説明

地表電位検出用の集電車輪、塗膜損傷位置の探査装置、および地表の電位検出方法

【課題】地表上の凹凸形状や測定装置の走行速度によらず、地表の電位を連続した範囲にわたって確実に検出すること。
【解決手段】車輪軸O方向に互いに間隔をあけて複数配置された導電性のゴム円環部11と、車輪軸O方向で隣り合うゴム円環部11同士の間に挟み込まれるとともにゴム円環部11の外周面よりも径方向の内側に位置する中間環部12と、を備え、地表Gの電位差分布を測定する測定装置1に装着され、該測定装置1が地表G上を走行するときに地表G上を転動し、ゴム円環部11の外周面が地表Gに接触することで地表Gの電位を検出する車輪であって、車輪軸O方向で隣り合うゴム円環部11同士において互いに向かい合う面、および中間環部12の外周面で画成される環状空間18には、導電性媒体19が充填されている地表電位検出用の集電車輪10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地中に埋設されたガス導管などの塗覆装鋼管の塗膜損傷位置を地上から電気的に探査する塗膜損傷位置の探査装置に装着される地表電位検出用の集電車輪、塗膜損傷位置の探査装置、および地表の電位検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地中に埋設された塗覆装鋼管の上方の地表上を走行しながら地表の電位差分布を測定し、この電位差分布に基づいて塗覆装鋼管の塗膜損傷位置を探査する塗膜損傷位置の探査装置が知られている。この探査装置には、地表電位検出用の集電車輪が2つ装着され、これら2つの集電車輪が検出した地表の電位から地表の電位差分布を測定している。
ここで、この種の地表電位検出用の集電車輪として、例えば下記特許文献1に示されるような、車輪軸方向に互いに間隔をあけて複数配置された導電性のゴム円環部と、車輪軸方向で隣り合うゴム円環部同士の間に挟み込まれるとともにゴム円環部の外周面よりも径方向の内側に位置する中間環部と、を備える構成が知られている。この集電車輪は、探査装置が地表上を走行するときに地表上を転動し、ゴム円環部の外周面が地表に接触することで地表の電位を検出する。この際、ゴム円環体の外周面が、地表上の凹凸形状に合わせて弾性変形して地表に接触し続けることで、地表上の電位を連続した範囲にわたって検出し続けることができる。
これにより、前記探査装置は、地表の電位差分布を測定することが可能になり、この電位差分布に基づいて塗覆装鋼管の塗膜損傷位置の探査を高精度に行うことができる。
ところで前記探査装置は、例えば、塗覆装鋼管の一種であるガス導管などが埋設された一般道路や私有地など、多様に舗装された地表上を走行する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−249044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の地表電位検出用の集電車輪では、例えば砂利道など、凹凸が多い地表上で電位の検出を行うときに、探査装置の走行速度を高くすると、地表の電位を連続した範囲にわたって検出できなくなるおそれがあった。すなわち、例えば、ゴム円環部が地表上の小石などの障害物に乗り上げたときに、ゴム円環体の外周面が、地表上の凹凸形状に合わせて弾性変形する前に、集電車輪がその地点を通過してしまうおそれがあった。この場合、ゴム円環部の外周面と地表との間に大きな隙間が生じることで、ゴム円環部と地表との間の接触抵抗が大きくなり、地表の電位を検出できない可能性があった。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、地表上の凹凸形状や測定装置の走行速度によらず、地表の電位を連続した範囲にわたって確実に検出することができる地表電位検出用の集電車輪、塗膜損傷位置の探査装置、および地表の電位検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る地表電位検出用の集電車輪は、車輪軸方向に互いに間隔をあけて複数配置された導電性のゴム円環部と、車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士の間に挟み込まれるとともに前記ゴム円環部の外周面よりも径方向の内側に位置する中間環部と、を備え、地表の電位差分布を測定する測定装置に装着され、該測定装置が地表上を走行するときに地表上を転動し、前記ゴム円環