説明

地盤評価方法および地盤評価装置

【課題】自立性の弱い地盤の調査・観察に適し、しかも地下水特性を精度よく把握することができる地盤評価方法と、この工法を実行する安価な地盤評価装置を提供する。
【解決手段】内径下端部が下端に向かって拡大する傾斜面5aとされて下端縁部が鋭角とされた筒状の透明ケーシング5と、透明ケーシング5を軸方向下方に加える静的荷重で地盤に貫入させる載荷手段20と、透明ケーシング5内の掘削地盤を吸引排除する除荷手段30と、透明ケーシングを介して調査対象箇所を撮像する撮像機器40と、調査対象箇所の比抵抗を検出する比抵抗測定手段50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の調査・観察のために行われる地盤評価方法および地盤評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地質や地盤の調査・観察を目的に行われるボーリング孔壁面の画像撮影は、自立性のよいボーリング孔内にボアホールカメラ装置を挿入するボアホール画像撮影法が一般的である(例えば、特許文献1参照)。このボアホール画像撮影法は、カッター切削式ロータリー式ボーリングで掘削したボーリング孔にボアホールカメラ装置を挿入し、ボーリング孔の壁面を直接に部分照明してカメラで撮像する。
【0003】
しかしながら、ボアホール画像撮影法は、調査・観察の対象となるボーリング孔は、岩盤のような自立性のよいボーリング孔に限られ、砂質地盤や軟弱粘性土地盤のような自立性の弱い地盤のボーリング孔では地盤崩れ等の問題でボアホール画像撮影法の適用が難しい。また、ボアホール専用の特殊カメラを搭載した高額装置であるため、地盤の調査・観察の費用が高額となる。さらには、地盤の調査・観察の前に行われるボーリング孔掘削時の送水が、後の地盤の調査・観察に悪影響を及ぼすことがある。すなわち、ボーリング時の送水は、「掘削した地盤(土砂)の掘屑を孔の外に運び出す」目的と、「掘削により発生する摩擦熱を冷却する」目的と、「保孔材を用いた孔壁を保護する」目的で行われるが、調査・観察しようとする地盤に循環流体である水が浸透し、また、地盤が切削ボーリング時の振動で変動する。さらに、切削ボーリング時に地盤汚染調査の主な対象である揮発性有機塩素化合物が熱で気化して、地盤が膨脹や収縮、移動の変化をする。また、循環流体である水を使用すると、地盤の汚染物質が水と共に流出して、地盤の汚染箇所を拡大する可能性がある。さらに、水を使用すると、地盤中の地下水の有無観察や、正確な地盤の堆積状況、生物状況を観察することが難しくなる。
【0004】
そこで、本出願人は自立性の弱い地盤の調査・観察に適したケーシングボーリング工法およびケーシングボーリング装置を提案した(特許文献2)。
【0005】
このケーシングボーリング工法は、除荷手段による地盤吸引排除で生じる地盤の透明ケーシング支持力低下に応じて透明ケーシングを載荷手段の荷重で地盤中に静的貫入させるものである。
【特許文献1】特開2000−160978号公報
【特許文献2】特開2006−37573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載のケーシングボーリング工法では、自立性の弱い地盤であっても、ボーリングしていくことができ、しかも、透明ケーシングを介した地盤の観察が可能であった。
【0007】
ところで、地盤には地下水を有する場合が多く、地盤の調査・観察に地下水特性(地下水の流れ等)を捉える必要がある。しかしながら、従来の工法では、透明ケーシングを介しての観察であり、実際の地下水の流れ等を把握するのが困難であった。
【0008】
すなわち、地盤における斜面等の安定性を評価するために、従来では、地盤の変位特性を計測する手法が行われていた。変位特性の計測は、地中の傾斜計測、斜面表層部の伸張計測等である。しかしながら、このような変位特性の計測では、いわゆる滑り線(滑り面)の評価は困難であった。土のもっているせん断に対する抵抗値をせん断強さといい、せん断破壊が生じた面を滑り面という。
