説明

基地局装置およびアンテナ制御方法

【課題】受信信号に基づいて信号の到来方向を推定し好適にアンテナパターンを決定することができる基地局装置を提供する。
【解決手段】本実施形態における基地局装置1は、スイッチ12、送受信系統部13、スイッチ制御部15、RSSI測定部32およびパターン決定部34を備えた。スイッチ12は、複数のアンテナ10の組合せを切り替え異なる方向に指向する複数の指向性アンテナパターンまたは無指向性アンテナパターンを形成する。スイッチ制御部15は、スイッチ12を制御し、所要の指向性アンテナパターンを用いて信号を受信させる。RSSI測定部32は、指向性アンテナパターンを用いて受信された信号の受信強度をそれぞれ測定する。パターン決定部34は、受信強度の測定結果に基づいて受信強度が最大となるアンテナパターンを、移動局との通信に利用されるアンテナパターンとして決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、基地局装置およびアンテナ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アダプティブアレイアンテナを用いた基地局装置が適用的な指向性通信を行う無線通信技術が知られている。この無線通信技術は、アンテナ指向性の主ビームを所望波方向に向け、干渉波方向には指向性の谷間(ヌル)を向けるよう、適用的に変化させる技術である。例えば、RACH(Random Access CHannel)を用いて移動局から送信される信号に基づいて、基地局装置がアダプティブアレイアンテナの指向性を形成する技術が知られている。
【0003】
RACHを用いて送信される信号(RACH信号)は、例えばW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)やHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)、LTE(Long Term Evolution)などの通信方式において、通信開始時に移動局から基地局に対して送信される信号である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−158479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
RACH信号に基づいてアンテナの指向性を形成する場合、基地局装置はRACH信号に基づいてウェイト演算を行うことにより信号の到来方向を推定する。基地局装置は送受信系統を所要数備えた場合には、一定の品質でこのウェイト演算を行うことができ、到来方向の推定を精度よく行うことができる。この結果、基地局装置は適切なアンテナの指向性を形成することができる。
【0006】
しかし、RACH信号などのパケット長が短い信号を用いた場合、ウェイト演算の性能が劣化してしまうという課題があった。また、送受信系統数に制約を受け、基地局装置が備える送受信系統数が少ない場合には、ウェイト演算による到来方向の推定や送信ビームの制御性能が劣化するという課題もあった。このため、送受信系統数が制約される場合には、基地局装置はRACH信号を用いたアンテナの指向性を形成することができず、無指向性で信号を送信することになってしまう。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、受信信号に基づいて信号の到来方向を推定し好適にアンテナパターンを決定することができる基地局装置およびアンテナ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態における基地局装置は、複数のアンテナと、スイッチと、受信部と、スイッチ制御部と、RSSI測定部と、パターン決定部とを備える。スイッチは、アンテナの組合せを切り替え、異なる方向に指向する複数の指向性アンテナパターンまたは無指向性アンテナパターンを形成する。受信部は、移動局から送信された所定の信号をアンテナから受信する。スイッチ制御部は、スイッチを制御し、所要の指向性アンテナパターンを用いて信号を受信させる。RSSI測定部は、指向性アンテナパターンを用いて受信された信号の受信強度をそれぞれ測定する。パターン決定部は、受信強度の測定結果に基づいて受信強度が最大となるアンテナパターンを、移動局との通信に利用されるアンテナパターンとして決定する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る基地局装置の実施形態を示す機能ブロック図。
【図2】図1のアンテナの構成を特に示す図。
【図3】アンテナが形成するアンテナパターンの一例を示す図。
【図4】コンテンションベース方式のランダムアクセス手順を示す図。
【図5】本実施形態における基地局装置により実行される第1のアンテナパターン決定処理を説明するフローチャート。
