説明

地盤硬化材注入工法とその装置

【課題】従来、地盤硬化材を高圧噴射する噴射ノズルは、注入ロッドの側壁に設定されるため、圧送されてきた地盤硬化材はノズル部において略直角に屈折することになり、屈折部において発生する乱流によって圧送エネルギーが消耗減衰されてしまうという問題がある。
【解決手段】注入ロッドの核ノズル21に連絡する中核流路12の所定部位に旋回流誘導構造3を形成すると共に、複数の分流路を設け、中核流路の端末を膨出曲面形状32に構成して圧送噴流を曲面衝合により分割して圧送材料を分流路に旋回誘導し、エネルギーロスの少ない旋回流を発生させるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構築基礎地盤の強化支保、或いは地盤の安定化や止水を目的として対象地盤に地盤硬化材を高圧注入して地盤中に地盤硬化材層を造成する地盤硬化材注入工法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤の覆工支保や強化支保、或いは止水を目的とする硬化材層造成のための地盤硬化材注入は、硬化材噴流の到達距離を少しでも伸長して大径の硬化材層を造成することを理想とし様々な工夫が凝らされ、その1つとして核ノズルとこれを囲繞する環状ノズルからなる重合噴射ノズルにより硬化材噴流をエアーで包合して保護し到達距離を延長する方法(例えば特許文献1参照)が開発されている。
【0003】
更に、側方噴射ノズルの内壁を螺旋構造とすることにより、高圧噴射される硬化材噴流に螺旋回転を与えて有効射程を延長(例えば特許文献2参照)する手段等も講じられてきた。
【0004】
また、注入ロッドの核ノズルに連絡する硬化材料圧送流路の所定部位から核ノズルに至る部位に旋回流誘導構造を形成して圧送材料を旋回誘導し、エネルギーロスの少ない旋回流を発生させること(特願2007−128819号)が本願出願人によって提案されている。
【特許文献1】特公平7ー100931号公報
【特許文献2】特開昭63ー289110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、地盤硬化材を高圧噴射する噴射ノズルは、注入ロッドの側壁に設定されるため、圧送されてきた地盤硬化材はノズル部において略直角に屈折することになり、屈折部において発生する乱流によって圧送エネルギーが消耗減衰されてしまう問題がある。
【0006】
また、従来、注入ロッド先端の清水噴出孔開閉のために中核流路の底部は、ボールの投入による噴出孔閉鎖を確実にするために流路分岐より下方にボール弁座を凹状に形成しているので、中核流路に圧送された噴流は一旦ボール弁座の凹部まで下降して流路分岐まで上昇流入することになり、多大なエネルギーの損失を招いていた。
【0007】
更に、硬化材噴流の到達距離を伸ばすために注入圧を高圧化すれば、それだけの危険を伴うほか、地盤に不自然な負荷を掛けて地盤隆起等の現象を発生させる恐れもあり、注入材料もそれだけ多量に必要となり、コスト的にも大きな負担となる。
【0008】
従来の注入ロッド内における硬化材圧送流路の径は、構造上の理由から多少の容積径に差異が生ずることはあるものの大きく変化することはなく、曲折等による乱流の発生等による圧送エネルギーの消耗減衰に対しては、特許文献2に記載の発明のように硬化材噴流に螺旋回転を与えて噴射時にエネルギーを付加することのほか、意識的に圧送力を変化させることは行われていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題に対応してこれを解決するため、先端部側壁に核ノズルと囲周ノズルから成る複数の重合噴射ノズルを互いに背向して設けた注入ロッドの材料圧送中核流路に、旋回流誘導構造を形成し流路端末を閉鎖すると共に、同端末部所定部位において中核流路の内壁の弧と内壁の弧を断面重合させて流入口を構成した前記複数の重合噴射ノズルの設定位置に対応して圧送材料を分割する複数の分流路を、前記複数の重合噴射ノズルの核ノズルにそれぞれ臨ませるように構成したものである。
【0010】
即ち、材料圧送中核流路に旋回流誘導構造を形成して硬化材噴流にエネルギーを付加すると共に、中核流路の端末部において圧送材料を分割する中核流路の内壁の弧と分流路内壁の弧を断面重合させて流入口を構成した複数の分流路を設けることにより、圧送されてきた地盤硬化材がノズル部において大きく屈折することを避けるようにした。
