説明

塗料用顔料組成物

【課題】軽質炭酸カルシウム粉末を二酸化チタンと併用して塗料用の体質顔料とする際に、塗料中に二酸化チタンとともによく分散して、高い隠蔽力をもつ塗料を与える高分散性の軽質炭酸カルシウム粉末を提供する。
【解決手段】(A)二酸化チタン粉末20〜80質量%及び(B)軽質炭酸カルシウム粉末80〜20質量%からなる塗料用顔料組成物において、(B)成分として易溶性軽質炭酸カルシウム粉末を用いた塗料用顔料組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化チタン粉末と軽質炭酸カルシウム粉末との混合物からなる塗料への溶解性が良好な塗料用顔料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
軽質炭酸カルシウムの中で、アラゴナイト型炭酸カルシウムは、体質顔料、特に紙塗被用塗料の体質顔料として、単独で又は他の顔料と混合して広く用いられている。
例えば、これまでに、式d/D≦2.5(ただし、dはセディグラフX線透過式粒度分布測定法により測定した平均粒子径で、0.1μm≦d≦1.5μmの範囲、DはBET比表面積測定法により測定した比表面積の値より算出した平均粒子径)を充足する沈降性炭酸カルシウム10重量部以上を含有させた接着剤と顔料とを主成分とする塗被層を原紙上に設けたオフセット輪転印刷用塗被紙(特許文献1参照)、長さ0.5〜3μm、径0.1〜0.3μmのアラゴナイト系柱状炭酸カルシウムと粒子径が2〜7μmの板状塩基性炭酸マグネシウムよりなり、かつ比表面積が15〜30m2/gである均一分散状炭酸塩類を含有した紙被覆用組成物(特許文献2参照)、フィルムベースの支持体上に、(a)吸油量30〜55ml/100gの斜方晶形アラゴナイト炭酸カルシウム20〜70重量%と(b)エポキシ樹脂と(c)熱可塑性樹脂とを含有する塗被層を形成した記録用シート(特許文献3参照)、顔料総重量に基づき、アラゴナイト系柱状炭酸カルシウム5〜90重量%、カオリン10〜50重量%を含有する顔料と電子受容性有機顕色剤とからなる顕色層を設けた感圧複写紙用顕色シート(特許文献4参照)、軽質炭酸カルシウムとカオリンとを併用し、該顔料全体の吸油量の加重平均値が35ml/100g以上である顔料と電子受容性顕色剤と接着剤を含有する顕色剤層を支持体上に設けた読み取り用感圧複写紙(特許文献5参照)、三次元的に絡み合ったアラゴナイト系針状炭酸カルシウム粒子で、吸油量80〜150ml/100gの炭酸カルシウムとクレーとを含む白色顔料及びアクリルアミド/ジアリルアミン系共重合体とスチレン−ブタジエン系共重合体を含むバインダーからなる塗工層をもつオフセット印刷用紙(特許文献6参照)、顔料の90質量%以上が平均粒子径1.5μm以上であり、全顔料の60質量%以上が、アラゴナイト系柱状軽質炭酸カルシウムが凝集したイガグリ状粒子であり、バインダーとしてゲル量50〜85%のアクリロニトリル含量5〜20質量%である平均粒子径120nm以上の合成樹脂ラテックス粒子を全顔料に基づき8〜20質量%用いたオフセット印刷用塗工紙(特許文献7参照)などが、提案されている。
【0003】
他方、炭酸カルシウムと二酸化チタンとを含む塗料組成物もよく知られており、例えば、石灰石を粉砕して得た炭酸カルシウム水性分散液5〜65重量%(固形分換算)と二酸化チタン95〜35重量部とからなる顔料成分と、合成樹脂エマルションとからなり、顔料容積濃度25〜5%を有する水性エマルション型光沢塗料(特許文献8参照)が、これまでに提案されている。
【0004】
ところで、塗料の体質顔料として、上記のような重質炭酸カルシウムを用いると、塗料として要求される隠蔽性が低下するため、併用する二酸化チタンの割合を多くする必要があるが、高価な二酸化チタンの量を多くすると塗料がコスト高になるのを免れない。
また、軽質炭酸カルシウム粉末は、塗料に配合する場合、溶解しにくく均一に分散しないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−53995号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開平5−59691号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平4−250092号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平5−169799号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献5】特開平7−52533号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献6】特開2004−82464号