説明

地盤補強構造体

【課題】特殊な機械や高度の熟練技術を必要とせず比較的短期間で構築することができ、耐久性に優れ、自然環境に悪影響を及ぼすことのない地盤補強構造体を提供する。
【解決手段】地盤補強構造体10は、構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位Wより低位の地盤中に維持されるものであって、地盤11中に垂直に打設された複数の木製杭12a,13aと、これらの木製杭12a,13aに水平状態に積層して係止された第1木製筏構造体14および第2木製筏構造体16と、を備えている。木製杭12a,13aはそれぞれ一定方向に沿って互いに隣接するように複数打設され、これによって左右の縦列杭構造体12,13が形成されている。左右の縦列杭構造体12,13の間には、これらの縦列杭構造体12,13を横断する方向に沿って複数の木製杭を互いに隣接させて打設することにより、複数の横列杭構造体が一定間隔ごとに形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱地盤上に盛土などの重量構造物を施工する際に用いられる地盤補強構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤に盛土などの重量構造物を施工する際に用いられる地盤の補強手段としては、従来、様々な構造、工法が提案されている。このような地盤補強構造体あるいは工法のうち、本発明に関連する技術として、例えば、パイルネット工法および特許文献1に記載された軟弱地盤の側方流動防止構造がある。
【0003】
パイルネット工法は、軟弱地盤に松杭などの複数の杭を適切な間隔および深さで打ち込んだ後、杭頭部同士を鉄筋やロープなどの連結材で連結し、その上部にジオテキスタイルなどの土木用ネットを敷設するなどによって引張補強して盛土を行う工法である。この工法では、盛土直下の軟弱地盤の側方流動による周辺地盤の隆起対策として、周辺地盤への覆土(押さえ盛土)が併用される。
【0004】
一方、特許文献1に記載された軟弱地盤の側方流動防止構造は、軟弱地盤の下方の支持層に達するように当該軟弱地盤中に形成された所要の既製杭と場所打杭、または深層撹拌混合処理杭と当該既製杭および場所打杭、並びに、これらの杭の頭部を含む軟弱地盤上方に形成された所要の砂質盛土とを有するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平10−292360号公報(第3−5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のパイルネット工法においては、杭の鉛直支持力を期待しているため、軟弱地盤の層厚が大きく、杭先端が支持基盤に達しない場合、特に杭の周面摩擦抵抗が小さい粘性土地盤の場合、地盤沈下に対する効果が小さい。また、杭の頭部を連結する鉄筋やロープおよびネットなどは曲げ抵抗が極めて小さいため、頭部連結部に床版としての剛性は期待できず、盛土の不等沈下や中央部の大きな沈下を生じやすい。さらに、杭は所定の間隔で施工されるため、杭の間を抜ける側方流動が発生しやすく、その対策として、周辺地盤の押さえ盛土が必要となるので、周辺用地の確保などの新たな問題が生じる。
【0007】
一方、特許文献1に記載された軟弱地盤の側方流動防止構造においては、軟弱地盤の下方の支持層に達するように深層撹拌混合処理杭などを形成する必要があるため、軟弱地盤の層厚が大きい場合、長大な杭が必要となり、多大な施工費を必要とする。また、深層撹拌処理杭などの頭部を連結拘束する浅層撹拌混合処理スラブがない場合は、軟弱地盤上に形成される所要の砂質盛土で拘束されるだけであるので、盛土施工によって発生する盛土底部付近の引張力に十分対応できない。また、浅層撹拌混合処理スラブがある場合でも、盛土荷重や変形によってスラブに引張り破壊や亀裂を生じ、段差や不同沈下の原因となっている。
【0008】
さらに、盛土施工による側方流動の力は盛土直下付近で大きく作用するため、深層撹拌混合処理杭などは、盛土直下付近で大きな曲げ力を受けるとともに、盛土に伴う圧密沈下により大きな圧縮力を受ける。このため、深層撹拌混合処理杭などは、その施工本数を多くしたり、大断面積にしたりする必要がある。
【0009】
