説明

地磁気を測定し、利用する応用機器

【課題】方位球が楕円球となる場合のオフセット計算に最適な測定点選択方法を備えた地磁気を測定し、利用する応用機器を提供する。
【解決手段】 3軸の磁気センサと、測定点取得手段と、磁気センサのオフセットを校正する校正手段と、方位計算手段からなる地磁気を測定し、利用する応用機器であって、
前記校正手段が、前記地磁気ベクトルの少なくとも6点からなる測定点を前記測定点取得手段により前記測定点格納部に格納されたデータ群の中から選択し、オフセット計算用測定点格納部に選択された測定点を格納するオフセット計算用測定点選択手段を備え、
前記オフセット計算用測定点選択手段は、前記測定点格納部に格納されたデータ群の中から直交する3軸の各軸毎の成分値が最大と最小となる6点を少なくとも含むように選択することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサを用いて地磁気を測定し、その測定値を利用する応用機器に関する発明であって、例えば電子コンパス、エアーマウス、磁気式ジャイロ、AR(オーグメンテッド・リアリティ、拡張現実感等とも言う。)等の機能を有する携帯機器に関するものである。そして、特に、3軸の地磁気センサの感度が互いに異なる等の理由で、3軸の地磁気センサにより求めた測定点からなる方位球が真球ではなく楕円球となる場合であっても、適正な校正方法を行って正しい方位を測定することができる地磁気を測定し、利用する応用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
地磁気を検出する磁気センサを備え、磁気センサによって検出された地磁気ベクトルに基づいて方位測定を行う電子コンパスや、空中で向きを変えることによってコンピュータ画面上の操作を可能とするエアーマウス等、地磁気ベクトルを測定し、その結果を利用した応用機器が使用されている。この際、磁気センサにより得られた地磁気ベクトルのデータに基づいて方位を算出し、その計算された方位に基づいて、電子コンパスでは、携帯電話等の画面上で目的地の進行方向を案内するナビゲーションをする際に進行方向を判断するために用いることができる。また、磁気センサー内蔵のエアーマウスでは、空中で回転操作することで、その際に検出した地磁気により計算したマウスの向きに基づいて、コンピュータ画面上の操作を行うことができる。また、磁気式ジャイロでは、地磁気の検出結果に基づいて回転軸を算出し、回転角度や角速度を求めることができることから、この場合も求めた地磁気から方位等を精度良く算出することは非常に重要である。このように地磁気の検出により、様々な用途に利用することができるため、その測定された地磁気ベクトルは正確であることが要求される。
【0003】
地磁気を測定し、利用する応用機器としては、携帯電話、携帯ゲーム機、タブレット型PC等、携帯して使用する携帯機器が多いが、その内部にはスピーカ等の磁化された電子部品が存在するため、応用機器内に内蔵された磁気センサは、地磁気にこれらの電子部品から発生する磁界とを合成した磁界を検出することになる。従って、応用機器内部の電子部品などから発生する磁界により生じる誤差(オフセット)分を補正するための校正処理が必要となる。
【0004】
そこで、従来はユーザーが応用機器を何らかの目的で操作する際の応用機器の姿勢の変化を利用したり、場合によっては特定の回転操作を強制させて、応用機器が様々な姿勢状態になった場合の磁気センサの測定データを収集し、測定データに基づいてオフセット値を推定していた。
【0005】
具体的には、3軸の磁気センサを一定の地磁気の中で回転させた場合の各軸成分の出力を空間にプロットした場合、その軌跡が球をなす。この球を方位球と呼び、方位球の中心が磁気センサのオフセットに対応する。したがって、オフセットの校正は、さまざまな方位・姿勢で計測された地磁気の計測値から、方位球の中心点を求めてそれを新しいオフセット値として採用することに他ならない。なお、ここで方位球の半径は地磁気の強さに対応する。
【0006】
この方位球の中心点の座標を正確に求めるためには、応用機器をあらゆる方向に万遍なく向ける操作を行って、方位球上のデータをできるだけ広い領域で測定点を取得する必要がある。ところが、このような操作は、ユーザーに過度の負担を課すことになるため、特にユーザーに特定の回転操作を要求することなく、ユーザー自身が必要と感じる操作を応用機器に行う際の姿勢の変化を利用し、得られた測定点の中から方位球を正確に求めるのに適した一定の条件を満足するデータを選択し、方位球の中心点を求めようとする技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−241675号
【特許文献2】特開平9−68431号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記した特許文献1は、応用機器内に内蔵されている3軸の磁気センサのそれぞれが、同じ感度を有し、3軸センサが共に同一の大きさの地磁気ベクトルに対して同じ出力電圧を得られることが前提になっている。この場合方位球は方位に関係なく半径が一定である真球となる。
【0009】
ところが、応用機器内部には、前記した通り磁化された電子部品が存在する。特にその中には磁力線を集めやすい特性を有する軟磁性特性を有する部品も存在する。このような部品の近くに地磁気センサが配置されている場合、特定の方位でより前記した電子部品の磁気の影響を強く受けてしまう可能性が生じる。また、磁気センサは製造過程におけるバラツキ等によって3軸の磁気センサ同士の感度に差異が生じる場合もある。このような場合においては、前記した方位球は真球とならず楕円球となってしまい、真球となることを前提にオフセット値を求めても、正確なオフセット補正ができなくなる。すなわち、方位球が楕円球となる場合のオフセット値を求めるのに適した測定点の選択方法を検討する必要がある。
【0010】