部の外周面が地表に接触することで地表の電位を検出する地表電位検出用の集電車輪であって、車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士において互いに向かい合う面、および前記中間環部の外周面で画成される環状空間には、導電性媒体が充填されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る地表の電位検出方法は、車輪軸方向に互いに間隔をあけて複数配置された導電性のゴム円環部と、車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士の間に挟み込まれるとともに前記ゴム円環部の外周面よりも径方向の内側に位置する中間環部と、を備え、地表の電位差分布を測定する測定装置に装着され、該測定装置が地表上を走行するときに地表上を転動し、前記ゴム円環部の外周面が地表に接触することで地表の電位を検出する地表電位検出用の集電車輪を用いて地表の電位を検出する地表の電位検出方法であって、前記集電車輪が地表上を転動するときに、車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士において互いに向かい合う面、および前記中間環部の外周面で画成される環状空間に、導電性媒体を充填することを特徴とする。
【0008】
これらの発明においては、この集電車輪が地表上を転動するときに、地表からゴム円環部に径方向の内側に向けた力が加えられることで、ゴム円環部の外周側部分が、径方向に圧縮され車輪軸方向に拡幅変形させられて、この外周側部分に拡幅部が形成される。これにより、導電性媒体のうち、環状空間において前記拡幅部よりも径方向の外側に充填されている部分が、拡幅部によって径方向の外側に向けて押し込まれることとなる。
【0009】
したがって、この集電車輪が地表上を転動するときに、例えば、ゴム円環部が地表上の障害物に乗り上げ、ゴム円環部の外周面と地表との間に大きな隙間が生じてしまった場合であっても、導電性媒体を環状空間から流出させて前記隙間に介在させることが可能になり、ゴム円環部と地表との間の接触抵抗が大きくなるのを抑制することができる。これにより、地表上の凹凸形状や測定装置の走行速度によらず、地表の電位を連続した範囲にわたって確実に検出することができる。
【0010】
また、前述のようにゴム円環部の外周側部分に前記拡幅部が形成されるので、導電性媒体のうち、環状空間において前記拡幅部よりも径方向の内側に充填されている部分は、径方向の外側に向けた移動が前記拡幅部によって規制されることとなる。これにより、環状空間から導電性媒体が過度に流出するのを抑制することができる。
【0011】
なお、ゴム円環部のうち、車輪軸方向の両端に位置する外ゴム円環部を壁面の一部として画成される環状空間に導電性媒体が充填されている場合には、前述の作用効果が顕著に奏功されることとなる。すなわち、外ゴム円環部は、地表上の障害物に乗り上げた場合だけでなく、例えば、測定装置の荷重が車輪軸方向の片側に偏ってしまった場合等にも地表から離間することがあるため、この外ゴム円環部の外周面と地表との間には隙間が生じ易くなっている。
【0012】
また、本発明に係る地表電位検出用の集電車輪では、前記導電性媒体は、電解質水溶液を吸水した吸水性樹脂であっても良い。
【0013】
この場合、導電性媒体が、電解質水溶液を吸水した吸水性樹脂なので、ゴム円環部と地表との間の隙間に介在したときに、この導電性媒体に含まれる電解質水溶液を介して、ゴム円環部と地表との間を確実に電気的に接続することが可能になり、ゴム円環部と地表との間の接触抵抗が大きくなるのを確実に抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る地表電位検出用の集電車輪では、前記環状空間に前記導電性媒体を供給する供給手段を備えていても良い。
【0015】
この場合、前記供給手段を備えているので、環状空間から流出した分だけ、新たな導電性媒体を環状空間に供給することが可能になり、前述の作用効果を長期間にわたって確実に奏功させることができる。
【0016】
また、本発明に係る地表電位検出用の集電車輪では、前記ゴム円環部の硬度Hsは、65以上75以下であっても良い。
【0017】
この場合、ゴム円環部の硬度(JIS−Aゴム硬度)Hsが、65以上75以下となっているので、前述の作用効果を確実に奏功させることができる。
