説明

培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により生きている食中毒細菌及び衛生指標細菌群を迅速かつ特異的に計数するための遺伝子プローブ及びその方法(ウエルシュ菌)

【課題】エロモナス属細菌、リステリア菌(Listeria monocytogenes)、ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)、腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、病原性大腸菌等の食中毒細菌について、より迅速で、確実な生菌の同定検出、及び又は計数方法の確立を課題とする。
【解決手段】これら食中毒菌それぞれに特異的なプローブを新規に開発した。更にこれらプローブに蛍光物質等で標識を行った後、検出対象細菌種および非検出細菌種を培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法を用いて特異性判定を行うことができることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、食中毒細菌及び衛生指標細菌群の迅速な検出及び計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エロモナス属菌群は淡水環境の常在細菌であるが、Aeromonas hydrophilaなどヒトに下痢あるいは創傷感染する菌種を含む。また、A. salmonicidaなど、増養殖魚類に疾病を引き起こす菌種も知られている。エロモナス属菌群の検査は、選択性の無い培地を用いて、菌株を分離した後、約10項目に及ぶ表現形質を調べることで、初めて可能になる。エロモナスと同定できるまでは、数週間から一ヶ月を要する。なお、エロモナス属細菌を選択する培地は8種類程度知られているが、いずれもエロモナス属細菌に対する選択性は充分とはいえない。
【0003】
リステリア症は、Listeria monocytogenes(リステリア菌)の感染によってヒトでは敗血症、髄膜炎、脳炎、流産などを主症状とする致命率の高い急性の細菌性疾患である。リステリア菌は、グラム陽性の通性嫌気性の無芽胞短桿菌で、本菌は低温、食塩に対して抵抗性が強く、4℃でも発育する特性を保有する。1980年代になって食品を介した経口感染が明らかにされて以来、腸管出血性大腸菌O157と共に、食品衛生上、最も重要な食中毒原因菌のひとつと認知されている。従来、リステリア菌の存在は、各種選択増菌培地で30℃、2日間培養後、選択分離培地で30〜37℃で2日間培養し、疑わしい集落をさらに性状試験で同定するものであり、属レベルでの分離・検出に少なくとも4日間、種レベルでの同定に当たっては何日も掛けなければならないものであった。
【0004】
ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)は、グラム陽性、偏性嫌気性の桿菌で芽胞を形成する細菌である。本菌がヒトに感染した場合、菌が産生する毒素(主としてA型毒素)により、下痢と腹痛を主症状とする食中毒を発症する。我が国では、比較的本菌による食中毒の発生件数は少ないが、食中毒事故1件当たりの患者数は非常に多く、大規模集団発生を起こすことが特徴である。従来、ウエルシュ菌の存在は、試料の10倍乳剤を調製し、選択培地に塗布し、37〜46℃で24時間程度培養し、疑わしい集落を純粋分離後、性状試験で同定するものであり、分離・同定に数週間を要する。
【0005】
ビブリオ細菌は海洋環境、特に海洋動物消化管内の常在細菌であるが、コレラ菌(Vibrio cholerae)、腸炎ビブリオ(V. parahaemolyticus)、V. vulnificusなどのヒト病原性菌種も含む。この内、腸炎ビブリオは、海産物を生食する習慣を持つ日本で、大きな危害をもたらす食中毒細菌である。この細菌は、シラスを起因とする集団食中毒の原因細菌として、1950年に日本で分離された。1980年代後半までは、毎年5,000〜15,000人の腸炎ビブリオを原因とする食中毒患者が記録されている。現在では、腸炎ビブリオによる食中毒対策が浸透し、本食中毒による患者数は減少傾向にある。しかし、夏場の海産物の主たる食中毒原因は、ほとんどが腸炎ビブリオ食中毒であり、年間患者数は2,000〜3,000人を数える。
【0006】
腸炎ビブリオ食中毒の制圧には、海産物およびその他食品中の腸炎ビブリオ汚染を早期に知ることが重要である。今なお、腸炎ビブリオ汚染を簡単かつ早く検査できる手法が開発され続けている。公定法による腸炎ビブリオの検出同定手法は、アルカリペプトン水あるいは食塩ポリミキシンブイヨンで37℃、18時間増菌培養後、その培養液をTCBSなどのビブリオ用選択培地を用いて検出する培養検査法である。この方法では、腸炎ビブリオの確定検査を終了するまでには、純培養株を得た後、少なくとも20項目の生化学的性状検査を行わなければならず、確定検査終了までには、数週間を要する。
【0007】
食中毒原因究明のための検査には、迅速性が求められるため、この公定法よりも簡便で迅速な培養計数法が考案されており、腸炎ビブリオ固有の糖分解特異性を利用したクロモビブリオ培地による培養検出・計数法(非特許文献2:Hara-Kudo et al. 2001)がその一例となる。この方法では、ポリミキシンブイヨンでの増菌培養液を、クロモビブリオ培地で35〜37℃で20時間培養する。クロモビブリオ培地で紫色のコロニーを形成するものが、腸炎ビブリオと同定される。また、食中毒を起こす腸炎ビブリオは、耐熱性溶血毒を産生する、「神奈川現象陽性株」である。環境から分離される、腸炎ビブリオ病原性株の検出には、特異的な毒素遺伝子を増幅検出する方法が必要となる。
【0008】
病原性大腸菌は、下痢を引き起こす病原性を獲得した大腸菌である。日本における食中毒発生原因の4位である。病原性大腸菌は、病原性大腸菌(EPEC: Enteropathogenic E. coli)、細胞侵入性大腸菌(EIEC: Enteroinvasive E. coli)、毒素原生大腸菌(ETEC: Enterotoxigenic E. coli)、腸管出血性大腸菌(EHEC: Enterohemorrhagic E. coli) および腸管凝集性大腸菌(Enteroagregative E. coli: EAggEC)に分けられる。特に、大阪堺での給食を原因とした集団食中毒は、O157:H7という血清型を有する、EHECによるものである。これら病原性大腸菌は、ヒトの腸内に生息する大腸菌と区別が難しく、迅速で特異的な検査体制が重要である。病原性大腸菌の検査は、通常の大腸菌の分離法と同様であり、DHL培地やマッコンキー培地で選択培養後、性状検査および血清型を確定し、同定を行う。また、ETECおよびEHECについては、毒素型別を行う。各群の病原性大腸菌を選択的に分離できる培養法はない。同定にいたるまでには数日を要する。
【0009】
サルモネラ菌は、日本における食中毒発生原因の常に上位を占める細菌であり、ヒトと動物を循環し、食品、水を介してヒトに感染する。サルモネラの保菌率は、ニワトリやブタが高い。急性胃腸炎または下痢患者の診断と治療を目的とする場合には、サルモネラ菌の分離は、Triple sugar Iron (TSI)培地などで、サルモネラ菌特有の集落を分離、生化学的性状検査と血清型別により同定を行う。また、行政または管理のための検査では、検体のサルモネラ菌数が少ないため、セレナイトシスチン培地などを用いて増菌後、MLCB培地やブリリアントグリーン寒天培地などの選択培地を用いて分離し、性状検査や血清反応により同定する。同定にいたるまでには数日を要する。
【0010】
最近では、微生物の同定に、微生物に特異的な遺伝子配列に対するプローブ又はプライマーを用いる検出方法が使用されるようになってきている。例えば、エロモナス・サルモニシダについては、特許文献1にプライマー/プローブが記載されている。
【0011】
また、rRNAは、細胞あたり104個も存在することから、プローブの感度を格段に上げられ、更に、生物種間で保存領域と可変領域が存在することから、この可変領域から、生物の分類群に特異的な配列が見出されてきている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平08-266286
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Biotechnology Vol.8, pp.233-236
【非特許文献2】Hara-Kudo et al. Appl. Environ. Microbiol. 67: 5819-5823 (2001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の公定法とされる食品衛生検査指針に従った食中毒原因菌の検出・同定法では生菌数測定の最終結果を得るまでに、早いものでも2日間を要する。また菌株によっては一週間以上かかるものもあり、製品の出荷時に評価できるデータの提供ができなかった。
【0015】
また、例えば、エロモナス属に属する細菌(エロモナス属細菌と略す)の中には、大腸菌群に極めて類似する特徴を示す菌種が知られており、大腸菌群の中からエロモナス属細菌を見極める迅速な技術の開発が望まれている(Journal of Applied Microbiology. Vol93.60-68)。さらに、エロモナス属に属する細菌を包括的に検出、計測する技術が望まれており、PCR法では迅速な菌検出ができるが、死菌と生菌の区別ができない問題がある。特に、食品加工分野で重要な、生きた菌を計測する技術の開発が望まれていた。
【0016】
さらに、リステリア菌(Listeria monocytogenes)およびウエルシュ菌(Clostridium perfringens)についても、より迅速で、確実な生菌の同定検出、及び又は計数方法の確立が望まれていた。特にウエルシュ菌では、食品中では、芽胞(休眠細胞)の形で存在するため、FISH(fluorescence in situ hybridization)での検査には適していなかった。
【0017】
また、上述したように、従来からの、腸炎ビブリオの検出・同定法では生菌数測定に時間がかかり、他方、rRNAを用いる方法も、腸炎ビブリオの小サブユニットrRNA遺伝子は、類縁のビブリオ菌種と塩基配列が似ているため、腸炎ビブリオを特異検出する蛍光オリゴヌクレオチドプローブの開発は困難とされてきた。
【0018】
更にサルモネラ菌及び病原性大腸菌についても、生菌を十分な短時間で、検出・同定する方法は、知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、まず(1)遺伝子データベースから検出対象細菌及び近縁の他の細菌群のリボソーマルRNA遺伝子の配列情報を集め、他の細菌群と区別が可能な遺伝子配列を探し出し特異遺伝子配列を決定した。なお、前記特異的遺伝子配列で表される核酸分子をプローブと呼ぶ。更に、(2)プローブに蛍光物質等で標識を行った後、検出対象細菌種および非検出細菌種を培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法を用いて特異性判定を行うことができることを見出した。
