説明

堤防

【課題】施工現場にての仮型枠を必要とすることなく、プレキャスト製の型枠工にて短時間にて築工する。
【解決手段】前面板8の後側に控え脚9a,9bを設けた前法ブロック5と、背面板13の後側に控え脚14a,14bを設けた後法ブロック6とを、前法ブロックの前面板を沖側へ向け、後法ブロックの背面板を陸側へ向けて対置すると共に、両法ブロックの相互を、各法ブロックの控え脚に設けた係合部に係合する連結ブロック7a,7b,7cにて連結して組み立て枠段2a,2b,2cとし、この組み立て枠段の少なくとも1段を横方向に並べて設置し、最上段の組み立て枠段の上側に、前面を上下方向にわたって凹面状にした波返し板19の背面側に控え脚20a,20bを設けると共に、控え脚の背面側に背面パネル21a,21b,21cを固着してなる波返しブロック3を、これの波返し板を沖側へ向けて載置し、上記組み立て枠段及び波返しブロックの空間内に生コンクリートを打設し、上記各部材をプレキャストコンクリートにて構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として海岸に設置される堤防に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昭和30〜40年代に築造されて老朽化した海岸堤防、護岸が、近年台風や風浪などにより被災して倒壊する事態が相次いでいる。
【0003】
これらの堤防(海岸堤防、護岸)を復旧、または新たに築造する場合、従来は、合板型枠を沖側と陸側に所定の壁体厚さが確保できるように設置し(型枠工)、その中に異形鉄筋を組み立て(鉄筋工)、生コンクリートを打設し(コンクリート工)、これを順次繰り返して延長方向および上側方向へ施工するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の築造方法は、海岸域の工事では、現状においても一般的に用いられており、その工種の多さから非常に長い施工期間を要するものであった。また、工事の進捗や作業者の安全性が、天候や波浪などの海象条件に左右されやすく、内陸域の工事に比べ、1年程度の工事期間を必要とするのが普通である。
【0005】
さらに、上記の築造方法を実施するためには、波の進入を防ぎ、作業者が安全に施工を進めるために、海側に鋼矢板による仮設締め切り及び排水工を事前に施工しておかねばならない場合が多く、本体工築造とは別に、非常に多額の仮設工事費用を必要とする問題があった。
【0006】
本発明は上記のことに鑑みなされたもので、海岸等の施工現場にて、仮型枠を用いることなく、すなわち型枠工を必要とすることなく、プレキャスト製の型枠工により短時間にて築工できるようにした堤防を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る堤防は、前面板の後側に控え脚を設けた前法ブロックと、背面板の後側に控え脚を設けた後法ブロックとを、前法ブロックの前面板を沖側へ向け、後法ブロックの背面板を陸側へ向けて対置すると共に、両法ブロックの相互を、各法ブロックの控え脚に設けた係合部に係合する連結ブロックにて連結して組み立て枠段とし、この組み立て枠段の少なくとも1段を横方向に並べて設置し、最上段の組み立て枠段の上側に、前面を上下方向にわたって凹面状にした波返し板の背面側に控え脚を設けると共に、控え脚の背面側に背面パネルを固着してなる波返しブロックを、これの波返し板を沖側へ向けて載置し、上記組み立て枠段及び波返しブロックの空間内に生コンクリートを打設し、上記各部材をプレキャストコンクリートにて構成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、海岸の施工現場にて、仮型枠を用いる仮型枠工を必要とせず、したがって施工現場での合板型枠設置、撤去、及び鉄筋工による配筋作業が不要となり、合理的に海岸の堤防を築造することができ、この種の堤防の施工期間を大幅に短縮することが可能となる。また上記のように、仮型枠工を必要としないことにより、作業者の安全性の向上、仮設工費用を含む全体の工事費の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る堤防の一例を示す一部破断側面図である。