【図6】本実施形態における基地局装置により実行される第2のアンテナパターン決定処理を説明するフローチャート。
【図7】本実施形態における基地局装置により実行される第3のアンテナパターン決定処理を説明するフローチャート。
【図8】本実施形態における基地局装置により実行される第4のアンテナパターン決定処理を説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る基地局装置およびアンテナ制御方法の一実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明に係る基地局装置の実施形態を示す機能ブロック図である。
【0012】
図2は、図1のアンテナの構成を特に示す図である。
【0013】
基地局装置1は、規格化団体である3GPPにおいて標準化された、W−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)やHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)、LTE(Long Term Evolution)などの各方式に準拠し、移動局の間で通信システムを形成する。また、基地局装置1は、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)を用いた通信システムに対しても適用可能である。
【0014】
基地局装置1は、N個のアンテナ10を備える。アンテナ10の後段には、リアクタンス素子14とM(N≧M)系統からなる送受信系統部13とが設けられる。アンテナ10は、スイッチ12の切り替えに基づいてそれぞれ送受信系統部13またはリアクタンス素子14に接続される。なお、送受信系統部13はM系統設けられるが、図1においてはそのうちの1つについて特に図示した。アンテナの構成は、両偏波面を受信できる指向性を形成するものであってもよい。
【0015】
スイッチ12は、送受信系統部13に接続された給電アンテナ素子と、リアクタンス素子14に接続された無給電アンテナ素子との組合せを切り替える。スイッチ制御部15は、後述するRSSI測定時やアンテナパターン決定時において適宜スイッチ12を制御する。本実施形態においては、基地局装置1は、送受信系統部13に接続された給電アンテナ素子と、リアクタンス素子14に接続された無給電アンテナ素子との組み合わせに応じて、アンテナ10の放射特性(アンテナパターン)を変更しアンテナ10に指向性を形成する。複数のアンテナパターンのうち一つは無指向性である。すなわち、アンテナ10は、異なる方向に指向する複数の指向性アンテナパターン、または無指向性アンテナパターンを形成することができる。
【0016】
図3は、アンテナ10が形成するアンテナパターンの一例を示す図である。
【0017】
図3における白丸は給電アンテナ素子を示し、黒丸は無給電アンテナ素子を示す。ここでは、給電アンテナ素子が2本、無給電アンテナ素子が1本である例を示す。
【0018】
図3(A)〜(C)に示すように、スイッチ12の切り替えに基づいて、アンテナ10は異なる指向性を形成することができる。
【0019】
RF部21は、給電アンテナ素子を介して受信された受信信号に対してダウンコンバートやA/D変換などの処理を行った後、この受信信号を復調部22に出力する。復調部22は、RF部21から出力された信号を復調し、レート変換部23に出力する。レート変換部23は、受信信号のチャネル品質(Channel Quality Indicator:CQI)に応じたMCS(Modulation and Coding Scheme)レベルに基づいて、復調部22より出力された信号の符号化率を変換する。
【0020】
復号部24は、レート変換部23から出力されたレート変換後の信号に誤り訂正などの復号処理を施し、受信データを得る。誤り検出部25は、復号された誤り検出符号により誤り検出を行う。本実施形態においては、誤り検出符号にCRC(Cyclic Redundancy Check、巡回冗長検査)符号を使用する。
【0021】
受信データ処理部26は、誤り検出部25から出力された受信データに基づいて、所要の処理を行う。CRC判定部27は、復号後の誤りを検出した結果、正しく復号できたか否かを判定する。CRC判定部27は、正しく復号できた場合はACK(Acknowledgement、肯定応答)を、誤って復号された場合にはNACK(Negative-Acknowledgement、否定応答)を移動局に対して送信させる。
【0022】
送信データ生成部28は、移動局に対して送信する所要のデータを生成する。符号部29は、送信データ生成部28から出力される送信パケットに対し、誤り訂正符号化などの符号化処理を施し、レート変換部30に出力する。レート変換部30は、符号部29において符号化処理が施されたデータにパンクチャード処理などを施して符号化率を変換する。変調部31は、レート変換部30から出力されたデータに変調処理を施し、RF部21に出力する。RF部21は、変調部31から出力された信号に対し、アップコンバートなどの所定の無線送信処理を施し、アンテナ10を介して基地局に対し送信する。
【0023】
RSSI測定部32は、復調部22で復調された受信した信号のRSSI(Received Signal Strength Indicator、受信信号強度)を測定する。本実施形態においては、RSSI測定部32は、指向性アンテナパターンを用いて受信された信号の受信品質を測定する品質測定部としての一例である。記憶部33は、RSSI測定部32で得られたRSSIの測定結果を記憶する。パターン決定部34は、記憶部33に記憶されたRSSIの測定結果に基づいて、移動局との通信に用いるアンテナパターンを決定する。
【0024】
一般に、基地局装置1は移動局との間で上りリンクの初期接続を行う場合、ランダムアクセス(Random Access:RA)を用いる。ランダムアクセスは、移動局から送信されるRACH(Random Access CHannel)により上りリンクにおける初期接続を確立するとともに、通信開始のための設定を行う方式である。ランダムアクセスは、ユーザごとに専用チャネルを割り当てずに行うコンテンションベースランダムアクセス(Contention Based Random Access)と、ユーザごとに専用チャネルを割り当てるノンコンテンションベースランダムアクセス(Non-Contention Based Random Access)の2つの方式を有する。
【0025】
これら2つの方式は、接続確立の目的に合わせて使い分けられる(例えば、3GPP TR 36.300 V9.4.0, “Evolved Universal Terrestrial Radio Access(E-UTRA) and Evolved Universal Terrestrial Radio Access Network (U-UTRAN);Overall description; Stage 2 (Release 9), 10.1.5 Random Access Procedure, (2010-03)参照)。以下、基地局装置1と移動局との通信にコンテンションベース方式を用いたランダムアクセスを適用した例を説明する。
【0026】
図4は、コンテンションベース方式のランダムアクセス手順を示す図である。
【0027】
ランダムアクセス手順は、4つの手順を有する。移動局と基地局装置1は、各手順においてRACHを用いてメッセージを送受信する。メッセージは、1つ目の手順から順に、Message1(RA Preamble)、Message2(RA Response)、Message3(Scheduled Transmission)、Message4(Contention Resolution)である。
【0028】
基地局装置1は、接続要求を行う移動局からMessage1を受信する。基地局装置1は、ランダムアクセスプリアンブルであるMessage1を正常に受信し接続要求を行った移動局を認識した場合、2つ目の手順としてランダムアクセスレスポンスであるMessage2を移動局に送信する。Message2は、RA Preambleの識別情報やタイミング調節情報、初期UL Grant(UL Scheduling Grant)、仮のC-RNTI(Cell specific-Radio Network Temporary Identifier)などを伝送する。RNTIは、ユーザを識別するためのテンポラリな識別子である。C-RNTIは、セル固有のテンポラリなユーザ識別子である。
【0029】
3つ目の手順であるスケジュールドトランスミッションの手順において、移動局は、基地局装置1に対してMessage3を送信する。Message3は、当該移動局の識別情報、例えば、上述した仮のC-RNTIやNAS messageなどを伝送する。Message3にはHARQ(Hybrid Automatic Repeat reQuest、ハイブリッド自動再送要求)が適用される。このため、基地局装置1は、メッセージの復号結果(CRC check結果)に基づいた送達確認情報Acknowledgement informationを制御チャネルを用いて移動局に送信する。
【0030】
移動局は、基地局装置1から送信された送達確認情報の内容に応じて再送制御を行う。送達確認情報の内容は、上述したACK(肯定応答)またはNACK(否定応答)の何れかで表現される。移動局は、基地局装置1よりNACKを受信した場合、Message3を再送する。移動局は、基地局装置1よりACKを受信した場合、4つ目の手順へ移行する。
【0031】
4つ目の手順であるコンテンションリゾルーションにおいて、基地局装置1は、移動局に対してMessage4を送信し上りリンクの確立を行う。
【0032】
本実施形態における基地局装置1は、上述したHARQが適用されたRACHのMessage3を用いて適切なアンテナパターンを決定するようになっている。以下、具体的に基地局装置1により実行されるアンテナパターン決定処理(アンテナ制御方法)を説明する。
【0033】
図5は、本実施形態における基地局装置1により実行される第1のアンテナパターン決定処理を説明するフローチャートである。
【0034】
以下に説明するアンテナパターン決定処理は、基地局装置1がRACHのMessage3を受信した後からMessage4を送信するまでに実行される処理を特に説明し、Message1およびMessage2の送受信処理の説明については省略する。以下に説明する第2〜第4のアンテナパターン決定処理においても同様である。
【0035】
ステップS1において、基地局装置1は、スイッチ制御部15の制御に基づいてスイッチ12を切り替えることにより無指向性のアンテナパターンを形成し、Message3を受信する。ステップS2において、基地局装置1は、CRC判定部27において、Message3が正常に受信できたか否かの判定を行う。基地局装置1は、Message3を正常に受信していないと判定した場合(CRC判定:No)、ステップS3において、HARQの送達確認情報としてNACKを移動局へ送信し、移動局からのMessage3の再送を待ち受ける。本実施形態において、NACKは移動局に対して信号の再送を要求する再送要求信号である。
【0036】
一方、基地局装置1はMessage3を正常に受信したと判定した場合(CRC判定:Yes)、ステップS4において、RSSI測定部32において受信信号からMessage3のRSSIを測定する。RSSI測定部32は、測定結果を記憶部33に記憶する。
【0037】
ステップS5において、基地局装置1は、アンテナ10が指向性を形成する全てのアンテナパターンにおいてMessage3を受信し、RSSIの測定を行ったか否かの判定を行う。基地局装置1は、全てのアンテナパターンでRSSIの測定を行っていないと判定した場合、ステップS6において、スイッチ制御部15の制御に基づいてスイッチ12を切り替えることにより、未だMessage3の受信が行われていないアンテナパターンへ変更する。その後処理はNACK送信ステップS3に進み、基地局装置1は移動局へNACKを送信する。
【0038】
ここで、基地局装置1はCRC判定ステップS2においてMessage3を正常に受信したと判定した場合であっても移動局へNACKを送信し、Message3の再送を要求する。基地局装置1は全てのアンテナパターンによってMessage3を受信するまで繰り返しNACKを送信する。すなわち、測定判定ステップS5において全てのアンテナパターンでMessage3のRSSIが測定されたと判定するまで受信ステップS1〜パターン変更ステップS6を繰り返す。
【0039】
基地局装置1は、測定判定ステップS5において全てのアンテナパターンに対してMessage3を受信しRSSIの測定結果が得られたと判定した場合、ステップS7において、記憶部33に記憶された各々のアンテナパターンに係るRSSIの測定結果に基づいて受信信号強度が最大となるアンテナパターンを決定する。なお、アンテナパターンに応じて複数の送受信系統部13においてRSSIの測定結果が得られる。この場合、基地局装置1は、複数の送受信系統部13のRSSIの測定結果を勘案することにより受信強度が最大となるアンテナパターンを決定する。
【0040】
ステップS8において、基地局装置1は、移動局へACKを送信する。本実施形態においては、ACKは、移動局に対して信号の送達が確認された旨の送達確認信号であり、Message3の受信が終了した場合に送信される、
【0041】
ステップS9において、基地局装置1は、スイッチ制御部15の制御に基づいてスイッチ12を切り替えることにより、アンテナパターンを決定されたアンテナパターンへ変更する。基地局装置1は、変更後のアンテナパターンを用いて移動局に対してMessage4を送信する。
【0042】
本実施形態における基地局装置1およびアンテナ制御方法は、このアンテナパターン決定処理により好適にアンテナ10の指向性を決定することができる。特に、基地局装置1の送受信系統数が制約された場合(例えば送受信系統数が2つ)、移動局からの信号の到来方向の推定にRACHのようなパケット長が短い信号を用いるとウェイト演算の精度が低下してしまう。これに対し、本実施形態における基地局装置1は、送受信に使用するアンテナ10の構成を順次変化させて得られた受信強度の測定結果により信号の到来方向の推定を行うため、送受信系統数が制約された場合であっても好適な指向性を持ったアンテナパターンを決定することができる。この結果、送信ビームに指向性を持たせることができ、基地局装置1からの送信信号が隣接の移動局へ与える干渉などを低減することができる。
【0043】
また、送受信系統数が多い場合には、ウェイト演算による信号の到来方向の推定精度は上がる一方で、基地局装置1の構成が複雑化してしまう。これに対し、本実施形態における基地局装置1は、送受信系統数が少ない場合であっても信号の到来方向推定を行うことができ、基地局装置1の構成を簡素化することができる。
【0044】
さらに、基地局装置1は、既存の規格に準拠した上でアンテナ10の指向性制御が可能である点においても有効である。
【0045】
なお、基地局装置1は、第1のアンテナパターン決定処理においては全てのアンテナパターンを用いて移動局からの信号を受信する例を説明した。これは、基地局装置1に接続している移動局が存在しない場合には有効であるが、接続中の移動局が存在する場合には接続中の移動局との通信品質を劣化させてしまう可能性がある。そこで、基地局装置1は以下に説明する第2のアンテナパターン決定処理を行うことにより、接続中の移動局が存在する場合であっても既存の通信に係る品質を劣化させることなく新たに上りリンクの確立を試みる移動局から送信される信号の到来方向推定を行うことができる。
【0046】
図6は、本実施形態における基地局装置1により実行される第2のアンテナパターン決定処理を説明するフローチャートである。
【0047】
第2のアンテナパターン決定処理においては、基地局装置1が無指向性または指向性を形成するアンテナパターンを用いて移動局からの上りリンク信号を待機し、かつ基地局装置1へ接続中の移動局が存在するものとする。
【0048】
第2のアンテナパターン決定処理におけるステップS11〜ステップS14およびステップS16〜ステップS19は、第1のアンテナパターン決定処理における受信ステップS1〜測定結果記憶ステップS4およびパターン変更ステップS6〜送信ステップS9とほぼ同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0049】
ステップS15において、基地局装置1は、アンテナ10が指向性を形成するアンテナパターンのうち、選択可能な全てのアンテナパターンにおいてMessage3を受信し、RSSIの測定を行ったか否かの判定を行う。「選択可能なアンテナパターン」は、既に接続中である移動局の方向を含んだ指向性を有するアンテナパターンであり、接続中の移動局の通信品質を劣化させることのない指向性を有するアンテナパターンである。例えば、接続中である移動局の方向に指向性の谷間(ヌル)が向くようなアンテナパターン以外のパターンを選択可能なアンテナパターンとする。
【0050】
基地局装置1は、選択可能な全てのアンテナパターンでRSSIの測定が行われていないと判定した場合、ステップS16において、スイッチ制御部15の制御に基づいてスイッチ12を切り替えることにより、未だMessage3の受信が行われていない選択可能なアンテナパターンへ変更する。一方、基地局装置1は、選択可能な全てのアンテナパターンに対してMessage3を受信しRSSIの測定結果が得られたと判定した場合、ステップS17へ進む。
【0051】
この第2のアンテナパターン決定処理を実行する基地局装置1によれば、第1のアンテナパターン決定処理により奏する効果に加え、接続中の移動局との通信の品質を劣化させることなく、他の移動局からの信号の到来方向を推定することができる。
【0052】
なお、第1および第2のアンテナパターン決定処理においては、品質測定部により測定される受信品質の一例としてRSSI測定により受信信号の強度を測定した。しかし、RSSI測定に代えて、またはRSSI測定と共にSINR(Signal-to Interference and Noise power Ratio、信号対干渉・雑音比)の測定を行うことにより受信信号の品質を測定してもよい。
【0053】
基地局装置1は、上述した第1および第2のアンテナパターン決定処理においては、移動局よりMessage3が1回送信される毎に1の指向性を有するアンテナパターンでMessage3を受信するようにアンテナ10を切り替えた。しかし、基地局装置1は、Message3の1回分の受信中に順次複数のアンテナパターンを用いてMessage3を受信するようにアンテナ10を切り替えてもよい。以下、フローチャートを用いて詳細に説明する。
【0054】
図7は、本実施形態における基地局装置1により実行される第3のアンテナパターン決定処理を説明するフローチャートである。
【0055】
この第3のアンテナパターン決定処理は、図5の第1のアンテナパターン決定処理に対応する処理である。
【0056】
ステップS21〜ステップS23は、第1のアンテナパターン決定処理における受信ステップS1〜NACK送信ステップS3とほぼ同様の処理であるため、ここでは説明を省略する。
【0057】
ステップS24において、基地局装置1は、RSSI測定部32において受信信号からMessage3のRSSIを測定する。RSSI測定部32は、Message3の信号長よりも短い一定時間の間RSSIを測定する。RSSI測定部32は、測定結果を記憶部33へ記憶する。
【0058】
ステップS25およびステップS26は、第1のアンテナパターン決定処理における測定判定ステップS5およびパターン変更ステップS6とほぼ同様の処理であるため、ここでは説明を省略する。
【0059】
ステップS27において、基地局装置1は、Message3の受信中であるか否かの判定を行う。基地局装置1は、Message3の受信中であると判定した場合、測定結果記憶ステップS24に進み変更後のアンテナパターンでRSSIを測定し、測定されたRSSIを記憶部33に記憶する。基地局装置1は、1回分のMessage3の受信中にスイッチ12を切り替えることにより順次アンテナパターンを変更し、複数のアンテナパターンを用いてRSSIの測定を行う。すなわち、基地局装置1は、アンテナパターンの変更とRSSIの測定を、Message3を1回受信している間に可能な回数を繰り返す。
【0060】
基地局装置1は、受信判定ステップS27においてMessage3の受信中ではないと判定した場合、すなわち移動局による1回分のMessage3の送信が終了したと判定した場合、NACK送信ステップS23に進む。
【0061】
ステップS28〜ステップS30は、第1のアンテナパターン決定処理のパターン決定ステップS7〜送信ステップS9とほぼ同様の処理であるため、ここでは説明を省略する。
【0062】
図8は、本実施形態における基地局装置1により実行される第4のアンテナパターン決定処理を説明するフローチャートである。
【0063】
この第4のアンテナパターン決定処理は、図6の第2のアンテナパターン決定処理に対応する処理である。すなわち第4のアンテナパターン決定処理は、基地局装置1が無指向性または指向性を形成するアンテナパターンを用いて移動局からの上りリンク信号を待機し、かつ基地局装置1へ接続中の移動局が存在する場合に適した処理である。
【0064】
ステップS31〜ステップS33、ステップS36、ステップS38〜ステップS40は、それぞれ第1のアンテナパターン決定処理(図5)における受信ステップS1〜NACK送信ステップS3、パターン変更ステップS6、パターン決定ステップS7〜送信ステップS9とほぼ同様の処理である。ステップS34、ステップS37は、第3のアンテナパターン決定処理(図7)における測定結果記憶ステップS24、受信判定ステップS27とほぼ同様である。ステップS35は、第2のアンテナパターン決定処理(図6)における測定判定ステップS15とほぼ同様である。このため、ここでは各処理の説明を省略する。
【0065】
この第3および第4のアンテナパターン決定処理を行う基地局装置1は、1回のRACHのMessage3の受信中に複数のアンテナパターンを用いてRSSIを測定することにより、少ない再送回数で到来方向推定を行うことが可能である。この結果、移動局との上りリンクの確立までの遅延時間を減少させることができる。
【0066】
なお、第1〜第4のアンテナパターン決定処理においては、RACHのMessage3を用いてアンテナパターンを決定する処理を説明した。しかし、アンテナパターンを決定するために用いられる信号は基地局装置1より再送要求を行うことが可能な他の信号、または、移動局より通知されるCQI(Channel Quality Indicator)などの通信品質情報を用いてもよい。例えば、基地局装置1は、データ通信時に移動局から送信されるSRS(Sounding Reference Symbol)を用いることにより、上りリンクの到来方向推定精度を補正したり、移動局の移動に追従したりすることも可能となる。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
1 基地局装置
10 アンテナ
12 スイッチ
13 送受信系統部
14 リアクタンス素子
15 スイッチ制御部
21 RF部
22 復調部
23、30 レート変換部
24 復号部
25 誤り検出部
26 受信データ処理部
27 CRC判定部
28 送信データ生成部
29 符号部
31 変調部
32 RSSI測定部
33 記憶部
34 パターン決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアンテナと、
前記アンテナの組合せを切り替え、異なる方向に指向する複数の指向性アンテナパターンまたは無指向性アンテナパターンを形成するアンテナ切替部と、
移動局から送信された所定の信号を前記アンテナから受信する受信部と、
前記アンテナ切替部を制御し、所要の前記指向性アンテナパターンを用いて前記信号を受信させる切替制御部と、
各前記指向性アンテナパターンを用いて受信された前記信号の受信品質をそれぞれ測定する品質測定部と、
前記受信品質の測定結果に基づいて前記受信品質が最大となるアンテナパターンを、前記移動局との通信に利用されるアンテナパターンとして決定するパターン決定部とを備えたことを特徴とする基地局装置。