本発明は、このような従来の地盤補強技術の問題点を解決するものであり、本発明が解決しようとする課題は、特殊な機械や高度の熟練技術を必要とせず、比較的短時間で構築することができ、構築後の圧密沈下や地下水位回復により地下水位以下の地盤中に維持される補強構造として、耐久性に優れ、自然環境に悪影響を及ぼすことのない地盤補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の地盤補強構造体は、構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位より低位の地盤中に維持される地盤補強構造体であって、地盤中に垂直に打設された複数の木製杭と、これらの木製杭に水平状態に係止された木製筏構造体とを備えたことを特徴とする。ここで、木製筏構造体とは、複数の木材を互いに隣接させた状態で平面状に並列させて形成した筏形状の構造体をいう。
【0011】
このような構成とすることにより、木製筏構造体は、地下水位より低位の地盤中において、引張力や曲げ力に抵抗する比較的剛性の高いスラブとしての機能を発揮するので、盛土に伴う滑り破壊並びに不等沈下や段差の発生などを抑制する効果が得られる。また、木製筏構造体は、一般の盛土材料に比較して軽量であるため、盛土荷重の軽減効果が得られる。さらに、基底滑り破壊に対する安全性が向上するため、盛土の急速施工を可能とする効果も得られるほか、地震時等における盛土の耐震性を格段に向上させることができる。
【0012】
また、地下水位より高位の地表面上あるいは掘削平面上において複数の木製杭を地盤中に垂直に打設した後、これらの木製杭に係止する木製筏構造体を形成すればよいので、特殊な機械や高度の熟練技術を必要とせず比較的短期間で構築することができる。特に、木材は、地下水中に浸漬された状態であれば、腐食や材質劣化の進行が極めて緩慢であることから、構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位以下の地盤中に維持された木製筏構造体は耐久性も極めて優れている。さらに、天然の木材は地中に有害成分を放出することもないので、自然環境に悪影響を及ぼすこともない。
【0013】
ここで、複数の前記木製杭間の距離を一定に保持するための保持部材(例えば、タイロッドなど)を設けることにより、木製筏構造体を構成する並列状の木材を連結・結束することができるとともに、木製杭の頭部を連結することができる。なお、これらの保持部材としての機能は、盛土や上部構造物並びに荷重などによる地盤の圧密沈下および変位が収斂するまでの期間(長くとも数年間)発揮されれば十分である。このため、保持部材(タイロッド)としては、鋼材あるいは高張力鋼などが好適である。
【0014】
次に、本発明の地盤補強構造体は、地下水位より高位の地表面上あるいは掘削平面上において構築され、構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位より低位の地盤中に維持される地盤補強構造体であって、地盤中に複数の木製杭を互いに隣接状態で垂直に打設して形成された複数列の縦列杭構造体と、複数列の縦列杭構造体の間において当該縦列杭構造体を横断する方向に沿って複数の木製杭を互いに隣接状態で垂直に打設して形成された複数列の横列杭構造体と、少なくとも縦列杭構造体に水平状態に係止された木製筏構造体とを備えたことを特徴とする。
【0015】
このような構成とすることにより、前述の地盤補強構造体と同様、特殊な機械や高度の熟練技術を必要とせず比較的短期間で構築することができ、耐久性に優れ、自然環境に悪影響を及ぼすことのない地盤補強構造体を得ることができる。
【0016】
特に、複数列の縦列杭構造体は、盛土荷重による地盤内応力の側方への拡散を抑制するとともに変位の縁切り機能を発揮するので、盛土の築造過程において、木製筏構造体下の軟弱地盤の側方流動を抑止し、周辺地盤の引き込み沈下を抑制することができる。また、木製筏構造体が係止される、これらの複数列の縦列杭構造体は、基底滑り破壊に対する安全性を大幅に向上させるため、盛土の急速施工が可能となる。
【0017】
また、縦列杭構造体を横断する方向に形成された複数列の横列杭構造体は、盛土荷重による地盤内応力の拡散抑制と変位の縁切り機能をという機能を発揮するので、盛土の築造過程において、木製筏構造体下の軟弱地盤の拘束を促し、流動変形を抑制することができる。
【0018】