【図2】上記堤防の一部正面図である。
【図3】図2のA−A線断面矢視図である。
【図4】前法ブロックの正面図である。
【図5】前法ブロックの側面図である。
【図6】前法ブロックの平面図である。
【図7】前法ブロックの背面図である。
【図8】前法ブロックの底面図である。
【図9】後法ブロックの正面図である。
【図10】後法ブロックの側面図である。
【図11】後法ブロックの平面図である。
【図12】後法ブロックの背面図である。
【図13】後法ブロックの底面図である。
【図14】連結ブロックの正面図である。
【図15】波返しブロックの側面図である。
【図16】波返しブロックの平面図である。
【図17】波返しブロックの背面図である。
【図18】背面パネルの正面図である。
【図19】前法ブロックと後法ブロックの連結構成の他例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜図3は本発明に係る堤防の一例を示すもので、図1は一部破断側面図、図2はその一部を示す正面図、図3は図2のA−A線断面矢視図である。
【0011】
図1において堤防1は、複数段、例えば3段の組み立て枠段2a,2b,2cを積み重ね、最上段の組み立て枠段2cの上側に波返しブロック3を積み重ね、この積み重ね段列を横方向に並べると共に、各ブロック内にコンクリート4を打設した構成になっている。
【0012】
上記各組み立て枠段2a〜2cは、前後方向に離隔して対置される前法ブロック5と後法ブロック6と、各段ごとで異なる長さで、上記各段の前法ブロック5と後法ブロック6を連結する連結ブロック7a,7b,7cとからなっている。上記前法ブロック5、後法ブロック6は各段ごとで同一のものが用いられている。なお、この両ブロック5,6は同一幅になっている。
【0013】
前法ブロック5は図4〜図8に示すようになっていて、図4は正面図、図5は側面図、図6は平面図、図7は背面図、図8は底面図である。
【0014】
この前法ブロック5は前面板8と、この前面板8の後側で、かつ横方向両外側端から横方向長さの略1/4の位置に設けられた控え脚9a,9bと、各控え脚9a,9bのそれぞれの横方向外側に、前面板8と平行に設けた突条10a,10bとを一体成形した構成になっている。この前法ブロック5は、これの前面板8及び控え脚9a,9bは下端に対して上端が後退する傾斜形状になっており、また両控え脚9a,9bの上下の両端は、前面板8の上下両端から水平状になっている。そして各控え脚9a,9bの下端には凹部11が、また上端にはこの凹部11に係合する形状の突部12が設けてある。
【0015】
後法ブロック6は図9から図13に示すようになっていて、図9は正面図、図10は側面図、図11は平面図、図12は背面図、図13は底面図である。
【0016】
後法ブロック6は背面板13と、この背面板13の後側で、かつ横方向両外側端から横方向長さの略1/4の位置に設けられた控え脚14a,14bと、この控え脚14a,14bのそれぞれの横方向外側に背面板13と平行に設けた突条15a,15bとを一体成形した構成になっている。この後法ブロック6は上記前法ブロック5と同一の高さで、略垂直状に形成されており、両控え脚14a,14bの上下の両端は後面板12の上下両端から水平状になっている。そしてこの各控え脚14a,14bの下端には凹部16が、また上端にはこの凹部16に係合する形状の突部17が設けてある。
【0017】
上記前法ブロック5をこれの前面板8を前方へ向けて各段ごとに積み重ねることにより、各前法ブロック5の前面板8により、後側へ傾斜する前面壁が形成される。また、後法ブロック6を背面板13を後方へ向けて各段ごとに積み重ねることにより、各後法ブロック6の背面板13により後面壁が形成される。
【0018】
そして各段の前法ブロック5と後法ブロック6の間隔は、上記前法ブロック5の傾斜にしたがって上段側ほど狭くなっており、したがって格段の前法ブロックの控え脚9a,9bに設けた突条10a,10bと後方ブロック6の控え脚14a,14bとに設けた突条15a,15bの間隔が下側から順に短くなる。
