説明

培養装置及び培養方法

【課題】培養効率の向上、培養の大容量化及びコストの削減を図ることができる培養装置及び培養方法を提供することを課題とする。
【解決手段】微生物を培養する培養液が流れる培養槽(チューブ型培養槽)2と、培養槽2に培養液を供給する培養液供給手段3と、培養槽2に二酸化炭素を含んだ気体を供給する気体供給手段4と、培養槽2内の培養液の容積変化を吸収する膨張タンク5と、を備えた微生物を培養する培養装置1であって、培養槽2の内部に、培養液がこの培養槽の軸線を周りながら流れるように誘導する混合羽根部材21が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成によって微生物を培養する培養装置及び培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策において、光合成によって微生物を培養し、二酸化炭素を削減する技術が知られている。微生物の培養を効率よく行うためには、培養液に光及び二酸化炭素を効果的に供給する必要があるため、これらを実現できる培養装置の開発が行われている。従来の培養装置は、培養槽に貯留された培養液が大気中に開放された開放系と、閉鎖された閉鎖系とに大きく分類される。
【0003】
開放系の培養装置では、上方が開放した箱状の培養槽が用いられる。このような開放系の培養装置によれば、培養槽を簡素化できるため、初期投資を削減できるというメリットがある。しかし、外部から培養槽内に異物、雑菌等が混入し、培養に悪影響を与えるという問題がある。また、開放系の培養装置では、培養液に二酸化炭素を供給しても二酸化炭素が大気中に放出されてしまうため、培養効率が低下するという問題がある。
【0004】
一方、閉鎖系の培養装置の一つとして、閉鎖空間を備えたチューブ型の培養槽(以下、チューブ型培養槽とも言う)が用いられる。このチューブ型培養槽の内部に培養液を流通させて微生物を培養させる(特許文献1参照)。特許文献1に係る発明によれば、異物の混入や二酸化炭素の放出等を防ぐことができるため、培養効率を高めることができる。
【0005】
特許文献1に係る発明では、チューブ型培養槽の内径を5cmに設定している。このようにチューブ型培養槽の内径が小さいと、チューブ型培養槽の内部を流通する培養液の温度が上昇しやすい。一般に、培養を行うための最適な温度は、25〜35℃と言われている。したがって、チューブ型培養槽を用いた従来の培養装置では、チューブ型培養槽の近くにスプリンクラーを設置して培養液の温度上昇を抑制することが行われている。
【0006】
ここで、チューブ型培養槽の内径を大きくすれば、培養液の温度上昇を抑制することができ、さらには、培養液の容量を大きくできるので培養の大容量化を図ることができるとも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平09−121835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、チューブ型培養槽を用いた従来の培養装置において、チューブ型培養槽の内径を大きくすると、チューブ型培養槽の下部に流れる培養液に光が効果的に到達せず、培養効率が低下するという問題があった。そのため、チューブ型培養槽を用いた従来の培養方法では、チューブ型培養槽の内径を小さくせざるを得なかった。
【0009】
また、内径が小さいチューブ型培養槽を用いて培養の大容量化を達成するためには、チューブ型培養槽の全長を長くしなければならなかった。そのため、イニシャルコストが嵩むとともに、広い設備面積を確保しなければならなかった。
【0010】
また、前記したようにチューブ型培養槽の内径が小さいと、培養液の温度が上昇しやすいため、培養液の温度管理が困難であった。スプリンクラー等で対処することはできるが、スプリンクラーに対するイニシャルコスト及びランニングコストが嵩むという問題があった。
【0011】
