説明

基材の表面改質方法及びその装置

【課題】表面処理後のプライマー塗布工を不要とし、基材の改質処を簡略化し、ひいては、基材へ接着(接着剤・両面テープ等)、印刷、塗装等を施す作業の能率を向上させる。
【解決手段】沸点が110°C以上の有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを燃料タンクBに封入し、このタンクから前記有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを混合させた状態で流出させ、前記液体燃焼ガスを気化させた後前記有機金属化合物液を気化させ、噴射させながらその燃焼炎30を基材に吹き付ける基材の表面改質方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は基材の表面改質方法及びその装置に関し、基材へ接着(接着剤・両面テープ等)、印刷、塗装等を施す場合においてその前処理として使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
従来におけるこの種の表面改質方法として、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理などが存在する。
【0003】
【特許文献1】特開2009−185392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる従来の表面改質方法にあっては、表面処理後にプライマー塗布して密着性を向上させていたため、プライマーの塗布および乾燥のための作業工程を必要とし、この結果意、基材の改質処理に手間がかかり、ひいては、基材へ接着(接着剤・両面テープ等)、印刷、塗装等を施す作業の能率を向上させにくいという不都合を有した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この不都合を解消することが、この発明の課題である。
【0006】
第一発明に係る基材の表面改質方法においては、沸点が110°C以上の有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを燃料タンクに封入し、このタンクから前記有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを混合させた状態で流出させ、前記液体燃焼ガスを気化させた後前記有機金属化合物液を気化させ、噴射させながらその燃焼炎を基材に吹き付けるものである。
【0007】
この場合、前記燃料タンク内のガス圧は2〜3Kg/cm2であり、減圧弁によって0.1〜0.5 Kg/cm2に減圧させるものである。
【0008】
また、第二発明に係る基材の表面改質装置においては、沸点が110°C以上の有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを封入した燃料タンクと、このタンクから前記有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを混合させた状態で加圧流出させる流路と、この流路に設置され前記液体燃焼ガスを気化させるための減圧弁と、前記流路における前記減圧弁の下流側に設置され前記前記有機金属化合物液を気化させるための蒸発手段とこの気化された燃料ガスと有機金属化合物の混合ガスを噴射させる手段とこの噴射した混合ガスを燃焼させながら基材に吹き付ける手段とからなる。
【発明の効果】
【0009】
第一発明に係る基材の表面改質方法は上記のように構成されているため、即ち、沸点が110°C以上の有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを燃料タンクに封入し、このタンクから前記有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを混合させた状態で流出させ、前記液体燃焼ガスを気化させた後前記有機金属化合物液を気化させ、噴射させながらその燃焼炎を基材に吹き付けるため、いずれの場所においても簡単な操作によって、燃焼炎を介して、基材の表面に均一なナノレベルの親水基層(酸化ケイ素膜等)が形成され、基材表面の濡れ指数が向上し(73Dyne以上)、接触角は10度C以下になる。この親水基層の形成された基材の表面へ接着(接着剤・両面テープ等)、印刷、塗装等を施した場合プライマー処理をした場合と同様な密着力のある強固な仕上がりを実現できる。図3〜図7に示すように、沸点が110°C未満の有機金属化合物液を使用した場合には、塗膜が剥がれるのに対して、同条件において沸点が110°C以上の有機金属化合物液を使用した場合には、塗膜は剥がれることはないものである。
【0010】