【請求項2】
前記移動局に対して前記信号の再送を要求する再送要求信号または前記信号の送達が確認された旨の送達確認信号を送信する送信部をさらに備え、
前記移動局から送信される信号は、前記再送要求信号に基づいて複数回送信される信号であり、
前記切替制御部は、前記移動局より前記信号が1回受信される毎に1の前記指向性アンテナパターンで前記信号を受信するよう前記アンテナ切替部を制御し、
前記送信部は、所要の前記指向性アンテナパターンを用いた前記信号の受信が終了するまで前記再送要求信号を送信し、前記信号の受信が終了した場合前記送達確認信号を送信する請求項1記載の基地局装置。
【請求項3】
前記移動局に対して前記信号の再送を要求する再送要求信号または前記信号の送達が確認された旨の送達確認信号を送信する送信部をさらに備え、
前記移動局から送信される信号は、前記再送要求信号に基づいて複数回送信される信号であり、
前記切替制御部は、前記移動局より前記信号が1回受信中に順次複数の前記指向性アンテナパターンで前記信号を受信するよう前記アンテナ切替部を制御し、
前記送信部は、所要の前記指向性アンテナパターンを用いた前記信号の受信が終了するまで前記再送要求信号を送信し、前記信号の受信が終了した場合前記送達確認信号を送信する請求項1記載の基地局装置。
【請求項4】
前記切替制御部は、全ての前記指向性アンテナパターンを用いて前記信号を受信させるよう前記アンテナ切替部を制御する請求項2または3記載の基地局装置。
【請求項5】
前記切替制御部は、前記基地局装置と接続中の他の移動局が存在する場合、前記移動局の方向を含んだ指向性を有する指向性アンテナパターンで前記信号を受信するよう前記アンテナ切替部を制御する請求項2または3記載の基地局装置。
【請求項6】
前記移動局から送信される信号は、ランダムアクセスチャネルを用いて送信されるMessage3である請求項1〜5のいずれか一項記載の基地局装置。
【請求項7】
前記品質測定部は、前記信号のRSSI(Receive Signal Strength Indicator)またはSINR(Signal-to-Interference and Noise power Ratio)の少なくとも一方の測定により前記受信品質を測定する請求項1〜6のいずれか一項記載の基地局装置。
【請求項8】
複数のアンテナの組合せを切り替え、異なる方向に指向する複数の指向性アンテナパターンまたは無指向性アンテナパターンを形成するステップと、
移動局から送信された所定の信号を前記アンテナから受信するステップと、
所要の前記指向性アンテナパターンを用いて前記信号を受信させるステップと、
各前記指向性アンテナパターンを用いて受信された前記信号の受信品質をそれぞれ測定するステップと、
前記受信品質の測定結果に基づいて前記受信品質が最大となるアンテナパターンを、前記移動局との通信に利用されるアンテナパターンとして決定するステップとを備えることを特徴とするアンテナ制御方法。
【請求項9】
前記移動局に対して前記信号の再送を要求する再送要求信号または前記信号の送達が確認された旨の送達確認信号を送信するステップをさらに備え、
前記移動局から送信される信号は、前記再送要求信号に基づいて複数回送信される信号であり、
前記アンテナパターンを形成するステップは、前記移動局より前記信号が1回受信される毎に1の前記指向性アンテナパターンで前記信号を受信するよう前記アンテナパターンを切り替え、
前記送信するステップは、所要の前記指向性アンテナパターンを用いた前記信号の受信が終了するまで前記再送要求信号を送信し、前記信号の受信が終了した場合前記送達確認信号を送信する請求項8記載のアンテナ制御方法。
【請求項10】
前記移動局に対して前記信号の再送を要求する再送要求信号または前記信号の送達が確認された旨の送達確認信号を送信するステップをさらに備え、
前記移動局から送信される信号は、前記再送要求信号に基づいて複数回送信される信号であり、
前記アンテナパターンを形成するステップは、前記移動局より前記信号が1回受信中に順次複数の前記指向性アンテナパターンで前記信号を受信するよう前記アンテナパターンを切り替え、
前記送信するステップは、所要の前記指向性アンテナパターンを用いた前記信号の受信が終了するまで前記再送要求信号を送信し、前記信号の受信が終了した場合前記送達確認信号を送信する請求項8記載のアンテナ制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−54725(P2012−54725A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195101(P2010−195101)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(310022372)富士通東芝モバイルコミュニケーションズ株式会社 (219)
【Fターム(参考)】