本発明は、前記した問題に鑑みて創案されたものであり、培養効率の向上、培養の大容量化さらにはコストの削減を図ることができる培養装置及び培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、微生物を培養する培養液が流れるチューブ型培養槽と、前記チューブ型培養槽に前記培養液を供給する培養液供給手段と、前記チューブ型培養槽に二酸化炭素を含んだ気体を供給する気体供給手段と、を備えた微生物を培養する培養装置であって、前記チューブ型培養槽の内部に、前記培養液がこのチューブ型培養槽の軸線を周りながら流れるように誘導する混合羽根部材が形成されていることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、混合羽根部材を備えているため、培養液がチューブ型培養槽の軸線を周りながら流動し、混合される。これにより、チューブ型培養槽の内径を大きくしても、培養液に効果的に光を照射することができるため、培養効率を高めることができる。また、チューブ型培養槽の内径を大きく設定することができるため、培養の大容量化が図れる。また、チューブ型培養槽の内径を大きく設定できるため、培養液の温度上昇を抑制することができる。さらに、従来のように培養液を混合しない場合には、光が照射される培養液の上部の温度が顕著に上昇するものであったが、本発明によれば、混合により培養液の温度を均一にすることができる。これにより、培養液の温度管理が容易になる。また、培養の大容量化が図れるため、チューブ型培養槽の全長を短くでき、イニシャルコスト及びランニングコストを削減することができる。
【0014】
また、前記混合羽部材は、培養液の流動方向に対して板状部材を右方向に捩った右捩り羽根と、培養液の流動方向に対して板状部材を左方向に捩った左捩り羽根と、を交互に並設して構成されていることが好ましい。かかる構成によれば、培養液をより効率よく混合することができる。
【0015】
また、前記混合羽根部材は、光透過性材料で形成されていることが好ましい。かかる構成によれば、培養液に光をより効果的に照射することができる。
【0016】
また、前記培養液に養分を供給する養分供給手段と、前記培養槽に照射される光エネルギーを計測する光計測器と、前記チューブ型培養槽内の前記微生物の濃度を計測する濃度計又は前記培養槽内のpHを計測するpH計と、前記光計測器の計測結果と前記濃度計又は前記pH計の計測結果から、前記二酸化炭素を含む気体及び前記養分の供給量を演算する演算装置と、をさらに備えていることが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、光エネルギー、微生物の濃度又はpHの数値に基づいて適量の二酸化炭素及び養分を供給することができるため培養の管理が容易になる。
【0018】
また、前記チューブ型培養槽に形成された脱気用配管と、前記脱気用配管に連結され前記チューブ型培養槽で生成された酸素を吸引して大気に排出する排気手段と、をさらに有することが好ましい。
【0019】
チューブ型培養槽内の酸素が飽和状態となると培養効率が低下する原因となるが、かかる構成によれば、チューブ型培養槽内の酸素を効果的に排気することができるため培養効率を高めることができる。
【0020】
また、本発明は、チューブ型培養槽の内部に、微生物を培養する培養液と二酸化炭素を含んだ気体とを供給し、光を照射して前記微生物を培養する培養方法であって、前記チューブ型培養槽内の前記培養液をこのチューブ型培養槽の軸線を周りながら流れるように誘導させることを特徴とする。
【0021】
かかる方法によれば、培養液がチューブ型培養槽の軸線を周りながら流動し、混合される。これにより、チューブ型培養槽の内径を大きくしても、培養液に効果的に光を照射することができるため、培養効率を高めることができる。また、チューブ型培養槽の内径を大きく設定することができるため、培養の大容量化が図れる。また、チューブ型培養槽の内径を大きく設定できるため、培養液の温度上昇を抑制することができる。これにより、培養液の温度管理が容易になる。また、大容量化が図れるため、チューブ型培養槽の全長を短くでき、イニシャルコスト及びランニングコストを削減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る培養装置及び培養方法によれば、培養効率の向上、培養の大容量化及びコストの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る培養装置を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係る第一培養槽を示す拡大図である。
【図3】(a)は、本実施形態に係る右捩り羽根部材を示し、(b)は、本実施形態に係る左捩り羽根部材を示した側面図である。
【図4】図2のI-I断面図である。
【図5】他の実施形態に係る培養装置を示す概略図である。