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献7】特開2005−273109号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献8】特公昭63−36636号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、軽質炭酸カルシウム粉末を二酸化チタンと併用して塗料用の体質顔料とする場合、塗料中に二酸化チタンとともによく分散して、高い隠蔽力をもつ塗料を与える高分散性の軽質炭酸カルシウム粉末を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、軽質炭酸カルシウム粉末が、塗料中での分散性を欠く理由を究明するために種々研究を重ねた結果、従来方法で製造された軽質炭酸カルシウム粉末は、そのスラリーから粉末化する際に、空気のような気流中で乾燥するため、乾燥時に10μm以下の小さな凝集体が発生し、乾燥物として得られる二次凝集粒子中の空隙に空気が取り込まれ、微細な気孔が形成され、それが粉末を水に分散する際、その溶解を妨げていることが分かった。
そして、本発明者らは、さらに研究を続け、スラリーから粉末化する際の乾燥を気流と接触させずに、加熱した固体面と直接接触させて行うことにより、上記の気孔の形成を抑制し、水に溶解しやすい軽質炭酸カルシウム粉末が得られることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)二酸化チタン粉末20〜80質量%及び(B)軽質炭酸カルシウム粉末80〜20質量%からなる塗料用顔料組成物において、(B)成分として易溶性軽質炭酸カルシウム粉末を用いることを特徴とする塗料用顔料組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の塗料用顔料組成物は、これを塗料の体質顔料として用いることにより、塗膜中で二酸化チタンが均一に分散し、その物性がよく発揮されるため、二酸化チタンの使用量を減少させても高い隠蔽力が得られる上に、塗膜表面が平滑になり、高光沢に仕上げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の塗料用顔料組成物において、(A)成分として用いる二酸化チタンは、アナターゼ型、ルチル型のいずれでもよいが、ルチル型の方が好ましい。
この二酸化チタンは、平均粒子径0.1μm〜1.0μm、好ましくは0.2μm〜0.5μmの範囲の粉末として用いられる。
【0011】
また、(B)成分として用いる易溶性軽質炭酸カルシウム粉末のうち、易溶性アラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末は、例えば、先ず水酸化カルシウム濃度50〜400g/リットルの石灰乳を5〜20℃の範囲内の開始温度で毎分水酸化カルシウム1g当り7〜15mlの二酸化炭素を吹き込み、炭酸化率が2〜10%に達したときに、7〜25℃の範囲内の開始温度で二酸化炭素の吹き込み速度を毎分水酸化カルシウム1g当り0.5〜2mlに低下させて反応を続け、さらに炭酸化率10〜60%に達した時に、45℃以上の開始温度で二酸化炭素の吹き込み速度を毎分水酸化カルシウム1g当り2ml以上として炭酸化反応を完結させることにより、水性スラリーとして調製したのち、その水性スラリーを、加熱した固体面に直接接触させて乾燥し、粉末化することにより製造される。
【0012】
また、易溶性カルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末は、生石灰を濃度60〜120g/リットル、消化水温度30〜70℃および平均滞留時間60分の条件で消石灰スラリーを調製し、このようにして得られた石灰乳を30〜70℃の範囲内の開始温度で毎分水酸化カルシウム1kg当り3〜10リットルの二酸化炭素を吹き込み、炭酸化反応を終結させることにより、水性スラリーとして調製した後、その水性スラリーを、加熱した固体面に直接接触させて乾燥し、粉末化することにより製造される。
【0013】
上記の水性スラリーとしては、製造工程で得られた生成スラリーを濃縮して、濃度50質量%以上、好ましくは60質量%以上に調整したものをそのまま用いるのが好ましいが、所望ならば上記の水性スラリーを常法により粉末化したものを水に再分散させて、濃度50質量%以上、好ましくは60質量%以上に調整した高濃度水性スラリーとしたものを用いることもできる。
【0014】
この高濃度水性スラリーの調製に際しては、必要に応じ分散剤を用いることもできる。