ここで、前記縦列杭構造体間の距離を一定に保持するための保持部材(例えば、タイロッドなど)を設けることにより、木製筏構造体を構成する並列状の木材を連結・結束することができるとともに、縦列杭構造体の木製杭の頭部を連結することができる。なお、これらの保持部材としての機能は、盛土や上部構造物並びに荷重などによる地盤の圧密沈下および変位が収斂するまでの期間(長くとも数年間)発揮されれば十分である。このため、保持部材(タイロッド)としては、鋼材あるいは高張力鋼などが好適である。
【0019】
なお、前述した地盤補強構造体において使用する木材の種類、材質、形状、サイズなどは使用する部位によって特に限定するものではないので、様々な木材を採用することができるが、林業地域で産出される間伐材を使用すれば、不要木材の有効活用を図ることができるだけでなく、山間部に放置されていた間伐材によって発生する流木災害を防止することもできる。
【0020】
また、前述した地盤補強構造体においては、木製杭あるいは木製筏構造体のほか、竹製杭や竹製筏構造体など天然素材を原料とする杭や筏構造体を使用することも可能であり、例えば、竹製杭や竹製筏構造体を使用した場合、木製杭や木製筏構造体を使用した場合と同様の効果を得ることができる。さらに、木製杭および竹製杭の両方を混在させたり、木材および竹材の両方を用いて筏構造体を形成することも可能である。
【0021】
一方、前記木製筏構造体を構成する木材が互いに立体交差するように複数の木製筏構造体を積層状態に配置した構造とすることもできる。このような構成とすれば、木製筏構造体全体の剛性が高まり、引張力や曲げ力に抵抗する比較的剛性の高いスラブとしての機能がさらに向上するので、盛土に伴う滑り破壊ならびに不同沈下や段差の発生などを抑止する効果が高まり、盛土荷重の軽減を図ることもできる。基底滑り破壊に対する安全性が向上するため、盛土の急速施工が可能となるだけでなく、盛土の耐震性が向上する。
【0022】
また、前記縦列杭構造体の間に、当該縦列杭構造体と略平行方向に沿って複数の木製杭を互いに隣接状態で垂直に打設して形成された少なくとも一列の中縦列杭構造体を配置した構造とすることもできる。このような構成とすれば、盛土などの基礎幅が大である場合に、盛土荷重による地盤内応力の拡散抑制と変位の縁切り機能が高まるので、盛土の築造過程において木製筏構造体下の軟弱地盤の拘束と流動変形および沈下を抑制することができる。また、地震時の地盤の液状化や側方流動を防止する機能も発揮する。
【0023】
なお、中縦列杭構造体は、縦列杭構造体の間に2列配置することが望ましく、これによって、軟弱地盤の流動変形と沈下を抑制するとともに、沈下変形が発生した場合、それを左右対称に保つことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、以下に示す効果を奏する。
【0025】
(1)構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位より低位の地盤中に維持される地盤補強構造体において、地盤中に垂直に打設された複数の木製杭と、これらの木製杭に水平状態に係止された木製筏構造体とを備えたことにより、特殊な機械や高度の熟練技術を必要とせず比較的短期間で構築することができ、耐久性に優れ、自然環境に悪影響を及ぼすこともない。
【0026】
(2)複数の木製杭間の距離を一定に保持するための保持部材を設けることにより、木製筏構造体を構成する並列状の木材を連結・結束することができるとともに、木製杭の頭部を連結することができる。
【0027】
(3)構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位より低位の地盤中に維持される地盤補強構造体において、地盤中に複数の木製杭を互いに隣接状態で垂直に打設して形成された複数列の縦列杭構造体と、複数列の縦列杭構造体の間において当該縦列杭構造体を横断する方向に沿って複数の木製杭を互いに隣接状態で垂直に打設して形成された複数列の横列杭構造体と、少なくとも縦列杭構造体に水平状態に係止された木製筏構造体とを備えたことにより、前記(1)の効果に加え、盛土の築造過程において、木製筏構造体下の軟弱地盤の側方流動を抑止し、周辺地盤の引き込み沈下を抑制することができ、盛土の急速施工が可能となる。
【0028】