【図6】他の実施形態に係る脱気用配管を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1に示すように、本実施形態に係る培養装置1は、培養槽2と、培養液供給手段3と、気体供給手段4と、膨張タンク5と、脱気器6と、光量子計7と、pH計8と、制御手段9とを主に有する。培養装置1は、培養槽2で光合成によって微生物を培養する閉鎖系の装置である。
【0025】
培養槽2は、藻類等の微生物を含んだ培養液を流しつつ、光合成を行って微生物を増殖させる部分である。培養槽2は、本実施形態では、第一培養槽11及び第二培養槽12の2系統を備えている。培養槽2は、例えば日当たりの良い屋外に設置して、太陽光を照射させる。培養槽2に照射する光は、蛍光灯等で発生した人工的な光であってもよい。培養液内の微生物の種類は特に制限されるものではない。
【0026】
第一培養槽11は、図2に示すように、一定の内径を備えた円筒状を呈するチューブ型培養槽であって、平面視して蛇行状に形成されている。第一培養槽11の上流端は、ヘッダ管13に接続され、下流端は、ヘッダ管14に接続されている。ヘッダ管13から流入した培養液は、第一培養槽11内を流れてヘッダ管14から排出するようになっている。第一培養槽11の内径は、特に制限されないが、本実施形態では約20cmとなっている。また、第一培養槽11の材料は、光透過性材料であれば特に制限されないが、本実施形態では例えば、アクリル樹脂を用いている。
【0027】
第一培養槽11は、一体成形されたチューブ(円筒管)を用いてもよいが、本実施形態では、複数の直線状のチューブ(15a〜15l)と、湾曲状のチューブ(16,17)とを連結して構成されている。より詳しくは、第一チューブ15a〜第四チューブ15dを直列に連結して直線部15Aが構成されている。また、第五チューブ15e〜第八チューブ15hを直列に連結して直線部15Bが構成されている。また、第九チューブ15i〜第十二チューブ15lを直列に連結して直線部15Cが構成されている。直線部15Aと直線部15Bとは、湾曲状のチューブ16で連結され、直線部15Bと直線部15Cとは、湾曲状のチューブ17で連結されている。
【0028】
図2に示すように、第一チューブ15aの内部には、混合羽根部材21が設けられている。混合羽根部材21は、第一チューブ15a内を流れる培養液が、第一チューブ15aの軸線を周りながら流れるように誘導する板状部材である。混合羽根部材21は、本実施形態では、右捩り羽根22と左捩り羽根23とを1組として、3組並設して構成されている。
【0029】
右捩り羽根22は、図3の(a)に示すように、この図面の左側から見て、板状部材の一端側を右方向(時計回り方向)に180°捩って形成されている。右捩り羽根22の端部22a,22aの縦の長さは、第一チューブ15aの内径と同等の長さで形成されている。したがって、図4に示すように、第一チューブ15aの内部に右捩り羽根22を固定すると、右捩り羽根22の両側縁22b,22bが、第一チューブ15aの内面に当接するように形成されている。
【0030】
一方、左捩り羽根23は、図3の(b)に示すように、この図面の左側から見て、板状部材の一端側を左方向(反時計回り方向)に180°捩って形成されている。左捩り羽根23の端部23a,23aの縦の長さは、第一チューブ15aの内径と同等の長さで形成されている。具体的な図示はしないが、左捩り羽根23の両側縁23b,23bは、第一チューブ15aの内面に当接するように形成されている。右捩り羽根22及び左捩り羽根23の材料は特に制限されないが、光透過性材料であることが好ましいため、本実施形態では例えばアクリル樹脂を用いている。
【0031】
右捩り羽根22及び左捩り羽根23の捩り角度は、本実施形態では180°に設定したが、捩り角度を165〜195°(より好ましくは170〜190°)の範囲で適宜設定してもよい。また、本実施形態では、右捩り羽根22及び左捩り羽根23のアスペクト比(縦の長さと横の長さの比)を1.5に設定したが、アスペクト比は適宜設定すればよい。
【0032】
図2に示すように、本実施形態では、隣接する右捩り羽根22と左捩り羽根23との交叉角度が90°となるように並設している。つまり、隣接する右捩り羽根22の端部22a(図3(a)参照)と左捩り羽根23の端部23a(図3の(b)参照)とが断面視して略十字状を呈するように90°ずらして並設している。本実施形態では右捩り羽根22と左捩り羽根23との交叉角度を90°としたが、交叉角度を70〜110°(より好ましくは80〜100°)の範囲で適宜設定してもよい。