【0011】
複数の分流路の流入口を、中核流路の内壁の弧と分流路内壁の弧を断面重合させ、更に、分流路の内壁の弧と中核流路の内壁の弧を断面重合させた流入口の噴流旋回方向に対応する周弧壁の噴流衝合突部を除去して流入口の壁面を噴流旋回方向に沿う流線曲面形状に構成することにより、旋回角度に沿った流線状に噴流が分流路に流入され、ノズル部への分流と噴射ノズル口への導入を円滑なものとした。
【0012】
また、従来、中核流路に圧送された噴流が、一旦、ボール弁座の凹部まで下降して流路分岐まで上昇流入することになり、多大なエネルギーの損失を招いていたことに対応して中核流路の端末閉鎖形状を膨出曲面形状に構成し、噴流の分割を曲面衝合により円滑に行うようにして、従来、端末衝合によって発生する圧送エネルギーの消失を大幅に抑制した。
【0013】
次いで、中核流路の旋回流誘導構造によって形成される旋回噴流を、中核流路の端末部において圧送材料を分割する中核流路の内壁の弧と分流路内壁の弧を断面重合させ周弧壁の噴流衝合突部を除去した流入口により螺旋旋回角度のまま複数の分流路に分割伸長し、更に、各分流路に旋回エネルギーを増幅する旋回流誘導構造を設けてそれぞれの核ノズルに連通させて核ノズルからの高圧噴射に増幅された旋回推進力を付加するようにした。
【実施例】
【0014】
以下図面に従って本発明の実施の形態を説明する。1は注入ロッドで、先端部に装着されるモニターAの側壁には、中心部に核ノズル21、その周囲を囲んで囲周ノズル22が重合開口する重合噴射ノズル2、2が背向して設定され、スイベル11を介して噴射材料槽に連絡する中核流路12が核ノズル21に、エアー供給部に連絡するエアー流路13、13が囲周ノズル22に連通する。
【0015】
中核流路12には、流路内壁面に螺旋状に案内溝若しくは突条31による旋回流誘導構造3が形成され、流路端末は膨出曲面形状32により閉鎖すると共に、同端末部所定部位において中核流路の内壁の弧12aと分流路内壁の弧4aを断面重合させて流入口41を構成した複数の分流路4、4が設定される。
【0016】
複数の分流路4、4は、先端部側壁の複数の重合噴射ノズル2、2の設定位置に対応して圧送材料を分割すると共に、それぞれの所定部に形成した前記中核流路におけると同様の旋回流誘導構造3bを介して核ノズル21にそれぞれ臨んで旋回流誘導構造3bにより増幅された旋回推進力を付加した高圧噴流を核ノズル21から対象地盤に噴射するようになっている。なお、分流路の旋回流誘導構造3bは必ずしも設ける必要はない。
【0017】
中核流路12の端末を閉鎖する膨出曲面形状32の頂部には、ボール弁座33を介してロッド1の先端底部に設定された清水噴出孔14に連絡する清水供給路15への流入口が設定され、ロッド1を回動して対象地盤に掘進挿入する際にスライムを排除するための削孔水を供給し清水噴出孔14から対象地盤に噴出するようになっている。
【0018】
なお、注入ロッド1の対象地盤への挿入は、ロッド1自体の回動掘進によらず、建込みによって行い硬化材注入時に他の装置を用いて回動しても良く、その場合にはボール42の投入による噴出孔閉鎖のための清水噴出孔14やボール弁座33といった機構が必要なくなるので、図2に示すようにシンプルで滑らかな流線形状の膨出曲面形状32が形成され、圧送噴流の衝合分割が円滑に行われ、衝合分割によるエネルギーの消耗を更に抑制することができる。また、清水噴出孔の開閉はボール投入によらず、差圧弁によることもでき、この場合にはボール弁座33に代えて差圧弁が設定されることになる。
【0019】
注入ロッド1の後端はスイベル11となっており、ロッド内の各流路の対応部とその噴射材料槽に連絡するホース8、8に連結すると共に、基台6上に装置された注入ロッド駆動部5と作動機構7に支持される。
【0020】
ロッド1は上記のように構成され、掘進挿入の場合、その中心部には掘削下降時には清水供給路、硬化材の噴射注入を行う上昇時には硬化材供給路に切り換えられる中核流路12、その外周部に囲周ノズル22に噴射エアーを供給するエアー供給流路13が形成される。
【0021】