【0020】
更に、本願出願は以下の発明にも関連する。
(1) 配列番号1又は配列番号2で示される塩基配列中、連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含むエロモナス属菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するためのプローブ。
(2) 配列番号3で示される塩基配列中連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含むリステリア属菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するためのプローブ。
(3) 配列番号4で示される塩基配列中連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含むウエルシュ菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するためのプローブ。
(4) 配列番号1又は配列番号2からなる塩基配列又はその相補配列からなる核酸に標識を付したエロモナス属菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するための前記(1)記載のプローブ。
(5) 配列番号3で示される塩基配列又はその相補配列からなる核酸に標識を付したリステリア属菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するための前記(2)記載のプローブ。
【0021】
(6) 配列番号4で示される塩基配列又はその相補配列からなる核酸に標識を付したウエルシュ菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するための前記(3)記載のプローブ。
(7) 微生物試料を培養し微小コロニーを形成させ、前記(1)記載のエロモナス属に属する細菌に特異的なプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーション法により、エロモナス属に属する細菌を検出及び/又は計数する方法。
(8) 試料微生物を塩濃度が0.15%以下の培地で培養する前記(7)記載の方法。
(9) 微生物試料を培養し細菌の微小コロニーを形成させ、前記(2)記載のリステリア属に属する細菌に特異的なプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーション法により、リステリア属に属する細菌を検出及び/又は計数する方法。
(10) 微生物試料をポリミキシンB、アクリフラビン塩酸塩及びセフタジジムから選択される1種以上の抗生物質を添加した培地で培養する前記(9)記載の方法。
【0022】
(11) ハイブリダイゼーション条件が、ハイブリダイゼーション温度が46℃から60℃で、ホルムアミド濃度が46℃で20%〜35%、60℃で10%〜15%である範囲内とする、前記(9)記載の方法。
(12) 微生物試料を培養し微小コロニーを形成させ、前記(3)記載のウエルシュ菌に特異的なプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーション法により、ウエルシュ菌を検出及び/又は計数する方法。
(13) 微生物試料を70〜80℃で10〜30分間培養した後、40から50℃で嫌気培養する前記(12)記載の方法。
(14) ハイブリダイゼーション条件が、ハイブリダイゼーション温度が46℃から60℃で、ホルムアミド濃度が46℃で20%〜35%、60℃で0%〜15%である範囲内とする、前記(12)記載の方法。
(15) 前記(1)記載のプローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、エロモナス属に属する細菌を検出及び/又は計数するためのキット。
【0023】
(16) 前記(2)記載のプローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、リステリア属に属する細菌を検出及び/又は計数するためのキット。
(17) 前記(3)記載のプローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、ウエルシュ菌を検出及び/又は計数するためのキット。
(18) 配列番号5、配列番号6又は配列番号7で示される塩基配列中、連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含む腸炎ビブリオ菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するためのプローブ。
(19) 配列番号8で示される塩基配列中連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含むサルモネラ菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するためのプローブ。
(20) 配列番号9で示される塩基配列中連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含む病原性大腸菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するためのプローブ。
【0024】
(21) 配列番号5、配列番号6又は配列番号7からなる塩基配列又はその相補配列からなる核酸に標識を付した腸炎ビブリオ菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するための前記(18)記載のプローブ。
(22) 配列番号8で示される塩基配列又はその相補配列からなる核酸に標識を付したサルモネラ菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するための前記(19)記載のプローブ。
(23) 配列番号9で示される塩基配列又はその相補配列からなる核酸に標識を付した病原性大腸菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するための前記(20)記載のプローブ。
(24) 微生物試料を培養し微小コロニーを形成させ、前記(18)記載の腸炎ビブリオに属する細菌に特異的なプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーション法により、腸炎ビブリオ属に属する細菌を検出及び/又は計数する方法。
(25) 試料微生物を塩濃度が1%以上の培地で37〜43℃で4〜10時間培養する前記(24)記載の方法。
【0025】
(26) 微生物試料を培養し細菌の微小コロニーを形成させ、前記(19)記載のサルモネラ菌に属する細菌に特異的なプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーション法により、サルモネラ菌に属する細菌を検出及び/又は計数する方法。
(27) 微生物試料を30〜43℃で4〜10時間培養する前記(26)記載の方法。
(28) ハイブリダイゼーション条件が、ハイブリダイゼーション温度が46℃で、ホルムアミド濃度が25〜40%及び60℃でホルムアミド濃度が20%である範囲内とする、前記(26)記載の方法。
(29) 微生物試料を培養し微小コロニーを形成させ、前記(20)記載の病原性大腸菌に特異的なプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーション法により、病原性大腸菌を検出及び/又は計数する方法。
(30) 微生物試料を30〜44℃で4〜8時間培養する前記(29)記載の方法。
【0026】
(31) ハイブリダイゼーション条件が、ハイブリダイゼーション温度が46℃で10%〜40%及び60℃でホルムアミド濃度が20%である範囲内とする、前記(29)記載の方法。
(32) 前記(18)記載のプローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、腸炎ビブリオに属する細菌を検出及び/又は計数するためのキット。
(33) 前記(19)記載のプローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、サルモネラ菌を検出及び/又は計数するためのキット。
(34) 前記(20)記載のプローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、病原性大腸菌を検出及び/又は計数するためのキット。
(35) 微生物試料を培養し微小コロニーを形成させ、配列番号5で表される核酸に標識を付した腸炎ビブリオ菌プローブ、配列番号6で表される核酸に標識を付した腸炎ビブリオ菌プローブ及びは配列番号7で表される核酸に標識を付した腸炎ビブリオ菌プローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーション法により、腸炎ビブリオ属に属する細菌を検出及び/又は計数する方法。
【0027】
(36) 微生物試料を培養し微小コロニーを形成させ、前記(1),(2),(3)、(18),(19)又は(20)いずれか記載の食中毒細菌に特異的なプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーション法により、食中毒細菌を検出及び/又は計数する方法。
【発明の効果】
【0028】
本願発明の方法により、食中毒原因菌の検出・同定法では生菌数測定の最終結果を得るまで10時間以内で終わらせることも可能であり、きわめて優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】培養条件を特異的にした時のAER-mrr の特異性を示す。
【図2】プローブLIS-1400の特異性を示す蛍光写真。
【図3】プローブCLP-180の特異性を示す蛍光写真。
【図4】3種類のプローブを用いることにより、腸炎ビブリオを特異検出できることを示す図。
【図5】腸炎ビブリオの微小集落の大きさの経時変化 (ZoBell培地、37℃)。
【図6】腸炎ビブリオの微小集落の大きさの経時変化 (ZoBell培地、40℃)。
【図7】サルモネラの微小集落の大きさの経時変化(標準寒天培地、37℃)。
