説明

塗工白板紙

【課題】 油性インキを用いた印刷直後にオーバープリンティング方式又はインラインコーター方式でのニス塗布を行うことによって、インキのセット・乾燥の時間が取れなくても印刷面のムラの発生のない光沢、平滑性に優れた2層以上塗工してなる塗工白板紙の提供。
【解決手段】 この課題は、顔料とバインダーを主成分として含有する塗工液を2層以上塗工してなる白板紙において、顔料として重炭酸カルシウムを全顔料の45質量%以上含有し、かつ、固形分濃度64質量%以上の塗工液を最上層に塗工することを特徴とする塗工白板紙によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性インキを用いた印刷直後のニス塗布適性を有した光沢、平滑性に優れた塗工白板紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗工白板紙は、主として、化粧箱や石鹸用箱、更にはギフトケース用箱等の紙器や雑誌表紙等として使用される。これらの用途においては表面の美粧性付与、表面保護のため表面にニスを塗布する場合が多い。近年、短納期化、工程削減による高効率化のために従来のオフラインでのニス塗布方式から印刷ユニットでのオーバープリンティング方式又は印刷機に付属のインラインコーター方式での印刷直後のニス塗布が行われるようになってきた。このような、印刷直後にニス塗布を行う方式において印刷面のムラを生ずることがある。
【0003】
未乾燥のインキにニス塗布を行った場合、インキの流れ現象やインキが塗布ロールに転移するトラッピング現象が起こると非特許文献1に記載されており、この様な現象は印刷面のムラを生ずる原因となる。油性インキを用いて印刷を行いオーバープリンティング方式又はインラインコーター方式でニス塗布を行う場合、インキのセット・乾燥の時間が取れないためこのような現象が生じ易い。
【0004】
非特許文献1には、前記問題に対しての解決手段の記述が無い。さらに、非特許文献2には、印刷及びニスの原因と対策が記述されているだけであり、根本原因である塗工白板紙からの解決手段が記載されていない。印刷及びニス塗布工程での対応も最終製品品質、作業の容易性などの面からおのずと限界があり、塗工白板紙の改良が求められている。
【非特許文献1】浅野宣勝、外、“コンバーティング&プリンティング −印刷と加工技術−”、株式会 社加工技術研究会、1996.11.18、p.494
【非特許文献2】塚口英世、外5名、“光沢紙・光沢加工技術と市場”、株式会社シーエムシー、2000.5.31、p.52
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油性インキを用いた印刷直後にオーバープリンティング方式又はインラインコーター方式でのニス塗布を行うことによって、インキのセット・乾燥の時間が取れなくても印刷面のムラの発生のない光沢、平滑性に優れた2層以上塗工してなる塗工白板紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記の課題を解決すべく鋭意努力し研究を重ねた結果、次に示す構成によって、油性インキを用いた印刷直後にオーバープリンティング方式又はインラインコーター方式でのニス塗布を行うことによる印刷面のムラの発生のない塗工白板紙を提供することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、前記課題を達成するために顔料とバインダーを主成分として含有する塗工液を2層以上塗工してなる白板紙において、顔料として重質炭酸カルシウムを全顔料の45質量%以上を含有し、かつ、固形分濃度64質量%以上の塗工液を最上層に塗工したものである。
【0008】
本発明の一つの実施態様は、前記白板紙において、顔料としてレーザー式粒度分布測定によるメジアン径0.8μm以下のカオリンを含有する塗工液を最上層に塗工したものである。
【0009】
他の一つの実施態様は、前記白板紙において、顔料として二酸化チタンを全顔料の20質量%以下含有する塗工液を最上層に塗工したものである。
【0010】
更に別の一つの実施態様は、前記白板紙において、塗工液を最上層にロッドコーターにて塗工したものである。
【0011】
本発明の構成を採ることによって、油性インキを用いて印刷した直後に、オーバープリンティング方式又はインラインコーター方式でのニス塗布を行うことによって、インキのセット・乾燥の時間が取れなくても印刷面のムラの発生のない塗工白板紙が得られる。斯かる効果が得られる理論的根拠は必ずしも明確ではないが、顔料主体として重質炭酸カルシウムを含有するか、又は更にカオリンを含有する最表面塗工層の構造が印刷直後にニスを塗布する極短時間での適正なインキのセットに有効に作用していると考えられる。
【0012】