接着材を塗付した場合の引張り強さのテスト結果を表1にした。このテストは、引出デント(アダプター接着効果確認テスト)であり、有機金属化合物としてはシリコン化合物を使用したものである。このテストにおける凹みの大きさは約30cm、16mmアダプターをボンドで貼り付けて使用した。表から明確なようにこの発明の処理をしたほうが引張り強さ(密着性能)が発揮された
【0011】
よって、この基材の表面改質方法を使用すれば、従来必要とした、表面処理後のプライマー塗布工程が不要となるため、基材の改質処理が簡略化し、ひいては、基材へ接着(接着剤・両面テープ等)、印刷、塗装等を施す作業の能率を向上させながら、更に、予め、燃料ガスと有機金属化合物液(ガス)とが混合されているため、いずれの場所においても作業がしやすいものである。
【0012】
また、第二発明に係る基材の表面改質方法は上記のように構成されているため、即ち、沸点が110°C以上の有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを封入した燃料タンクと、このタンクから前記有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを混合させた状態で加圧流出させる流路と、この流路に設置され前記液体燃焼ガスを気化させるための減圧弁と、前記流路における前記減圧弁の下流側に設置され前記有機金属化合物液を気化させるための蒸発手段とこの気化された燃料ガスと有機金属化合物の混合ガスを噴射させる手段とこの噴射した混合ガスを燃焼させながら基材に吹き付ける手段とかなるため、携帯に便利であり、前記第一発明を容易に実施しやすいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明に係る「燃料タンク」には携帯に便利なボンベも含まれる。その内部のガス圧は2〜3Kg/cm2である。
【0014】
「減圧弁」は液化された燃料ガスを減圧して気化させるためのものであれば、いかなるものでもよい。0.1〜0.5 Kg/cm2に減圧させるものが適している。
【0015】
「蒸発手段」は通常の蒸発管が該当するが、有機金属化合物液を気化させるためのものであれば、いかなるものでもよい。
【0016】
「沸点が110°C以上の有機金属化合物」とは、シリコン、チタン等の沸点が110°C以上の有機化合物が該当するが沸点が110°C以上の燐酸エステル、炭化水素化合物でも良い。溶媒としては通常使用されるものが該当する。
【0017】
「燃焼ガス」はブタン、プロパンが適している。
【0018】
「噴射させながら燃焼」するため、有機金属化合物はラジカル状態のナノ粒子となり、基材に付着する。処理時間は0.1〜1秒程度でよい。
【0019】
シリコンラジカル基材との反応について説明する。
【0020】
基材が金属の場合、金属の自由電子とシリコンラジカルの1電子との間に共有結合を作る。
【0021】
基材がセラミックスの場合も同様である。
【0022】
基材が高分子化合物(プラスチック)の場合、高分子化合物のσ結合の水素原子と置換反応し、シリコンラジカルと結合する。
【0023】
π結合をもった高分子化合物、例えば、主鎖に二重結合を有するゴム等の高分子化合物、層間にπ結合を有するカーボンブラック等の高分子化合物、ベンゼン環を有する炭素繊維、エンプラ樹脂等の高分子化合物の場合は、挿入反応によってシリコンラジカルと結合する。
【0024】
基材がシリコン樹脂の場合は基本的には置換反応であり、σ結合を有する高分子化合物の場合と同じ結合方法である。
【実施例1】
【0025】
以下、図面に基づいてこの発明の実施例を説明する。
【0026】
図1は第二発明に係る基材の表面改質装置の説明図、図2はその作用説明図である。
【0027】
図1において、Aは基材の表面改質装置であり、Bは燃料タンクである。この燃料タンクBには液化燃料ガスと沸点が110°C以上の有機金属化合物液が混合液11として封入されている。その内部のガス圧は2〜3Kg/cm2である。12は燃料供給管であり、前記燃料タンクBに繋がれている。この燃料供給管はこの発明の「流路」に該当し、前記燃料タンクBの混合液11を後記バーナー13に供給するためのものである。14は減圧弁であり、前記燃料供給管12の途中に設置されている。前記混合液11はこの減圧弁14を通過することによって、液中の液体燃料ガスを気化させる。15は蒸発管(この発明の「蒸留手段」に相当する)であり、前記燃料供給管12における前記減圧弁14の下流側に設置されている。この蒸留管15を通過することによって、液中の有機金属化合物液は気化し、混合ガスとして、バーナー13に流れる。このバーナー13によって燃焼させながら、基材20の表面を撫でていく。
【0028】
すると、図2に示すように、炎30の内炎部31において、沸点が110°C以上の有機金属化合物がラジカル状態のナノ粒子Rになり基材20に付着していく。そして、基材20の表面に均一なナノ粒子の親水層40を形成する。