なお、隣接する右捩り羽根22と左捩り羽根23の交叉角度を前記した角度に保つ方法としては、それぞれの羽根の中心部に切欠きを設け、これらの切欠き同士を組み合わせてもよい。隣接する右捩り羽根22と左捩り羽根23の交叉角度を保つ方法は他の方法であってもよい。
【0033】
図2に示すように、第二チューブ15b〜第十二チューブ15lの内部にも、第一チューブ15aと同様に、混合羽根部材21が形成されている。これにより、第一培養槽11の直線部15A,15B,15C内では、混合羽根部材21に誘導されて培養液が混合される。
【0034】
第一培養槽11を形成する際には、単一のチューブ内に混合羽根部材21を固定した部材を複数個作成した後、これらの部材を直列に連結して形成するのがよい。これにより、第一培養槽11の長さの調節が容易になるとともに、メンテナンスに対しても好適である。
【0035】
なお、単一のチューブ(例えば、第一チューブ15a)に設けられる右捩り羽根22及び左捩り羽根23の設置個数や大きさ等は特に制限されるものではない。また、本実施形態では、混合羽根部材21を前記したように構成したが、これに限定されるものではなく、第一培養槽11の軸線を周るように培養液が流れるようであれば、他の構成であってもよい。
【0036】
また、右捩り羽根22の端部22aの長さ(左捩り羽根23の端部23aの長さ)は、第一培養槽11の内径よりも短くしてもよい。混合羽根部材21と第一培養槽11の内面との間に隙間がある場合は、シール材等を介設させて隙間が無いように形成することが好ましい。また、湾曲状のチューブ16,17に混合羽根部材を設けてもよい。
【0037】
第二培養槽12は、第一培養槽11と略同等の構成であるため、共通する部分には同等の符号を付して第二培養槽12の詳細な説明は省略する。
【0038】
培養液供給手段3は、図1に示すように、培養液を流通(循環)させる動力源であって、管路D1を介してヘッダ管13に接続されている。培養液供給手段3は、本実施形態ではポンプを用いている。培養液は、培養液供給手段3によって培養槽2内を所定の流速で流れるように設定されている。なお、培養液の流速は、0.1〜3.0m/s(より好ましくは、0.2〜2.0m/s)の範囲で適宜設定すればよい。
【0039】
気体供給手段4は、図1に示すように、二酸化炭素を含んだ気体を培養槽2に供給する装置であって、管路D2を介して培養槽2に接続されている。気体供給手段4は、本実施形態では送風機を用いている。培養槽2に供給する気体は、例えば工場やプラント等から排気される二酸化炭素を含んだ気体を利用することが好ましい。
【0040】
管路D2は、主管D20と、主管D20から分岐した分岐管D21〜D26とを備えている。分岐管D21〜D26の先端には、培養槽2に接続された気体供給ノズルN1〜N6がそれぞれ設けられている。
【0041】
より詳しくは、第一培養槽11においては、気体供給ノズルN1は、第一チューブ15aの最上流側に、気体供給ノズルN2は、第五チューブ15eの最上流側に、気体供給ノズルN3は第九チューブ15iの最上流側にそれぞれ設けられている。
また、第二培養槽12においても、気体供給ノズルN4は、第一チューブ15aの最上流側に、気体供給ノズルN5は、第五チューブ15eの最上流側に、気体供給ノズルN6は、第九チューブ15iの最上流側にそれぞれ設けられている。このように、等間隔をあけて気体供給ノズルを設けることで、バランスよく二酸化炭素を含んだ気体を供給することができる。
【0042】
分岐管D21〜D26には、図1に示すように、それぞれ電磁弁E1〜E6が設けられている。電磁弁E1〜E6は、制御手段9と電気的に接続されており、制御手段9からの制御信号に基づいて弁が開閉し、分岐管D21〜D26を気体流通可能な開状態と、気体流通を遮断する閉状態とを切り替える。
【0043】
膨張タンク5は、図1に示すように、ヘッダ管13に設置されている。太陽光が照射されて、培養槽2内で膨張した培養液や気体は、膨張タンク5によって吸収される。膨張タンク5の設置箇所は、特に制限されるものではない。
【0044】
脱気器6は、管路D3を介してヘッダ管14に接続されており、培養液内の酸素等の溶存気体を外部に排気する装置である。脱気器6には、冷却手段31、養分供給手段32及び補給水供給手段33が接続されている。管路D3から脱気器6に流入した培養液は、冷却手段31によって冷却され、培養液中に溶存する過剰酸素が外部に排気される。培養液は、培養槽2で太陽光に照射されるため、温度が上昇している。したがって、冷却手段31によって、培養液を培養に最適な25〜35℃に降下させる。
