説明

基礎構造物の健全度評価方法

【課題】基礎構造物の健全度を、上部構造物の加振による振動データを元に、評価する方法を提供する。
【解決手段】上部構造物1と基礎構造物3からなる構造物に対し、上部構造物1に振動試験を実施し、センサ部5でそれによる振動データを測定する。この振動データをデータ収録・解析システム9で分析し、基礎構造物3の健全度を評価する。第1の手法は、振動データから地盤のせん断剛性Gとせん断ひずみγを算出し、これらの値から初期レベルの地盤のせん断剛性G0、設計レベルのせん断剛性G’を算出し、このせん断剛性G’から求めた地盤ばね定数を考慮した構造物の構造モデルに安定計算を実施し、基礎構造物の健全度を評価する。第2の手法は、設計レベルのせん断剛性G’を元に、地盤、基礎の変状を想定したせん断剛性の限界値G'(L)を求め、この限界値における解析固有振動数と実測の固有振動数とを比較することにより健全度を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎構造物の健全度評価方法に係り、更に詳しくは、衝撃試験を元に求めた地盤のひずみ依存性を考慮したせん断剛性から算出する地盤ばねを用いた基礎構造物の健全度評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の健全度を、被検査対象物を人為的に加振し、固有振動数の変化から評価する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−180951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、基礎構造物は、地盤に接しているため、境界条件として地盤ばねを考慮しなければならず、健全度評価が明確でないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたもので、その目的は、基礎構造物の健全度を、上部構造物の人為的な加振による振動データを元に、地盤のひずみ依存性を考慮した地盤のせん断剛性から算出した地盤ばねを用いて評価する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するための発明は、構造物に人為的に振動を与え、それによる振動データを測定する振動試験工程と、振動試験工程により得られた振動データから構造物の固有振動数を算定する固有振動数算定工程と、固有振動数算定工程により算定した構造物の固有振動数を用いて地盤のせん断剛性の実測値を求める地盤せん断剛性算出工程と、振動試験工程により得られた振動データから地盤のせん断ひずみを算出するせん断ひずみ算出工程と、地盤せん断剛性実測値とせん断ひずみから、設計レベルの地盤せん断剛性値を求める設計レベル地盤せん断剛性算定工程と、設計レベルの地盤せん断剛性値から求めた地盤ばねを考慮したモデルにより基礎構造物の健全度を評価する健全度評価工程と、を有することを特徴とする基礎構造物の健全度評価方法である。
以上のように、加振による構造物の振動データを元に求めた地盤のせん断剛性の実測値から設計レベルの地盤のせん断剛性値を求め、この設計レベルの地盤のせん断剛性値を元に求まる地盤ばねに基づいたモデルを使用することにより、基礎構造物の健全度を評価できる。
【0007】
ここで、健全度評価方法には2種類の方法がある。
まず、健全度評価工程は、設計レベルの地盤せん断剛性値を考慮したモデルに対して安定計算を実施し、安定計算の結果から基礎構造物の健全度を評価する方法である。
これは、設計レベルの地盤せん断剛性値から求めた地盤ばねを含む構造物のモデルで安定計算を実施することにより、基礎構造物の健全度を評価するものである。
【0008】
