説明

塗布装置および塗布膜形成システム

【課題】基材上に対して良好に塗布膜を形成することができる塗布装置、および、この塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システムを提供する。
【解決手段】塗布処理部は、主として、塗布液を貯留するタンクと、塗布液を基材に向けて吐出するノズルと、送出部30と、を備えている。送出部30は、複数の移送ポンプ31を有しており、各移送ポンプ31から排出される塗布液の排出量は、周期パラメータにしたがって周期的に変化する。ここで、各移送ポンプ31から排出される排出量の周期的成分の和が最小となるように、各移送ポンプ31の周期パラメータが設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯状とされた基材に対して連続的に塗布液を塗布することによって、基材上に塗布膜を形成する塗布装置、および、この塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材として用いられる金属箔の上に、比較的高粘度の電極材料を塗布することによって、リチウムイオン二次電池などの化学電池を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1において、塗料タンク5に貯留された活物質ペーストは、定量ポンプ6によりノズル7に向けて送出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−199916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述の活物質ペースト(電極材料)は、比較的高粘度である。また、塗布膜の膜厚は50μm〜200μm程度であり、単位時間当たりにノズルから吐出される塗布液の吐出量は、比較的少ない。
【0005】
その結果、特許文献1の定量ポンプであっても、場合によっては、単位時間当たりの送出量が、脈を打つように周期的に変化する。その結果、基材上に形成される塗布膜の膜厚が不均一になるという問題が生ずる。
【0006】
そこで、本発明では、基材上に良好に塗布膜を形成することができる塗布装置、および、この塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、帯状とされた基材に対して連続的に塗布液を塗布することによって、前記基材上に塗布膜を形成する塗布装置において、前記塗布液を貯留する貯留部と、前記塗布液を前記基材に向けて吐出するノズルと、前記貯留部側から導入された前記塗布液を前記ノズル側に送出する送出部と、前記送出部と連通接続されており、前記貯留部側から前記送出部に導入される前記塗布液を流通させる第1供給配管と、前記送出部と連通接続されており、前記送出部から前記ノズル側に送出される前記塗布液を流通させる第2供給配管とを備え、前記送出部は、複数の移送ポンプと、各々が、前記第1供給配管と、対応する移送ポンプとを連通接続する複数の導入管と、各々が、前記第2供給配管と、対応する移送ポンプとを連通接続する複数の排出管とを有し、前記複数の移送ポンプのそれぞれは、対応する導入管から前記塗布液の導入を受けるとともに、単位時間当たりの排出量が周期パラメータにしたがって周期的に変化する前記塗布液を、対応する排出管に排出し、各移送ポンプから排出される前記排出量の周期的成分の和が最小となるように、各移送ポンプの周期パラメータが設定されていることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の塗布装置において、前記周期パラメータのうち、前記排出量の周期および初期位相が設定されることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3の発明は、請求項1に記載の塗布装置において、前記周期パラメータは、前記排出量の振幅、前記排出量の周期、および初期位相が設定されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項4の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の塗布装置において、前記複数の移送ポンプのそれぞれは、円筒体であり、内側に雌ねじが成形されたステータと、前記ステータ内に配置された棒体であり、外面に雄ねじが成形されロータと、前記ロータを前記ステータに対して相対的に回転させるモータとを有し、前記ロータがステータに対して相対的に回転させられることによって、前記ステータおよび前記ロータに囲まれた空洞が、前記塗布液の導入部側から排出部側に移動することを特徴とする。
【0011】
