説明

塗料組成物、フィンおよびその製造方法ならびに熱交換器

【課題】 熱交換器フィン用の塗料組成物に要求される親水性、塗膜の密着性、潤滑性、プレス加工性、耐アルカリ性を備え、経時的な粘度低下も抑制された塗料組成物の提供。
【解決手段】 親水性グラフト共重合体(A)、特定の複素環系有機化合物(B)、特定の親水性増強剤(C)、特定の親水性潤滑付与剤(D)とを含有する塗料組成物。親水性グラフト共重合体(A)は、糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)とからなる主鎖に、ヒドロキシ基を有する単量体(a3)と、カルボキシル基を有する単量体(a4)と、スルホン酸基を有する単量体(a5)とがグラフト重合し、さらに酸基が部分中和されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器のフィンの表面に好適に使用される塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ルームエアコン、工業用熱交換器などの熱交換器のフィンには、軽量性、加工性、熱伝導性から、アルミニウムやアルミニウム合金(以下、これらをアルミニウム系材料ともいう。)が広く使用されている。
【0003】
エアコンなどの熱交換器のフィンに空気中から凝縮した水滴が付着すると、通風抵抗の増加、熱交換器の能力低下が認められるため、これを防止するために、アルミニウム系材料の表面に親水性を付与することが必要となる。
また、アルミニウム系材料は本来耐蝕性に優れているが、凝縮水がフィン表面に長期間滞留すると、酸素濃淡電池を形成したり、大気中の汚染成分が付着・濃縮されて水和反応が生じたりして腐食が促進される。この腐食生成物はフィン表面に堆積し、熱交換特性を阻害するとともに、冬季の暖房運転時には白い粉となって温風とともに送風機から排出される。よって、アルミニウム系材料には、高い耐蝕性が付与されることも求められる。
さらに、マンションなどの密封型住宅では、フローリングフロアが多く施され、フロアワックスによる床磨きが行なわれている。また、住宅内の日常生活では、蚊取り線香、防臭剤、てんぷら油などが使用されている。よって、フロアワックス、蚊取り線香、防臭剤、てんぷら油の微粒子などがエアコンの熱交換器に吸い込まれてフィン表面に付着し、エアコンの熱交換性能を低下させていることが判明し、問題視されている。
【0004】
このような現状から、フィンの耐蝕性を向上させるとともに、フィン表面に上記微粒子を付着させない親水性塗膜や、これらが付着してもエアコン運転時に発生する凝縮水により上記微粒子などの汚染物質を流出させることの可能な耐汚染性塗膜を、フィンに形成することが提案されている。
【0005】
さらに最近では、上述したような汚染物質や室内で発生したほこり等が、エアコン内部に装備された熱交換器のフィン表面に付着することで熱交換効率が低下し、エアコンの効き目が悪くなった際には、業者によるエアコンの掃除・洗浄が広く行なわれるようになってきている。ところが、この際に用いられる洗浄剤は、ややもすれば強アルカリ性のものであり、そのためにフィン表面に施されている親水性塗膜の脱落が生じるケースもある。よって、この問題を解決するため、フィンの耐アルカリ性を向上させる必要も生じている。
【0006】
そこで、例えば、特許文献1〜3には、カルボキシメチルセルロースやその塩と、N−メチロールアクリルアミドなどを主に使用した表面処理用樹脂組成物が開示されている。しかしながら、これらの組成物では親水性やその持続性、耐汚染性、耐アルカリ性などをともに満たすことが出来ない。特に、特許文献3には、ポリアクリル酸とポリエチレンオキサイドとの錯塩を使用することが記載されているが、この錯塩は強アルカリ性液に晒されると簡単に分解・解離し、簡単に凝縮水等で流出してしまうため、十分な効果が得られない。
【0007】
また、フィンに形成される塗膜には、フィンへの密着性が良好で、その耐久性に優れることが要求される。さらに、アルミニウム系材料の表面に塗膜を形成した後、これをプレス加工することでフィンを製造する場合には、塗膜が潤滑性に優れ、かつ製品不良率が低くプレス加工性に優れたものであることも望まれる。
【0008】
本発明者らはこのような状況に鑑みて鋭意検討した結果、グルコース環、すなわち、グルコピラノシル基を備えた糊化澱粉を主鎖とし、これに特定の単量体をグラフト重合させたグラフト共重合体を使用することにより、フィン用の塗料組成物に要求される各種性能を満足する塗料組成物を提供できることを突き止め、特許文献4で開示している。
【特許文献1】特開昭63−108084号公報
【特許文献2】特開平2−258874号公報
【特許文献3】特開平6−322552号公報
