説明

培養液節減型害虫駆除室つき栽培槽

【課題】 浅底の栽培槽にいて、植物の根がマット状に絡み合うのを抑制し、根に隈なく培養液を供給することができる害虫駆除室つき栽培槽を提供する。
【解決手段】 多数枚の植物植設パネルを順次循環移送させるべき循環移送路において、該循環移送路の一部をなす培養液入り栽培路、及び他の一部をなす害虫駆除路をそれぞれ形成し、
上記栽培路は、緩傾斜のレーンであって、その緩斜面に最上位から培養液を浅く流下させてなる1本又は複数本の緩傾斜栽培レーンを有し、上記各栽培レーンに多数枚の植物植設パネルを一列の隣接状態で移送可能に載せると共に、各植物の根を流下する培養液に浸し、
上記害虫駆除路は、上記栽培路から移送される害虫の付着した植物植設パネルをそれぞれ受け入れて害虫駆除を行う処理室を有する、
培養液節減型害虫駆除室つき栽培槽。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養液節減のため栽培槽に少量の培養液を保有しつつ、植物浸漬等による害虫駆除をも十分に行うことができる培養液節減型の害虫駆除室つき植物水耕栽培槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、栽培槽内の培養液に、植物を植えたパネル(以下植物植設パネルという)を浮かべると共に植物の根を培養液に浸して栽培を行う水耕栽培において、栽培中の植物をパネルごと培養液中に浸漬して害虫を駆除する方法が開発されたが、この害虫駆除を実施するためには、栽培槽を深底に形成し、該槽内に植物全体が液没できるように大量の培養液を注入しておく方法を採っていたが、培養液が高価であるため、経済的に負担が重くなる難点があった。
【0003】
これを改善するため、本発明者は、さきに、多数枚の植物植設パネルが一列の隣接状態で循環走行可能の培養液入り循環路を形成し、該循環路の一部を上記植物が浸漬可能の深底の浸漬室に形成し、他部を上記植物植設パネルの根が横に展延するような浅底の栽培室に形成し、上記栽培室にある植物植設パネル群を順次浸漬室に送って浸漬を行いつつ循環させる培養液節減型の浸漬室つき循環栽培槽を提案した(出願中)。
【0004】
しかし、上記提案発明では、栽培室内の培養液が少量の上、流れが停滞ぎみであるため、植物の根がマット状に絡み合い、マット内部に培養液が流入しにくくなるため、根に萎縮が生じるおそれがあり、又隣りの植物の根と互に絡みつき、収穫時にパネルから植物を外す際に根がちぎれてごみ発生の原因となる不都合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、植物の根のマット状絡み合い及び隣り同志の根の絡みつきを抑制し、根全体に培養液を隈なく供給することができる培養液節減型害虫駆除室つき栽培槽を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する手段として、本発明は、
多数枚の植物植設パネルを順次循環移送させるべき循環移送路において、該循環移送路の一部をなす培養液入り栽培路、及び他の一部をなす害虫駆除路をそれぞれ形成し、
上記栽培路は、緩傾斜のレーンであって、その緩斜面に最上位から培養液を浅く流下させてなる1本又は複数本の緩傾斜栽培レーンを有し、上記各栽培レーンに多数枚の植物植設パネルを一列の隣接状態で移送可能に載せると共に、各植物の根を流下する培養液に浸し、
上記害虫駆除路は、上記栽培路から移送される害虫の付着した植物植設パネルをそれぞれ受け入れて害虫駆除を行う処理室を有する、
培養液節減型害虫駆除室つき栽培槽を提案する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の培養液節減型害虫駆除室つき栽培槽によれば、栽培路において栽培中の植物の根には、傾斜栽培レーンを下る培養液の流れが常時作用すると共に、植物植設パネルを害虫駆除路に向け栽培レーン上で移送するときは、根自身が流れる培養液中を移動し、それにより根のマット状絡み合いを抑制して根全体に隈なく培養液を供給することができると共に、隣りの植物の根との絡みつきをも抑制し、従来のような収穫時のゴミの発生を防止することができ、さらに、植物の根に絶えず刺激を加えて根の成長、吸収能を促進することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における上記植物植設パネルを移送させる「循環移送路」には、上記パネルを滑走可能に支持する滑走路、上記パネルを浮かべる水路、上記パネルを走行可能に支持するレール、上記パネルを吊って移送する天井レール、上記パネルをのせて移送するベルト又はローラチエン、上記いずれかの移送路を組合わせた複合路、その他種々のものが使用される。