また、請求項5の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の塗布装置において、前記複数のギヤポンプのそれぞれは、ギヤポンプであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の塗布装置と、前記塗布装置で塗布された前記基材上の前記塗布液を乾燥させる乾燥装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1から請求項6に記載の発明によれば、各移送ポンプから排出される排出量の周期的成分の和が最小となるように、各移送ポンプの周期パラメータが設定されている。これにより、送出部から送出される塗布液の送出量の周期的変化が、抑制または軽減され、基材に吐出される塗布液の吐出量がほぼ一定とされる。そのため、基材上に形成される塗布膜の膜厚が許容範囲内となり、基材上に均一な膜厚の塗布膜が形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システムの全体構成の一例を示す正面図である。
【図2】塗布処理部の概略構成を示す正面図である。
【図3】送出部の概略構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
<1.塗布膜形成システムの構成>
図1は、本発明に係る塗布装置を組み込んだ塗布膜形成システム1の全体構成を示す図である。なお、図1および以降の各図には、方向関係を明確にするために、Z軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系が付されている。また、図1および以降の各図において、理解容易のため、必要に応じて、各部の寸法や数が誇張または簡略化して描かれている。
【0017】
塗布膜形成システム1は、基材5の上に活物質の塗布膜を形成するとともに、形成された塗布膜を乾燥させることによって、リチウムイオン二次電池の電極を製造する。図1に示すように、塗布膜形成システム1は、主として、塗布処理部10、予熱部60、乾燥部65、アニール部70、冷却部75、および搬送部80を備えている。また、塗布膜形成システム1は、電源および後述する制御部90(図2参照)等を収納する電装ボックス9を備えている。
【0018】
ここで、基材5は、リチウムイオン二次電池の集電体として機能する帯状の金属箔である。基材5の形状は、より具体的には、長尺のシート状とされている。また、基材5の幅および厚さは特に限定されるものではないが、基材5の幅は600mm〜700mmとすることができ、基材5の厚さは10μm〜20μmとすることができる。
【0019】
また、塗布膜形成システム1において、リチウムイオン二次電池の正極が製造される場合、基材5として例えばアルミニウム箔(Al)が使用できる。一方、負極が製造される場合、基材5として例えば銅箔(Cu)が使用できる。
【0020】
図1に示すように、帯状の基材5は、巻き出しローラ81から送り出されて巻き取りローラ82によって巻き取られることによって、塗布処理部10、予熱部60、乾燥部65、アニール部70、冷却部75の各部に、この順番で搬送される。搬送部80は、これら巻き出しローラ81および巻き取りローラ82と複数の補助ローラ83a〜83eとを備えて構成されており、基材5を矢印AR1方向に沿って搬送する。なお、補助ローラ83a〜83eの個数および配置については、図1の例に限定されるものではなく、必要に応じて適宜に増減することができる。
【0021】
塗布処理部10は、帯状とされた基材5に対して連続的に塗布液を塗布することによって、基材5上に塗布膜を形成する。塗布液としては、電極材料として用いられる活物質が採用されている。塗布処理部10は、図1に示すように、基材5の長手方向(矢印AR1方向)(以下、単に、「長手方向」とも称する)に沿った搬送経路8において、巻き出しローラ81より下流側であって、予熱部60より上流側に配置されている。なお、塗布処理部10の詳細な構成、および電極材料として用いられる活物質の具体例については、後述する。
【0022】
予熱部60は、塗布処理部10での塗布処理によって基材5の上に形成された電極材料の塗布膜を昇温し、一定時間の予熱を行う。また、乾燥部65は、主たる乾燥処理を行う処理部であり、予熱部60にて予熱された塗布膜に熱風を吹き付けて加熱して溶剤を蒸発させる。さらに、アニール部70は、塗布膜をより高温に加熱し、塗布膜に残留している溶剤を除去するとともに、乾燥部65での乾燥処理で塗布膜中に発生した歪みおよび残留応力を除去する。冷却部75は、加熱された塗布膜に常温のドライエアを吹き付けることによって塗布膜を冷却する。
【0023】
このように、予熱部60、乾燥部65、アニール部70、および冷却部75は、塗布処理部10で塗布された基材5上の塗布液を乾燥させる乾燥装置として使用できる。なお、基材5の上に形成された塗布膜を乾燥させる乾燥装置としては、上記の4つの処理部を備えた構成に限定されるものではなく、塗布液の種類に応じて適宜のものとすることができる。例えば、乾燥装置は、予熱部60および乾燥部65のみによって構成されても良い。
【0024】
制御部90は、塗布膜形成システム1の各要素の動作を制御するとともに、種々のデータ演算を実現する。図2に示すように、制御部90は、主として、ROM91と、RAM92と、CPU93と、を有している。
【0025】