【特許文献4】特開2004−137294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献4に開示の塗料組成物は、経時的な粘度低下が認められる傾向があり、それに起因して塗布作業にトラブルが生じる場合があった。このような粘度低下を防止するためには、例えば、分子量が数百万〜数千万のポリアクリル酸などの合成高分子系増粘剤を使用する方法も考えられるが、合成高分子系増粘剤の使用は、塗料組成物の親水性を低下させるおそれがあった。これは、合成高分子系増粘剤を含む塗料組成物をフィンに塗布し200℃以上の高温で焼き付けると、合成高分子系増粘剤の有するラジカルが活動し、塗料組成物中の親水基と架橋してしまい、その結果、親水性が低下するためである。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、熱交換器のフィン用の塗料組成物に要求される各種性能(親水性、塗膜の密着性、潤滑性、プレス加工性、耐アルカリ性など)を備え、しかも、経時的な粘度低下も抑制された塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、親水性グラフト共重合体として、主鎖が糊化澱粉のみではなく糊化澱粉と増粘多糖類とから構成されたものを採用し、かつ、塗料組成物中に、特定の親水性増強剤および親水性潤滑付与剤を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明における第1の発明の要旨は、糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)とからなる主鎖に、ヒドロキシ基を有する単量体(a3)と、カルボキシル基を有する単量体(a4)と、スルホン酸基を有する単量体(a5)とがグラフト重合し、さらに酸基が部分中和された親水性グラフト共重合体(A)と、
下記式(1)で表される1,3−ジオキサン環を有するカルボン酸(b)から誘導される1,3−ジオキサン環を2個以上有する複素環系有機化合物(B)と、
下記式(2)で表される化合物、下記式(3)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性増強剤(C)と、
下記式(4)で表される化合物、下記式(5)で表される化合物、下記式(6)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性潤滑付与剤(D)とを含有することを特徴とする塗料組成物にある。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【0013】
また、本発明における第2の発明の要旨は、上記塗料組成物から形成された塗膜が表面に形成されたことを特徴とするフィンにある。
また、本発明における第3の発明の要旨は、アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に、上記塗料組成物を塗布し、焼付けした後、該アルミニウムまたはアルミニウム合金をフィンに加工することを特徴とするフィンの製造方法にある。
また、本発明における第4の発明の要旨は、上記フィンを備えていることを特徴とする熱交換器にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱交換器のフィン用の塗料組成物に要求される各種性能(親水性、塗膜の密着性、潤滑性、プレス加工性、耐アルカリ性など)を備え、しかも、経時的な粘度低下も抑制された塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の塗料組成物は、糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)とからなる主鎖(グラフト幹)に、ヒドロキシ基を有する単量体(a3)と、カルボキシル基を有する単量体(a4)と、スルホン酸基を有する単量体(a5)とからなるグラフト鎖(グラフト枝)がグラフト重合し、さらに酸基が部分中和された親水性グラフト共重合体(A)を含有する。
【0016】
[親水性グラフト共重合体(A)]
糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)はいずれも、下記式(7)で示されるグルコピラノシル基やこれから誘導される基(以下、グルコピラノシル基類という。)を有する。
本発明においては、親水性グラフト共重合体(A)の主鎖をこのようにグルコピラノシル基を有する糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)とから構成しているため、得られる塗料組成物は、優れた親水性、耐汚染性を発揮するものとなる。
【0017】
【化7】

【0018】