【図8】病原性大腸菌の微小集落の大きさの経時変化 (標準寒天培地、37℃)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、短時間培養で生じた微小な細菌集落の中から、食中毒細菌あるいは衛生指標細菌を特異的に検出することを可能にする一連の方法である。培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法では、検査対象細菌の持つ遺伝子(DNA 又は RNA)の特定塩基配列に相補的に結合するオリゴヌクレオチドを調製すれば、様々な食中毒細菌や衛生指標細菌の検出・計数に応用ができる。本発明者らは、新しい遺伝子プローブ、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法で検査対象細菌を特異的に検出する反応条件及び微小集落至適形成条件を初めて決定した。
【0031】
1.培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法
1−1.培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法の特徴/利点
従来からの蛍光ラベルしたプローブを用いるインサイチューハイブリダイゼーション法では、次のような問題点があった。(1)特に食品を汚染する微生物の同定検出のためには、蛍光標識プローブでは、微生物が増殖した段階、すなわち汚染が相当に進まないと検出できない。(2)食品汚染においては、特に生菌数が問題となるところ、プローブは死菌に対してもハイブリダイズしてしまうので、生菌と死菌との区別がつかなかった。
【0032】
これに対し、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法では、十分に希釈された試料を1〜10時間程度培養することにより、生菌のみを増殖させ、微小なコロニー状とすることにより、通常の蛍光顕微鏡下で、コロニーを観測、計数することができるようになったものである。(3)更に、通常のインサイチューハイブリダイゼーション法では、誤って陽性と判別される混入菌を、培養併用することで、培養条件を調節して、擬陽性を除くこともできる。
【0033】
1−2.培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法の概要
(1)試料の固着、例えば、メンブレンフィルター上への試料の捕集
食品、環境等から分離された試料を捕集する試料捕集体、例えば、ポリカーボネート製やセルロースアセテート製フィルター上へ吸引することにより捕集させられる。フィルターとしては、例えば、ヌクレオポアフィルター、アイソポアフィルター、マイレクスフィルターを用いることができ、好適には、例えば0.4μmの孔径のフィルターアイソポアメンブレンフィルターを用いることができる。
【0034】
(2)試料の培養 マイクロコロニーの形成
試料が付着した試料捕集体、例えば、メンブレンフィルターは、培地の入ったペトリ皿に移される。37℃で、マイクロイコロニーが形成さえるまで、例えば、1〜10時間、好適には4〜8時間、例えば、6時間培養される。
【0035】
(3)蛍光標識を用いた場合の細菌の検出及び細菌数計測の概要
(イ) エタノールなどでスライドグラス又はフィルター上の細胞が固定される。フィルターはスライドガラスに固定される。
(ロ)エタノール浸漬又はオーブン等で乾燥される。
(ハ)ハイブリダイゼーション用バッファーにスライドガラスごとフィルターは浸漬されハイブリダイゼーション温度でインキュベートする。
(ニ)オリゴヌクレオチドプローブが添加され、インキュベーションを継続する。
(ホ)試料の載せられたフィルター又はスライドガラスを洗浄し、空気乾燥される。
(ヘ)蛍光顕微鏡で観察する。通常X10〜X1000で観察できる。
【0036】
1−3.本件発明のプローブの調製
16S rRNA及び23S rRNAを同定、検出及び/又は計数用のプローブの対象遺伝子として用いた。
1−3−1 エロモナス属細菌検出用プローブ
具体的には、(1)エロモナス属に属する種及びこれに近縁の系統の細菌、具体的には、Alcaligenes, Vibrio, Shewanella, Brenneria, Pseudoalteromonas,および腸内細菌科に属する菌の16S rRNAの塩基配列を収集し、エロモナス属に共通である塩基配列であって、しかも近縁の系統の細菌、具体的にはAlcaligenes, Vibrio, Shewanella, Brenneria, Pseudoalteromonas,および腸内細菌科に属する菌とはミスマッチする約20塩基の塩基配列を検索する。(2)検索により、エロモナス属細菌に共通な塩基配列とマルチプルアライメントに用いた上記各菌種の16S rRNAの同領域の塩基配列を比較し、エロモナス属以外の菌種に対しては比較的ミスマッチ数が大きく、エロモナス菌種に対してはミスマッチの少ないものを、エロモナス属細菌特異的プローブ候補として選択した。この操作は、on-line probemer(http://probemer.cs.loyola.edu/)で検証することが可能である。(3)つぎに、実際に、エロモナス属細菌プローブ候補を用いてエロモナス属細菌及び非エロモナス属をFISH法によりアッセイした。その結果エロモナス属細菌試料のほとんどから蛍光が検出され、またプローブを加えないFISHでは蛍光が認められないプローブをエアロモナス属検出用プローブとすることができる。
【0037】
その配列は、GCAAGCTACTTTCCCGCTGCCGCT(配列番号1:プローブ名AER-mrf)(24塩基)およびGCTAGCTTGCAGCCCTCTGTACGC (配列番号2:プローブ名AER-mmr)(24塩基)あるいは、両者ともその近辺の配列を含むものである。なお、これらの配列の相補配列をプローブに用いることができる。GCAAGCTACTTTCCCGCTGCCGCT(配列番号1:プローブ名AER-mrf)(24塩基)およびGCTAGCTTGCAGCCCTCTGTACGC (配列番号2:プローブ名AER-mmr)(24塩基)を用いるほうがより好適である。
【0038】
1−3−2 リステリア菌(Listeria monocytogenes)
リステリア属に属する種のプローブは、23S rRNA遺伝子配列を元に設計した。
具体的には、(1)リステリア属に属する種及び近縁の系統の細菌、具体的にはBacillus, Staphylococcus, Enterococcus, Brochothrix, 及びLactobacillusに属する菌の23S rRNAの塩基配列を収集し、リステリア属に共通である塩基配列であって、しかもこれら近縁の系統の細菌とはミスマッチする約20塩基の塩基配列を検索する。(2)検索により、リステリア属細菌に共通な塩基配列とマルチプルアライメントに用いた上記各菌種の23S rRNAの同領域の塩基配列を比較し、リステリア属以外の菌種に対しては比較的ミスマッチ数が大きく、リステリア属菌種に対してはミスマッチの少ないものを、リステリア属細菌特異的プローブ候補として選択した。(3)つぎに、実際に、リステリア属細菌プローブ候補を用いてリステリア属細菌及び非リステリア属をFISH法によりアッセイした。その結果リステリア属細菌試料のほとんどから蛍光が検出され、またプローブを加えないFISHでは蛍光が認められないプローブをリステリア属検出用プローブとすることができる。
【0039】
好適には、プローブ用の配列は、CGC ACA TTT CCA TTC GTG CGA TTC C(配列番号3:プローブ名LIS1400) (25塩基)あるいはその近辺の配列を含むものである。これらの配列の相補配列もプローブに用いることが可能ではある。CGC ACA TTT CCA TTC GTG CGA TTC C(配列番号3:プローブ名LIS1400) (25塩基)をプローブに用いることが、より好適である。
【0040】
1−3−3 ウエルシュ菌(Clostridium perfringens)
エロモナス属に属する菌と基本的には同様に行った。
具体的には、(1)ウエルシュ菌及び近縁のClostridum, Bacillus,及びDesulfotomaculum属に属する菌の16S rRNAの塩基配列を収集し、ウエルシュ菌に共通である塩基配列であって、しかも近縁のClostridium,Bacillus,及びDesulfotomaculum属に属する菌とはミスマッチする約20塩基の塩基配列を検索する。(2)検索により、ウエルシュ菌に共通な塩基配列とマルチプルアライメントに用いた上記各菌種の16S rRNAの同領域の塩基配列を比較し、ウエルシュ菌以外の菌種に対しては比較的ミスマッチ数が大きく、ウエルシュ菌種に対してはミスマッチの少ないものを、ウエルシュ菌特異的プローブ候補として選択した。この操作は、on-line probemer(http://probemer.cs.loyola.edu/)で検証することが可能である。(3)つぎに、実際に、ウエルシュ菌プローブ候補を用いてウエルシュ菌及び非ウエルシュ菌をFISH法によりアッセイした。その結果ウエルシュ菌試料のみから蛍光が検出され、またプローブを加えないFISHでは蛍光が認められないプローブをウエルシュ菌検出用プローブとすることができる。
【0041】
具体的には、AAT GAT GAT GCC ATC TTT CAA CA(配列番号4:プローブ名CLP180)(23塩基)あるいはその近辺の配列を含むものを挙げることができる。これらの配列の相補配列も用いることが可能ではある。AAT GAT GAT GCC ATC TTT CAA CA(配列番号4:プローブ名CLP180)(23塩基)を用いることが好適である。
【0042】
1−3−4 腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)
エロモナス属に属する菌と基本的には同様に行った。
具体的には、(1)腸炎ビブリオに近縁の系統の細菌、具体的には、Vibrio, Shewanella, およびPhotobacteriumに属する菌の16S rRNAの塩基配列を収集し、腸炎ビブリオに共通である塩基配列であって、しかも近縁の系統の細菌、具体的にはVibrio campbellii, V. rotiferianus, V. harveyi, V. natriegenes, V. proteolyticus, V. alginolyticus, V. scophthalmi, V. tubiashii, V. furnissii, V. fluvialis, V. orientalis, V. coralliilyticus, V. ichthyoenteri および V. aestuarianusなどのVibiro属菌種とはミスマッチする約20-30塩基の塩基配列を検索する。(2)検索により、腸炎ビブリオに共通な塩基配列とマルチプルアライメントに用いた上記各菌種の16S rRNAの同領域の塩基配列を比較し、腸炎ビブリオ以外の菌種に対しては比較的ミスマッチ数が大きく、腸炎ビブリオに対してはミスマッチの少ないものを、腸炎ビブリオ特異的プローブ候補として選択した。この操作は、on-line probemer(http://probemer.cs.loyola.edu/)で検証することが可能である。(3)つぎに、実際に、腸炎ビブリオプローブ候補を用いて腸炎ビブリオ及び非腸炎ビブリオをFISH法によりアッセイした。その腸炎ビブリオ菌株試料のほとんどから蛍光が検出され、またプローブを加えないFISHでは蛍光が認められないプローブを腸炎ビブリオ検出用プローブとすることができる。