一方、健全度評価方法は次のようであってもよい。すなわち、健全度評価工程は、設計レベルの地盤せん断剛性値を使用した安定計算により設計レベルの限界地盤せん断剛性値を求める設計レベル限界地盤せん断剛性値算定工程を有し、設計レベル限界地盤せん断剛性値算定工程により求めた設計レベルの限界地盤せん断剛性値を考慮して算出した地盤ばねを取り付けた構造物のモデルに対して振動試験レベルの地盤ばねの変更を行ったモデルの解析固有振動数と、固有振動数算定工程から求める実測固有振動数を比較することにより、基礎構造物の健全度を評価する。
ここで、限界地盤せん断剛性値は、仮想的に基礎の変状を想定し、その変状に対して安定度を満足しうる最低限の地盤せん断剛性値である。
【0009】
そして、設計レベル限界地盤せん断剛性値算出工程は、設計レベルの地盤せん断剛性値を初期値としてその値を徐々に低下させ、その地盤せん断剛性値に対応する地盤ばね定数を元に安定計算を実施し、安定度を満足する最低の前記設計レベルの地盤せん断剛性値を設計レベル限界地盤せん断剛性値することが好ましい。
【0010】
また、設計レベル限界地盤せん断剛性値算出工程は、杭基礎あるいはケーソン基礎の場合に、所定の設計レベルの地盤せん断剛性値から求めた地盤ばね定数を用い、土被り量を低下させて安定計算を実施し、安定度を満足する最低の前記設計レベルの地盤せん断剛性値を設定レベル限界地盤せん断剛性値としてもよい。
さらに、設計レベル限界地盤せん断剛性値算出工程は、直接基礎の場合に、所定の設計レベルの地盤せん断剛性値から求めた地盤ばね定数を用い、洗掘量を変化させて安定計算を実施し、安定度を満足する最低の前記設計レベルの地盤せん断剛性値を設定レベル限界地盤せん断剛性値としてもよい。
【0011】
以上の方法により、基礎の変状を想定した場合の設計レベルの限界地盤せん断剛性値と、前記設計レベルの地盤せん断剛性値と前記設計レベルの限界地盤せん断剛性値の関係を地盤せん断剛性実測値に適用して求めた振動試験レベルの限界地盤せん断剛性に関して、それぞれ固有振動数(設計レベルと振動試験レベル)を求めることが可能で、この内、振動試験レベルの固有振動数と前記固有振動数算定工程から求める固有振動数を比較することにより、健全性の評価が可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の基礎構造物の健全度評価方法により、上部構造物の人為的な加振による振動データを元に、地盤のひずみ依存性を考慮した地盤ばねを用いて基礎構造物の健全度を的確に評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる健全度評価方法を実現するためのシステム構成図、図2は、第1の健全度評価方法の処理の流れを示すフローチャート、図3は、加振データから地盤のひずみおよび地盤のせん断剛性を求める処理の説明図、図4は、せん断剛性低下率とせん断ひずみの関係を示す図、図5は、第2の健全度評価方法の処理の流れを示すフローチャート、図6は、せん断剛性の限界値の説明図、図7は、限界値算出の説明図である。
【0014】
構造物の構造はさまざまであるが、一般に、図1(a)に示すように、地面7より下部の地中に構築されている基礎構造物3と、基礎構造物3の上部に構築される上部構造物1よりなる。
地面7より上部の部分は、目視等により状態を直接確認することが可能であるが、地面7より下の地中にある基礎構造物3の状態を直接目で確かめることが困難である。
【0015】
本実施の形態の基礎構造物の健全度診断方法は、以上のような基礎構造物3の健全度を判定することを目的とする方法であり、図1に示すような構成により実現可能である。
図1(a)に示すように、上部構造物1に対して矢印Fのように人為的に加振する。この加振は、例えば重錘等を矢印Fのように上部構造物1に打撃することにより加えることができる(衝撃振動試験)。また、加振器等による強制振動試験を行ってもよいし、急速開放ジャッキによって起振してもよい。
また、上部構造物1には、例えば天端にセンサ部5を設置し、以上の方法による加振の結果起こる構造物の振動を計測する。
【0016】
