説明

地震時橋梁被災度判定システムおよび被災度診断ユニット

【課題】 地震時の橋梁被災度を簡便かつ迅速に判定でき、地震後の橋梁の使用可否を客観的かつ効率的に予測することができる地震時橋梁被災度判定システムおよび被災度診断ユニットを提供する。
【解決手段】 地震後の橋梁構造物の被災程度を判定する地震時橋梁被災度判定システム1において、前記橋梁構造物51の橋脚52頭部に設置した加速度センサ4により地震時の橋脚52頭部の加速度応答記録を取得し、地震前後の固有周期の変化を演算し、この演算した結果から橋梁51の損傷の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震時橋梁被災度判定システムおよび被災度診断ユニットに関し、詳しくは道路橋としての鉄筋コンクリート橋脚など橋梁の被災度判定に主に用いられ、震災後の橋梁の被災診断、継続使用可能性の診断、損傷度診断を迅速かつ精度よく行うことができるシステムに係るものである。
【背景技術】
【0002】
地震などの震災後の橋梁の被災診断、継続使用可能性の診断、損傷度診断は、外観からの目視に基づいて行われているのが現状であり、一般に専門家による判定が必要となる。したがって、専門家の数が限られており、しかも専門家を現地に派遣する時間を要するため、震災地域の橋梁の被災診断には多大な時間を要し、また特に夜間に判定を行う必要のある場合や地中部・水中部の損傷などの目視できない場合については、専門家でもその判定が困難である。
【0003】
構造物の経年劣化の検知を目的としたヘルスモニタリング技術に関する開発研究が行われているが、この技術を被災診断に転用できない。すなわち、震災により橋梁に生ずる大ひずみ、大変形領域の測定は、現状のモニタリング技術では困難である。また、震災はいつ発生するか予測することができないため、常時外部電源を通じたモニタリングは、維持費やシステム構成上からみても実現化が困難であり、震災による停電によっては充分なモニタリングができないおそれもある。
【0004】
前記のほかに橋梁構造物を構成した橋脚に振動検出部を設置し、これらの振動検出部で地震時における橋脚の振動を検出し、その振動波形を有線で中継局に伝送して中継局に一時蓄積してから無線で計測部に伝送し、この計測部の判定部で、振動波形から橋梁の安全性を判定するようにした橋梁特性検査機器も知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この機器では、判定を中継局に設けた判定部で行うようになっており、しかも振動波形データを有線回線で転送しているので、地震によって有線回線の一部が断線などで損傷し、一部データが不達となり、このデータが欠落した橋脚については判定が不能となるおそれがある。
【0005】
【特許文献1】特開平07−128182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこでこの発明は、前記従来のものの問題点を解決し、地震時の橋梁被災度を簡便かつ迅速に判定でき、地震後の橋梁の使用可否を客観的かつ効率的に予測することができる地震時橋梁被災度判定システムおよび被災度診断ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、地震後の橋梁構造物の被災程度を判定する地震時橋梁被災度判定システムにおいて、前記橋梁構造物の橋脚頭部に設置した加速度センサにより地震時の橋脚頭部の加速度応答記録を取得し、地震前後の固有周期の変化を演算し、この演算した結果から橋梁の損傷の有無を判定する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記加速度応答記録から前記固有周期の変化を求め、この変化から前記橋梁構造物の損傷度に対応した応答塑性率を演算して、前記損傷の有無を判定しており、前記応答塑性率が所定値を越えたときに橋梁が損傷したと判定する。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記応答塑性率は、下記の式に基づいて求めている。