一つの実施態様としてロッドコーターにて本発明の塗工液を塗工することよって、ロッドコーター塗工で発生するリングパターンが軽減される。斯かる効果が得られる理論的根拠については必ずしも明確ではないが、リングパターンの発生要因としては液粘度、液表面張力、速度、ニップ隙間などの影響が知られており、塗工液の固形分濃度を高く設定することによって同一乾燥塗工量におけるロッドと基紙間の隙間が少なくなることが有効に作用したと考えられる。また、重質炭酸カルシウムが他の顔料に比較して良好な流動性を塗工液に与えることも知られており、重質炭酸カルシウム配合量の多い流動性に富む塗工液を用いることによって、ロッド出口で発生したリングパターンがその後速やかに平坦化しやすいとも考えられる。
【0013】
すなわち、最も表層の上塗り塗工液の顔料として重炭酸カルシウムを全顔料の45質量%以上を含有せしめ、かつ、固形分濃度64質量%以上の塗工液を塗工することによって、ロッドコーター塗工でのリングパターンが軽減され、表面のミクロな凹凸が低減され光沢、平滑性が向上するという効果を奏する。
【発明の効果】
【0014】
リングパターンの発生しない塗工方式も有り、例えばブレードコーターをあげることが出来る。塗工方式により操業性および塗工白板紙の品質は同じではなく、生産効率および操作性、その製品が要求される品質などを考慮して塗工方式は選ばれる。例えばロッドコーターでは、コーターヘッド先端への異物の付着などによるストークが発生しにくく生産効率が良いが、リングパターンの発生による表面のミクロな凹凸が生じやすく光沢、平滑性が劣ることから、いずれの方式にも長所、短所があり適宜選択される。ロッドコーターにて本発明の塗工液を塗工することによって、リングパターンが軽減するので、ロッドコーターの品質面での適用範囲を広げることとなる。
【0015】
前述したように本発明の塗工白板紙は、油性インキを用いた印刷直後にオーバープリンティング方式又はインラインコーター方式でのニス塗布を行うことによって、インキのセット・乾燥の時間が取れなくても、顔料主体として重質炭酸カルシウムを含有するか、又は重質炭酸カルシウムの他に更にカオリンを含有する最表面塗工層の構造をとることによって、極短時間での適正なインキのセットが可能となり、印刷面のムラのない塗工白板紙を提供できる。
【0016】
更に、ロッドコーターにて、重質炭酸カルシウム配合量が多い流動性に富む本発明の塗工液を用いることによって、ロッドコーター塗工においてロッド出口で発生するリングパターンがその後速やかに平坦化して光沢、平滑性に優れる塗工白板紙を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の各構成要素について更に詳細に説明する。
【0018】
本発明において、顔料とバインダーを主成分として含有する塗工液を2度以上塗工してなる塗工白板紙において、最も表層の上塗り塗工液の顔料として重炭酸カルシウムを全顔料の45質量%以上、好ましくは45〜95質量%、特に好ましくは45〜90質量%、なかでも45〜85質量%、例えば50〜80質量%含有せしめることが必要である。重質炭酸カルシウム含有量45質量%未満の場合には効果が乏しい。塗工液の固形分濃度が64質量%未満では、白紙光沢度が低く、グロスカレンダー、ソフトカレンダー等の光沢及び平滑向上装置の条件を強くした場合、塗工層が過度に密になり塗工層の透明化による白色度低下、平判オフセット印刷時のインキセット性の悪化に伴う裏付き発生の問題があるため、塗工液の固形分濃度を64質量%以上、好ましくは64〜70質量%、特に好ましくは65〜68質量%とする必要がある。
【0019】
最も表層の上塗り塗工液に含有せしめるカオリンとしては、レーザー式粒度分布測定によるメジアン径0.8μm以下、好ましくは0.8〜0.1μm、特に好ましくは0.5〜0.1μmのカオリンであることがより好ましい。メジアン径0.8μm以下のカオリンを使用すると、ニス塗布後の印刷面ムラおよび白紙光沢度が更に改善されるという効果が達成される。しかしカオリンのメジアン径が0.8μm以上で3μm以下でも、重質炭酸カルシウムを全顔料の45質量%以上使用し固形分濃度64質量%以上の塗工液を使用すれば、ニス塗布後の印刷面ムラの実用レベルの改善がもたらされる。本発明において、最も表層の上塗り塗工液の顔料として重質炭酸カルシウムの他にカオリンを使用する場合には、その量は全顔料の55質量%未満、好ましくは40質量%未満である。
【0020】
褪色防止、白色度の向上などのために最も表層の上塗り塗工液に顔料として含有せしめる二酸化チタンは、全顔料の20質量%以下、好ましくは18質量%以下、特に好ましくは15質量%以下が有利であるが、20質量%を超えて含有せしめると効果が低下する。しかし25質量%以下であれば実用レベルの効果がある。
【0021】
次に本発明に使用する薬剤などの好ましい形態例を上げて具体的に説明する。
