説明

垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】よりいっそうの高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に少なくとも軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層、および保護層を順に成膜する垂直磁気記録媒体の製造方法である。前記下地層は複数層からなり、このうちの少なくとも1層は酸素を1000〜10000wtppm含有する。そして、前記軟磁性層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、少なくとも1回加熱処理を施す。この加熱処理は、基板表面温度で80〜230℃の範囲で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は垂直磁気記録方式のハードディスクドライブ(以下、HDDと略称する。)等の磁気ディスク装置に搭載される垂直磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報処理の大容量化に伴い、各種の情報記録技術が開発されている。特に磁気記録技術を用いたHDD等の面記録密度は年率100%程度の割合で増加し続けている。最近では、HDD等に用いられる2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚当り250Gバイトを超える情報記録容量が求められるようになってきており、このような所要に応えるためには1平方インチ当り400Gビットを超える情報記録密度を実現することが求められる。HDD等に用いられる磁気ディスクにおいて高記録密度を達成するためには、情報信号の記録を担う磁気記録層を構成する磁性結晶粒子を微細化すると共に、その層厚を低減していく必要があった。ところが、従来より商業化されている面内磁気記録方式(長手磁気記録方式、水平磁気記録方式とも呼称される)の磁気ディスクの場合、磁性結晶粒子の微細化が進展した結果、超常磁性現象により記録信号の熱的安定性が損なわれ、記録信号が消失してしまう、熱揺らぎ現象が発生するようになり、磁気ディスクの高記録密度化への阻害要因となっていた。
【0003】
この阻害要因を解決するために、近年、垂直磁気記録方式用の磁気ディスクが提案されている。垂直磁気記録方式の場合では、面内磁気記録方式の場合とは異なり、磁気記録層の磁化容易軸は基板面に対して垂直方向に配向するよう調整されている。垂直磁気記録方式は面内記録方式に比べて、熱揺らぎ現象を抑制することができるので、高記録密度化に対して好適である。例えば、特開2002−92865号公報(特許文献1)では、基板上に軟磁性層、下地層、Co系垂直磁気記録層、保護層等をこの順で形成してなる垂直磁気記録媒体に関する技術が開示されている。また、米国特許第6468670号明細書(特許文献2)には、粒子性の記録層に交換結合した人口格子膜連続層(交換結合層)を付着させた構造からなる垂直磁気記録媒体が開示されている。
【0004】
そして、現在では、垂直磁気記録媒体での更なる高記録密度化が求められている。
垂直磁気記録媒体は、大きく分けて、硬質磁性材料からなる磁気記録層、軟磁性材料からなる軟磁性(裏打ち)層、これら磁気記録層と軟磁性層の間に存在する非磁性材料からなる中間層等を構成要素として備えている。現状ではいずれの層も多層構造をとっている。
【0005】
このうち、中間層は、磁気記録層の下部に位置しており、磁気記録層の結晶配向性及びグラニュラー構造における分離性を制御する部分である。云わば、磁気記録層の土台とも言える非常に重要な部分である。したがって、これまでに構造、材料、成膜プロセス等において精力的に研究開発が進められた結果、中間層は、下方のシード層と上方の下地層に分かれ、さらに下地層は、同じ材料を使用しながら2Pa以下のプロセスガス圧にて成膜される下部下地層と4Pa以上のプロセスガス圧にて成膜される上部下地層との積層構造をとるようになった。2Pa以下の低ガス圧プロセスにて成膜される下部下地層は主に磁気記録層の配向性制御に、4Pa以上の高ガス圧プロセスにて成膜される上部下地層は主に磁気記録層の磁性粒の分離性制御に寄与しているが、垂直磁気記録媒体においてよりいっそうの高記録密度化の実現のためには、磁気記録層の下部層にあたるこれら下地層の結晶配向性および分離性制御が重要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−92865号公報
【特許文献2】米国特許第6468670号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、本発明者が研究を進めるうち、より高記録密度の磁気記録媒体向けに所望の特性を得るためには、現状の下地層の結晶配向性ではまだ不十分であることが判明した。本発明者の考察によれば、下地層はそれ自体グラニュラー構造をとるが、下地層の結晶配向性が不十分であると、それが直上の磁気記録層の結晶配向性にも影響し、結果的に記録再生特性の劣化を招いてしまうものと考えられる。