すなわち、ゴム円環部の硬度Hsが65よりも小さいと、ゴム円環部に地表から径方向の内側に向けた力が加えられたときに、前記拡幅部が大きくなりすぎて、車輪軸方向で互いに隣り合うゴム円環部に形成された前記拡幅部同士が接触するおそれがある。この場合、導電性媒体のうち、環状空間において前記拡幅部よりも径方向の内側に充填されている部分における径方向の外側に向けた移動が、過度に規制されるため、環状空間から導電性媒体が流出しにくくなり、導電性媒体を前記隙間に介在させることができない可能性がある。一方、ゴム円環部の硬度Hsが75よりも大きいと、前記拡幅部が形成されず、環状空間から導電性媒体が過度に流出するおそれがある。
【0018】
また、本発明に係る地表電位検出用の集電車輪では、前記導電性媒体の粘度は、1000mPa・s以上2000mPa・s以下となっていても良い。
【0019】
この場合、導電性媒体の粘度が、1000mPa・s以上2000mPa・s以下となっているので、前述の作用効果を確実に奏功させることができる。
すなわち、導電性媒体の粘度が1000mPa・sより小さい場合、導電性媒体が、環状空間から地表上に過度に流出するおそれがある。一方、導電性媒体の粘度が2000mPa・sより大きい場合、導電性媒体が環状空間から流出しにくくなり、導電性媒体を前記隙間に介在させることができないおそれがある。
【0020】
また、本発明に係る地表電位検出用の集電車輪は、車輪軸方向に互いに間隔をあけて複数配置された導電性のゴム円環部と、車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士の間に挟み込まれるとともに前記ゴム円環部の外周面よりも径方向の内側に位置する中間環部と、を備え、地表の電位差分布を測定する測定装置に装着され、該測定装置が地表上を走行するときに地表上を転動し、前記ゴム円環部の外周面が地表に接触することで地表の電位を検出する地表電位検出用の集電車輪であって、車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士において互いに向かい合う面、および前記中間環部の外周面で画成される環状空間に、導電性媒体を供給する供給手段を備えていることを特徴とする。
【0021】
この発明においては、この集電車両が地表上を転動する前に、予め環状空間に導電性媒体を充填しておく。すると、この集電車輪が地表上を転動するときに、地表からゴム円環部に径方向の内側に向けた力が加えられることで、ゴム円環部の外周側部分が、径方向に圧縮され車輪軸方向に拡幅変形させられ、この外周側部分に拡幅部が形成される。これにより、導電性媒体のうち、環状空間において前記拡幅部よりも径方向の外側に充填されている部分が、拡幅部によって径方向の外側に向けて押し込まれることとなる。
【0022】
したがって、この集電車輪が地表上を転動するときに、例えば、ゴム円環部が地表上の障害物に乗り上げ、ゴム円環部の外周面と地表との間に大きな隙間が生じてしまった場合であっても、導電性媒体を環状空間から流出させて前記隙間に介在させることが可能になり、ゴム円環部と地表との間の接触抵抗が大きくなるのを抑制することができる。これにより、地表上の凹凸形状や測定装置の走行速度によらず、地表の電位を連続した範囲にわたって確実に検出することができる。
【0023】
また、前述のようにゴム円環部の外周側部分に前記拡幅部が形成されるので、導電性媒体のうち、環状空間において前記拡幅部よりも径方向の内側に充填されている部分は、径方向の外側に向けた移動が前記拡幅部によって規制されることとなる。これにより、環状空間から導電性媒体が過度に流出するのを抑制することができる。
【0024】
なお、供給手段によって、ゴム円環部のうち、車輪軸方向の両端に位置する外ゴム円環部を壁面の一部として画成される環状空間に導電性媒体が供給される場合には、前述の作用効果が顕著に奏功されることとなる。すなわち、外ゴム円環部は、地表上の障害物に乗り上げた場合だけでなく、例えば、測定装置の荷重が車輪軸方向の片側に偏ってしまった場合等にも地表から離間することがあるため、この外ゴム円環部の外周面と地表との間には隙間が生じ易くなっている。
【0025】
また、本発明に係る塗膜損傷位置の探査装置は、地中に埋設された塗覆装鋼管の上方の地表上を走行しながら地表の電位差分布を測定し、この電位差分布に基づいて前記塗覆装鋼管の塗膜損傷位置を探査する塗膜損傷位置の探査装置であって、前記本発明に係る地表電位検出用の集電車輪が複数装着されていることを特徴とする。