すなわち、糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)は、これら自体がそれぞれ水溶性であることからも判るように、親水性グラフト共重合体(a)に高い親水性を与える。
また、グルコピラノシル基は多数の酸素原子を有していて、この酸素原子の自由電子対に基づく高い極性を発現するため、耐汚染性も与える。フロアワックス、蚊取り線香、防臭剤、てんぷら油などの微粒子状の汚染物質は、油性が高く極性の低い物質であるため、油性が低く極性の高い糊化澱粉(a1)および増粘多糖類(a2)を使用することで、塗料組成物から形成される塗膜に、汚染物質に対する難付着性、すなわち耐汚染性を付与することができる。
【0019】
また、糊化澱粉(a1)や増粘多糖類(a2)が有する水酸基は、ヒドロキシ基を有する単量体(a3)、カルボキシル基を有する単量体(a4)、スルホン酸基を有する単量体(a5)とグラフト重合する役割を有する。このようなグラフト重合により、グラフト鎖にヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホン酸基が形成される。
【0020】
ここで使用される糊化澱粉(a1)とは、澱粉の糊化物であって、澱粉を水または水を主剤とする液とともに練り、場合によっては加熱することで得られる粘性物である。
澱粉としては、穀類では小麦澱粉、米澱粉、トウモロコシ澱粉、イモ類では、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、豆類ではフィールドビーン(えんどう)澱粉、フォースビーン(空豆)澱粉、緑豆澱粉、食用野草類では、くず澱粉、ヤシ類ではサゴヤシ澱粉などを用いることができる。これらの中では、塗膜形成性に優れていることなどから、イモ類澱粉の糊化物が好ましい。イモ類澱粉の中ではタピオカ澱粉またはその加工澱粉が好ましく、中でも、エーテル型またはリン酸架橋型タピオカ澱粉がより好ましい。
【0021】
増粘多糖類(a2)は天然系の多糖類であって、上述したように、糊化澱粉(a1)と同様の環状構造を有するため、塗膜に親水性と耐汚染性とを与えるという重要な役割を果たすが、増粘多糖類(a2)は、さらに重要な次の2つの作用をも奏する。
第1の作用は、少量の使用で、塗料組成物の経時的な粘度低下を抑制する作用である。ここで増粘多糖類(a2)が主鎖に含まれない場合、塗料組成物は、糊化澱粉(a1)の老化現象(retrogradation)により粘度低下する傾向があり、それに起因して塗布作業にトラブルが生じる場合がある。しかしながら、増粘多糖類(a2)を併用して親水性グラフト共重合体(A)の主鎖を構成することにより、このような粘度低下を防止することができる。
【0022】
第2の作用は、増粘多糖類(a2)はラジカルを有しないため、塗料組成物をフィンなどの基材に塗布し、200℃以上の高温で焼き付けた場合でも、塗膜の親水性を損なうことなく、架橋を形成できるということである。すなわち、仮に、分子量が数百万〜数千万のポリアクリル酸などの合成高分子系増粘剤を増粘多糖類(a2)の代わりに使用すると、合成高分子系増粘剤中のラジカルが焼き付け時の加熱により活動を開始し、塗料組成物中の親水基と架橋してしまい、その結果、塗膜の親水性を低下させてしまう傾向がある。焼き付けは、塗膜に架橋を形成し、塗膜の基材への密着性を高めたり塗膜を流水等で流出しないものとするための必要な工程であるが、合成高分子系増粘剤の場合には、ラジカルを有するために架橋が過度となり、その分、親水性を発揮する官能基が消費され、塗膜から親水性が失われてしまう。その点、増粘多糖類(a2)を使用するとこのような問題が生じず、非常に好適である。
【0023】
ただし、増粘多糖類(a2)単独で主鎖を構成した場合には、得られたグラフト共重合体は非常に高粘度となる。そのため、高濃度の塗布液を製造できなくなり、低濃度の塗布液を製造、使用せざるを得なくなるか、その場合には、低濃度なために、耐汚染性を発揮させるのに十分な量のグルコピラノシル基類を含有させることが困難となる。よって、本発明においては、増粘多糖類(a2)と糊化澱粉(a1)とを併用して主鎖を構成することが必要となる。
【0024】
増粘多糖類(a2)としては、増粘性(すなわち、粘度低下抑制効果)と、親水性が優れていることから、キサンタンガムおよび/またはアルギン酸塩が好適である。
キサンタンガムは、天然高分子多糖類であって、例えば、ケルザン(商品名:三晶株式会社)などの市販品を使用できる。アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウムが使用できる。
【0025】
糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)との質量比は、95/5〜99.5/0.5((a1)+(a2)=100)が好ましい。ここで、糊化澱粉(a1)が99.5を超えると、老化現象による塗料組成物の粘度低下が生じるおそれがある。一方、95未満では、塗料組成物の耐汚染性が不足したり、増粘多糖類(a2)の比率が高くなることで、塗料組成物の粘度が増加して塗装性が低下したりするおそれがある。
【0026】
親水性グラフト共重合体(A)のグラフト鎖は、ヒドロキシ基を有する単量体(a3)(以下、単に単量体(a3)という場合もある。)と、カルボキシル基を有する単量体(a4)(以下、単に単量体(a4)という場合もある。)と、スルホン酸基を有する単量体(a5)(以下、単に単量体(a5)という場合もある。)とからなる三元共重合体から構成される。
ヒドロキシ基を有する単量体(a3)は、塗膜の強靱性をより高めるとともに、塗膜に柔軟性を付与する作用を奏する。
このような単量体(a3)としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピルエステル、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルエステルなどが挙げられる。中でも、アクリル酸2−ヒドロキシエチルエステル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピルエステル、アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピルエステルが好ましく用いられ、これらは、単独または複数組み合わせて用いられる。
【0027】
グラフト鎖を構成するカルボキシル基を有する単量体(a4)は、カルボキシル基がアルカリ金属水酸化物やアンモニアなどの塩基性化合物で部分中和されることで、親水性グラフト共重合体(A)に高い親水性を付与するものである。なお、ここでカルボキシル基を有する単量体(a4)には、ジカルボン酸の無水物も含まれる。
このような単量体(a4)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及びイタコン酸、マレイン酸の炭素数1〜6の飽和の直鎖または側鎖を有するアルキルアルコールのハーフエステル、無水マレイン酸等が挙げられる。中でも、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸およびマレイン酸の炭素数1〜3の飽和アルキルアルコールのハーフエステル、無水マレイン酸が好ましく用いられ、これらは、単独または複数組み合わせて用いられる。
【0028】
また、カルボキシル基を有する単量体(a4)は、塗膜の架橋性や基材への密着性も向上させる役割を備えている。ここでグラフト鎖をヒドロキシ基を有する単量体(a3)とスルホン酸基を有する単量体(a5)のみの二元共重合体から構成すると、得られるグラフト共重合体は、後述する1,3−ジオキサン環を2個以上有する複素環系有機化合物(B)との間で、下記反応式(8)に示す開環反応を行うための反応性基を十分に有しないものとなる。ヒドロキシ基を有する単量体(a3)を有しているために、ヒドロキシ基との開環反応による架橋の形成は認められるものの、それだけでは架橋性が不足する。よって、カルボキシル基を有する単量体(a4)を使用しない場合には、形成された塗膜は架橋が十分に形成されないものとなり、アルミニウム系材料などからなる基材の表面に塗膜が形成出来なくなり、塗膜形成性が損なわれたり、架橋性不足により密着性が不良となったりする。
【0029】
【化8】

酸性側で、酸により式(8)の破線部分で開裂が生じる。
【0030】
スルホン酸基を有する単量体(a5)は、上記カルボキシル基を有する単量体(a4)と同様に、スルホン酸基がアルカリ金属水酸化物やアンモニアなどの塩基性化合物で部分中和されることで、親水性グラフト共重合体(A)に高い親水性を付与する。
さらに、親水性グラフト共重合体(A)が、このようにスルホン酸基を有する単量体(a5)に由来するアルカリ金属塩構造を備えていると、カルボキシル基を有する単量体(a4)に由来するアルカリ金属塩構造が誘発する塗膜の親水性低下を抑制することもできる。すなわち、カルボキシル基を有する単量体(a4)に由来するアルカリ金属塩構造からはアルカリ金属イオンが電離し、塗膜に水が作用すると、このように電離しているアルカリ金属イオンが系外に流出してしまい、塗膜の親水性が低下するおそれがある。しかしながら、親水性グラフト共重合体(A)がスルホン酸基を有する単量体(a5)に由来するアルカリ金属塩構造を備えていると、電離によるアルカリ金属イオンのこのような流出を防止することができる。特にエアコンのフィンには、エアコンの稼働時に生成する凝縮水が流下し、塗膜に水が作用することとなる。よって、このようなアルカリ金属イオンの流出を防止することは非常に重要である。
【0031】