【0008】
本発明はこのような従来の事情に鑑み、よりいっそうの高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記従来の課題を解決するべく鋭意検討した結果、基板上に少なくとも軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層、および保護層を順に成膜する垂直磁気記録媒体の製造において、上記下地層は複数層からなり、このうちの少なくとも1層は酸素を1000〜10000wtppm含有し、前記軟磁性層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、少なくとも1回加熱処理を施すことで、磁気記録層の下部層にあたる下地層の結晶配向性をよりいっそう向上でき、なお且つグラニュラー構造における分離性を良好に維持することで、その結果、磁気記録層の磁気特性や記録再生特性をさらに改善できることを見い出し、本発明を完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の構成を有するものである。
【0010】
(構成1)
垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、基板上に少なくとも軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層、および保護層を順に成膜する垂直磁気記録媒体の製造方法において、前記下地層は複数層からなり、このうちの少なくとも1層は酸素を1000〜10000wtppm含有し、前記軟磁性層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、少なくとも1回加熱処理を施し、該加熱処理は、基板表面温度で80〜230℃の範囲で施すことを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0011】
(構成2)
前記シード層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、前記加熱処理を施すことを特徴とする構成1に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0012】
(構成3)
前記シード層の成膜後であって、前記下地層の成膜前に、前記加熱処理を施すことを特徴とする構成2に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0013】
(構成4)
前記下地層は、六方晶若しくは菱面体構造を持つ単体材料、又はその合金を主成分とし、さらに酸素または酸化物を含有する材料からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0014】
(構成5)
前記磁気記録層は、コバルト(Co)を主体とする結晶粒子と、酸化物を主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層を含むことを特徴とする構成1乃至4のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0015】
(構成6)
前記グラニュラー構造の強磁性層中に2種類以上の酸化物を含むことを特徴とする構成5に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0016】
(構成7)
前記磁気記録層の成膜の後に加熱処理を施した後、前記磁気記録層上に炭素系保護層を成膜することを特徴とする構成1乃至6のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、基板上に少なくとも軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層、および保護層を順に成膜する垂直磁気記録媒体の製造方法において、前記下地層は複数層からなり、このうちの少なくとも1層は酸素を1000〜10000wtppm含有し、前記軟磁性層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、少なくとも1回、基板表面温度で80〜230℃の加熱処理を施すことにより、磁気記録層の下部層の下地層における結晶配向性を改善し、なお且つグラニュラー構造における分離性を良好に維持することで、磁気記録層の磁気特性および記録再生特性をさらに改善でき、よりいっそうの高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係わる垂直磁気記録媒体の層構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
