説明

均質な媒質中の光の散乱を推定する方法

【課題】環境照明から出射し、関与する均質な媒質によって散乱される光の量を推定する方法において、必要な計算時間を最小限に抑えながらレンダリング処理を改善すること。
【解決手段】球関数の同じ正規直交基底での第1の組の投影係数および第2の組の投影係数を推定するステップであって、前記第1の組は前記媒質が受け取る入射光度の関数を表し、前記第2の組は前記媒質の位相関数を表す、ステップと、前記関与する媒質によって、光の少なくとも1つの拡散方向に沿って散乱される光の量を前記第1の組の投影係数および第2の組の投影係数から推定するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータにより生成される画像を構成する分野に関し、より詳細には、関与する均質な媒質中の光の散乱をシミュレーションする分野に関する。また、本発明は、実行中に構成を行うための特殊効果の範囲に含まれる。
【背景技術】
【0002】
水、霧、煙、ほこり、雲などの、関与する媒質中の光の散乱をシミュレーションする従来の技術による様々な方法が存在する。こうした関与する媒質は特に、光と相互作用してその光路および強度を改変する空中浮遊粒子からなる媒質に相当する。
【0003】
関与する媒質は、2つの部分、すなわち、水などの均質な媒質と、煙、雲などの不均質な媒質とに分けることができる。関与する媒質が均質な場合、光源から出射する光の減衰を解析的に計算することが可能である。実際、こうした媒質では、その均質な性質のために、媒質の任意の点で、光の吸収係数や散乱係数などのパラメータが一定の値になる。一方、関与する媒質が不均質な場合、光の吸収および散乱の特性は、媒質中の2点間で変動する。
【0004】
関与する均質な媒質を実行中にレンダリングするために、いくつかの方法では、関与する均質な媒質を表すいくつかのパラメータを事前に計算する。これらの方法は、例えばスタジオで作成した後に使用するのに最適であり、良質なレンダリングが実施されるが、対話形式の設計や、関与する均質な媒質の良質なレンダリングを実行中に行うという状況には適していない。このような方法は、例えば、マイクロソフト社が出願し2008年12月31日に公開された特許文献1に記載されている。特許文献1で出願された発明の目的は、関与する媒質を実行中にレンダリングするソフトウエアを提供することであり、放射基底関数を用いる解法を説明することである。しかし、この解法を、実行中に行うことができるレンダリング解法とみなすことはできない。というのは、いくつかの事前処理操作を関与する媒質にオフラインで適用して、実行中に行うことができる画像合成計算に使用する、媒質を表す投影係数を計算することができるようにしなければならないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/003143号パンフレット
【発明の概要】
【0006】
ゲームや対話型シミュレーションアプリケーションの登場に伴い、特に3次元(3D)のものでは、関与する均質な媒質を良質かつ臨場感豊にレンダリングする、実行中に行うことができるシミュレーション法が必要となる。
【0007】
本発明の目的は、従来技術のこれらの欠点の少なくとも1つを克服することである。
【0008】
より詳細には、本発明の目的は、関与する均質な媒質中の光の散乱を実行中に臨場感豊にレンダリングするのに必要な計算時間および/または計算能力を最適化することである。
【0009】
本発明は、環境照明から出射し、関与する均質な媒質によって散乱される光の量を推定する方法に関するものであり、この方法は、
球関数の正規直交基底での第1の組の投影係数を推定するステップであって、第1の組の投影係数は、関与する媒質が受け取る入射光度の関数を表す、ステップと、