【0045】
養分供給手段32は、脱気器6内の培養液に対して養分を供給する装置である。養分供給手段32は、制御手段9と電気的に接続されており、制御手段9からの制御信号に基づいて、所定量の養分を供給する。供給する養分は特に制限されないが、例えば、窒素、リン酸、カリなどの無機養分やpH調整剤等を供給する。
【0046】
補給水供給手段33は、脱気器6内の培養液に対して新たに水を供給する装置である。補給水供給手段33は、断続的又は連続的に水を供給する。
【0047】
光量子計7は、培養槽2に照射される光量子を計測する光計測器である。光量子計7は、制御手段9と電気的に接続されており、計測された結果を制御手段9に送信する。光量子計7は、本実施形態では、第一培養槽11の最上流側及び第二培養槽12の最上流側にそれぞれ設置されている。光量子計7の設置箇所や設置個数は制限されるものではない。光量子計7に換えて、照度計を用いてもよいし、培養槽2に照射される光エネルギーを計測する他の光計測器を用いてもよい。
【0048】
pH計8は、培養液のpHを計測する装置である。pH計8は、制御手段9と電気的に接続されており、計測された結果を制御手段9に送信する。pH計8は、第一培養槽11及び第二培養槽12にそれぞれ三個ずつ設置されている。
【0049】
より詳しくは、pH計8は、第一培養槽11においては、第四チューブ15dの最下流側に、第八チューブ15hの最下流側に、第十二チューブ15lの最下流側にそれぞれ設置されている。同様に、pH計8は、第二培養槽12においても、第四チューブ15dの最下流側に、第八チューブ15hの最下流側に、第十二チューブ15lの最下流側にそれぞれ設置されている。pH計8の設置箇所や設置個数は限定されるものではないが、本実施形態のように、均等な間隔をあけて複数個設置することで、上流側と下流側で変化する培養液のpHをより正確に把握することができる。
【0050】
なお、pH計に換えて又はpH計と併用して培養液中の微生物の濃度を計測する濃度計を用いてもよい。濃度計を用いる場合も、濃度計を制御手段9に接続し、計測された結果を制御手段9に送信させる。
【0051】
また、第一培養槽11及び第二培養槽12には、培養液の温度を計測する温度計(図示省略)を備えている。温度計は、計測された結果を制御手段9に送信する。
【0052】
制御手段9は、CPU(Central Processing Unit)からなる演算装置と、RAM(Random Access Memory)等のメモリと、キーボード等の入力手段と、を備えている。本実施形態のように太陽光によって光合成を行う場合、1日又は1年を通して光の強さが異なる。また、微生物の光合成の活性量に伴って、培養液のpHや菌濃度等も変化するため、さらに、培養槽の光透過率も変化するため、これらの変化も考慮して、二酸化炭素を含んだ気体及び養分の供給量等を過不足なく供給することが好ましい。したがって、制御手段9は、効率よく培養を行うために、光の強さやpHに基づいて二酸化炭素の供給量及び養分の供給量等を演算し、各装置に制御信号を送信する。
【0053】
制御手段9のメモリには、本実施形態で利用する気体の二酸化炭素の濃度や培養液中の微生物の最適な濃度等が記憶されているものとする。また、メモリには、微生物の濃度、二酸化炭素、培養液の温度、光量子、pH、菌濃度等に基づいて微生物の増加量や、最適な二酸化炭素及び養分の供給量を算出可能なプログラムが記憶されている。
【0054】
演算装置は、本実施形態では、光量子計7から送信されたデータ及びpH計から送信されたデータ等に基づいて、これらのデータに対応する微生物の増加量や、最適な気体の供給量及び養分の供給量を算出する。制御手段9は、演算装置で算出された結果に基づいて、気体供給手段4及び電磁弁E1〜E6に制御信号を送り、二酸化炭素を含んだ気体の供給量を制御する。また、制御手段9は、演算装置で算出された結果に基づいて、養分供給手段32に制御信号を送り、養分の供給量を制御する。
【0055】
例えば、日中など光の照射が強い場合は、微生物の光合成が盛んに行われるため、培養液中の二酸化炭素が減少する。また、二酸化炭素の減少に伴って、pHが高くなる(アルカリ性になる)。したがって、この場合は、二酸化炭素を含んだ気体及び養分の供給量を多くする。これにより、培養液のpHを、光合成に最適な中性に保つことができる。
