説明

塗料回収システム及び塗料回収方法

【課題】従来よりランニングコストを低減可能な塗料回収システム及び塗料回収方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の塗料回収システム10は、塗装ブース80の下端部に備えたブース床81に対して相対移動するスクレイパー40,40を備えると共に、ブース床81をジェルJで覆い、そのジェルJ上に溜まった塗料をスクレイパー40,40で掻き集めて塗装ブース80内に備えた塗料回収口88Hへと排出するようにした。本発明によれば、ジェルJに含まれる油分又は水分により塗料の固化を防ぎ、塗料がブース床81に固着しなくなる。また、ジェルJ上に溜まった塗料をスクレイパー40で掻き集めて塗料回収口88Hへと排出するので、塗料回収口88Hに排出される塗料含有ジェル中のジェルJの割合が、従来の塗料含有排水中の水の割合に比べて極めて小さい割合に抑えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブースのブース床上に溜まった塗料をその塗装ブース内の塗料回収口へと集めて排出する塗料回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の塗料回収システムでは、ブース床上に水を流して、その水と共に塗料を塗料回収口へと排出する構成になっていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−26568号公報(段落[0013]、第7図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の塗料回収システムでは、大量の塗料含有排水が生成されるので、その塗料含有排水を廃棄するにもそこから塗料を分離するにも高いランニングコストがかかるという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来よりランニングコストを低減可能な塗料回収システム及び塗料回収方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る塗料回収システムは、塗装ブースの下端部に備えたブース床の上に溜まった塗料を集めて塗装ブース内に備えた塗料回収口へと排出する塗料回収システムにおいて、ブース床に対して相対移動するスクレイパーを備え、そのブース床上に溜まった塗料をスクレイパーで掻き集めて塗料回収口へと排出するようにしたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の塗料回収システムにおいて、ブース床をジェルで覆ったところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の塗料回収システムにおいて、ブース床の上面全体にジェルを貯留可能なジェル貯留凹部を形成したところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3に記載の塗料回収システムにおいて、スクレイパーによるジェルの掻き取り回数が基準回数に達したこと又は、ジェル貯留凹部におけるジェルの残容量が基準容量より少なくなったこと、その他所定の条件が成立したときに、ジェル供給管を通してジェル貯留凹部にジェルを自動供給するジェル供給手段を備えたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載の塗料回収システムにおいて、ジェルは、こんにゃく、ゼラチン、その他天然成分から組成されたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項2乃至5の何れか1の請求項に記載の塗料回収システムにおいて、ジェルの粘度は、10000[cP]以上であるところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1に記載の塗料回収システムにおいて、ブース床を塗料の固着を抑制可能なシート又は表面処理による皮膜で覆ったところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1乃至7の何れか1の請求項に記載の塗料回収システムにおいて、塗装ブースを下方から支持し、ブース床の下方に床下空間を形成するためのブース支持部と、塗料回収口を上端部に有し、その塗料回収口に排出された塗料を床下空間に配置された塗料回収容器内に案内するための塗料排出管とを備えたところに特徴を有する。