球関数の正規直交基底での第2の組の投影係数を推定するステップであって、第2の組の投影係数は、関与する媒質の位相関数を表す、ステップと、
関与する媒質によって、少なくとも1つの光の散乱方向に沿って散乱される光の量を第1の組の投影係数および第2の組の投影係数から解析的に推定するステップとを含む。
【0010】
有利には、散乱光量を解析的に推定するステップは、関与する均質な媒質中での少なくとも1つの光の方向に沿った光の拡散を表す積分を直接計算するステップを含む。
【0011】
特定の特徴によれば、第1の組の投影係数を推定するステップは、環境照明を表す環境マッピングを球関数の正規直交基底に投影することによってなされる。
【0012】
有利には、球関数は調和球面タイプのものである。
【0013】
特定の特徴によれば、環境照明は複数の光源を備え、これら複数の光源は関与する媒質に対して光学的な無限遠に位置する。
【0014】
特定の特徴によれば、第1の組の投影係数および第2の投影係数は、少なくとも1つのグラフィックプロセッサに付随するメモリの少なくとも1つのテーブルに記憶される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
添付の図面を参照してなされる以下の説明を読めば、本発明がよりよく理解され、他の特定の特徴および利点が想起されよう。
【0016】
【図1】本発明の特定の実施形態による、光を散乱する均質な関与する媒質を模式的に示す図である。
【図2A】本発明の特定の実施形態による、いくつかの光源を含む環境照明を示す図である。
【図2B】本発明の特定の実施形態による、いくつかの光源を含む環境照明を示す図である。
【図3】本発明の特定の実施形態による、図2Aおよび図2Bの環境照明によって照明される図1の媒質によって散乱する光の量を推定する方法を模式的に示す図である。
【図4】本発明の特定の実施形態による、散乱光の量を推定する方法を実施する装置を示す図である。
【図5】本発明の特定の実施形態による、散乱光の量を推定する方法を示す図である。
【図6】本発明の別の特定の実施形態による、散乱光の量を推定する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、例えば霧、煙、ほこりなどの、関与する均質な媒質10で満たされた仮想環境または仮想シーンを示す。関与する媒質は、多数の空中浮遊粒子からなる媒質であり、これらの粒子は、光を吸収し、出射し、かつ/または散乱(拡散)する。関与する媒質は、その最も単純な形態では、例えば太陽などの光源11から受け取った光を吸収するだけである。これは、媒質10を通過する光が減衰することを意味し、減衰の程度は媒質の密度によって決まる。媒質10は均質であり、すなわち、例えば媒質を構成する粒子の密度などの媒質の物理的特徴は、媒質中の2点間で一定である。関与する媒質は光と相互作用する微粒子からなるので、入射光、すなわち光源11から出射し方向ωin110に沿う光は、吸収されるだけでなく散乱する。関与する媒質が光を等方的に散乱させる場合、光はあらゆる方向に均一に散乱する。図1に示す媒質10のように、関与する媒質が光を異方的に散乱させる場合、光の散乱は、光の入射方向ωin110と光の散乱方向ωout120とがなす角度によって決まる。散乱方向ωout120は、媒質10を見ている観察者の観察方向にも相当する。媒質10の点M13で散乱方向ωout120に散乱する光の量は、次式で計算される。
Q(M,ωout)=σs(M)・p(M,ωout,ωin)・Lri(M,ωin) 式1
媒質の点M13によって散乱し、方向ωout120の空間の点Cに位置する観察者12の目に到達する光の量、すなわち、点Mで散乱し、媒質10により経路M−Pにわたって減衰する光の量は、次式で表される。ここで、点Pは、媒質10と観察者12に向かう方向ωoutとの交点に位置する。
【0018】
【数1】