【0019】
連結ブロック7a,7b,7cは図14に示すようになっていて、この両端部の下面に、上記前方ブロック5の突条10a,10bと後方ブロック6の突条15a,15bに係合する係合溝18a,18bが設けてある。そしてこの各連結ブロック7a〜7cの長さ及び係合溝18a,18bの間隔は図1に示すように、各組み立て枠段2a〜2cにおける前法ブロック5と後法ブロック6の突条間隔にあわせて形成されている。すなわち、この連結ブロック7a〜7cは、上記各段の両突条10a,10b,15a,15bに係合するものをそれぞれ用意しておく。
【0020】
波返しブロック3は図15から図17に示すようになっていて、図15は側面図、図16は平面図、図17は背面図である。
【0021】
波返しブロック3は前側下端から上方へ向けて凹面状に形成された波返し板19と、この波返し板19の背面側で、かつ横方向両側端から横方向長さの1/4の位置に設けられた控え脚20a,20bとからなっている。波返しブロック3は上記前後の法ブロック5,6と同一幅になっており、したがってこの波返しブロック13の控え脚20a,20bの位置も両ブロック5,6のものと同一位置となっている。各控え脚20a,20bの下端面には、上記前法ブロック5及び後法ブロック6のそれぞれの上側の突部11,17が前後方向に係合する形状の凹部21が設けてある。
【0022】
この波返しブロック3は図1に示すように、3段目の組み立て枠段2cの上側に積み重ねるようにした例を示すもので、この波返しブロック3の下端の前後方向の大きさは3段目の組み立て枠段2cの上端の大きさに合わせてある。すなわち、この波返しブロック3の波返し板19の前側下端は、最上段の組み立て枠段2cの前面板8の上前端と一致し、この波返しブロック3の波返し板19の勾配が最上段の組み立て枠段2cの前面板の勾配と連続するようにしてある。
【0023】
上記波返しブロック3の控え脚20a,20bの背面は縦方向に折れ線状になっていて、これの各直線部に上記波返し板19と同一幅の背面パネル21a,21b,21cが固定されている。この背面パネルの固定は、控え脚20a,20bにインサートされたステンレス製のナット部材22に螺合するステンレス製のボルトにて行われる。この背面パネル21a〜21cは、例えば図18に示すようになっていて、これの上下方向の幅は上記波返し板19の控え脚20a,20bの折れ線の長さに合わせた幅のものを用意しておく。
【0024】
上記構成における波返しブロック3、前法ブロック5、後法ブロック6、連結ブロック7a,7b,7c、さらに背面パネル21a,21b,21cのそれぞれは、あらかじめ工場で成形されるプレキャストコンクリートにて構成されている。
【0025】
次に本発明に係る堤防の築造工程を説明する。
【0026】
例えば海岸に設けた基盤23上に、前法ブロック5と後法ブロック6とを、前法ブロック5の前面板8を沖側へ向け、後法ブロック6の背面板13を陸側へ向けて所定の間隔をあけて対向させて設置し、この両ブロック5,6の突条10a,10b,15a,15bに連結ブロック7aを係合して両ブロック5,6を前後方向に連結して1段目の組み立て枠段2aとする。そしてこの1段目の組み立て枠段2aを海岸沿いに所定の長さにわたって並べて設置する。このときの1段目の前後の法ブロック5,6の間隔は、この1段目に用いる連結ブロック7aの長さによって決められる。そしてこの連結ブロック7aは、図3に示すように横方向に隣接する相互の法ブロックの突条10a,10b,15a,15bにまたがって係合することにより、連結ブロック7aの使用数を少なくすることができる。
【0027】
上記のようにして組み立てられた1段目の組み立て枠段2aの両法ブロック5,6間の空間内に、これの高さの略1/2程度まで生コンクリートを打設する。
【0028】
ついで上記1段目の組み立て枠段2aの上側で、かつこれの横方向全長にわたって、これの前法ブロック5の上側に2段目の前法ブロック5を、また1段目の後法ブロック6の上側に2段目の後法ブロック6を積み重ねると共に、各前後の法ブロック5,6を上記1段目と同様に2段目の連結ブロック7bにて前後方向に連結することにより、2段目の組み立て枠段2bを積み重ねる。