ROM(Read Only Memory)91は、いわゆる不揮発性の記憶部であり、例えば、プログラム91aが格納されている。なお、ROM91としては、読み書き自在の不揮発性メモリであるフラッシュメモリが使用されてもよい。RAM(Random Access Memory)92は、揮発性の記憶部であり、例えば、CPU93の演算で使用されるデータが格納される。
【0026】
CPU(Central Processing Unit)93は、ROM91のプログラム91aに従った制御(例えば、駆動部15によるノズル11の移動動作や、閉止バルブ20および送出部30による塗布液の吐出動作等の制御)が、実行される。
【0027】
<2.塗布処理部の構成>
図2は、本発明に係る塗布装置である塗布処理部10の概略構成を示す正面図である。図2に示すように、塗布処理部10は、主として、ノズル11と、送出部30と、タンク50と、第1および第2供給配管55a、55bと、閉止バルブ20と、を備えている。
【0028】
タンク50は、リチウムイオン二次電池の電極材料である活物質の溶液を、塗布液として貯留する。これにより、ノズル11側には、正極用または負極用の電極材料が供給される。このように、タンク50は、塗布液を貯留する貯留部として、および塗布液をノズル11側に供給する供給源として、用いられる。
【0029】
ここで、塗布膜形成システム1において正極が製造される場合、タンク50には、正極材料の塗布液として、例えば正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電助剤であるカーボン(C)と、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、溶剤であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と、の混合液が貯留される。
【0030】
正極活物質としては、コバルト酸リチウムに代えて、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、または燐酸鉄リチウム(LiFePO4)等も使用できるが、これらの物質に限定されるものではない。
【0031】
一方、塗布膜形成システム1において負極が製造される場合、タンク50には、負極材料の塗布液として、例えば負極活物質である黒鉛(グラファイト)と、結着剤であるPVDFと、溶剤であるNMPと、の混合液が貯留する。
【0032】
負極活物質としては、黒鉛に代えて、ハードカーボン、チタン酸リチウム(Li4Ti512)、シリコン合金、またはスズ合金等も使用できるが、これらの物質に限定されるものではない。
【0033】
また、正極材料および負極材料の双方において、結着剤としては、PVDFに代えてスチレン−ブタジエンゴム(SBR)等も用いられ、溶剤としては、NMPに代えて水(H2O)等も使用できる。さらに、結着剤としてSBRが、溶剤として水が、それぞれ用いられる場合、カルボキシメチルセルロース(CMC)が、増粘剤として併用できる。
【0034】
さらに、これら正極材料および負極材料の塗布液は、固体(微粒子)が分散されたスラリーである。これら塗布液の粘度は、いずれも1Pa・s(パスカル秒)以上であり、一般的にチクソトロピー性を有する。
【0035】
タンク50には、攪拌機53およびエア加圧ユニット54が付設されている。攪拌機53は、スクリュー53aを有しており、スクリュー53aは、タンク50内の塗布液に浸漬可能とされている。したがって、スクリュー53aが回転させられることによって、タンク50に貯留された塗布液が撹拌される。
【0036】
エア加圧ユニット54は、高圧の空気をタンク50内の気相部分に送り込んで貯留されている塗布液の液面を加圧する。なお、送出部30のみで送液が可能であれば、エア加圧ユニット54は必須の要素ではない。
【0037】
第1供給配管55aは、図2に示すように、タンク50および送出部30のそれぞれと連通接続されている。第1供給配管55aは、タンク50側から送出部30に導入される塗布液を流通させる。
【0038】
第2供給配管55bは、図2に示すように、送出部30およびノズル11のそれぞれと連通接続されている。第2供給配管55bは、送出部30からノズル11側に送出される塗布液を流通させる。また、図2に示すように、第2供給配管55bの経路途中には、閉止バルブ20および流量計52が介挿されている。なお、第1および第2供給配管55a、55bとしては、ステンレス管または樹脂管が使用できる。
【0039】
循環配管56は、第2供給配管55bの途中から分岐して設けられている。循環配管56の基端側は第2供給配管55bの閉止バルブ20と流量計52との間の位置に接続され、先端側はタンク50に接続されている。循環配管56には、循環バルブ57および流量調整バルブ58が介挿されている。
【0040】
送出部30は、タンク50側から導入された塗布液をノズル11側に送出する。図2に示すように、送出部30の一端は、第1供給配管55aと、送出部30の他端は第2供給配管55bと、それぞれ連通している。なお、送出部30の詳細な構成については、後述する。