(4)前記縦列杭構造体間の距離を一定に保持するための保持部材を設けることにより、木製筏構造体を構成する並列状の木材を連結・結束することができるとともに、縦列杭構造体の木製杭の頭部を連結することができる。
【0029】
(5)木製筏構造体を構成する木材が互いに立体交差するように複数の木製筏構造体を積層状態に配置した構造とすれば、スラブとしての機能がさらに向上するので、盛土に伴う滑り破壊ならびに不同沈下や段差の発生などを抑止する効果が高まり、盛土の急速施工が可能となる。
【0030】
(6)縦列杭構造体の間に、当該縦列杭構造体と略平行方向に沿って複数の木製杭を互いに隣接状態で垂直に打設して形成された少なくとも一列の中縦列杭構造体を配置した構造とすれば、盛土荷重による地盤内応力の拡散抑制と変位の縁切り機能が高まるので、盛土の築造工程において木製筏構造体下の軟弱地盤の拘束と流動変形および沈下を抑制することができ、地震時の地盤の液状化を防止する機能も発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態である地盤補強構造体について説明する。図1は本発明の第1実施形態である地盤補強構造体の施工途中の状態を示す斜視図、図2は図1に示す地盤補強構造体を構成する列杭構造体を示す斜視図、図3は列杭構造体に関するその他の実施の形態を示す斜視図、図4は図2に示す列杭構造体の部分平面図、図5は図4におけるA−A線断面図、図6は図4におけるB−B線断面図、図7は図1に示す地盤補強構造体を用いて盛土構造物を構築する過程を示す垂直断面図である。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の地盤補強構造体10は、地下水位Wより高位の地表面上あるいは掘削平面上に構築され、構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位Wより低位の地盤中に維持されるものである。地盤補強構造体10は、地盤11中に垂直に打設された複数の木製杭12a,13aと、これらの木製杭12a,13aに水平状態に積層して係止された第1木製筏構造体14および第2木製筏構造体16と、を備えている。
【0033】
図2に示すように、木製杭12a,13aはそれぞれ一定方向に沿って互いに隣接するように複数打設され、これによって左外縁の縦列杭構造体12と、右外縁の縦列杭構造体13とが形成されている。また、左右の縦列杭構造体12,13の間には、これらの縦列杭構造体12,13を横断する方向に沿って複数の木製杭15aを互いに隣接させて打設することにより、複数の横列杭構造体15が一定間隔ごとに形成されている。
【0034】
図1に示す第1層木製筏構造体14は、縦列杭構造体12,13を横断する方向に配置された複数の主桁木材14aと、これらの間を埋めるように敷設された複数の間詰め木材14bとで形成されている。木製筏構造体14上に積層された木製筏構造体16は、縦列杭構造体12,13と平行方向に配置された複数の主桁木材16aと、これらの間を埋めるように敷設された複数の間詰め木材16bとで形成されている。また、木製筏構造体16の上に、主桁木材14aと同方向に複数の主桁木材18aを配置し、これらの主桁木材18aの間に複数の間詰め木材(図示せず)を敷設することによって第3木製筏構造体18(図7参照)を形成する。
【0035】
第1〜3木製筏構造体14,16,18は、それぞれ所定間隔ごとに配置された複数の主桁木材14a,16a,18aの間に、複数の間詰め木材14b,16bなどを配列して形成されている。主桁木材14a,16a,18aには長さ、直径および材質などを所定の基準で選別、管理した木材を使用し、間詰め木材14b,16bには木材の種類、材質、形状、サイズなどを特に限定することなく、様々な木材を使用することができる。
【0036】
このような構成とすることにより、第1〜3木製筏構造体14,16,18は、地下水位より低位の地盤中において、引張力や曲げ力に抵抗する比較的剛性の高いスラブとしての機能を発揮するので、この後に施工される盛土に伴う滑り破壊並びに不等沈下や段差の発生などを抑制する効果が得られる。また、第1〜3木製筏構造体14,16,18は、一般の盛土材料に比較して軽量であるため、盛土荷重の軽減効果が得られる。さらに、基底滑り破壊に対する安全性が高いため、盛土の急速施工を可能とする効果も得られる。
【0037】