【0026】
この発明によれば、前記本発明に係る地表電位検出用の集電車輪が複数装着されているので、地表上の凹凸形状や測定装置の走行速度によらず、地表上の電位を連続した範囲にわたって確実に検出することができる。これにより、地表の電位差分布を測定することが可能になり、この電位差分布に基づいて塗覆装鋼管の塗膜損傷位置の探査を高精度に行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、地表上の凹凸形状や測定装置の走行速度によらず、地表の電位を連続した範囲にわたって確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る塗膜損傷位置の探査車を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す探査車を構成する地表電位検出用の集電車輪の正面図である。
【図3】図2に示すA−A断面矢視図である。
【図4】図2に示す集電車輪の作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係る塗膜損傷位置の探査車(塗膜損傷位置の探査装置、測定装置)を説明する。
図1に示すように、塗膜損傷位置の探査車1(以下、単に探査車1という)は、車台2と、この車台2を支持するとともに地表Gの電位を検出する一対の地表電位検出用の集電車輪10(以下、単に集電車輪10という)と、これらの集電車輪10内に挿通されるとともに集電車輪10をその車輪軸O回りに回転可能に支持する一対の車軸部3と、車台2の底面に取り付けられるとともに一対の車軸部3を各別に支持する一対の軸支持部4と、一対の集電車輪10が検出した地表Gの電位に基づいて地表Gの電位差分布を測定する測定部5と、を備えている。
【0030】
一対の軸支持部4は、当該探査車1の走行方向に間隔をあけて配設されている。図2に示すように、軸支持部4は、上下方向に沿って延びる回転軸回りに回転可能に支持された上板部4aと、上板部4aの両側端から下方に向けて延びる一対の側板部4bと、を備え、全体として下方に向けて開口する正面視コ字状になるように、金属材料で形成されている。
【0031】
なお図示の例では、車台2の底面には、絶縁板6が取り付けられ、この絶縁板6は、軸支持部4の上板部4aに連結された縦軸7を前記回転軸回りに回転可能に支持している。これにより、軸支持部4の上板部4aは、これらの絶縁板6および縦軸7を介して車台2と電気的に絶縁された状態で、かつ前記回転軸回りに回転可能に支持されている。
また、軸支持部4の側板部4bと測定部5とは、仲介配線8を介して電気的に接続されている。そして、一対の側板部4b間に車軸部3が配置されており、車軸部3の両端は、これら一対の側板部4bに各別に固定されている。
測定部5は、例えばロックインアンプを備えていても良い。
【0032】
集電車輪10は、車輪軸O方向に互いに間隔をあけて複数配置された導電性のゴム円環部11、車輪軸O方向で隣り合うゴム円環部11同士の間に挟み込まれる金属円環部(中間環部)12、および金属円環部12内に嵌合されるとともに車輪軸O方向の両側に開口するドラム部13を有する車輪本体14と、車輪本体14を車輪軸O方向の両外側から挟み込む一対の外環部15と、これらの外環部15内に嵌合された状態で各別に固定されるとともに車軸部3に外嵌する一対の軸受部16と、車輪本体14および一対の外環部15を車輪軸O方向の両外側から挟持する複数の挟持手段17と、を備えている。
なお、これらのゴム円環部11、金属円環部12、ドラム部13、外環部15および軸受部16それぞれの中心軸は、いずれ共通軸上に位置している。以下では、この共通軸を車輪軸Oといい、この車輪軸Oに直交する方向を径方向といい、この車輪軸Oに周回する方向を周方向という。
【0033】
ゴム円環部11は、車輪軸O方向に間隔をあけて3つ以上(図示の例では6つ)配置されている。また、ゴム円環部11の硬度(JIS−Aゴム硬度)Hsは、65以上75以下となっている。さらに、車輪軸O方向で隣り合うゴム円環部11同士の間の間隔は、例えば2mm以上8mm以下、好ましくは4mmとなっている。
【0034】