この分散剤としては、軽質炭酸カルシウムの水性スラリーを調製する際に慣用されているものの中から任意に選んで用いることができる。このような分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸−マレイン酸共重合体アンモニウム塩、メタクリル酸−ナフトキシポリエチレングリコールアクリレート共重合体、メタクリル酸−ポリエチレングリコールモノメタクリレート共重合体アンモニウム塩、ポリエチレングリコールモノアクリレートなどがある。これらは、単独で用いてもよいし、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの分散剤を用いる場合には、軽質炭酸カルシウム粉末100質量部当り、0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜2質量部の割合で添加される。
【0015】
本発明方法においては、上記のようにして調製した軽質炭酸カルシウムの高濃度水性スラリーを乾燥して粉体を形成させるが、この乾燥は、水性スラリーを加熱した固体面に直接接触させ、急速に水分を除去することにより行うことが必要である。この加熱した固体面に直接接触させて行う乾燥は、例えば、ドラムドライヤー、ディスクドライヤーのような円筒型乾燥機を用いる方法、ホットプレート上で転動させる方法などによって行うことができるが、特にスラリーの撹拌、混合を効率的にするディスク状の熱交換面を備えた乾燥機(特開平9−324986号公報参照)を用いて行うのが好ましい。
この際の加熱した固体面の温度としては100〜300℃、好ましくは150〜200℃の範囲が選ばれる。
【0016】
このようにして、見掛け密度0.5g/cm3以上をもつ、短径0.1〜0.29μm、長径1.0〜2.8μm、アスペクト比5〜15の一次粒子の凝集した平均粒径10〜50μmの二次凝集粒子からなる易溶性アラゴナイト柱状炭酸カルシウム乾燥粉末、ないし、短径0.3μm〜0.8μmの二次凝集粒子からなる易溶性カルサイト紡錘状炭酸カルシウム乾燥粉末が得られる。
【0017】
従来の方法により得られる炭酸カルシウム粉末は、気流乾燥により気体、例えば空気を取り入れた二次凝集粒子からなるため、気孔の生成が避けられず、細孔容積が大きくなり、見掛け密度が小さいが、上記の方法で得られる炭酸カルシウム粉末は、細孔容積が1.0cm3/g以下と小さいため、見掛け密度は0.5g/cm3以上と大きくなっている。
【0018】
この軽質炭酸カルシウム粉末の細孔容積が1.0cm3/gを超えると、二次凝集粒子中に気孔が多く形成され、この粉末を水中に投入したとき、粒子中ヘ水が浸透するのが妨げられ、溶解しにくくなるが、これが1.0cm3/g以下になると水に対して易溶性となり、容易に分散する。
【0019】
本発明の塗料用顔料組成物における(A)成分と(B)成分との混合割合は、(A)成分20〜80質量%、(B)成分80〜20質量%、好ましくは(A)成分50〜70質量%、(B)成分50〜30質量%の範囲内で選ばれる。
(A)成分の割合が20質量%よりも少ないと、隠蔽力及び鏡面光沢度が不十分になるし、また、80質量%よりも多くなると、厚塗り性、調色性、流動性、貯蔵性が低下する。
【0020】
これまで、塗料の体質顔料としては、重質炭酸カルシウムが用いられていたが、この重質炭酸カルシウムは隠蔽力が不十分であるため、通常二酸化チタンが併用されていた。しかしながら、本発明の塗料用顔料組成物では、この重質炭酸カルシウムに代えて、易溶性軽質炭酸カルシウムを用いているため、二酸化チタンの割合を減少させても高い隠蔽力を付与することができ、高価な二酸化チタンの使用によるコスト高を防ぐことができる。
【0021】
本発明に用いる易溶性軽質炭酸カルシウムとしては、易溶性アラゴナイト柱状炭酸カルシウムおよび易溶性カルサイト紡錘状炭酸カルシウムを用いることができる。これら易溶性アラゴナイト柱状炭酸カルシウムおよび易溶性カルサイト紡錘状炭酸カルシウムは、いずれも粒子が方向性を有するため、これを含む塗料を物体に塗布した場合、塗膜表面が平滑になり、高光沢の仕上りを与える。
【0022】
次に、本発明の塗料用顔料組成物を用いて塗料を調製するには、例えばこの顔料組成物100質量部に水60〜200質量部を加えて溶解させ、必要に応じ、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、分散剤、分散安定剤、凍結防止剤など塗料に慣用されている助剤を添加して穏やかにかきまぜることにより、ミルベース塗料を調製したのち、このミルベース塗料に顔料組成物100質量部当り50〜90質量部のバインダー及び必要に応じ消泡剤、増膜助剤、増粘剤、水などを加え、穏やかにかきまぜ、塗料を製造する。
【0023】
