説明

垂直スリット材用固定具

【課題】少ない部品点数により返し型枠を建て込む際の作業性が向上するとともに、壁型枠間に垂直スリット材を精度良く設置することができる垂直スリット材用固定具を提供する。
【解決手段】壁部またはその柱際の接合部分に設けられる垂直スリット材Vをコンクリート打設前に、壁型枠W,W間の所定位置に支持するための固定具1であって、コンクリートスラブ等の設置面S上に固定される底板部2と、この底板部2から立ち上がり、前記垂直スリット材Vの保持部材7,8などに挿入されて支持する立ち上がり部3を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物における非構造壁の内部またはそれと柱との接合部近傍に埋設される垂直スリット材をコンクリート打設前に設置する作業において、その垂直スリット材を所定位置に支持するための固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マンションや共同住宅等の鉄筋コンクリート造の建物では、柱と壁などの境界部分に層間変位に対する力学的な不連続部となる構造スリットを形成する目的で、スリット材と称される緩衝材を使用する工法が普及している。このスリット材は、壁を貫通もしくは所定の壁厚を残すように埋設され、当該スリット材を介して建造物が分割されていることから、地震による外力を受けたときには、柱などに生じる剪断応力をスリット材で吸収緩和してその伝達を遮断することにより、柱などの剪断破壊や脆性破壊を回避するようになっている。そして、この種の耐震用スリット材には、建造物の上層階の壁(非構造壁)と下層階の梁との間に設ける水平スリット材の他に、腰壁あるいは垂れ壁や、これに連設される柱との接合部の近傍などに埋設される垂直スリット材がある。
【0003】
ところで、上記垂直スリット材を壁部に埋設する場合、コンクリートを打設する前に、その垂直スリット材を壁型枠間に設置しておく必要がある。一般に、この施工方法としては、予め、垂直スリット材が設けられる位置に目地材を釘等によって固定させた壁型枠の一方側の型枠(先行型枠)を建て込んだ後、スリット材本体の両側面部にそれぞれ嵌着した保持部材のうち、一方の保持部材を先行型枠に固定した目地材に嵌合させる。そして、他方側の型枠(返し型枠)を建て込むのと同時にその型枠に固定されている目地材を、スリット材本体の他方の保持部材に嵌合させることで、壁型枠間に垂直スリット材が設置されることになる。しかし、この施工方法において、保持部材はスリット材本体と嵌合した状態で一体化され、また、壁型枠に固定した目地材とは嵌合した状態で接続されているだけであるため、返し型枠に固定した目地材を保持部材に嵌合させる際に、先行型枠側の目地材から保持部材やスリット材本体がずれたり、外れてしまったりする問題があった。しかも、保持部材と係合する目地材は、それぞれ壁型枠を建て込む前に固定されることから取付位置の精度が悪く、垂直スリット材を設置する位置からずれて取り付けられると、返し型枠側の目地材を保持部材に嵌合させる際に垂直スリット材が型枠に対して傾いてしまうことになる。このことは、先行型枠側の保持部材における接続部分にモーメントを生じさせることになり、目地材から保持部材やスリット材本体などが外れてしまう一因にもなっていた。これらのことから、壁型枠間に垂直スリット材を設置する作業において、返し型枠を建て込むことは非常に手間がかかるものであった。
【0004】
これらの問題点を解消するために、支持片に形成した脚片または鍔部と係合する挟持部が設けられるとともに、その他側面の少なくとも一箇所に釘止部を設けた垂直スリット材用の取付具が開示されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載されている取付具は、支持片の脚片等を挟持した状態で釘止部を介して壁型枠に固定することから、型枠と支持片とが強固に接続することができるものであった。
【特許文献1】実開昭59−92146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記取付具は垂直スリット材を設置する際に型枠の内側から釘を打ち込むことから、保持部材をスリット材本体から予め外しておき、建て込む前の返し型枠に複数の取付具を所定間隔に打ち込んで、その保持部材を固定する必要があった。この固定作業は、取付具の個数を多くするばかりでなく、その都度、型枠に釘止めする作業が増えてしまうことから、垂直スリット材の施工性を悪くするものであった。さらに、返し型枠を建て込む時に、型枠に固定した保持部材を直接スリット材本体に嵌合しなければならないため、型枠同士の位置合わせが面倒になるばかりか、スリット材本体が容易に変形する材質である場合には、保持部材を嵌合させることが非常に困難となってしまい、返し型枠を建て込むことはかえって手間がかかる作業になっていた。