【0009】
本発明の目的とするところは、自立性の弱い地盤の調査・観察に適し、しかも地下水特性を精度よく把握することができて、滑り線の位置とその安定性を評価する地盤評価方法と、この地盤評価方法を実行する安価な地盤評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の地盤評価方法は、除荷手段による地盤吸引排除で生じる地盤の透明ケーシング支持力低下に応じて透明ケーシングを載荷手段の荷重で地盤中に静的貫入させるケーシングボーリング装置を用いた地盤評価方法であって、前記透明ケーシングが調査対象箇所に到達したときに、調査対象箇所の画像の観察と、調査対象箇所の比抵抗の検出とを行い、その比抵抗の経時変化と画像とに基づいて、滑り線の位置とその安定性を評価するものである。ここで、透明ケーシングは、アクリル樹脂などの硬質透明樹脂材で形成された多角形や円形などの筒体や、透明樹脂とガラスの積層構造の筒体が適用できる。また、透明ケーシングは、ボーリング孔の壁面を安定させる強度を必要とする。さらには、透明ケーシングを介してボーリング孔の壁面を調査・観察できる透明度を必要とする。
【0011】
本発明の地盤評価方法によれば、透明ケーシングを載荷手段の荷重で地盤中に静的貫入させることができる。しかも、除荷手段によって地盤の堀屑の吸引排除を行うことができ、これによって、地盤の透明ケーシング支持力を低下させることができる。このため、掘屑を吸引排除しない間は、地盤の透明ケーシング支持力が低下せず、透明ケーシングの静的貫入が進行しない。これに対して、掘屑を吸引排除する動作を開始すると、吸引排除した除荷量に比例して地盤の透明ケーシング支持力が低下して載荷手段の荷重との重量バランスが崩れ、載荷手段の荷重で透明ケーシングの静的貫入が開始される。このような静的貫入は、自立性の弱い地盤でもボーリング孔の壁面を乱さず、摩擦熱の発生もほとんど無く、透明ケーシングの外周に沿ったボーリング孔の壁面を調査・観察するに望ましい良好な状態に保持する。
【0012】
また、透明ケーシングが調査対象箇所に到達したときには、前記観察に加え、調査対象箇所の比抵抗を検出することができる。物質の電気の流れやすさを導電率δ(s/m)といい、その逆数を比抵抗ρ(Ω-m)という。すなわち、比抵抗とは単位断面積を流れる電流の単位長さ当りの抵抗(電気伝導度の逆数)をいい、次式で表される。
【0013】
ρ=R・(s/L)
ここで ρ:比抵抗
R:電極間の電気抵抗=V/I(ohm−m)
V:電圧(V)
I:電流(A)
s:断面積
L:電極間の距離
【0014】
地盤の比抵抗は、土の種類・締め固め度を表す間隙率・含水率などにより変化するので、比抵抗分布を把握することによって、地盤内の状況を推定することができる。一般には、粘土分の多い土ほど比抵抗は小さく、砂の多い土ほど比抵抗は大きくなる。また、間隙率が小さく含水率が大きいほど比抵抗は小さくなる。したがって、比抵抗は自然の堆積・侵食作用・地下水分布のほかに、耕作地、道路といった地盤の利用状況はもちろん、遺構の分布状況にも影響を受ける。
【0015】
地盤の比抵抗は、一般的には、多数の電極を用いた比抵抗法電気探査にて検出(測定)することができる。すなわち、地中に多数の電極棒を垂下し、その中の2本の電極間に電流を流し、この電流によって生じる別の2本の電極間の電位差を測定し、各電極間の距離、電流値及び電位差から地盤の見かけ比抵抗を求めるものである。
【0016】
このため、本発明では、その比抵抗の経時変化と画像とに基づいて、地層の動きと地下水特性(地下水流、水質、帯水層)とを評価することができ、この評価によって、滑り線(滑り面)の位置とその安定性を評価することができる。
【0017】