【0014】
請求項9の発明は、請求項1乃至8の何れか1の請求項に記載の塗料回収システムにおいて、塗装ブースの下端両側部に設けられ、互いに平行に延びた1対のガイドレールと、1対のガイドレールに両端部を支持され、それらガイドレールの長手方向に設定された始端位置と終端位置との間を往復動可能なスライド台とを備えると共に、ガイドレールの長手方向における終端位置側のブース床の縁部と隣り合わせに塗料回収口を配置し、スライド台に組み付けられてスクレイパーを上下動可能に支持し、スライド台が始端位置から終端位置に向かって移動するときにはスクレイパーを下げてブース床に溜まった塗料を掻き集める一方、スライド台が終端位置から始端位置に向かって移動するときにはスクレイパーを上げてブース床に溜まった塗料から離間させるスクレイパー昇降機構を設けたところに特徴を有する。
【0015】
請求項10の発明に係る塗料回収方法は、塗装ブースの下端部に備えたブース床の上に溜まった塗料を塗装ブース内に備えた塗料回収口へと排出する塗料回収方法において、ブース床をジェルで覆い、そのジェル上に溜まった塗料をブース床に対して相対移動するスクレイパーで掻き集めて塗料回収口へと排出するところに特徴を有する。
【0016】
請求項11の発明に係る塗料回収方法は、塗装ブース内の下端面をジェルで覆っておき、そのジェル上に溜まった塗料をジェルと共に除去するところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
[請求項1の発明]
請求項1の発明によれば、塗装ブースのブース床上に溜まった塗料をスクレイパーで掻き集めて塗料回収口へと排出するので、廃棄物の発生量が、従来の塗料含有排水の発生量に比べて少量で済む。これにより、従来の塗料含有排水の処理に比べて、廃棄物の処理の費用が抑えられ、ランニングコストの低減が図られる。
【0018】
[請求項2,5,6及び10の発明]
請求項2及び10の発明では、ブース床をジェルで覆うので、そのジェルに含まれる油分又は水分により塗料の固化を防ぎ、塗料がブース床に固着しなくなる。そして、ジェル上に溜まった塗料をスクレイパーで掻き集めて塗料回収口へと排出するので、塗料回収口に排出される塗料含有ジェル中のジェルの割合が、従来の塗料含有排水中の水の割合に比べて極めて小さい割合に抑えられる。即ち、従来の塗料含有排水の発生量に比べて、塗料含有ジェルの発生量が少量で済む。これにより、従来の塗料含有排水の処理に比べて、塗料含有ジェルの処理の費用が抑えられ、ランニングコストの低減が図られる。なお、塗料は、ジェルの表層面に堆積したもののみを掻き集めるようにしてもよいし、ジェルの表層部分と共に掻き集めるようにしてもよいし、ブース床を覆ったジェル全量と共に掻き集めるようにしてもよい。
【0019】
ここで、天然成分から組成されたジェルを使用することで、人体や環境への負荷を軽減することができる(請求項5の発明)。また、ジェルの粘度は、10000[cP]以上であることが好ましい(請求項6の発明)。
【0020】
[請求項3の発明]
請求項3の塗料回収システムによれば、ブース床の上面全体にジェル貯留凹部を形成したので、ジェルが自重によりブース床上から外に流出することが防がれる。
【0021】
[請求項4の発明]
請求項4の構成によれば、ジェル貯留凹部内のジェルの一部が塗料と共に塗料回収口に排出されても、ジェル供給手段がジェルをジェル貯留凹部に自動供給するので、メンテナンス作業が軽減される。
【0022】
[請求項7の発明]
請求項7の発明によれば、塗装ブースのブース床をシート又は表面処理による皮膜で覆うことで、塗料が固着し難くなる。そして、シート又は皮膜上に溜まった塗料をスクレイパーで掻き集めて塗料回収口へと排出するので、廃棄物の発生量が、従来の塗料含有排水の発生量に比べて少量で済む。これにより、従来の塗料含有排水の処理に比べて、廃棄物の処理の費用が抑えられ、ランニングコストの低減が図られる。
【0023】
[請求項8の発明]
請求項8の構成によれば、塗料回収口に排出された塗料及びジェルが塗料排出管を通して塗料回収容器に集められるので、その塗料回収容器を適宜交換し、満杯になった塗料回収容器をトラック等にて処理場に容易に搬送することができる。
【0024】
[請求項9の発明]
請求項9の構成によれば、スライド台がガイドレールの始端位置と終端位置との間を往復動し、始端位置から終端位置へと向かって移動する際にスクレイパーにて塗料を掻き集めて塗料回収口へと排出することができる。