なお、方位球や方位円が楕円となる場合でオフセット値を求めることを目的とする特許は既に出願されている(例えば、前記特許文献2)。しかしながら、特許文献2を含め過去に出願された楕円球を考慮したオフセット値算出の特許には、取得した測定点を特に選択することなく、そのままオフセット計算に用いることが記載されているのみである。特に、特許文献2のような検出する測定値が2軸の場合ではなく、3軸の場合における中心点の算出は、2軸の場合に比べ、様々な方向に向けた測定点の取得が必要となり、単純な一平面上の回転(船舶の回転等)のみのデータ取得では、精度の良いオフセット計算は困難である。また、このような3次元空間で様々な方向の測定点が必要な場合には、仮にユーザーに8の字に応用機器を回転操作してもらったとしても、オフセット値を求めるのに必要な測定点があらゆる方向に万遍なく得られるとは限らない。従って、取得できた限られた方向の測定点の中で精度良くオフセット値求めるために可能な測定点を厳選して選択するとともに、より少ない点かつ少ない計算量で楕円球の中心点をより求めるのに、特許文献1の技術が真球の中心座標を求めるのに適した測定点の選択方法であるのと同様に楕円球を求めるのに適した測定点の選択方法を検討する必要があるが、従来の出願には、そのような開示が十分になされていない。
【0011】
また、このような測定点を特に選択することなく計算すると、測定点が方位球上の一部の領域に偏って集中し、他の位置はまばらに存在しているような場合には、その集中して存在するデータのみに著しく左右された楕円球しか求められず、高い精度で中心点を求めることは困難となる。
【0012】
本発明は、方位球が真球ではなく楕円球となる場合であっても正確なオフセット補正が可能であって、より少ない測定点の選択で方位誤差の少ないオフセット補正を可能とする測定点の選択手順を備えた地磁気を測定し、利用する応用機器を新規に提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、応用機器の移動や姿勢の変化とともに変化する地磁気ベクトルの3軸成分を直交する3軸成分データとして検出する直交配列された3軸の磁気センサと、
前記3軸の磁気センサによって地磁気ベクトルを所定個数取得し、取得したデータを測定点格納部に保存する測定点取得手段と、
前記3軸の磁気センサのオフセットを校正する校正手段と、
前記校正手段に基づいて得られたオフセット校正値により前記地磁気ベクトルを補正して方位を算出する方位計算手段からなる地磁気を測定し、利用する応用機器であって、
前記校正手段が、
前記地磁気ベクトルの少なくとも6点からなる測定点を前記測定点取得手段により前記測定点格納部に格納されたデータ群の中から選択し、オフセット計算用測定点格納部に選択された測定点を格納するオフセット計算用測定点選択手段と、
前記オフセット計算用測定点格納部に格納された前記6点以上の測定点に基づいて、楕円球体の方程式を解くことにより楕円球の中心座標を求め、オフセット校正値格納部に格納するオフセット値計算手段を備え、
前記オフセット計算用測定点選択手段は、前記測定点格納部に格納されたデータ群の中から直交する3軸の各軸毎の成分値が最大と最小となる6点を少なくとも含むように選択することを特徴とし、
前記オフセット値計算手段は、選択された測定点のデータから、方位球である楕円球を定めるパラメータを算出することを特徴とする地磁気を測定し、利用する応用機器にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0014】
上記応用機器においては、ユーザーが応用機器を持参し、鞄、ポケット等に入れて移動している間の向きの変化、画面をみながら操作をしている間の向きの変化、場合によってはユーザーに過度な負担とならない範囲、例えば8の字に1〜数回操作してもらう等の強制的な回転操作を行っている間の応用機器の姿勢変化等を利用して、3軸磁気センサを用いて磁気ベクトルの検出値を複数個取得する。そして、得られた複数個の検出値の中から少なくとも3軸直交座標系の各軸成分毎に成分値が最大と最小となる点(合計6点)が含まれるように測定点を選択する。そして選択した6点以上の測定点を用い、選択した測定点と楕円球の方程式から、方位球の中心点を算出する。
【0015】
なお、本発明で言う応用機器とは、発明の名称に記載の通り地磁気を測定し、その測定値を利用し何らかの用途に利用する製品全てのことを言う。すなわち、地磁気を利用する限り、用途に関係なく共通してオフセット値を求め、検出した地磁気ベクトルの値を補正することが必須となるためである。そして、応用製品の具体的なものとしては、例えば地磁気を用いて方位計算をし、それを画面上に表示する電子コンパス、GPS情報も利用しつつ位置のナビゲーションを行う携帯電話等の携帯機器や、同様に現在位置を特定し、現在位置の情報を画面に表示するAR(オーグメンテッド・リアリティ)、応用機器の姿勢変化を地磁気より判断して回転軸、回転角度、回転角速度を求める磁気式ジャイロ、エアーマウス等が挙げられる。
【0016】
前記した応用機器の姿勢の変化は、それを使用するユーザーの行動変化の過程によって大きく変化する。楕円球の中心点をより正確に算出するためには、応用機器が3次元空間上で様々な方向に向いた状態で地磁気ベクトルを取得することが理想となるが、得られた測定点をそのまま使った場合、場合によってはある限られた特定の方向のデータのみが多く取得されている場合がある。このような場合、測定点のデータ個数自体は多くても、楕円球の中心点を精度良く求めることは困難となる。そこで、取得できたデータ群の中から3軸直交座標系の各軸成分毎に最大と最小となる点を2点ずつ合計6点が少なくとも含まれるように測定点を選択することにより、最小限の測定点で方位球の中心点を精度良く算出することを可能としたものである。
【0017】
すなわち、仮に方位球上の特定の領域に多数の測定点が存在していた場合、そのまま測定点データを入力して最小自乗法を行うと、存在していた点数分の誤差を合計し、最小化するということになる。これに対し、本発明の方法であれば、このような一部の領域に集中して存在している場合には、仮に選択されたとしても、その集中した測定点群の中から1点が選ばれるのみで、残りの5点以上の点は別の領域から選ばれることになる。従って、一部の領域に偏って測定点が集中していたとしても、本発明では他の領域の測定点も同様に選択されるため、確実に精度の良いオフセット計算が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1における、地磁気を測定し、利用する応用機器の概念図。
【図2】実施例1における、地磁気を測定し、利用する応用機器の一例である電子コンパス機能を搭載した携帯電話の一部透視斜視図。
【図3】実施例1における、地磁気を測定し、利用する応用機器の一例である電子コンパスのブロック図。
【図4】磁気ベクトルの検出値及び補正前後の中心点の位置を示した図。
【図5】X軸、Y軸の軸成分が最大と最小となる点を選択する仕方を説明する図。
【図6】X軸とY軸に45°傾いた仮想軸の軸成分が最大と最小となる点を選択する仕方を説明する図。
【図7】実施例1における11〜18点目の測定点を選択する手順を説明するフローチャート。
【図8】実施例1における、3軸磁気センサの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上述した本発明における好ましい実施の形態につき説明する。
また、前記オフセット計算用測定点選択手段は、前記直交3軸のうち、任意の2軸を選択し、その2軸と30〜60度傾いた仮想の座標軸となる2軸を定め、該仮想の座標軸の成分値が最大と最小となる点をさらに選択した後前記オフセット計算用測定点格納部に格納し、選択された測定点に基づいて、方位球である楕円球を定めるパラメータを算出することが好ましい(請求項2)。
【0020】
楕円球の中心点の算出は、できるだけ多くの方向の測定点を中心点算出に用いた方が精度のよい算出が可能となる。そこで、請求項2では、請求項1で選択した直交3軸の各成分値が最大と最小となる点に加えて、前記直交3軸のうち、任意の2軸と30〜60度傾いた仮想の座標軸を定め、測定点格納部に格納されている点の中から2つの仮想の座標軸それぞれの成分値が最大と最小となる点も追加で選択し、合計で少なくとも10点以上(但し、請求項1で選択した測定点との重複がない場合)の測定点を使って楕円球の中心座標を求める。これにより、楕円球の中心座標の算出精度をさらに向上させることができる。
【0021】
なお、任意に選択した2軸と前記直交3軸の間の傾きは、好ましくは40〜50度、さらに好ましくは45度である。また、傾ける角度の方向は、選択した2軸を含む平面上の方向内で回転させた軸としてもいいし、選択した2軸を含む平面に対し傾いた方向に傾けた軸としてもよい。いずれの手段を採用しても、算出精度を向上できる効果に差異はないからである。
【0022】
また、前記オフセット計算用測定点選択手段は、前記測定点格納部に格納されたデータ群のうち、請求項1又は2に記載の前記オフセット計算用測定点選択手段により選択された測定点を除くデータの中から1点ずつ取り出し、既に選択され、オフセット計算用測定点格納部に格納されている全測定点との距離が所定値以上となる場合に限り、取り出した測定点をオフセット計算用測定点格納部に新たに格納するという手順を、格納された個数があらかじめ定めた所定の個数となるまで、基準となる前記所定値を少しずつ小さい値に変更しつつ繰返し実施することが好ましい(請求項3)。
【0023】
より精度のよい中心座標算出を行うには、請求項1又は請求項1と2でオフセット計算用として選択した各直交軸の軸成分が最大と最小となる点からなるデータ群からなる測定点でまだ欠落している方向の方位球上の測定点を追加することが必要である。そこで、請求項3では、測定点格納部から既に選択され、オフセット計算用測定点格納部に格納されている全測定点との距離が、所定の値以上となる条件を満足する測定点のみ、既に選択されている測定点に追加で選択し、最終的に選択された全測定点を使って楕円球の中心座標を求めることを特徴とする。
【0024】
この選択の際は、まず選択の条件となる所定の閾値を定め、まだ選択されていない測定点を1点ずつ測定点格納部から取り出し、この点と既に選択されている全測定点との距離を計算する。そして、算出した全測定点との距離が所定の閾値以上である場合に限り、オフセット計算用測定点格納部に新規に格納する。この作業をまだ未選択の全測定点について所定の閾値を少しずつ小さい値に変更しながら、選択された測定点があらかじめ定めた所定の個数になるまで行う。
【0025】
以上説明した測定点の選択プロセスにより、最初に測定点格納部に格納されていた測定点の範囲に限定はされるものの、方位球上の特定の領域に偏ることなく、かつ方位球上で様々な方向に位置する測定点を確実に選択することができるため、少ない測定点で効率良く中心点算出精度を確実に高めることができる。
【0026】
また、前記オフセット値計算手段は、選択された測定点に基づき、最小自乗法により楕円球のパラメータを算出することが好ましい(請求項4)。
測定される地磁気ベクトルには、それぞれ誤差を含んでいる。そこで、選択した複数の測定点を使って、最小自乗法により楕円球の方程式のパラメータを求めることにより、それぞれの測定点が含んでいる誤差の値を互いに打ち消しあう効果を有するため、精度の良い方位球である楕円球を求めることができる。
【0027】
また、本発明においては、応用機器の画面に回転操作を要求する操作指示を表示させ、その後の回転操作中に前記測定点取得手段を実施することを特徴とすることが好ましい(請求項5)。
【0028】
ユーザーは、応用機器の持参中に、電子コンパス機能等の地磁気ベクトルの測定結果が必須となる機能を常に使うわけではない。そして、ユーザーは応用機器を直接操作しない場合であっても、例えば応用機器が携帯電話である場合には、電話やメールの着信がいつあるかわからないことから、通常電源をONしたまま、鞄やポケット内に入れた状態で持参される。従って、ユーザーが行動途中に向きを変えると携帯電話等の応用機器の向きも変わる。また、メールの着信があった場合には、ポケットから取り出す作業の過程において、さらに応用機器の向きが変わる。従って、通常はこのような特にユーザーに操作を強制させなくても、自然に起きる応用機器の姿勢の変化を利用して様々の向きの測定点を取得することができる。
【0029】