本発明の地盤評価装置は、内径下端部が下端に向かって拡大する傾斜面とされて下端縁部が鋭角とされた筒状の透明ケーシングと、この透明ケーシングを軸方向下方に加える静的荷重で地盤に貫入させる載荷手段と、前記透明ケーシング内の掘削地盤を吸引排除する除荷手段と、前記透明ケーシングを介して調査対象箇所を撮像する撮像機器と、調査対象箇所の比抵抗を検出する比抵抗測定手段とを備えたものである。
【0018】
本発明の地盤評価装置によれば、載荷手段にて、透明ケーシングを軸方向下方に静的荷重を加えることができる。これにて、透明ケーシングを地盤に貫入させることができる。除荷手段にて、掘削地盤(地盤の屑)を透明ケーシング内から吸引排除できる。すなわち、掘屑を吸引排除しない間は、地盤の透明ケーシング支持力が低下せず、透明ケーシングの静的貫入が進行しない。これに対して、掘屑を吸引排除する動作を開始すると、地盤の透明ケーシング支持力が低下して載荷手段の荷重で透明ケーシングの静的貫入が開始される。このような静的貫入は、自立性の弱い地盤でもボーリング孔の壁面を乱さず、摩擦熱の発生もほとんど無く、透明ケーシングの外周に沿ったボーリング孔の壁面を調査・観察するに望ましい良好な状態に保持する。
【0019】
比抵抗測定手段にて、調査対象箇所の比抵抗を検出することができ、これによって、比抵抗の経時変化と画像とに基づいて、地層の動きと地下水特性(地下水流、水質、帯水層)とを評価することができ、この評価によって、滑り線(滑り面)の位置とその安定性を評価することができる。
【0020】
地盤に盛土荷重などの外力が加わると、土中にせん断応力が発生する。土中のある面でせん断応力が、その土のせん断に対する抵抗値をこえると、その面に沿ってすべりが生じてせん断破壊する。土のもっているせん断に対する抵抗値をせん断強さといい、せん断破壊が生じた面を滑り線(滑り面)という。
【0021】
比抵抗測定手段が、プローブを有する比抵抗測定器と、この比抵抗測定器のプローブを透明ケーシングから調査対象箇所に突出させる押出機構とを備えたものが好ましい。プローブの透明ケーシングからの突出量を3mm〜10mm程度とすることができる。プローブの突出量が3mm未満であれば、突出量が小さすぎて、電極間の電位差の検出が安定せず、逆に突出量が10mmを越えれば、突出量が大きすぎて、突出ストロークが大きくなって、押出機構のコンパクト化を阻害すると共に、押圧力が大となる。また、押出機構が、エアや水の供給により膨張するバルーンを備えたもので構成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、地盤に透明ケーシングを静的貫入するため、自立性の弱い砂質地盤や軟弱粘性土地盤の調査・観察に好適な地盤評価方法、地盤評価装置が提供できる。また、調査対象箇所の比抵抗を検出することによって、滑り線(滑り面)の位置とその安定性を評価することができる。
【0023】
このため、斜面の補強工の合理設計や安全性の向上を図ることができる。また、装置全体としても、簡略化を達成でき、従来の装置では、運搬および調査できなかった場所(例えば、本格施工前や防災のための海浜近傍や山間地のような不便な箇所および狭隘な地点)での調査を行うことができる。すなわち、人力での運搬および調査が行えるので、簡便に地質状況と地下水特性を調査でき、調査のコストダウンや安全性向上を図ることができる。
【0024】
また、比抵抗の経時変化を観察することによって、不飽和浸透特性の測定が可能となる。地盤の不飽和浸透特性を測定することによって、降雨下による地盤への浸透量あるいは地盤内圧力水頭など評価することができる。
【0025】