【0025】
[請求項11の発明]
請求項11の発明では、塗装ブース内の下端面をジェルで覆うので、そのジェルに含まれる油分又は水分により塗料の固化を防ぎ、塗料が塗装ブース内の下端面に固着しなくなる。そして、ジェル上に溜まった塗料をジェルの一部又は全部と共に除去する。このとき、塗料含有ジェル中のジェルの割合は、従来の塗料含有排水中の水の割合に比べて極めて小さい割合に抑えられる。即ち、従来の塗料含有排水の発生量に比べて、塗料含有ジェルの発生量が少量で済む。これにより、従来の塗料含有排水の処理に比べて、塗料含有ジェルの処理の費用が抑えられ、ランニングコストの低減が図られる。なお、ジェルの除去は、定期的又は必要に応じて随時行えばよい。
【0026】
ここで、例えば、塗装ブースの下端面を塗料回収用の液体で覆っておきその液体で塗料を回収する方法では、塗装ブースの下端面の僅かな傾斜や孔によって液体が流出して、塗装ブースの下端面が露出してしまう虞がある。これに対し本発明によれば、ジェルは液体に比べて安定性がある(流動性が低い)ので、下端面の僅かな傾斜や孔によって流出することはなく、塗装ブースの下端面を覆った状態を確実に維持することができる。
【0027】
また、例えば、塗装ブース内の下端面をカバーシートで覆っておきそのカバーシートを剥がして塗料を除去する方法では、剥がした後のカバーシートが嵩張って取り扱いが困難になる。これに対し本発明によれば、除去した塗料含有ジェルを任意の塗料回収容器に貯めることができ、カバーシートに比べて取り扱いが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る塗料回収システムを備えた塗装設備の概念図
【図2】スライド台が終端位置から始端位置に向かう過程における塗料回収システムの斜視図
【図3】スライド台が始端位置から終端位置に向かう過程における塗料回収システムの斜視図
【図4】スライド台が終端位置から始端位置に向かう過程における塗料回収システムの側断面図
【図5】スライド台が始端位置から終端位置に向かう過程における塗料回収システムの側断面図
【図6】(A)スライド台が始端位置に向かう過程におけるガイドローラの軌跡を示す図、(B)スライド台が終端位置に向かう過程におけるガイドローラの軌跡を示す図
【図7】本発明の第2実施形態に係る塗料回収システムの側断面図
【図8】変形例に係る塗料回収システムの側断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、図1〜図6に基づいて説明する。図1には本発明の塗料回収システム10を備えた塗装設備90の全体が示されている。
【0030】
図1に示すように塗装設備90は、ワークB(例えば、自動車のボディ)に塗料(例えば、水性塗料)を吹き付けて塗装を行う塗装ブース80と、塗装ブース80の上方に配置された給気室91と、塗装ブース80を下方から支持すると共にその床下空間に配置された排気ブース92とを備えている。給気室91は、図示しない給気ファンによって外気を導入し、塗装ブース80内にダウンフローの空気を供給する。なお、排気ブース92を構成する側壁は、本発明の「ブース支持部」に相当する。
【0031】
塗装ブース80は、その下端部の略水平なブース床81の上方に、多数の開口を有したグレーチング床82を備えており、グレーチング床82より上側のブース上部空間83と、グレーチング床82より下側のブース下部空間84とが連通状態となっている。ブース上部空間83にはワーク支持部85が備えられ、そのワーク支持部85にワークBが支持可能となっている。また、ブース上部空間83には、ワークBに塗料を吹き付ける複数の塗装ロボット86,86が設けられている。
【0032】
ブース床81には、上端部に矩形状の排気口87H(図2及び図3参照)を有しかつ下方(排気ブース92)に向かって窄んだ漏斗形状の排気ダクト87が備えられ、その排気ダクト87を介して塗装ブース80と排気ブース92とが連通している。
【0033】
排気ブース92内は、図示しない排気ファンによって強制排気されており、ワークBに塗着しなかったミスト状塗料(オーバースプレー塗料)は、給気室91から給気されたダウンフローの空気と共に、排気ダクト87を通って排気ブース92内に吸い込まれる。排気ブース92内で、オーバースプレー塗料と空気との混合ガス(以下、「ミストガス」という)から塗料が分離回収され、空気は、図示しないフィルターを通って排気ブース92の外部に排気される。なお、ミストガスから塗料を分離回収する構成は、公知(例えば、特開2009−28586号公報を参照)であるので、詳細な説明は省略する。
