説明

塗布装置及び該塗布装置を用いた塗布方法

【課題】塗料の使用量を低減し、且つ、経時的に反応性が低下する塗料であっても反応性を経時的に低下させることなく対象物に塗布することができる塗布装置及びその塗布装置を用いた塗布方法を提供すること。
【解決手段】塗料が塗布される板状の基材18を安定保持する載置台13と、載置台13上の基材18の上方位置に配置された塗布ユニット20と、送液手段と、移動機構とを有する塗布装置10である。塗布ユニット20は、下方へ突出する突出部28の先端面28bに設けられた塗料供給口32と、塗料含浸用布44を先端面28bに当接させた状態で張架支持すると共に、張架方向へ移動可能な支持・移動手段と、を有する。これにより、塗料供給口32から流出した後に速やかに塗料を基材18に塗布することができるので、経時的に基材18との反応性が低下する塗料であっても反応性を経時的に低下させることなく塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料の塗布装置及び該塗布装置を用いた塗布方法に関し、特に、塗料含浸用布に塗料を含浸させ、この塗料含浸用布を介して基材表面に塗料を塗布する塗布装置及びその塗布装置を用いた塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルカメラ、及びタブレット型端末の表示部等には、指や体の一部が表示部に触れて指紋汚れが付着し、又は濡れた手で触れた際には水が付着し、画面が見えづらくなる。特に、タッチパネルを搭載した端末においては、操作後の指紋汚れや水の付着を防止し、又は付着したものを容易に除去できるようにし、画面上での操作をスムーズに行えるようにする必要がある。
【0003】
そのために、例えば、特許文献1に記載されるような有機シラン化合物からなるシランカップリング剤含有塗料をガラス板等の基材上に塗布し、その化合物末端のシランカップリング基を基材上の水酸基と脱水縮合反応させてその基材と結合させ、撥水性、撥油性を付与することが行われる。
【0004】
このシランカップリング剤含有塗料の塗布には、基材の表面への均一処理が可能な湿式法が好ましく用いられ、例えば、浸漬塗り(どぶ漬け塗装)や吹付塗装が挙げられる。また、特許文献2には、その図7において、無端ベルトに塗料を供給し、塗料を保持した無端ベルトを基板に接触させて塗布する塗布装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−094567
【特許文献2】特開2004−073925
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、浸漬塗りでは、基材全体を塗料中に浸漬させるため、基材の両面に塗料が塗布されてしまう。これでは本来塗装の必要のない基材の裏面にも撥水性・撥油性が付与されてしまい、裏面に携帯電話本体等との接着のための接着剤やインクを塗布させることができず、製品の製造上の不具合が生じる。更に、基材の表面に塗布するのに必要な量だけでなく基材全体を浸漬させる量の塗料が必要となり、製造コストの増大を招く。
【0007】
また、吹き付け塗装では基材の表面のみを塗装可能であるが、吹き付けた塗料が基材表面以外の場所へも飛散するので、塗料の使用量が比較的多くなる。更に、吹き付けの際に塗料が空気を抱き込むことになる。すなわち、特許文献1に記載のシランカップリング剤含有塗料が空気を抱き込むことにより塗料中のシランカップリング基が空気中の水分等と反応して反応が進行し、ガラス板との反応性が低下するという不具合が生じる。これにより、塗布後の基材の撥水性・撥油性が不十分となり、又は撥水性・撥油性の性能のムラが生じるおそれがある。
【0008】
更に、特許文献2に記載の塗布装置によると、吹き付け塗装同様にガラス板の表面のみを塗布可能であり、且つ無端ベルトを介して塗料を塗布することで塗料の飛散等の問題も無く塗料の使用量も減少する。