但し、Tは、変化後の橋梁の固有周期、T0は、変化前の橋梁の固有
周期、μは、応答塑性率である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3の地震時橋梁被災度判定システムに用いられる被災度診断ユニットであって、前記加速度センサと、この加速度センサの検出データに基づき橋梁構造物の損傷を判定するマイクロコンピュータと、このマイクロコンピュータが構造物に損傷が生じたと判定した場合に、この判定結果を発信する通信器と、センサデータ、演算結果を蓄積するメモリと、これらに電力を供給する内蔵電源とを、1つの所定容器に収容してパッケージした。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、前記のような構成であるから、地震時の橋梁被災度を簡便かつ迅速に判定でき、地震後の橋梁の使用可否を客観的かつ効率的に予測することができる。すなわち、地震時の橋梁構造物の挙動を表わした加速度応答記録から、当該地震後の橋梁の使用可否を、自動化して簡便かつ迅速に確認でき、大地震時における各種の対処活動をするための、すみやかな初動態勢の確保に資するとともに、客観的かつ効率的に構造物の被災判定を行うことができ、地震後の効率的で合理的な復旧計画に資するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明の一実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0013】
図1(a)は地震時橋梁被災度判定システムおよび被災度診断ユニットの概要を示す斜視図を示す。51は本システムで被災度の判定対象とされている橋梁構造物としての道路橋で、この道路橋51は、複数個の鉄筋コンクリート橋脚52と、これらの橋脚52の上に横たわって設置された上部構造物である橋げた53とからなっている。
【0014】
地震時橋梁被災度判定システム(以降、判定システムと略称する)1は、各橋脚52に設置された加速度センサを有した被災度診断ユニット(以降、診断ユニットと略称する)2と、これらの診断ユニット2からの診断情報を受信して所定に情報処理する管理コンピュータ3とを主体に構成され、地震発生後には、診断ユニット2が自発的に、その設置された橋脚52の損傷を管理コンピュータ3に無線で通知し、管理コンピュータ3側は、道路橋51を含む道路ネットワーク全体の地震による損傷情況を迅速かつ確実に把握し、各種の対処情報を提供できるようにしている。
【0015】
この管理コンピュータ3は、道路橋51から離れた所定の場所に設置され、図示しない通信器に接続されている。また、この管理コンピュータ3は、診断ユニット2の個数や、診断ユニット2から得た情報の処理以外の他の処理などによって規定される必要な能力、コスト面などを勘案して、大型汎用コンピュータ(メイン・フレーム・コンピュータ)、ワークステーション、パーソナル・コンピュータ(パソコン)等のいずれかが、適宜、選択されて用いられている。すなわち、管理コンピュータ3は複数の橋脚52の損傷判定結果を受け取り、道路橋51を含めた道路ネットワーク全体の健全性(使用性)に関する処理を行う。そして、この処理結果は交通情報として出力する。たとえば、道路橋51が使用不能と判定された場合、周辺区間の通行止と迂回路の提示を行い、2次災害の防止を図ると共に、円滑な災害時交通の確保に資するものである。
【0016】
各橋脚52の頭部には、地震による該橋脚52の損傷を検知するための振動データを取得する診断ユニット2が、それぞれ取り付けられている。すなわち、橋脚52の基部は地面に固定され、この地面を伝達されてくる地震波による振動を、明瞭に観測できる箇所として橋脚52の頭部、より好ましくは天端が選択され、この頭部か天端かに診断ユニット2が設置されている。また、これらの診断ユニット2は、外部から電力の供給を受けることなく、また外部から指令を受け取らなくても、それぞれ単独で所定の一連の動作が可能な自律的なユニットに構成されている。