【0043】
具体的には、(イ) actacactac cttcctcacg actgaaa (配列番号5、プローブ名 Vpa437 probe)(27塩基)あるいはその近辺の配列を含むもの、(ロ)tgcaattccg aggttgagcc ccgg (配列番号6 プローブ名 Vpa612)(24塩基) あるいはその近辺の配列を含むもの 、又は(ハ)cactttcgca agttggctgc cc(配列番号7 プローブ名 Vpa1255 probe )(22塩基)あるいはその近辺の配列を含むものを挙げることができる。これらの配列の相補配列も用いることが可能ではあるが、actacactac cttcctcacg actgaaa (配列番号5、プローブ名 Vpa437 probe)(27塩基)、tgcaattccg aggttgagcc ccgg (配列番号6 プローブ名 Vpa612)(24塩基)、及びcactttcgca agttggctgc cc(配列番号7 プローブ名 Vpa1255 probe )(22塩基)が好適である。
【0044】
1−3−5 サルモネラ菌(Salmonella enterica)
エロモナス属に属する菌と基本的には同様に行った。
具体的には、(1)サルモネラ菌に近縁の系統の細菌、具体的には、Salmonella, Enterobacter, Citrobacter, Pantoea およびKluyveraに属する菌の16S rRNAの塩基配列を収集し、サルモネラ菌に共通である塩基配列であって、しかも近縁の系統の細菌、具体的にはSalmonella bongori, Enterobacter sakazaki, Citorbacer koseri, Pantoea agglomeransなどの菌種とはミスマッチする約20〜30塩基の塩基配列を検索する。(2)検索により、サルモネラに共通な塩基配列とマルチプルアライメントに用いた上記各菌種の16S rRNAの同領域の塩基配列を比較し、サルモネラ以外の菌種に対しては比較的ミスマッチ数が大きく、サルモネラに対してはミスマッチの少ないものを、サルモネラ特異的プローブ候補として選択した。この操作は、on-line probemer(http://probemer.cs.loyola.edu/)で検証することが可能である。(3)つぎに、実際に、サルモネラプローブ候補を用いてサルモネラ及び非サルモネラをFISH法によりアッセイした。そのサルモネラ試料のほとんどから蛍光が検出され、またプローブを加えないFISHでは蛍光が認められないプローブをサルモネラ検出用プローブとすることができる。
【0045】
具体的には、gctgcggtta ttaaccacaa caccccttc(配列番号8 プローブ名Sal453 )(29塩基)あるいはその近辺の配列を含むものを挙げることができる。これらの配列の相補配列も用いることが可能ではあるが、gctgcggtta ttaaccacaa caccccttc(配列番号8 プローブ名Sal453 )(29塩基)が好適である。
【0046】
1−3−6 病原性大腸菌(Enteropathogenic Escherichia coli)
エロモナス属に属する菌と基本的には同様に行った。
具体的には、(1)病原性大腸菌に近縁の系統の細菌、具体的には、Escherichia, Salmonella, Enterobacter, Citrobacter, Pantoea およびKluyveraに属する菌の16S rRNAの塩基配列を収集し、病原性大腸菌に共通である塩基配列であって、しかも近縁の系統の細菌、具体的にはEnterobacter sakazaki, Citorbacer koseri, Pantoea agglomeransなどの菌種とはミスマッチする約20-30塩基の塩基配列を検索する。(2)検索により、病原性大腸菌に共通な塩基配列とマルチプルアライメントに用いた上記各菌種の16S rRNAの同領域の塩基配列を比較し、病原性大腸菌以外の菌種に対しては比較的ミスマッチ数が大きく、病原性大腸菌に対してはミスマッチの少ないものを、病原性大腸菌特異的プローブ候補として選択した。この操作は、on-line probemer(http://probemer.cs.loyola.edu/)で検証することが可能である。(3)つぎに、実際に、病原性大腸菌プローブ候補を用いて病原性大腸菌及び非病原性大腸菌をFISH法によりアッセイした。その病原性大腸菌試料のほとんどから蛍光が検出され、またプローブを加えないFISHでは蛍光が認められないプローブをサルモネラ検出用プローブとすることができる。
【0047】
具体的には、gaagcaagct tcttcctgtt accg (配列番号9 プローブ名Eco67 )(24塩基)あるいはその近辺の配列を含むものを挙げることができる。これらの配列の相補配列も用いることが可能ではあるが、gaagcaagct tcttcctgtt accg (配列番号9 プローブ名Eco67 )(24塩基)が好適である。
【0048】
1−4.本件発明のプローブの標識
上記1−3で調製されたプローブは、検出可能な標識、例えば、蛍光標識、アイソトープ標識、アルカリフォスファターゼなどの酵素標識、ビオチン標識などの標識をすることができる。好適には、蛍光標識をし、具体的には、例えば、TAMRA(N,N,N’,N’-Tetramethyl-6-carboxyrhodamine)、FITC(Fluorescein isothiocyanate)又は各種Alexa Fluor(Molecular probe)で標識することができる。
【0049】
2.新規プローブを用いた培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法の確立
2−1.培養条件の検討
2−1−1 エロモナス属
エロモナス属と近縁関係にあり、特異的なプローブが擬陽性を生ずる可能性がある、ビブリオ属細菌、フォトバクテリウム属、およびシュードアルテロモナス属、およびアルテロモナス属細菌は、増殖に塩類を必要とする。他方、エロモナス属細菌は、塩類の存在無しに増殖できる。そこで、普通寒天培地で、増殖することにより、エロモナス属に対する特異性を挙げることができる。培養時間及び温度としては、例えば、1〜10時間、25℃〜36℃で培養でき、好適には、4〜8時間培養することができる。
【0050】
2−1−2 リステリア菌
リステリア モノサイトゲネスと近縁関係にあり、特異的なプローブが擬陽性を生ずる可能性がある、バチルス属、スタフィロコッカス属は、ポリミキシンB、アクリフラビン塩酸塩、セフタジジムなどの抗生物質に感受性を示す。他方、リステリア モノサイトゲネスは、ポリミキシンB、アクリフラビン塩酸塩、セフタジジムなどの抗生物質に耐性を示す。そこで、ポリミキシンB、アクリフラビン塩酸塩、セフタジジムなどの抗生物質を添加した培地、具体的にはパルカム選択培地で、増殖することにより、リステリア モノサイトゲネスに対する特異性を高めることができる。培養時間及び温度としては、例えば、1〜10時間、25℃〜36℃で培養でき、好適には、4〜8時間培養することができる。
【0051】
2−1−3 ウエルシュ菌
培養時間及び温度としては、例えば、1〜10時間、25℃〜36℃で培養でき、好適には、4〜8時間培養することができる。
なお、ウエルシュ菌は、耐熱性芽胞を形成し、46℃の高温下で、嫌気条件下で増殖が可能であるが、ウエルシュ菌と近縁関係にあり、特異的なプローブが擬陽性を生ずる可能性がある、バチルス属、スタフィロコッカス属、およびグラム陰性細菌は、ウエルシュ菌よりも強い耐熱性芽胞を形成せず、46℃で嫌気条件下で増殖する種は少ない。そこで、ウエルシュ菌の耐熱性芽胞を残存させる加熱処理、好適には75℃、20分間の処理を行った後、46℃、嫌気条件下で、好適には1時間から6時間、増殖することにより、ウエルシュ菌に対する特異性を高めることもできる。
【0052】
2−1−4 腸炎ビブリオ
ビブリオ属に属するひとつの菌種である。腸炎ビブリオは、普通寒天培地には増殖せず、2-3%の食塩添加で増殖がよい。至適増殖温度が30-37℃であり、42℃までは増殖が可能である。特異的なプローブが擬陽性を生ずる可能性がある多くのビブリオ属細菌種とは、37-42度での増殖速度が異なる。培養時間及び温度としては、例えば、1〜10時間、30℃〜42℃で培養でき、好適には、40〜43℃で、4〜10時間培養することができる。
【0053】
2−1−5 サルモネラ菌
サルモネラ菌は、腸内細菌科に属する細菌と近縁であり、特異的なプローブが擬陽性を生ずる可能性がある、大腸菌、エンテロバクター、シトロバクターとは生化学的性状と血清反応で見分けることができる。培養時間及び温度としては、例えば、1〜10時間、30℃〜43℃で培養でき、好適には、4〜8時間培養することができる。
【0054】
2−1−6 病原性大腸菌
病原性大腸菌は、ヒトや温血動物の腸内に常在する大腸菌と同一の種であり、生化学的性状で両者を見分けることは難しい。特異的なプローブが擬陽性を生ずる可能性がある大腸菌とは、血清型および毒素型の試験が必要である。また、特異的なプローブが擬陽性を生ずる可能性があるマンヘイミア属の細菌は普通栄養寒天培地で37℃で増殖が遅く、この培養条件により区別ができる。培養時間及び温度としては、例えば、1〜10時間、30℃〜44℃で培養でき、好適には、4〜8時間培養することができる。
【0055】
2−2.ハイブリダイゼーション条件の検討
それぞれのプローブについて、ハイブリダイゼーション温度及びホルムアミドの濃度を変化させ、プローブの特異性を確認した。例えば、ハイブリダイゼーション温度としては、45℃から60℃までの間の温度で、ホルムアミド濃度を20%から45%まで変化させ、目的の特異性が示されるハイブリダイゼーション条件を定めることができる。
【0056】
たとえば、エロモナス属菌特異的プローブGCAAGCTACTTTCCCGCTGCCGCT(配列番号1プローブ名AER-mrf)(24塩基)およびGCTAGCTTGCAGCCCTCTGTACGC (配列番号2プローブ名AER-mmr)(24塩基)については、以下の通りハイブリダイゼーション条件を検討した。
【0057】
AER-mrfの配列及びAER-mmrの配列と、ミスマッチが少ない16S rRNAを有する微生物をまず、データベースより抽出し、これら、微生物について、上記した、ハイブリダイゼーション条件下で、 蛍光標識したAER-mrf又はAER-mmrとハイブリダイズするかを蛍光顕微鏡で確認し、AER-mrf及びAER-mmrがエロモナス属菌にのみ又は、エロモナス属菌以外へのハイブリダイズが少なく、エロモナス属菌とは十分ハイブリダイズする条件を検討し決定した。
【0058】
AER-mrfプローブは、ホルムアミド濃度が27.5%〜45%の反応液を用い、60℃で反応させることにより、高い特異性を示した。
【0059】