本発明は、構成1にあるように、垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、基板上に少なくとも軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層、および保護層を順に成膜する垂直磁気記録媒体の製造方法において、前記下地層は複数層からなり、このうちの少なくとも1層は酸素を1000〜10000wtppm含有し、前記軟磁性層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、少なくとも1回加熱処理を施し、該加熱処理は、基板表面温度で80〜230℃の範囲で施すことを特徴とするものである。
【0020】
本発明に係る上記垂直磁気記録媒体の層構成の一実施の形態としては、具体的には、図1に示すように、基板1に近い側から、例えば密着層2、軟磁性層3、シード層4、下地層5、磁気記録層(垂直磁気記録層)6、保護層7、潤滑層8などを順に積層した構成のものが挙げられる。なお、上記シード層及び下地層の両方を含めて中間層と呼ぶこともある。また、上記下地層を中間層と呼ぶこともある。
【0021】
上記基板としては、ガラス基板が好ましく用いられる。基板用ガラスとしては、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダタイムガラス等が挙げられるが、中でもアルミノシリケートガラスが好適である。また、アモルファスガラス、結晶化ガラスを用いることができる。なお、化学強化したガラスを用いると、剛性が高く好ましい。本発明において、基板主表面の表面粗さはRmaxで10nm以下、Raで0.3nm以下であることが好ましい。
【0022】
上記基板上には、垂直磁気記録層の磁気回路を好適に調整するための軟磁性層を設けることが好適である。かかる軟磁性層は、第一軟磁性層と第二軟磁性層の間に非磁性のスペーサ層を介在させることによって、AFC(Antiferro-magneticexchange coupling:反強磁性交換結合)を備えるように構成することが好適である。これにより第一軟磁性層と第二軟磁性層の磁化方向を高い精度で反並行に整列固定させることができ、軟磁性層から生じるノイズを低減することができる。例えば、第一軟磁性層、第二軟磁性層の組成は、AFC構造に代表的に使用されるCoTa系、CoZr系、CoNb系、FeAlSi系、CoFe系の化合物、あるいはこれらの化合物の組み合わせから形成される三次系化合物、四元型化合物を使用するが、さらに透磁率、耐食性、平坦性を向上させるための添加元素を混合させてもよい。また、アモルファス構造を促進させるAl、Mg、Ti、Crなどを添加させるとよい。更には、FeMnやIrMn、PtMnなどの反強磁性バイアス結合構造に用いられる材料や、硬磁性材料を磁化固定のために適用してもよい。具体的には、第一軟磁性層、第二軟磁性層の組成としては、例えばCoTaZr(コバルト−タンタル−ジルコニウム)またはCoFeTaZr(コバルト−鉄−タンタル−ジルコニウム)またはCoFeTaZrAlCr(コバルト−鉄−タンタル−ジルコニウム−アルミニウム−クロム)またはCoFeNiTaZr(コバルト−鉄−ニッケル−タンタル−ジルコニウム)とすることができる。また、上記スペーサ層の組成は例えばRu(ルテニウム)、Ru酸化物とすることができるが、交換結合定数を制御するための添加元素を混合させてもよい。
【0023】
軟磁性層の膜厚は、その構造及び磁気ヘッドの構造や特性によっても異なるが、全体で15nm〜100nmであることが望ましい。なお、上下各層の膜厚については、記録再生の最適化のために多少差をつけることもあるが、概ね同じ膜厚とするのが望ましい。
【0024】
また、基板と軟磁性層との間には、密着層を形成することも好ましい。密着層を形成することにより、基板と軟磁性層との間の付着性を向上させることができるので、軟磁性層の剥離を防止することができる。密着層の材料としては、例えばTi含有材料を用いることができる。
【0025】
また、上記シード層(配向制御層と呼ぶこともある。)は、上層の下地層の結晶粒の配向ならびに結晶性、さらには分離性を制御する作用を備える。磁気記録媒体の全層を連続成膜する場合には特に必要のない場合もあるが、軟磁性層と下地層の相性如何によっては結晶成長性が劣化することがあるため、シード層を用いることにより、下地層の結晶成長性の劣化を防止することができる。このようなシード層の材質としては、Ni、Cu、Pt、Pd、Zr、Hf、Nbから選択することができる。更にこれらの金属を主成分とし、Ti、V、Ta、Cr、Mo、Wのいずれか1つ以上の添加元素を含む合金としてもよい。例えばNiW、CuW、CuCrなどを好適に選択することができる。シード層の膜厚は、下地層の結晶成長の制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましい。厚すぎる場合には、信号の書き込み能力を低下させてしまう原因となる。
【0026】