【0006】
本発明は、これらの問題点に鑑みなされたもので、少ない部品点数により返し型枠を建て込む際の作業性が向上するとともに、壁型枠間に垂直スリット材を精度良く設置することができる垂直スリット材用固定具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、コンクリート構造物の壁部またはその柱際の接合部分に設けられる垂直スリット材を、コンクリート打設時に所定位置で支持するための固定具であって、コンクリート等の設置面上に固定される底板部と、この底板部から立ち上がり、前記垂直スリット材の一部に挿入されて支持する立ち上がり部を備えているという技術手段を採用した。
【0008】
上記構成の垂直スリット材用固定具は、底板部がコンクリート等の設置面に固定されることから、壁型枠に固定された目地材と保持部材とを容易に係合させることが可能になり、返し型枠を建て込む際の作業性が向上する。さらに、立ち上がり部は垂直スリット材の一部に挿入されて支持するため、垂直スリット材と固定具との接続を強固にすることができ、保持部材をスリット材本体から外すことなく壁型枠間に垂直スリット材を設置することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の垂直スリット材用固定具によれば、壁型枠を建て込む前にコンクリートなどの設置面上に底板部を固定することから、壁型枠間の所定位置に垂直スリット材を精度良く設置することができる。さらに、垂直スリット材と水平スリット材が併用される場合であっても、立ち上がり部が垂直スリット材を支持するとともに、水平スリット材の位置決めも兼ねるので、耐震スリット材の施工精度を大幅に改善することが可能になる。また、立ち上がり部が垂直スリット材の一部に挿入されて支持することにより、保持部材やスリット材本体が先行型枠の目地材と強固に接続されるため、返し型枠に固定した目地材はスリット材本体に嵌合している保持部材に係合し易くなり、垂直スリット材を壁型枠間に設置する作業性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る垂直スリット材用固定具は、鋼製や合成樹脂製のものなどその材質について特に問うものではなく、その製造方法についても、底板部と立ち上がり部とをプレス加工などにより一体成形したものや、溶接により別体の立ち上がり部を底板部に固着したものなど特に限定されない。また、本発明の固定具を構成する底板部や立ち上がり部の形状は、後述する実施例に限定されるものではなく、底板部については、例えば、平板状以外にも下面が曲面に形成されたものなどでも良く、立ち上がり部についても、垂直スリット材の一部に挿入し易くするため、先端を尖らせた形態にするなど、種々の形状等が実施可能である。また、固定具の底板部をコンクリート等の設置面上に固定する手段としては、コンクリート釘等を用いて固定するだけでなく、接着剤などにより底板部下面と設置面とを固定することも可能である。以下、図面に基づき、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1ないし図3は、それぞれ本発明に係る垂直スリット材用固定具のそれぞれ平面図、正面図及び右側面図である。図示のように、本発明の垂直スリット材用固定具1は、平板状の鋼材の一方側を上方に折り曲げて正面視略L字状の形態を成したものであり、底板部2と立ち上がり部3によって構成されている。そして、その底板部2には、釘等によりコンクリート等の設置面上に固定するための貫通孔4が設けられている。なお、本実施例のように、固定具自体の回転を防ぐことから貫通孔の数は2個以上設けることが望ましいが、特に1個でも設置面に固定することは可能であり、その位置についても任意に設定することができる。さらに、本実施例では、立ち上がり部の幅を底板部の幅より小さく形成したものを例示したが、それぞれの幅を同一にしたものや、立ち上がり部の幅が底板部より大きく形成したものであっても良く、特段、垂直スリット材の一部に挿入可能な幅であれば問題はない。
【0012】