比抵抗測定手段が、プローブを有する比抵抗測定器と、この比抵抗測定器のプローブを透明ケーシングから調査対象箇所に突出させる押出機構とを備えたものでは、比抵抗測定器のプローブを透明ケーシングから調査対象箇所に安定して突出させることができ、調査対象箇所の比抵抗を確実に測定することができる。また、プローブの透明ケーシングからの突出量を3mm〜10mm程度とすることによって、調査対象箇所の比抵抗の測定が安定する。押出機構が、エアの供給により膨張するバルーンを備えたものであれば、このバルーンを膨張させることによって、プローブを簡単に透明ケーシングから突出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0027】
図1に示される地盤評価装置10は、砂質地盤や軟弱粘土性地盤などの自立性の弱い地盤1の調査・観察に適用されるもので、透明アクリル樹脂の透明ケーシング5を地盤1に静的貫入させるための載荷手段20と、地盤1の掘屑を透明ケーシング5から除去するための除荷手段30とを備える。透明ケーシング5は、図6に示すように、6枚の平坦な透明板5Aが組み合わされて形成される正六角形の多面筒体からなる。この場合、透明ケーシング5の上端に延伸枠6が継ぎ足される。
【0028】
すなわち、延伸枠6は、図7に示すような正六角形の多面筒体で、ボーリング深さに対応させて必要本数(適数本)のものが透明ケーシング5上に同軸に連結される。なお、延伸枠6は透明の材質で構成する必要がない。
【0029】
最上段の延伸枠6上に荷重伝達枠22が連結され、この荷重伝達枠22上に前記載荷手段20、例えば複数の重り板からなるウエイト21が載置される。
【0030】
地盤1上に脚立式の支持枠11が配備され、支持枠11の上端部に設置された滑車台上の滑車13から吊り下げたワイヤ14の下端に吊り輪16を介して吊りロッド15が連結される。支持枠11の中間位置に横架した軸保持枠12を吊りロッド15が貫通することで、吊りロッド15の振れが防止され、中心軸が保持される。この吊りロッド15の下端部に荷重伝達枠22を連結して、最適数の延伸枠6と、ケーシング5を鉛直に吊下支持する。
【0031】
図1に示す除荷手段30は、地盤1上に設置された吸引力制御装置兼土水貯留装置32から延びる吸引管31を備える。吸引力制御装置兼土水貯留装置32は、外部の真空吸引手段33に連接された土水貯留タンク構造で、吸引管31から吸引された掘屑、地下水を貯留する。図1に示される符号7は外部ケーシングで、透明ケーシング5より大径の通常ケーシングが適用され、これの用途は後述する。
【0032】
図1は透明ケーシング5によるボーリング施工時を示し、このボーリング施工後に図2と図5(A)に示すように透明ケーシング5内に撮像機器40が挿入されて、透明ケーシング5で形成されたボーリング孔2の壁面の撮像が行われる。図2に示す撮像機器40は、吊り下げ式の防水ケース41の中に撮像カメラ42と照明器具43を収納する。撮像カメラ42は、例えば市販のデジタルカメラで、防水ケース41の側壁一部に設けた防水透光窓45の外を撮像する。照明器具43は防水透光窓45の外を照明する。この撮像カメラ42と照明器具43の電源(図示せず)と操作スイッチ44が防水ケース41内に配備される。防水ケース41の上面に吊り下げ用支持管46の下端部が連結され、支持管46内に操作スイッチ44を操作するワイヤ47が挿通される。
【0033】
透明ケーシング5は、内径下端部が下端に向かって拡大する傾斜面5aとされて下端縁部が鋭角とされている。傾斜面(傾斜下端面)5aは、ケーシング外周と成す角度(鋭角)θを25度〜30度の範囲内に設定する。軟弱地盤に適用する透明ケーシング5においては、角度θは約27度に設定する。なお、透明ケーシング5を後述するように地盤1に静的貫入させる場合、ケーシング下端部の傾斜面5aの角度θは、弾性理論解では約30度以下(影響値0.05以下)で、小さいほど良くて理論的には0度〜30度の範囲指定が可能であるが、小さくするほど堀進時や運搬時にケーシング先端が破損し易くなることから、実用上は25度〜30度が適切である。
【0034】
