説明

基板の乾燥方法

【課題】ウォーターマークの発生を抑制可能な基板の乾燥方法を提供する。
【解決手段】基板の乾燥方法は、洗浄後の基板を乾燥する基板の乾燥方法であって、前記洗浄された基板に、イソプロピルアルコールを除く有機化合物及び/又は還元剤を含むリンス液を供給する供給工程と、前記リンス液が付着した基板をイソプロピルアルコールを含む不活性ガスにより乾燥する乾燥工程とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄後の基板表面を乾燥する方法に係り、特にウォーターマークの発生を抑制可能な基板の乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスでは、シリコン基板に付着したパーティクルや有機汚染物を除去するために、シリコン基板を薬液洗浄し、純水でリンスした後、該基板表面を乾燥させる。
【0003】
洗浄後のシリコン基板を乾燥する方法として、遠心力で液を吹き飛ばして乾燥する方法(スピン乾燥)が提案されている。しかし、スピン乾燥では、乾燥時間が長くなると、回転機構からの発塵がおこり基板を汚染しやすく、さらには、乾燥が不完全になりウォーターマーク(残存水滴が乾燥することによって生じるシリコン基板上の薄い皮膜)が残りやすい等の問題がある。
【0004】
そこで、ウォーターマークの解決策として、イソプロピルアルコール(IPA)蒸気を用いる乾燥方法が提案されている(特許文献1参照)。例えば、IPA蒸気中でシリコン基板に付着した純水をIPAで置換しながら乾燥させる方法、水中からIPA蒸気中へシリコン基板を引き上げて乾燥させる方法(マランゴニ乾燥)、シリコン基板を回転させながら気液界面にIPA蒸気を吹き付けて乾燥させる方法(ロタゴニ乾燥)等が行われている。
【0005】
しかしながら、IPA蒸気で乾燥する方法を用いても、ウォーターマーク発生の低減は十分と言えるものではない。
【特許文献1】特開2002−158204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ウォーターマークの発生を抑制可能な基板の乾燥方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の基板の乾燥方法は、洗浄後の基板を乾燥する基板の乾燥方法であって、前記洗浄された基板に、イソプロピルアルコールを除く有機化合物及び/又は還元剤を含むリンス液を供給する供給工程と、前記リンス液が付着した基板をイソプロピルアルコールを含む不活性ガスにより乾燥する乾燥工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によれば、ウォーターマークの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0010】
シリコン基板におけるウォーターマーク形成のメカニズムは、図1〜図8によると、以下のように考えられる。
【0011】
図1は、電子工業用IPA原液に超純水を添加した場合の、超純水の添加量と過酸化水素の発生量との関係を示すグラフである。過酸化水素の発生とその生成濃度は、過酸化水素試験紙(野村マイクロ・サイエンス株式会社)により確認したものである。図1に示すように、IPA原液に超純水を添加すると、過酸化水素の発生が確認される。超純水の添加量が所定量(0.4ml付近)に達するまで、過酸化水素の生成濃度が増加している。
【0012】
図2は、窒素ガス雰囲気中で、溶存酸素濃度10ppbの超純水に電子工業用IPA原液を添加した場合の過酸化水素の発生を示すグラフである。過酸化水素の発生とその生成濃度は、過酸化水素試験紙により確認したものである。図2に示すように、不活性ガス中で溶存酸素濃度の低い超純水を使用しても、超純水にIPAを接触させると過酸化水素が発生する。超純水1mlにIPA原液100mlを添加すると、2ppmの過酸化水素が発生している。なお、IPA以外に、DMSO(ジメチルスルホキシド)、アセトン、メタノールをそれぞれ超純水に添加したが、過酸化水素の発生を確認できなかった。
【0013】