【0019】
式中、
・σsは媒質の散乱係数であり、
・σaは媒質の吸収係数であり、
・σt=σs+σaは媒質の消光係数であり、
・p(M,ωout,ωin)は、入射方向ωinからの光が点Mで散乱方向ωoutにどのように散乱するかを記述する位相関数であり、
・Lri(M,ωin)は、入射方向ωin110からの光の点Mでの減衰した光度であり、媒質10中の光路にわたって散乱した後、点Mに到達する入射光の量を表し、

【0020】
【数2】

【0021】
は、P15からM13への経路に沿った吸収および散乱による散乱光度減衰を表す。
【0022】
式2により、点Mで散乱し、方向ωoutに沿って位置する観察者12の目に到達する光の量を計算することが可能である。方向ωoutを見ている観察者が受け取る光の量を計算するには、軸ωout上に位置する媒質のすべての点、すなわち区間P−Mmaxに位置する点からの寄与をすべて加算する必要がある。PおよびMmaxは、媒質10と方向ωout120とが交わる2点である。単純散乱により方向ωout120に沿ってP15に到達する散乱光の光度の和は次のようになる。
【0023】
【数3】

【0024】
ここで、媒質10の外側では光が減衰しないので、経路C−Pを進む光は減衰しないと仮定する。
【0025】
この散乱光度の和は、方向としてωoutを有する範囲内のPとMmaxの間に位置するすべての点からの寄与を積分することによって得られる。
【0026】
有利には、関与する均質な媒質10は3次元要素であるが、図1では見やすいように2次元で表す。
【0027】
一変形例によれば、媒質10で満たされた仮想環境は、1つまたは複数の仮想物体を含む。これらの仮想物体は、図1には示されておらず、当業者には周知の任意の方法によりモデル化される。例えばポリゴンによるモデル化では、モデルは、構成要素である複数の頂点および辺によって定義される1組のポリゴンで近似される。NURBS(「非一様有理基底スプライン(non−uniform rational basic spline)」)タイプの曲線によるモデル化では、モデルは、制御頂点を用いて生成される1組の曲線によって定義される。さらに、表面細分割モデル化などがある。「仮想物体」は、実環境(例えば、地面、家屋または家屋の正面、自動車、木、すなわち、家屋の部屋、道路、街、郊外などの環境を構成する任意の要素)を構成する物体(実物体または架空物体)の(モデル化によって得られる)任意の仮想表現を意味すると理解される。仮想物体が媒質10内にあり、また観察者の観察方向ωoutにある場合、点Mmaxは方向ωoutと仮想物体とが交わる点に相当する。
【0028】
一変形例によれば、媒質10は、例えば100個、1,000個、100,000個、または1,000,000個という複数の光源によって照明される。
【0029】
別の変形例によれば、媒質10は、連続した環境照明、すなわち無限個の光源からなる照明によって照明される。
【0030】
図2Aおよび図2Bに、いくつかの光源23、24、および25を含む環境照明2を示す。図2Aおよび図2Bの同じ要素には同じ参照記号を用いる。より具体的には、図2Aは、3つの光源23、24、および25によって照明されるA21およびB22の2点を示す。点A21は、第1の光源23により方向ω1A211に沿って、第2の光源24により方向ω2A212に沿って、第3の光源25により方向ω3A213に沿って照明される。点B22は、第1の光源23により方向ω1B221に沿って、第2の光源24により方向ω2B222に沿って、第3の光源25により方向ω3B223に沿って照明される。このような複雑な環境照明がもたらす問題は、いくつかの光源が存在することによるもので、媒質中の入射光を推定する計算に極めてコストがかかることである。これは、光源と媒質の点との間の光の方向が媒質の各点で異なるからである。実際、第1の光源23から出射する光が進む方向は、AとBでは異なる。第2の光源24から出射する光が進む方向は、AとBでは異なる。第3の光源25から出射する光が進む方向は、AとBでは異なる。この問題を解決するために、いくつかの遠方光源からの光を、図2Bに示すように、本発明の特定の実施形態による環境マッピング法を用いて推定する。一方で点Aと点Bの間の光の厳密な方向を考え、他方で(図2Aに示すような)光源23、24、25を考えるのではなく、環境マッピングとして知られる方法では、環境2の光源23、24、および25がすべて点Aおよび点Bに対して光学的に無限遠に位置すると考える。このように、光源23、24、または25から出射する光が進む方向が、対象とする媒質の点Aおよび点Bに無関係に同じと考えることが可能である。このようにして、互いに離れた点Aと点Bの距離による視差効果を無視する。点Aと第1の光源23を結ぶ方向ω1A211は、点Bと第1の光源23を結ぶ方向ω1B221と同じと考える。同様に、点Aと第2の光源24を結ぶ方向ω2A212は、点Bと第2の光源24を結ぶ方向ω2B222と同じと考え、点Aと第3の光源25を結ぶ方向ω3A213は、点Bと第3の光源23を結ぶ方向ω3B223と同じと考える。
【0031】
一変形例によれば、環境照明は、2つまたは3つ以上、例えば1,000個、100,000個、または1,000,000個の光源を備える。
【0032】
図3に、本発明の特定の実施形態による、媒質10によって散乱される光の量を推定する方法を示す。光は、多数の光源31、32、および33を含む環境照明3から射出するものとする。媒質10による散乱方向ωout120に沿う単純な光散乱の(式3に対応する)式を解析的に解くために、以下のように仮定する。
−複数回の相互反射および散乱により、「柔らかい」(すなわち低周波数の)照明が得られる。媒質10のどの点での入射光も、媒質10内のその点の位置に無関係に同じ環境マッピングを用いて表す。言い換えれば、媒質10の環境マッピングによって記述される入射光度の関数は、入射光度を評価するための媒質10中の点に無関係である。入射光度関数は、対象とする入射方向ωinのみによって決まる。さらに、仮想環境の物体を直接照明することによって生成される光束は生成されない。
−関与する媒質は均質である。例えば、霧や空中を浮遊するほこりのタイプの媒質、または水中環境での媒質ではそうである。媒質の任意の点で密度は一定であり、媒質の光学特性(例えば、媒質の散乱係数および吸収係数)は、媒質の任意の点で一定である。
【0033】
先に図1を参照して説明したが、媒質10によってM13で散乱する光は、光源11から媒質10が受け取る光の減衰と、媒質10が受け取った、この減衰した量の光の散乱との結果である。媒質10の単純散乱を表す式3を単一光源によるものとし、式3を展開すると、以下の式4が得られる。
【0034】
【数4】