しかし、塗布後に無端ベルト上に残存する塗料が無端ベルトの周回軌道を循環中に空気中の水分と反応して基材との反応性が低下し、その反応性が低下した塗料が無端ベルトの周回後に基材に塗布されてしまうおそれがある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗料の使用量を低減し、且つ、経時的に反応性が低下する塗料であっても反応性を経時的に低下させることなく対象物に塗布することができる塗布装置及びその塗布装置を用いた塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するための請求項1に記載の発明は、塗料の塗布装置であって、前記塗料が塗布される対象物を安定保持する保持部と、該保持部に保持された前記対象物の上方位置に配置され、下方に突出する突出部を有する塗料供給部と、前記突出部の先端面に設けられた塗料供給口と、長尺の帯状の塗料含浸用布を前記突出部の先端面に当接させた状態で張架支持すると共に、張架方向へ移動可能な支持・移動手段と、を有する塗布ユニットと、該塗布ユニットの前記塗料供給口に塗料を送る送液手段と、前記塗布ユニットと前記対象物との相対的な接離移動及び略平行移動を行う移動機構と、を有することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、塗料供給口から流出した塗料は突出部の先端面に当接する塗料含浸用布に含浸保持される。そして、そのまま突出部の先端面を下方へ移動させて塗料含浸用布を対象物と接触させ、接触させたまま対象物に対して略平行移動させることで、塗料含浸用布から塗料を速やかに対象物に塗布することができる。このように、塗料供給口から流出した後に速やかに塗料を対象物に塗布することができるので、経時的に対象物との反応性が低下する塗料であっても反応性を経時的に低下させることなく塗布することができる。
【0012】
更に、塗布後に塗料含浸用布のうちの塗布に用いた部位を支持・移動手段によって移動させて未使用の部位を突出部の先端面に当接させ、新たな塗料を含浸させることで、常に反応性を経時的に低下させない状態で塗料を対象物に塗布することができる。すなわち、無端ベルトや塗布パッドを用いる場合のように、塗料が無端ベルトや塗布パッド上で長時間停滞することを回避することができる。
【0013】
また、塗料を含浸保持させた塗料含浸用布によって対象物への塗布が行われるので塗料の飛散等による塗料使用量の無駄が無く、且つ塗料を上述の略平行移動により対象物上に薄く広く塗り広げることができ、塗料の使用量を節約することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の塗布装置において、前記突出部の先端面は、前記当接された塗料含浸用布の張架方向と直交する方向に所定長さ伸長すると共に、該伸長方向に沿って延在し前記塗料供給口を通過する凹溝を有することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、塗料供給口から流出した塗料は突出部の先端面に設けられた凹溝中をその先端面の伸長方向に亘って速やかに展開される。したがって、突出部の先端面の伸長する所定長さに亘って塗料が塗料含浸用布に含浸保持される。これにより、より薄く広く塗料を対象物上に塗り広げることができ、塗料の使用量をより効果的に節約することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の塗布装置において、前記塗料供給口は、前記先端面の伸長方向に所定間隔おきに複数設けられたことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、所定間隔おきに複数設けられた塗料供給口により凹溝中をその先端面の伸長方向に亘ってより速く塗料を展開させることができる。したがって、迅速に突出部の先端面の伸長する所定長さに亘って塗料を塗料含浸用布に含浸させることができるので、塗料供給口から流出した塗料をさらに速やかに対象物に塗布することができる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか1項に記載の塗布装置において、前記移動機構による前記相対的な移動は、前記塗布ユニットを移動させることによって行うことを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、塗布ユニット全体が一つの移動体として構成されているので、装置構成をコンパクトなものとすることができる。そして、塗料を各対象物に塗布する過程が塗布ユニットのみの移動により完結するという利点がある。