図3は、過酸化水素、IPA、t−ブチルアルコールのそれぞれの吸収波長を示すグラフである。これら吸収波長は、分光光度計(HITACHI 100-60形ダブルビーム分光高度計)を用いて測定した。過酸化水素の吸収波長は、250〜300nmであり、IPA、t−ブチルアルコールの吸収波長は、それぞれ220nm以下(190〜200nm)である。以下、過酸化水素の吸収波長を254nmとする。
【0014】
図4は、過酸化水素の吸光度と濃度との関係を示すグラフである。過酸化水素の濃度をyとし、吸光度をxとすると、y=0.03552xの検量線(相関係数R=0.9979)が得られる(ただし、ρ=1.12g/cm)。この検量線により、過酸化水素の吸収波長254nmを用いて測定された吸光度で、過酸化水素の濃度を算出する。
【0015】
図5は、超純水に一定量の過酸化水素を添加した溶液に、さらにIPAを添加した場合の、IPAの添加量と過酸化水素量との関係を示すグラフである。図5に示すように、超純水への過酸化水素の初期添加量が10μL、5μLの場合には、IPAの添加量の増加とともに、過酸化水素のモル量が減少している。これは、溶液中の過酸化水素がIPAと反応して減少したためと考えられる。一方、超純水への過酸化水素の初期添加量が1μLの場合には、IPAの添加量が増加しても、過酸化水素量の変化が殆ど見られない。これは、溶液中の過酸化水素がIPAと反応して分解した過酸化水素の分解量と、超純水とIPAとの間で生成した過酸化水素の生成量とがつり合っている状態にあると考えられる。この結果からも、超純水とIPAとの間で過酸化水素の生成反応が起こることが考えられる。
【0016】
図6は、窒素ガス雰囲気中で、脱気済み(溶存酸素濃度1ppm程度)の超純水3.5mlにIPAを添加し10分間攪拌した溶液の、IPAの添加量と過酸化水素の発生量との関係を示すグラフである。なお、過酸化水素の発生量は、過酸化水素の吸収波長254nmを用いて吸光度を分光光度計で計測し、図4に示した検量線を使用して定量した。
【0017】
図6に示すように、IPAの添加量の増加とともに、過酸化水素の生成量も増加している。
【0018】
IPAの添加量が3.5mlの場合には、過酸化水素の発生量は、7.4×10−3mol/Lである。これを濃度に換算すると、
7.4×10−3[mol/L]×3.4×10[mg/mol]
=251.6mg/l=251.6ppm
【0019】
IPAの添加量が0.5mlの場合には、過酸化水素の発生量は、1.8×10−3mol/Lである。これを濃度に換算すると、
1.8×10−3[mol/L]×3.4×10[mg/mol]
=61.2mg/l=61.2ppm
【0020】
IPAの添加量が0.1mlの場合には、過酸化水素の発生量は、上記と同様に濃度に換算すると23.8ppmである。すなわち、超純水に接触するIPAが極微量の場合であっても過酸化水素が発生し、図7に示すようにIPAの濃度の増加にともない、過酸化水素の生成速度は増加する。なお、図7中の[IPA]はIPAの初期添加量を示す。
【0021】
以下に示す方法で、直径200mmのシリコン基板上における過酸化水素の発生個数を算出する。図8に示すように、シリコン基板81は、その表面に超純水からなるUPW膜82が一面に形成されているものとする。このUPW膜82がIPAと接触して過酸化水素が生成する。ここで、図7を使用し、IPAとUPW膜との反応時間とIPA濃度より過酸化水素濃度を算出して、最終的にシリコン基板上における過酸化水素の発生個数を求める。
【0022】
まず、図7に示すHの生成速度からH濃度を算出する。ただし、IPA濃度は、[IPA]=1.5×10−2[mol/L](超純水の容積を基準)とし、IPAとHOとの反応時間をそれぞれ10秒、20秒、30秒とする。
(1)IPAとH2O反応時間が10秒の場合のH2O2濃度
[H2O2]=t・1.424×10−4[IPA]0.63
[H2O2]=(10/60)・1.424×10−4(1.5×10-20.63=1.68382×10−6mol/L
よって、1.68382×10−6mol/L×3.4×104mg/mol=5.725×10−2ppmとなる。
(2)IPAとH2O反応時間が20秒の場合のH2O2濃度
[H2O2]=t・1.424×10−4[IPA]0.63
[H2O2]=(20/60)・1.424×10−4(1.5×10-20.63=3.3676×10−6mol/L
よって、3.3676×10−6mol/L×3.4×104mg/mol=1.145×10−1ppmとなる。