【0017】
すなわち、診断ユニット2は、図1(b)に示すように、地震によって加振された橋脚52の加速度を検出して振動波形データなどを取得するための加速度センサ本体4と、この加速度センサ本体4が測定したデータを所定に処理した判定動作や記録保存動作させるマイクロコンピュータである処理用コンピュータ5と、処理結果に基づき必要な通知を外部の管理コンピュータ3に無線で伝達するための通信器6と、所定のセンサデータや演算結果を蓄積して長期保存する記録保存用メモリ7と、これらの各部4〜7の作動に必要な電力を外部電源に依存することなく供給する電源部8とを、パッケージ化して、すべてひとつの密閉化できる小型容器に収めた構成とされている。そして、診断ユニット2は、加速度センサ本体4が、地震時に橋脚52の応答加速度を検出し、処理用コンピュータ5が、検出した応答加速度から橋脚52の固有周期の変化を求め該変化に基づき、地震による橋脚52の損傷を判定し、同処理用コンピュータ5は橋脚52に損傷が生じたと判定した場合に、この判定結果を通信器6を用いて管理コンピュータ3に送信して通知するようにしており、さらにこれらの各部4〜7に作動電力を供給する電源部8は、自給できるようにしている。
【0018】
この診断ユニット2は、防水・防塵などの耐候性や、耐久性を有した図示しないケーシング内に、電気的な構成を収納しており、野外に設置されても、各種の外部環境の変動からその内部構成を所定に防護できるようにしている。また診断ユニット2の重量、および外形寸法は、取扱いが容易な重量、および寸法が設定され、人力で簡単に持ち運べるようにしている。
【0019】
診断ユニット2は、その実体的には、加速度センサ本体4としてMEMS(Micro Electro Mechanical System )センサを用いて、このMEMSセンサを、処理用コンピュータ5を構成した図示しないマイクロコンピュータ・ボード(以降、マイコンボードと略称する)に直付けして搭載している。すなわち、加速度センサとしてのMEMSセンサを、マイコンボード上に配置して組み込んだ電気部品にしている。
【0020】
これは、加速度センサ本体4は、その検出する物理量が対象物の加速度であり、しかもその対象物が、診断ユニット2に比べてはるかに大きな質量を有した橋脚52であるので、対象物である橋脚52に付随して設置すれば、地震時の橋脚52の加速度に影響を与えることなくその検出が可能であり、また加速度センサ本体4を診断ユニット2の外部に露出して配置する必要がなく、診断ユニット2の内奥側に収納しても、その検出動作に差し支えないからである。また、この加速度センサ本体4としては、大量生産により安価に供給され、マイコンボードと一体化が可能なMEMSセンサを用いている。これらの結果、加速度センサとして、省電力化と低コスト化が図れる。
【0021】
処理用コンピュータ5は、回路基板としてのマイコンボード上に、CPU、プログラム実行用のメモリ、加速度センサ本体4などの電気部品を所定に配置して構成され、プログラム実行用のメモリの他に、記録保存用メモリ7を有している。この記録保存用メモリ7は、地震発生時に加速度センサ本体4が取得した所定量の実測データを格納可能な充分な記憶容量が確保され、電源部8から保存用に最小限必要な動作電流を供給されるか、動作電流を要しない記録特性を有した不揮発性のメモリが用いられるかして、この保存した実測データを地震発生後の長期に渡って保存し、任意の時点で回収できるようにしている。
【0022】
通信器6は、所定の通信機能を有して、マイコンボードおよび図示しないアンテナに接続され、診断ユニット2と管理コンピュータ3との間に、有線回線を設置する替わりに、無線回線で形成した無線LAN(Local Area Network)を形成している。したがって、診断ユニット2は、所定の通信プロトコルに従って、この無線LANに端末として接続し、管理コンピュータ3とデータ交換などの交信を可能にしている。このように診断ユニット2と管理コンピュータ3との間の通信処理は、LAN機能があらかじめ備えているデータ配信機能を用いているので、診断ユニット2の個数を、任意に増減できる。このため、固定設備として判定システム1の全体構成を、被災度を判定する対象としての道路橋51に応じて柔軟に変更でき、適用範囲を拡大できる。
