説明

埋立地などの軟弱地盤の改良方法に使用のドレーン材

【課題】 軟弱地盤の粘土層の含有水を垂直に配設のドレーンで排水して軟弱地盤の沈下を促進し、この地盤沈下により座屈や破断することなく短縮化して地盤を早期に安定化し、自然腐蝕して環境を害しないファイバードレーン材を提供する。
【解決手段】 ファイバードレーン材1は透水性を有する黄麻繊維の織布または不織布からなる外被材2と、ココ椰子の実の殻の外皮短繊維からなる芯材の充填材3とからなり、芯材の短繊維はほぐされたた状態の充填材3が黄麻繊維の織布または不織布からなる透水性の外被材2中に装着されている。これらの外被材2と外被材2中に装着されている充填材3の芯材は外被材2の複数の箇所において両者が綿糸などの天然繊維の糸5により縫い止めされて一体化されて長尺材のファイバードレーン材1とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軟弱地盤上に盛土を行う場合や埋立造成する場合の軟弱地盤の圧密沈下にともなって軟弱地盤の中に打ち込んだ縦型ドレーンが折れ曲がりを無くしかつ縦型ドレーンの透水機能の劣化をなくして縦型ドレーンから効率よく排水して軟弱地盤を安定化する方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
海を埋立て陸地や島を造成する場合に、海底地盤や埋立てにより形成した地盤は軟弱地盤であり、このような軟弱地盤に盛土をすると徐々に沈下し始め、場合によっては陸上部がなくなってしまう場合がある。そこで、このような事態にならないように、埋立てにより形成の軟弱地盤を改良し、地盤沈下を生じなくして陸地や島を形成する必要がある。
【0003】
ところで、海底地盤や海を埋立てる際に使用する用土が粘土質の場合、この粘土質の土壌(以下、「粘土」という。)は非常に透水性が悪い。そこで、このような透水性の悪い粘土で埋立てその上に島や陸地部を盛土すると、粘土に含有されている水が非常にゆっくりと上に流れて押し出され、かつ、下にも押し出されてきて極めてゆっくりであるが粘土が固くしまってくる。粘土が固くしまってくると、地盤の高さが徐々に減少して地盤が沈下してくる。この様に軟弱地盤が沈下することで、埋め立てた造成地は徐々に安定な地盤に形成されてくる。
【0004】
しかしながら、埋立て造成する際の粘土に対して何の対策も施すことなく埋立てすると、100年以上の長期にわたって軟弱地盤の沈下が続くこととなる。このような地盤の沈下速度はテルツァーギィの圧密理論によって理論的に解析されている。これは「地盤の層の厚さの2乗に比例して沈下の時間が変る」というものである。したがって、層の厚さが半分になると、沈下の時間は1/4になる関係がある。
【0005】
そこで、埋立て地を造成したままではなく、埋立て地の排水を助成することで早期に軟弱地盤を沈下させることで安定な地盤に改良する工法が実施されている。その一つに、サンドドレーンによる鉛直排水工法(Vertical Drain法)がある。これは例えば埋立てによる厚さ20mの粘土層に砂の柱を2m間隔で縦方向に打ち込み、その間隙の粘土層に含まれている間隙水を透水する透水層として砂の柱に通水することで粘土層に含有される水を排出し、軟弱地盤を早期に沈下させて安定化するものである。この様にして粘土層に例えば2m間隔で砂の柱を立てると、最大排水距離は粘土層中を水平方向に可能となるので、20mの1/10になる。したがって20mの厚さでは水が抜けるために100年かかっていたとすれば、その1/10の2乗の1年で水が抜けることとなる。したがってサンドドレーンによる鉛直排水工法は非常に効果のある埋立て造成工法といえる。しかし、サンドドレーンとしての完璧な形状の砂の柱を軟弱な粘土層中に打ち立てることができないときは、完全な抜水用の通路を形成できず失敗することもあった。
【0006】
さらに、従来から水平排水材であるサンドマットが知られている。このサンドマットの役割は、バーチカルドレーン材を伝わって軟弱地盤上に上昇してきた粘土層中の含有水をいち早く軟弱地盤上でさらに水平方向に排水することで、バーチカルドレーン材の透水作用を高めて軟弱地盤の厚密沈下を促進する役割がある。ところで、サンドマット用として、砂を地盤改良対象面積の全域に50cmから100cm程度の厚さに敷き均すため、その使用量は膨大な量となる。このため、砂採取による資源の枯渇化や環境破壊を招くなどの問題が生じ、一方で近年は良質な砂の入手が困難になりつつある。このために、砂の品質の低下や材料のコストアップが指摘されるようになった。
【0007】
このように、サンドドレーン工法に使用される砂は資源保護あるいは環境保護の面から入手が困難になってきているので、サンドドレーンによる鉛直排水工法は他のドレーン材料を使用する工法に代ってきている。すなわち、砂に代わる透水性の材料が工場生産されて供給されてきており、プレファブリック ヴァーティカル ドレーン(Prefabric Vertical Drain、以下「PVD」という。)材を用いる工法となってきている。このPVDでは、どのような素材がバンド状の透水性の材料として使用できるかが重要な要件となっている。
【0008】
ところで、軟弱地盤の改良のための地盤排水工法の一つとして耐腐蝕繊維を纏絡して少なくとも片面に高張力耐腐蝕繊維を層着したシート状部材よりなる水平部片を軟弱地盤上に敷設し、次いで、該シート状部材の竪型部片を該水平部片に貫入して接続した軟弱地盤の改良法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0009】
さらに、埋立工事、堤防工事など、または傾斜面等において、土壌中の間隙水を効果的に排水して土壌の圧密を促進させるためのドレーンとして使用するファイバードレーンとして、長さ方向に水浸透性を有する複数の芯材を平行配置し、この芯材を黄麻布製の外被材で一体に被覆して平帯状に形成し、表裏の外被材間を隣接する芯材間で縫い合わせて形成したドレーンが開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0010】
これらの鉛直排水工法に使用するPVDは軟弱地盤の沈下に連れて、サンドドレーンのようにドレーンの長さが折れることなく短くなっていく必要がある。しかし、これらはその点の工夫が考慮されていないものである。
【0011】
一方、出願人らは、従来のサンドマットに代わる水平ドレーンとして盛土などの加圧によっても透水性が損なわれにくく、素材の選択により地中への残存や地中での腐蝕による分解消滅のいずれかが選択でき、優れた透水・排水機能を有し、地盤の歪み変形にも追従可能な水平ドレーンを開発している(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
また、さらに、外被材が十分な透水能力を有し、内部の繊維マットからなる充填材も加圧下でも十分な通水能力を有し、高いフィルター機能を有する水平ドレーン材を開発している(例えば、特許文献4参照。)。しかし、これらは水平ドレーン材であるので、縦型のサンドドレーンのように排水に連れてドレーンの長さが短縮していく必要はなく、さらに折れ曲がるというような事態も生じないものであった。
【0013】
【特許文献1】特開昭50−88810号公報
【特許文献2】実公平6−34413号公報
【特許文献3】特開平10−140550号公報
【特許文献4】特開平11−172666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、埋立工事における軟弱地盤の粘土層に含有される間隙水を軟弱地盤中に垂直方向に配設した縦型ドレーンの透水性により排水し、軟弱地盤の地盤沈下を促進し、かつ排水に伴う地盤沈下に追従して座屈あるいは破断することなく縦型ドレーンの長さを短縮化することにより地盤の安定化を早期に図りうるファイバードレーン材で工事完了後に自然に腐蝕分解して環境を害しない天然素材からなるファイバードレーン材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、黄麻繊維の織布または不織布からなる透水性を有する外被材と、この外被材中に内在するほぐされた状態のココナッツの短繊維の芯材の充填材からなり、これらの外被材と充填材の芯材を外被材の複数の箇所で縫い止め一体化して形成した長尺材からなることを特徴とする軟弱地盤の排水用の縦型ファイバードレーン材である。充填材の芯材のココナッツ繊維はほぐされた状態であるので、外被材の長さの収縮に抵抗することなく、伴われて容易に収縮し、その結果、縦型ファイバードレーン材の長さが軟弱地盤の地盤沈下に連れて収縮することができる。
【0016】
請求項2の発明は、このほぐされた状態のココナッツ繊維の芯材の充填材は、ココナッツの短繊維(すなわちコイア)の繊維方向をずらして整直状に重ねて長尺化して黄麻繊維の織布または不織布からなる外被材中に一体化されていることを特徴とする請求項1の手段の軟弱地盤の透水用の縦型ファイバードレーン材である。ココ椰子の実の外皮の繊維が縦型ファイバードレーン材の長さ方向に整直状として内在されているので透水性はより向上し、さらにより容易に芯材が収縮できることができる。
【0017】
さらに請求項3の発明は、黄麻繊維の織布または不織布からなる外被材は二重の織布または不織布からなることを特徴とする請求項1または2の手段の軟弱地盤の透水用の縦型ファイバードレーン材である。この様に外被材を2重の構造とすることでファイバードレーン材の引っ張り強度を一層に高めて軟弱地盤への挿着を容易とし、さらにフィルター効果を向上させて芯材の透水性を良好としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明は上記の手段に記載するように、ココ椰子の実の外皮の短繊維をほぐした状態とした素材からなる芯材の充填材を透水性でフィルター効果の良好な黄麻繊維の織布または不織布の外被材中に内在させてファイバードレーンに形成したことで、埋立造成地の粘土層に含有される水を抜いて軟弱地盤を安定化するに当たり、ファイバードレーンを軟弱地盤の粘土層中に垂直挿入して周囲の含有水をファイバードレーンの繊維間に形成される毛管作用の透水により上方から水を抜く際、含有水の抜水に伴う粘土層の地盤の沈下に連れて軟弱地盤に挿着したファイバードレーンの長さが自動的に短縮されて行き、従来のPVDのように折れ曲がって透水性能を劣化することを防止し、軟弱地盤の含有水を早期に抜いて地盤沈下を促進して地盤を安定化させることができ、さらにファイバードレーンの外被材を2重構造としたことでファイバードレーンの引っ張り強度を向上させて軟弱地盤への挿着性能を高め、さらに外被材のフィルター効果を向上させて充填材の芯材の透水性能の劣化を長期にわたり防ぐなど、本願の発明はファイバードレーンとして従来にない優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本願の発明を実施するための最良の形態について、以下に図面を参照して説明する。本発明の手段のファイバードレーン材1は外被材2が透水性を有する黄麻繊維の織布または不織布からなり、充填材3の芯材がココ椰子の実の殻の外皮短繊維からなる。これらの充填材3の芯材のココ椰子の実の殻の外皮短繊維はほぐされたた状態で黄麻繊維の織布または不織布からなる透水性の外被材2中に装着されている。これらの外被材2と外被材2中に装着されている充填材3の芯材は外被材2の複数の箇所から綿糸などの天然繊維の糸5により縫い止めされて一体化され、長尺材のファイバードレーン材1とされている。この場合、ファイバードレーン材1の長尺材の大きさは、図1に示すように、長尺の外被材2を二つ折りにしてその側端部4を長手方向に天然繊維の糸5で結束して筒体とし、その中に充填材3の芯材が装着されている。この様にして形成されたファイバードレーン材1である長尺材は、その厚さが9.0mm±1.5mmで、幅が90.0mm±15.0mmである断面長方形のベルト状の外形に形成されている。このファイバードレーン材1の長尺材の長さはファイバードレーン材1を適用する軟弱地盤の深さに依存している。
【0020】
他の実施の形態では、本発明のファイバードレーン材1の断面形状は、図2に示すように、黄麻繊維の織布または不織布からなる外被材2を2枚重ねとしたものである。この様に外被材2を2枚重ねとすることで、そのフィルター性能を一層向上させて軟弱地盤から微細な土壌粒子が内部の充填材3であるココ椰子の実の繊維の芯材中に浸入して目詰まりを生じて充填材3の芯材の透水性能を阻害しないものとしている。
【0021】
さらに、充填材3の芯材のココ椰子の実の外皮の繊維は短繊維であるので、ファイバードレーン材1の長さ分の連続した長さを有する繊維間で形成される毛細状の間隙の透水性をより一層に向上させるために、充填材3である芯材の短繊維を長さ方向に整直するとともに、短繊維を順次に互いにずらして配列する。この様に短繊維をずらして配列することで、軟弱地盤の排水に伴う圧密沈下に連れて長尺材であるファイバードレーン材1の長さが容易に短縮して行けるので、ファイバードレーン材1が従来のPVDのように軟弱地盤中でキンク(ジグザグ状の折れ曲がり)を生じて折れ曲がって透水性を劣化したり、座屈して破断することがない。
【0022】
本発明のファイバードレーン材1の充填材3のココ椰子の実の外皮の短繊維からなる芯材の引っ張り強度は、繊維1本当たり5kN以上で、この充填材3の芯材の透水係数は図3に示すように、側圧50kN/m2で1×100cm/s程度であり、側圧200kN/m2で2.5×10-1cm/s程度である。これに対して、従来の、例えば2枚重ねの黄麻繊維の織布または不織布からなる外被材2の筒状体の中に芯材としてロープ状に撚り合わせた4本を内在させたファイバードレーン材の透水係数は、図4に示すように側圧50kN/m2で1×10-1cm/s程度、側圧200kN/m2で1×10-2cm/s程度であり、これに比して、上記の本発明のファイバードレーン材1の透水係数は平均的に約10倍以上も大きくなっている。なお、図3は本発明のファイバードレーン材1の、図4は従来のロープ状の4本の芯材を有するファイバードレーン材のセル圧(上載圧)と透水係数の関係を示したグラフであり、縦軸は透水係数k(cm/s)で、横軸は粘土層のセル圧(上載圧)(kN/m2)である。なお、これらのグラフにおけるiの値は動水勾配を示している。
【0023】
本発明のファイバードレーン材1は周知の打設機で軟弱地盤にアンカーをセットした後、軟弱地盤中に垂直にファイバードレーン材1をねじれを防ぎながら打設し、軟弱地盤にファイバードレーン材の上端を突出させる。さらに軟弱地盤の上に例えば上記の特許文献3あるいは特許文献4の水平ドレーン材を配設し、それに垂直で打設した本発明のファイバードレーン材1の突出上端を連設して、軟弱地盤の粘土層中の間隙水を上方に透水し、さらにその透水を水平ドレーン材で水平方向に排水可能な状態とする。これらの工事が完了すると、さらにそれらの軟弱地盤の上に盛土を載荷し水抜き準備の工事を終了する。
【0024】
本発明における充填材である芯材にはココ椰子の実の外皮の短繊維を当てているが、この充填材にはココ椰子の実の外皮の短繊維の外にも、植物の天然繊維で外被材と同様の年数で腐敗分解するものであれば、黄麻、大麻、棕櫚やその他の植物の繊維であれば使用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の1重の外被材を有するファイバードレーン材の断面を示す模式図である。
【図2】本発明の2重の外被材を有するファイバードレーン材の断面を示す模式図である。
【図3】本発明のファイバードレーン材の透水係数を示すグラフである。
【図4】従来のファイバードレーン材(芯材4本)の透水係数を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
1 ファイバードレーン材
2 外被材
3 充填材
4 側端部
5 天然繊維からなる糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黄麻繊維の織布または不織布からなる透水性を有する外被材と、この外被材中に内在するほぐされた状態のココナッツ繊維の芯材の充填材からなり、これらの外被材と芯材の充填材を外被材の複数の箇所で縫い止め一体化して形成した長尺材からなることを特徴とする軟弱地盤の透水用の縦型ファイバードレーン材。
【請求項2】
ほぐされた状態のココナッツ繊維の芯材の充填材は、ココナッツ繊維の繊維方向をずらして整直状に重ねて長尺化して黄麻繊維の織布または不織布からなる外被材中に一体化されていることを特徴とする請求項1に記載の軟弱地盤の透水用の縦型ファイバードレーン材。
【請求項3】
黄麻繊維の織布または不織布からなる外被材は二重の織布または不織布からなることを特徴とする請求項1または2に記載の軟弱地盤の透水用の縦型ファイバードレーン材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−163720(P2008−163720A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510(P2007−510)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【出願人】(596048020)株式会社アマノ (1)
【出願人】(393003505)復建調査設計株式会社 (13)
【出願人】(596161145)株式会社 網干壽夫研究所 (1)
【Fターム(参考)】