図3〜図7は、本願発明で処理した基材の密着力を試験した結果を表した図である。
この試験は、碁盤目試験と言われるもので、基材の塗膜表面に縦横約2OR 5mmの筋溝を形成し、接着テープ(市販のもの)を一旦貼り付けて剥がし、桝目状の塗膜の剥がれ具合を検査するものである。
全てのサンプルにおいて、基材としては樹脂材を使用し、塗料としてはアクリル塗料を、約0.2mmの厚さに塗布した。
また、筋溝の幅は約5mm、深さは約0.2mmである。
図3〜5は沸点が110°Cのシリカを使用したものであり、いずれの場合も部分的に剥がれ、密着度が不安定であることが明確になった。
図6,7は沸点が100°Cのシリカを使用したものであり、いずれの場合も部分的に剥がれ、密着度が不安定であることが明確になった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この発明に係る基材の表面改質方法を使用すれば、いずれの場所においても簡単な操作によって、燃焼炎を介して、基材の表面に均一なナノレベルの親水基層(酸化ケイ素膜等)が形成され、基材表面の濡れ指数が向上し(73Dyne以上)、接触角は10度C以下になる。この親水基層の形成された基材の表面へ接着(接着剤・両面テープ等)、印刷、塗装等を施した場合プライマー処理をした場合と同様な密着力のある強固な仕上がりを実現できる。このため、従来必要とした、表面処理後のプライマー塗布工程が不要となるため、基材の改質処理が簡略化し、ひいては、基材へ接着(接着剤・両面テープ等)、印刷、塗装等を施す作業の能率を向上させながら、更に、予め、燃料ガスと沸点が110°C以上の有機金属化合物液(ガス)とが混合されているため、いずれの場所においても作業がしやすいものである。その利用可能性は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は第二発明に係る基材の表面改質装置の説明図である。
【図2】図2はその作用説明図である。
【図3】図3は沸点が110°Cのシリカを使用した場合の剥離試験の結果を示したものである。
【図4】図4は沸点が110°Cのシリカを使用した場合の剥離試験の結果を示したものである。
【図5】図5は沸点が110°Cのシリカを使用した場合の剥離試験の結果を示したものである。
【図6】図6は沸点が100°Cのシリカを使用した従来例の剥離試験の結果を示したものである。
【図7】図7は沸点が100°Cのシリカを使用した従来例の剥離試験の結果を示したものである。
【符号の説明】
【0031】
A … 基材の表面改質装置
B … 燃料タンク
11 … 混合液
12 … 燃料供給管
13 … バーナー
14 … 減圧弁
15 … 蒸発管
20 … 基材
30 … 炎
31 … 内炎部
40 … 親水層
R … ラジカル粒子

【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が110°C以上の有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを燃料タンクに封入し、このタンクから前記有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを混合させた状態で流出させ、前記液体燃焼ガスを気化させた後前記有機金属化合物液を気化させ、噴射させながらその燃焼炎を基材に吹き付けることを特徴とする基材の表面改質方法。
【請求項2】
前記燃料タンク内のガス圧は2〜3Kg/cm2であり、減圧弁によって0.1〜0.5 Kg/cm2に減圧させることによって前記液体燃料ガスを気化させることを特徴とする請求項1の基材の表面改質方法。
【請求項3】
沸点が110°C以上の有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを封入した燃料タンクと、このタンクから前記有機金属化合物液と液体燃焼ガスとを混合させた状態で加圧流出させる流路と、この流路に設置され前記液体燃焼ガスを気化させるための減圧弁と、前記流路における前記減圧弁の下流側に設置され前記前記有機金属化合物液を気化させるための蒸発手段とこの気化された燃料ガスと有機金属化合物の混合ガスを噴射させる手段とこの噴射した混合ガスを燃焼させながら基材に吹き付ける手段とからなることを特徴とする基材の表面改質装置。
【請求項4】
前記燃料タンク内のガス圧は2〜3Kg/cm2であり、前記減圧弁で0.1〜0.5
Kg/cm2に減圧させることによって前記液体燃料ガスを気化させることを特徴とする請求項1の基材の表面改質装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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