【0023】
診断ユニット2は、外部電源からの電力供給に依存しない、自給型のセンサ・システムとしている。すなわち、個々の診断ユニット2には、半永久電源の構成にした電源部8が、内蔵されており、診断ユニット2のユニット全体(加速度センサ本体4、処理用コンピュータ5としてのマイコンボード、通信器6、メモリ7)が消費する電力を賄うようにしている。
【0024】
この内蔵した半永久電源としての電源部8は、太陽光、風力、水力、振動などをエネルギー源にして電力を生成する図示しない発電部と、この電力を蓄積して実用的に安定して供給する、電気二重層キャパシタなどの電気コンデンサを用いた図示しない蓄電部とから構成されている。なお、橋梁構造物51が設置されている自然環境に応じて、自然力として太陽光、風力、水力のいずれか、またはこれらを適宜、組み合わせたものを発電用のエネルギー源としてもよく、具体的な構成は、一般的な構成を適宜、選択して用いている。
【0025】
したがって、このように構成した半永久電源を内蔵しているので、診断ユニット2は、外部からの電力供給や、頻繁な電池交換を不要とできる。
【0026】
このように構成された診断ユニット2によれば、その取り扱いを容易にできるとともに、設置コストの低減が図れる。すなわち、診断ユニット2は、その重量および外形寸法が、人力で運搬可能に設定されているので、容易に取り扱うことができる。また、診断ユニット2は、自給型の電源部8を内蔵し、しかも無線回線で、診断ユニット2と管理コンピュータとの間の通信経路を確保しているので、配線作業が不要となり、診断ユニット2を検出箇所に設置して所定の動作テストなどを済ませれば、直ちに稼動状態とでき、設置コストを低減できる。
【0027】
次に、固有周期の変化に基づく損傷判定方法を説明する。
【0028】
まず、現在、新設される橋梁において、橋脚の許容応答塑性率は、橋梁の耐震設計における主要な指標のひとつである。また、既設の橋梁においても、応答塑性率と損傷度には強い相関関係があることが既知である。このため、応答塑性率を、損傷度の指標とできる。
【0029】
なお、応答塑性率μとは、対象構造物に、地震動波形が加わった場合に、構造物に生じる応答変位波形の最大振幅をδとするとともに、この対象構造物に静的荷重が加えられた場合に静的に降伏するときの変位量をδyとすると、δ/δyで求められる値と定義できる。
【0030】
次に、この応答塑性率と固有周期との関連性を説明する。一般に、鉄筋コンクリート製の部材では、荷重〜変位の関係において完全弾塑性の関係が成立している。この完全弾塑性の関係があるという前提から、鉄筋コンクリート単柱橋脚の地震による損傷前後の固有周期の変化率は、応答塑性率の平方根に等しいことが導き出せる。以下に、この導き出す過程を説明する。
【0031】
すなわち、橋脚構造物の固有周期Tは、単振動の方程式として、橋脚構造物の質量mと、そのばね定数Kとから下記の(1)式によって、表わされる。
【数1】

【0032】
前提とした完全弾塑性の関係を図2(a)のグラフに示す。地震発生前として橋脚構造物が損傷を受ける前、すなわち橋脚構造物に加わる外力PがPyよりも低い場合は、この外力による応答変位δは外力Pと完全に比例する弾性変形となり、ばね定数KはPy(弾性限界時の外力=降伏耐力)/δy(弾性限界時の変位=降伏変位)つまりK0となる。したがって固有周期Tは変化しない。
【0033】
これに対して、図2(b)のグラフに示すように、地震発生時にこの地震による外力Pが降伏耐力Pyを超えると、応答変位δは降伏耐力Pyを保持したまま降伏変位δyを超えて伸びていき、鉄筋コンクリートは損傷しながら軟化する塑性変形状態となる。軟化後のばね定数KはPy/δ(最大応答変位)で表すことができ、K0よりも小さくなる。このため固有周期Tは損傷前よりも長くなる。
【0034】