この際用いる分散剤としては、例えばヘキサメタリン酸塩、トリポリリン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリカルボン酸塩、スチレン−マレイン酸モノエステル共重合体などが、分散安定剤としては、例えばヒドロキシエチルセルロース、メチルセルースなどが、バインダーとしては、例えば酢酸ビニル、アクリル酸若しくはメタクリル酸、スチレン、塩化ビニル、アクリロニトリルなどのビニル系単量体の重合体又はこれらの単量体とアクリル酸若しくはメタクリル酸、クロトン酸、N‐メチロールアクリルアミド又はジビニルベンゼンとの共重合体などを挙げることができる。
【0024】
また、塗料には、本発明の顔料組成物に加えて、着色顔料として酸化鉄、黒色酸化鉄、黄色酸化鉄、クロムイエロー、コバルトブルー、フタロシアニンブルーなどの他の顔料を併用することができる。
【0025】
次に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これによりなんら限定されるものではない。
【0026】
なお、各例における粉体又は塗料の物性値は、次の方法により測定したものである。
(1)平均粒径
堀場製作所製レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(製品記号「LA−920」)を用いて測定した。
(2)見掛け密度
JIS K 5101に規定された方法に従って測定した。
(3)B型粘度
トキメック社製B型粘度計を用い、ローター回転数60rpm、スラリー温度25℃において測定した。
(4)鏡面光沢度
JIS K 5600−4−7(60度)に従って、隠蔽力の測定に用いたのと同じ試験片により測定した。
(5)隠蔽力
JIS K 5600−4−1(試験方法B)に従って、塗布量を40g/m2の試験片を作成し、測定した。
(6)細孔容積
マイクロメリテックス社製の細孔容積測定装置「ポアサイザ9320」を用いて測定した。
【実施例1】
【0027】
<顔料軽質炭酸カルシウム粉体の製造>
水酸化カルシウムを20℃の水に混合して400g/リットルの濃度に調整したのち、コーレスミキサーで処理して25℃における粘度2500mPa・sの水酸化カルシウム水性懸濁液を得た。この水酸化カルシウム水性懸濁液を水で希釈して200g/リットルに調整し、そのうちの15リットルを回分式反応槽に供給した。この反応槽中の懸濁液の液温を40℃に調整したのち、工業用二酸化炭素ガス(純度99.9vol%)を0.2m3/hの割合で導入し、炭酸化反応を行い、平均粒径0.47μmのアラゴナイト柱状炭酸カルシウムスラリーを得た。このスラリーをフィルタープレスを用いて脱水処理し、ケーキ状のアラゴナイト柱状炭酸カルシウムを得た。
【0028】
<易溶解性処理>
このようにして得た、アラゴナイト柱状炭酸カルシウムケーキ100質量部(固形分換算)にポリアクリル酸ナトリウム分散剤を1.2質量%(固形分/固形分)添加し、羽分散機を用いて一次分散を行い、続いてサンドミルを用いて二次分散処理を施し、固形分濃度63質量%の分散スラリーとした。
【0029】
この分散スラリーを、間接加熱式伝導加熱型乾燥機(西村鐵工所社製、CDドライヤー)を用いて乾操し、乾燥粉体を得た。得られた粉体は、水分0.34質量%、見掛け密度0.67g/cm3であり、走査型電子顕微鏡で観察したところ、アラゴナイト柱状一次粒子からなる平均粒子径10〜50μmの二次凝集粒子であることが分かった。このものの細孔容積は0.61cm3/gであった。
【0030】
<塗料の調製>
次に、ルチル型二酸化チタン(石原産業社製、商品名「タイペークR820」)70質量部に上記のアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末30質量部を、コーレスミキサーで混合することにより、塗料用顔料組成物(I)を調製した。
【実施例2】
【0031】
実施例1における二酸化チタン粉末70質量部及びアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末30質量部の割合を、二酸化チタン粉末60質量部及びアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末40質量部の割合に変える以外は、実施例1と同様にして塗料用顔料組成物(II)を調製した。
【実施例3】
【0032】
実施例1における二酸化チタン粉末70質量部及びアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末30質量部の割合を、二酸化チタン粉末50質量部及びアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末50質量部の割合に変える以外は、実施例1と同様にして塗料用顔料組成物(III)を調製した。
【実施例4】
【0033】
