説明

型彫り放電加工機

【課題】型彫り放電加工機において、温度変化による芯だし誤差を低減し、高精度の加工を行なうことを可能にする。
【解決手段】型彫り放電加工機1は、ワーク4を保持するパレット6と、パレット6上に設けられた基準球5と、パレット6を支持するテーブル2と、基準球5に対向する基準電極12と、基準電極12を保持するヘッド3とを備え、基準球5と基準電極12とによって機械座標の原点を測定し、基準電極12を工具電極13と取り替えて、原点を基準にワーク4を加工する。連続加工が行なわれると、基準電極12は、放電加工によって過熱されて温度上昇するヘッド3に取り付けられ、温度変化が大きいが、低熱膨張材によって形成されているので、温度変化による基準電極12の熱膨張量の変動が小さくなって、機械座標の原点の変動が小さくなり、温度変化による芯だし誤差が低減し、高精度の加工を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基準球と基準電極により機械座標の原点を測定する型彫り放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、微細加工を行なう型彫り放電加工機においては、ワークが保持されるテーブル上の基準球と、ヘッド側の基準電極によって、機械座標の原点を測定することにより芯だし精度を高め、その機械座標の原点を加工位置の基準として加工精度の高い放電加工を行なっている。そして、ワークの交換時等に基準球と基準電極により原点の再調整を行なっている。しかしながら、放電加工による発熱や室温の変化により、加工中に型彫り放電加工機の温度が変化すると、テーブルや基準球等の熱膨張により芯だし精度が劣化し、加工精度が悪くなる。このために、高い精度が要求される加工には、熱膨張分の補正を行なうことや、室温の温度制御を行なうことが必要となるが、熱膨張分の補正には、手間がかかり、また、室温の温度制御を行なうとコストが高くなる。
【0003】
また、基準球を低熱膨張材によって形成することにより、温度変化による芯だし精度の劣化を防ぐ型彫り放電加工機が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に示されるような型彫り放電加工機においては、基準球は低熱膨張材によって形成されるが、基準球と共に機械座標の原点の測定を行なう基準電極は低熱膨張材によって形成されていないので、基準電極の熱膨張により芯だし精度が劣化する。
【特許文献1】特開2002−224918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたものであり、温度変化による芯だし誤差を低減し、高精度の加工を行なうことが可能な型彫り放電加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ワークを保持するパレットと、前記パレットを支持するテーブルと、前記テーブル上に設けられた基準球と、前記基準球に対向する基準電極と、前記基準電極を保持するヘッドと、前記基準電極と取り替えられて前記ヘッドに保持される工具電極と、を備え、前記基準球は、基準球本体と、該基準球本体を前記テーブルに支持する支持柱を有し、前記基準球本体と前記基準電極によって機械座標の原点を測定し、前記基準電極と前記工具電極を取り替えて、該工具電極とワークとの間において放電することにより、前記原点を基準にワークを加工する型彫り放電加工機において、前記基準電極が低熱膨張材によって形成されているものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の型彫り放電加工機において、前記基準球は、前記テーブルに代えて前記パレット上に設けられているものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載の型彫り放電加工機において、放電加工に用いる加工液の温度を一定に保持する定温化装置を備え、前記支持柱を加工液に浸漬するものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1に記載の型彫り放電加工機において、前記基準球の内の少なくとも前記支持柱が低熱膨張材によって形成されているものである。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1に記載の型彫り放電加工機において、前記工具電極を前記ヘッドに保持する電極ホルダーを備え、前記電極ホルダーが低熱膨張材によって形成されているものである。