ここで、(1)式の関係から、橋脚が損傷を受ける前の状態の固有周期T0は、損傷を受ける前のばね定数K0を用いて、下記の(2)式によって表わされる。
【数2】

【0035】
損傷を受けた後の固有周期をTとし、損傷前後の固有周期の変化率を、T/T0と定義すると、これに上記の(1)式および(2)式を代入し整理して、下記(3)式が得られる。
【数3】

【0036】
そして、図2(b)のグラフから、ばね定数K0およびばね定数Kは、それぞれ下記の(4)式および(5)式で表わされる。
【数4】

【数5】

【0037】
したがって、上記(3)式に、これらの(4)式および(5)式を代入し整理すると、下記の(6)式が得られる。
【数6】

【0038】
したがって、応答塑性率μは、δ/δyと定義されているので、このようにして導き出した(6)式から、固有周期の変化率は、応答塑性率の平方根に等しいことが解かる。
【0039】
また、この固有周期の変化率と応答塑性率との相関関係が充分な精度で成立するかを、実物の約1/4の橋脚縮尺模型を用いて加振した振動台実験により検証した。すなわち、この実験結果から、図2(c)のグラフに示すように、実測した固有周期から求めた応答塑性率(縦軸)と、実測した応答変位から求めた応答塑性率(横軸)とからなる各値が、ほぼ直線上に揃ってプロットできることが理解でき、これから明確に、両者間には相関関係があるだけではなく、充分な精度を有した正比例の関係にあることが認められた。
【0040】
以上の説明から、地震発生時に加速度応答記録を取得し、加速度応答記録から地震前後の橋梁構造物における固有周期の変化を求め、この変化から橋梁構造物の損傷度の指標となる応答塑性率を演算し、橋梁が損傷したか否かを判定することができる。すなわち、診断ユニット2は、「地震中に継続して検出」した橋梁構造物の固有周期が、「未損傷時(変化前)の固有周期T0」から何らかの損傷を受けて「変化した後の固有周期T」に移行したことを自動的に識別し、直ちにどの程度変化したかを表わした「変化率」より応答塑性率μを演算するとともに、この応答塑性率μを判断基準にして、地震による橋梁構造物の損傷の有無や損傷程度を判定している。これは、あらかじめ閾値として許容塑性率に基づいた所定値を設定しておき、演算した応答塑性率が、所定値を越えたときに橋梁が損傷したと自動判定する。また、固有周期の算定は、加速度応答記録を用いて、たとえば振動が安定したと思われる期間中に適当な時間(約10秒程度の時間)の波形のフーリエ・スペクトルから求めるなどのように、適宜の解析手法を採用しており、安全性に配慮して確実に損傷の有無を判定できる解析手法であれば、解析精度などに関して簡素なものでよく、特に限定されない。さらに、算定に用いる固有周期T0,Tの単位も、橋梁構造物の特性に応じて、秒(sec)、ミリ秒(m sec)などから適宜選択している。
【0041】
次に、この診断ユニット2で用いる被災度判定アルゴリズムを説明する。
【0042】
上記の相関関係に基づいた判定方法を用いて、図3に示すように、1次判定(損傷有無の判定)、2次判定(損傷程度の診断)を行う被災度判定アルゴリズムを策定し、この作成したアルゴリズムをプログラミングし、この作成したプログラムを診断ユニット2に組み込んで、診断ユニット2がアルゴリズムに従った動作を可能にマイコンボードに実装している。すなわち、診断ユニット2の判定主体となる処理用コンピュータ5を構成した加速度センサ内蔵のマイコンボード上には、上記のアルゴリズムを実行するためのプログラムを格納したROM(Read Only Memory)などを搭載している。
【0043】
このように構成された判定システム1の全体動作を説明する。すなわち、地震発生に伴い、橋脚52の頭部に設置された診断ユニット2は、入力段、演算段、出力段の各処理を順次、実行する。
【0044】
入力段では、データの取り込み開始の判断を行なう。加速度センサ本体4が検出した加速度データからデータ採取開始イベント(地震イベント)が発生したかを判定して、地震イベントが生じたと判定されれば、メモリに蓄積するとともに、以下に示す処理を開始する。