酸化カルシウムを60℃の水を用いて消化し、1時間撹拌したのち、目開き44μmの篩で残渣を除去した。さらに、このスラリーを3液分離型の液体サイクロン(大石機械社製、TR−10)で処理して、トップ及びミドルより吐出された固形分濃度10質量%の水酸化カルシウムスラリーを回収した。この一部を採取し、水で希釈して15℃、3質量%に調整したのち、そのうちの30リットルを回分式反応槽に供給した。この反応槽に工業用二酸化炭素ガス(純度99.9vol%)を0.06m3/hの割合で導入し、炭酸化率が20%になるまで炭酸化反応を行い、一次炭酸化スラリーを得た。
【0034】
一方、液体サイクロンより回収したスラリー20リットルを別の回分式反応槽に供給し、さらに一次炭酸化スラリー5リットルと水5リットルを加え、30リットルとしたのち、温度を50℃に調整し、工業用二酸化炭素ガス(純度99.9vol%)を0.6m3/hの割合で導入し、炭酸化反応を行い、平均粒子径0.49μmのカルサイト紡錘状炭酸カルシウムスラリーを得た。このスラリーをフィルタープレスを用いて脱水処理し、ケーキ状のカルサイト紡錘状炭酸カルシウムを得た。
【0035】
<易溶解性処理>
このようにして得た、カルサイト紡錘状炭酸カルシウムケーキ100質量部(固形分換算)にポリアクリル酸ナトリウム分散剤を1.0質量%(固形分/固形分)添加し、羽分散機を用いて一次分散を行い、続いてサンドミルを用いて二次分散処理を施し、固形分濃度65質量%の分散スラリーとした。
【0036】
この分散スラリーを、間接加熱式伝導加熱型乾燥機(西村鐵工所社製、CDドライヤー)を用いて乾燥し、乾燥粉体を得た。得られた粉体は、水分0.38質量%、見掛け密度0.71g/cm3であり、走査型電子顕微鏡で観察したところ、カルサイト紡錘状一次粒子からなる平均粒子径10〜50μmの二次凝集粒子であることが分かった。このものの細孔容積は0.73cm3/gであった。
【0037】
<塗料の調製>
次に、ルチル型二酸化チタン(石原産業社製、商品名「タイペークR820」)70質量部に上記のカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末30質量部を、コーレスミキサーで混合することにより、塗料用顔料組成物(IV)を調製した。
【実施例5】
【0038】
実施例4における二酸化チタン粉末70質量部及びカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末30質量部の割合を、二酸化チタン粉末60質量部及びカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末40質量部の割合に変える以外は、実施例4と同様にして塗料用顔料組成物(V)を調製した。
【実施例6】
【0039】
実施例4における二酸化チタン粉末70質量部及びカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末30質量部の割合を、二酸化チタン粉末50質量部及びカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末50質量部の割合に変える以外は、実施例4と同様にして塗料用顔料組成物(VI)を調製した。
【0040】
比較例1
実施例1と同様にして調製したアラゴナイト柱状炭酸カルシウムケーキを、ケージミルを備えた気流乾操機を用いて乾操、粉砕することにより、水分0.29質量%、見かけ密度0.16g/cm3のアラゴナイト柱状炭酸カルシウム乾燥粉末を得た。これを走査型電子顕微鏡で観察したところ、主として10μm未満の粒子で構成されていることが分かった。また、このものの細孔容積は1.83cm3/gであった。
【0041】
実施例1で用いたのと同じルチル型二酸化チタン70質量部に、上記のアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末30質量部を混合することにより、塗料用顔料組成物(I´)を調製した。
【0042】
比較例2
比較例1における二酸化チタン粉末70質量部及びアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末30質量部の割合を、二酸化チタン粉末60質量部及びアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末40質量部の割合に変える以外は、比較例1と同様にして塗料用顔料組成物(II´)を調製した。
【0043】
比較例3
比較例1における二酸化チタン粉末70質量部及びアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末30質量部の割合を、二酸化チタン粉末50質量部及びアラゴナイト柱状炭酸カルシウム粉末50質量部の割合に変える以外は、比較例1と同様にして塗料用顔料組成物(III´)を調製した。
