説明

地盤表面保護工法

【課題】法面、斜面、断崖等の地盤を被覆して表面を保護しつつ、周辺環境との調和や景観に優れた地盤表面保護工法を提供する。
【解決手段】コンクリート又はモルタルを吹付けて、法面、斜面、断崖面を被覆し保護する地盤表面保護工法であって、周辺の地盤と略同色の顔料が添加されたコンクリート又はモルタルを前記法面、斜面、断崖面に吹付ける吹付工程と、この吹付工程で形成された吹付面に塗料を塗布する塗装工程と、とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤表面保護工法に関し、詳しくは周辺環境との調和や景観に優れたモルタル又はコンクリートを吹付ける工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤表面保護工法は、例えば、法面等にモルタル又はコンクリートを吹付ける工法であり、この法面等にラス張り等を行い、その上から吹付けを行い、10cm程度前後の厚みに仕上げるモルタル・コンクリート吹付工である。また、モルタル又はコンクリート中に、繊維を一様に分散させることで、通常のコンクリートに比較し、ひび割れ抵抗性が大きい、靱性が高い、引張強度・曲げ強度・せん断強度が大きい、割れや欠けが少ない、等のメリットを有する工法もある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公昭53−47602号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これら工法は、表層部の風化防止、浸食防止等を図る目的で、古くから採用されているが、表面の緑化等が困難なため、周辺環境との調和や景観面で劣っているという問題点がある。
【0004】
そこで、本発明の主たる課題は、周辺環境との調和や景観に優れた地盤表面保護工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決した本発明は、次のとおりである。
<請求項1記載の発明>
請求項1記載の発明は、コンクリート又はモルタルを吹付けて、法面、斜面、断崖面を被覆し保護する地盤表面保護工法であって、周辺の地盤と略同色の顔料が添加されたコンクリート又はモルタルを前記法面、斜面、断崖面に吹付ける吹付工程と、この吹付工程で形成された吹付面に塗料を塗布する塗装工程と、を有する、ことを特徴とする地盤表面保護工法である。
【0006】
(作用効果)
周辺の地盤と略同色の顔料をコンクリート又はモルタルに添加し、このコンクリート又はモルタルを吹付けることにより、地盤表面の保護を行なうと共に、色彩的に周辺の景観に調和させる。そして、ベース色が着色された吹付面の表面に塗料を塗布することにより、周辺の地盤との微妙な色合いや陰影表現等を調整でき、より本物らしいテクスチャーを表現することができる。
【0007】
また、外力(落石等)により、表面塗装が剥げてしまったり、吹付面の表面が欠けたとしても、吹付けたコンクリート又はモルタルに顔料が混合されていることにより、コンクリート又はモルタルそのものの地の色が出ることがなく、長期間にわたって、周辺環境との調和を図ることができる。
【0008】
ここで、本願発明でいう地盤表面保護工法とは、岩盤も含む地盤における法面、斜面、断崖面等の表面を保護する保護工法である。一般的に、表面保護工法に包含される法面保護工法は、法面が安定していて落石や部分的崩壊がなく、法面の表面だけの風化防止を主目的としているが、本発明における法面保護工法は、この目的に加え、(イ)風化岩、長大法面等で落石や部分的な崩壊が考えられる場合、(ロ)表面すべり(直線すべり)、又は円弧すべりが発生するものと予想される場合、(ハ)急勾配、ダム湛水面、浸透水の激しい法面の場合、に行われる法面抑止工法も含むものとする。また、法面には、当然のことながら護岸工事における法面(例えば、河川の護岸法面)も含まれるものであるから、この法面保護工法には、河川等の護岸保護を目的とした被覆も含まれるものである。また、法面には、ライニング面又はトンネル覆工面も含まれる。
【0009】
<請求項2記載の発明>