金属円環部12は、例えば銅板に金メッキ処理が施されることで形成され、車輪軸O方向に複数(図示の例では5つ)配置されている。図3に示すように、金属円環部12は、ゴム円環部11の外周面よりも径方向の内側に位置し、つまり、金属円環部12の外径は、ゴム円環部11の外径よりも小さくなっている。また金属円環部12の内径は、ゴム円環部11の内径よりも小さくなっており、金属円環部12の内周面には、周方向に間隔をあけて複数の溝部12aが形成されている。この溝部12aは、図2に示すように、各金属円環部12の内周面において共通の周方向部分に形成されており、これらの溝部12a内には、ドラム部13の外周面に車輪軸O方向に沿って延設されたスペーサ部13aが嵌合されている。
【0035】
ドラム部13は、金属材料(例えばアルミニウム等)で形成されるとともに、その外周面が金属円環部12の内周面に接触している。これにより、ドラム部13を介して、複数の金属円環部12が互いに電気的に接続されている。
ドラム部13の車輪軸O方向の両端に位置する側壁部13bの表面は、ゴム円環部11のうち、車輪軸O方向の両端に位置する外ゴム円環部11Aにおいて車輪軸O方向の外側を向く面と、面一となっている。
【0036】
外環部15の外径は、ゴム円環部11の外径よりも小さく、かつ金属円環部12の外径よりも大きくなっており、ボルトによりドラム部13の側壁部13bに固定されている。
挟持手段17は、ゴム円環部11、金属円環部12および外環部15それぞれの共通の周方向部分に形成された貫通孔17aに挿通されるとともに一端部に頭部を有するボルト17cと、このボルト17cの他端部に螺着されたナット17dと、を備え、周方向に間隔をあけて複数配設されている。これにより、ゴム円環部11および金属円環部12それぞれの表面が互いに車輪軸O方向に強固に押し付けられ、ゴム円環部11と金属円環部12との間の接触抵抗が低減されている。
【0037】
そして本実施形態では、車輪軸O方向で隣り合うゴム円環部11同士において互いに向かい合う面、および金属円環部12の外周面で画成される環状空間18には、導電性媒体19が充填されている。図示の例では、導電性媒体19は、全ての環状空間18にその全周にわたって充填されているとともに、導電性媒体19の導電率は、ゴム円環部11の導電率よりも高くなっている。
【0038】
導電性媒体19は、探査車1が地表G上を走行してこの集電車輪10が地表G上を転動するときに、遠心力により環状空間18から外部に向けて飛散しない程度の粘性を具備しており、導電性媒体19の粘度は、例えば、1000mPa・s以上2000mPa・s以下となっている。
導電性媒体19は、例えば、電解質水溶液を吸水してゲル状をなす吸水性樹脂となっている。前記電解質水溶液としては、例えば、塩化ナトリウム水溶液などが挙げられ、前記吸水性樹脂としては、例えば、ビニルアルコール・アクリル酸塩共重合体が挙げられる。
【0039】
また本実施形態では、この集電車輪10は、環状空間18に導電性媒体19を供給する供給手段20を備えている。供給手段20は、ドラム部13内に取り付けられるとともに、ゴム円環部11に各別に形成されかつ環状空間18に開口する供給路21を通して、環状空間18に導電性媒体19を供給する。供給路21は、周方向に間隔をあけて複数形成されており、供給手段20は、周方向に間隔をあけた複数箇所から環状空間18に導電性媒体19を供給する。
【0040】
図示の例では、供給手段20は、ドラム部13に着脱可能に取り付けられるとともに導電性媒体19が収容されたタンク部20aと、タンク部20aと供給路21とを連通する連通配管20bと、連通配管20bに配設されたバルブ部20cと、タンク部20a内の導電性媒体19を連通配管20bに圧送するポンプ部20dと、バルブ部20cおよびポンプ部20dを制御する制御部20eと、を備えている。
【0041】
次に、以上のように構成された探査車1を用いて、地中に埋設された塗覆装鋼管の塗膜損傷位置を探査する方法について説明する。
まず、塗覆装鋼管と地中の接地局との間に交流電圧を印加して鋼管に電流を流す。
また、例えば車台2を走行方向に向けて押す等して、探査車1に、塗覆装鋼管の上方の地表G上を走行させる。この際、集電車輪10は、地表G上を転動しながら、地表Gの電位を電気信号として検出する。
【0042】
集電車輪10が検出した電気信号は、金属円環部12、ドラム部13、軸受部16、車軸部3、軸支持部4、および仲介配線8を介して測定部5に送出される。測定部5は、各集電車輪10から送出された電気信号に基づいて、これらの集電車輪10が接触している地表G間の電位差を測定する。したがって、探査車1に地表G上を走行させ続けることで、測定部5は、各集電車輪10が接触している地表G間の電位差を測定し続けることが可能になり、塗覆装鋼管の上方の地表Gにおける電位差分布を測定することができる。そして測定部5は、この電位差分布に基づいて塗覆装鋼管の塗膜損傷位置を探査する。