【0009】
又、上記「害虫駆除を行う処理室」には、上記パネルを液中に押しこむ浸漬装置、上記パネルを反転させる浸漬装置、上記パネルをローラチエンにより液中に浸漬する装置等のほか、上記パネルを水に浮かべた状態で遮へいカバーで全面を覆い、該カバー内で植物に液を噴射して害虫を落下させる装置その他種々の装置を備えたものが使用される。
【実施例】
【0010】
以下本発明の実施例について詳述する。
実施例1
本例における、正方形の発泡スチロール製パネルに植物を植えた植物植設パネル(1)…を循環移送させるべき循環移送路は、図1、2に示すように、フレーム(F)の最上位に設置された培養液貯留槽(3)を兼ねる培養液路(2)と、上記培養液路(2)から培養液が傾斜最上端に流れこむ6本の緩傾斜栽培レーン(5)…からなる栽培路(4)と、上記栽培路(4)の傾斜下端と連なり、植物浸漬用水を入れた水路兼浸漬処理槽(7)からなる害虫駆除路(6)と、上記害虫駆除路(6)の前端と連なり、上記培養液路(2)の後端に至るベルトコンベア(9)からなるコンベア移送路(8)とから構成される。
【0011】
上記培養液貯留槽(3)は、上記6本の栽培レーン(5)…の各上端に及ぶ長さと、植物植設パネル(1)が走行できる幅を有する細長の槽で、その栽培レーン(5)…がわをオーバーフロー口(10)に形成してある。
【0012】
上記栽培レーン(5)…は、隣り同志仕切板(11)…により植物植設パネル(1)が走行できる幅に区画されて、互に並列状態に配置されており、その傾斜上端部を、上記貯留槽(3)のオーバーフロー口(10)と同じ高さに固定すると共に、貯留槽(3)内の液中に下向き傾斜で進入する案内板(12)に形成してある。
【0013】
各栽培レーン(5)…の傾斜下端には、多数の孔(14)…を有する水平の培養液排出板(13)を接続すると共に、該排出板(13)の下に培養液受け槽(15)を配置し、該受け槽(15)の下端部に接続された管(16)をポンプ(17)、濾過器(18)及び弁(19)を介して上記貯留槽(3)の開口上面にのぞませ、それにより各栽培レーン(5)…を流下した培養液を排出板(13)の孔(14)…から受け槽(15)に回収し、ついでポンプ(17)の駆動により管(16)を介して貯留槽(3)に常時返送し、該貯留槽(3)のオーバーフロー口(10)から各栽培レーン(5)…に培養液を常時一定量づつ分配するようにしてある。上記培養液排出板(13)の孔(14)…は図2(ハ)のようにロート状が好ましい。
【0014】
上記浸漬槽(7)は、植物植設パネル(1)が水没できるだけの深さに水を入れてあり、その長さは、上記栽培レーン(5)…の各下端全体に及ぶが、その幅は、採用する浸漬方法に応じて適宜設計される。本例では、押しこみ浸漬法に応じて、植物植設パネル(1)が走行できる幅である。
【0015】
上記孔あき板(13)の前端部は、下向き傾斜で上記浸漬槽(7)の水面まで延長する案内板(20)に形成してある。
【0016】
上記ベルトコンベア(9)は、上記浸漬槽(7)の前端から若干間隔をあけた位置に従動プーリー(21)を、上記貯留槽(3)の後端から若干間隔をあけた位置に駆動プーリー(22)をそれぞれ軸支し、両プーリー(21)、(22)にベルト(23)を掛けたものである。(24)は駆動プーリー(22)の軸端に固定されたスプロケットで、モータ(25)の駆動スプロケット(26)からチエン(27)により回転が伝達される。
【0017】
(28)は、上記浸漬槽(7)の前端部から上記ベルトコンベア(9)の後端部に掛け渡した案内ブリッジで、浸漬槽(7)内の水中から上向き傾斜で水面上に、ついで水平に延長してベルト(23)上に若干長くかかっている。
【0018】
(29)は、上記ベルトコンベア(9)の前端から貯留槽(3)後端部に掛けられた案内ブリッジで、水平のブリッジ本体の前端部を貯留槽(3)内の培養液中に下向き傾斜で進入させている。