【0034】
ところで、塗装ブース80内のオーバースプレー塗料を、全て排気ダクト87に吸い込むことは不可能であり、塗装ブース80のブース床81にオーバースプレー塗料が溜まることは避けられない。そこで、本実施形態では、オーバースプレー塗料がブース床81に固着することを防止するために、ブース床81の上面全体が予めジェルJで覆われている。
【0035】
詳細には、図4及び図5に示すように、ブース床81の上面全体にはジェル貯留凹部81Tが形成されており、そのジェル貯留凹部81Tに所定の厚さ(例えば、約10mm)でジェルJが貯留されている。ジェルJに含まれる水分又は油分により、ジェルJ上に溜まった塗料の固化が防止され、塗料がブース床81に固着しなくなる。なお、本実施形態のジェルJは、例えば、水よりも高い粘性(水よりも低い流動性)を有した半固体状の流動性物質である。詳細には、ジェルJは、こんにゃく、ゼラチン、かんてん、その他天然成分と、20〜80質量%の水とから組成されており、粘度が10000[cP]以上となっている。ジェル貯留凹部81Tを設けたことで、ジェルJが自重によりブース床81上から外に流出することを防ぐことができる。また、天然成分から組成されたジェルJを使用することで、人体や環境への負荷を軽減することができる。なお、ジェルJは、全成分が天然成分であることが好ましいが、一部の成分のみが天然成分であってもよい。
【0036】
ジェルJ上に溜まった塗料は、ジェルJの保湿効果によって比較的長期間に亘って固化が防止されるが、ある程度溜まったら除去する必要がある。そのために、塗装ブース80のブース下部空間84には、ブース床81と平行な水平方向X(以下、「スライド方向X」という)に往復動するスクレイパー40,40(図2及び図3参照)が設けられている。スクレイパー40,40は、スライド方向Xの始端位置から終端位置(図5における左端位置から右端位置)に向かって移動することで、ジェルJの一部と共にジェルJ上の塗料を掻き集めるようになっている。ここで、スクレイパー40,40は、金属やゴム等の塗料を掻き取りやすい材質で構成されている。なお、上記した排気口87Hは、ブース床81のうちスライド方向Xと直交した水平方向(以下、「スライド直交方向Y」という)の中間部に設けられ、スライド方向Xに延びた矩形状をなしている(図2及び図3参照)。
【0037】
図4に示すように、排気ブース92の一側壁には、スクレイパー40,40が掻き集めた塗料とジェルJの混合物(以下、「塗料含有ジェル」という)を受け入れる塗料排出管88が設けられている。塗料排出管88は、上端部に塗料回収口88Hを有しかつ下方に向かって窄んだ漏斗形状となっている。塗料回収口88Hは、ブース床81のうちスクレイパー40,40のスライド方向Xにおける終端位置側の縁部に隣り合わせにして設けられている。スクレイパー40,40によって掻き集められた塗料含有ジェルは、塗料回収口88Hに排出され、塗料排出管88によって塗装ブース80の床下に配置された塗料回収容器99に案内される。ここで、塗料回収容器99は、適宜交換することができかつ、トラック等で運搬可能な容器(例えば、ドラム缶やコンテナ)である。
【0038】
図2及び図3に示すように、スクレイパー40,40は、ブース床81の上方に配置されたスライド台51に組み付けられている。スライド台51は、スライド直交方向Yに延びた長板51Aの両端部に側板51B,51B(図2及び図3には一方のみが示されている)を備えた横長構造をなしている。また、塗装ブース80のうちスライド直交方向Yの下端両側部には1対の搬送駆動部52,52(図2及び図3には一方のみが示されている)が設けられ、それら1対の搬送駆動部52,52によりスライド台51がブース床81と平行なスライド方向Xで往復動するようになっている。
【0039】
各搬送駆動部52,52は、スライド方向Xの始端位置側と終端位置側とに配置された1対のスプロケット53,53とチェーン54とを備えている。そして、1対の搬送駆動部52,52の各チェーン54,54に、スライド台51における1対の側板51B,51Bが連結されている。
【0040】
各搬送駆動部52,52のうち、スライド方向Xの一端側に配置されたスプロケット53,53にはモータ(図示せず)が連結され、そのモータの動力によって、スライド方向Xの始端位置と終端位置との間でスライド台51及びスクレイパー40,40を自動で往復動させることが可能となっている。
【0041】