一方、夜間など光の照射が弱い場合は、微生物の光合成が沈静化するので、培養液中の二酸化炭素が増加する。また、二酸化炭素の増加に伴って、pHが低くなる(酸性になる)。したがって、この場合は、二酸化炭素及び養分の供給量を少なくする。これにより、培養液のpHを、光合成に最適な中性に保つことができる。
【0056】
ここで、光合成に必要な二酸化炭素の量については、光合成/カルビンサイクルに基づいて、次のように考えられる。
CO2+H2O+8光量子 → 1/6×C6126+O2(式1)
式1より、44gの二酸化炭素と18gの水と8光量子で、30gの炭化水素が合成される。また、微生物中の炭素量が55%(通常、40〜75%)である場合、質量1gの微生物中の炭素は0.55gとなるが、この炭素は空中の二酸化炭素を固定したものである。したがって、炭素の原子量12と二酸化炭素の分子量44を考慮すると、0.55gの炭素は約2g(≒0.55g÷12×44)の二酸化炭素を固定したことになる。即ち、1gの微生物には2gの二酸化炭素が必要となる。
【0057】
また、光合成に必要な養分(例えば、窒素)については、次のように考えられる。微生物中の蛋白質の約16%が窒素であるため、微生物中の蛋白質量が50%(通常、40〜70%)である場合、質量1gの微生物中の窒素は0.08gとなる。即ち、1gの微生物には、0.08gの窒素が必要となる。なお、窒素以外の養分は微量ではあるが、前記と同様にして質量1gの微生物に対する必要量を把握できる。
【0058】
したがって、8光量子による光合成/カルビンサイクルには、44gの二酸化炭素と1.76gの窒素が必要であり、22gの微生物の増加となるので、光量子計7によって光の強さを測定することにより、二酸化炭素の供給量、養分の供給量及び微生物の増加量が概略計算できる。
【0059】
なお、制御手段の構成については、前記した構成に限定されるものではない。
【0060】
次に、図1等を参照して培養装置1の動作について説明する。まず、培養液供給手段3から管路D1及びヘッダ管13を介して培養槽2に藻類等の微生物を含んだ培養液が供給される。また、気体供給手段4によって、培養槽2に二酸化炭素を含んだ気体が供給される。
【0061】
培養槽2に照射される光及び供給された二酸化炭素によって、培養液中の藻類が光合成を行って酸素を生成する。培養槽2から流出した培養液は、ヘッダ管14を介して管路D3に流入する。管路D3では、培養液の一部が収穫され、残りは脱気器6に流入する。脱気器6では、培養液が冷却されるとともに、培養液中に溶存している酸素が外部に排出される。
【0062】
脱気器6では、培養液に養分及び補給水が追加され、管路D4から培養液供給手段3に送られる。このように、培養装置1では、主に培養槽2、培養液供給手段3及び脱気器6で培養液を循環させつつ、微生物の培養を行う。培養槽2に供給される二酸化炭素を含んだ気体や養分の供給量は、最適な光合成が行われるように制御手段9によって制御されている。
【0063】
以上説明した培養装置1によれば、培養槽2内に混合羽根部材21を設けているため、培養槽2内を流れる培養液を混合させることができる。つまり、図4に示す第一培養槽11を例に説明すると、培養液は、混合羽根部材21の右捩り羽根22の捩れ面によって誘導され、第一培養槽11の軸線Cを周りながら流動する。これにより、第一培養槽11内で培養液を効率よく混合することができる。
【0064】
また、本実施形態では、培養液の流動方向に対して板状部材を右に捩った右捩り羽根22と、培養液の流動方向に対して左に捩った左捩り羽根23とを交互に、かつ、90°位相をずらして並設したため、培養液の転換作用と分割作用を備えている。つまり、培養液が右捩り羽根22及び左捩り羽根23の捩れ面に沿って軸線Cから第一培養槽11の内面方向へ又は、第一培養槽11の内面から軸線C方向へ流動方向が転換するとともに、培養液が右捩り羽根22の端部22a及び左捩り羽根23の端部23a(図3の(b)参照)に衝突して分割される。これにより、均一に培養液を混合することができる。
【0065】
また、混合羽根部材21を設けることで、混合羽根部材21を設けない場合と比べて第一培養槽11内の気体の移動距離、つまり、気体の溶解時間を長くすることができるため、培養槽2の長さに対する気体の溶解効率が高まる。また、第一培養槽11内では、培養液中の気泡が混合羽根部材21に衝突して微細化され、培養液との接触面積が大きくなるので、培養槽2の長さに対する気体の溶解効率をより高めることができる。
【0066】
このように、本実施形態では培養槽2内に、混合羽根部材21を備えているため、培養槽2の内径を大きく設定(本実施形態では、内径を20cmに設定)しても、培養槽2内の培養液に効果的に光を照射することができる。これにより、培養効率を高めることができるとともに、培養の大容量化を図れる。