これらのセンサ部5の計測データを解析するために、データ収録・解析システム9を使用する(図1(b))。センサ部5は例えばケーブル11を介してデータ収録・解析システム9に接続されている。また、センサ部5に無線送信機能、データ収録・解析システム9に無線受信機能を設けることにより、ケーブル11により接続することなく、無線通信により計測データの送受信を行ってもよい。
【0017】
図1(b)に示すように、センサ部5は、速度計51、アンプ53、A/D変換機55、および、通信インタフェース57から成る。速度計51は、上部構造物1の振動を速度信号として計測する。計測された速度信号はアンプ53により増幅され、A/D変換機55により量子化される。ディジタル・データに変換された速度データは、通信インタフェース57、ケーブル11を介してデータ収録・解析システム9に送られる。
【0018】
一方、データ収録・解析システム13は、パーソナル・コンピュータ等のコンピュータ・システムで構成できる。すなわち、制御部91、記憶部93、通信制御部95、メディア入出力部97、入力部99、表示部101、印刷部103等より成り、それらがシステム・バス105に接続された構成である。
制御部91は、中央制御装置(CPU)、RAM(randam access memory)、ROM(read only memory)等よりなり、ROMあるいは記憶部93に記憶されているプログラムを実行する。記憶部93は、ハードディスク装置等であり、プログラムやデータ等が記憶される。通信制御部95は、外部との通信インタフェースであり、RS−232C入出力や、無線通信、モデム等の通信インタフェースよりなる。また、メディア入出力部97は、CD−ROM、メモリーカード等の入出力制御部である。
さらに、入力部99は、キーボード、マウス等の入力装置、表示部101は、ディスプレイ装置、印刷部103は、プリンタを備える。
【0019】
本実施の形態の基礎構造物の健全度評価方法におけるデータ収録やデータ解析、健全度診断に使用するプログラムは、例えば、CD−ROM等のメディアにより供給され、データ収録・解析システム9のメディア入出力部97より入力され、記憶部93に格納されて、制御部91により実行される。
また、センサ部5で測定された速度データは、センサ部5の通信インタフェース57、ケーブル11を介してデータ収録・解析システム9に送信され、通信制御部95を介して記憶部93に格納され、後述する基礎構造物の健全度評価方法を実現するプログラムにより解析処理される。
このとき、センサ部5の通信インタフェース57を無線通信インタフェースとし、データ収録・解析システム9の通信制御部95の無線通信制御を使用することにより、ケーブル11を使用せずに、無線通信により速度データを送受信することも可能である。
【0020】
図2は、第1の実施の形態の基礎構造物の健全度評価処理の流れを示すフローチャートである。まず、処理の流れを簡単に説明する。
まず、図1(a)で矢印Fに示したように、上部構造物1に対して振動試験を実施し、センサ部5で計測した振動データをデータ収録・解析システム9に記録し、この振動データから、振動試験レベルの地盤のせん断剛性Gと、せん断ひずみγを算出する(ステップ100)。算出方法については後述する。
【0021】
ここで、地盤のせん断剛性とひずみの関係を説明する。図3は、地盤のせん断剛性とせん断ひずみとの関係を示す図である。同図の横軸はせん断ひずみ量、縦軸はせん断剛性の低下率を示す。せん断剛性の低下率は、せん断剛性値を初期のせん断剛性値G0で正規化した値であり、初期レベルのせん断剛性低下率を1とする。同図に示すように、せん断ひずみが大きくなるとともに、せん断剛性は低下する。同図に示すように、せん断ひずみが10−6におけるせん断剛性を初期レベルの地盤のせん断剛性G0とする。