AER-mrrプローブは、ホルムアミド濃度が27.5%〜45%の反応液を用い、60℃で反応させること、又はホルムアミド濃度が45%の反応液を用いて、46℃で反応させることにより、P. phosphoreum以外とは高い特異性を示した。
【0060】
同様にプローブLIS1400についても、リステリア属に属する種及び近縁の系統の細菌、具体的にはBacillus, Staphylococcus, Enterococcus, Brochothrix及びLactobacillusに属する菌にはハイブリダイズせず、リステリア属に属する種とは確実にハイブリダイズする条件として46℃でホルムアミド濃度が20〜35%、及び60℃でホルムアミドが10〜15%の条件を採用することができる。
【0061】
また、プローブCLP180についても、ウエルシュ菌については、46℃でホルムアミド濃度が20〜30%、60℃でホルムアミド濃度が0〜15%の条件を採用することができる。
【0062】
プローブVpa437についても、 ビブリオ属の近縁種、具体的にはVibrio pelagius, V. ordalii, V. gazogenes, Photobacterium damselaeにはハイブリダイズせず、腸炎ビブリオとは確実にハイブリダイズする条件として46℃でホルムアミドが10〜40%条件を採用することができる。
【0063】
プローブVpa612についても、 ビブリオ属の近縁種、具体的にはVibrio metchnikovii, V. cholerae, V. mimicus, Shewanella algaeなどにはハイブリダイズせず、腸炎ビブリオとは確実にハイブリダイズする条件として46℃でホルムアミド濃度が30〜40%条件を採用することができる。
【0064】
プローブVpa1255についても、 ビブリオ属の近縁種、具体的にはVibrio campbellii, V. rotiferianus, metchnikovii, V. vulnificus, V. proteolyticus, V. harveyiなどにはハイブリダイズせず、腸炎ビブリオとは確実にハイブリダイズする条件として46℃でホルムアミド濃度が25〜40%条件を採用することができる。
【0065】
プローブSal453についても、サルモネラ属の近縁種、具体的にはEnterobacter intermedius, Citrobacter koseri, Pantoea agglomeransなどにはハイブリダイズせず、サルモネラ菌とは確実にハイブリダイズする条件として46℃でホルムアミド濃度が10〜40%条件及び60℃でホルムアミド濃度が20%の条件を採用することができる。
【0066】
プローブEco67についても、病原性大腸菌の近縁種、具体的にはSalmonella bongori, Citrobacter koseri, Klebsiella planticola, Enterobacter sakazakii, Salmonella entericaなどにはハイブリダイズせず、病原性大腸菌とは確実にハイブリダイズする条件として、46℃でホルムアミド濃度が10〜40%条件及び60℃でホルムアミド濃度が20%の条件を採用することができる。
【0067】
各プローブがハイブリダイズする条件は、以下のハイブリダイズ固有値の範囲を用いて表すこともできる。
【0068】
ハイブリダイゼーション固有値は次の通り定義される。
[数1]
ハイブリダイズ固有値(K)(℃)=ハイブリダイゼーション温度(℃)+ 0.7(℃)Xホルムアミド濃度(%)
【0069】
AER-mrfプローブについては、ハイブリダイゼーション固有値は60(℃)+0.7(℃)X27.5以上、60(℃)+0.7(℃)X45(%)以下の範囲を採用できる。
【0070】
AER-mrrプローブについては、ハイブリダイゼーション固有値は60(℃)+0.7(℃)X27.5以上、60(℃)+0.7(℃)X45(%)以下、又は46(℃)+0.7(℃)X45(%)の範囲を採用できる。
【0071】
プローブLIS1400については、ハイブリダイゼーション固有値は60(℃)+0.7(℃)X10(%)以上、60(℃)+0.7(℃)X20(%)以下、又は46(℃)+0.7(℃)X20(%)以上、46(℃)+0.7(℃)X35(%)以下の範囲を採用できる。
【0072】
プローブCLP180については、ハイブリダイゼーション固有値は60(℃)以上60(℃)+0.7(℃)X15(%)以下、又は46(℃)+0.7(℃)X20(%)以上、46(℃)+0.7(℃)X30(%)以下の範囲を採用できる。
【0073】
Vpa437プローブについては、ハイブリダイゼーション固有値は46(℃)+0.7(℃)X10以上、46(℃)+0.7(℃)X40(%)以下の範囲を採用できる。
【0074】
Vpa612プローブについては、ハイブリダイゼーション固有値は46(℃)+0.7(℃)X30以上、46(℃)+0.7(℃)X40(%)以下の範囲を採用できる。
【0075】
Vpa1255プローブについては、ハイブリダイゼーション固有値は46(℃)+0.7(℃)X25以上、46(℃)+0.7(℃)X40(%)以下の範囲を採用できる。
【0076】
Sal453プローブについては、ハイブリダイゼーション固有値は46(℃)+0.7(℃)X10以上、46(℃)+0.7(℃)X40(%)以下の範囲、又は60(℃)+0.7(℃)X20(%)を採用できる。
【0077】
Eco67プローブについては、ハイブリダイゼーション固有値は46(℃)+0.7(℃)X10以上、46(℃)+0.7(℃)X40(%)以下の範囲、又は60(℃)+0.7(℃)X20(%)を採用できる。
【0078】
なお、上記したAER-mrfプローブ、AER-mrrプローブ、LIS1400プローブ、プローブ名CLP180、Vpa437プローブ、Vpa612プローブ、Vpa1255プローブ、Sal453プローブ、Eco67プローブいずれの条件も、ホルムアミド以外は標準的なハイブリダイゼーションバッファー(0.9M NaCl、20mM Tris-HCl、0.01% SDS、pH7.4)を用いた場合の条件であるが、上記のハイブリダイゼーションの範囲をもとに他のバッファーの条件も、当業者であれば、容易に確定することができる。
【0079】
2−3.標的細菌の検出及び細菌数の計測及びそのためのキット
培養されたフィルター等試料捕集体上の細菌を固定する。好適には、室温で、エタノールで固定する。その後フィルターは、透過性のフィルター固定支持体に載せられる。計測を蛍光顕微鏡で行う場合には、固定支持体としては、スライドガラスを用いることができるが、他の標識測定装置により計測する場合には、当該標識測定装置に取り付けでき計測可能な支持体であれば、いかなる固定支持体も用いることができる。支持体に固定されたフィルターは乾燥される。好適には、80℃,10分間乾燥機で乾燥させる。
【0080】
乾燥されたスライドグラス等の固定支持体に、ハイブリダイゼーションバッファーが与えられる。ハイブリダイゼーションバッファーとしては、例えば、0.9M NaCl、20%フォルムアミド、20mM Tris-HCl、0.01% SDS(pH7.4)からなるハイブリダイゼーション溶液を挙げることができる。ハイブリダイゼーションバッファーで、1分〜5分間のプレインキュベーション後、標識された特異的プローブ及を添加する。プローブとのハイブリダイゼーションは、5分〜1時間行うことができる。ハイブリダイゼーション後、フィルターの乗せられた固定支持体は、緩衝液で洗浄される。洗浄用の緩衝液としては、例えば、20mmol/l Tris-HCl、180mmol/l NaCl, 0.01% SDS(pH7.4)を含む洗浄液を用いることができる。緩衝液での洗浄後、蒸留水で洗浄する。
【0081】
ハイブリダイゼーション及び洗浄は、前記標識プローブを用いた場合には、ハイブリダイゼーションを46℃あるいは60℃で、5分〜1時間をおこない、洗浄を48℃あるいは62℃で、それぞれ20分間行うことができる。
【0082】
洗浄後、乾燥し、液浸し、蛍光を用いる蛍光顕微鏡などの標識を観測又は測定する装置で微小コロニーを観測、計数することができる。
【0083】
(キット) 培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により同定及び/又は計数するための試薬等をキットとすることができる。
【0084】
(イ)配列番号1又は配列番号2で示される塩基配列中、連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含むエロモナス属菌特異的プローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、エロモナス属に属する細菌を検出及び/又は計数するためのキット、(ロ)配列番号3で示される塩基配列中連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含むリステリア属菌特異的プローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、リステリア属に属する細菌を検出及び/又は計数するためのキット、(ハ)配列番号4で示される塩基配列中連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含むウエルシュ菌特異的プローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、ウエルシュ菌を検出及び/又は計数するためのキットを挙げることができる。これらキットには、更に、メンブレンフィルター、又は培地のいずれか、又はその組み合わせを含ませることができる。ハイブリダイゼーションバッファー、洗浄液、及び培地は、前記したものを用いることができる。
【実施例1】
【0085】
エロモナス属細菌特異的プローブを用いた培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法によるエロモナス属細菌の検出、計数
1.プローブの調製
プローブとしては、GCAAGCTACTTTCCCGCTGCCGCT(配列番号1プローブ名AER-mrf)(24塩基)およびGCTAGCTTGCAGCCCTCTGTACGC (配列番号2プローブ名AER-mmr)を用いた。プローブは、FITCで、5’末端側に付与したアミノ基を介して蛍光標識された。
【0086】
1−1.プローブの特異性の予備確認
AER-mrf及びAER-mrrプローブの配列の特異性は、(i)リボゾームデータベースプロジェクト(RDP)のプローブチェックプログラム及び(ii)実際の菌株に対する特異性試験により判別した。
【0087】
まず、RDPのプローブチェックプログラムにより、各プローブ配列との配列の差異が0塩基から3塩基の細菌を選択した(表1)。このオンラインプログラムにより、各プローブの特異性が予備的に判断でき、この結果から、表2-3にある実際のプローブ特異反応のための陽性及び陰性対照菌株を設定した。
【0088】
【表1】