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1、請求項4、又は請求項5のいずれか一項に記載の型彫り放電加工機において、前記低熱膨張材がインバー合金であるものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、基準球と共に機械座標の原点の測定を行なう基準電極が低熱膨張材によって形成されているので、温度変化による基準電極の熱膨張量の変動が小さくなって、機械座標の原点の変動が小さくなり、温度変化による芯だし誤差が低減し、高精度の加工を行なうことができる。機械座標の原点の測定は、ワークがセットされるテーブル側に設けられた基準球と、工具電極が取り付けられるヘッド側に取り付けられた基準電極によって行なう。このため、連続加工が行なわれると、基準電極は、常に室温の温度変化の影響を受けるので、テーブル側にある基準球よりも熱膨張による寸法の変動が大きい。従って、基準電極を低熱膨張材によって形成することによる高精度の加工を行なうことができる効果は大きい。
【0013】
請求項2の発明によれば、基準球が、ワークとの距離がテーブル上よりも短いパレット上に設けられることにより、機械座標の原点とワークとの距離の熱膨張による変動が小さくなって、原点から加工箇所までの距離の変動が小さくなり、請求項1と同等以上の効果が得られる。
【0014】
請求項3の発明によれば、加工液の温度変化が抑えられるので、支持柱等の熱膨張量の変動が小さくなることにより、機械座標の原点の変動が小さくなり、請求項1と同等以上の効果が得られる。
【0015】
請求項4の発明によれば、基準電極と、基準球の内の少なくとも支持柱とが低熱膨張材によって形成されているので、支持柱等の熱膨張量の変動が小さくなることにより、機械座標の原点の変動が小さくなり、請求項1と同等以上の効果が得られる。
【0016】
請求項5の発明によれば、工具電極を保持する電極ホルダーが低熱膨張材によって形成されているので、電極ホルダーの熱膨張量の変動が小さくなって、原点から加工箇所までの距離の変動が小さくなり、請求項1と同等以上の効果が得られる。
【0017】
請求項6の発明によれば、基準電極等が低熱膨張材であるインバー合金によって形成されているので、温度変化による機械座標の原点の変動が小さくなり、請求項1と同等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施形態に係る型彫り放電加工機について図1及び図2を参照して説明する。図1は、型彫り放電加工機の外観を示す。図2(a)は、型彫り放電加工機の構成を、図2(b)は、型彫り放電加工機の加工槽部分の平面視を、図2(c)は、加工を行なう工具電極の構成を示す。型彫り放電加工機1は、テーブル2とヘッド3を備えている。型彫り放電加工機1は、テーブル2上に、加工されるワーク4と、機械座標の原点の基準となる基準球5と、ワーク4と基準球5とを支持するパレット6とを備えている。基準球5は、球形状の基準球本体7と基準球本体7を支持する支持柱8とを有している。ワーク4は、パレット6の位置決め枠9により定められた位置に固定されており、ワーク4と基準球5との位置関係が決められている。また、テーブル2上にはパレット6を囲む加工槽10が設けられており、加工槽10には、加工液11が入れられ、ワーク4及び支持柱8は、加工液11中に浸漬される。また、加工槽10には定温化装置18が配管19を介して繋げられている。
【0019】
型彫り放電加工機1は、ヘッド3側においては、基準球5に対向する基準電極12と、基準電極12を保持するヘッド3を備えており、ヘッド3は、水平方向及び上下方向に移動することができる。ワーク4の加工を行なう工具電極13は、電極ホルダー14と電極15を有し、基準電極12と取り替えられて、電極ホルダー14を介してヘッド3に取り付けられる。そして、ヘッド3はテーブル2に支持されている。また、型彫り放電加工機1の操作を行なう操作盤17がテーブル2上に設けられている。そして、基準電極12、基準球5及び電極ホルダー14は、低熱膨張材によって形成されている。本明細書でいう「低熱膨張材」とは、普通鋼よりも線熱膨張係数が小さい、例えば超硬合金やインバー合金やスーパーインバー合金等をいう。
【0020】