以上のように構成された地盤硬化材注入装置は対象地盤上に設置され、先ず、中核流路12に潤滑清水を供給して先端噴出孔14から噴出し、注入ロッド作動機構7によって注入ロッド1に対して回転等の作動を与えながら前進させて、ロッドクラウンの掘削刃9と注入ロッド1の回転によって注入ロッドを対象地盤Gに挿入させる。
【0022】
このように注入ロッド1を対象地盤Gに向けて推進挿入し、所定の深度に達したところで、スイベル11を外し中核流路12に連通する連結部からボール42を投入すると、ボール42は重力によって落下搬送され、端末の膨出曲面形状32の頂部に設定されたボール弁座33に嵌入して清水供給路15を閉塞する。
【0023】
同時に、それまで清水を供給していたホース8を硬化材に切替える。地盤硬化材としてはセメント系硬化材を用い、硬化材圧送の送圧力を20〜40メガパスカル、硬化材吐出量を100〜200リットル/分程度の高圧噴流として囲周ノズル22からのエアー噴射と共に噴射し、土質及び造成径により上昇速度を6〜20分/メートル程度に設定するものである。
【0024】
中核流路12には、流路端末の膨出曲面形状32を介して圧送材料を分割する分流路4、4に至るまでの流路内壁面に螺旋状に案内溝若しくは突条による旋回流誘導構造3が形成され、中核流路12から膨出曲面形状32との衝合分割に至る高圧噴流は、この旋回流誘導構造3によって旋回エネルギーが加えられて膨出曲面形状32と衝合し、中核流路の内壁の弧12aと分流路4の内壁の弧4aを断面重合させて構成された流入口41に流入する。
【0025】
流入口41の噴流旋回方向に対応する周弧壁の噴流衝合突部4bは、図3に示すように噴流旋回方向に沿って除去され、流入口の壁面は噴流旋回方向に沿う流線曲面形状に構成されているので、旋回角度に沿った流線状に噴流が分流路4、4に流入され、分流路4、4にそれぞれ形成された旋回流誘導構造3bにより更に増幅されて旋回推進力を付加した高圧噴流が核ノズル21から対象地盤Gに旋回噴射されるものである。
【0026】
エアー供給路13に供給されたエアーは、重合噴射ノズル2の囲周ノズル22に供給されて上記硬化材噴流の包合噴流体として噴射されるので、前記乱流や流路抵抗の減殺と相まって核ノズルの口径を拡大することを可能にし、より短時間で硬化材噴流の到達距離の長い硬化材注入層Xの造成を行えるようにした。
【0027】
建込み挿入の場合には、他の掘削手段により用意された建込み孔に注入ロッド1を挿入し、硬化材供給機構とロッド回動機構に連結するので、スライムを排除するための削孔水の供給や硬化材への供給切替えのための清水供給路15、噴出孔14、更に、ボール弁座33やボール42が必要なくなるほか、硬化材の圧送注入工程としては上記と同じである。
【0028】
このようにして重合噴射ノズル2から硬化材とエアーの包合旋回噴流を噴射し、注入ロッド1を回転若しくは所定角度によって往復回動させながら抜去方向にステップアップして後退上昇させることにより、硬化材高圧噴流Yは周辺地盤を穿孔切削し土粒子を破砕して、対象地盤Gに注入ロッド1の駆動軌跡に沿って円筒状に硬化材注入層Xを造成する。
【0029】
次いで、隣接位置に注入ロッドを設定して同様に硬化材注入層の造成を行って側腹部を相互に交差接合させて硬化材注入層を造成し、更に、同様の硬化材注入層を次々に隣接させて所定形状に並列することにより、所定の注入層構造体を造成していくものである。
【0030】
本発明は以上のように構成したので、硬化材圧送流路の曲折等による乱流の発生による圧送エネルギーの消耗減衰を防止すると共に、穿孔噴流の直進性を強化して水くさび効果を増大させ、背向位置へのノズル設定によってロッドに掛かる噴射圧反力のバランスを保ち、旋回流誘導構造3による旋回エネルギーの付加と流線湾曲面に構成された流路内壁によって圧送エネルギーを従来に倍加する効率によって活用することを可能としたものである。

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例を示すもので、回動掘進によるロッド挿入のための潤滑清水の供給と硬化材への供給切替え構造を設けた注入ロッドの要部構造を示す注入ロッド先端部の縦断面側面図
【図2】同じく、建込み挿入用の注入ロッドの要部構造を示す注入ロッド先端部の縦断面側面図
【図3】同じく、中核流路の内壁の弧と分流路の内壁の弧を断面重合させて構成された分流路流入口の構造を示す中核流路と分流路の交差部横断面模式図