【0041】
流量計52は、送出部30から送り出された後、第2供給配管55bを流れる塗布液の流量を計測する。閉止バルブ20は、第2供給配管55bの流路を開閉することによって、ノズル11への塗布液の供給を断続させる。
【0042】
循環配管56に設けられている循環バルブ57は、循環配管56の流路を開閉する。閉止バルブ20が第2供給配管55bを閉止した状態で、循環バルブ57が開かれることによって、第2供給配管55bを流れる塗布液は、循環配管56に流れ込み、タンク50へと帰還させられる。循環配管56を流れる塗布液の流量は、流量調整バルブ58により調整される。
【0043】
ノズル11は、図2に示すように、バックアップローラ12と対向する位置に配置されている。ノズル11の先端には、基材5の幅方向(図2の矢印AR2方向)(基材5の長手方向と直交する方向:以下、単に、「幅方向」と称する)に沿ったスリット状の吐出口11aが設けられている。そして、第2供給配管55bを経由して送供され、吐出口11aから吐出される塗布液は、バックアップローラ12に押圧支持された基材5に向けて吐出される。
【0044】
位置検出部13は、図2に示すように、長手方向に沿った基材5の搬送経路8において、ノズル11の吐出位置PDより上流側の検出位置PSに配置されており、バックアップローラ13aと対向する。
【0045】
また、位置検出部13は、いわゆる2次元レーザ変位計により構成されたセンサであり、基材5の各部分における第1塗布膜6の位置を正確に検出する。これにより、制御部90は、基材5の各部分において、第1および第2塗布膜6、7の形成位置が一致するように、ノズル11の位置を決定することができる。そのため、第1および第2塗布膜6、7を有する化学電池の性能を向上させることができる。
【0046】
なお、位置検出部13としては、塗布膜で反射されたレーザ光と、塗布膜を透過したレーザ光と、を用いて、第1および第2塗布膜6、7の膜厚を測定するものが、用いられても良い。
【0047】
図2に戻って、駆動部15は、ノズル11を前後左右上下に移動させることによって、バックアップローラ12に対する吐出口11aの位置を調整する。圧力計18は、ノズル11内における塗布液の圧力を計測する。また、圧力計18によってノズル11内における塗布液の圧力が計測されるとともに、流量計52によって第2供給配管55bを流れる塗布液の流量が計測されることによって、第2供給配管55bを流れる塗布液の状態が把握できる。
【0048】
<3.送出部の構成>
図3は、送出部30の概略構成を示す正面図である。図3に示すように、送出部30は、主として、複数の移送ポンプ31(31a、31b)と、複数の導入管41(41a、41b)と、複数の排出管43(43a、43b)と、を有している。
【0049】
複数(本実施の形態では2本)の導入管41(41a、41b)は、対応する移送ポンプ31a、31bに塗布液を導入する。図3に示すように、導入管41aは、第1供給配管55aと、対応する移送ポンプ31aの導入部38(38a)と、を連通接続する。一方、導入管41bは、第1供給配管55aと、対応する移送ポンプ31bの導入部38(38b)と、を連通接続する。
【0050】
複数(本実施の形態では2本)の排出管43(43a、43b)は、対応する移送ポンプ31a、31bから排出される塗布液を、流通させる。図3に示すように、排出管43aは、第2供給配管55bと、対応する移送ポンプ31aの排出部39(39a)と、を連通接続する。一方、排出管43bは、第2供給配管55bと、対応する移送ポンプ31bの排出部39(39b)と、連通接続する。
【0051】
複数(本実施の形態では2つ)の移送ポンプ31(31a、31b)は、いわゆるモーノポンプにより構成されている。各移送ポンプ31(31a、31b)は、導入部38(38a、38b)から導入された塗布液を、排出部39(39a、39b)に移送することによって、排出部39(39a、39b)から所望の流量の塗布液を排出する。図3に示すように、移送ポンプ31aは、主として、ステータ32と、ロータ33と、ジョイント34と、モータ35と、を有している。
【0052】
なお、移送ポンプ31a、31bは、互いに同様なハードウェア構成を有している。したがって、以下では、移送ポンプ31aのハードウェア構成についてのみ説明する。また、本実施の形態において、移送ポンプ31a、31bを総称して「移送ポンプ31」とも呼ぶ。
【0053】
ステータ32は、金属製の円筒体である。ステータ32の内側には、雌ねじが成形された弾性材が、取り付けられている。ロータ33は、ステータ32内に配置される棒体である。ロータ33の外面には、雄ねじが成形されている。また、図3に示すように、ロータ33は、ジョイント34を介してモータ35の回転軸35aと連動連結されている。
【0054】
これにより、モータ35の回転力が回転軸35aおよびジョイント34を介してロータ33に伝達され、ロータ33がステータ32に対して回転すると、ステータ32およびロータ33に囲まれたキャビティ32a(空洞)が、導入部38a側から排出部39a側に移動する。そのため、ロータ33が回転すると、キャビティ32a内の塗布液が、導入部38a側から排出部39a側に移送される。