次に、上記のように構成された本実施形態に係る型彫り放電加工機1の動作について図3を参照して説明する。図3は、機械座標の求め方と加工時の位置調整の行い方を示すものである。まず機械座標の原点を求める(図3(a)参照)。ヘッド3を動かして基準球5を矢印X方向と矢印X方向に垂直で紙面に垂直なY方向及び矢印Z方向に移動させ、基準球5の上端と基準電極12の下端とが接触する高さを求め、その位置をヘッド3のZ軸の原点とする。接触しているか否かについては、導通による接触検知により判定する。次に、X軸の+側、−側の両側から基準電極12が基準球5と接触する位置を求め、その中間点をヘッド3のX方向の原点とする。同様にして、ヘッド3のY軸の原点を求める。
【0021】
次に、工具電極13と基準電極12との位置関係を求める(図3(b)参照)。ヘッド3から基準電極12を取り外し、工具電極13を電極ホルダー14を介してヘッド3に取り付ける。基準電極12と同様に工具電極13をX、Y、Z方向に移動させて、工具電極13の下端、X方向の両端、及びY方向の両端が基準球5と接触する位置を求め、工具電極13の機械座標の原点との位置関係を調べる。例えば、ヘッド3を原点から寸法a下降させたときに工具電極13の下端と基準球5の上端が接触した場合には、工具電極13の下端は基準球5の下端よりも寸法aだけ上に位置していることになる。放電加工においては、大きさや形状の異なる複数の工具電極13を用いるので、各工具電極13毎に機械座標の原点との位置関係を求め、型彫り放電加工機1のメモリーに記憶する。
【0022】
次に、ワーク4を加工する(図3(c)参照)。前述の工具電極13の下端により、ワーク4の上面を、基準球5の上端から寸法b低い位置まで加工するときは、ヘッド3を原点から寸法(a+b)下降させればよい。そして、他の工具電極13を用いるときは、メモリーに記憶している機械座標の原点との位置関係のデータを用いて加工を行なう。
【0023】
次に、ワーク4を交換する(図3(d)参照)。ワーク4の交換は、ワーク4が固定されたパレット6ごと行なう。ワーク4は、パレット6の位置決め枠9にセットされており、また、パレット6に支持されている基準球5と位置決め枠9との位置関係は全てのパレット6において同一であるので、基準球5とワーク4との位置関係は、ワーク4が固定されている全てのパレット6において同一となる。そして、工具電極13を基準電極12に取替え、再度、基準電極12と基準球5とによって機械座標の原点を測定し、最初に測定した原点との差異を求める。ここにおいて、交換したワーク4のパレット6の基準球5で測定した原点の高さが、最初に測定した原点よりも寸法cだけ低い。
【0024】
次に、基準電極12を工具電極13と交換し、ワーク4を加工する(図3(e)参照)。上記図3(c)と同様の加工を行なうときは、ヘッド3を原点から寸法(a+b+c)下降させればよい。
【0025】
上述の一連の加工過程において、最初に原点の測定を行なったときと、後で原点の測定を行なったときとで基準電極12の温度が異なっていると、基準電極12の熱膨張により誤差が生じる。例えば、温度差が5℃であり、基準電極12の長さが50mmで、基準電極12の材質が、線膨張係数が(12×10−6/℃)の普通鋼とすると、熱膨張により30μmの変動がZ方向に生じる。しかし、本実施形態においては、線膨張係数が(0.6×10−6/℃)のスーパーインバー材を用いているので熱膨張による変動は1.5μmと1/20になり、温度変化があってもZ方向の芯だし誤差を低減することができ、X方向、Y方向の芯だし誤差も同様に低減することができる。また、電極ホルダー14も黄銅であれば線膨張係数が(18×10−6/℃)であるが、スーパーインバー材にすることにより熱膨張による加工点の位置変動は、1/30になる。そして、基準球5にも低熱膨張材を用いるので、温度変化による加工誤差が更に低減し、高精度の加工を行なうことができる。
【0026】
基準球5を低熱膨張材によって形成することと、基準電極12を低熱膨張材によって形成することでは、連続加工が行なわれると、基準電極12は、放電加工によって過熱されて温度上昇するヘッド3に取り付けられるので、テーブル2側にある基準球5よりも温度変化が大きいことから、基準球5よりも基準電極12を低熱膨張材によって形成する方が、高精度の加工を行なうことができる効果は大きい。
【0027】
定温化装置18は、内部に循環ポンプ、冷却装置及び加熱装置を備えており、加工槽10中の加工液11を吸い込み、冷却や加熱を行なって加工液11を一定温度に保ち、加工槽10へ送る(図2(a)参照)。支持柱8、パレット6、ワーク4及びテーブル2等の温度が一定になるように保持されるので、温度変化による加工誤差が低減し、高精度の加工を行なうことができる。
【0028】