次に、本発明に係る垂直スリット材用固定具の適用対象となる垂直スリット材について説明する。図4に示すように、本発明の固定具が適用される垂直スリット材Vは、一対の壁型枠Wに固定された目地材5,6に対して係合可能な保持部材7,8と、その保持部材7,8と嵌合する発泡プラスチック等からなるスリット材本体9により構成されている。そして、その保持部材7,8には、目地材5,6と係合する係合片7a,8aが設けられるとともに、型枠脱型後にコンクリート躯体表面から浸入する水を止める水返し片7b,8bが設けられている。また、係合片7a,8aと水返し片7b,8bの中間部には支持片7c,8cが形成され、その支持片7c,8cと水返し片7b,8bによって、本発明に係る固定具の立ち上がり部が挿着可能になっている。このように、保持部材7,8が立ち上がり部に直接支持される構成にすれば、保持部材7,8の固定度が増すことから目地材5,6やスリット材本体9との接続が強固なものになり、スリット材本体9などが保持部材7,8から外れるといった従来の問題は解消される。なお、保持部材7,8に支持片7c,8cが形成されていない場合であっても、固定具の立ち上がり部を保持部材7,8とスリット材本体9との間に挿入したり、直接スリット材本体9に挿し込むことによって垂直スリット材Vを支持することが可能であり、本発明と同じ効果を得ることができる。
【0013】
次に、上記固定具を用いて、壁部に形成する開口部分とスラブとの間、すなわち腰壁に垂直スリット材を設置する場合の施工方法について説明する。図5は、壁型枠間に垂直スリット材が設置された状況を示す概要図である。先ず、釘等(図示せず)を用いて所定位置に目地材5を取り付けた先行型枠WをスラブS上に建て込んだ後、そのスラブ面における垂直スリット材Vが設置される位置に、固定具1の底板部2をコンクリート釘(図示せず)などにより固定させる。そして、スリット材本体9の両側面部にそれぞれ嵌合した保持部材7,8のうち、一方の保持部材7の係合片7aを前記先行型枠Wの目地材5に係合させながら、スラブS面上に固定した固定具1の立ち上がり部3を保持部材7の水返し片7bと支持片7cの間に挿入させて落し込むことにより、垂直スリット材Vが固定具1によって支持される。さらに、開口部を形成するための開口枠Pにおいて、スラブS面上に固定した固定具の鉛直線上の位置に、同固定具1を釘等(図示せず)により取り付け、その固定具1の立ち上がり部3を先行型枠Wに接続された垂直スリット材Vの保持部材7の一部に挿入することで、開口枠Pと垂直スリット材Vが固定する。最後に、目地材6が所定位置に取り付く返し型枠WをスラブS上に建て込みながら、その目地材6をスリット材本体9の他方の保持部材8の係合片8aに係合させることによって、壁型枠W,W間の所定位置に垂直スリット材Vが設置されることになる。このように、本発明の固定具1による施工方法において、先行型枠W側の保持部材7が固定具1によって強固に接続されるため、返し型枠W側の目地材6を保持部材8の係合片8aに係合させても先行型枠W側の目地材5から保持部材6やスリット材本体9が外れることはない。なお、本実施例では先行型枠側の保持部材にのみ固定具を使用したが、返し型枠側の保持部材を固定具によって支持したり、両方の保持部材を支持するようにしても良く、その設置数や支持する位置などは適宜に設定することができる。ちなみに、返し型枠側の保持部材に固定具を支持させるようにすれば、返し型枠を建て込む際に目地材と保持部材とが、より係合し易くなる。また、コンクリート等の設置面上に固定する際の固定具の向きは、特に問うものではなく、施工状況に応じて固定できることは言うまでもない。
【実施例2】
【0014】
図6及び図7は、本発明に係る他の実施例を示した垂直スリット材用固定具のそれぞれ平面図及び正面図である。なお、本発明に係る固定具の構成において、前記第1実施例と重複する部分については詳細な説明を省略する。図示の固定具10は、底板部11の形状が異なる以外は同様の構成になっている。そして、その底板部11は、平板状の鋼材の一端から中央にかけて切り込みを2箇所設け、その切り込まれた間の部分のみを上方に折り曲げて、立ち上がり部12を形成することによって正面視逆T字状の形態を成している。このように、立ち上がり部12を底板部11の中間部に設けることで、垂直スリット材を支持する際に固定具10の安定度が向上する。また、水平スリット材が併用される場合に本発明の固定具10を適用すれば、水平スリット材が底板部11の上面に載置されることにより、固定具10自体の固定度が増す効果が得られるとともに、水平スリット材の本体の端面が立ち上がり部12の側面に当接することで、水平スリット材の位置決め機能を奏することになる。