また、この装置は、調査対象箇所の比抵抗を測定することができる。このため、図8に示すように、調査対象箇所の比抵抗を検出する比抵抗測定手段50を備える。
【0035】
比抵抗測定手段50は、複数のプローブ(電極)60を有する比抵抗測定器61と、この比抵抗測定器61のプローブ60を透明ケーシング5から調査対象箇所に突出させる押出機構53とを備える。
【0036】
比抵抗測定手段50は、2本の電極60,60間に電流を流し、この電流によって生じる別の2本の電極60,60間の電位差を測定し、各電極間の距離、電流値および電位差から地盤1の見かけ比抵抗を求めるものである。また、電極60には電線62が接続され、電線62が、比抵抗測定器61の本体(図示省略)に接続される。透明ケーシング5に孔部55が設けられ、この孔部55を介して電極60が突出される。
【0037】
押出機構53はエアや水等の流体の供給により膨張するバルーン56を備えたものである。そして、バルーン56は枠体58に収容され、エア等が供給されることによって、膨張して受圧板59を介して電極60を押圧する。これによって、電極60が押圧されて、その電極60が透明ケーシング5から突出する。この場合の突出量としては、3mm〜10m程度とされる。
【0038】
次に、上記した実施の形態の地盤評価装置10によるボーリング施工と地盤の調査・観察の動作例を説明する。
【0039】
図1の状態で透明ケーシング5に載荷手段20で所定の荷重を掛け、この荷重で透明ケーシング5に図3に示すように貫入力Pv(等分布荷重)を作用させると、ケーシング先端部内側の地盤1に作用する直力Piとケーシング先端部外側の地盤1に作用する直力Po及び剪断力Fvに分力する。外側地盤1(1A)には直力Poと剪断力Fvが作用し、この直力Poに対してはケーシングの剛性で安定する。内側地盤1(1B)には直力Piと剪断力Fvが作用し、地盤1にはそれに抵抗する円形状すべり面が生じて、ある貫入力のときに安定する。
【0040】
図3のように透明ケーシング5が初期貫入で安定している状態において、内側地盤1(1B)の反力となっている掘屑(土塊)の上部を吸引管31で吸引排除(除荷)することにより、その取り除いた掘屑重量相当分と貫入量減少による剪断力減少分だけ透明ケーシング5が再貫入する。図4は再貫入の様子を示し、透明ケーシング5は深さHxだけ再貫入して安定する。吸引管31による掘屑の吸引排除を連続して行うと、透明ケーシング5の再貫入が連続して進行(堀進)する。この再貫入で透明ケーシング5の外周面5bは地盤1を摩擦抵抗が少なく垂直に下り、ボーリング孔壁面を自然状態に近い良好な面のまま保持する。
【0041】
透明ケーシング5の静的貫入が終了すると、図2と図5(A)に示すように透明ケーシング5内に撮像機器40の撮像機固定兼防水ケース41を挿入する。透明ケーシング5内に地下水8が入っている場合は、撮像機固定兼防水ケース41を地下水8の中に挿入する。透明ケーシング5内で撮像機固定兼防水ケース41を横方向に360度回転させ、上下方向に移動させて、図6に示す六角形の透明ケーシング5の6枚の平坦な透明板5Aを通してボーリング孔壁面を部分的に連続して撮像し、撮像した各画像を合成して、ボーリング孔壁面全面の調査・観察を行う。
【0042】
また、地盤1の比抵抗を測定する場合、透明ケーシング5内に比抵抗測定手段50を挿入する。この場合、各電極60の軸心と透明ケーシング5の各孔部55の軸心とを合わせる。この状態で、押出機構53のバルーン56を膨らませ、各電極60を押し出すことによって、各電極60を透明ケーシング5から所定量(3mm〜10mm程度)だけ突出させる。
【0043】
このように突出させた状態で、前記したように、この比抵抗測定手段50にて比抵抗を測定する。この測定を経時的に行って、その比抵抗の経時変化と画像とに基づいて、地層の動きと地下水特性(地下水流、水質、帯水層)とを評価する。そして、この評価によって、滑り線(滑り面)の位置とその安定性を評価する。
【0044】