また、上記下地層は、垂直磁気記録層の結晶配向性(結晶配向を基板面に対して垂直方向に配向させる)、結晶粒径、及び粒界偏析を好適に制御するために用いられる。下地層の材料としては、面心立方(fcc)構造あるいは六方最密充填(hcp)構造を有する単体あるいは合金が好ましく、例えばRu、Pd,Pt,Tiやそれらを含む合金が挙げられるが、これらに限定はされない。本発明においては、特にhcp構造のRuまたはその合金が好ましく用いられる。Ruの場合、hcp結晶構造を備えるCoPt系垂直磁気記録層の結晶軸(c軸)を垂直方向に配向するよう制御する作用が高く好適である。また、本発明において、下地層は、六方晶若しくは菱面体構造を持つ単体材料、又はその合金を主成分とし、さらに酸素または酸化物を含有する材料からなることが好ましい。本発明において、下地層は複数層からなることが好ましく、たとえば同じ材料を使用しながら低ガス圧(例えば2Pa以下、さらに好ましくは1Pa以下)プロセスにて成膜される下地第1層と高ガス圧(例えば3Pa以上、さらに好ましくは4Pa以上)にて成膜される下地第2層との積層構造をとるのが好適であり、低ガス圧プロセスにて成膜される下地第1層は主に磁気記録層の結晶配向性制御に、高ガス圧にて成膜される下地第2層は主に磁気記録層の磁性粒のグラニュラー構造における分離性制御に寄与している。例えばRuの下地第2層では分離性を促進させるため、高ガス圧で成膜される必要があるが、さらに酸素またはSiOなどの酸化物を含有させることによってRu下地層自体の分離性がよりいっそう向上する。なお、低ガス圧プロセスと高ガス圧プロセスによる積層構造の場合、同じ材料の組合わせはもちろん、異種材料を組合わせることもできる。
【0027】
また、下地層の膜厚は、特に制約される必要はないが、垂直磁気記録層の構造制御を行うのに必要最小限の膜厚とすることが望ましく、例えば全体で5〜30nm程度の範囲とすることが適当である。また、低ガス圧にて成膜する膜厚と高ガス圧にて成膜する膜厚とを略同じ膜厚とすることもできる。
【0028】
また、上記下地層の上に、微細化促進層(オンセット層とも呼ばれる。)を設けることができる。この微細化促進層は非磁性のグラニュラー層である。下地層のhcp結晶構造の上に非磁性のグラニュラー層を形成し、この上に磁気記録層のグラニュラー層を成長させることにより、磁気記録層の磁性結晶粒を微細化する作用と、磁性のグラニュラー層を初期成長の段階(立ち上がり)から分離させる作用を有している。このような微細化促進層の組成の一例は非磁性のCoCr、CoCr−SiO、CoCrRu−TiOなどである。
【0029】
また、上記磁気記録層(垂直磁気記録層)は、コバルト(Co)を主体とする結晶粒子と、Si、Ti、Cr、Co、Zr、V、Ta、Wまたはこれらの酸化物などの非磁性物質を主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層(以下、グラニュラー磁性層と呼ぶ。)を含むことが好適である。
具体的な上記グラニュラー磁性層を構成するCo系磁性材料としては、非磁性物質である酸化ケイ素(SiO)や酸化チタン(TiO)などの前記酸化物を少なくとも一種以上を含有するCoCrPt(コバルト−クロム−白金)やCoCr(コバルト−クロム)、CoPt(コバルト−白金)等の硬磁性体のターゲットを用いて成膜し、hcp結晶構造を形成する材料が望ましい。また、このグラニュラー磁性層の膜厚は、例えば20nm以下であることが好ましい。
【0030】
また、グラニュラー磁性層の上部に後述の交換結合制御層を介して補助記録層を設けることによって、磁気記録層の高密度記録性と低ノイズ性に加えて高熱耐性を付け加えることができる。補助記録層の組成は、例えばCoCrPtBとすることができる。
【0031】
また、上記グラニュラー磁性層と補助記録層との間に、交換結合制御層を有することが好適である。交換結合制御層を設けることにより、グラニュラー磁性層と補助記録層との間の交換結合の強さを好適に制御して記録再生特性を最適化することができる。交換結合制御層としては、例えば、Ruなどが好適に用いられる。
【0032】
上記グラニュラー磁性層を含む垂直磁気記録層の形成方法としては、スパッタリング法で成膜することが好ましい。特にDCマグネトロンスパッタリング法で形成すると均一な成膜が可能となるので好ましい。
【0033】
また、上記垂直磁気記録層の上には、保護層を設けることが好適である。保護層を設けることにより、磁気記録媒体上を浮上飛行する磁気ヘッドから磁気記録媒体表面を保護することができる。保護層の材料としては、たとえば炭素系保護層が好適である。また、保護層の膜厚は3〜7nm程度が好適である。保護層は、例えばプラズマCVD法やスパッタリング法で形成することができる。
【0034】
また、上記保護層の上には、更に潤滑層を設けることが好ましい。潤滑層を設けることにより、磁気ヘッドと磁気記録媒体間の磨耗を抑止でき、磁気記録媒体の耐久性を向上させることができる。潤滑層の材料としては、たとえばパーフロロポリエーテル(PFPE)系化合物が好ましく用いられる。潤滑層は、例えばディップコート法で形成することができる。