請求項2記載の発明は、前記塗料は、溶剤型2液性ウレタン樹脂塗料である、請求項1記載の地盤表面保護工法である。
【0010】
(作用効果)
溶剤型2液性ウレタン樹脂塗料は、高耐候性に優れ、ひび割れに対する追従性が高いことにより、長期間にわたって周辺環境との調和を図ることができる。
【0011】
<請求項3記載の発明>
請求項3記載の発明は、前記塗料を塗布する前に、前記吹付面に下地シーラーを塗布する、請求項1又は2記載の地盤表面保護工法である。
【0012】
(作用効果)
吹付面を下地シーラーで被膜することで、防水性や塗料の付着性を向上させることができ、長期間にわたって周辺環境との調和を図ることができる。
【0013】
<請求項4記載の発明>
請求項4記載の発明は、前記コンクリート又はモルタルには、繊維が混入されている、請求項1乃至3のいずれか1項記載の地盤表面保護工法である。
【0014】
(作用効果)
繊維を混入することで、引張強度・靭性の向上を図り、必要とされるセメント量を減らし、それに伴って吹付厚を薄くして、被覆対象の地盤表面の凹凸がでやすくなる。その結果、吹付面に地盤特有の細かい凹凸や亀裂、エッジを強調することができ、既存の地盤そっくりのテクスチャーを表現することができる。また、吹付けるモルタルの厚みを極力抑えることによって、既存の地盤部分との境における段差が目立たなくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、法面、斜面、断崖等の地盤を被覆して表面を保護しつつ、周辺環境との調和や景観に優れる等の利点がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
法面、斜面、断崖等の風化や浸食作用による落石や崩壊等を防ぐために、従来より、モルタル又はコンクリートを吹付けて表面を被覆し保護することが行われているが、その吹付面の人工的で無機質的な印象を与えるテクスチャーは、周辺環境と調和して景観面で優れているとはとてもいえるようなものではない。例えば、砂岩や礫、泥岩などの地層が露出している急勾配で切り立つ断崖では、風化や浸食作用によって落石と崩壊が起きてしまうため、この表面を被覆して保護する必要があるが、単に断崖をモルタル等で吹き付けるだけでは、前述したように、無味乾燥な景観になってしまう。そのため、景観をそのまま残しながら、安全を確保できる工法が求められており、例えば、前述の断崖では、周辺の断崖面と調和して景観に優れる防災工法が求められていた。
【0017】
そこで、現地の法面、斜面、断崖等を調査した上で、現地の地盤と同様な色味を配色した顔料を添加したモルタル又はコンクリートを法面等に吹付けて補強を行い、その吹付面にさらに塗料を塗布して微妙な色合いを調整すると共に、地盤や岩盤の割れや陰影等を表現していく工法を、本発明者らは知見した。以下に本発明に係る地盤表面保護工法の概要を、図1のフロー図に基づき説明する。
【0018】
まず、施工対象となる地盤の表面を清掃すると共に、その表面の整形を行なう。その後、ロックボルト(図示せず)を挿入するために、対象地盤の所定箇所を削孔し、そしてロックボルトを所望の本数挿入して定着させ、ロックボルトの頭部処理をする。
【0019】
次に、背面排水材を地盤の表面に敷設する背面排水処理を行なう。必要に応じてラス張りを行ない、このラスの上から、現地の地盤の色調に似せた顔料を混合したモルタルを吹付ける。
【0020】
その後、吹付面に塗装を行なうが、具体的には、吹付仕上げ部の汚れ、埃などをブラシなどで除去する等の塗装表面清掃をしておく。さらに、塗りむらをなくすために予め墨出しをしておくとよい。そして、多孔質物体である吹付けたモルタル又はコンクリートの空隙中に、液状物質である塗料を侵入させないように被膜するため、アクリル系エマルジョン樹脂、ウレタン樹脂又はシリコン樹脂等の下地シーラー材を吹付面に塗布する。その後、周辺地盤と違和感が生じないように、着色塗料を調色し、吹付面に塗装を施すものである。以下に、本発明に係る地盤表面保護工法について、さらに具体的に詳述する。
【0021】
<調査>
まず、施工対象である法面、断崖、斜面等についての施工に先立って、現場を十分に調査し、コンピュータグラフィックス等を用いて完成後の外観をシュミレーションして再現し、景観や周辺環境との調和をもたらすニーズにあった外観の検討を行なう。必要に応じて、スケール模型を作成して、現状の地盤や岩盤のイメージを忠実に模型に再現することによっても検討する。なお、現場での調査の際には、色見本帳等で地盤のベース色を確認しておき、後述する顔料や表面塗装の塗料配合の参考とする。
【0022】
<添加材料>
セメント等の吹付材料に添加する材料について説明する。
まず、既存の断崖そっくりのテクスチャーを表現するためには、吹付面に岩盤特有の細かい凹凸や亀裂、エッジを強調する必要があり、これを実現するには、吹付けるモルタル又はコンクリートの厚みを極力抑えることによって、岩盤表面の凹凸を吹付面の表面に出しやすくする必要がある。本発明では、この課題を解決するため、セメント等の吹付材料中に繊維を添加することで解決している。すなわち、繊維を入れることで、引張強度・靭性の向上を図り、必要とされるセメント量を減らし、それに伴って吹付厚を薄くして、表面の凹凸がでやすくしている。また、吹付けるモルタルの厚みを極力抑えることによって、既存の断崖部分との境における段差が目立たなくなる効果も生じる。
【0023】
本発明に使用する繊維には、素材としてケナフ、綿、麻、絹、椰子などの天然繊維並びにレーヨン、アセテート、キュプラ等の生分解性繊維や、アラミド、ポリエステル、ポリエチレン、ナイロン、ビニロン、アクリル、ポリプロピレン、ガラス、カーボン及びセラミック等の非生分解性繊維等が含まれる。また、繊維形態として長繊維(約10cm以上の長さを有するもの)や、カットファイバーとよばれる短繊維(5〜6cm程度の長さを有するもの)等が含まれる。このうち、ビニロン繊維の主成分であるポリビニルアルコール繊維(以下、PVA繊維という)を添加することが好ましい。PVA繊維は、高い引張強度及びコンクリートと同等以上の弾性係数により、 コンクリート強度・靭性の向上を図ることができ、親水性であるPVA繊維はセメントペーストとのなじみが良く、表面の凹凸と扁平断面により付着面積が大きく、高い付着性が得られ、コンクリート補強用として不可欠な耐アルカリ性はもちろん、 耐候性も良好で発錆がなく強度劣化もないため、安定して、モルタルやコンクリートの硬化収縮を制御し、引張強度や靭性の向上を図ることができるからである。
【0024】
なお、本実施の形態では、吹付材料に繊維を添加するだけでなく、予め対象地盤にラス(図示せず)を敷設して、モルタル又はコンクリートをそこに吹付ける。しかしながら、ラスを敷設することは必ずしも必要ではなく、保護すべき対象地盤の場所や性状等によっては、ラスを敷設しなくてもよい。
【0025】
次に、周辺地盤と同じ色調を出すためにセメント等の吹付材料に添加する顔料について説明する。顔料は、外力(落石等)により、後述する表面塗装が剥げてしまったり、吹付面の表面が欠けたときに、モルタル又はコンクリート自体の色が出てしまうのを防ぐためである。そのため、予め吹付材料に顔料を添加して形成されるカラーモルタル又はカラーコンクリートを使用するものである。顔料の配合量としては、セメントの総重量(kg)の2〜8%程度が好ましく、より好適には4〜5%である。なお、自然の地盤と違和感なく調和させるため、必要に応じて、数色(例えば、3色程度)のカラーモルタル又はカラーコンクリートを用意しておき、場所によって吹き分けることによって、より自然な地盤を再現することができる。
【0026】
<表面塗装>
前述したように、カラーモルタル又はカラーコンクリートを吹付けることによって、色合いとして周辺の地盤と調和させることができるが、より本物らしいテクスチャーを表現するためには、微妙な色合いを調整すると共に、岩盤も含む地盤の割れや陰影等を表現していくため、カラーモルタル又はカラーコンクリートの吹付面の上からの塗装を行なう塗装工程が必要となる。
【0027】
本発明に係る塗装工程に使用する塗装材料としては、水性ウレタン樹脂塗料、水性シリコン樹脂塗料、溶剤型2液性ウレタン樹脂塗料などが考えられる。
【0028】
水性ウレタン樹脂塗料は、耐用年数が8〜10年(目安)であり、i)水性で臭気が少なく火災の心配がない、ii)藻やカビの発生を防止する、iii)弾性があることによりひび割れに対する追随性が高い等の効果を有しているが、一方で材料費が高いというデメリットがある。
【0029】
水性シリコン樹脂塗料は、耐用年数が10〜12年(目安)であり、i)光沢感、肉持ち感が良く耐アルカリ性、耐侯性が優れている、ii)水性で臭気が少なく火災の心配がない、iii)ガラス質(シロキサン結合)の反応硬化塗膜が強靭で汚れにくい等の効果を有しているが、ひび割れに対する追従性が低く、汚れにくいというデメリットがある。ここで、擬土としては汚れることが必要であるため、汚れにくいというのはデメリットとなってしまうものである。
【0030】
溶剤型2液性ウレタン樹脂塗料は、耐用年数が8〜12年(目安)であり、i)2液反応硬化型で水性ウレタン樹脂塗料に比べて対抗性に優れ、変色、退色や光沢の低下に優れている、ii)ウレタン結合の特性で、耐アルカリ性、耐侯性が優れる、iii)弾性があることによりひび割れに対する追随性が高い等の効果を有しており、本発明に係る塗装工程における塗装材料としては好適である。
【0031】
塗装工程では、モルタルの色味にあわせて、上記塗料を塗布していくが、ベースの吹付の色調を生かしつつ、隣接する地層との色合いのマッチングや陰影の表現を施すことによって、よりリアルで自然な景観を再現することができる。岩盤の割れや陰影等については、黒系の塗料をしみこませた刷毛で、細かく塗って表現することにより現地の景観に合わせる。また、必要に応じてエアブラシで塗料を吹付けて岩盤の割れや陰影等を表現してもよい。このように微妙な陰影を表現することによって、本物の地盤とのなじみ具合も絶妙なものとなる。そして、モルタルの色味にあわせて塗料を塗布して形成された吹付面は、年月を経ることで(例えば、汚れが経時的に表面に付着しつづけることによって)、より自然になじんだ景観となる。
【0032】
<実施例>
図2及び図3に、本発明に係る地盤表面保護工法によって、施工された地盤表面保護構造物Nの例を示す。図に示されるように、既存の地盤そっくりのテクスチャーを表現することを可能としたことにより、景観をそのまま残しながら、周辺地盤と調和した地盤表面保護構造物Nを形成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る地盤表面保護工法のフロー図である。
【図2】本発明に係る地盤表面保護構造物の実施例の斜視図である。
【図3】その画像である。
【符号の説明】
【0034】
N…地盤表面保護構造物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート又はモルタルを吹付けて、法面、斜面、断崖面を被覆し保護する地盤表面保護工法であって、
周辺の地盤と略同色の顔料が添加されたコンクリート又はモルタルを前記法面、斜面、断崖面に吹付ける吹付工程と、この吹付工程で形成された吹付面に塗料を塗布する塗装工程と、を有する、
ことを特徴とする地盤表面保護工法。
【請求項2】
前記塗料は、溶剤型2液性ウレタン樹脂塗料である、請求項1記載の地盤表面保護工法。
【請求項3】
前記塗料を塗布する前に、前記吹付面に下地シーラーを塗布する、請求項1又は2記載の地盤表面保護工法。
【請求項4】
前記コンクリート又はモルタルには、繊維が混入されている、請求項1乃至3のいずれか1項記載の地盤表面保護工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−177000(P2006−177000A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370219(P2004−370219)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年6月25日 「日経コンストラクション」に発表
【出願人】(000115463)ライト工業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】