図9は滑り線評価概念図であり、本発明においては、滑りによって生じる変化を、電気抵抗の変化で捉えることになる。この場合の地盤1は、A層とB層とC層とD層とを有し、これらの層に跨って、ボーリング孔(観察孔)が形成されている。また、C層に滑り線が形成されている。
【0045】
透明ケーシング5の各平坦な透明板5Aの外周面に接して撮像されるボーリング孔壁面は平坦面で、このボーリング孔壁面を平坦な透明板5Aを通してカメラで撮像した画像は、円形透明ケーシングを使用して曲面を撮像した画像に比べ補正が簡単である。また、地下水動き観察は透明ケーシング5が多面体の場合に円形ケーシングより有利に行える。カメラで撮像した画像によるボーリング孔壁面の調査・観察は、通常の土粒子の岩石分類、火山灰種類、水で飽和しているか否か、生物の分類、画像のうちのピクセル計算などで行うことができる。
【0046】
図5(A)の状態でボーリング孔壁面の調査・観察が終了すると、次の透明ケーシング5の静的貫入を行う。図5(A)の状態で透明ケーシング5をボーリング孔2の孔底地盤3に静的貫入させることも可能であるが、摩擦抵抗が大きくて難しいことから、図5(B)と(C)に示すように行う。まず、図5(B)に示すように、外部ケーシング7で孔底地盤3を掘削し、掘屑を排除する。外部ケーシング7を所望の深さまで通常ボーリングしてから、図5(C)に示すように外部ケーシング7の下端部の孔底地盤3に対して透明ケーシング5を静的貫入させて、次のボーリング孔壁面の調査・観察を行う。
【0047】
このように、載荷手段20にて、透明ケーシング5を軸方向下方に静的荷重を加えることができる。これにて、透明ケーシング5を地盤に貫入させることができる。除荷手段30にて、掘削地盤(地盤の屑)を透明ケーシング5内から吸引排除できる。すなわち、掘屑を吸引排除しない間は、地盤1の透明ケーシング支持力が低下せず、透明ケーシングの静的貫入が進行しない。これに対して、掘屑を吸引排除する動作を開始すると、地盤1の透明ケーシング支持力が低下して載荷手段の荷重で透明ケーシング5の静的貫入が開始される。このような静的貫入は、自立性の弱い地盤でもボーリング孔2の壁面を乱さず、摩擦熱の発生もほとんど無く、透明ケーシング5の外周に沿ったボーリング孔2の壁面を調査・観察するに望ましい良好な状態に保持する。
【0048】
本発明によれば、地盤1に透明ケーシング5を静的貫入するため、自立性の弱い砂質地盤や軟弱粘性土地盤の調査・観察に好適な地盤評価方法、地盤評価装置が提供できる。また調査対象箇所の比抵抗を検出することによって、滑り線(滑り面)の位置とその安定性を評価することができる。
【0049】
このため、斜面の補強工の合理設計や安全性の向上を図ることができる。また、装置全体としても、簡略化を達成でき、従来の装置では、運搬および調査できなかった場所(例えば、本格施工前や防災のための海浜近傍や山間地のような不便な箇所および狭隘な地点)での調査を行うことができる。すなわち、人力での運搬および調査が行えるので、簡便に地質状況と地下水特性を調査でき、調査のコストダウンや安全性向上を図ることができる。
【0050】
また、比抵抗の経時変化を観察することによって、不飽和浸透特性の測定が可能となる。地盤1の不飽和浸透特性を測定することによって、降雨下による地盤1への浸透量あるいは地盤内圧力水頭など評価することができる。
【0051】
比抵抗測定手段50が、プローブ60を有する比抵抗測定器61と、この比抵抗測定器61のプローブ60を透明ケーシング5から調査対象箇所に突出させる押出機構53とを備えたものでは、比抵抗測定器61のプローブ60を透明ケーシング5から調査対象箇所に安定して突出させることができ、調査対象箇所の比抵抗を確実に測定することができる。また、プローブ60の透明ケーシング5からの突出量を3mm〜10mm程度とすることによって、調査対象箇所の比抵抗の測定が安定する。押出機構53が、エアの供給により膨張するバルーン56を備えたものであれば、このバルーン56を膨張させることによって、プローブ60を簡単に透明ケーシング5から突出させることができる。プローブ60の突出量が3mm未満であれば、突出量が小さすぎて、電極間の電位差の検出が安定せず、逆に突出量が10mmを越えれば、突出量が大きすぎて、突出ストロークが大きくなって、押出機構53のコンパクト化を阻害すると共に、押圧力が大となる。