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか1項に記載の塗布装置を用いる塗料の塗布方法であって、前記保持部に前記対象物を保持させる対象物保持工程と、前記塗料含浸用布を前記突出部の先端面に当接させた状態で張架するように前記支持・移動手段に支持させる支持工程と、前記送液手段によって前記塗布ユニットの塗料供給口へと塗料を送り、前記塗料供給口から流出した塗料を前記塗料含浸用布に含浸保持させる送液工程と、前記移動機構により前記先端面に当接する前記塗料含浸用布が前記対象物へと接触するまで前記塗布ユニットを前記対象物へと近接移動させ、該接触状態で前記塗布ユニットを前記対象物に対して略平行移動させることにより前記塗料含浸用布を前記対象物と摺動させて前記対象物に塗料を塗布する塗布工程と、該塗布工程の後、前記移動機構により前記対象物と接触した前記塗料含浸用布が前記対象物から離反するまで前記塗布ユニットを前記対象物から離反移動させる離反移動工程と、前記支持・移動手段により前記塗料含浸用布を前記張架方向へ移動させる塗料含浸用布移動工程と、を有することを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、送液工程において塗料供給口から流出した塗料は突出部の先端面に当接する塗料含浸用布に含浸保持される。そして、塗布工程においてそのまま突出部の先端面を下方へ移動させて塗料含浸用布を対象物と接触させ、接触させたまま対象物に対して平行移動させることで、塗料供給口から流出した塗料を速やかに対象物に塗布することができる。このように、塗料供給口から流出した後に速やかに塗料を対象物に塗布することができるので、経時的に対象物との反応性が低下する塗料であっても反応性を経時的に低下させることなく塗布することができる。
【0021】
更に、塗布工程後に塗料含浸用布移動工程において、例えば、塗料含浸用布のうちの塗布に用いた部位を支持・移動手段によって移動させて未使用の部位を突出部の先端面に当接させ、新たな塗料を含浸させることで、常に反応性を経時的に低下させない状態で塗料を対象物に塗布することができる。すなわち、無端ベルトや塗布パッドを用いる場合のように、塗料供給口から流出した塗料が無端ベルトや塗布パッド上で長時間停滞することを回避することができる。
【0022】
また、本発明に係る塗布装置を用いる塗布方法は、塗料を含浸保持させた塗料含浸用布によって対象物への塗布が行われるので塗料の飛散等による塗料使用量の無駄が無く、且つ塗料を上述の略平行移動により対象物上に薄く広く塗り広げることができ、塗料の使用量を節約することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、塗料供給口から流出した塗料を速やかに対象物に塗布することができるので、経時的に対象物との反応性が低下する塗料であっても反応性を経時的に低下させることなく塗布することができる。よって、対象物にしっかり結合した塗膜を施すことができる。
【0024】
更に、塗料含浸用布に含浸保持された塗料は、対象物上に薄く広く塗り広げられるので、塗料の使用量を節約することができる。よって、対象物への塗膜の形成にかかる塗料コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る塗布装置10の正面図である。
【図2】同じく、塗布装置10の側面図である。
【図3】同じく、塗布ユニット20を説明するための拡大斜視図である。
【図4】同じく、図3を矢印100方向から見た図である。
【図5】同じく、塗料含浸用布20と基材18の接触状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施の形態について図に基づいて詳細に説明する。対象物の表面に塗料を塗布するために用いる本発明の塗布装置及びその装置を用いた塗布方法を、図1〜5を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係る塗布装置10の正面図、図2は本実施の形態に係る塗布装置10の側面図である。
【0027】
図示のように、平坦な台座12上には、塗料が塗布される対象物である板状の基材18を安定保持する保持部であり台座12に対して略平行である載置台13が設けられ、また、基端が台座12に固定された2本の縦柱14が立設されている。この縦柱14の先端近傍に両端部が固定された梁部材16が台座12と略平行に架け渡されている。この梁部材16に対して、基材18へと塗料を塗布する機構の集合体である塗布ユニット20が、載置台13に保持された基材18の上方位置で後述するスライダブロック22を介して取り付けられている。塗布ユニット20は、スライダブロック22を含む移動機構によって基材18に接離移動し、及び基材18と略平行移動する。以上の概略構成を有する塗布装置10の各構成について、以下に詳述する。
【0028】