また、基準球5をパレット6上に設けていることの効果を図4を参照して説明する。図4(a)は、基準球5をテーブル2上に設けたときの加工槽10内の構成を示し、図4(b)は、基準球5をパレット6上に設けたときの構成を示す。テーブル2とパレット6の熱膨張係数が同じであるとする。基準球5をテーブル2上に設けると、機械座標の原点とワーク4との距離は寸法L1と長く、テーブル2の熱膨張の影響を強く受ける。しかし、基準球5をパレット6上に設けると、機械座標の原点とワーク4との距離は、寸法L2と短かくなり、パレット6の熱膨張の影響を受ける度合いが小さくなるので、温度変化による加工誤差が低減し、高精度の加工を行なうことができる。
【0029】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば低熱膨張材は、金属材料に限らず、例えばガラスのような材料でもよく、電導性が必要な箇所には例えば導電材をコーティングして用いてもよい。また、パレット6を低熱膨張材によって形成してもよい。パレット6の熱膨張による加工誤差が低減される。また、ワーク4を交換して加工するときに、基準球5とワーク4との位置関係が、他のパレット6における基準球5とワーク4との位置関係と同一でなくてもよく、基準球5とワーク4との位置関係を測定し、そのデータを用いて加工を行なってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る型彫り放電加工機の外観図。
【図2】(a)は同型彫り放電加工機の部分破断側面図、(b)は同型彫り放電加工機の加工槽部分の平面図、(c)は同型彫り放電加工機の工具電極の斜視図。
【図3】(a)は機械座標の原点を求める動作を示す図、(b)は工具電極と基準電極との位置関係を求める動作を示す図、(c)は加工位置を求める動作を示す図、(d)はワーク交換時の機械座標の原点を求める動作を示す図、(e)は加工位置を求める動作を示す図。
【図4】(a)は基準球をテーブルに設けたときの加工槽の側断面図、(b)は基準球をパレットに設けたときの加工槽の側断面図。
【符号の説明】
【0031】
1 型彫り放電加工機
2 テーブル
3 ヘッド
4 ワーク
5 基準球
6 パレット
7 基準球本体
8 支持柱
11 加工液
12 基準電極
13 工具電極
14 電極ホルダー
18 定温化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを保持するパレットと、前記パレットを支持するテーブルと、前記テーブル上に設けられた基準球と、前記基準球に対向する基準電極と、前記基準電極を保持するヘッドと、前記基準電極と取り替えられて前記ヘッドに保持される工具電極と、を備え、前記基準球は、基準球本体と、該基準球本体を前記テーブルに支持する支持柱を有し、前記基準球本体と前記基準電極によって機械座標の原点を測定し、前記基準電極と前記工具電極を取り替えて、該工具電極とワークとの間において放電することにより、前記原点を基準にワークを加工する型彫り放電加工機において、
前記基準電極が低熱膨張材によって形成されていることを特徴とする型彫り放電加工機。
【請求項2】
前記基準球は、前記テーブルに代えて前記パレット上に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の型彫り放電加工機。
【請求項3】
放電加工に用いる加工液の温度を一定に保持する定温化装置を備え、前記支持柱を加工液に浸漬することを特徴とする請求項1に記載の型彫り放電加工機。
【請求項4】
前記基準球の内の少なくとも前記支持柱が低熱膨張材によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の型彫り放電加工機。
【請求項5】
前記工具電極を前記ヘッドに保持する電極ホルダーを備え、前記電極ホルダーが低熱膨張材によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の型彫り放電加工機。
【請求項6】
前記低熱膨張材がインバー合金であることを特徴とする請求項1、請求項4、又は請求項5のいずれか一項に記載の型彫り放電加工機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−80412(P2008−80412A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259955(P2006−259955)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】