【0019】
上例の作用を次に説明する。図1のように各栽培レーン(5)…に植物植設パネル(1)…がそれぞれ隣接した縦一列の状態にあるときは、各パネル(1)…の植物の根が流下する培養液の流れを常時受けて、根全体で養分を吸収しつつ絶えず刺激を受けて根の成長、吸収能を高めている。
【0020】
植物に害虫が付着したときは、各栽培レーン(5)…の植物植設パネル(1)‥を各レーンの後方から前方ヘパネル1枚分だけ押し出し、それにより各列の先頭のパネル(1)…を浸漬槽(7)の水面上に進出させる。
【0021】
そこで、水面上の各パネル(1)…を上から押しこんで植物を水中に所要時間浸漬し、害虫駆除を行い、ついで各パネル(1)…を水面に浮上させる。
【0022】
次に、浮上したパネル(1)…を前方へ押し、案内ブリッジ(28)を経て走行中のベルトコンベア(9)上に押し出し、該ベルト(23)にのせて上方へ搬送し、コンベア(9)前端から案内ブリッジ(29)上に送り出す。
【0023】
ついで、案内ブリッジ(29)上のパネル(1)を前方へ押して貯留槽(3)内の培養液面上に送り出す。
【0024】
このように浸漬槽(7)で浸漬を行ったパネル(1)…を1つづつベルトコンベア(9)上にのせて上方へ送り、案内ブリッジ(29)から貯留槽(3)の液面上に順次送り出し、貯留槽(3)内にパネル(1)…が満席となったら、各パネル(1)…を栽培レーン(5)…上の最後部の空席に押し出し、流れ培養液による栽培を再開する。
【0025】
上記植物植設パネル(1)…が栽培レーン(5)…上に静止している間は、植物の根は流下する培養液の流れを受けており、ついでパネル(1)…が浸漬のため栽培レーン(5)…上を移動するときは、根自身が培養液中を移動し、さらに浸漬槽(7)内では、激しく水中を移動し、それらの影響により植物の根がマット状に絡み合ったり、隣りの植物の根との絡みつきが抑制され、根全体が分離状態に維持されるのである。
【0026】
なお、夏期等において、使用する培養液の温度を低く保つため、例えば上記培養液貯留槽(3)において、造波ハンマーを液面に連続的に打ちつけて波を生起させるもの、水車形造波ブレードを一部液中に浸した状態で回転させて波を生起させるもの、さらに、上記生起した波を金網等に打ちつけて飛沫を発生させるもの、又、回転プロペラの先端部を液面に接触させて飛沫を発生させると共に該飛沫に送風するもの等、気化の潜熱を利用した冷却装置が適宜使用される。
【0027】
実施例2
図3、4に示す他の実施例の循環移送路は、フレーム(Fa)の最上位に設置された培養液貯留槽(3a)の孔あき蓋板(30a)の孔(31a)…からそれぞれ培養液がオーバーフローされるレーンであって、上記蓋板(30a)をはさんで傾斜上端で連なる両流れ状態の栽培レーン(5a)…、(5’a)…からなる下り栽培路(4a)及び上り栽培路(4’a)と、上記下り及び上り栽培路(4a)、(4’a)の各傾斜下端とそれぞれ連なる孔(14a)…、(14’a)…つき培養液排出板(13a)、(13’a)を兼ねる案内路(32a)、(32’a)と、上記案内路(32a)と連なる害虫駆除路(6a)と、上記害虫駆除路(6a)の前端と連なり、上記案内路(32’a)に至る補給路(33a)とからなる。
【0028】
本例の害虫駆除路(6a)は、上記案内路(32a)の前端部と案内ブリッジ(34a)で連なる横長のパイル案内水槽(35a)と、水噴射処理装置(36a)を備える。
【0029】
水噴射処理装置(36a)は次のようである。案内水槽(35a)にまたがる門形フレーム(37a)を設け、該フレーム(37a)内に、四周側面及び上面を覆う防水性遮へいカバー(38a)を開口面を下にして支持し、一方支持フレーム(37a)の左右両外側面に複数づつのブラケット(39a)(39a)、(39a)(39a)を突設し、該ブラケットに水噴射ポンプ(40a)…を設置し、各ポンプに接続されたホースを上記遮へいカバー(38a)内に突出し、突出端に複数の噴射ノズルを有する回転ノズルヘッド(41a)…を接続してある。
【0030】
なお、上記遮へいカバー(38a)の前後両面は、パネル(1)…の出入りを自由にするため、多数のテープを垂下したノレン型出入り口(42a)としてある。