【0055】
なお、ステータ32の弾性材としては、例えば、合成ゴム、樹脂、および金属等が採用できる。また、ロータ33の材質としては、例えば、ステンレスおよびセラミックス等が採用できる。
【0056】
ここで、各移送ポンプ31a、31bに導入される塗布液(電極材料)は、上述のように、比較的高粘度である。また、基材5上に塗布される塗布液の厚さは、上述のように10μm〜20μmであり、単位時間当たりに各移送ポンプ31a、31bから排出される塗布液の排出量は、比較的少ない。その結果、移送ポンプ31a、31bから排出される塗布液の排出量(単位時間当たりの排出量)が、脈を打つように周期的に変化するという問題が生ずる。
【0057】
この周期的な変化の一例は、式(1)および式(2)のように表すことができる。
【0058】
【数1】

【0059】
【数2】

【0060】
式(1)および式(2)は、それぞれ時刻tにおける移送ポンプ31a、31bの排出量Vs1、Vs2(m3/s)を示す。また、式(1)および式(2)中において、
a)Vnt1、Vnt2は、移送ポンプ31a、31bの排出量の初期値(m3/s)を、
b)Vamp1、Vamp2は、移送ポンプ31a、31bの排出量の振幅(m3/s)を、
c)T1、T2は、移送ポンプ31a、31bの排出量の変化の周期(s)を、
d)φ1、φ2は、初期位相を、
e)V1(t)、V2(t)は、排出量Vs1、Vs2のうち周期的に変化する周期的成分(m3/s)を、
それぞれ示すものである。また、これら変数のうち、少なくとも、排出量の振幅Vamp1、Vamp2、周期T1、T2、および初期位相φ1、φ2は、各移送ポンプ31a、31bから排出される排出量の周期的変化を決定する周期パラメータとして用いられる。
【0061】
このように、各移送ポンプ31a、31bは、対応する導入管41a、41bから塗布液の導入を受けるとともに、単位時間当たりの排出量が周期パラメータにしたがって周期的に変化する塗布液を、対応する排出管43a、43bに排出する。
【0062】
これに対して、本実施の形態の送出部30は、各移送ポンプ31a、31bから排出された塗布液を第2供給配管55bで混合させた後、ノズル11側に送出している。したがって、時刻tにおける送出部30の送出量Vsc(m3/s)は、式(3)のように表すことができる。
【0063】
【数3】

【0064】
式(1)から式(3)に示すように、周期パラメータ(振幅Vamp1、Vamp2、周期T1、T2、および初期位相φ1、φ2)が適切に設定されることによって、周期的成分V1(t)、V2(t)の和が最小となる。
【0065】
例えば、周期パラメータのうち、振幅Vamp1、Vamp2、周期T1、T2、および初期位相φ1、φ2が、「Vamp2=Vamp1」、「T2=T1」、および「φ2=φ1+π」となるように設定されるとき、式(3)の周期的成分V1(t)、V2(t)の和は「0」となる。その結果、送出部30の送出量Vscは、一定となる。
【0066】
また、周期パラメータのうち、周期T1、T2および初期位相φ1、φ2が、「T2=T1」および「φ2=φ1+π」となるように設定されるとき、式(3)の周期的成分V1(t)、V2(t)の和の絶対値は、「0≦|Vamp2−Vamp1|」となる。その結果、送出部30の送出量Vscの周期的変化が軽減される。
【0067】
なお、周期T1、T2は、例えば、ロータ33の回転速度を調整することにより設定できる。また、初期位相φ1、φ2は、ロータ33の回転開始位置を調整することにより設定できる。そして、これら調整は、制御部90によりモータ35の回転動作を制御することによっても、実現できる。
【0068】
<4.本実施の形態の塗布処理部および塗布膜形成システムの利点>
以上のように、本実施の形態の塗布処理部10、および塗布処理部10を組み込んだ塗布膜形成システム1において、各移送ポンプ31a、31bから排出される塗布液の排出量Vs1、Vs2が周期的に変化(脈動)する。また、各移送ポンプ31a、31bから排出される排出量の周期的成分の和が最小となるように、各移送ポンプ31a、31bの周期パラメータが設定されており、各周期的成分は互いに相殺される。
【0069】
これにより、送出部30から送出される塗布液の送出量Vscの周期的変化が、抑制または軽減され、基材5に吐出される塗布液の吐出量がほぼ一定とされる。そのため、基材5上に形成される第1および第2塗布膜6、7の膜厚が、許容範囲内となり、基材5上に均一な膜厚の第1および第2塗布膜6、7が形成される。
【0070】
<5.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく様々な変形が可能である。
【0071】
(1)本実施の形態において、送出部30は、2つの移送ポンプ31(31a、31b)を有するものとして説明したが、これに限定されるものでない。例えば、送出部30は、3つ以上の移送ポンプ31を有しても良い。