このせん断剛性低下率−せん断ひずみ曲線の設定方法は2通りある。すなわち、健全度評価を行う構造物がある現地においてボーリングを行い、サンプリングした土の供試体に対して、動的変形特性を求める繰り返し三軸試験を実施して求める方法(「土質試験の方法と解説」、土質工学会)と、土質区分ごとに既に規定された曲線を用いる方法(例えば、「地盤の地震時応答特性の数値解析法」、土研資料第1778号、建設省土木研究所地震防災部振動研究室、昭和57年2月)である。
本実施の形態では、土研資料第1778号に既に規定されたせん断剛性低下率−せん断ひずみ曲線を用いることとするが、第1の方法によってこの曲線を設定してもよい。
【0022】
このせん断剛性低下率−せん断ひずみ曲線を用いて、まず、初期レベルの地盤のせん断剛性G0を求め(ステップ110)、さらに、設計レベルの地盤のせん断剛性G’を算出する(ステップ120)。初期レベルおよび設計レベルの地盤のせん断剛性(G0、G’)を求める方法については後述する。
【0023】
ステップ120で求まった設計レベルの地盤のせん断剛性G’から地盤ばね定数を求め、対象の構造物の構造モデルを構成し、安定計算を行うことにより、基礎構造物が健全か否かを判定する(ステップ130)。
【0024】
次に、ステップ100の振動試験レベルの地盤のせん断剛性Gおよびせん断ひずみγの算出方法を説明する。
まず、地盤のせん断ひずみγを求める。
振動試験において、振動データとして、上部構造物1の天端に設置されたセンサ部5により測定された速度データを使用する。この速度データを積分することにより、振動試験による構造物天端の変位δが求まる。
図4(a)に示すように、地盤のせん断ひずみγは、変位δと構造物の高さLにより、γ=δ/Lで表せる。この計算式により、振動試験における地盤のせん断ひずみγの値が求まる。
【0025】
次に、振動試験レベルの地盤のせん断剛性Gを求める。
まず、振動試験により得た速度データをフーリエ変換等により周波数分析し、卓越する振動数を読み取ることにより構造物の実測固有振動数を求める。
次に、例えば図4(b)のような、対象構造物の構造モデルを作成し、地盤ばね定数を設定して解析固有振動数を求め、地盤ばね定数を変化させて繰り返し解析固有振動数を求める計算を行い、解析固有振動数が実測固有振動数と一致する地盤ばね定数を求める。この地盤ばね定数は、振動試験を実施した構造物の基礎地盤の地盤ばね定数と見なすことができ、この地盤ばね定数から、地盤のせん断剛性Gを求める。
【0026】
ここで、地盤のせん断剛性Gは、以下の式に示すように、構造物の固有振動数fおよび構造物の質量Mの関数である。
すなわち、例えば、構造物を1自由度と考えるとその固有振動数fは、
f=(1/2π)・(K/M)1/2 ・・・(1)
ここで、Kはばね定数であり、式(1)より、
K=(2πf)M ・・・(2)
となり、ばね定数Kは固有振動数fと質量Mの関数として表せる。
【0027】
また、ばね定数Kは、地盤反力係数kと基礎の寸法から算出することができる。例えば、鉛直方向の地盤反力係数Kvは、
Kv=kv×Av ・・・(3)
により算出することができる。ここで、kv:鉛直方向の地盤反力係数、Av:基礎底面の面積である。kvは、道路橋示方書では、
kv=(1/0.3)・E・(Av1/2/0.3)−3/4 ・・・(4)
鉄道構造物等設計標準では、
kv=frk・(2.3・α・E・Av−1/4) ・・・(5)
などと表される。ここで、frk、αは定数であり、Eは変形係数と呼ばれるもので、
E=2(1+ν)G ・・・(6)
の関係にあることから、Gは、Kv、ν、Avを求めることにより算出できる。(νは地盤のポアソン比であり、ほぼ一定の値である)。
つまり、構造物の数法Av、質量M、固有振動数fから地盤のせん断剛性Gを求めることができる。
【0028】
次に、振動試験レベルの地盤のせん断剛性Gとせん断ひずみγの値を元に、初期レベルの地盤のせん断剛性G0を求める(ステップ110)。
すなわち、まず、図3に示したようなせん断剛性低下率−せん断ひずみ曲線を選定する。例えば、前述のように土研資料で規定されている対象構造物の場所の土質区分に対応する曲線を選定する。
この曲線上で、振動試験レベルの地盤のせん断ひずみγ値におけるせん断剛性低下率の値がG/G0であり、この値と振動試験レベルの地盤のせん断剛性Gの値から初期レベルの地盤のせん断剛性値G0を算出する。
【0029】
次に、初期レベルの地盤のせん断剛性G0の値から設計レベルの地盤のせん断剛性G’を求める(ステップ120)。
設計レベルの地盤のせん断剛性G’の求め方には以下の2種類の方法があり、どちらの方法を用いてもよい。
【0030】
第1の方法は、地盤のせん断剛性Gと地盤の変形係数Eの関係式から設計レベルのせん断剛性G’を算出する方法である。すなわち、粘性土と砂質土について、それぞれ、次の算出式がある。
(粘性土)
G’={β/2(1+ν)}・(1/100)・(gG0/ε)3/2
・・・(7)
(砂質土)
G’={β/2(1+ν)}・(1/80)・(gG0/ε)3/2
・・・(8)
ここで、βは構造物の種類によって決まる値であり、鉄道橋ではβ=2800、道路橋ではβ=2500とする。また、gは重力加速度、εは土の単位体積重量である。
【0031】
式(7)、式(8)は、下記の関係から導かれる。
E’=2(1+ν)G’ ・・・(9)
G0=ε・Vs/g ・・・(10)
E’=βN ・・・(11)
Vs=100N1/3 (粘性土) ・・・(12)
Vs=80N1/3 (砂質土) ・・・(13)
ここで、E’=設計レベルの地盤の変形係数(地盤ばね定数)、Vsはせん断弾性波速度、Nは標準貫入試験で得られたN値である。
以上のように、式(7)、式(8)から設計レベルの地盤のせん断剛性G’を求めることができる。
【0032】
一方、第2の方法は、図3のせん断剛性低下率−せん断ひずみ曲線において、設計レベルの地盤のせん断ひずみγdの値を想定することにより、それに対応するせん断剛性低下率G’/G0の値を読み取り、その値から設計レベルの地盤のせん断ひずみG’が求められる。
【0033】
以上によって求められた設計レベルの地盤のせん断剛性G’を元に、この設計レベルの地盤ばね定数E’を算出し、これを考慮した構造モデルを作成し、安定計算を実施する(ステップ130)。
この安定計算の結果から、対象構造物の基礎構造部3の健全度が把握可能になる。
【0034】
図5は、第2の実施の形態の基礎構造物の健全度評価処理の流れを示すフローチャートである。第2の実施の形態の基礎構造物の健全度評価は、基礎構造物3に変状が生じた場合を想定した振動試験により求めた実測固有振動数と、安定計算により求めた変状が生じた場合の限界解析固有振動数を比較し、その比較結果から健全度を評価する方法である。変状とは、通常の状態、暴風時、地震の発生時等であり、それぞれの変状は、構造モデルの設計荷重を変化させることにより設定される。
【0035】
次に処理の流れを説明する。図5のフローチャートにおいて、ステップ200からステップ220は、第1の実施の形態のステップ100からステップ120と同様であり、これにより、設計レベルの地盤のせん断剛性G’が算出される。
設計レベルのせん断剛性G’が算出されたら、次に、基礎構造物3に仮想的な変状を想定して安定計算を実施し、それぞれの変状について、安定度を満足する限界の地盤のせん断剛性G’(L)を求める(ステップ230)。この地盤のせん断剛性限界値G’(L)を求める方法については後述する。
次に、この地盤のせん断剛性限界値G’(L)について設計レベルの解析固有振動数f2を求め(ステップ240)、さらに、設計レベルのせん断剛性G’とせん断剛性限界値G’(L)との関係を用いて、振動試験レベルのせん断剛性限界値G(L)を求め(ステップ240)、この試験レベルのせん断剛性限界値G(L)についての振動試験レベルの解析固有振動数f1を求めて(ステップ250)、解析固有振動数f1と振動試験算定工程から求めた固有振動数を比較する。解析固有振動数f1<振動試験算定工程から求めた固有振動数であれば基礎構造物3は健全であると判断し、解析固有振動数f1≧振動試験算定工程から求めた固有振動数であれば基礎構造物3は健全ではないと判断する(ステップ260)。