【0043】
ここで図4に示すように、この集電車輪10が地表G上を転動するときに、地表Gからゴム円環部11に径方向の内側に向けた力が加えられることで、ゴム円環部11の外周側部分が、径方向に圧縮され車輪軸O方向に拡幅変形させられ、この外周側部分に拡幅部11Bが形成される。これにより、導電性媒体19のうち、環状空間18において前記拡幅部11Bよりも径方向の外側に充填されている部分が、拡幅部11Bによって径方向の外側に向けて押し込まれることとなる。
したがって、この集電車輪10が地表G上を転動するときに、例えば、ゴム円環部11が地表G上の障害物に乗り上げ、ゴム円環部11の外周面と地表Gとの間に大きな隙間が生じてしまった場合であっても、導電性媒体19を環状空間18から流出させて前記隙間に介在させることができる。
【0044】
また本実施形態では、この際、環状空間18から流出した分だけ、供給手段20によって、新たな導電性媒体19を環状空間18に供給する。図示の例では、制御部20eによって、ポンプ部20dおよびバルブ部20cを制御することで、供給量を調整しながら、環状空間18に導電性媒体19を供給する。なおこの際、導電性媒体19の供給量を、環状空間18から流出した分よりも多く供給して、導電性媒体19を環状空間18に充溢させても良い。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る探査車1に装着された集電車輪10によれば、この集電車輪10が地表G上を転動するときに、ゴム円環部11の外周面と地表Gとの間に生じた隙間に導電性媒体19を介在させることが可能になり、ゴム円環部11と地表Gとの間の接触抵抗が大きくなるのを抑制することができる。これにより、地表G上の凹凸形状や測定装置の走行速度によらず、地表Gの電位を連続した範囲にわたって確実に検出することができる。
【0046】
また、前述のようにゴム円環部11の外周側部分に前記拡幅部11Bが形成されるので、導電性媒体19のうち、環状空間18において前記拡幅部11Bよりも径方向の内側に充填されている部分は、径方向の外側に向けた移動が前記拡幅部11Bによって規制されることとなり、導電性媒体19が環状空間18から地表G上に過度に流出するのを抑制することができる。
【0047】
また本実施形態のように、ゴム円環部11のうち、外ゴム円環部11Aを壁面の一部として画成される環状空間18に導電性媒体19が充填されている場合には、前述の作用効果が顕著に奏功されることとなる。すなわち、外ゴム円環部11Aは、地表G上の障害物に乗り上げた場合だけでなく、例えば、探査車1の荷重が車輪軸O方向の片側に偏ってしまった場合等にも地表Gから離間することがあるため、この外ゴム円環部11Aの外周面と地表Gとの間には隙間が生じ易くなっている。
【0048】
また、導電性媒体19の粘度が、1000mPa・s以上2000mPa・s以下となっているので、前述の作用効果を確実に奏功させることができる。
すなわち、導電性媒体19の粘度が1000mPa・sより小さい場合、導電性媒体19が、環状空間18から流出し易く地表G上に過度に流出するおそれがある。一方、導電性媒体19の粘度が2000mPa・sより大きい場合、導電性媒体19が環状空間18から流出しにくくなり、導電性媒体19を前記隙間に介在させることができないおそれがある。
【0049】
また、ゴム円環部11の硬度Hsが、65以上75以下となっているので、前述の作用効果を確実に奏功させることができる。
すなわち、ゴム円環部11の硬度Hsが65よりも小さいと、ゴム円環部11に地表Gから径方向の内側に向けた力が加えられたときに、前記拡幅部11Bが大きくなりすぎて、車輪軸O方向で互いに隣り合うゴム円環部11に形成された前記拡幅部11B同士が接触するおそれがある。この場合、導電性媒体19のうち、環状空間18において前記拡幅部11Bよりも径方向の内側に充填されている部分における径方向の外側に向けた移動が、過度に規制されるため、環状空間18から導電性媒体19が流出しにくくなり、導電性媒体19を前記隙間に介在させることができない可能性がある。一方、ゴム円環部11の硬度Hsが75よりも大きいと、前記拡幅部11Bが形成されず、環状空間18から導電性媒体19が過度に流出するおそれがある。
【0050】
また、導電性媒体19が、電解質水溶液を吸水した吸水性樹脂なので、ゴム円環部11と地表Gとの間の隙間に介在したときに、この導電性媒体19に含まれる電解質水溶液を介して、ゴム円環部11と地表Gとの間を確実に電気的に接続することが可能になり、ゴム円環部11と地表Gとの間の接触抵抗が大きくなるのを確実に抑制することができる。
【0051】
また、前記供給手段20を備えているので、環状空間18から流出した分だけ、新たな導電性媒体19を環状空間18に供給することが可能になり、前述の作用効果を長期間にわたって確実に奏功させることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る探査車1によれば、前記集電車輪10が複数装着されているので、地表G上の凹凸形状や探査車1の走行速度によらず、地表G上の電位を連続した範囲にわたって確実に検出することができる。これにより、地表Gの電位差分布を測定することが可能になり、この電位差分布に基づいて塗覆装鋼管の塗膜損傷位置の探査を高精度に行うことができる。
【0053】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、集電車輪10は、スペーサ部13a、外環部15、挟持手段17を備えていなくても良い。
また、前記実施形態では、集電車輪10は、車軸部3に回転可能に支持されるものとしたが、これに限られるものではない。例えば、集電車輪10が車軸部3に固定されるとともに、車軸部3が軸支持部4に車輪軸O回りに回転可能に支持されていても良い。
【0054】
また、前記実施形態では、金属円環部12が、車軸方向に複数配置されているものとしたが、これに限られるものではない。例えば、2つのゴム円環部11の間に1つの金属円環部12が挟み込まれた構成であっても良い。
さらに、前記実施形態では、複数の金属円環部12は、ドラム部13を介して互いに電気的に接続されているものとしたが、これに限られるものではなく、例えば、導電性の高い金などで形成された導線によって互いに連結されることで、互いに電気的に接続されていても良い。
さらにまた、前記実施形態では、中間環部として金属円環部12を採用したが、中間環部は金属材料で形成されていなくても良い。さらに、中間環部は、環状であれば、円環状でなくても良い。
【0055】
また、集電車輪10が供給手段20を備えている場合、環状空間18には予め導電性媒体19が充填されていなくても良い。この場合、例えば、探査車1が走行を開始する前に、供給手段20により環状空間18に導電性媒体19を充填し、その後、探査車1を走行させれば良い。
さらに、供給手段20はなくても良い。この場合、探査車1を走行させるときに、作業者が環状空間18に導電性媒体19を供給しても良い。
さらにまた、探査車1が、供給手段20を備えていて良い。この場合例えば、供給手段は、環状空間18に導電性媒体19を各別に供給する供給管を備えていても良い。
【0056】
また、前記実施形態では、導電性媒体19は、ゴム円環部11よりも導電性が高くなっているものとしたが、これに限られるものではない。
さらに、前記実施形態では、導電性媒体19は、電解質水溶液を吸水した吸水性樹脂であるものとしたが、これに限られるものではない。例えば、単なる水を吸水した吸水性樹脂であったり、ゲル状の導電性高分子などであったりしても良い。
【0057】
また、前記実施形態では、探査車1に一対の集電車輪10が備えられているものとしたが、これに限られるものではなく、3つ以上の集電車輪10が備えられていても良い。さらに例えば、探査車1に、この集電車輪10とは異なる走行専用の車輪を備えさせ、探査車1を走行させるものの地表Gの電位を検出する必要がない際に、これらの集電車輪10を上昇させるような構成としても良い。
【0058】
また、前記実施形態では、塗覆装鋼管の塗膜損傷位置を探査する探査車1に装着された集電車輪10について説明したが、地表Gの電位差分布を測定する測定装置に装着される集電車輪10であれば、これに限られるものではない。
【0059】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
G 地表
O 車輪軸
1 塗膜損傷位置の探査車(塗膜損傷位置の探査装置、測定装置)
10 集電車輪
11 ゴム円環部
12 金属円環部(中間環部)
18 環状空間
19 導電性媒体
20 供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪軸方向に互いに間隔をあけて複数配置された導電性のゴム円環部と、