【0067】
また、従来の培養装置では、培養槽の内径が小さかったため、培養液の温度が上昇しやすかった。よって、培養槽に適切な温度(例えば、25〜35℃)を超えやすく、培養効率が低下したり、培養液中の微生物が死滅したりすることがあった。しかし、本実施形態によれば、培養槽2の内径を大きくすることができるため、培養槽2内の温度上昇を抑制することができる。これにより、培養液の温度管理が容易になる。仮に、培養槽2にスプリンクラーなどの冷却手段を設けたとしても、設置個数等を削減できる。よって、初期コスト及びランニングコストを削減することができる。また、本実施形態によれば、培養の大容量化を図れるため、従来に比べて培養槽2の全長を短くでき、さらなるコストの削減が図れる。
【0068】
また、従来の培養装置では、培養槽の内径が小さかったため、培養槽単位断面積あたりの二酸化炭素の供給ポイントを多くせざるを得なかった。これにより、培養装置のコストの増加を伴っていた。しかし、本実施形態によれば、培養槽2の内径を大きくすることができるため、二酸化炭素の供給ポイント(気体供給ノズルN1〜N6)を比較的少なくすることができ、培養装置のコストを削減できる。
【0069】
ここで、混合羽根部材21と培養槽2の内面との間に隙間があると、その隙間に気体が流れて培養液に気体が溶解しなかったり、培養液の混合効率が低下したりして、培養効率が低下する。しかし、本実施形態では、図4に示すように、右捩り羽根22の両側縁22b,22b(左捩り羽根23の両側縁23b,23b)を培養槽2の内面に当接させているため、培養液への気体の溶解効率及び混合効率を高めることができ、ひいては培養効率を高めることができる。
【0070】
また、培養槽2及び混合羽根部材21をアクリル(光透過性材料)で形成しているため、より効果的に培養液に光を照射できる。また、光量子計7及びpH計8の計測結果に基づいて、制御手段9が適切な量の二酸化炭素を含んだ気体及び養分を供給するため、培養効率を高めることができる。
【0071】
また、培養液中に溶存する酸素が過多になると、光合成に悪影響を与えることになるが、脱気器6によって酸素を排気することで、培養効率を高めることができる。
【0072】
次に、図5及び図6を用いて他の実施形態について説明する。他の実施形態では、図5に示すように、培養槽2内で混合羽根部材21を所定の間隔をあけて設けている点及び脱気用配管41及び排気手段42を設けた点で前記した実施形態と相違する。他の構成については、前記した実施形態と同等であるため、共通する部分においては同等の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0073】
第一培養槽11’は、混合羽根部材21を備えているチューブと備えていないチューブとを交互に有する。つまり、第二チューブ15b’、第四チューブ15d’、第六チューブ15f’、第八チューブ15h’、第十チューブ15j’及び第十二チューブ15l’には、混合羽根部材21を設けていない。
【0074】
脱気用配管41は、図5に示すように、第一培養槽11’及び第二培養槽12’の長手方向中央にそれぞれ一つずつ設けられている。脱気用配管41,41は、管路D5を介して排気手段42に接続されている。
【0075】
排気手段42は、本実施形態では、真空ポンプを用いている。脱気用配管41及び排気手段42によって、培養槽2内で生成された酸素を吸引して、外部に排気するように形成されている。また、排気手段42は、管路D6を介して脱気器6に接続されており、脱気器6内の培養液に溶存する酸素を吸引して排気するように形成されている。
【0076】
図6に示すように、第六チューブ15f’と第七チューブ15gの間には、開口43aを備えた連結チューブ43が介設されている。脱気用配管41は、連結チューブ43の開口43aに連通するノズル44と、フィルタ45とを有する。ノズル44の先端には、排気手段42(図5参照)に連通する管路D5が接続されている。ノズル44の内部には、フィルタ45が設けられている。フィルタ45は、例えば多孔質セラミックスで形成されており、水を通しにくく、気体を通しやすくなっている。なお、フィルタ45は、多孔質セラミックスに換えて、超極細繊維製不織布を用いてもよい。フィルタ45の長さは、ノズル44の長さよりも短くなっており、開口43aからフィルタ45の端面の間に空気溜り46が形成されている。空気溜り46を設けることで、培養液に溶存する酸素がフィルタ45側に流動しやすくなっている。