まず、塗布ユニット20について説明する。図3は、塗布ユニット20を説明するための拡大斜視図であり、図4は、同図を矢印100方向から見た図である。図示のように、板状の塗布ユニット本体24に対して矩形のブロック26の端部が固定して取り付けられている。このブロック26の下方に突出する略矩形の突出部28が、棒状の2本の接続ロッド30によって所定間隔をおいて連結されており、必要に応じて突出部28の高さ位置がこの間隔により調整される。この接続ロッド30により連結されたブロック26及び突出部28により、塗料供給部29が構成されている。
【0029】
突出部28は、ブロック26と対向する上面28a及び基材18と対向する先端面28bを有し、四方の側面が開口した中空の構造体である。突出部28は、塗布ユニット本体24の面24aと垂直方向に伸長する細長な矩体である。よって、先端面28bもその矩体の伸長方向に伸長している。この先端面28bには、その先端面28bの伸長方向に沿って延在する断面矩形の凹溝28cが設けられている。そして、凹溝28cには、図3における奥方向から手前方向にかけて等間隔に5つの塗料供給口32が開口している。
【0030】
塗料供給口32にはそれぞれ塗料を塗料供給口32へと送液するための送液チューブ34の一端が接続されており、送液チューブ34の他端は台座12上の制御台36に載置したペリスタルティックポンプ38にそれぞれ接続されている。これら送液チューブ34及びペリスタルティックポンプ38によって送液手段が構成されている。
【0031】
更に、ブロック26の側面26aと対向する位置に矩形の固定ブロック40が、側面26aに対して接触状態及び離間状態となることができるように接離移動可能に塗布ユニット本体24に対して取り付けられている。これにより後述する塗料含浸用布44を固定ブロック40及びブロック26により挟持し、固定することができる。これら固定ブロック40とブロック26は挟持手段を構成する。さらに、塗布ユニット20は、以下の構成の支持・移動手段を有する。
【0032】
支持・移動手段は、図1に示すように、ブロック26及び固定ブロック40より高い高さ位置で塗布ユニット本体24に重合して固定された板状体42と、板状体42の表面42aにそれぞれ一端が軸支された2本のローラによって構成されている。この2本のローラに長尺の帯状の塗料含浸用布44が張架されるように巻回支持される。その2本のローラのうち、向かって左側のローラは塗料含浸用布44を送りだす側の送り出しローラ46であり、向かって右側のローラは塗料含浸用布44を巻き込む側の巻き込みローラ48である。張架された塗料含浸用布44は、塗布ユニット本体24に一端がそれぞれ軸支されたガイドローラ50、52に案内されて突出部28の先端面28bと当接している。なお、上述した先端面28bの伸長方向と塗料含浸用布44の張架方向(図1における矢印200方向)は直交している。
【0033】
巻き込みローラ48は、図示しない駆動モータにより矢印300方向に回転することで、塗料供給口32に対して塗料含浸用布44をその張架方向である巻き込み方向に移動させる移動手段として作用する。なお、送り出しローラ46は、巻き込みローラ48の回転により巻き取られる塗料含浸用布44の回転に伴って回転する。
【0034】
次に、移動機構について説明する。移動機構は、上述の梁部材16、スライダブロック22、及び塗布ユニット本体24によって構成されている。梁部材16はその上面及び下面にそれぞれ凹溝16aを有する断面略エ字状に形成されている。スライダブロック22は、略矩体として形成され、縦柱14側の面には梁部材16の塗布ユニット20側部位を遊嵌する凹溝22aが設けられている。そして、凹溝22a内の上下方向にそれぞれ設けられたローラ22bが梁部材16の凹溝16aを挟持すると共に、そのローラ22bが図示しない駆動モータにより回転し、塗布ユニット本体24を塗布ユニット20ごと矢印200方向に、すなわち、載置台13に対して略平行に、且つ塗料含浸用布44の張架方向に移動させる。これにより、塗布ユニット20は、載置台13に安定保持された基材18に対して略平行方向に移動する。
【0035】
また、塗布ユニット本体24は、その左右方向(図1における矢印200方向)の両端側が縦柱14側の面から切り欠かれて薄肉化されており、それゆえ塗布ユニット本体24は断面略T字状の板材である。すなわち、塗布ユニット本体24の上下方向略全長に亘って縦柱14側に突出する凸部24bを有する。スライダブロック22は、その塗布ユニット20側の面に上下方向に切り欠かれた凹溝22cを有し、凹溝22c内の左右方向にそれぞれ設けられたローラ22dにより凸部24bを凸部24bの側面から挟持すると共に、そのローラ22dは図示しない駆動モータにより回転し、塗布ユニット本体24を塗布ユニット20ごと矢印300方向に、すなわち、載置台13に対して上下方向に移動させる。これにより、塗布ユニット20は載置台13上の基材18に対して接離方向に移動する。