地盤補強構造体10を構成する木製杭12a,13a,15aと、主桁木材14a,16a,18aと、間詰め木材14b,16bとは、地下水中に浸漬された状態であれば、腐食や材質劣化の進行が極めて緩慢である。このため、構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位以下の地盤中に維持された第1〜3木製筏構造体14,16,18などは、施工後の耐久性も極めて良好である。
【0038】
また、後述するように、複数の木製杭12a,13a,15aを地盤11中に垂直に打設した後、これらの木製杭12a,13a,15aに係止する第1〜3木製筏構造体14,16,18などを形成すればよいので、特殊な機械や高度の熟練技術を必要とせず比較的短期間で地盤補強構造体10を構築することができる。また、天然素材である木材は地中に有害成分を放出することもないので、自然環境に悪影響を及ぼすこともない。
【0039】
左右2列の縦列杭構造体12,13は、盛土荷重による地盤内応力の側方への拡散を抑制するとともに変位の縁切り機能を発揮するので、盛土の築造過程において、第1〜3木製筏構造体14,16,18下方の軟弱地盤の側方流動を抑止し、周辺地盤の引き込み沈下を抑制することができる。また、第1〜3木製筏構造体14,16,18が係止される、これらの複数列の縦列杭構造体12,13は、基底滑り破壊に対する安全性を大幅に向上させるため、盛土の急速施工が可能である。
【0040】
また、縦列杭構造体12,13を横断する方向に形成された複数列の横列杭構造体15は、盛土荷重による地盤内応力の拡散抑制と変位の縁切り機能をという機能を発揮するので、盛土の築造過程において、第1〜3木製筏構造体14,16,18下方の軟弱地盤の拘束と流動変形を抑制することができる。
【0041】
なお、図3に示すように、縦列杭構造体12と縦列杭構造体13との間に、これらの縦列杭構造体12,13と略平行方向に沿って、複数の木製杭17a,19aを互いに隣接状態で垂直に打設して形成された2列の中縦列杭構造体17,19を配置した構造を採用することもできる。
【0042】
図3に示すような構造を採用すれば、盛土などの基礎幅が大である場合に、盛土荷重による地盤内応力の拡散抑制と変位の縁切り機能が高まるので、盛土の築造工程において木製筏構造体下の軟弱地盤の拘束と流動変形および沈下を抑制することができる。また、地震時の地盤の液状化を防止することもできる。中縦列杭構造体17,19は、2列配置しているため、軟弱地盤の流動変形と沈下を抑制するとともに、沈下変形が発生した場合、それを左右対称に保つことができる。
【0043】
なお、前述した地盤補強構造体10において使用する木材の種類、材質、形状、サイズなどは使用する部位によって特に限定するものではないので、様々な木材を採用することができるが、林業地域で産出される間伐材を使用すれば、不要木材の有効活用を図ることができるだけでなく、山間部に放置されていた間伐材によって発生する流木災害を防止することもできる。
【0044】
また、第1木製筏構造体14を構成する複数の主桁木材14aおよび間詰め木材14b,16bと、第2木製筏構造体16を構成する複数の主桁木材16aおよび間詰め木材16bと、第3木製筏構造体18を構成する主桁木材18aなどは、それぞれ互いに立体交差するように配置され、3つの第1〜3木製筏構造体14,16,18が積層状態に配置された構造が形成されている。
【0045】
従って、第1〜3木製筏構造体14,16,18全体の剛性が高く、引張力や曲げ力に抵抗する比較的剛性の高いスラブとしての機能に優れているので、盛土に伴う滑り破壊ならびに不同沈下や段差の発生などを抑止する効果が高まる。また、基底滑り破壊に対する安全性が向上するため、盛土の急速施工が可能となる。
【0046】
次に、図4〜図7を参照して、図1に示す地盤補強構造体10の施工手順について説明する。図4は図2に示す列杭構造体の部分平面図、図5は図4におけるA−A線断面図、図6は図4におけるB−B線断面図、図7は図1に示す地盤補強構造体を用いて盛土構造物を構築する過程を示す垂直断面図である。
【0047】
図2に示すように配列された2列の縦列杭構造体12,13のそれぞれの外側部分に、図4〜図6に示すように、側溝20を形成し、これらの側溝20内に複数の頭部拘束縦桁21を水平姿勢で埋設し、これらの頭部拘束縦杭21の外側に、2本1組の側端杭22を所定間隔ごとに複数箇所に打設する。2本1組の側端杭22は、2列の縦列杭構造体12,13のそれぞれの外側部分において縦列杭構造体12,13を挟んで互いに対向する位置に打設する。