ところが、電源をONした直後に測定した地磁気ベクトルの値が必須となる応用製品の機能を使用したい場合等、十分な測定点が取得できていない段階で地磁気データが必要な応用製品の機能を使用したい場合には、すばやく測定点を取得する必要のある場合が生じる。従って、そのような場合には、携帯機器等、応用製品の画面上に回転操作を要求する操作指示画面を表示させ、ユーザーに操作を行ってもらうようにすることができる。これにより、短時間で必要なデータを確実に取得することができる。
【0030】
また、請求項5にて行う回転操作等、前記測定点取得手段実行中の地磁気ベクトルを検出し、取得する際において、取得された測定点を用いてリアルタイムで直交する3軸の各軸成分データの最大値と最小値の差を求め、3軸全てについて、あらかじめ定める基準値以上となる測定点が得られた時点で所定の個数の測定点が取得できていることを条件に応用機器の画面に回転操作が終了した旨の表示ことが好ましい(請求項6)。
【0031】
請求項5でユーザーが行う回転操作は、ユーザーによってその回転方向にバラツキがあり、その操作の仕方によっては、楕円球上の一部の方向について、測定点がほとんど取得できていない場合が生じる可能性がある。従って、楕円球の中心点を求めるのに十分な測定点が取得できているかをチェックするため、回転操作中にデータを取得するとともに、リアルタイムで直交3軸の各軸成分の最大値と最小値の差を求め、所定の基準値と比較する。直交3軸の全ての軸成分について、最大値と最小値の差が所定の閾値以上となるようにデータが取得できた場合に、所定の個数を超える測定点が取得できていることを条件に、測定点取得手段の実行を終了させ、そのことを応用機器の画面にこれ以上の回転操作は不要であることを意味する表示を行うことができる。これにより、ユーザーの回転操作時に精度良く楕円球の中心点を求めるのに必要となる測定点を確実に取得することができる。
【0032】
なお、ユーザーの回転操作が適切でなく、基準を満足できる測定点が取得できない場合は、「体の向きを変更して再度実施して下さい。」、「違う方向に向くように回転させて下さい。」等の案内表示をすることが望ましい。
【0033】
また、直交3軸全ての軸成分の最大値と最小値の差のチェックは、請求項5のように回転操作を強制する場合でなくても同様にデータチェックすることが好ましく、基準を満足できる測定点が取得できているかどうかをチェックすることは勿論可能である。この場合でも、十分な測定点が得られたことを判断できた場合には、測定点取得手段の実行が終了した旨の表示をしたり、逆にまだ十分な測定点が取得できていないことを案内表示し、さらにデータ取得を継続する表示をすることも勿論可能である(請求項6)。
【0034】
また、前記測定点取得手段の実行中においては、順次地磁気ベクトルを取得する際に、基準となる点をまず取得し、その後は基準となる点から所定の距離以上離れた点が取得できた時に限定して取得した点を測定点格納部に格納し、さらに最新の格納した測定点を基準点として所定の距離以上離れた測定点を測定点格納部に格納するという取得手段を繰返し実施することが好ましい(請求項7)。
【0035】
最近使用されている地磁気センサは、短時間に多数の測定点を継続して取得することができる。従って、応用機器の姿勢が全く変化していない場合には、連続して地磁気ベクトルを測定しても、方位球上のほぼ同じ位置の点が繰返し複数取得できるだけであり、ほぼ同じ位置の点を多数記憶させてもオフセット値計算の精度向上に全く役立たない。そこで、測定点を取得し測定点格納部に格納する際には、直前に測定点格納部に格納した測定点から所定の距離以上に離れた測定点が取得できるまでは、新規に測定点を測定点格納部に格納しないこととし、ある程度離れた測定点が取得できた時に、新規に格納するようにする。これにより、少ない測定点の格納で、精度良く楕円球の中心点を求めるのに必要な測定点を確実に取得することができる。ここで、請求項5のように回転操作をユーザーに強制させる場合には、測定点が所定の個数格納された時点で、応用機器の画面に回転操作が終了した旨の表示をし、それ以上の回転操作が不要であることを知らせることもできる。
【0036】
また、前記方位演算手段は、楕円球の方程式を求めることにより得られた主軸の長さに基づいて、3軸磁気センサそれぞれの感度を求め、求めた感度に基づいて補正した地磁気ベクトルの値に基づいて方位を算出することが好ましい(請求項8)。
精度良く方位を計算する際には、直交3軸の磁気センサの感度が同じとなるように補正した上で、オフセット補正後の各軸成分の値を使って求める必要がある。既に説明したように選択した測定点から楕円球の方程式を求めることにより、直交3軸の主軸の長さを求めることができるため、その値に基づいて、直交3軸の感度補正を行った後の各軸の成分値から、方位を計算することができる。この求めた方位データを使って、電子コンパスに限らず、様々な用途に応用することができる。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
以下、本発明の一実施例として、携帯機器内に内蔵した電子コンパスに本発明を適用した場合の実施例を説明する。
本発明の実施例にかかる電子コンパスにつき、図1〜図8を用いて説明する。
図2に示すごとく、本例の電子コンパス1は、携帯機器2に設けられている。電子コンパス1は、携帯機器2の内部磁界による影響を補正しつつ、携帯機器2が向く方位を計算する。
【0038】
図1に示すごとく、電子コンパス1は、3軸磁気センサ3と、測定点取得手段4と、オフセット計算用測定点選択手段5と、オフセット値計算手段6と、方位計算手段7とを備える。
【0039】
図2に示すごとく、3軸磁気センサ3は、携帯機器2に固定された3軸直交座標系における磁気ベクトルMとして地磁気を検出する。
【0040】
測定点取得手段4は、ユーザーが携帯機器2と共に移動したり、直接手に持って操作する際の姿勢変化を利用して、携帯機器2が様々な姿勢状態となった場合における地磁気ベクトルデータを前記3軸磁気センサ3により取得する。この際、より少ない測定点の取得で後述のオフセット値計算手段によって精度の良いオフセット値が求められるように、ある程度離れた測定点が得られる毎に測定点格納部8に格納する等の方法で、効率良く測定点を選択しつつ取得していくことが好ましい。
【0041】
オフセット測定点選択手段5は、楕円球の中心点を精度良く計算可能となる測定点を選択するため、測定点格納部8に格納されたデータ群の中からあらかじめ定めた条件を満足する測定点のみを選択し、その測定点に関する地磁気ベクトルのデータをオフセット計算用測定点格納部9に格納する。
【0042】
オフセット値計算手段6は、オフセット計算用測定点格納部9に格納された地磁気ベクトルのデータを使い、楕円球の方程式を解くことにより、中心点の座標を求めることによって、3軸センサが検出している地磁気以外の磁気ベクトルの影響分であるオフセット値を計算する。
【0043】
方位計算手段7は、オフセット値計算手段6により求めたオフセット値及び楕円球の方程式を解くことにより求められる楕円球の主軸の長さ、すなわち3軸磁気センサの各々の軸毎の感度に基づいて、3軸磁気センサにより取得した地磁気ベクトルのデータを補正し、方位を計算する。
以下、詳説する。
【0044】
図2に示すごとく、携帯機器2には3軸磁気センサ3、マイコン100が搭載されている。また、これらの他に、複数の電子部品200が搭載されている。電子部品200によって携帯機器2の内部には磁界が発生しており、この磁界の影響を3軸磁気センサ3が受けている。
【0045】
また、携帯機器2は表示部20を備える。この表示部20に、本発明の電子コンパスにより算出した方位に基づいて、方位が表示される。また、計算された方位に基づいて画面の上方向が進行方向となるように向きを調整して現在位置周辺の地図が表示することもできる。
【0046】
図3に示すごとく、マイコン100は、CPU10と、ROM11と、RAM12と、I/O14と、これらを繋ぐライン13とを備える。ROM11はプログラム11pを記憶している。RAM12には、取得した測定点データあるいは、選択された測定点を格納できるメモリが割り当てられており、プログラム11pを実行した結果、得られた測定点が格納されるメモリとして、測定点格納部8、オフセット計算用測定点格納部9、未選択測定点格納部16が割り当てられている。そして、CPU10がROM11のプログラム11pを読み出して実行することにより、本例の測定点取得手段4、オフセット計算用測定点選択手段5、オフセット値計算手段6、方位計算手段7が実現される。
【0047】
また、マイコン100には3軸磁気センサ3と表示部20が接続している。3軸磁気センサ3は、例えば数m秒毎に磁気ベクトルを検出し、その検出値をマイコン100に送信している。
【0048】
3軸磁気センサ3は、図8に示すごとく、マグネト・インピーダンス・センサ素子30によって構成してある。即ち、3軸磁気センサ3は、3個のマグネト・インピーダンス・センサ素子30を、それぞれの感磁方向が互いに直交する3軸方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)となるように配設することにより、形成してある。
【0049】
一方、3軸磁気センサ3は携帯機器2の内部磁界の影響を受けるため、図4に示すごとく、3軸磁気センサ3の方位球15の中心点O’は、3軸磁気センサ3の原点Oからずれているとともに、各軸の磁気センサ3の感度が磁化された軟磁性部品の影響や製造上のばらつき等で異なっている場合には、楕円球となる。
【0050】
OO’ベクトルは、3軸直交座標系の原点Oと方位球15の中心点O’とのずれを表している。方位球の中心点O’を正確に算出できれば、内部磁界の影響を受けた3軸磁気センサ3の検出値(OPベクトル)を、下記数式を使って補正することができ、内部磁界の影響を受けない3軸磁気センサ3の検出値(O’Pベクトル)を求めることができる。これにより、正確な方位を算出することが可能になる。
【0051】
【数1】

【0052】
楕円球となる方位球15の中心O’を精度よく求めるためには、携帯機器2の向きをあらゆる方向に万遍なく向けて測定点を取得することが理想であるが、実際にこのような操作をユーザーに強制させるのは負担が大きいという問題がある。そこで、本発明では取得できた測定点の中から少ない測定点で最も精度良く楕円球の中心点を求めることのできる測定点を選択するという手段を採用する。
【0053】
そこで、本発明ではまず楕円球の方程式を解くのに適した測定点の候補となる地磁気ベクトルデータの取得、すなわち測定点取得手段4を実行する。ユーザーは、携帯機器2を使用する際に、常時電子コンパス機能を使うわけではなく、電源をONした後、電子コンパスの機能を使用するまでの間に測定点を取得する時間的余裕がある場合も多い。従って、その間に鞄やポケット内に保管された状態で様々な向きに向けられたり、メールや通話の操作を行う際の携帯機器2の姿勢変化を利用して、測定点を自動的に取得するようにしてもよいし、まだ十分にオフセット計算用測定点を取得できていない段階で電子コンパスの機能を使う場合には、携帯機器2の画面20に回転操作を要求する案内を表示させても良い。これにより、携帯機器を様々な向きに向けた状態における磁気ベクトルのデータが3軸磁気センサ3により取得され、測定点格納部8に格納される。
【0054】
このデータ取得の際、ユーザーは、携帯機器2の回転操作を行っている途中状態の場合とそうでない場合がある。携帯機器2の姿勢に変化のない状態において、磁気ベクトルを連続的に取得しても、ほぼ同じ値の測定点が複数個続けて取得できるだけである。従って、測定点格納部8に地磁気ベクトルのデータを1個格納した後は、最新の格納データと新たに取得した測定点との間の方位球上での距離を計算し、これが所定値以上となる場合に限り、新規に測定点格納部8に地磁気ベクトルのデータを格納するようにすることが好ましい。これにより測定点格納部8として割り当てたメモリを効率良く利用できるとともに、後述のオフセット計算用測定点の選択時間を短縮することができる。具体的には、例えば100mG以上離れた点を取得できた場合に、測定点を新規に格納するというようにすることができる。これを繰返し実施することにより、測定点格納部に記憶された測定点の数が所定の個数に到達した時点で、測定点取得手段4を終了する。なお、測定点の所定の個数は、要求される精度等によって変化するが、例えば60点とすることができる。勿論さらに増加してオフセット精度を高めることは可能である。
【0055】
ところが、ユーザーの操作等の仕方によっては、携帯機器2の姿勢が特定の向きに偏ってしまう場合があり、その場合には、測定点も方位球上の特定の位置に偏って存在することになるため、楕円球の中心点を精度良く求めることができない。そこで、測定点格納部8に格納されている全データについて、リアルタイムに直交3軸の各軸毎の成分値について最大値と最小値を計算し、この値が所定の値以上でない場合には、さらに測定点の格納を継続するか、又は画面20に精度が低下する恐れがある旨の表示をするようにすることがより好ましい。具体的には、例えばこの所定の値を500mGとすることができる。
測定点格納手段4の実行により必要となる測定点が取得できたら、次に取得した測定点の中から楕円球の中心点を精度良く求めるのに適当なオフセット計算用測定点を選択する。
【0056】
オフセット計算用測定点選択手段5では、まず、直交3軸の各軸毎の成分値が最大となる点と最小となる点を選択する。図5は、方位球をZ軸が紙面と直交するような向きから見た場合の測定点の位置の例を示したものである。この図に示すようにX軸の軸成分値が最大となる測定点A点、最小となる測定点B点及びY軸の軸成分値が最大となる測定点C点及び最小となる測定点D点を選択し、オフセット計算用測定点格納部9に格納する。図は省略するが、同様にZ軸の軸成分値が最大となる測定点E点と最小となる測定点F点を選択し、同様にオフセット計算用測定点格納部9に格納する。この際、選択された測定点は、オフセット計算用測定点格納部9に格納すると同時に測定点格納部8からは削除しておくと良い。以上の選択により6点の測定点が選択される。
【0057】
楕円球の方程式の解き方については後述するが、未知数は6つとなることから、この6点の測定点のみからだけでも方程式を解くことが可能である。しかしながら、本実施例では、中心点の算出精度を向上するため、さらに以下の方法で前記6点に加えて測定点を選択する。
【0058】
前記した6点の選択では、磁気センサの直交する3軸の各軸毎の成分値が最大となる点と最小となる点を選択したが、さらに別の直交軸を仮想的に定め、その軸の成分値が最大となる点と最小となる点を選択する。具体的には、図6に示すように直交3軸のうちの2軸であるX軸とY軸を選択し、それに45°傾いている仮想の直交軸であるX’軸とY’軸を定め、このX’軸とY’軸の成分値が最大となる点と最小となる点を選択する。図6の例の場合には、X’軸の成分値が最大と最小なる点がG点、H点となり、Y’軸の成分値が最大と最小となる点がI点とJ点となる。この4点をオフセット計算用測定点格納部9に格納する。
【0059】
なお、この例では任意の2軸としてX軸とY軸を選択したが、勿論他の2軸でも構わない。また傾ける方向をX軸とY軸を含む平面上で回転させて仮想の軸を設定したが、勿論そうでない方向に傾けて仮想の軸を設定することもできる。
また、仮想の軸を設定する際の傾ける角度は、45°が最適であるが、30°から60°の間で選択し設定することができる。以上の選択によりオフセット計算用の測定点が10点選択できる。
【0060】
ここで、最初に測定したデータによっては、前の説明で選択した6点と新たに選択した4点との間で重複する点が生じる場合がある。その場合はここまでの測定点の選択数が10点とならず9点以下となるが、後述の測定点の選択をさらに行う場合には、最終的な測定点の選択数があらかじめ定めた測定点の数になるように選択すれば良い。
【0061】
以上説明した通り選択された10点の測定点から楕円球の方程式を解くことも可能であるが、本実施例では、さらに中心点算出の精度を高めるため、図7に示す手法によりさらに追加で測定点を選択する。
【0062】
まず、これまでの10点の測定点の選択でまだオフセット計算用として選択されていない測定点を未選択測定点格納部16に格納する(ステップS1)。そして、この未選択測定点格納部16より任意の1点のデータ(既に同一の距離の基準値でステップS3、S4が終了している点は除く。)を取り出し(ステップS2)、取り出した測定点と既にオフセット計算用として選択されている全ての点との間の距離を計算する(ステップS3)。
【0063】
そして、計算した全ての既に選択されている測定点との距離があらかじめ定めた基準値以上かどうかをチェックする(ステップS4)。ここで、全ての距離が基準値以上であった場合に限り、取り出している測定点をオフセット計算用測定点格納部9に新規に格納すると同時に未選択測定点格納部16からはこのデータを削除(ステップS5)し、測定点の選択数が所定個数に到達したかをチェック(ステップS6)し、所定の個数に到達している場合は処理を終了し、そうでない場合は、ステップS7に進む。また、ステップS4においていずれかの既に選択済の測定点との間の距離が基準値未満であった場合には、なにもせずステップS7に進む。ステップS7では、現在設定されている距離の基準値で全ての未選択測定点格納部のデータをチェックしたかどうかを確認し、全てのデータチェックが終了している場合は、距離の基準値をより小さい値に変更(ステップS8)し、ステップS2に戻る。また、そうでない場合は、距離の基準値を変更することなく再びステップS2に戻り同様のステップを繰返す。
【0064】
以上説明した手順により測定点を選択することにより、勿論最初の測定点格納部8に格納されていたデータの範囲内に限定されるものの、方位球上で特定の領域に偏っておらず、方位球上の様々な位置にちらばった状態で測定点を確実に選択することができる。従って、取得できた測定点の中から最も精度良く楕円球の中心点を求めることができる測定点の組合せを確実に選択することができる。
【0065】
なお、最終的に選択する測定点の数は多くする方がより中心点の算出精度は向上するが、ある程度の数を超えると、それ以上多く選択しても精度向上効果が小さくなることに加え、計算量が増加し、処理時間が長くなることから、前記した10点の測定点も含め、15〜20点程度とするのが好ましい。なお、本実施例では、選択個数を18点とした。
【0066】
また、距離の基準値は、特に限定はしないが、例えば初期値を300mGとし、25mGずつ値を小さくしていくということができる。以上のデータ処理により、オフセット計算用として最適と考えられる測定点が選択できる。
【0067】
次に選択したオフセット計算用測定点を使って楕円球の方程式を解く手順について説明する。楕円球の方程式は、下記の数2のように書くことができる。
【0068】
【数2】

【0069】
本実施例では、これを最小自乗法によって解くことにより未知数である楕円球のパラメータを求める。なお、上記方程式のうち未知数であるパラメータは、各直交軸のオフセット値であるOffsetX、OffsetY、OffsetZと楕円球の主軸の長さ(ゲイン)に相当する、GainX、GainY、GainZの6つとなる。
【0070】
これを18点の測定点から求める場合、全ての測定点上を通る楕円球を求めるのは不可能となるので、18点の測定点とのズレ(=誤差)が最も小さくなる楕円球を最小自乗法により求める。そこで、測定点と求める楕円球との間の誤差の自乗を合計し、その値をeとおくと、前記数2より下記数3のように書くことができる。
【0071】
【数3】

【0072】
この数3の値を最小化できるパラメータの値を求めるため、6つのパラメータ全てで、数3の式を偏微分し、その値を0とおくと、6つの式からなる連立方程式を得ることができる(数4)。
【0073】
【数4】

【0074】
なお、この方程式は非線形の連立方程式となるため、非線形の連立方程式の解を求める既知の手法(二分法、Newton−Raphson法)により収束計算を行うことにより6つのパラメータを求めることができる。
【0075】
以上により直交3軸のオフセット値であるOffsetX、OffsetY、OffsetZが求められたので、その後に方位計算をする際は、取得した磁気ベクトルの値を求めたオフセット値及び3軸磁気センサの感度に相当する主軸の長さの値に基づいて、補正前のデータ(Xn、Yn、Zn)を数5に示す通り補正し、補正後のデータ(Xn’、Yn’、Zn’)から方位を計算する。
【0076】
【数5】

【0077】
ただし、オフセット計算用の測定点を取得した場所が、何らかの外部環境が原因で地磁気が小さくなっている場合、前記で求めた主軸の長さがその分小さくなってしまい、前記した各ステップで距離の基準値等と比較する際に支障が生じる可能性がある。従って、あらかじめ地磁気の大きさがわかっている環境で3軸磁気センサの任意のいずれかの軸のセンサの出力を記憶しておき、基準となる磁気センサの感度を把握し、この値を使って求めた楕円球の主軸の長さを補正することが好ましい。この補正により、オフセット計算用測定点を取得する場所の地磁気の状態に関係なく、正しい測定点の選択及び方位計算を可能とすることができる。
【0078】
次に、本例の作用効果について説明する。本例では、3軸磁気センサにより測定した地磁気ベクトルの測定点の中から直交3軸の各軸成分値が最大と最小となる点を選択し、さらに直交3軸のうち、任意の2軸(本例ではX軸とY軸)と45°傾いた仮想の直交軸の各軸の成分値が最大と最小となる点の、合計10点をまず選択する。
【0079】
さらに、上記10点を含む他の全ての選択点と互いに所定の基準値以上距離が離れた測定点を8点選択し、合計18点の測定点を選択する。
【0080】
このようにすると、取得した測定点の中で、方位球上において互いに離れており、かつ特定の領域に偏ることのない測定点を確実に選択することができる。従って、測定点の選択数が少ないにもかかわらず、精度の高いオフセット値を計算することができる。
【0081】
なお、本発明では一実施例として電子コンパスの場合について説明したが、電子コンパスに関係なく、磁気センサで地磁気を検出し、その検出結果に基づいて方位等の各種物理量を計算する場合には、同様にこの技術を利用することができる、すなわち、用途が電子コンパス以外、例えばエアーマウスの場合でもマウスの向きを同様な方法で検出する場合であれば、この技術を利用して、精度の良いオフセット値を求めることにより、マウスの向きを精度良く計算し、コンピュータ画面上の操作を空中で行うことができる。また、磁気式ジャイロのように回転角速度を求める場合でも角速度を求めるには、精度の良い地磁気ベクトルから回転軸を求める必要があり、本発明の技術により高い精度でオフセット値を求め、それにより補正した地磁気ベクトルを利用して回転軸を計算することにより、精度の良い回転角度及び回転角速度を求めることができる。その場合において、本実施例と同様の測定点の選択技術を実施することにより、同様の作用効果を得ることができる。
【0082】
また、測定点の選択が、精度の良いオフセット値計算に最適な測定点に絞り込んで選択するため、多数の測定点を取得し、その方位球上の存在位置の傾向を全く考慮することなく、そのまま最小自乗法で解く場合に比較すると、少ない計算時間でより精度の良い計算が可能になるとともに、一部の領域に多数存在する測定点を使ってオフセット計算した場合のように、偏って多数存在する測定点の値に強く左右されることによる精度低下の問題も回避することができる。従って、楕円球の中心点を最も効率良く求めることができる。
【0083】
(実施例2)
実施例1では、測定点の選択数を18点とし、直交3軸の成分値が最大、最小となる点と仮想軸の成分値が最大、最小となる点を選択した後に、図7からなるステップでさらに8点の測定点を選択した。本実施例は、精度よりもより簡単な処理でオフセット補正ができることを重視する場合の例であり、図7からなるステップによる8点の測定点を選択せず、10点の測定点から楕円球の中心点を求め方位計算する場合である。測定点を選択した後の楕円球の方程式の求め方、方位計算の方法については、全く実施例1と同様である。本実施例の場合、オフセット値の精度は実施例1に比較して若干劣るものの、計算処理等が短時間で行えるという利点がある。
【0084】
(実施例3)
本実施例は、実施例2よりもさらに計算時間を短縮したい場合の実施例で、直交3軸の成分値が最大、最小となる6点の測定点のみを選択し、オフセット計算を行う場合の例である。6点の測定点を前記した楕円球の方程式(数1)に代入することにより6つの方程式が得られるため、前記した最小自乗法によるのではなく、測定点の値を代入した方程式をそのまま解くことにより、6つの未知数を求めることができる。
【0085】