【0015】
次に、上記固定具により、垂直スリット材Vと水平スリット材Hが併用して設置される場合の施工方法について説明する。なお、上記と同様に、前記第一実施例と重複する部分については詳細な説明を省略する。図8に示すように、先行型枠の建て込みが行われた後、スラブS等のコンクリート面上に水平スリット材H及び垂直スリット材Vが設置される位置に、固定具10をコンクリート釘(図示せず)などで固定する。そして、水平スリット材Hを、その端面部が立ち上がり部12の側面に当接するように底板部11上に設置する。しかる後、垂直スリット材Vのスリット材本体の両側面部にそれぞれ嵌合した保持部材14の一端側の係合片14aを、前記先行型枠の目地材13に係合させながら、保持部材14の一部を固定具10の立ち上がり部12に挿入して、水平スリット材H上に落とし込むことにより、垂直スリット材Vが固定具10に支持される。なお、前記のような水平スリット材Hが併用される場合、本発明の固定具10は、水平スリット材Hを設置した後でも垂直スリット材Vの一部を立ち上がり部12に挿入できるように、その高さを水平スリット材Hの厚みより大きくする必要がある。また、本実施例は前記第一実施例と異なり、開口部が形成されない壁部に垂直スリット材等が設置される場合について説明したものであるため、壁型枠の上端側には開口枠のような型枠が取り付くことがない。よって、保持部材の上方側では固定具を用いることはできないが、本発明において、固定具は少なくともスラブ等のコンクリート面上に固定していれば、即ち、垂直スリット材の下端側のみを固定するだけでも十分に垂直スリット材を支持することが可能である。
【0016】
なお、上記実施例では、底板部に1つの立ち上がり部を備えた固定具によりスリット材本体の両側面部にそれぞれ嵌合した保持部材の一方を支持する事例について説明したが、これに限定されるわけではなく、例えば、2つの立ち上がり部を底板部に設けた固定具によって両方の保持部材に挿入できるような形態であっても良い。さらに、垂直スリット材の一部を立ち上がり部に挿入させた際に容易に抜け出すことがないようにするため、立ち上がり部に凸部などの抜止手段を設けたりするなど、適宜、本発明の技術思想内での種々の設計変更はもちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による垂直スリット材用固定具を示した平面図である。
【図2】本発明による垂直スリット材用固定具を示した正面図である。
【図3】本発明による垂直スリット材用固定具を示した右側面図である。
【図4】同固定具が適用される垂直スリット材を示す概略図である。
【図5】同固定具を垂直スリット材に適用した状態を示す部分断面図である。
【図6】本発明による垂直スリット材用固定具の第二実施例を示した平面図である。
【図7】本発明による垂直スリット材用固定具の第二実施例を示した正面図である。
【図8】同固定具を垂直スリット材と水平スリット材が併用される場合に適用した状態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1,10…固定具、2,11…底板部、3,12…立ち上がり部、4…貫通孔、5,6,13…目地材、7,8,14…保持部材、7a,8a,14a…係合片、7b,8b…水返し片、7c,8c…支持片、9…スリット材本体、H…水平スリット材、P…開口枠、S…スラブ、V…垂直スリット材、W…壁型枠、W…先行型枠、W…返し型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の壁部またはその柱際の接合部分に設けられる垂直スリット材を、コンクリート打設時に所定位置で支持するための固定具であって、コンクリート等の設置面上に固定される底板部と、この底板部から立ち上がり、前記垂直スリット材の一部に挿入されて支持する立ち上がり部を備えていることを特徴とする垂直スリット材用固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−186925(P2007−186925A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6342(P2006−6342)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(000110376)ドラーフタイト工業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】