【0052】
ところで、透明ケーシング5が調査対象箇所に到達したときに、調査対象箇所に観察用液体を注入して、この調査対象箇所の画像を捉えるようにしてもよい。このように、調査対象箇所に観察用液体を注入すれば、この液体の動き(流れ)を観察でき、これによって地下水の動き(流れ)を把握することができる。このため、観察用液体を注入しない場合では判定できない地層構造や地下水特性を高精度に捉えることができる。
【0053】
特に、観察用液体を有色液体とすれば、観察用液体の観察の容易化を図ることができ、より高精度の観察が可能となる。また、観察用液体の調査対象箇所への注入量を1回当たり2cc〜6cc程度とすることによって、地下水特性の安定した把握が可能となる。すなわち、注入量が6ccを越えれば、観察用液体の注入量増大とその注入圧上昇のため観察用液体による地盤への悪影響(地盤崩れ等)を招くことになる。逆に、注入量が2cc未満であれば、観察用液体の注入量が少なすぎて注入していない場合と大差がないことになる。
【0054】
有色液体とは、調査・観察する地盤の色と異色であって、識別しやすい色の液体であって、地盤の色に応じて種々採用できる。また、観察用液体Sの流動性としては地下水と同程度とする。このため、観察用液体Sに、例えば、市販の食用染料や印刷用染料を使用することができる。
【0055】
観察用液体の液注入手段としては、液注入管と、この液注入管の液出口を透明ケーシングから調査対象箇所に突出させる押出機構とを備えたもので構成することができる。押出機構としては、前記プローブ60を突出させる押圧機構を使用することができる。なお、液出口の透明ケーシングからの突出量を2mm〜6mm程度とするのが好ましい。このような突出量とすることによって、調査対象箇所への観察用液体の注入が安定する。突出量が6mmを越えると、突出ストロークが大きくなって、押出機構のコンパクト化を阻害すると共に、突出量が大きくなって押圧力が大となる。逆に突出量が2mm未満では、調査対象箇所への液注入管の液出口の突入量が小さくなりすぎて観察用液体を調査対象箇所に安定して注入できないおそれがある。
【0056】
なお、液注入手段は、前記比抵抗測定手段50と同時に使用できるものであっても、比抵抗測定手段50による比抵抗測定前(透明ケーシング5に抵抗測定手段50を挿入する前)に、液注入手段を挿入して調査対象箇所に観察用液体を注入するものであっても、比抵抗測定手段50による比抵抗測定後(透明ケーシング5から比抵抗測定手段50を取り出した後)に、液注入手段を挿入して調査対象箇所に観察用液体を注入するものであってもよい。
【0057】
本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、押出機構53として、電極60を押圧できればよいので、バルーン方式以外の種々の往復動機構を用いることができる。ところで、電極60を突出させるための孔部55を透明ケーシング5に設ける必要がある。このため、透明ケーシング5に蓋部材を設け、孔部55を使用する場合のみ開状態となるようにするのが好ましい。また、比抵抗測定手段50は、前記実施形態では、いわゆる四端子法を採用したが、二端子法の構造のものであってもよい。四端子法は、一定電流を流し込むところで、界面現象のために接触抵抗と呼ばれる電圧降下が生じるため、それを排除しようとするものである。すなわち、四端子法では、電流印加端子と電圧測定端子とを分離することにより、接触抵抗の影響をとり除き、高精度な測定を可能としている。