(3)IPAとH2O反応時間が30秒の場合のH2O2濃度
[H2O2]=t・1.424×10−4[IPA]0.63
[H2O2]=(30/60)・1.424×10−4(1.5×10-20.63=5.0515×10−6mol/L
よって、5.0515×10−6mol/L×3.4×104mg/mol=1.7175×10−1ppmとなる。
【0023】
ここで、直径200mmのシリコン基板81上のUPW膜82の膜厚を5μmとすると、その体積は、(10)π×5×10−4[cm]=1.5708×10−1[cm]≒1.57×10−1[ml]である。
【0024】
次に、H2O2濃度が5.725×10−2ppmの場合における直径200mmのSi基板上のH2O2発生個数を求める。
5.725×10−2mg/1000ml×1.57×10-1ml=8.9882×10−6mg
6.02×1023×8.9882×10−6mg/3.4×104[mg/mol]=1.5914×1014
Si基板表面積が3.14×102[cm2]であるので、1.5914×1014個/3.14×102[cm2]=5.0683×1011個/cm2となる。
【0025】
次に、H2O2濃度が1.145×10−1ppmの場合における直径200mmのSi基板上のH2O2発生個数を求める。
1.145×10−1mg/1000ml×1.57×10-1ml=1.7976×10−5mg
6.02×1023×1.7976×10−5mg/3.4×104[mg/mol]=3.1829×1014
Si基板表面積が3.14×102[cm2]であるので、3.1829×1014個/3.14×102[cm2
=1.0137×1012個/cm2となる。
【0026】
次に、H2O2濃度が1.7175×10−1ppmの場合における直径200mmのSi基板上のH2O2発生個数を求める。
1.7175×10−1mg/1000ml×1.57×10−1ml=2.6965×10−5mg
6.02×1023×2.6965×10−5mg/3.4×104[mg/mol]=4.7743×1014
Si基板の表面積が3.14×102[cm2]であるので、4.7743×1014個/3.14×102[cm2]=1.5205×1012個/cm2となる。
【0027】
これらの結果から、シリコン基板表面に5.068×1011〜1.5205×1012個/cm2の過酸化水素が発生した場合には、該基板表面が酸化される可能性が考えられる。仮に、シリコン基板表面の一面に超純水からなるUPW膜が形成されておらず、該基板表面の5%に残留する程度であっても、過酸化水素の単位面積あたりの個数は、2.534×1010〜7.602×1010個/cm2である。この量でも、シリコン基板が酸化されるには十分な量であると考えられる。
【0028】
したがって、図1〜図7より、IPAと純水との間で過酸化水素の生成反応が起こることは明らかである。半導体デバイスの製造プロセスでは、シリコン基板を薬液洗浄し、純水でリンスした後、IPA蒸気を用いて乾燥させた場合には、シリコン基板表面に付着した水分とIPAとの間で過酸化物の生成反応が起こると考えられる。シリコン表面は活性であるため、該表面上でこのような生成反応が起こると、その表面に酸化膜(SiO)が形成され、酸化膜がシリコン基板上に残留してウォーターマークになると推測される。
【0029】
このため、ウォーターマークの生成を防ぐには、洗浄後のシリコン基板をIPA蒸気で乾燥する場合に、該基板の表面に酸化膜を形成させないようにすることが効果的である。すなわち、洗浄後のシリコン基板をIPA以外の有機化合物及び/又は還元剤を含むリンス液でリンスしてから、IPA蒸気で乾燥する。
【0030】
これによれば、水洗した後、直ちにIPA乾燥する従来の乾燥方法に比べて、過酸化物の生成反応を抑制することができ、IPAに水分が接触して過酸化物が生成しても、リンス液中の有機化合物と生成した過酸化物とが反応して過酸化物の酸化力を抑制し、基板表面における酸化膜の形成を防ぐことができる。
例えば、以下に示すように、過酸化水素Hは分解されて水になり[1]、メタノールは酸化されてホルムアルデヒドのような低分子有機化合物まで分解される[2]。
→ 2HO [1]
CHOH → HCHO → HCOOH [2]