図2及び図3に示すように、1対のスクレイパー40,40は、スライド台51の上方でスライド直交方向Yに延びた横断シャフト42から下方に張り出している。各スクレイパー40,40は、ブース床81の排気口87Hを挟んだ両側に配置され、スライド直交方向Yに延びた横長板状をなしている。また、横断シャフト42の両端部には、それぞれガイドローラ43,43が設けられている。なお、図2及び図3には、一方のガイドローラ43のみが示されている。
【0042】
図2及び図3に示すように、スクレイパー40の一端面とスライド台51の側板51Bとの間は、スライド直交方向Yに延びた回動軸41にて連結されており、スクレイパー40はその回動軸41回りで回動可能となっている。即ち、横断シャフト42及びガイドローラ43,43が下がるとスクレイパー40の下端縁40SがジェルJから離れるように上がり(図2の状態)、横断シャフト42及びガイドローラ43,43が上がるとスクレイパー40の下端縁40SがジェルJに向かって下がる(図3の状態)。なお、回動軸41、横断シャフト42及びガイドローラ43,43で本発明の「スクレイパー昇降機構」が構成されている。
【0043】
塗装ブース80のうち、スライド直交方向Yにおける下端両側部には、スライド方向Xに延びた1対のガイドレール30,30が備えられている。これら1対のガイドレール30,30に、横断シャフト42の両端部に備えた1対のガイドローラ43,43が係合している。なお、図2及び図3には、一方のガイドレール30のみが示されている。
【0044】
1対のガイドレール30,30は同一構造をなしている。即ち、ガイドレール30は、スライド方向Xに延びたメインレール31と、メインレール31よりもスライド方向Xの始端位置側に配置された始端サブレール32と、メインレール31よりもスライド方向Xの終端位置側に配置された終端サブレール33とを備えている。
【0045】
始端サブレール32は、メインレール31から斜め下方に向かって延びた始端傾斜部32Aと、始端傾斜部32Aの上端からスライド方向Xの始端位置に向かって延びた始端水平部32Bとを有している。一方、終端サブレール33は、メインレール31から斜め上方に向かって延びた終端傾斜部33Aと、終端傾斜部33Aの下端からスライド方向Xの終端位置に向かって延びた終端水平部33Bとを有している。
【0046】
メインレール31の両端部には、始端側回動板31Aと終端側回動板31Bとが備えられている。メインレール31の始端位置側に設けられた始端側回動板31Aは、始端サブレール32の始端水平部32Bと連絡した水平姿勢(図6(B)に示す状態)と、始端傾斜部32Aと略平行になった上向傾斜姿勢(図6(A)に示す状態)との間で回動可能となっており、常には水平姿勢に維持されている。
【0047】
同様に、メインレール31の終端位置側に設けられた終端側回動板31Bは、終端サブレール33の終端水平部33Bと連絡した水平姿勢(図6(A)に示す状態)と、終端傾斜部33Aと略平行になった下向傾斜姿勢(図6(B)に示す状態)との間で回動可能となっており、常には水平姿勢に維持されている。
【0048】
本実施形態の構成は以上であって、次に、本実施形態の動作を説明する。
ワークBに塗着しなかったオーバースプレー塗料を含むミストガスは、排気ブース92に吸い込まれると共に、一部はブース床81のジェルJ上に溜まる。ジェルJ上に溜まった塗料は、ある程度溜まった時点でスクレイパー40,40によって除去される。
【0049】
具体的には、スライド台51は通常、スライド方向Xの終端位置で待機しており、ジェルJ上に塗料が溜まると、図2及び図4の矢印で示すように、終端位置から始端位置に向かってスライド移動する。
【0050】
このときガイドローラ43は、図6(A)の二点鎖線で示すように、終端サブレール33の終端水平部33Bからメインレール31に移動し、メインレール31の下面に当接しながら移動する。これにより、スクレイパー40,40は、その下端縁40S,40Sが上がってジェルJから離間した離間姿勢(図2及び図4参照)に維持される。
【0051】
スライド台51が始端位置の近傍に達すると、ガイドローラ43が始端サブレール32の始端傾斜部32Aに案内されて斜め上方に移動する。このとき始端側回動板31Aがガイドローラ43に押し上げられて上向傾斜姿勢となり、ガイドローラ43の通過が許容される。そして、スライド台51が始端位置に到達すると、始端側回動板31Aが水平姿勢に戻されると共に、ガイドローラ43がメインレール31の上面と連続した始端水平部32Bに乗り上がる。スクレイパー40,40の上端縁と同軸上に配置されたガイドローラ43が、メインレール31の下面側から上面側に押し上げられることで、スクレイパー40,40の下端縁40S,40Sが下がり、ジェルJに当接した当接姿勢に切り替わる。なお、当接姿勢のスクレイパー40,40は、ブース床81に対して略直角になる。