【0035】
光は環境照明3の各方向ωinから入射するので、以下の式5が得られる。
【0036】
【数5】

【0037】
式中、Ωは、点Mを中心とする単位球36内の点Mでのすべての入射方向ωinを表す。環境照明3は連続的であるため、無限個の入射方向ωinが存在する。
【0038】
関与する媒質は均質とみなせるので、関与する媒質の光学特性の平均値は一定である。すなわち、散乱係数σs(M)、吸収係数σa(M)、および消光係数σt(M)ならびに位相関数p(M,ωout,ωin)は、関与する媒質10の任意の点Mで一定であり、σs(M)=σs、σa(M)=σa、σt(M)=σt、p(M,ωout,ωin)=p(ωout,ωin)である。式5は以下の式6になる。
【0039】
【数6】

【0040】
本発明者の仮定では、光は、関与する媒質10中の照明される点の位置によらないとみなす。式6は、以下のように簡単になり、その結果、以下の式7が得られる。
【0041】
【数7】

【0042】
ここで、上記式7の内部積分を考える。この内部積分は、入射光と媒質の位相関数との積を含む
【0043】
【数8】

【0044】
関数空間の各関数は、基底関数の1次結合として記述し得る。ここで、基底関数は関数空間の基底の要素である。球関数の正規直交基底を用い、かつ、関数Lriおよび関数pを球関数の正規直交基底に投影することによって、関数Lriおよび関数pをそれぞれ次のように表すことが可能である。
【0045】
【数9】

【0046】
式中、
【0047】
【数10】

【0048】
は、(全体でNc個の係数のうち)j次の投影係数(Ncは所定のやり方で決めたいくつかの係数に対応する)であり、基底関数Yj(ωin)における入射光を表す。
【0049】
【数11】