【0036】
次に、上述の処理の流れの詳細を説明する。
図7は、ステップ230の変状を想定した場合のせん断剛性限界値G’(L)算出の説明図である。
せん断剛性限界値G’(L)の算出方法は以下の2通りの手法がある。すなわち、基礎地盤のせん断剛性を低下させていき、安定計算を満たす限界のせん断剛性値G'(L)を見つける方法(方法1)と、G’を一定として土被り量または洗掘量を変化させていき、安定計算を満たす限界の地盤ばねを求める方法(方法2)である。
図7に示すように、基礎構造物3の種類により、方法を選択するとよい。すなわち、同図(a)に示すように、基礎構造物3が杭またはケーソン基礎の場合には、方法1または方法2の土被り量を低下させる方法から、同図(b)に示すように、基礎構造物3が直接基礎の場合には、方法1または方法2の洗掘量を低下させる方法から好ましい方法を選択できる。
【0037】
同図に示すように、方法1の場合、ステップ220で求まった設計レベルの地盤のせん断剛性G’の値から始めて、例えば80%、50%、・・・というように徐々にせん断剛性値を低下させ、それぞれのせん断剛性値から地盤ばね定数を算出し、その値を考慮した構造モデルを作成して安定計算を実施する。安定計算では、通常時、暴風時、レベル1地震時等の変状を考慮した荷重が構造モデルに加味される。それぞれの変状について、安定計算を満足する場合には、さらに、地盤のせん断剛性値を低下させて安定計算を実施する。この処理を繰り返し、安定計算を満足する最低の地盤のせん断剛性値をせん断剛性限界値G’(L)とする。
【0038】
一方、方法2の場合には、G’を一定とし、安定計算において、杭・ケーソン基礎の場合には土被り量を低下させ、直接基礎の場合には洗掘量を変化させる。そして、安定計算を満たす限界のせん断ばねを算定する。
【0039】
方法1の場合、変状を想定した限界の地盤のせん断剛性G’(L)が求まった後、この値G'(L)から地盤のばね定数を求め、この地盤ばね定数を考慮した構造モデルを作成し、解析固有振動数f2を求める。一方、方法2の場合には、G’と安定計算を満たす限界の土被り量、あるいは洗掘量から地盤のばね定数を求め、この地盤ばね定数を考慮した構造モデルを作成し、解析固有振動数f2を求める。この解析固有振動数が変状を想定した場合の限界の固有振動数である。
【0040】
次に、以上で求まった解析固有振動数の限界値f2と、振動試験を行った時点の実測固有振動数を比較して、変状を想定した場合の健全度を評価する。
このとき、振動試験レベルの実測固有振動数の限界値f1を求めるために、振動試験レベルのせん断弾性限界値G(L)を求める。すなわち、図6に示すように、設計レベルのせん断剛性G’と振動試験レベルのせん断剛性Gの関係を設計レベルのせん断剛性限界値G'(L)に適用し、振動試験レベルのせん断剛性限界値G(L)を算定する。すなわち、
G(L)=G'(L)・G/G’ ・・・・(13)
である。
【0041】
式(13)により求めた振動試験レベルのせん断剛性限界値G(L)から地盤ばね定数を求め、この値を考慮した構造モデルから実測固有振動数f1が算出される。以上の方法により求められた変状を考慮した限界の解析固有振動数f2と実測固有振動数f1を比較することにより、基礎構造物3の健全度が評価可能になる。
【0042】
以上のように、第1の実施の形態の方法では、現状の基礎構造物3が安定計算を満足するか(健全か)が評価可能となるとともに、第2の実施の形態の方法では、変状を考慮し、限界値に関して、実測固有振動数と解析固有振動数を比較することにより基礎構造物3の健全度が評価可能である。
【0043】
尚、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の改変が可能であり、それらも、本発明の技術範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態にかかる健全度評価方法を実現するためのシステム構成図