【0089】
実際のプローブの特異性は、AER-mrfでは、A.hydrophilaとA.veroniiをプローブとの差異のない(0塩基ミスマッチ)陽性菌株とし、S.baltica及びS.hanedaiをそれぞれ2及び3塩基の差異を持つ陰性の対照菌株とし、AER-mrrでは、A.hydrophilaをプローブとの差異のない(0塩基ミスマッチ)陽性菌株とし、V.fischeriを1塩基の差異のある陰性の対象菌株、V.anguillarum及びP.phosphoreumを2塩基の差異を持つ陰性の対照菌株、並びにV.metchnikoviiを3塩基の差異を持つ陰性の対照菌株とすることとした。
【0090】
2.スライドグラス上でのインサイチューハイブリダイゼーション
1)上記で対象菌株とされた各種細菌株をTryptic Soya Broth (Difco)で一晩前培養(30℃)した細胞を、遠心分離で集めた後、菌体に4%パラフォルムアルデヒド‐リン酸緩衝液(PBS)を300μl加え、4℃で1〜3時間固定した。
2)この固定した細菌細胞の3μlをスライドグラス上に載せ、風乾後、50、80および100%エタノールに順次3分間浸漬することで脱水を行った。
3)スライドグラス上の固定した細菌細胞上へあらかじめ46℃あるいは60℃に加温しておいたハイブリダイゼーション溶液(0.9M NaCl、20mM Tris-HCl、0.01% SDS、pH 7.4なお、ホルムアミドは20-45%濃度で変化させた。)を8μl注加し、46℃あるいは60℃で5分間プレハイブリダイゼーションを行った後、5 pmol/μlのプローブ溶液を1μl加え、いずれのプローブとも、46℃あるいは60℃で1時間ハイブリダイゼーションを行った。
4)ハイブリダイゼーション後、スライドグラスをあらかじめ48℃および62℃で加温した(46℃でハイブリダイゼーションした場合は48℃で洗浄し、60℃でハイブリダイゼーションした時は62℃で洗浄した)洗浄液(20mM Tris-HCl、 40〜220mM NaCl、 0.01% SDS、pH7.4)に20分間浸漬した後、滅菌蒸留水で残留する洗浄液を洗い流した。
5)スライドグラスを風乾後、ガラス上の細菌細胞を蛍光顕微鏡で観察し、細菌細胞の蛍光具合から両プローブの特異性を判定した。
【0091】
3.特異培養条件の設定
培養併用FISH法により、上記特異性を評価したプローブの特異性を向上させるための培養条件を鋭意設定した。
1)スライドグラス上でプローブの特異性判定試験に供試した陽性細菌および陰性細菌を、プローブ陽性菌の微小コロニー形成の優れた培地で培養し、陰性菌の増殖の有無又は強弱を判定した。
2)プローブ陽性菌および陰性菌をフィルター上に捕集した後、4〜8時間培養し、微小コロニーを形成させた。このフィルター上のコロニーをエタノール固定した後、スライドグラス上でのインサイチューハイブリダイゼーション法と同様に、FISH反応を行った。
【0092】
結果
結果を、表2-3に示す。
AER-mrfは、濃度27.5%以上の45%以下のホルムアミドを加えた反応液中で60℃で反応させることで、特異性が認められ、エロモナス細菌を特異的に検出した。
【0093】
また、AER-mmrも、濃度27.5%以上45%以下のホルムアミドを加えた反応液中で60℃で反応させるとビブリオ・フィシェリおよびフォトバクテリウム・フォスフォリウムを除き、特異的に反応した。
【0094】
また、エロモナスは増殖に塩類を必要としないのに対し、ビブリオ・フィシェリおよびフォトバクテリウム・フォスフォリウムは増殖に3%の塩化ナトリウムを要求することから、微小コロニーの形成に用いる培地に塩類無添加培地を用いる培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、特異検出が可能であった。結果を図1にしめす。
【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【実施例2】
【0097】
リステリア菌特異的プローブを用いた培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法によるリステリア菌の検出及び計数
1.リステリアプローブの調製
プローブ用の配列は、CGC ACA TTT CCA TTC GTG CGA TTC C(配列番号3:プローブ名LIS1400) (25塩基)を用いた。LIS1400プローブは、プローブの5’末端に導入したアミノ基を介して、Alexa Fluor 594で標識した。
【0098】
1−2.プローブの特異性の予備確認
(i)LIS1400プローブの配列の相同性検索(BLASTプログラム)及び(ii)実際の菌株に対する特異性試験により判別した。
【0099】
まず、BLASTプログラムにより、LIS1400プローブ配列との配列の差異が0塩基から3塩基間での細菌を選択した。このオンラインプログラムにより、各プローブの特異性が予備的に判断でき、この結果から、表4-5に掲げた菌株を実際のプローブ特異反応のための陽性及び陰性対照菌株を設定した。
【0100】
2.インサイチューハイブリダイゼーション法によるリステリア菌の検出、計数
1)上記で選定した表4-5に掲げた各種細菌株をTryptic Soya Broth (Difco)で一晩前培養(30℃)した細胞を、遠心分離で集めた後、菌体に4%パラフォルムアルデヒド‐リン酸緩衝液(PBS)を300μl加え、4℃で1〜3時間固定した。
2)この固定した細菌細胞の3μlをスライドグラス上に載せ、風乾後、50、80および100%エタノールに順次3分間浸漬することで脱水を行った。
3)スライドグラス上の固定した細菌細胞上へあらかじめ46℃あるいは60℃に加温しておいたハイブリダイゼーション溶液(0.9M NaCl、20mM Tris-HCl、0.01% SDS、pH 7.4なお、ホルムアミドは、0‐35%で変化させた。)の8μlを注加し、46℃あるいは60℃で5分間プレハイブリダイゼーションを行った後、5 pmol/μlのプローブ溶液を1μl加え、いずれのプローブとも、46℃あるいは60℃で1時間ハイブリダイゼーションを行った。
4)ハイブリダイゼーション後、スライドグラスをあらかじめ48℃及び62℃で加温した(46℃でハイブリダイゼーションした場合は48℃で洗浄し、60℃でハイブリダイゼーションした時は62℃で洗浄した)洗浄液(20mM Tris-HCl、 100〜180mM NaCl、 0.01% SDS、 pH7.4)に20分間浸漬した後、滅菌蒸留水で残留する洗浄液を洗い流した。
5) スライドグラスを風乾後、ガラス上の細菌細胞を蛍光顕微鏡で観察し、細菌細胞の蛍光具合から両プローブの特異性を判定した。
【0101】
3.培養併用FISH法による計数精度の確認
上記特異性を評価したプローブを用い、培養併用FISH法による計数精度を、既知の平板培養法と比べ、確認した。
1)スライドグラス上でプローブの特異性判定試験に供試した陽性細菌および陰性細菌を、プローブ陽性菌の微小コロニー形成の優れた培地で培養し、陰性菌の増殖の有無又は強弱を判定した。
2)プローブ陽性菌および陰性菌をフィルター上に捕集した後、8時間培養し、微小コロニーを形成させた。このフィルター上のコロニーをエタノール固定した後、スライドグラス上でのインサイチューハイブリダイゼーション法と同様に、FISH反応を行った。
【0102】
結果
結果を表4-5に示す。表中で、++は強い蛍光が検出されたことを、+は蛍光が検出されたことを、-は蛍光が検出されなかったことを示しており、表4-5から、本プローブLIS1400がリステリア属に属する種及び近縁の系統の細菌にはハイブリダイズせず、リステリア属に属する種とは確実にハイブリダイズする条件として46℃でホルムアミド濃度が20〜35%、及び60℃でホルムアミド濃度が10〜15%の条件が見出された。
【0103】
また、結果の例(黄色ブドウ球菌)を図2に示す。リステリア属細菌への特異的なハイブリッド形成が示され、非リステリア属細菌のDNAあるいはRNAにはハイブリッド形成を行わなかった。従って、上記1.で発明したプローブLIS1400がリステリア属細菌の特異的検出・同定に有効であることが示された。
【0104】
さらに、フィルター上に捕集したリステリア菌を酵母エキス添加トリプトンソーヤ寒天(TSAYE)培地上で8時間培養後、LIS1400プローブを用いた培養併用FISH法で微小集落数を計数した。一方、同細菌試料をTSAYE培地またはリステリア用選択培地(PALCAM)を用いて平板培養法で計数した。その計数値は、培養併用FISH法では、(2.4±0.2) X 109 CFU/ml、TSAYE平板培養法では、(2.3±0.1) X 109 CFU/mlであり、PALCAM平板培養法では(2.2±0.3) X 109 CFU/mlとなり、これらの間に有意な差は認められなかった。
【0105】
【表4】