【0035】
前記基板上に、例えばスパッタリング法を用いて、基板に近い側から、密着層、軟磁性層、シード層、下地層、垂直磁気記録層等が順に成膜されるが、本発明では、前記軟磁性層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、少なくとも1回加熱処理を施すことを特徴とするものである。
特に、前記シード層の成膜後であって、前記下地層の成膜の前に、上記加熱処理を施すことが本発明では好適である。前にも述べたように、下地層は、磁気記録層の下部に位置しており、磁気記録層の結晶配向性及びグラニュラー構造における分離性を制御する、云わば、磁気記録層の土台とも言える非常に重要な部分である。本発明者の考察によれば、このような下地層の成膜の前に、シード層までを成膜した基板を加熱処理することによって、その上に形成される例えばRu下地層の結晶配向性を良好に制御でき、磁気記録層の下部層にあたる下地層自体の結晶配向性を向上させることができるものと考えられる。
【0036】
本発明者の検討によれば、上記加熱処理は、基板表面温度で例えば80〜230℃の範囲で行うことが好適である。加熱処理温度が80℃未満であると、下地層の結晶配向性を良好に制御できる効果が十分に得られない。一方、加熱処理温度が230℃よりも高いと、分離性が悪化しSN(シグナル/ノイズ比)が劣化するという問題が生じる。また、さらに望ましくは100〜180℃が好適である。
【0037】
本発明では、前記軟磁性層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、少なくとも1回加熱処理を施すことを要件としており、少なくとも上述のシード層の成膜後であって下地層の成膜前に加熱処理を行うことが好ましいが、これに限定される訳ではない。例えば、下地層をRuからなる下層(下地第1層)と、酸化物を含有するRuからなる上層(下地第2層)の積層構造とする場合、これら下層(下地第1層)と上層(下地第2層)の各成膜の間で加熱処理を行ってもよい。また、軟磁性層とシード層の各成膜の間で加熱処理を行ってもよい。
また、本発明では、たとえば、軟磁性層とシード層、シード層と下地第1層、下地第1層と下地第2層の各成膜の間の少なくともいずれかで加熱処理を行うような複数回の加熱処理を行なってもよい。この場合、少なくともシード層成膜と下地第1層成膜との間の加熱処理を含めることが好ましい。
【0038】
なお、加熱処理を施すことにより、磁気記録層の土台となる下地層の結晶配向性を向上することが可能であるが、その一方、加熱処理の条件によっては、下地層におけるグラニュラー構造の劣化が懸念される。そこで本発明においては、下地層のグラニュラー構造の劣化を抑制しグラニュラー構造を良好に維持するため、複数層からなる下地層の少なくとも1層は、酸素の含有量が1000〜10000wtppm(重量ppm)の範囲となるように酸化物の量を算出して添加している。
【0039】
また、グラニュラー磁性層のグラニュラー構造における分離性を良好に維持するため、グラニュラー磁性層中に2種類以上の酸化物(例えば、SiOとTiOの混合)を含むことが好適である。本発明においては、グラニュラー磁性層中の酸化物の総含有量は、5〜14mol%の範囲とすることが好適である。
【0040】
本発明によれば、前記軟磁性層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、少なくとも1回、基板表面温度で80〜230℃の加熱処理を施すことにより、磁気記録層の下部層にあたる下地層における結晶配向性を改善し、なお且つ下地層及びグラニュラー磁性層のグラニュラー構造における分離性を良好に維持することで、磁気記録層の磁気特性および記録再生特性をさらに改善でき、よりいっそうの高記録密度化に対応可能な垂直磁気記録媒体を得ることができる。
【0041】
また、本発明においては、前記軟磁性層の成膜後であって前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に少なくとも1回加熱処理を施すことに加えて、たとえば、前記垂直磁気記録層(交換結合制御層および補助記録層を含む)の成膜の後に、2回目の加熱処理を施し、磁気記録層上に炭素系保護層を成膜することも好適である。この加熱処理により、炭素系保護層の膜質を改善させ、機械的強度、コロージョン耐性等を向上させることができる。この2回目の加熱処理は、例えば100〜300℃の範囲で行うことが好適である。さらに望ましくは150〜250℃の範囲が望ましい。
【実施例】
【0042】
以下実施例、比較例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するとともに本発明による作用効果を例証する。
(実施例1〜5)
アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型し、ガラスディスクを作成した。このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性ガラス基板を得た。ディスク直径は65mmである。このガラス基板の主表面の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で測定したところ、Rmaxが2.18nm、Raが0.12nmという平滑な表面形状であった。なお、Rmax及びRaは、日本工業規格(JIS)に従う。
【0043】
次に、枚葉式静止対向スパッタ装置を用いて、上記ガラス基板上に、DCマグネトロンスパッタリング法にて、順次、密着層、軟磁性層、シード層、下地層、垂直磁気記録層(グラニュラー磁性層、交換結合制御層、補助記録層)、保護層の各成膜を行った。
【0044】
以下の各材料の記述における数値は組成を示すものとする。
まず、密着層として、10nmのCr-50Ti層を成膜した。
次に、軟磁性層として、非磁性層を挟んで反強磁性交換結合する2層の軟磁性層の積層膜を成膜した。すなわち、最初に1層目の軟磁性層として、20nmの(30Fe-70Co)-3Ta5Zr層を成膜し、次に非磁性層として、0.7nmのRu層を成膜し、さらに2層目の軟磁性層として、1層目の軟磁性層と同じ、(30Fe-70Co)-3Ta5Zr層を20nm成膜した。
【0045】
次に、上記軟磁性層上に、シード層として、5nmのNi-7W層を成膜した。
ここで、チャンバー内で、上記シード層までを成膜した基板に対して、80℃(基板表面温度)となるように加熱処理を行った。
【0046】
上記加熱処理後、上記シード層の上に、下地層として2層のRu層を成膜した。すなわち、下地第1層として、Arガス圧0.7PaにてRu(Ru単体)を10nm成膜し、下地第2層として、Arガス圧4.5PaにてRu−SiO(SiO:酸素原子が6000wtppmとなるように計算して含有)を10nm成膜した。
【0047】
次に、上記下地層の上に、垂直磁気記録層を成膜した。まず、グラニュラー磁性層として、10nmの90(Co-10Cr-16Pt)-5mol.%SiO2-5mol.%TiO2を成膜した。次に、交換結合制御層として、0.3nmのRu層を成膜し、更にその上に補助記録層として、7nmのCo-15Cr-15Pt-5Bを成膜した。なお、上記グラニュラー磁性層の膜厚は、媒体の保磁力Hcが5000〜5030エルステッド(Oe)の範囲となるように調整した。
ここで、チャンバー内で、上記補助記録層までを成膜した基板に対して、240℃(基板表面温度)となるように、2回目の加熱処理を行った。
【0048】
そして次に、上記垂直磁気記録層の上に、ダイヤモンドライクカーボンからなる炭素系保護層を形成し、表面に窒化処理を施した。炭素系保護層の膜厚は5nmとした。
そして、スパッタ装置から取り出し、この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)からなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmとした。
以上の製造工程により、実施例1の垂直磁気記録媒体が得られた。
【0049】
また、実施例1におけるシード層の成膜工程と下地層の成膜工程との間に行った加熱処理において、基板温度を表1に示したように変更し、さらにHcが5000〜5030Oeの範囲内となるようにグラニュラー磁性層の膜厚を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜5の垂直磁気記録媒体を得た。
【0050】
(実施例6,7)
実施例3におけるグラニュラー磁性層の組成を、90(Co-10Cr-16Pt)-10mol.%SiO2(実施例6)、或いは、90(Co-10Cr-16Pt)-10mol.%TiO2(実施例7)とし、さらにHcが5000〜5030Oeの範囲内となるようにグラニュラー磁性層の膜厚を適宜調整したこと以外は、実施例3と同様にして、実施例6,7の垂直磁気記録媒体を得た。
【0051】
(比較例1〜3)
実施例1におけるシード層の成膜工程と下地層の成膜工程との間に行った加熱処理において、この加熱処理を省く(比較例1)、或いは基板温度を表1に示したように変更し(比較例2,3)、さらにHcが5000〜5030Oeの範囲内となるようにグラニュラー磁性層の膜厚を適宜調整したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜3の垂直磁気記録媒体を得た。
【0052】
(比較例4)
実施例3における下地第2層の組成をRu(単体)とし、さらにHcが5000〜5030Oeの範囲内となるようにグラニュラー磁性層の膜厚を適宜調整したこと以外は、実施例3と同様にして、比較例4の垂直磁気記録媒体を得た。
【0053】
(評価)
上記実施例、比較例の各垂直磁気記録媒体を用いて、以下の評価を行った。