本実施例により求めたオフセット値、主軸の長さは、実施例1、実施例2に比べ精度は劣るが、計算に用いる6点の選択点は、少ない選択数ではあるが、少なくとも方位球上の特定の位置のみに偏って位置しているということは、その選択方法から考えてほぼ考えられず、6点の選択のみで方程式を解く方法としては、最適の選択方法と考えられる。そして、6点のみから求めることによって、実施例1等と比較すると精度の点では若干劣るものの、計算処理については大きく軽減され、処理時間が短縮されるという効果に加え、必要な消費電力が減少するという利点も得られるものである。
【0086】
ここで、実施例1の箇所で既に説明したが、実施例2、3についても実施例として示した電子コンパス以外の用途に利用できる点は全く同様である。そして、実施例1〜3のどの手法を選ぶのが最適であるかは、その時に要求される計算精度、あるいは高い精度を若干擬制にしても素早く方位を計算したい場合等の理由によって変化するので、同じ応用機器であっても、場合によって最適な手法を選択しつつ方位等の計算をすることが好ましい。
【符号の説明】
【0087】
1 電子コンパス
15 方位球
16 未選択測定点格納部
2 携帯機器
3 3軸磁気センサ
4 測定点取得手段
5 オフセット計算用測定点選択手段
6 オフセット値計算手段
7 方位計算手段
8 測定点格納部
9 オフセット計算用測定点格納部
O 3軸直交座標系の原点
O’ 方位球の中心点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
応用機器の移動や姿勢の変化とともに変化する地磁気ベクトルの3軸成分を直交する3軸成分データとして検出する直交配列された3軸の磁気センサと、
前記3軸の磁気センサによって地磁気ベクトルを所定個数取得し、取得したデータを測定点格納部に保存する測定点取得手段と、
前記3軸の磁気センサのオフセットを校正する校正手段と、
前記校正手段に基づいて得られたオフセット校正値により前記地磁気ベクトルを補正して方位を算出する方位計算手段からなる地磁気を測定し、利用する応用機器であって、
前記校正手段が、
前記地磁気ベクトルの少なくとも6点からなる測定点を前記測定点取得手段により前記測定点格納部に格納されたデータ群の中から選択し、オフセット計算用測定点格納部に選択された測定点を格納するオフセット計算用測定点選択手段と、
前記オフセット計算用測定点格納部に格納された前記6点以上の測定点に基づいて、楕円球体の方程式を解くことにより楕円球の中心座標を求め、オフセット校正値格納部に格納するオフセット値計算手段を備え、
前記オフセット計算用測定点選択手段は、前記測定点格納部に格納されたデータ群の中から直交する3軸の各軸毎の成分値が最大と最小となる6点を少なくとも含むように選択することを特徴とし、
前記オフセット値計算手段は、選択された測定点のデータから、方位球である楕円球を定めるパラメータを算出することを特徴とする地磁気を測定し、利用する応用機器。
【請求項2】
前記オフセット計算用測定点選択手段は、前記直交3軸のうち、任意の2軸を選択し、その2軸と30〜60度傾いた仮想の座標軸を定め、該仮想の座標軸の成分値が最大と最小となる点をさらに選択した後前記オフセット計算用測定点格納部に格納し、選択された測定点に基づいて、方位球である楕円球を定めるパラメータを算出することを特徴とする請求項1に記載の地磁気を測定し、利用する応用機器。
【請求項3】
前記オフセット計算用測定点選択手段は、前記測定点格納部に格納されたデータ群のうち、請求項1又は2に記載の前記オフセット計算用測定点選択手段により選択された測定点を除くデータを1点ずつ取り出し、既に選択され、オフセット計算用測定点格納部に格納されている全測定点との距離が所定値以上となる場合に限り取り出した測定点をオフセット計算用測定点格納部に新たに格納するという手順を、格納された個数があらかじめ定めた所定の個数となるまで、基準となる前記所定値を少しずつ小さい値に変更しつつ繰返し実施することを特徴とする請求項1又は2に記載の地磁気を測定し、利用する応用機器。
【請求項4】
前記オフセット値計算手段は、選択された測定点に基づき、最小自乗法により楕円球のパラメータを算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の地磁気を測定し、利用する応用機器。
【請求項5】
前記応用機器の画面に回転操作を要求する操作指示を表示させ、その後の回転操作中に前記測定点取得手段を実施することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の地磁気を測定し、利用する応用機器。
【請求項6】
前記測定点取得手段実行中の地磁気ベクトルを検出し、取得する際において、取得された測定点を用いてリアルタイムで直交する3軸の各軸成分データの最大値と最小値の差を求め、あらかじめ定める基準値を3軸全てについて超えた時点で所定の個数の測定点が取得できていることを条件に応用機器の画面に測定点取得手段の実行が終了した旨の表示をすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の地磁気を測定し、利用する応用機器。
【請求項7】
前記測定点取得手段の実行中に順次地磁気ベクトルを検出する際に、基準となる点をまず取得し、その後は基準となる点から所定の距離以上離れた点が取得できた時に限定して取得した点を測定点格納部に格納し、さらに最新の格納した測定点を基準点として所定の距離以上離れた測定点を測定点格納部に格納するという取得手段を繰返することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の地磁気を測定し、利用する応用機器。
【請求項8】
前記方位演算手段は、楕円球の方程式を求めることにより得られた主軸の長さに基づいて、3軸の磁気センサの感度を求め、求めた感度に基づいて補正した地磁気ベクトルの値に基づいて方位を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の地磁気を測定し、利用する応用機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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