【実施例】
【0058】
次に、深度と、各電極間の距離とを種々変更した際の比抵抗(見かけ抵抗)を計測し、その測定結果を図10に示した。図10(a)は降水日と降水量とを示し、図10(b)は比抵抗(見かけ抵抗)の経時変化を示ししている。
【0059】
このように、各部位での比抵抗を監視でき、この比抵抗と画像との併用調査、観察が可能となって、滑り線(滑り面)の位置とその安定性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態を示す地盤評価装置の要部断面を含む側面図である。
【図2】前記地盤評価装置における地盤ボーリング時の要部拡大断面図である。
【図3】前記地盤評価装置におけるケーシング初期貫入安定時の力学図である。
【図4】前記地盤評価装置におけるケーシング貫入進行(掘進)時の力学図である。
【図5】前記地盤評価装置を示し、(A)は地盤調査観察時の断面図であり、(B)は外部ケーシングボーリング時の断面図であり、(C)は透明ケーシングボーリング時の断面図である。
【図6】前記地盤評価装置における透明ケーシングの拡大平面図である。
【図7】前記地盤評価装置における延伸枠の拡大平面図である。
【図8】前記地盤評価装置における比抵抗測定状態を示す簡略図である。
【図9】滑り線評価概念図である。
【図10】比抵抗計測結果を示し、(a)は降水日と降水量とのグラフ図であり、(b)は比抵抗を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0061】
1 地盤
5 透明ケーシング
5a 傾斜面
20 載荷手段
30 除荷手段
40 撮像機器
41 防水ケース
50 比抵抗測定手段
53 押出機構
56 バルーン
60 プローブ(電極)
61 比抵抗測定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除荷手段による地盤吸引排除で生じる地盤の透明ケーシング支持力低下に応じて透明ケーシングを載荷手段の荷重で地盤中に静的貫入させるケーシングボーリング装置を用いた地盤評価方法であって、
前記透明ケーシングが調査対象箇所に到達したときに、調査対象箇所の画像の観察と、調査対象箇所の比抵抗の検出とを行い、その比抵抗の経時変化と画像とに基づいて、滑り線の位置とその安定性を評価することを特徴とする地盤評価方法。
【請求項2】
内径下端部が下端に向かって拡大する傾斜面とされて下端縁部が鋭角とされた筒状の透明ケーシングと、この透明ケーシングを軸方向下方に加える静的荷重で地盤に貫入させる載荷手段と、前記透明ケーシング内の掘削地盤を吸引排除する除荷手段と、前記透明ケーシングを介して調査対象箇所を撮像する撮像機器と、調査対象箇所の比抵抗を検出する比抵抗測定手段とを備えたことを特徴とする地盤評価装置。
【請求項3】
比抵抗測定手段が、プローブを有する比抵抗測定器と、この比抵抗測定器のプローブを透明ケーシングから調査対象箇所に突出させる押出機構とを備えたことを特徴とする請求項2に記載の地盤評価装置。
【請求項4】
プローブの透明ケーシングからの突出量を3mm〜10mm程度としたことを特徴とする請求項3に記載の地盤評価装置。
【請求項5】
押出機構が、エアや水の供給により膨張するバルーンを備えたことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の地盤評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−47938(P2010−47938A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211863(P2008−211863)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】