本発明に使用する塗工液に使用する他の顔料としては、サチンホワイト、軽質炭酸カルシウム、タルク、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化亜鉛、活性白土、酸性白土、珪素土など通常塗工用顔料として知られているものの中から適宜使用できる。
【0022】
本発明に使用する塗工液に使用する接着剤としては、スチレン−アクリル系、酢酸ビニル−アクリル系、ブタジエン−メチルメタクリル系、スチレン−ブタジエン系などの各種共重合体ラテックス、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、ヒドロシキエチル化澱粉などの澱粉類、カゼイン、大豆蛋白などの蛋白類、ポリビニールアルコールなどのその他水性接着剤から必要に応じ単独若しくは2種類以上を選択して通常使用される量で適宜に使用できる。
【0023】
本発明の塗工液には、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤など通常の塗工液に配合される各種助剤を適宜使用してもよい。それらの使用量は慣用の範囲内にある。
【0024】
なお、下塗り塗工液については、特に限定されるものではなく、塗工白板紙の品質設計に応じて、適宜配合を選択できるものである。すなわち、塗工液構成としては、一般に塗工白板紙分野で使用されている顔料及び接着剤を主成分とする塗工液が用いられる。顔料としては、例えばカオリン、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、サチンホワイト、タルク、水酸化アルミニウム、シリカ、酸化亜鉛、活性白土、酸性白土、珪素土などが例示できる。また、接着剤としては、例えばスチレン−アクリル系、酢酸ビニル−アクリル系、ブタジエン−メチルメタクリル系、スチレン−ブタジエン系などの各種共重合体ラテックス、酸化澱粉、燐酸エステル化澱粉、ヒドロシキエチル化澱粉などの澱粉類、カゼイン、大豆蛋白等の蛋白類、ポリビニールアルコールなどのその他水性接着剤が例示できる。また、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤などの各種助剤を使用してもよい。これらは、何れも必要に応じ単独若しくは2種類以上を選択して使用してもよい。
【0025】
本発明の基紙としては、従来の塗工白板紙の製造に利用されている一般の基紙を特に制限なく使用することができ、例えば、坪量150〜600g/m2 程度の多層抄板紙を用いるのが好ましい。また、基紙に使用するパルプは、通常塗工白板紙に用いるパルプが使用でき、例えば化学パルプ、機械パルプ、古紙パルプなどがある。
【0026】
塗工方法について特に制限はなく、ブレードコーター、ロッドコーター、ロールコーターなどの通常の各種塗工装置を用い、2層以上塗工する。塗工量についても特に制限はないが、各層とも固形分で3〜20g/mが好ましい。各層を塗工する毎に、又は2層以上塗工した後乾燥する。かくして塗工、乾燥された後グロスカレンダー、ソフトカレンダー、スーパーカレンダーなどで処理を施す。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を用い、更に詳細に本発明の効果を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は、全顔料を100質量部に対する質量部である。
【0028】
[実施例1〜5、比較例1〜3]表1に示したようにカオリン[カダム社製、商品名:アマゾンSB(メジアン径0.3μm)及びヒューバー社製、商品名:ハイドラコートA(メジアン径1.3μm)]と、重質炭酸カルシウム[(株)イメリスミネラルズジャパン製、商品名:カービタル90]と、二酸化チタン[デュポン社製、商品名:RPS−Vantage]と、軽質炭酸カルシウム[奥多摩工業(株)製、タバマール221GS]とを表1に示す割合で混合した混合顔料100質量部に対して、接着剤としてスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス15質量部を配合し、更に潤滑剤としてステアリン酸カルシウム0.5質量部を配合し、本発明の実施例及び比較例の上塗り塗工液を得た。
【0029】
坪量350g/mの多層抄板紙基紙に、カオリン50質量部、重質炭酸カルシウム50質量部、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス15質量部及び燐酸エステル化澱粉3質量部からなる下塗り塗工液をロッドコーターにて固形分10g/mになるように塗工、乾燥した下塗り塗工基紙に対して、表1に示す上塗り塗工液を固形分10g/mとなるようにロッドコーター又はブレードコーターで塗工、乾燥した。さらに、グロスカレンダーで処理し、塗工白板紙を得た。