【図2】第1の健全度評価方法の処理の流れを示すフローチャート
【図3】せん断剛性低下率とせん断ひずみの関係を示す図
【図4】加振データから地盤のひずみおよび地盤のせん断剛性を求める処理の説明図
【図5】第2の健全度評価方法の処理の流れを示すフローチャート
【図6】せん断剛性の限界値の説明図
【図7】限界値算出の説明図
【符号の説明】
【0045】
1………上部構造物
3………基礎構造物
5………センサ部
7………地面
9………データ収録・解析システム
51………速度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に人為的に振動を与えてそれによる振動データを測定する振動試験工程と、
前記振動試験工程により得られた振動データから前記構造物の固有振動数を算定する固有振動数算定工程と、
前記固有振動数算定工程により算定した前記構造物の固有振動数を用いて地盤のせん断剛性の実測値を求める地盤せん断剛性算出工程と、
前記振動試験工程により得られた振動データから地盤のせん断ひずみを算出するせん断ひずみ算出工程と、
前記地盤せん断剛性実測値と前記せん断ひずみから、設計レベルの地盤せん断剛性値を求める設計レベル地盤せん断剛性算定工程と、
前記設計レベルの地盤せん断剛性値から求めた地盤ばねを考慮したモデルにより基礎構造物の健全度を評価する健全度評価工程と、を有することを特徴とする基礎構造物の健全度評価方法。
【請求項2】
前記健全度評価工程は、前記設計レベルの地盤せん断剛性値を考慮したモデルに対して安定計算を実施し、安定計算の結果から基礎構造物の健全度を評価することを特徴とする請求項1記載の基礎構造物の健全度評価方法。
【請求項3】
前記健全度評価方法は、前記設計レベルの地盤せん断剛性値を使用した安定計算により設計レベルの限界地盤せん断剛性値を求める設計レベル限界値盤せん断剛性値算定工程を有し、
前記設計レベル限界地盤せん断剛性値算定工程により求めた前記設計レベルの限界地盤せん断剛性値を考慮した振動試験レベルの解析固有振動数と、前記固有振動数算定工程から求める固有振動数を比較することにより、基礎構造物の健全度を評価することを特徴とする請求項1記載の基礎構造物の健全度評価方法。
【請求項4】
前記設計レベル限界地盤せん断剛性値算出工程は、前記設計レベルの地盤せん断剛性値を初期値としてその値を徐々に低下させ、その地盤せん断剛性値に対応する地盤ばね定数を元に安定計算を実施し、安定度を満足する最低の前記設計レベルの地盤せん断剛性値を設計レベル地盤せん断剛性値とすることを特徴とする請求項3記載の基礎構造物の健全度評価方法。
【請求項5】
前記設計レベル限界地盤せん断剛性値算出工程は、杭基礎あるいはケーソン基礎の場合に、所定の設計レベルの地盤せん断剛性値から求めた地盤ばね定数を用い、土被り量を低下させて安定計算を実施し、安定度を満足する最低の前記設計レベルの地盤せん断剛性値を設定レベル限界地盤せん断剛性値とすることを特徴とする請求項4記載の基礎構造物の健全度評価方法。
【請求項6】
前記設計レベル限界地盤せん断剛性値算出工程は、直接基礎の場合に、所定の設計レベルの地盤せん断剛性値から求めた地盤ばね定数を用い、洗掘量を変化させて安定計算を実施し、安定度を満足する最低の前記設計レベルの地盤せん断剛性値を設定レベル限界地盤せん断剛性値とすることを特徴とする請求項4記載の基礎構造物の健全度評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−39534(P2008−39534A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212804(P2006−212804)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(502341122)株式会社福山コンサルタント (3)
【Fターム(参考)】