【0048】
そして、2列の縦列杭構造体12,13を挟んで対向する側端杭22同士を連結するようにタイロッド23を設置する。タイロッド23の両端部は、2本1組の側端杭22の間に挟持され、係止部材24によって側端杭22に係止されている。なお、図4〜図6においては、縦列杭構造体12部分のみを示しているが、縦列杭構造体13部分においても図4〜図6と同様の構造が形成されている。
【0049】
このように、縦列杭構造体12,13間の距離を一定に保持するための保持部材としてタイロッド23を配置することにより、第1,2木製筏構造体14,16を構成する並列状の木材(主桁木材14a,16aおよび間詰め木材14b,14b)を連結・結束することができる。また、縦列杭構造体12,13を構成する複数の木製杭12a,13aの頭部を連結することができる。
【0050】
前述したように、縦列杭構造体12,13の外側に設けた側溝20に頭部拘束縦桁21を埋設し、頭部拘束縦桁21の外側に打設した側端杭22をタイロッド23で係止することよって、左右の縦列杭構造体12,13同士の間隔を一定に保持しているため、第1,2木製筏構造体14,16を形成する主桁木材14a,16aおよび間詰め木材14b,16bを強固に連結、拘束することができる。また、盛土載荷による軟弱地盤の側方流動並びに周辺地盤の引き込み沈下を抑制する機能を有する縦列杭構造体12,13を形成する木製杭12a,13aの頭部も強固に拘束することができる。
【0051】
なお、タイロッド23の保持部材としての機能は、盛土や上部構造物並びに荷重などによる地盤11の圧密沈下および変位が収斂するまでの期間(長くとも数年間)発揮されれば十分である。このため、タイロッド23としては、鋼材あるいは高張力鋼などが好適である。
【0052】
図4〜図6に示す一連の工程によって、図7(a)に示すような地盤補強構造体10が形成されたら、図7(b)に示すように、プレローディングなどによって地盤補強構造体10全体を地下水位Wより下に沈下させる。この後は、地盤補強構造体10の上に盛土構造物25などを構築することができる。
【0053】
本実施形態の地盤補強構造体10においては、主桁木材14a,16a,18aおよび間詰め木材14b,16bを全面的に敷設して第1〜3木製筏構造体14,16,18を形成しているため、第1〜3木製筏構造体14,16,18は高い剛性を発揮する。また、林業地域で産出される間伐材を、主桁木材14a,16a,18aあるいは間詰め木材14b,16bとして使用可能であるため、間伐材の有効活用を図ることができ、山間部に放置された間伐材によって発生していた流木災害を未然に防止することができる。
【0054】
次に、図8〜図10を参照して、本発明の第2〜4実施形態である地盤補強構造体について説明する。図8は第2実施形態である地盤補強構造体を用いて盛土構造物を構築する過程を示す垂直断面図、図9は第2実施形態である地盤補強構造体を用いて中程度の盛土構造物を構築する過程を示す垂直断面図、図10は第3実施形態である地盤補強構造体を用いて高い盛土構造物を構築する過程を示す垂直断面図である。なお、図8〜図10において、図1〜図7と同じ符号を付している部分は、前述した地盤補強構造10の構成部分と同じ機能、効果を発揮する部分であるため、説明を省略する。
【0055】
図8(a)に示す地盤補強構造体30は、地盤に打設した側端杭22に、第1〜3木製筏構造体14,16,18を係止することによって形成されている。前述した手順で地盤補強構造体30を形成した後、図8(b)に示すように、プレローディングなどによって地盤補強構造体30全体を地下水位W以下に沈下させ、その上に盛土構造物25などを構築することができる。また、地盤補強構造体30の場合、図9に示すように、盛土構造物25の上に、中程度の高さの上部盛土構造物26を構築することもできる。
【0056】
図10に示す地盤補強構造体40においては、図3で示したように、縦列杭構造体12と縦列杭構造体13との間に、これらの縦列杭構造体12,13と略平行方向に沿って複数の木製杭17a,19aを互いに隣接状態で垂直に打設して形成された2列の中縦列杭構造体17,19を配置している。これらの列杭構造体12,13および中縦列杭構造体17,19の間には、側端杭22、頭部拘束縦桁21およびタイロッド(図示せず)などで構成される頭部連結構造が形成されている。