【0106】
【表5】

【実施例3】
【0107】
ウェルシュ菌プローブを用いたインサイチューハイブリダイゼーション法によるウェルシュ菌の検出及び計数
1.ウェルシュ菌プローブの調製
プローブとしては、 AAT GAT GAT GCC ATC TTT CAA CA (配列番号4:プローブ名CLP180)(23塩基)をもちいた。CLP180プローブは、プローブの5’末端に導入したアミノ基を介して、Alexa Fluor 594で標識した。
【0108】
1−1.プローブの特異性の予備確認
次に、(i)リボゾームデータベースプロジェクト(RDP)のプローブチェックプログラム及び(ii)実際の菌株に対する特異性試験により判別した。
【0109】
まず、RDPのプローブチェックプログラムにより、各プローブ配列との配列の差異が0塩基から3塩基間での最近を選択した。このオンラインプログラムにより、各プローブの特異性が予備的に判断できる。結果を表6にしめす。
【0110】
この結果から、表7-9にある実際のプローブ特異反応のための陽性及び陰性対照菌株を設定した。
【0111】
【表6】

【0112】
2.培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法によるウエルシュ菌の検出、計数
1)上記した表7-8記載の各種細菌株をGAM Broth で一晩前培養(37℃、嫌気培養)し、遠心分離で集めた後、菌体に4%パラフォルムアルデヒド‐リン酸緩衝液(PBS)を300μl加え、4℃で1〜3時間固定した。
2)この固定した細菌細胞の3μlをスライドグラス上に載せ、風乾後、50、80および100%エタノールに順次3分間浸漬することで脱水を行った。
3)スライドグラス上の固定した細菌細胞上へあらかじめ46℃あるいは60℃に加温しておいたハイブリダイゼーション溶液(0.9M NaCl、20mM Tris-HCl、0.01% SDS、pH 7.4ホルムアミドは0〜60%で変化させた)を8μlを注加し、46℃あるいは60℃で5分間プレハイブリダイゼーションを行った後、5 pmol/μlのプローブ溶液を1μl加え、いずれのプローブとも、46℃あるいは60℃で1時間ハイブリダイゼーションを行った。
4)ハイブリダイゼーション後、スライドグラスをあらかじめ48℃および62℃で加温した(46℃でハイブリダイゼーションした場合は48℃で洗浄し、60℃でハイブリダイゼーションした時は62℃で洗浄した)洗浄液(20mM Tris-HCl、 40〜220mM NaCl、 0.01% SDS、 pH7.4)に20分間浸漬した後、滅菌蒸留水で残留する洗浄液を洗い流した。
5)スライドグラスを風乾後、ガラス上の細菌細胞を蛍光顕微鏡で観察し、細菌細胞の蛍光具合から両プローブの特異性を判定した。
【0113】
3.培養併用FISH法による計数精度の確認
上記特異性を評価したプローブを用い、培養併用FISH法による計数精度を、既知の平板培養法と比べ、確認した。
1)スライドグラス上でプローブの特異性判定試験に供試した陽性細菌および陰性細菌を、プローブ陽性菌の微小コロニー形成の優れた培地で培養し、陰性菌の増殖の有無又は強弱を判定した。
2)プローブ陽性菌および陰性菌をフィルター上に捕集した後、5時間培養し、微小コロニーを形成させた。このフィルター上のコロニーをエタノール固定した後、スライドグラス上でのインサイチューハイブリダイゼーション法と同様に、FISH反応を行った。
【0114】
B. 結果
結果を表7、8及び9に示す。
【0115】
本プローブCLP180の特異性が高いハイブリダイゼーション条件としては、46℃でホルムアミド濃度が20〜30%、60℃でホルムアミド濃度が0〜15%の条件が見出された。
結果の例(ボツリヌス菌)を図3に示す。
【0116】
プローブCLP180はウエルシュ菌に対して特異的にハイブリッドを形成し、非ウエルシュ菌のDNAあるいはRNAにはハイブリッドを形成しないことが示された。従って、このCLP180もウエルシュ菌の特異的検出・同定に有効であることが示された。
【0117】
さらに、フィルター上に捕集したウエルシュ菌をGAM培地上で5時間培養後、CLP180プローブを用いた培養併用FISH法で微小集落数を計数した。一方、同細菌試料をGAM寒天培地またはカナマイシン加CW寒天培地を用いて平板培養法で計数した。その計数値は、培養併用FISH法では、(2.3±1.2) X 106 CFU/ml、GAM平板培養法では、(2.3±1.1) X 106 CFU/mlであり、カナマイシン加CW寒天平板培養法では(2.4±1.7) X 106 CFU/mlとなり、これらの間に有意な差は認められなかった。
【0118】
【表7】

【0119】
【表8】

【0120】
【表9】

【実施例4】
【0121】
腸炎ビブリオ、サルモネラ菌及び病原性大腸菌用プローブの調整
(1)腸炎ビブリオを特異検出する遺伝子プローブ
腸炎ビブリオを特異検出する遺伝子プローブは16S rRNA遺伝子配列中から見いだしたものである。その配列はactacactaccttcctcacgactgaaa(プローブ名Vpa437)(27塩基)、tgcaattccgaggttgagccccgg(プローブ名Vpa612)(24塩基)、およびcactttcgcaagttggctgccc(プローブ名Vpa1255)(22塩基)である。これらのプローブは、ギブスの自由エネルギー計算を行い(Safak et al., 2004)、プローブの特異性を維持したままで標的のrRNAの特異領域と最も反応性が高くなるように配列を調整したものである(表10)。
Safak et al. 2004. Appl. Environ. Microbiol. 70: 7126-7139.
【0122】
(2)サルモネラ菌を特異検出する遺伝子プローブ
サルモネラ菌を特異検出する遺伝子プローブは、すでに報告されている16S-I (Lin ?, 1995)を改良したものである。この配列は、16S rRNA遺伝子配列中から見いだし、ギブスの自由エネルギー計算を行い(Safak et al., 2004)、プローブの特異性を維持したままで標的のrRNAの特異領域と最も反応性が高くなるように配列を調整したものである(表10)。その配列はgctgcggttattaaccacaacaccccttc(配列番号8プローブ名Sal453)(29塩基)である。
Lin ?, 1995. JAB, 78: 507-520.
【0123】
(3)病原性大腸菌を特異検出する遺伝子プローブ
病原性大腸菌を特異検出する遺伝子プローブは16S rRNA遺伝子配列中から見いだしたものである。その配列はgaagcaagcttcttcctgttaccg(配列番号9プローブ名Eco67)(24塩基)、である。これらのプローブは、ギブスの自由エネルギー計算を行い(Safak et al., 2004)、プローブの特異性を維持したままで標的のrRNAの特異領域と最も反応性が高くなるように配列を調整したものである(表10)。
【0124】
【表10】

【実施例5】
【0125】
腸炎ビブリオ特異的プローブを用いた培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法による腸炎ビブリオ菌の検出及び計数
腸炎ビブリオは他の近縁な菌株と区別して特異検出することが難しいとされてきた。本実施例では、腸炎ビブリオと他の近縁種の配列に変異が見られる領域を鋭意精査し、次の3種類のプローブ(Vpa437, Vpa612およびVpa1255)を見いだした。これら全てのプローブに反応する菌株は、特異性高く、腸炎ビブリオとして検出できる(図4)。
【0126】
(1) データベースに登録されている配列との比較
Vpa437プローブは、V. parahaemolyticus以外に、V. campbellii、V. rotiferianus、V. harveyi、V. natriegens、V. proteolyticus、およびV. alginolyticusとミスマッチがなかった(表11)。
【0127】
Vpa612プローブは、V. parahaemolyticus以外に、V. campbellii、V. rotiferianus、V. scopthalmi、V.tubiashii、V. furnisii、V. fluvialis、V. orientalis、V. coralliilyticus、およびV. ichthyoenteriとミスマッチがなかった(表11)。
【0128】
さらに、Vpa1255プローブは、V. parahaemolyticus以外に、V. aestuarianus、V. furnisii、V. orientalis、およびV. alginolyticusとミスマッチがなかった(表11)これら、3種のプローブ全てで反応する菌種は、V. parahaemolyticusのみである。
【0129】
【表11】

【0130】
(2) 腸炎ビブリオプローブの特異性評価の方法
1) Vibrio parahaemolyticus LMG2850T株をマリンブロス (Difco)で一晩前培養(25℃)した細胞懸濁液100μlに、3倍量の4%パラフォルムアルデヒド(PFA)を加えて固定した後、300μlのPBSで菌体を3回洗浄した。その後、氷冷した99%エタノールを100μl加えて、PFA固定菌体を調製した。
2) この固定菌体の3マイクロリッターをスライドグラス上に載せ、風乾後、50、80および100%エタノールに、順次3分間浸漬することで脱水を行った。
3) スライドグラス上に固定した細菌細胞上へ、ハイブリダイゼーション溶液(0.9M NaCl、20mM Tris-HCl、0.01% SDS、0〜40%フォルムアミド(反応条件に応じて適宜変更)、pH 7.4)を8μl注加し、さらに、25nmol/μlのプローブを1μl加え、46℃で、湿潤箱中で、2時間ハイブリダイゼーションを行った。
4) ハイブリダイゼーション後、スライドグラスをあらかじめ48℃で加温した洗浄液(20mM Tris-HCl、40〜900mM NaCl(反応させたフォルムアミド濃度に応じて適宜変更)、0.01% SDS、pH7.4)に15分間浸漬した後、滅菌蒸留水で残留する洗浄液を洗い流した。
5) スライドグラスを風乾後、ガラス上の細菌細胞を蛍光顕微鏡で観察し、蛍光プローブと反応した細菌細胞に特徴的な蛍光が観察されるか否かで腸炎ビブリオプローブの特異性を判定した。
【0131】
結果 培養細菌細胞への反応性評価
Vpa437プローブは、フォルムアミド濃度が10〜40%の反応液を用い、46℃で反応させることにより、V. parahaemolyticusおよびこのプローブにミスマッチのないビブリオ種に加え、V. anguillarumに反応した(表12)。
【0132】
Vpa612プローブは、フォルムアミド濃度が30〜40%の反応液を用い、46℃で反応させることにより、V. parahaemolyticusに加え、このプローブとミスマッチのないビブリオ種に反応した(表12)。
【0133】
さらに、Vpa1255プローブは、フォルムアミド濃度が25〜40%の反応液を用い、46℃で反応させることにより、V. parahaemolyticusおよびこのプローブにミスマッチのないビブリオ種と反応した(表12)。
【0134】
【表12】