【0036】
更に、保持部移動機構について説明する。保持部である載置台13は、平坦な台座12上に設けられたガイドレール54上に載置されている。ガイドレール54は上方に凹溝54aを有し、載置台13の下部における下方に突出する脚部13aの底面及び側面に設けられたローラ13bが、図示しない駆動モータにより回転し、ガイドレール54の凹溝54a上を走行して矢印400方向へ、すなわち、塗料含浸用布44の張架方向と直交する方向に移動可能である。
【0037】
以上の構成を有する塗布装置10を用いた基材18への塗料の塗布方法を説明する。本実施の形態において、対象物である基材18はガラス板である。この基材の大きさは、例えば、一辺の長さが塗料含浸用布44の幅lより若干短い正方形状である。この基材18を、載置台13上に3行3列で計9枚載置する。載置した基材18は、載置台13表面に各ガラス板の下側となるように配置された図示しない吸引口からエアーで吸着固定されることにより安定保持されている(対象物保持工程)。
【0038】
次に、塗料含浸用布44を支持・移動手段に支持させる。ここで、塗料含浸用布44は、例えば、給水性及び給油性を備える糸から編まれた布、又は給水性及び給油性を備える繊維から作られた不織布である。この塗料含浸用布44の支持は、その長手方向の両端をそれぞれ送り出しローラ46及び巻き込みローラ48に固定することによりなされる。そして、送り出しローラ46側を矢印300方向に巻回し、両ローラ間の塗料含浸用布44を張架するように送り出しローラ46及び巻き込みローラ48に支持させる。この状態において、塗料含浸用布44は、送り出しローラ46側からガイドローラ50に周接してそこから下方へ伸長し、固定ブロック40及びブロック26間を通過して突出部28の先端面28bと当接し、先端面28bから再び上方へ伸長してガイドローラ52と周接して巻き込みローラ42へと巻回されている(支持工程)。
【0039】
なお、この塗料含浸用布44の張架方向と直交する方向に、突出部28の先端面28bは塗料含浸用布44の幅lを若干超える幅となるように伸長している。
【0040】
支持工程後、挟持手段により、固定ブロック40がブロック26の側面26a方向へ移動し、塗料含浸用布44を挟持して固定する(塗料含浸用布挟持工程)。
【0041】
その後、塗料を送液手段によって塗料供給口32から流出させ、突出部28の先端面28bと当接する塗料含浸用布44へと塗料を含浸保持させる。この送液は、ペリスタルティックポンプ38によって塗料の供給速度を調節し、送液チューブ34中を塗料供給口32まで塗料を送ることによって行う。ペリスタルティックポンプ38の送液速度は、塗料供給口32が5つある場合、例えば、0.1〜0.05ml/minである。この送液速度及び送液時間は、塗料含浸用布44がその幅lの全幅に亘って塗料を含浸保持するのに十分な量であれば良く、上記速度に限られるものではない(送液工程)。
【0042】
このとき、塗料は先端面28bの凹溝28cに等間隔に5つ設けられた塗料供給口32から流出するので、突出部28の先端面28bに形成された凹溝28c中を先端面28bの伸長方向全長に亘って速やかに展開され、展開された塗料は塗料含浸用布44の幅lの全幅に亘って速やかに含浸する。これにより、塗料供給口32から流出した塗料の迅速な塗布が行われると共に、以下の塗布工程において、塗料含浸用布44が含浸した塗料が塗料含浸用布44の幅lをいっぱいに使ってより広く薄く基材18上に塗り広げられるという効果が得られる。
【0043】
次に、塗布工程について説明する。図1に示すように、移動機構により、離間した位置にある先端面28bに当接する塗料含浸用布44と基材18を互いに接触するまで塗布ユニット20を基材18へと近接移動させる。そして、図5に示すように、塗料含浸布44と基材18の接触状態において、再び移動機構により、塗布ユニット20を今度は基材18に対して略平行方向且つ塗料含浸用布44の張架方向へと移動させる。これにより、上述の通り、塗料を含浸保持した塗料含浸用布44はその幅lをいっぱいに使って基材18と摺動し、含浸した塗料を基材18に塗布することができる(塗布工程)。
【0044】
本実施の形態においては、塗布ユニット20を載置台13の一辺の長さに亘って基材18に対して略平行方向且つ塗料含浸用布44の張架方向へと移動させることで、一気に基材18を一列3枚分塗布することができる。更に、上記摺動の際、挟持手段により塗料含浸用布44が塗布ユニット20へと挟持固定されているので、移動機構により塗布ユニット20を基材18に対して矢印200方向且つ図5における向かって左方向に移動させた場合でも、塗料含浸用布44が摺動に伴ってその張架方向(矢印200方向)へずれることがなく、的確に塗料を塗布することができる。すなわち、矢印200方向であれば図5における左右どちらの方向へも塗布ユニット20を移動させて基材18上に塗料を塗布することができる。
【0045】
また、塗料の塗布が塗料含浸用布44の基材18に対する摺動によりなされるので、基材18上に付着していた塵や埃を同時に拭き取る効果も期待できる。
【0046】
塗布工程終了後、移動機構により基材18と接触した塗料含浸布50をその基材18から離反するまで塗布ユニット20を基材18から離反移動させる(離反移動工程)。
【0047】
その後、挟持手段により固定ブロック40をブロック26の側面26aから離反させ、塗料含浸用布44の固定状態を解除する(塗料含浸用布固定解除工程)。
【0048】
その後、支持・移動手段により、巻き込みローラ48を矢印300方向に回転させ、塗料含浸用布44を張架方向、且つ巻き込みローラ48側へと移動させることで、先端面28bから塗料含浸用布44における塗布に用いた部位を移動させ、塗料含浸用布44における未使用の部位を先端面28bに当接させ(塗料含浸用布移動工程)、再度、挟持手段により、塗料含浸用布44を挟持して固定する(塗料含浸用布再挟持工程)。これにより、次の一列3枚の基材18の塗布のための塗布ユニット20側の準備がなされる。
【0049】
以上の工程により、3列×3行に配置された基材18のうち、一列分の3枚の基材18への塗料の塗布が終了する。
【0050】
残り2列の基材へと塗料を塗布する場合は、更に、保持部移動機構により、塗料含浸用布44の張架方向と直交する方向且つ縦柱14方向へと載置台13をガイドレール54に対して一つ隣の列まで移動させる。この移動は、図示しない駆動モータによりローラ30aを回転させることにより行う(以上、保持部移動工程)。
【0051】
保持部移動工程後は、再び送液工程から塗料含浸用布再挟持工程までの工程を繰り返すことで隣の列の3枚の基材18へ塗料を塗布することができる。その後、さらに保持部移動工程によって載置台13をさらに隣の列へと移動させ、送液工程から塗料含浸用布移動工程までの工程を繰り返すことで、最後の列の3枚の基板28へ塗料を塗布することができる。
【0052】
以上の送液工程から塗料含浸用布再挟持工程までの工程は、制御台36上のペリスタルティックポンプ38の隣に設置された制御装置56によって制御される。制御装置56には、CPUが内蔵されており、このCPUからの指令により、支持・移動手段、挟持手段、送液手段、移動機構及び保持部移動機構がそれぞれ独立して動作し、本発明に係る塗布装置10を用いた塗布方法が実施される。
【0053】
したがって、本発明の塗布装置10及び塗布装置10を用いた塗布方法によると、塗料供給口32から流出した塗料は突出部28の先端面28bに当接する塗料含浸用布44に含浸保持される。そして、そのまま突出部28の先端面28bを下方へ移動させて塗料含浸用布44を基材18と接触させ、接触させたまま基材18と略平行方向且つ塗料含浸用布44の張架方向へと移動させることで、塗料含浸用布44から塗料を速やかに基材18に塗布することができる。このように、塗料供給口32から流出した後に速やかに塗料を基材18に塗布することができるので、シランカップリング剤含有塗料のような空気中の水分と反応して経時的にガラス板(基材18)との反応性が低下する塗料であっても反応性を低下させることなく塗布することができる。
【0054】
更に、塗布後に塗料含浸用布44のうちの塗布に用いた部位を支持・移動手段によって移動させて未使用の部位を突出部28の先端面28bに当接させ、新たな塗料を含浸させることで、常に反応性を経時的に低下させない状態で塗料を基材18に塗布することができる。すなわち、無端ベルトや塗布パッドを用いる場合のように、塗料が無端ベルトや塗布パッド上で長時間停滞することを回避することができる。
【0055】
また、塗料を含浸保持させた塗料含浸用布44によって基材18への塗布が行われるので塗料の飛散等による塗料使用量の無駄が無く、かつ塗料を上述の略平行方向且つ塗料含浸用布44の張架方向への移動により基材18上へ薄く広く塗り広げることができ、塗料の使用量を節約することができる。
【0056】
その上、本実施の形態においては、塗布ユニット20全体を一つの移動体として移動機構を構成しているので、装置構成がコンパクトなものとなっている。よって、塗料を各基材18に塗布するまでの工程が塗布ユニット20のみの移動により完結する。これにより、保持部側を簡素な構成とすることができるので、保持部側の設計の自由度が向上する。よって、例えば、保持部を載置台13ではなく、ベルトコンベア式とすることにより、より塗布効率の向上した装置とすることも可能になる。
【0057】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、本実施の形態においては装置構成のコンパクト化を図るために塗布ユニット20側に移動機構を設けたが、対象物である基材18側に移動機構を設ける構成としても良い。
【符号の説明】
【0058】
10 塗布装置
13 保持部
16 梁部材(移動機構)
20 塗布ユニット
22 スライダブロック(移動機構)
24 塗布ユニット本体(移動機構)
28 突出部
29 塗料供給部
32 塗料供給口
34 送液チューブ(送液手段)
38 ペリスタルティックポンプ(送液手段)
42 板状体(支持・移動手段)
46 送り出しローラ(支持・移動手段)
48 巻き込みローラ(支持・移動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料の塗布装置であって、
前記塗料が塗布される対象物を安定保持する保持部と、
該保持部に保持された前記対象物の上方位置に配置され、下方に突出する突出部を有する塗料供給部と、前記突出部の先端面に設けられた塗料供給口と、長尺の帯状の塗料含浸用布を前記突出部の先端面に当接させた状態で張架支持すると共に、張架方向へ移動可能な支持・移動手段と、を有する塗布ユニットと、
該塗布ユニットの前記塗料供給口に塗料を送る送液手段と、
前記塗布ユニットと前記対象物との相対的な接離移動及び略平行移動を行う移動機構と、
を有することを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記突出部の先端面は、前記当接された塗料含浸用布の張架方向と直交する方向に所定長さ伸長すると共に、該伸長方向に沿って延在し前記塗料供給口を通過する凹溝を有することを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記塗料供給口は、前記先端面の伸長方向に所定間隔おきに複数設けられたことを特徴とする請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記移動機構による前記相対的な移動は、前記塗布ユニットを移動させることによって行うことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の塗布装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の塗布装置を用いる塗料の塗布方法であって、
前記保持部に前記対象物を保持させる対象物保持工程と、
前記塗料含浸用布を前記突出部の先端面に当接させた状態で張架するように前記支持・移動手段に支持させる支持工程と、
前記送液手段によって前記塗布ユニットの塗料供給口へと塗料を送り、前記塗料供給口から流出した塗料を前記塗料含浸用布に含浸保持させる送液工程と、
前記移動機構により前記先端面に当接する前記塗料含浸用布が前記対象物へと接触するまで前記塗布ユニットを前記対象物へと近接移動させ、該接触状態で前記塗布ユニットを前記対象物に対して略平行移動させることにより前記塗料含浸用布を前記対象物と摺動させて前記対象物に塗料を塗布する塗布工程と、
該塗布工程の後、前記移動機構により前記対象物と接触した前記塗料含浸用布が前記対象物から離反するまで前記塗布ユニットを前記対象物から離反移動させる離反移動工程と、
前記支持・移動手段により前記塗料含浸用布を前記張架方向へ移動させる塗料含浸用布移動工程と、
を有することを特徴とする塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−85975(P2013−85975A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225530(P2011−225530)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(591112795)オーウェル株式会社 (4)
【Fターム(参考)】