【0045】
次に、演算段では、固有周期の算定と、損傷度の判定とが順次行なわれる。固有周期は、フーリエ変換やウエーブレット変換により算定される。その際にはウィンドウ設定、フィルター処理などの、データ前処理、後処理も行なわれる。損傷度の判定としては、地震前後の固有周期の変化率から計算された応答塑性率によるものとし、この応答塑性率と、あらかじめ設定された許容塑性率とを比較することにより、1次判定として損傷の有無・程度、および地震発生後の橋脚52が使用可能か否かを判定する。
【0046】
最後に、出力段では、判定結果を出力する。1次判定結果として、演算段で判定された地震発生後の橋脚52が使用可能か否かの結果を出力し、無線通信器6により外部へ通知する。また、別途外部で行われる詳細な2次判定に供するため必要な情報、すなわち地震イベント開始時から1次判定終了時までの応答加速度波形や、最大値、1次判定結果をデータ格納用の内蔵メモリ7に蓄積し、後日、無線通信器6を通じて回収可能なようにする。回収されたデータは、詳細な被災分析や復旧計画の策定に資するものである。
【0047】
以上説明したように、この判定システムによれば、橋脚頭部に設置した加速度センサにより地震時の加速度応答記録を取得して、この地震による橋脚の損傷を判定しているので、センサの設置が容易であり、多数の橋脚を損傷判定の対象とでき、広い適用範囲を得ることができる。すなわち、一般に、橋脚は通常基部が損傷するが、この基部は多くの場合、土中或いは水中に位置しているので、センサ設置が困難であり、また損傷部位での直接計測は多くの困難を伴う。これに対して、この判定システムでは、損傷検知のための情報として、構造物の応答加速度を用いることとし、この応答加速度を上記の基部以外の頭部に設置したセンサで検出するように構成しているので、センサ設置に伴う困難を最小限に抑制できる。
【0048】
また、この判定システムを構成した診断ユニットでは、加速度センサと直結したマイコンボードで地震前後の橋梁構造物における固有周期の変化を演算し、演算結果から、橋梁構造物の損傷の有無を即時に判定し、この判定結果を出力しているので、検知・判断の正確さや迅速性を充分に確保できる。
【0049】
すなわち、加速度センサからの検出データを、他の場所に転送することなく、その場で直接演算・加工しているので、損傷検知・判断に要する時間を最小にできる。また、転送のために生じる遅延時間を省くことができるとともに、この転送の際のデータ品質の劣化や欠落を回避でき、検知・判断の正確さや信頼度の向上を図れる。
【0050】
また、診断ユニット側で判定した判定結果だけを、管理コンピュータ側に転送して通知するようにしているので、通信負荷を低減させて、迅速でスムーズな情報の伝達が可能となる。したがって、管理コンピュータ側には、橋梁構造物を構成した各部分である診断ユニットが設置された各橋脚の損傷状態が迅速に通知され、管理コンピュータ側で、橋梁構造物の全体の損傷状況を把握することができる。このため、管理コンピュータは、地震発生時の橋梁被災度を簡便かつ迅速に提供でき、地震後の橋梁の継続使用可否を客観的かつ効率的に予測したり、2次災害防止用の各種の対策情報を自動生成したりできる。
【0051】
さらに、診断ユニットは、判定結果のみを送信するとともに、地震時に取得した検出対象構造物の応答加速度の記録は、メモリに蓄積して、無線LANなどで、回収するようにしているので、通信負荷を低減させながら、詳細記録を破棄することなく、後日の研究などのため残置できる。すなわち、地震直後は、通信網の混乱が予想されるため、判定結果のみを送信している。このため、通信網への負担を最小限に抑制できる。他方、未処理の未加工な検出したままの生データなどの詳細記録は、メモリに蓄積しておき、後日、回収可能できるようにしている。
【0052】