【0072】
(2)また、本実施の形態の移送ポンプ31において、ロータ33がステータ32に対して回転するものとして説明したが、これに限定されるものでない。キャビティ32a(空洞)が、導入部38a側から排出部39a側に向かって移動することを実現できれば、ステータ32がロータ33に対して回転しても良いし、ステータ32およびロータ33の両者が回転しても良い。すなわち、モータ35が、ステータ32に対してロータ33を相対的に回転させれば十分である。
【0073】
(3)また、本実施の形態では、移送ポンプ31として、いわゆるモーノポンプを用いるものとして説明したが、これに限定されるものでない。例えば、移送ポンプ31としてギヤポンプが採用されても良い。
【0074】
(4)また、本実施の形態において、制御部90は、塗布膜形成システム1の各要素(塗布処理部10、予熱部60、乾燥部65、アニール部70、および冷却部75)の動作制御や、これら各要素に関する演算処理を実行するものとして説明したが、これに限定されるものでない。例えば、制御部90は、塗布処理部10専用であっても良く、塗布処理部10に制御部90が含まれても良い。
【符号の説明】
【0075】
1 塗布膜形成システム
5 基材
6 第1塗布膜
7 第2塗布膜
10 塗布処理部
11 ノズル
30 送出部
31(31a、31b) 移送ポンプ
32 ステータ
32a キャビティ
33 ロータ
35 モータ
38(38a、38b) 導入部
39(39a、39b) 排出部
41(41a、41b) 導入管
43(43a、43b) 排出管
50 タンク(貯留部)
55a 第1供給配管
55b 第2供給配管
60 予熱部
65 乾燥部
70 アニール部
75 冷却部
80 搬送部
90 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状とされた基材に対して連続的に塗布液を塗布することによって、前記基材上に塗布膜を形成する塗布装置において、
(a) 前記塗布液を貯留する貯留部と、
(b) 前記塗布液を前記基材に向けて吐出するノズルと、
(c) 前記貯留部側から導入された前記塗布液を前記ノズル側に送出する送出部と、
(d) 前記送出部と連通接続されており、前記貯留部側から前記送出部に導入される前記塗布液を流通させる第1供給配管と、
(e) 前記送出部と連通接続されており、前記送出部から前記ノズル側に送出される前記塗布液を流通させる第2供給配管と、
を備え、
前記送出部は、
(c-1) 複数の移送ポンプと、
(c-2) 各々が、前記第1供給配管と、対応する移送ポンプと、を連通接続する複数の導入管と、
(c-3) 各々が、前記第2供給配管と、対応する移送ポンプと、を連通接続する複数の排出管と、
を有し、
前記複数の移送ポンプのそれぞれは、
(i) 対応する導入管から前記塗布液の導入を受けるとともに、
(ii) 単位時間当たりの排出量が周期パラメータにしたがって周期的に変化する前記塗布液を、対応する排出管に排出し、
各移送ポンプから排出される前記排出量の周期的成分の和が最小となるように、各移送ポンプの周期パラメータが設定されていることを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布装置において、
前記周期パラメータのうち、前記排出量の周期および初期位相が設定されることを特徴とする塗布装置。
【請求項3】
請求項1に記載の塗布装置において、
前記周期パラメータは、前記排出量の振幅、前記排出量の周期、および初期位相が設定されることを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の塗布装置において、
前記複数の移送ポンプのそれぞれは、
円筒体であり、内側に雌ねじが成形されたステータと、
前記ステータ内に配置された棒体であり、外面に雄ねじが成形されロータと、
前記ロータを前記ステータに対して相対的に回転させるモータと、
を有し、
前記ロータがステータに対して相対的に回転させられることによって、前記ステータおよび前記ロータに囲まれた空洞が、前記塗布液の導入部側から排出部側に移動することを特徴とする塗布装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の塗布装置において、
前記複数のギヤポンプのそれぞれは、ギヤポンプであることを特徴とする塗布装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の塗布装置と、
前記塗布装置で塗布された前記基材上の前記塗布液を乾燥させる乾燥装置と、
を備えることを特徴とする塗布膜形成システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−211568(P2012−211568A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78566(P2011−78566)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】