また、過酸化物の生成が活性ラジカルに起因すると考えると、活性ラジカルが過酸化物を生成する前に有機化合物と反応してその酸化力を失わせる。
【0031】
本発明の好適な実施の形態では、単一の洗浄槽内で、シリコン基板表面に大気中で自然に形成された自然酸化膜(SiO膜)を薬液洗浄して除去し、水洗した後、IPAを除く有機化合物及び/又は還元剤を含むリンス液でリンスし、IPA蒸気中へシリコン基板を引き上げて乾燥を行う。ここで言う、有機化合物とは、過酸化物を分解可能なものを意味し、容易に分解されてシリコン基板上に残留し難い点から、低分子で揮発性の有機化合物が好ましい。これによれば、シリコン基板をIPA蒸気で乾燥する場合に、シリコン基板への酸化膜の形成が抑制され、ウォーターマークの発生を大幅に低減することができる。また、単一の洗浄槽で薬液洗浄とリンスを行うワンバス方式を使用することで、薬液が使い捨てであるためクロスコンタミネーションがなく、高い洗浄度を実現することができる。
【0032】
(第1の実施形態)
図9は、本実施形態に係る基板の洗浄乾燥装置を模式的に示す断面図である。1は、チャンバー、2は、チャンバーの内部に設置された洗浄槽、3は、洗浄対象のシリコン基板、4はシリコン基板3を上下移動させるためのリフターである。5は、洗浄槽バルブボックス8のバルブを介して洗浄槽2の下部に連通する純水ラインである。6は、洗浄槽バルブボックス8のバルブを介して洗浄槽2の下部に連通するメタノールライン(CHOH濃度1%)である。7は、洗浄槽バルブボックスのバルブを介して洗浄槽2の下部に連通する第1ドレインである。9は、同じく洗浄槽バルブボックス8のバルブを介して洗浄槽2の上部に連通する第2ドレインである。10は、チャンバーバルブボックス12のバルブを介してチャンバー1の下部に連通するチャンバードレインである。11は、チャンバーバルブボックス12のバルブを介してチャンバー下部に連通する真空ポンプである。13は、チャンバー上部に連通するガスラインである。
【0033】
以下、この洗浄乾燥装置を用いたシリコン基板3の乾燥方法を説明する。
【0034】
まず、シリコン基板3の表面に形成された自然酸化膜(SiO膜)を薬液洗浄して除去しておく。シリコン基板3の薬液洗浄工程は、特に限定されるものでなく、従来の方法のいずれでもよい。ここでは、フッ酸水溶液でシリコン基板3を薬液洗浄する方法を示す。その濃度、温度、流量、処理時間等の条件は任意であり、特定の条件に限定されない。例えば、シリコン基板3の薬液洗浄機構として、フッ酸ライン(不図示)を洗浄槽バルブボックス8のバルブを介して洗浄槽2の下部に連通するように設けておく。比抵抗15Ω以上の脱イオン水(以下、超純水とする)を満たした洗浄槽2内に、所定ピッチで配列した複数枚のシリコン基板3をリフター4で挿入する。次いで、純水ライン5、フッ酸ラインにより、同時に超純水とフッ酸を供給する。その後、プロセスの要求に応じて、この状態で所定時間放置し、シリコン基板3をフッ酸の作用で薬液洗浄する。
【0035】
次に、シリコン基板3を超純水で濯ぐ。純水ライン5から超純水を洗浄槽2内に導入しながら、第2ドレイン9から排液する。超純水の流量、処理時間は、洗浄槽2の容量、リフター4に複数配列されたシリコン基板3間のピッチ、使用した薬液の濃度に応じて適宜調整されるものであり、特定の条件に限定されない。
【0036】
続いて、シリコン基板3をメタノール溶液でリンスする。純水ライン5とメタノールライン6から、同時に超純水とメタノール溶液(CHOH濃度1%)とをシリコン基板3に供給し、洗浄槽2内のシリコン基板3をリンスする。このとき、シリコン基板3表面に供給されるCHOH濃度が、好ましくは1ppm〜1%、より好ましくは1ppm〜300ppm、さらに好ましくは1ppm〜100ppmとなるようにする。ここでは、純水ライン5とメタノールライン6を併用しているが、メタノールライン6から供給されるメタノール溶液が低濃度の場合には、メタノールライン6単独でもよい。メタノール溶液の流量、処理時間などの条件は、任意であるが、好ましくは1〜30l/minの流量であり、10〜20分の処理時間である。このように薬液洗浄し、水洗されたシリコン基板3をメタノールなどの揮発性有機化合物を含むリンス液でリンスすることで、その後のIPA蒸気による乾燥工程において、シリコン基板3への酸化膜の形成が抑制され、ウォーターマークの発生を大幅に低減することができる。