【0029】
このときの上下に積み重ねられる各法ブロックは、それぞれの上面に設けた突起12,17に下面に設けた11,16に係合されて、各上下の法ブロックは前後方向に係合された状態で積み重ねられる。
【0030】
ついで上記のように2段目の組み立て枠段2bを組み立てた状態で、上記2段目の上側からこの段の略1/2の位置まで生コンクリートを打設する。
【0031】
3段目の組み立て枠段2cを、同様に各法ブロック5,6を積み重ねると共に前後の法ブロック5,6を3段目の連結ブロック7cにて前後方向に連結して構築し、ついで上記3段目の上側からこれの略1/2の位置まで生コンクリートを打設する。
【0032】
上記のようにして組み立てられる各段の組み立て枠段2a〜2cの前後の法ブロック5,6の間隔は、前法ブロック5の傾斜に応じて変化し、したがって各段の連結ブロック7a〜7cは、この各段ごとに適合するものを用いる。
【0033】
波返しブロック3は、上記最上段(3段目)の組み立て枠段2cの上面に、これの横方向全長にわたって積み重ねる。このとき、各波返しブロック3の下面に設けた凹部21を組み立て枠段2cの前後の法ブロック5,6の突起12,17に係合して前後方向に結合する。
【0034】
その後、各波返しブロック3の背面に図18に示す背面パネル21a〜21cを取り付ける。そしてこの背面パネル21a〜21cと波返し板19との間の空間内上端まで生コンクリートを打設することにより堤防の築造が完成される。なおこのときにおいて、生コンクリートの打設時に、この打設空間内に必要に応じて鉄筋を配設してもよい。
【0035】
上記実施の形態において、組み立て枠段2a,2b,2cを3段積みにした例を示したが、これは2段、4段、あるいは1段であってもよい。そして波返しブロック3は、この組み立て枠段の上端における前法ブロック5と後法ブロック6の間隔に合わせたものを用意する。
【0036】
また、連結ブロック7a,7b,7cによる両法ブロック5,6の連結構造は、上記した突条10a,10b,15a,15bによることなく、図19に示すように、前法ブロック5、後法ブロック6の控え脚9a′,9b′,14a′,14b′の外側面に溝24,24を設け、この両溝24,24に両端に突起25,25を有する連結ブロック7a′,7b′,7c′を係合することにより、両法ブロック5,6を前後方向に連結するようにしてもよい。要するに、前後の法ブロック5,6の控え脚が連結ブロックにて前後方向に連結される構造であればよい。
【符号の説明】
【0037】
1…堤防、2a,2b,2c…組み立て枠段、3…波返しブロック、4…コンクリート、5…前法ブロック、6…後法ブロック、7a,7b,7c,7a′,7b′,7c′…連結ブロック、8…前面板、9a,9b,14a,14b,9a′,9b′,14a′,14b′,20a,20b…控え脚、10a,10b,15a,15b…突条、11,16,21…凹部、12,17…突部、13…背面板、18a,18b…係合溝、19…波返し板、21a,21b,21c…背面パネル、22…ナット部材、23…基盤、24…溝、25…突起。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面板の後側に控え脚を設けた前法ブロックと、背面板の後側に控え脚を設けた後法ブロックとを、前法ブロックの前面板を沖側へ向け、後法ブロックの背面板を陸側へ向けて対置すると共に、両法ブロックの相互を、各法ブロックの控え脚に設けた係合部に係合する連結ブロックにて連結して組み立て枠段とし、
この組み立て枠段の少なくとも1段を横方向に並べて設置し、
最上段の組み立て枠段の上側に、
前面を上下方向にわたって凹面状にした波返し板の背面側に控え脚を設けると共に、控え脚の背面側に背面パネルを固着してなる波返しブロックを、これの波返し板を沖側へ向けて載置し、
上記組み立て枠段及び波返しブロックの空間内に生コンクリートを打設し、
上記各部材をプレキャストコンクリートにて構成した
ことを特徴とする堤防。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate