説明

塗料と、表面反射防止方法と、表面反射防止剤

【課題】基材の材質に依らず、またプライマー処理などの必要もなく、密着性が良好で、ゴミの発生もないような黒色塗膜を形成することで、反射率を1%以下に抑制させることができる塗料と、表面反射防止方法と、表面反射防止剤を提供する。
【解決手段】 ベースとなる樹脂がアクリル樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックが添加されている塗料を各種部材の表面に設けて、塗膜を形成して、部材表面の反射を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料と、塗料を部材表面に設けて表面反射を防止する表面反射防止方法と、表面反射防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カメラにおいては、撮影時にレンズからの入射光が内壁面で反射してフィルムを感光させて、ハレーションやゴーストが発生するようにさせたり、光源からの光がカメラ内壁面で反射してファインダー光路中に入射してファインダー視野画像が見えにくくなったりするため、カメラ内壁面に反射防止処理が施されているのが普通である。
【0003】
従来から、その反射防止処理の一つとして、レンズ鏡筒の内壁表面には、例えばフッ素樹脂(例えば透明フッ素樹脂(低屈折率1.34)「CYTOP」(旭硝子(株)登録商標))の溶液に浸漬して形成したり、真空蒸着法により例えばMgF2(屈折率1.38)を蒸着したりして、反射防止膜が最適膜厚の薄膜として配設され、該反射防止膜の屈折率は、レンズ鏡筒を構成する黒色ポリカーボネート(屈折率1.58)または黒色ノリル樹脂または黒色ABS樹脂等の樹脂部材の屈折率より低い値とし、レンズ鏡筒をAL等の金属部材で構成した場合、黒色アルマイト処理を施したり、内壁面に黒色アクリル樹脂塗装を施したりする技術が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、フレキシブルプリント基板やカメラの内面壁に貼付する反射防止フィルムについては、その基材として、例えば紙、合成紙、合成樹脂フィルムなどが用いられる。合成樹脂フィルムとしては、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミドなどのフィルムを用いることができる。これらには、あらかじめカーボンブラックやアニリンブラックのような黒色顔料を練り込む(特許文献2参照)。
【0005】
また、黒色顔料は、塗料を黒色にすることで、最終的にこの塗料を塗布して形成した光吸収膜に光吸収性を発現させるものである。例えば、黒色顔料は、鉄黒、カーボンブラック、チタンブラック等を用いることができる。光吸収膜としての光吸収性を十分に得る観点、即ち光吸収膜としての反射濃度が1.60以上、好ましくは1.65以上、より好ましくは1.70以上になるようにする観点から、このような黒色顔料を、バインダー樹脂100重量部に対して5重量部以上、好ましくは6重量部以上、より好ましくは7重量部以上の割合で混合する。溶媒としては、蒸発速度の比較的速い有機溶剤を使用することが好ましく、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のエーテル系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤などを用いることができる。基材は、薄く、可撓性に優れるものであればよく、本来特に限定されるものではなく、例えば紙、合成紙、プラスチックフィルム等を用いることができる。ごみの発生を極力抑えるという観点からは、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン等の各種のプラスチックフィルムが好適に用いられ、特に黒色化されているものを用いることがより好適であることが知られている(特許文献3)。
【0006】
また、フッ素入りポリカーボネートで成形されて、内部を黒色塗装、黒色加工、黒色のテープを貼ること、モータの表面を粗くすることや、これらを組み合わせて行う光低反射加工やモータのケーシングの全部または外周を光低反射率材料で構成して光低反射率としたカメラ鏡体が知られている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平5−341167号公報
【特許文献2】特許3934199号公報
【特許文献3】特許4002453号公報
【特許文献4】特開2006−145927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これまでの黒色塗料では、基材の材質によっては十分な密着性が得られず、剥離を生じる可能性を有することが問題であった。
【0008】
本発明は、基材の材質に依らず、またプライマー処理などの必要もなく、密着性が良好で、ゴミの発生もないような黒色塗膜を形成することで、反射率を1%以下に抑制させることができる塗料と、表面反射防止方法と、表面反射防止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決手段を例示すると、特許請求の範囲の各請求項に記載のとおりである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塗布対象の材質に依らず、均一な黒色塗膜を形成することができ、すべての材質に密着性が良好で、ゴミの発生もない。
【0011】
また、すぐれた黒色処理を行うことができ、従来の反射防止に比べ、2倍以上の反射防止効率をあげることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の好ましい実施形態においては、デジカメ、ビデオ、携帯電話用のズーム光学系、DVD(登録商標)・HDDVD(登録商標)・Blue−Ray(登録商標)レコーダーの光ピックアップ等のカメラレンズ鏡筒内面およびレンズ端面部など光学系を形成するユニットや各部品を黒色処理する。