【0135】
以上、3種のプローブは、46℃、フォルムアミド濃度が30〜40%の反応液で同時にFISH反応させることができる。この条件下で、上記3種のプローブを反応させることにより、V. parahaemolyticusのFISH法による特異検出が可能となった(図4)。
【0136】
プローブに標識する蛍光物質は、緑、赤色および近赤外蛍光を特徴とする色素が望ましい。具体的には、FITC、TAMRAおよびCy5である。
【0137】
また、V. parahaemolyticusの各菌株(HO5、LMG16874、IFO12711(臨床)、VPY01(臨床、O3K6、tdh+)、VPY20(臨床、O4K68、tdh+)、704B1、CHT201)に、これら3種のプローブは反応した。
【0138】
(3)微小集落形成条件の至適化
V. parahaemolyticus LMG2850T株培養液を、ニュクレポアーフィルター上に捕集後、マリンアガー培地(Difco)に貼り付け、37℃で2、4、6、8時間培養した。腸炎ビブリオの微小集落に、上記腸炎ビブリオプローブを46℃、30%フォルムアミドを含む反応液中で反応させ、微小集落のFISH検出を行った。蛍光顕微鏡下で観察し、微小集落の成長を経時的に観察した。
【0139】
また、Vpa437およびVpa612プローブを組み合わせることにより、80種のビブリオの中から、V. parahaemolyticusに加え、V. rotiferianusおよびV. campbelliiを検出できるまでに絞り込むことができる。V. parahaemolyticusに対し、V. rotiferianusおよびV. campbellii を検出しない培養条件として、高温域(40℃)での増殖および耐塩性を検討した。
【0140】
結果 腸炎ビブリオ微小集落の形成
腸炎ビブリオの微小集落は時間とともに成長し、6時間培養後に、80μm程度の40〜100倍レンズで観察可能な集落に成長した。8時間培養すると、腸炎ビブリオの微小集落は急速に成長し、600μmを超える大きさとなった (図5)。
【0141】
また、Vpa437およびVpa612プローブを組み合わせることにより、80種のビブリオの中から、V. parahaemolyticusに加え、V. rotiferianusおよびV. campbelliiを検出できるまでに絞り込むことができる。V. parahaemolyticusに対し、V. rotiferianusおよびV. campbellii を検出しない培養条件を検討したところ、マリンアガー培地 (Difco)を用い40℃で培養するか、7%塩化ナトリウムを添加した寒天培地(ポリペプトン0.5%、酵母エキス0.1%、7%塩化ナトリウム、寒天1.5%、pH7.5)を用いる培養条件が見いだされた(表13)。
【0142】
従って、フィルター上に捕集した腸炎ビブリオを、マリンアガー培地 (Difco)を用い40℃で培養するか、7%塩化ナトリウムを添加した寒天培地を用いて培養を行い、Vpa437およびVpa612の2種のプローブで特異検出することでも、腸炎ビブリオの特異検出が可能となった。
【0143】
腸炎ビブリオLMG2850T株を、マリンアガー上で、40℃で培養したところ、この微小集落は8時間培養後に、50μm程度の40〜100倍レンズで観察可能な集落に成長した。10時間以上培養すると、腸炎ビブリオの微小集落は200μmを超える大きさとなった (図6)。この条件下では、V. rotiferianusおよびV. campbelliiは、目に見える微小集落を形成するまでには成長しなかった。
【0144】
【表13】

【0145】
(4)Vpa437、Vpa612プローブ、及びVpa1255プローブの3プローブを用いた腸炎ビブリオの検出
Vpa437をFITCで標識し、Vpa612プローブをTAMRAで標識し、Vpa1255プローブをCy5で標識した。
V. parahaemolyticus LMG2850T株を、マリンアガー培地で6時間培養した後、成長した微小集落を、上記3種のプローブをホルムアミド濃度30%(〜40%)のハイブリダイゼーション溶液に混合し、46℃で反応させた。
【0146】
図4に示されるように、腸炎ビブリオは前記3種類のプローブの全てと反応し、近縁種のV. rotiferianusおよびV. campbellii と区別して検出することができる。
【実施例6】
【0147】
サルモネラ菌特異的プローブを用いた培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法によるサルモネラ菌の検出及び計数
(1) データベースに登録されている配列との比較
Sal453プローブは、S. enterica 以外に、Enterobacter sakazakiiおよびPantoea agglomeransとミスマッチがなかった(表14)。既報の16S-Iプローブの特異性と同一であった。
【0148】
【表14】

【0149】
(2) サルモネラプローブの特異性評価の方法
1) 腸炎ビブリオと同様の方法で行った。Salmonella enterica Typhimurium ATCC13311T株はブイヨン培地で一晩前培養(37℃)した。
【0150】
結果 培養細菌細胞への反応性評価
Sal453プローブは、フォルムアミド濃度が10-40%の反応液を用い、46℃で反応させることにより、S. entericaおよびE. sakazakiiと反応し、P. agglomeransとは反応しなかった(表15)。従って、このプローブは、S. enterica以外にも、E. sakazakiiを検出するプローブである。
【0151】
【表15】

【0152】
(3) 微小集落形成条件の至適化
Salmonella enterica Typhimurium ATCC13311T株培養液を、ニュクレポアーフィルター上に捕集後、標準寒天培地に貼り付け、37℃で2〜12時間培養し、腸炎ビブリオの微小集落形成条件の至適化と同様の方法で実験した。
【0153】
結果 サルモネラ微小集落の形成
サルモネラの微小集落は時間とともに成長し、8時間培養後に、80マイクロメーター程度の40〜100倍レンズで観察可能な集落に成長した。12時間培養すると、サルモネラの微小集落は400マイクロメーターを超える大きさとなった (図7)。
【実施例7】
【0154】
病原性大腸菌特異的プローブを用いた培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法による病原性大腸菌の検出及び計数
(1)データベースに登録されている配列との比較
Eco67プローブは、E. coliのみにミスマッチがないプローブであった(表16)。
【0155】
【表16】

【0156】
(2)病原性大腸菌プローブの特異性評価の方法
1) 腸炎ビブリオと同様の方法で行った。Escherichia coli O157:H7株はブイヨン培地で一晩前培養(37℃)した。
【0157】
結果 培養細菌細胞への反応性評価
Eco67プローブは、フォルムアミド濃度が10〜40%の反応液を用い、46℃で反応させることにより、E. coli以外に、Mannheimia varigenaおよびM. ruminalisと反応した(表17)。また、このプローブは、大腸菌の菌株の中で、EHEC RIMD05091055、EHEC RIMD05091056、EHEC RIMD05091151 (0-157)、EHEC RIMD0509952 (0-157)、EPEC RIMD0509829、EIEC RIMD05091045、ETEC RIMD0509356、ETEC RIMD0509335などの病原性株を検出した(表18)。
【0158】
【表17】

【0159】
【表18】

【0160】
(3)微小集落形成条件の至適化
E. coli O157:H7株培養液を、ニュクレポアーフィルター上に捕集後、標準寒天培地に貼り付け、37℃で2〜10時間培養し、腸炎ビブリオの微小集落形成条件の至適化と同様の方法で実験した。
【0161】
結果 病原性大腸菌微小集落の形成
病原性大腸菌の微小集落は時間とともに成長し、6時間培養後に、80マイクロメーター程度の40〜100倍レンズで観察可能な集落に成長した。8時間培養すると、サルモネラの微小集落は100マイクロメーターを超える大きさとなった(図8)。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、例えば、食品加工分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4で示される塩基配列中連続する少なくとも18以上の塩基で示される塩基配列又はその相補配列を含むウエルシュ菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するためのプローブ。
【請求項2】
配列番号4で示される塩基配列又はその相補配列からなる核酸に標識を付したウエルシュ菌を特異的に検出、同定、及び/又は計測するための請求項1記載のプローブ。
【請求項3】
微生物試料を培養し微小コロニーを形成させ、請求項1記載のウエルシュ菌に特異的なプローブを用いて、インサイチューハイブリダイゼーション法により、ウエルシュ菌を検出及び/又は計数する方法。
【請求項4】
微生物試料を70〜80℃で10〜30分間培養した後、40から50℃で嫌気培養する請求項3記載の方法。
【請求項5】
ハイブリダイゼーション条件が、ハイブリダイゼーション温度が46℃から60℃で、ホルムアミド濃度が46℃で20%〜35%、60℃で0%〜15%である範囲内とする、請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
請求項1記載のプローブ、ハイブリダイゼーションバッファー及び洗浄液を含む、培養併用インサイチューハイブリダイゼーション法により、ウエルシュ菌を検出及び/又は計数するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−224020(P2011−224020A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172169(P2011−172169)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【分割の表示】特願2005−336201(P2005−336201)の分割
【原出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000173511)公益財団法人函館地域産業振興財団 (32)
【Fターム(参考)】