【0057】
そして、縦列杭構造体12,13および中縦列杭構造体17,19に、第1〜5木製筏構造体14,16,18,36,38が5層に積層された状態で係止されている。なお、第4,5木製筏構造体36,38はそれぞれ第2,3木製筏構造体16,18と同じ構造である。
【0058】
このようにして形成された地盤補強構造40は、極めて高い剛性と強度とを備えているため、図10に示すように、地盤補強構造体40を形成した後、プレローディングなどによって地盤補強構造体40全体を地下水位W以下に沈下させれば、その上に盛土構造物37および高い上部盛土構造物39を構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の地盤補強構造体は、軟弱地盤上に盛土構造物などの重量構造物を施工する場合に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1実施形態である地盤補強構造体の施工途中の状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示す地盤補強構造体を構成する列杭構造体を示す斜視図である。
【図3】列杭構造体に関するその他の実施の形態を示す斜視図である。
【図4】図2に示す列杭構造体の部分平面図である。
【図5】図4におけるA−A線断面図である。
【図6】図4におけるB−B線断面図である。
【図7】図1に示す地盤補強構造体を用いて盛土構造物を構築する過程を示す垂直断面図である。
【図8】第2実施形態である地盤補強構造体を用いて盛土構造物を構築する過程を示す垂直断面図である。
【図9】第2実施形態である地盤補強構造体を用いて中程度の盛土構造物を構築する過程を示す垂直断面図である。
【図10】第3実施形態である地盤補強構造体を用いて高い盛土構造物を構築する過程を示す垂直断面図である。
【符号の説明】
【0061】
10,30,40 地盤補強構造体
11 地盤
12,13 縦列杭構造体
12a,13a,15a,17a,19a 木製杭
14 第1木製筏構造体
14a,16a,18a 主桁木材
14b,16b 間詰め木材
15 横列杭構造体
16 第2木製筏構造体
17,19 中縦列杭構造体
18 第3木製筏構造体
20 側溝
21 頭部拘束縦桁
22 側端杭
23 タイロッド
24 係止部材
25,37 盛土構造物
26,39 上部盛土構造物
36 第4木製筏構造体
38 第5木製筏構造体
W 地下水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位より低位の地盤中に維持される地盤補強構造体であって、地盤中に垂直に打設された複数の木製杭と、前記木製杭に水平状態に係止された木製筏構造体とを備えたことを特徴とする地盤補強構造体。
【請求項2】
構築後の圧密沈下や地下水位回復により、地下水位より低位の地盤中に維持される地盤補強構造体であって、前記地盤中に複数の木製杭を互いに隣接状態で垂直に打設して形成された複数列の縦列杭構造体と、複数列の前記縦列杭構造体の間において前記縦列杭構造体を横断する方向に沿って複数の木製杭を互いに隣接状態で垂直に打設して形成された複数列の横列杭構造体と、少なくとも前記縦列杭構造体に水平状態に係止された木製筏構造体とを備えたことを特徴とする地盤補強構造体。
【請求項3】
前記木製杭間の距離を一定に保持するための保持部材を設けた請求項1記載の地盤補強構造体。
【請求項4】
前記縦列杭構造体間の距離を一定に保持するための保持部材を設けた請求項2記載の地盤補強構造体。
【請求項5】
前記木製筏構造体を構成する木材が互いに立体交差するように複数の前記木製構造体を積層状態に配置した請求項1〜4のいずれかに記載の地盤補強構造体。
【請求項6】
前記縦列杭構造体の間に、当該縦列杭構造体と略平行方向に沿って複数の木製杭を互いに隣接状態で垂直に打設して形成された少なくとも一列の中縦列杭構造体を配置した請求項2〜5のいずれかに記載の地盤補強構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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