ここでは、有機化合物としてメタノールを用いたが、過酸化物を分解可能であり、イソプロピルアルコール以外のものであれば特に限定されるものではなく、これ以外に、エタノール、アセトン等の揮発性有機化合物、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤、アミン系有機化合物等を用いることもできる。特に、容易に分解され、シリコン基板3上に残留し難い点から、低分子で揮発性の有機化合物が好ましく、メタノール、エタノール又はアセトンが好ましい。また、揮発性有機化合物の他に、周知の還元剤を用いることもでき、これらを併用してもよい。還元剤としては、例えば水素、活性水素等が好ましい。ここで言う活性水素とは、還元力が強い・Hラジカルを多く発生することのできる物質を意味する。還元剤を用いる場合にも、その含有量は、有機化合物の場合と同様に、1ppm〜1%の範囲であることが好ましい。また、その温度は、25℃以上沸点以下とすることが好ましい。このような温度範囲にすることで、次工程の乾燥工程で、シリコン基板3表面からの揮発性有機化合物や還元剤の蒸発が促され、乾燥時間を短縮することができる。
【0037】
続いて、シリコン基板3をIPA蒸気で乾燥させる。ガスライン13によってチャンバー1内にIPA蒸気を含む窒素ガスを導入しておき、メタノール溶液によるリンスが終了したシリコン基板3をリフター4で引上げる。これにより、シリコン基板3をチャンバー1内雰囲気中のIPAに曝す。このときキャリアガスとして用いる窒素ガスは、その温度、流量等の条件は任意であり、特定の条件に限定されるものではないが、好ましくはチャンバー1への導入口付近で25〜80℃の温度範囲であり、0.1〜10l/minの流量とする。また、IPAについても、特定の条件に限定されるものではないが、チャンバー1内のIPA濃度が0.1%以上に達するように窒素ガス中に含ませることが好ましく、IPA導入時間は5〜60秒間であることが好ましい。IPA導入の間に、リンスに使用した洗浄槽2内のメタノールを第1ドレイン7から排液する。
【0038】
IPA導入の終了後、減圧乾燥を行う。洗浄槽バルブボックス8のバルブをすべて閉じ、チャンバーバルブボックス12のバルブを開き、真空ポンプ11によりチャンバー1内の圧力を10Torr以下まで減圧する。圧力が安定した後、その状態を120〜240秒間維持することにより、シリコン基板3を完全に乾燥させる。次いで、ガスライン13より窒素ガスを導入してチャンバー1内を大気圧に戻し、大気圧となったチャンバー1からシリコン基板3を取り出す。ここでは、減圧乾燥を行ったが、必要に応じて実施すればよい。
【0039】
以上説明したように、本実施形態によれば、薬液洗浄し、水洗されたシリコン基板をメタノール溶液でリンスした後、IPA蒸気による乾燥を行うので、シリコン基板表面が酸化されにくくなり、酸化膜の生成が抑制され、ウォーターマークの発生を大幅に低減することができる。また、単一の洗浄槽で薬液洗浄とリンスを行うワンバス方式を使用することで、薬液が使い捨てであるためクロスコンタミネーションがなく、高い洗浄度を実現することができる。
【0040】
したがって、本実施形態の乾燥方法によって得られたシリコン基板は、ウォーターマークの発生が極めて少ない。そのため、このようなシリコン基板を例えばデバイス製造時などの工程で用いた場合には、生産性と歩留まりの向上を図ることができる。
【0041】
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記実施形態の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0042】
上記実施形態では、基板としてシリコン基板を用いて説明したが、これに限られるものではなく、周知の半導体基板、液晶基板を使用することができる。
【0043】
また、上記実施形態では、フッ酸水溶液による薬液洗浄後、水洗してからメタノール溶液をシリコン基板に供給しているが、これに限られるものでない。供給するメタノール溶液が低濃度の場合には、薬液洗浄後、直ちにメタノール溶液でリンスすることもできる。これによれば、上記実施形態と同様の効果が得られ、さらには水洗工程を省略することで、プロセスの簡略化、低コスト化を図ることができる。
【0044】
また、上記実施形態では、単一の洗浄槽で薬液洗浄しリンスを行うワンバス方式の装置を用いているが、これに限られるものではない。例えば、複数の洗浄槽を備えた多層式の装置や、基板を回転させながら洗浄、乾燥を行うスピン式の装置を用いることもできる。
【0045】
また、IPA蒸気を用いた乾燥工程において、IPA蒸気に、過酸化物を分解可能な有機化合物及び/又は還元剤を添加することもできる。または、IPAを除く有機化合物及び/又は還元剤を含むリンス液でSi基板をリンスした後、有機化合物及び/又は還元剤が添加されたIPAを含む不活性ガスでSi基板を乾燥することもできる。
【0046】
また、上記実施形態では、IPA蒸気を用いた乾燥工程において、IPA蒸気中でシリコン基板に付着したメタノールをIPAで置換しながら乾燥する方法を用いたが、これに限られるものではない。例えば、液中からIPA蒸気中へシリコン基板を引き上げて乾燥させる方法(マランゴニ乾燥)、シリコン基板を回転させながら気液界面にIPA蒸気を吹き付けて乾燥させる方法(ロタゴニ乾燥)等を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】電子工業用IPA原液に超純水を添加した場合の、超純水の添加量と過酸化水素の発生量との関係を示すグラフ。
【図2】窒素ガス雰囲気中で、溶存酸素濃度10ppbの超純水に電子工業用IPA原液を添加した場合の過酸化水素の発生を示すグラフ。
【図3】過酸化水素、IPA、t−ブチルアルコールのそれぞれの吸収波長を示すグラフ。
【図4】過酸化水素の濃度と吸光度との関係を示すグラフ。
【図5】超純水に一定量の過酸化水素を添加した溶液にさらにIPAを添加した場合の、IPAの添加量と過酸化水素量との関係を示すグラフ。
【図6】窒素ガス雰囲気中で、超純水3.5mlにIPAを添加し10分間攪拌した溶液の、IPAの添加量と生成した過酸化水素量との関係を示すグラフ。
【図7】超純水にIPAを少量添加した場合の、IPAの濃度と過酸化水素の生成速度との関係を示すグラフ。
【図8】シリコン基板表面に形成された超純水からなるUPW膜を模式的に示す断面図。
【図9】本発明の一実施形態に係る洗浄乾燥装置を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
【0048】
1…チャンバー、2…洗浄槽、3…シリコン基板、4…リフター、5…純水ライン、6…エタノールライン、7…第1ドレイン、8…洗浄槽バルブボックス、9…第2ドレイン、10…チャンバードレイン、11…真空ポンプ、12…チャンバーバルブボックス、13…ガスライン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄後の基板を乾燥する基板の乾燥方法であって、
前記洗浄された基板に、イソプロピルアルコールを除く有機化合物及び/又は還元剤を含むリンス液を供給する供給工程と、
前記リンス液が付着した基板をイソプロピルアルコールを含む不活性ガスにより乾燥する乾燥工程と
を備えることを特徴とする基板の乾燥方法。
【請求項2】
前記有機化合物が、揮発性有機化合物であることを特徴とする請求項1に記載の基板の乾燥方法。
【請求項3】
前記揮発性有機化合物が、メタノール、エタノール又はアセトンであることを特徴とする請求項2に記載の基板の乾燥方法。
【請求項4】
前記還元剤が、活性水素又は水素であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の基板の乾燥方法。
【請求項5】
前記リンス液中の有機化合物及び/又は還元剤の含有量が、1ppm〜1%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の基板の乾燥方法。
【請求項6】
前記乾燥工程の後に、減圧状態で前記基板を乾燥する減圧乾燥工程をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の基板の乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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