すなわち、上記実施例、比較例の各垂直磁気記録媒体における下地層のRu結晶配向度をX線回折装置により測定し、その結果を下記表1に示した。Ru結晶粒(hcp(002))の垂直方向への配向分散の指標となるΔθ50値(単位は「度」)が小さいほど、Ruのhcp結晶粒の配向が垂直方向へ好適に制御されていることを示している。
また、上記実施例、比較例の各垂直磁気記録媒体に対し、静磁気特性、記録再生特性の評価を行った。静磁気特性の評価は、Kerr効果測定装置を用いて、保磁力(Hc)を測定した。また、記録再生特性の評価は、SPT/TMR素子を備えた垂直磁気記録方式用の磁気ヘッドとR/Wアナライザーを備えたスピンスタンドテスターを用いて、線記録密度1500kFCI(KiloFlux Change per inch)にて、S/N(シグナル/ノイズ)比と、トラック幅(MWW)を測定した。なお、上述したように各媒体のグラニュラー磁性層の膜厚を適宜調整してHcをほぼ同等の値としたことで、MWWの値はほぼ同等となったため表1では省略している。
得られた結果を纏めて下記表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果から、本発明の実施例の垂直磁気記録媒体は、加熱処理なし或いは加熱処理温度の低い比較例1,2に比べて、下地層の結晶配向性がより良好であることが確認できた。これは加熱処理による結晶配向性改善の効果である。また、加熱処理温度が300℃の比較例3では、結晶配向性はよいものの、SNが劣化してしまった。これは、加熱処理により低下する分離性を補うために下地層に添加した酸素含有による効果をもってしても回復できないほど、分離性が劣化したためである。また、下地第2層に酸化物を含まない比較例4は、実施例3と比べてSNが劣る。これは、下地層への酸素添加による分離性向上効果がないためである。
また、グラニュラー磁性層の酸化物を1種類とした実施例6,7は、実施例3よりもSNが若干劣る。これは、酸化物を複合化することで分離性が向上していることを示唆するものである。
したがって、本発明の実施例の垂直磁気記録媒体は、良好な結晶配向性を備えており、またSNが高く、よりいっそうの高記録密度化に対応可能な特性が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0056】
1 基板
2 密着層
3 軟磁性層
4 シード層
5 下地層
6 垂直磁気記録層
7 保護層
8 潤滑層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録方式での情報記録に用いる垂直磁気記録媒体であって、
基板上に少なくとも軟磁性層、シード層、下地層、磁気記録層、および保護層を順に成膜する垂直磁気記録媒体の製造方法において、
前記下地層は複数層からなり、このうちの少なくとも1層は酸素を1000〜10000wtppm含有し、
前記軟磁性層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、少なくとも1回加熱処理を施し、該加熱処理は、基板表面温度で80〜230℃の範囲で施すことを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記シード層の成膜後であって、前記下地層における酸素を含有する層のうちの最下層の成膜前に、前記加熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記シード層の成膜後であって、前記下地層の成膜前に、前記加熱処理を施すことを特徴とする請求項2に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記下地層は、六方晶若しくは菱面体構造を持つ単体材料、又はその合金を主成分とし、さらに酸素または酸化物を含有する材料からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記磁気記録層は、コバルト(Co)を主体とする結晶粒子と、酸化物を主体とする粒界部を有するグラニュラー構造の強磁性層を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記グラニュラー構造の強磁性層中に2種類以上の酸化物を含むことを特徴とする請求項5に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記磁気記録層の成膜の後に加熱処理を施した後、前記磁気記録層上に炭素系保護層を成膜することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2011−76664(P2011−76664A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226575(P2009−226575)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(510210911)ダブリュディ・メディア・シンガポール・プライベートリミテッド (53)
【Fターム(参考)】