【図4】同じく、地盤硬化材注入層造成の施工状況を示す注入装置と地盤の全体を側面から見た施工説明図
【図5】同じく、重合噴射ノズルの正面からの外観状况を示す注入ロッドのノズル設定部分拡大正面図
【符号の説明】
【0032】
1 注入ロッド
11 スイベル機構
12 中核流路
12a 中核流路の内壁の弧
13 囲周ノズルに連通するエアー流路
14 清水噴出孔
15 清水供給路
2 重合噴射ノズル
21 重合噴射ノズルの核ノズル
22 重合噴射ノズルの囲周ノズル
3 旋回流誘導構造
3b 核ノズルに連通する分流路の旋回流誘導構造
31 旋回流誘導構造の案内溝若しくは突条
32 中核流路端末の膨出曲面形状
33 ボール弁座
4 中核流路からの分流路
4a 分流路の内壁の弧
41 分流路の流入口
42 ボール
5 注入ロッド駆動部
6 基台
7 注入ロッド作動機構
8 噴射材料槽に連絡するホース
9 ロッドクラウンの掘削刃
A 注入ロッド先端モニター
G 対象地盤
X 地盤硬化材注入層
Y 硬化材高圧噴流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部側壁に核ノズルと囲周ノズルから成る複数の重合噴射ノズルを互いに背向して設けた注入ロッドの材料圧送中核流路に、旋回流誘導構造を形成し流路端末を閉鎖すると共に、同端末部所定部位において中核流路の内壁の弧と分流路の内壁の弧を断面重合させて流入口を構成した前記複数の重合噴射ノズルの各設定位置に対応して圧送材料を分割する複数の分流路を、前記複数の重合噴射ノズルの核ノズルにそれぞれ臨ませた注入ロッドを、対象地盤の所定深度まで挿入し、重合噴射ノズルの核部から高圧による地盤硬化材、囲周部からエアーを噴射しつつ、注入ロッドを回動上昇させて円柱状の硬化材注入層を造成することを特徴とする地盤硬化材注入工法
【請求項2】
複数の分流路における内壁の弧と中核流路内壁の弧を断面重合させた流入口の噴流旋回方向に対応する周弧壁の噴流衝合突部を除去して流入口の壁面を噴流旋回方向に沿う流線曲面形状に構成した注入ロッドを用いるようにした請求項1記載の地盤硬化材注入工法
【請求項3】
旋回流誘導構造を形成した中核流路の端末閉鎖形状を膨出曲面形状に構成した注入ロッドを用いるようにした請求項1又は請求項2記載の地盤硬化材注入工法
【請求項4】
重合噴射ノズルの設定位置に対応して圧送材料を分割する複数の分流路に、それぞれ流入時の旋回方向に対応した旋回流誘導構造を形成するように構成した注入ロッドを用いるようにした請求項1又は請求項2記載の地盤硬化材注入工法
【請求項5】
先端部側壁に核ノズルと囲周ノズルから成る複数の重合噴射ノズルを互いに背向して設けた注入ロッドの材料圧送中核流路に、旋回流誘導構造を形成し流路端末を閉鎖すると共に、同端末部所定部位において中核流路の内壁の弧と内壁の弧を断面重合させて流入口を構成した前記複数の重合噴射ノズルの設定位置に対応して圧送材料を分割する複数の分流路を、前記複数の重合噴射ノズルの核ノズルにそれぞれ臨ませて成ることを特徴とする地盤硬化材注入装置
【請求項6】
注入ロッドの、複数の分流路における内壁の弧と中核流路内壁の弧を断面重合させた流入口の噴流旋回方向に対応する周弧壁の噴流衝合突部を除去して流入口の壁面を噴流旋回方向に沿う流線曲面形状に構成した請求項5記載の地盤硬化材注入装置
【請求項7】
注入ロッドの、旋回流誘導構造を形成した中核流路の端末閉鎖形状を、膨出曲面形状に構成した請求項5又は請求項6記載の地盤硬化材注入装置
【請求項8】
注入ロッドの、重合噴射ノズルの設定位置に対応して圧送材料を分割する複数の分流路に、それぞれ流入時の旋回方向に対応した旋回流誘導構造を形成するように構成した請求項5又は請求項6又は請求項7記載の地盤硬化材注入装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−70930(P2010−70930A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237318(P2008−237318)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000128027)株式会社エヌ・アイ・ティ (18)
【出願人】(000152642)株式会社日東テクノ・グループ (6)
【Fターム(参考)】