【0013】
すなわち、カメラ鏡筒部の内面およびレンズの端面部など光学系を形成するユニットや各部品に黒色塗料を塗布して、内面反射を防止するための反射防止処理方法において、
カメラ鏡筒およびその光学系を形成するレンズ・ユニット・各部品の材質を問わず、カメラ鏡筒部の内面およびレンズの端面部に黒色塗料を塗布して、380nmから780nmの広範囲の波長域において、0.35%から0.7%の極めて低い反射率である黒色塗膜を形成することを特徴とする、カメラ鏡筒部の内面およびレンズの端面部など光学系を形成するユニットや各部品の内面反射防止処理方法である。
【0014】
また、黒色塗料のベースとなる樹脂がアクリル樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックを添加することを特徴とする請求項1に記載のカメラ鏡筒部の内面およびレンズの端面部など光学系を形成するユニットや各部品の内面反射防止処理方法である。
【0015】
また、黒色塗料のベースとなる樹脂が変性酢酸ビニル樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックを添加することを特徴とする請求項1に記載のカメラ鏡筒部の内面およびレンズの端面部など光学系を形成するユニットや各部品の内面反射防止処理方法である。
【0016】
また、黒色塗料のベースとなる樹脂が特殊アルキドメラシン樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックを添加することを特徴とする請求項1に記載のカメラ鏡筒部の内面およびレンズの端面部など光学系を形成するユニットや各部品の内面反射防止処理方法である。
【0017】
また、黒色塗料のベースとなる樹脂が無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックを添加することを特徴とする請求項1に記載のカメラ鏡筒部の内面およびレンズの端面部など光学系を形成するユニットや各部品の内面反射防止処理方法である。
【0018】
また、カメラ鏡筒部の内面およびレンズの端面部など光学系を形成するユニットや各部品に黒色塗料を塗布して内面反射を防止したカメラ鏡筒部およびレンズの端面部において、カメラ鏡筒および光学系を形成するレンズ・ユニット・各部品の材質を問わず、380nmから780nmの広範囲の波長域において、0.35%から0.7%の極めて低い反射率を有する黒色塗料の塗膜がカメラ鏡筒部の内面およびレンズの端面部など光学系を形成するユニットや各部品に形成されていることを特徴とするカメラ鏡筒部および光学系である。
【0019】
また、黒色塗料のベースとなる樹脂がアクリル樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックを添加することを特徴とする請求項6に記載のカメラ鏡筒部および光学系である。
【0020】
また、黒色塗料のベースとなる樹脂が変性酢酸ビニル樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックを添加することを特徴とする請求項6に記載のカメラ鏡筒部および光学系である。
【0021】
また、黒色塗料のベースとなる樹脂が特殊アルキドメラシン樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックを添加することを特徴とする請求項6に記載のカメラ鏡筒部および光学系である。
【0022】
また、黒色塗料のベースとなる樹脂が無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックを添加することを特徴とする請求項6に記載のカメラ鏡筒部および光学系である。
【0023】
本発明のより好ましい実施形態においては、カメラ鏡筒内面およびレンズ端面部など光学系を形成するユニットや各部品の黒色処理に際し、塗料のベースとなる樹脂、添加剤、塗布方法は、下記のとおりである。
【0024】
(a)塗料のベースとなる樹脂は、次のとおりである。
【0025】
アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、アクリルウレタン樹脂、特殊アルキドメラミン樹脂、シリコーン樹脂、変性酢酸ビニル樹脂、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂、無水マレイン酸変性塩素化ポリプロピレン樹脂、など。
【0026】
(b)添加剤として、次のものをあげることができる。
【0027】
オリエント化学工業株式会社製のVALIFAST BLACKシリーズ、OIL BLACKシリーズ、BONJET BLACK CW−2、MICROPIGMO WMBK−5、BASFジャパン株式会社製のNEOZAPON BLACKのほか、
カーボンブラック、含水二酸化珪素、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ミネラルスピリット、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、キシレン、トルエン、シクロヘキサン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの炭化水素系、シクロオレフィン系化合物、アルコール系、アセトン系、ケトン系、エステル系、の各種有機溶剤。
【0028】
(c)また、本発明では、黒色処理の塗布方法として、ディップコート法を用いるのが好ましい。ただし、本発明は、これに限定されず、浸漬法、スピンコート法、バーコート法などの湿式法(溶液コート方法)や、真空蒸着方法であってもよい。
【0029】
これらの樹脂、添加剤の組み合わせにより調製した黒色塗料によって形成された黒色塗膜は、従来の反射防止に比べ、2倍以上の反射防止効率をあげることができる。
【0030】
例えば、これらの組み合わせでできた材料の表面反射率を測定したところ、測定データ結果は、図1に示すとおりであった。
【0031】