【0050】
は、(全体でNc個の係数のうち)j次の投影係数(Ncは所定のやり方で決めたいくつかの係数に対応する)であり、基底関数Yj(ωin)における位相関数を表す。
【0051】
このように計算したそれぞれNc個からなる2組の基底関数投影係数をGPUメモリの1つまたは複数のテーブルに記憶する。第1の組の係数は、いくつかの光源を含む環境照明から出射した、媒質10の点ごとの任意の方向からの光の単純な散乱による減衰を表す。第2の組の係数は、媒質10の位相関数を表す。
【0052】
有利には、位相関数および入射光度関数は、球関数の同じ単一の正規直交基底で表される。
【0053】
基底関数は正規直交関数なので、以下の特性が得られる。
【0054】
【数12】

【0055】
そのため、式中のLriおよびpをLiで置き換えることによって上記の特性を有利に用いることが可能である。
【0056】
【数13】

【0057】
上記最後の式を式7に代入することによって、以下の式が得られる。
【0058】
【数14】

【0059】
Mの位置と無関係の項を積分の外に出すことによって、以下の式が得られる。
【0060】
【数15】

【0061】
残りの積分を解析的に解くと、以下の式が得られる。
【0062】
【数16】

【0063】
媒質10により散乱方向ωout120に沿って散乱する光の量を解析的に推定することが可能な最終式が得られる。
【0064】
【数17】

【0065】
式18は、解析的に計算可能であり、関与する媒質10で満たされた仮想環境を見ている観察者の視点、すなわち、観察方向に従ってその場の状態を表すという利点を有する。式18(または等価には式16)を解析的に解くと、数値的に解くよりも精度が高くなり有利である。実際、この式を解析的に解くとこの式の厳密な解が得られるが、数値的に解くとこの式の近似解しか得られない。式18を解くことにより散乱光の量を推定することは、関与する均質な媒質中での光の方向に沿う光の拡散を表す積分(式17)を直接計算するという点で解析的である。
【0066】
図4に、関与する均質な媒質10によって散乱する光の量を推定し、1枚または複数枚の画像を表示する信号を生成するのに適した装置4のハードウエアの実施形態を模式的に示す。装置4は、例えばパーソナルコンピュータPC、ラップトップコンピュータ、またはゲーム機に相当する。
【0067】
装置4は、アドレス/データバス45によって互いに接続される以下の要素を備える。アドレス/データバス45に沿ってクロック信号も送信される。
−マイクロプロセッサ41(またはCPU)
−グラフィックカード42、グラフィックカード42は、
・いくつかのグラフィック処理ユニット420(またはGPU)と、
・GRAM(「グラフィックランダムアクセスメモリ」)タイプのランダムアクセスメモリ421とを備える。
−ROM(「読出し専用メモリ」)タイプの不揮発性メモリ46
−ランダムアクセスメモリまたはRAM47
−1つまたは複数のI/O(「入出力」)装置44、例えば、キーボード、マウス、ウェブカメラなど
−電源48
【0068】
装置4は、グラフィックカード42に直接接続される表示スクリーンタイプの表示装置43も備える。表示装置43は、特に、グラフィックカードで計算され構成されるコンピュータ生成グラフィックをレンダリングしたものを、例えばライブ表示する。専用バスを使用して表示装置43をグラフィックカード42に接続すると、データ転送速度がはるかに速くなり、そのためグラフィックカードによって構成される画像を表示するまでの待ち時間が短くなるという利点がある。一変形例によれば、表示装置は、装置4に外付けとし、表示信号を送信するケーブルによって装置4に接続する。装置4、例えば、グラフィックカード42は、LCDもしくはプラズマスクリーン、またはビデオプロジェクタなどの外部表示手段に表示信号を送信するのに適した送信媒体またはコネクタ(図4には不図示)を備える。
【0069】
メモリ42、46、および47の説明で用いた「レジスタ」という用語は、これら各メモリにおいて、小容量(いくつかのバイナリデータ)のメモリ区画および大容量の(プログラム全体を記憶したり、計算データを表すデータの全部または一部を表示したりすることができる)メモリ区画を指すことに留意されたい。
【0070】
電源投入時、マイクロプロセッサ41は、RAM47に記憶されたプログラムの指示をロードし実行する。
【0071】
ランダムアクセスメモリ47は特に以下のものを含む。
−レジスタ430の、装置4の立ち上げを司るマイクロプロセッサ41のオペレーティングシステム
−関与する均質な媒質10を表すパラメータ471(例えば、密度、光吸収係数、および光散乱係数といったパラメータ)
【0072】
本発明に固有な方法のステップを実施する以下で説明するアルゴリズムは、これらのステップを実施する装置4に付随するグラフィックカード42のGRAMメモリ47に記憶される。電源投入後、媒体を表すパラメータ470がRAM47にロードされると、グラフィックカード42のグラフィック処理ユニット420は、これらのパラメータをGRAM421にロードし、これらのアルゴリズムの指示を実行する。これらの指示は、HLSL(「高級シェーダ言語」)やGLSL(「OpenGLシェーダ言語」)などの言語を使用する「シェーダ」タイプのマイクロプログラムの形式になっている。
【0073】
GRAMランダムアクセスメモリ421は特に以下のものを含む。
−レジスタ4210内の媒質10を表すパラメータ
−媒質10の任意の点での入射光を表す第1の投影係数4211
−媒質10の任意の点での位相関数を表す第2の投影係数4212
−媒質10により1つまたは複数の観察方向に沿って散乱される光の量を表す値4214
【0074】
一変形例によれば、RAM47の一部は、GRAMメモリ421内の利用可能なメモリ空間が不十分である場合、CPU41によって係数4211および4212ならびに値4214を記憶するように割り当てられる。ただし、この変形例では、GPUに記憶されたマイクロプログラムによって構成される媒質10の表現を含む画像の構成に要する待ち時間が長くなる。というのは、GPUからGRAMに、またその逆にデータを送信するグラフィックカードで利用可能なものよりも送信能力が一般に低いバス45を介して、グラフィックカードからランダムアクセスメモリ47にデータを送信しなければならないからである。
【0075】
別の変形例によれば、電源48は装置4に外付けされる。
【0076】
図5に、本発明の第1の特に有利で制限なく実施される実施形態による、装置4に実装される、関与する均質な媒質によって散乱される光の量を推定する方法を示す。
【0077】
初期化ステップ60で、装置4の様々なパラメータを更新する。特に、関与する均質な媒質10を表すパラメータを必ず初期化する。
【0078】
次いで、ステップ51で、球関数の正規直交基底における基底関数の第1の組の第1の投影係数を推定する。これら第1の投影係数は、関与する均質な媒質10の任意の点での入射光度を表す。第1の投影係数を推定するために、関与する媒質10中で入射方向ωinに沿って光が散乱した後で媒質の点Mに到達する入射光の量を表す入射光度関数Lri(M,ωin)を球関数の正規直交基底上に投影する。媒質10中の入射光を表す(入射光度関数として知られる)環境マッピング3を記述する関数は、球関数の正規直交基底を用いて表される。第1の投影係数を得るための無限個の入射方向ωinにより、仮想環境の任意の点Mを中心とする球Ωが形成される。第1の投影係数の個数は、これらの係数の計算に必要な計算能力と、装置4のユーザが望む散乱方向ωoutに沿って散乱する光の量の推定の精度とが最もよく折り合うように選択する。環境照明は関与する媒質10に対して光学的な無限遠にあるとみなせるので、関与する媒質10内の光の相互反射を無視すると、第1の係数の値は関与する媒質10のどの点Mでも等しくなる。
【0079】
次いで、ステップ52で、球関数の正規直交基底における基底関数の第1の組の第1の投影係数を推定する。これら第1の投影係数は、関与する均質な媒質10の任意の点での入射光度を表す。第1の投影係数を推定するために、媒質10の位相関数を記述する関数を、先に入射光度関数を表すのに用いた球関数の正規直交基底を用いて表す。このように、位相関数は、球関数の基底の第2の組の第2の投影係数上に投影される。位相関数は、入射方向ωinからの光が点Mで散乱方向ωoutにどのように散乱するかを記述するものである。関与する媒質10は均質なので、位相関数pは、関与する媒質10の対象とする点Mの位置に無関係である。関数の位相pは、入射光の入射方向ωinおよび散乱光の散乱方向ωoutのみによって決まる。例えば、方向ωinと方向ωoutがなす角度によって決まる。第2の投影係数を得るための無限個の入射方向ωinにより、仮想環境の任意の点Mを中心とする球Ωが形成される。有利には、このようにして形成される球は、第1の投影係数に関連して入射方向によって形成される球に等しい。第2の投影係数の個数は、これらの係数の計算に必要な計算能力と、装置4のユーザが望む散乱方向ωoutに沿って散乱する光の量の推定の精度とが最もよく折り合うように選択する。有利には、第1の係数の個数は第2の係数の個数に等しい。
【0080】
次いで、ステップ53で、媒質10により出射方向120に沿って散乱される光の量を、先に推定した第1の投影係数および第2の投影係数を用いて推定する。そのために、式18を解析的に解く。その際、関与する均質な媒質での光の散乱をレンダリングするための事前計算は必要なく、それによって、このような媒質を実行中にレンダリングすることが、例えば1つまたは複数の関与する均質な媒質を含む空間にユーザが仮想的にいざなわれるビデオゲームタイプの対話型アプリケーションにおいて可能になる。
【0081】
有利には、媒質10によって散乱される光の量をいくつかの出射方向について推定する。複数の出射方向について推定された光量を加算することによって、媒質10によって散乱され、媒質10を見ている観察者12が知覚する光の総量が得られる。
【0082】
観察者12が媒質10の周りを移動した後すぐにステップ53を反復すると有利である。それによって、観察者12が媒質10の周りを段階的に移動するごとに、媒質10をレンダリングしたものを示す画像が再構築される。第1の投影係数は媒質10の各点Mで用いることができ、これは第2の投影係数もまったく同様で、そのため、観察者12の視点が変化したとき、すなわち、(散乱方向ωoutと等価な)観察方向が変化したときに第1の投影係数および第2の投影係数を再計算する必要はない。観察者12の視点が変化したときには、ステップ53だけを反復する。
【0083】
図6に、本発明の第2の特に有利で制限なく実施される実施形態による、装置4で実施される、関与する均質な媒質によって散乱される光の量を推定する方法を示す。
【0084】
初期化ステップ60で、装置4の様々なパラメータを更新する。特に、関与する均質な媒質10を表すパラメータを必ず初期化する。
【0085】
次いで、ステップ61および62で、関与する均質な媒質10の任意の点が受け取る入射光の量を表す第1の投影係数と、媒質10の位相関数を表す第2の投影係数とを、図5のステップ51および52に関して説明したのと同じやり方で推定する。したがって、ステップ61および62はここでは詳細には説明しない。
【0086】
次いで、ステップ63で、先に推定した第1の投影係数および第2の投影係数を、GPUに付随するメモリに記録されたテーブルからなるデータ構造に記録し記憶する。これらの記録値を、それぞれ光度記録値および位相記録値と呼ぶ。これらの光度および位相を記録するテーブルは、有利には、第1の投影係数および第2の投影係数をすべて含む。このように投影係数を記憶すると、媒質10によって散乱され、観察者が知覚する光の量を推定する計算を速めるのに有利である。これら第1の投影係数および第2の投影係数はいつでも即座に利用可能であり、式18で用いることができる。
【0087】
最後に、ステップ64で、図5のステップ53に関して説明したのと同じやり方で散乱光の量を推定する。
【0088】
当然のことながら、本発明はこれまで説明した実施形態に限定されるものではない。
【0089】
特に、本発明は、関与する均質な媒質によって散乱される光の量を推定する方法に限定されるものではなく、本方法を実施する任意の装置、特に少なくとも1つのGPUを備えるあらゆる装置に拡張して適用される。第1の投影係数および第2の投影係数ならびに散乱光の量を推定するために図1から図3を参照して説明した式は、シェーダタイプのマイクロプログラムで実施する他に、任意のタイプのプログラム、例えばCPUタイプのマイクロプロセッサが実行可能なプログラムで実施してもよい。
【0090】
有利には、投影係数の推定に用いる基底関数は、球面調和タイプの関数または球波面タイプの関数である。
【0091】
本発明の適用範囲は、実行中に使用することに限定されるものではなく、例えばコンピュータ生成画像をレンダリングしたものに、録音スタジオでいわゆる作成後処理をかけるなど、任意の他の使用形態にも拡張される。作成後に本発明を実施すると、必要な計算時間を短くしながら、特に臨場感に関して視覚的に優れたレンダリングが得られるという利点がある。
【0092】
本発明は、関与する均質な媒質によって散乱される光の量を計算するための2次元または3次元のビデオ映像を構成する方法にも関するものであり、散乱光の量による光度を表す情報を用いて、それぞれ観察方向に対応する複数の画素を観察方向ωoutに沿って表示する。各画素が表示する光度の計算値は、観察者の様々な視点に適合するように再計算される。
【0093】
本発明は、例えばビデオゲームアプリケーションにおいて、PCまたはラップトップタイプのコンピュータで実行可能なプログラムによって、または、ライブ画像を生成し表示する専用ゲーム機で利用することができる。図4を参照して説明した装置4は、有利には、キーボードおよび/またはジョイスティックなどの対話手段を有し、音声認識などの命令を入力する他のモードも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境照明(3)から出射し、関与する均質な媒質(10)によって散乱される光の量を推定する方法であって、
球関数の正規直交基底での第1の組の投影係数を推定するステップ(51、61)であって、前記第1の組の投影係数は、前記関与する媒質(10)が受け取る入射光度の関数を表す、ステップと、
球関数の前記正規直交基底での第2の組の投影係数を推定するステップ(52、62)であって、前記第2の組の投影係数は、前記関与する媒質(10)の位相関数を表す、ステップと、
前記関与する媒質(10)によって、前記光の少なくとも1つの拡散方向に沿って散乱される光の量を前記第1の組の投影係数および第2の組の投影係数から解析的に推定するステップ(53、64)とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記環境照明(3)は複数の光源(31、32、33)を備え、前記複数の光源は前記関与する媒質(10)に対して光学的な無限遠に位置することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記散乱光量を解析的に推定するステップは、前記関与する均質な媒質中での前記少なくとも1つの光の方向に沿った光の拡散を表す積分を直接計算するステップを含むことを特徴とする請求項1から2の一項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の組の投影係数を推定するステップは、前記環境照明(3)を表す環境マッピングを球関数の前記正規直交基底に投影することによってなされることを特徴とする請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
前記球関数は球面調和タイプのものであることを特徴とする請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の組の投影係数および第2の投影係数は、少なくとも1つのグラフィックプロセッサに付随するメモリの少なくとも1つのテーブルに記憶されることを特徴とする請求項1から5の一項に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−64212(P2012−64212A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−200653(P2011−200653)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(501263810)トムソン ライセンシング (2,848)
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing 
【住所又は居所原語表記】1−5, rue Jeanne d’Arc, 92130 ISSY LES MOULINEAUX, France
【Fターム(参考)】