【0030】
[評価試験]実施例及び比較例によって得られた各塗工白板紙について評価を行った。
1)メジアン径:堀場製作所製LA920型で測定した。
2)二ス塗布後の印刷面ムラ:RI印刷試験機を用いオフセット用油性インキをベタ刷りした後、直ちに水性ニスを塗布し、熱風乾燥機にて乾燥後目視にて印刷面のムラを目視にて評価した。
◎:ムラの発生が無い。
○:ムラの発生が僅かに認められる。
△:ムラの発生が多く認められる。
×:ムラの発生が非常に多く認められる。
3)リングパターン:塗工板紙表面を50倍の顕微鏡で観察し塗工方向の筋状パターンを目視にて評価した。
◎:パターンの発生が無い。
○:パターンの発生が僅かに認められる。
△:パターンの発生が多く認められる。
×:パターンの発生が非常に多く認められる。
4)白紙光沢度:JIS P 8142:2005「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に従い、村上色彩研究所製の光沢度計を用い、角度75度で測定した。
5)ストリーク:塗工時のコーターヘッド出口の塗工面を目視にて評価した。
◎:ストリークの発生が全く無い。
○:ストリークの発生が稀に認められる。
△:ストリークの発生が多く認められる。
×:ストリークの発生が非常に多く認められる。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から以下のことが分かる。即ち、実施例1〜5と比較例2および3との比較から、重質炭酸カルシウムを45質量%以上含有する実施例1〜5の場合には、ニス塗布後の印刷面ムラもなく、白紙光沢度も優れ、かつ、リングパターンも生じないが、重質炭酸カルシウムを含まないかその含有量が50質量%未満である比較例2および3の場合には、ニス塗布後の印刷ムラが多くまたは非常に多く認められ、リングパターンも多くまたは非常に多く認められることが分かる。実施例3と比較例1を比較すると、顔料組成が同一であるにも関わらず、塗工液固形分濃度が比較例1の場合には、62質量%と64質量%より少ないために、白紙光沢度が悪く、かつ、リングパターンが非常に多く認められることが判ります。
【0033】
実施例1および2と実施例3とを比較すれば明らかな通り、顔料としてのカオリンのメジアン径が1.3μmと0.8μmより大きいと、実用範囲にはあるとはいえ、メジアン径が0.8μmより小さい実施例1および2の場合のほうがニス塗布後の印刷面ムラが認められないことが分かる。
【0034】
実施例4と5を比較すると、両者は二酸化チタン含有量およびメジアン径0.8μmより小さいカオリンの使用量が相違するが、他の条件は全く同一である。しかし二酸化チタン含有量が20質量%以下である実施例4の場合の方が、二酸化チタン含有量が20質量%より多い(22質量%)実施例5の場合よりも、ニス塗布後の印刷面ムラが発生しないことがわかる。
【0035】
実施例1と実施例2とを比較すると、両者はコーター方式が相違するだけである。ブレードコーター方式を使用した実施例2の場合の方が、リングパターンの発生が全くないが、しかし、ストリークの発生が実施例1より多いことが判ります。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料とバインダーを主成分として含有する塗工液を2層以上塗工してなる白板紙におい
て、顔料として重質炭酸カルシウムを全顔料の45質量%以上含有し、かつ、
固形分濃度64質量%以上の塗工液を最上層に塗工することを特徴とする塗工白板紙。
【請求項2】
顔料とバインダーを主成分として含有する塗工液を2層以上塗工してなる白板紙におい
て、顔料としてレーザー式粒度分布測定によるメジアン径0.8μm以下のカオリンを含有する塗工液を最上層に塗工することを特徴とする請求項1記載の塗工白板紙。
【請求項3】
顔料とバインダーを主成分として含有する塗工液を2層以上塗工してなる白板紙におい
て、顔料二酸化チタンを全顔料の20質量%以下含有する塗工液を最上層に塗工することを特徴とする請求項1または2記載の塗工白板紙。
【請求項4】
顔料とバインダーを主成分として含有する塗工液を2層以上塗工してなる白板紙におい
て、塗工液を最上層にロッドコーターにて塗工することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の塗工白板紙。

【公開番号】特開2008−231586(P2008−231586A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68358(P2007−68358)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000241810)北越製紙株式会社 (196)
【Fターム(参考)】