【0052】
スライド台51がスライド方向Xの始端位置に到達してスクレイパー40,40が当接姿勢に切り替わると、搬送駆動部52,52が逆転して、始端位置から終端位置に向かってスライド台51がスライドする。このとき、ガイドローラ43は、図6(B)の二点鎖線で示すように、始端サブレール32の始端水平部32Bからメインレール31へと移動し、メインレール31の上面に当接しながら移動する。そしてこの間、スクレイパー40,40は、図3及び図5に示すように当接姿勢に維持される。即ち、スクレイパー40,40がスライド方向Xの始端位置から終端位置に向かって移動することで、ジェルJ上に溜まった塗料がジェルJの一部と共に掻き集められる。
【0053】
ガイドローラ43が終端サブレール33に当たる手前で、スクレイパー40,40によって掻き集められた塗料含有ジェルは、ブース床81の終端位置側の縁部から塗料回収口88Hに押し出される。これら塗料含有ジェルは、塗料排出管88を通って塗料回収容器99に回収される。
【0054】
塗料含有ジェルを塗料回収口88Hに排出してから、さらにスライド台51がスライド方向Xの終端位置に近づくと、ガイドローラ43が終端サブレール33の終端傾斜部33Aに案内されて斜め下方に移動する。このとき、終端側回動板31Bがガイドローラ43に押し下げられて下向傾斜姿勢となり、ガイドローラ43の通過が許容される。そして、スライド台51が終端位置に到達すると、終端側回動板31Bが水平姿勢に戻されると共に、ガイドローラ43が、メインレール31の下面と連続した終端水平部33Bまで押し下げられる。スクレイパー40,40の上端縁と同軸上に配置されたガイドローラ43が、メインレール31の上面側から下面側に押し下げられることで、スクレイパー40,40の下端縁40S,40Sが上がり、ジェルJの表面から離間した離間姿勢に切り替わる。
【0055】
スライド台51がスライド方向Xで一往復して終端位置に戻ると、搬送駆動部52,52が停止してスライド台51は終端位置で再び待機状態となる。
【0056】
このように本実施形態によれば、ブース床81をジェルJで覆うので、そのジェルJに含まれる油分又は水分により塗料の固化を防ぎ、塗料がブース床81に固着しなくなる。そして、ジェルJ上に溜まった塗料をスクレイパー40で掻き集めて塗料回収口88Hへと排出するので、塗料回収口88Hに排出される塗料含有ジェル中のジェルJの割合が、従来の塗料含有排水中の水の割合に比べて極めて小さい割合に抑えられる。即ち、従来の塗料含有排水の発生量に比べて、塗料含有ジェルの発生量が少量で済む。これにより、従来の塗料含有排水の処理に比べて、塗料含有ジェルの処理の費用が抑えられ、ランニングコストの低減が図られる。
【0057】
[第2実施形態]
図7には、本発明の第2実施形態が示されている。本実施形態の塗料回収システムは、ブース床81にジェルJを自動供給するためのジェル供給装置100(本発明の「ジェル供給手段」に相当する)を備えている点が、上記第1実施形態とは異なる。その他の構成は、上記第1実施形態と同一であるので、重複する説明は省略する。
【0058】
ジェル供給装置100は、ジェルJを貯留した貯留タンク101と、貯留タンク101から延びたジェル供給管102とを備えている。ジェル供給装置100は、スクレイパー40による掻き取り回数が基準回数に達したこと、ジェルJの残容量が基準容量より少なくなったこと、前回の供給から所定時間が経過したこと、その他、所定の条件が成立したときにバルブ103が開放して、ジェル供給管102からジェル貯留凹部81Tの中央部にジェルJを供給する。そして、ジェル貯留凹部81Tに供給されたジェルJは、自重によってジェル貯留凹部81Tの全体に広がる。なお、供給されたジェルJをヘラ等を用いてジェル貯留凹部81Tの全体に延ばし広げてもよい。
【0059】
ジェルJの残容量が基準容量より少なくなったか否かは、レベルセンサや塗料回収容器99に回収された塗料含有ジェルの容量から判定すればよい。
【0060】