【0044】
比較例4
実施例4と同様にして調製したカルサイト紡錘状炭酸カルシウムケーキを、ケージミルを備えた気流乾燥機を用いて乾燥、粉砕することにより、水分0.31質量%、見かけ密度0.19g/cm3のカルサイト紡錘状炭酸カルシウム乾燥粉末を得た。これを走査型電子顕微鏡で観察したところ、主として10μm未満の粒子で構成されていることが分かった。また、このものの細孔容積は1.61cm3/gであった。
【0045】
実施例1で用いたのと同じルチル型二酸化チタン70質量部に、上記のカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末30質量部を混合することにより、塗料用顔料組成物(IV´)を調製した。
【0046】
比較例5
比較例4における二酸化チタン粉末70質量部及びカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末30質量部の割合を、二酸化チタン粉末60質量部及びカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末40質量部の割合に変える以外は、比較例4と同様にして塗料用顔料組成物(V´)を調製した。
【0047】
比較例6
比較例4における二酸化チタン粉末70質量部及びカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末30質量部の割合を、二酸化チタン粉末50質量部及びカルサイト紡錘状炭酸カルシウム粉末50質量部の割合に変える以外は、比較例4と同様にして塗料用顔料組成物(VI´)を調製した。
【0048】
参考例
<ミルベースの調製>
実施例1ないし6及び比較例1ないし6で得た塗料用顔料組成物(I)〜(VI)、(I´)〜(VI´)のそれぞれを210質量部用い、これに水130質量部、増粘剤(花王社製、商品名「ポイズ310」)3質量部、消泡剤(花王社製、商品名「No8」)3質量部、分散剤(花王社製、商品名「ポイズ532A」)3質量部、湿潤剤(花王社製、商品名「ペレックスOTP」)0.3質量部、凍結防止剤(エチレングリコール)13質量部を配合して、ミルベースを調製した。このミルベースの配合組成を、下記の表1中に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
<レットダウン工程>
次に、上記のミルベース108.7質量部に対し、アクリル系バインダー(日本合成化学社製、商品名「モビニールDM772」)174質量部、消泡剤(花王社製、商品名「No8」)0.9質量部、造膜助剤(テキサノール)9質量部及び増粘剤(花王社製、商品名「ポイズ310」)4.5質量部を加えることにより、塗料を調製した。この塗料の配合組成を、下記の表2中に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
上記のようにして製造した塗料12種について、隠蔽力試験及び鏡面光沢度試験を行った。その結果を、下記の表3,4中にまとめて示す。
【0053】
【表3】

【0054】
【表4】

【0055】
上記の表から分かるように、二酸化チタンの含有割合が多いほど、隠蔽力及び鏡面光沢度は向上する。そして、本発明の顔料組成物を用いると、その向上傾向はさらに大きくなる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の顔料組成物は、印刷インク、製紙用などの塗料における体質顔料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)二酸化チタン粉末20〜80質量%及び(B)軽質炭酸カルシウム粉末80〜20質量%からなる塗料用顔料組成物において、(B)成分として易溶性軽質炭酸カルシウム粉末を用いることを特徴とする塗料用顔料組成物。
【請求項2】
易溶性軽質炭酸カルシウム粉末が、細孔容積1.0cm3/g以下の二次凝集粒子からなる低気孔率軽質炭酸カルシウム粉末である請求項1記載の塗料用顔料組成物。
【請求項3】
易溶性軽質炭酸カルシウム粉末が、炭酸カルシウムの高濃度分散スラリーを加熱した固体面に直接接触させて乾燥した粉末である請求項1又は2記載の塗料用顔料組成物。

【公開番号】特開2010−280763(P2010−280763A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133417(P2009−133417)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(390020167)奥多摩工業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】