラウト
3 注入管
4 A液貯槽
5 B液貯槽
6 ポンプ
7 流量計
8 混合槽
9 地盤
10 注入管
11 気体容器
12 気体容器
13 連結管
14 連結管
15 電磁弁
16 電磁弁
17 減圧弁
18 減圧弁
19 高圧気体圧送管路
20 気体吹き出しノズル
21 水溶液送液管路
22 気体吹き出しノズル
23 低圧気体圧送管路
24 ケーシング
25 孔壁防護材
26 注入管
27 吐出孔
28 地盤
29 注入材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に埋設された、生分解性プラスチックを主要な構成成分とする埋設注入管を通して地盤注入材を注入する工法において、前記生分解性プラスチックを分解可能な微生物および/または該微生物の栄養源を含むグラウトを地盤中に注入するか、或いは前記生分解性プラスチックを分解可能な微生物および/または該微生物の栄養源を含むシール材を注入管の周辺に充填することを特徴とする地盤注入工法。
【請求項2】
前記グラウトが、さらにシリカ化合物を含有する請求項1記載の地盤注入工法。
【請求項3】
前記グラウトが、さらにカルシウム塩を含有する請求項1記載の地盤注入工法。
【請求項4】
前記栄養源が糖である請求項1〜3のうちいずれか一項に記載の地盤注入工法。
【請求項5】
汚染した土壌に前記グラウトを注入する請求項1〜4のうちいずれか一項に記載の地盤注入工法。
【請求項6】
前記グラウトに加えてさらに気体を注入する請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の地盤注入工法。
【請求項7】
前記生分解性プラスチックが脂肪族ポリエステル樹脂組成物である請求項1〜6のうちいずれか一項に記載の地盤注入工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−80224(P2011−80224A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232412(P2009−232412)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(509023447)強化土株式会社 (31)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】