また、貯留タンク101内に押出スクリュー(図示せず)を設けておき、供給停止時には貯留タンク101内のジェルJを撹拌すると共に、供給時にはジェルJを押し出すようにしてもよい。また、貯留タンク101をジェルJの製造タンクに兼用して貯留タンク101内でジェルJを製造するようにすれば、ジェルJの搬送の手間を省くことができる。
【0061】
また、本実施形態では、ジェル貯留凹部81Tの予め定められた1箇所(ジェル貯留凹部81Tの中央部)にジェルJを供給するようになっているが、ジェル供給装置100を複数設けて、ジェル貯留凹部81Tの複数位置にジェルJを供給するようにしてもよい。また、例えば、スライド台51と共にジェル供給装置100全体又はジェル供給管102の出口が移動するようにしておき、スライド台51の往復動時に、ジェル貯留凹部81Tの全体に略均一にジェルJを供給するようにしてもよい。
【0062】
本実施形態によれば、ジェル貯留凹部81T内のジェルJの一部が塗料と共に塗料回収口88Hに排出されても、ジェル供給装置100がジェルJをジェル貯留凹部81Tに自動供給するので、メンテナンス作業が軽減される。
【0063】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0064】
(1)前記第1及び第2実施形態では、スクレイパー40をブース床81上でスライドさせて、ジェルJ上の塗料を掻き集めるように構成していたが、ブース床81を水平方向にスライド可能とすると共に、ブース床81の上方でスクレイパー40を移動不能に固定しておき、ブース床81をスライドさせることで、ジェルJ上の塗料をブース床81の下方に掻き落とすようにしてもよい。
【0065】
(2)上記第1及び第2実施形態では、排気ダクト87が漏斗形状となっており、塗装ブース80内を向いた傾斜内面に塗料が付着し得る。そこで、ブース床81と同様に排気ダクト87の傾斜内面を、その傾斜で流れ落ちない程度の安定性(粘度)を有したジェルJで覆っておき、ジェルJ上に溜まった塗料をジェルJと共に除去するようにしてもよい。
【0066】
(3)上記実施形態では、スクレイパー40が回動軸41を中心に回動することで、ジェルJと接離するように構成されていたが、スクレイパー40がスライド方向Xの両端位置で垂直方向に上下動することでジェルJと接離するようにしてもよい。
【0067】
(4)上記第1及び第2実施形態では搬送駆動部52,52がチェーン駆動方式であったが、1対のプーリとベルトで構成されたベルト駆動方式でもよい。
【0068】
(5)上記第1及び第2実施形態ではスクレイパー40が直線状に往復動作する構成であったが、ブース床81に直交した回転軸を中心にしてジェルJ上で往復回動するようにしてもよい。
【0069】
(6)図8に示すように、ブース床を1対のプーリー110,110間に張り渡された無端ベルト状のシート111で構成すると共に、何れか一方のプーリー110側に、塗料回収口88Hとスクレイパー40とを設けておき、同図(A)に示すように、シート111を一方に回転させたときに、一方のプーリー110側で待ち受けたスクレイパー40によってシート111上のジェルJ及び塗料を全て掻き取って塗料回収口88Hに排出し、同図(B)に示すように、シート111を他方に回転させる過程で、一方のプーリー110側に配置されたジェル供給管102からシート111上に新たなジェルJを連続供給して、そのジェルJでシート111の上面全体を覆うように構成してもよい。
【0070】
(7)上記実施形態において、スライド台51は塗装が行われている間は塗料の掛からない位置で待機し、塗装が行われていない間(休憩時又はライン停止後)に往復動してブース床81(ジェルJ)上に溜まった塗料を掻き集めるようにしてもよい。このようにすれば、スライド台51自体の汚れを低減することができる。
【0071】
(8)上記実施形態では、ブース床81をジェルJで覆っていたが、他の高分子の粘弾性体(例えば、ゴムやシリコン)で覆ってもよい。また、ブース床81を高分子の粘弾性体で構成されたシート又は表面処理被膜で覆っておき、それらシートや表面処理被膜上に溜まった塗料をスクレイパー40,40で掻き集めるようにしてもよい。ここで、シート又は表面処理被膜は、塗料の固着を抑制可能な材質、例えば、フッ素樹脂やシリコン樹脂等であることが好ましい。
【0072】
(9)上記実施形態では、ブース床81をジェルJで覆っていたが、ブース床81をジェルJ等で覆わなくてもよい。その場合、塗装が行われている間は常にスクレイパー40,40を往復動作させておき、ブース床81に塗料が固着する前に塗料を掻き取るようにすることが好ましい。
【符号の説明】
【0073】