ここで、図1のA、B、C、Dの組み合わせは、下記のとおりであった。
【0032】
A:塗料のベースとなる樹脂は、アクリル樹脂など。
【0033】
添加剤は、オリエント化学工業株式会社製のVALIFAST BLACKシリーズ、カーボンブラック。
【0034】
B:樹脂は、変性酢酸ビニル樹脂など。
【0035】
添加剤は、BONJET BLACK CW−2、カーボンブラック。
【0036】
C:樹脂は、特殊アルキドメラミン樹脂など。
【0037】
添加剤は、BASFジャパン株式会社製のNEOZAPON BLACK、カーボンブラック。
【0038】
D:樹脂は、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂など。
【0039】
添加剤は、オリエント化学工業株式会社製のOIL BLACKシリーズ、カーボンブラック。
【0040】
図1に示すように、A〜Dのいずれの場合であっても、380nmから780nmの広範囲の波長域において、0.35%から0.7%の極めて低い反射率を有する黒色塗膜であることがわかった。
【0041】
以上の塗料のベースとなる樹脂と添加剤を一定の混合比(例えば樹脂90〜95%・添加剤5〜10%)で組み合わせ調整した黒色塗料をデジカメ、ビデオ、携帯電話用のズーム光学系、DVD(登録商標)・HDDVD(登録商標)・Blue−Ray(登録商標)レコーダーの光ピックアップ等の鏡筒やレンズ端面など光学系を形成するユニットや各部品へ塗布することにより、すぐれた黒色処理を行うことができ、従来の反射防止に比べ、2倍以上の反射防止効率をあげ、本来の光学性能を発揮することができる。光学系のフレア、ゴーストを防止することができる。また、プラスチックレンズなどにも対応することができる。また、テレビ、デスクトップ型パソコン、ノート型パソコン、携帯電話、ビデオレコーダーなどの筐体の内部、外部を黒色処理する場合にも適用することができる。
【実施例1】
【0042】
ベースとなるアクリル樹脂を溶解させた液100重量部に対して、添加剤を5重量部以上、好ましくは6重量部以上、より好ましくは7重量部以上の割合で混合、攪拌することで調製する。黒色塗料の塗布方法として、ディップコート法を用いるのが好ましい。ただし、これに限定されず、浸漬法、スピンコート法、バーコート法などの湿式法(溶液コート方法)、はけ塗り法がよい。
【実施例2】
【0043】
ベースとなる変性酢酸ビニル樹脂を溶解させた液100重量部に対して、添加剤を5重量部以上、好ましくは6重量部以上、より好ましくは7重量部以上の割合で混合、攪拌することで調製する。黒色塗料の塗布方法として、ディップコート法を用いるのが好ましい。ただし、これに限定されず、浸漬法、スピンコート法、バーコート法などの湿式法(溶液コート方法)、はけ塗り法がよい。
【実施例3】
【0044】
ベースとなる特殊アルキドメラミン樹脂を溶解させた液100重量部に対して、添加剤を5重量部以上、好ましくは6重量部以上、より好ましくは7重量部以上の割合で混合、攪拌することで調製する。黒色塗料の塗布方法として、ディップコート法を用いるのが好ましい。ただし、これに限定されず、浸漬法、スピンコート法、バーコート法などの湿式法(溶液コート方法)、はけ塗り法がよい。
【実施例4】
【0045】
ベースとなる無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂を溶解させた液100重量部に対して、添加剤を5重量部以上、好ましくは6重量部以上、より好ましくは7重量部以上の割合で混合、攪拌することで調製する。黒色塗料の塗布方法として、ディップコート法を用いるのが好ましい。ただし、これに限定されず、浸漬法、スピンコート法、バーコート法などの湿式法(溶液コート方法)、はけ塗り法がよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による黒色塗膜が、広範囲の波長域において低い反射率を有することを示すグラフ。横軸が波長(nm)で、縦軸が反射率(%)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースとなる樹脂がアクリル樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックが添加されていることを特徴とする塗料。
【請求項2】
ベースとなる樹脂が変性酢酸ビニル樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックが添加されていることを特徴とする塗料。
【請求項3】
ベースとなる樹脂が特殊アルキドメラシン樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックが添加されていることを特徴とする塗料。
【請求項4】
ベースとなる樹脂が無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂であり、添加剤としてカーボン・ブラックが添加されていることを特徴とする塗料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗料を部材の表面に設けて、表面反射を防止する方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗料よりなる表面反射防止剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−227966(P2009−227966A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−904(P2009−904)
【出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【分割の表示】特願2008−71732(P2008−71732)の分割
【原出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【Fターム(参考)】