【0031】
上記補給路(33a)は、アミノ酸、核酸、カルシウム等、その他各種の必要薬剤を添加した水槽(43a)からなり、上記パネル案内水槽(35a)及び培養液排出板(13’a)と案内ブリッジ(44a)、(45a)により接続されている。他の構成は図1、2と実質的に同一である。
【0032】
使用においては、下り及び上り栽培レーン(5a)…、(5’a)…に植物植設パネル(1a)…、(1a)…を満席状態に配置して流れる培養液により栽培を行う。害虫駆除を行う場合は、まず下り栽培レーン(5a)…上のパネル(1a)…全体を後方から押して先頭のパネル(1a)…を排出板(13a)上に押し出し、ついで上り栽培レーン(5’a)…上のパネル(1a)…全体を後方から押して先頭のパネル(1a)…を蓋板(30a)を通って下り栽培レーン(5a)…の空席に送りこむ。
【0033】
次に、排出板(13a)上の先頭のパネル(1a)をパネル案内水槽(35a)の水面上に送り出し、ついで該パネル(1a)を後方から押してパネル1枚分前進させ、ついで排出板(13a)上の先頭パネル(1a)をパネル案内水槽(35)の水面上空席に送りこみ、以下これを繰り返してパネル(1a)…を順次水噴射装置(36a)の遮へいカバー(38a)内に間欠的に送りこんで、回転ノズルヘッド(41a)…からの噴射水を受けさせ、その噴射力により植物に付着する害虫を槽内の水に落下させる。
【0034】
遮へいカバー(38a)内から送り出されたパネル(1a)は、後方からの押しにより順次補給水槽(43a)の水面上に送られ、そこで所要の薬剤を補給される。
【0035】
次に、補給水槽(43a)のパネル(1a)…は先頭の1枚づつ排出板(13’a)上に押し出され、排出板(13’a)上に満席となったら、上り栽培レーン(5’a)…上の空席に送りこまれ、ついで上り栽培レーン(5’a)…の各先頭のパネル(1a)…を下り栽培レーン(5a)…の空席に送りこむ。以下これを繰り返していく。
【0036】
本例においては、各植物植設パネル(1a)…の根は、下り栽培レーン(5a)…にあるときは、図3において右から左へ流れる培養液を受け、上り栽培レーン(5’a)…にあるときは、左から右へと反対方向に流れる培養液を受けることになるから、根のマット状絡み合いをさらに有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による害虫駆除室つき栽培槽の一部切欠斜面図である。
【図2】(イ)図1のA−A線断面図である。(ロ)図1のB−B線断面図である。(ハ)培養液排出板の一部の拡大断面図である。
【図3】他の実施例の斜面図である。
【図4】液噴射処理装置の拡大横断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1、1a 植物植設パネル
4、4a、4’a 栽培路
5、5a、5’a 栽培レーン
6、6a 害虫駆除路
7 水路兼浸漬処理槽
36a 水噴射処理装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数枚の植物植設パネルを順次循環移送させるべき循環移送路において、該循環移送路の一部をなす培養液入り栽培路、及び他の一部をなす害虫駆除路をそれぞれ形成し、
上記栽培路は、緩傾斜のレーンであって、その緩斜面に最上位から培養液を浅く流下させてなる1本又は複数本の緩傾斜栽培レーンを有し、上記各栽培レーンに多数枚の植物植設パネルを一列の隣接状態で移送可能に載せると共に、各植物の根を流下する培養液に浸し、
上記害虫駆除路は、上記栽培路から移送される害虫の付着した植物植設パネルをそれぞれ受け入れて害虫駆除を行う処理室を有する、
培養液節減型害虫駆除室つき栽培槽。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−209202(P2007−209202A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29095(P2006−29095)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(395021239)株式会社生物機能工学研究所 (21)
【Fターム(参考)】