車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士の間に挟み込まれるとともに前記ゴム円環部の外周面よりも径方向の内側に位置する中間環部と、を備え、
地表の電位差分布を測定する測定装置に装着され、該測定装置が地表上を走行するときに地表上を転動し、前記ゴム円環部の外周面が地表に接触することで地表の電位を検出する地表電位検出用の集電車輪であって、
車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士において互いに向かい合う面、および前記中間環部の外周面で画成される環状空間には、導電性媒体が充填されていることを特徴とする地表電位検出用の集電車輪。
【請求項2】
請求項1記載の地表電位検出用の集電車輪であって、
前記導電性媒体は、電解質水溶液を吸水した吸水性樹脂であることを特徴とする地表電位検出用の集電車輪。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の地表電位検出用の集電車輪であって、
前記環状空間に前記導電性媒体を供給する供給手段を備えていることを特徴とする地表電位検出用の集電車輪。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の地表電位検出用の集電車輪であって、
前記ゴム円環部の硬度Hsは、65以上75以下であることを特徴とする地表電位検出用の集電車輪。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の地表電位検出用の集電車輪であって、
前記導電性媒体の粘度は、1000mPa・s以上2000mPa・s以下となっていることを特徴とする地表電位検出用の集電車輪。
【請求項6】
車輪軸方向に互いに間隔をあけて複数配置された導電性のゴム円環部と、
車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士の間に挟み込まれるとともに前記ゴム円環部の外周面よりも径方向の内側に位置する中間環部と、を備え、
地表の電位差分布を測定する測定装置に装着され、該測定装置が地表上を走行するときに地表上を転動し、前記ゴム円環部の外周面が地表に接触することで地表の電位を検出する地表電位検出用の集電車輪であって、
車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士において互いに向かい合う面、および前記中間環部の外周面で画成される環状空間に、導電性媒体を供給する供給手段を備えていることを特徴とする地表電位検出用の集電車輪。
【請求項7】
地中に埋設された塗覆装鋼管の上方の地表上を走行しながら地表の電位差分布を測定し、この電位差分布に基づいて前記塗覆装鋼管の塗膜損傷位置を探査する塗膜損傷位置の探査装置であって、
請求項1から6のいずれか1項に記載の地表電位検出用の集電車輪が複数装着されていることを特徴とする塗膜損傷位置の探査装置。
【請求項8】
車輪軸方向に互いに間隔をあけて複数配置された導電性のゴム円環部と、
車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士の間に挟み込まれるとともに前記ゴム円環部の外周面よりも径方向の内側に位置する中間環部と、を備え、
地表の電位差分布を測定する測定装置に装着され、該測定装置が地表上を走行するときに地表上を転動し、前記ゴム円環部の外周面が地表に接触することで地表の電位を検出する地表電位検出用の集電車輪を用いて地表の電位を検出する地表の電位検出方法であって、
前記集電車輪が地表上を転動するときに、車輪軸方向で隣り合う前記ゴム円環部同士において互いに向かい合う面、および前記中間環部の外周面で画成される環状空間に、導電性媒体を充填することを特徴とする地表の電位検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−145256(P2011−145256A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8225(P2010−8225)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(500171811)日鉄パイプライン株式会社 (34)
【Fターム(参考)】