10 塗料回収システム
30 ガイドレール
40 スクレイパー
41 回動軸
42 横断シャフト
43 ガイドローラ
51 スライド台
80 塗装ブース
81 ブース床
81T ジェル貯留凹部
88 塗料排出管
88H 塗料回収口
99 塗料回収容器
100 ジェル供給装置(ジェル供給手段)
102 ジェル供給管
J ジェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ブースの下端部に備えたブース床の上に溜まった塗料を集めて前記塗装ブース内に備えた塗料回収口へと排出する塗料回収システムにおいて、
前記ブース床に対して相対移動するスクレイパーを備え、そのブース床上に溜まった塗料を前記スクレイパーで掻き集めて前記塗料回収口へと排出するようにしたことを特徴とする塗料回収システム。
【請求項2】
前記ブース床をジェルで覆ったことを特徴とする請求項1に記載の塗料回収システム。
【請求項3】
前記ブース床の上面全体に前記ジェルを貯留可能なジェル貯留凹部を形成したことを特徴とする請求項2に記載の塗料回収システム。
【請求項4】
前記スクレイパーによる前記ジェルの掻き取り回数が基準回数に達したこと又は、前記ジェル貯留凹部における前記ジェルの残容量が基準容量より少なくなったこと、その他所定の条件が成立したときに、ジェル供給管を通して前記ジェル貯留凹部に前記ジェルを自動供給するジェル供給手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載の塗料回収システム。
【請求項5】
前記ジェルは、こんにゃく、ゼラチン、その他天然成分から組成されたことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載の塗料回収システム。
【請求項6】
前記ジェルの粘度は、10000[cP]以上であることを特徴とする請求項2乃至5の何れか1の請求項に記載の塗料回収システム。
【請求項7】
前記ブース床を前記塗料の固着を抑制可能なシート又は表面処理被膜で覆ったことを特徴とする請求項1に記載の塗料回収システム。
【請求項8】
前記塗装ブースを下方から支持し、前記ブース床の下方に床下空間を形成するためのブース支持部と、
前記塗料回収口を上端部に有し、その塗料回収口に排出された塗料を前記床下空間に配置された塗料回収容器内に案内するための塗料排出管とを備えたことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1の請求項に記載の塗料回収システム。
【請求項9】
前記塗装ブースの下端両側部に設けられ、互いに平行に延びた1対のガイドレールと、
前記1対のガイドレールに両端部を支持され、それらガイドレールの長手方向に設定された始端位置と終端位置との間を往復動可能なスライド台とを備えると共に、
前記ガイドレールの長手方向における前記終端位置側の前記ブース床の縁部と隣り合わせに前記塗料回収口を配置し、
前記スライド台に組み付けられて前記スクレイパーを上下動可能に支持し、前記スライド台が前記始端位置から前記終端位置に向かって移動するときには前記スクレイパーを下げて前記ブース床に貯まった塗料を掻き集める一方、前記スライド台が前記終端位置から前記始端位置に向かって移動するときには前記スクレイパーを上げて前記ブース床に貯まった塗料から離間させるスクレイパー昇降機構を設けたことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1の請求項に記載の塗料回収システム。
【請求項10】
塗装ブースの下端部に備えたブース床の上に溜まった塗料を前記塗装ブース内に備えた塗料回収口へと排出する塗料回収方法において、
前記ブース床をジェルで覆い、そのジェル上に溜まった塗料を前記ブース床に対して相対移動するスクレイパーで掻き集めて塗料回収口へと排出することを特徴とする塗料回収方法。
【請求項11】
塗装ブース内の下端面をジェルで覆っておき、そのジェル上に溜まった塗料を前記ジェルと共に除去することを特徴とする塗料回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−55820(P2012−55820A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200876(P2010−200876)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】