【0077】
他の実施形態によれば、混合羽根部材21の設置箇所を減らすことで、培養装置1’の製造コストを削減することができる。
【0078】
また、脱気用配管41及び排気手段42を備えることで、培養液に溶存する酸素を効率よく外部に排気することができる。これにより、酸素過多による微生物の増殖速度の低下を回避することができる。
【0079】
なお、脱気用配管41の設置箇所や設置個数は、培養装置1’の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。また、連結チューブ43を用いずに、単一のチューブ(例えば、第六チューブ15f’に脱気用配管41を設置してもよい。
【0080】
以上発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、第一培養槽及び第二培養槽と培養槽をニ系統設けたが、何系統設置してもよい。脱気用配管41及び排気手段42は、図1で示す培養装置1に設けてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 培養装置
2 培養槽(チューブ型培養槽)
3 培養液供給手段
4 気体供給手段
5 膨張タンク
6 脱気器
7 光量子計(光計測器)
8 pH計
9 制御手段
11 第一培養槽
12 第二培養槽
13 ヘッダ管
14 ヘッダ管
15a〜15l 直線状のチューブ
16 湾曲状のチューブ
17 湾曲状のチューブ
21 混合羽根部材
22 右捩り羽根
23 左捩り羽根
31 冷却手段
32 養分供給手段
33 補給水供給手段
41 脱気用配管
42 排気手段
43 連結チューブ
44 ノズル
45 フィルタ
46 空気溜り
E1〜E6 電磁弁
N1〜N6 気体供給ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を培養する培養液が流れるチューブ型培養槽と、
前記チューブ型培養槽に前記培養液を供給する培養液供給手段と、
前記チューブ型培養槽に二酸化炭素を含んだ気体を供給する気体供給手段と、を備えた微生物を培養する培養装置であって、
前記チューブ型培養槽の内部に、前記培養液がこのチューブ型培養槽の軸線を周りながら流れるように誘導する混合羽根部材が形成されていることを特徴とする培養装置。
【請求項2】
前記混合羽部材は、培養液の流動方向に対して板状部材を右方向に捩った右捩り羽根と、培養液の流動方向に対して板状部材を左方向に捩った左捩り羽根と、を交互に並設して構成されていることを特徴とする請求項1に記載の培養装置。
【請求項3】
前記混合羽根部材は、光透過性材料で形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の培養装置。
【請求項4】
前記培養液に養分を供給する養分供給手段と、
前記培養槽に照射される光エネルギーを計測する光計測器と、
前記チューブ型培養槽内の前記微生物の濃度を計測する濃度計又は前記培養槽内のpHを計測するpH計と、
前記光計測器の計測結果と前記濃度計又は前記pH計の計測結果から、前記二酸化炭素を含む気体及び前記養分の供給量を演算する演算装置と、をさらに備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の培養装置。
【請求項5】
前記チューブ型培養槽に形成された脱気用配管と、
前記脱気用配管に連結され前記チューブ型培養槽で生成された酸素を吸引して大気に排出する排気手段と、をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の培養装置。
【請求項6】
チューブ型培養槽の内部に、微生物を培養する培養液と二酸化炭素を含んだ気体とを供給し、光を照射して前記微生物を培養する培養方法であって、
前記チューブ型培養槽内の前記培養液をこのチューブ型培養槽の軸線を周りながら流れるように誘導させることを特徴とする培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−200177(P2011−200177A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71194(P2010−71194)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】