なお、上記の実施形態では、診断ユニットは、地震によって診断ユニットが設置された橋脚に損傷が生じたと判定したときに、この橋脚が損傷したことを通知するように構成しているが、損傷していないと判定したときに、この橋脚が無損傷であることを通知するように構成してもよい。したがって、この構成の場合には、通知される管理コンピュータ側では、橋脚が無損傷であることを診断ユニットの判定で保証されるので、地震発生後の橋脚の継続使用可能性を、充分な信頼度を確保して診断できる。なお、この場合には、損傷通知用と無損傷通知用に区分した時間帯をあらかじめ設定しておき、緊急度を有する損傷通知の後に、無損傷を通知するようにして、通信負荷を抑制しながら、継続使用診断における継続使用すると診断した場合の保証性を高めるようにしてもよい。
【0053】
また、各診断ユニットと管理コンピュータとは、両者を無線で直接、データ交換可能に接続したが、これに限られることなく、両者間に、無線用の中継器を介在させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の地震時橋梁被災度判定システムを示し、(a)は、この判定システムの全体構成を示す概略斜視図、(b)は、同判定システムの被災度診断ユニットおよび管理コンピュータの概要を示す機能ブロック図である。
【図2】同上の判定システムの判定方法を示し、(a)は、入力(外力)が小さく損傷が生じない場合の荷重〜変位の関係を示したグラフ、(b)は、大きな入力(外力)を受けて損傷が生じる場合の荷重〜変位の関係を示したグラフ、(c)は、振動台実験による実証結果を示すグラフである。
【図3】同上の判定システムの被災度診断ユニットが用いる被災度判定アルゴリズムの概要である。
【符号の説明】
【0055】
1 地震時橋梁被災度判定システム 2 被災度診断ユニット
3 管理コンピュータ 4 加速度センサ本体(加速度センサ)
5 処理用コンピュータ 6 通信器
7 記録保存用メモリ 8 電源部
51 道路橋 52 橋脚
53 橋げた(上部構造物)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震後の橋梁構造物の被災程度を判定する地震時橋梁被災度判定システムにおいて、
前記橋梁構造物の橋脚頭部に設置した加速度センサにより地震時の橋脚頭部の加速度応答記録を取得し、地震前後の固有周期の変化を演算し、この演算した結果から橋梁の損傷の有無を判定することを特徴とする地震時橋梁被災度判定システム。
【請求項2】
前記加速度応答記録から前記固有周期の変化を求め、この変化から前記橋梁構造物の損傷度に対応した応答塑性率を演算して、前記損傷の有無を判定しており、前記応答塑性率が所定値を越えたときに橋梁が損傷したと判定する請求項1に記載の地震時橋梁被災度判定システム。
【請求項3】
前記応答塑性率は、下記の式に基づいて求めている請求項1または2に記載の地震時橋梁被災度判定システム。

但し、Tは、変化後の橋梁の固有周期、T0は、変化前の橋梁の固有周期、μは、応答塑性率である。
【請求項4】
請求項1ないし3の地震時橋梁被災度判定システムに用いられる被災度診断ユニットであって、
前記加速度センサと、この加速度センサの検出データに基づき橋梁構造物の損傷を判定するマイクロコンピュータと、このマイクロコンピュータが構造物に損傷が生じたと判定した場合に、この判定結果を発信する通信器と、センサデータ、演算結果を蓄積するメモリと、これらに電力を供給する内蔵電源とを、1つの所定容器に収容してパッケージしたことを特徴とする被災度診断ユニット。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−170861(P2006−170861A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364982(P2004−364982)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年6月25日 社団法人土木学会発行の「リアルタイム災害情報検知とその利用に関するシンポジウム論文集」に発表
【出願人】(301031392)独立行政法人土木研究所 (107)
【Fターム(参考)】