スルホン酸基を有する単量体(a5)としては、例えば、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸、3−スルホプロピルアクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−スルホプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−スルホプロピルメタクリレートなどがあるが、アクリルアミド−t−ブチルスルホン酸が特に良い。
【0032】
これら各単量体(a3)〜(a5)は、糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)との合計100質量部に対して、単量体(a3)が5〜20質量部、単量体(a4)が40〜80質量部、単量体(a5)が5〜35質量部であることが好ましい。
単量体(a3)が5質量部未満であると、塗膜の柔軟性が低下し、基材に塗料組成物を塗装して焼き付けた後に、プレス加工が困難となる(プレス加工性の低下)可能性がある。一方、20質量部を超えると、親水性を低下させる可能性がある。
単量体(a4)が40質量部未満であると、親水性の低下が懸念されるとともに、架橋形成する反応基が減少することによる塗膜形成性の低下が生じる。一方、80質量部を超えると、親水性が高くなりすぎて、水分の流下による塗膜の耐久性やその持続性が低下する傾向にある。
単量体(a5)が5質量部未満であると、親水性の低下が懸念され、35質量部を超えると、親水性が高くなりすぎて、水分の流下による塗膜の耐久性やその持続性が低下する傾向にある。
【0033】
また、糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)とからなる主鎖に、これら各単量体(a3)〜(a5)がグラフト重合して得られる親水性グラフト共重合体(A)の数平均分子量は、3000〜500000であることが好ましい。数平均分子量が3000未満であると、塗膜形成性不足であり、水分の流下による塗膜の耐久性やその持続性が低下する傾向にある。一方、数平均分子量が500000を超えると、塗装性や塗膜の親水性が低下する傾向にある。
【0034】
親水性グラフト共重合体(A)は、糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)の共存下において、上記単量体(a3)〜(a5)を重合し、その後、アルカリ金属水酸化物やアンモニアなどの塩基で酸基を部分中和することで得られる。このように酸基が部分中和されることで、高い親水性が発現する。ここで部分中和の程度は、全酸基の4〜96%程度を中和することが好ましく、より好適には12〜88%である。例えば、中和により、pHが4程度となる場合には、部分中和の程度は約12〜13%であり、pHが4.5程度となる場合には、部分中和の程度は約32〜35%であり、pHが5程度の場合には、部分中和の程度は約66〜69%であり、pHが5.5程度の場合には、部分中和の程度は約87〜90%となる。
重合方法は、既知の方法によればよいが、レドックス重合法が好ましい。重合触媒は特に限定されるものではないが、得られる塗料組成物の防食性を考慮すると、ハロゲン系化合物やイオン、硫酸などの強酸性化合物やイオンが配合されていない触媒が好ましい。特に、過酸化水素水−有機酸系レドックス触媒が良好であるが、蟻酸や酢酸は銅管への蟻の巣状腐蝕を発生させる要因となるので使用しないことが好適である。レドックス触媒における有機酸としては、乳酸、リンゴ酸等が好ましく用いられる。
中和に使用されるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムが好ましく、このいずれかを単独で使用してもよく、両者を混合して使用してもよい。
【0035】
[複素環系有機化合物(B)]
本発明の塗料組成物は、は、上記式(1)で表される1,3−ジオキサン環を有するカルボン酸(b)から誘導される、1,3−ジオキサン環を2個以上有する複素環系有機化合物(B)を含有する。
この複素環系有機化合物(B)は、すでに述べたように、反応式(8)に示す開環反応により親水性グラフト共重合体(A)との間で架橋形成して、塗膜の基材への密着性を高め、塗膜のプレス加工性を向上させるなどの作用を奏するものである。
複素環系有機化合物(B)としては、ヒドロキシ基を2個以上有する有機化合物と、カルボン酸(b)とから誘導されるものが好ましい。
【0036】
式(1)で表される1,3−ジオキサン環を有するカルボン酸(b)としては、5−メチル−5−オキシカルボニルー1,3−ジオキサン、5−エチル−5−オキシカルボニル−1,3−ジオキサン,2,2−ジメチル−5−メチル−5−オキシカルボニル−1,3−ジオキサン、2,2−ジメチル−5−エチル−5−オキシカルボニル−1,3−ジオキサン、2−メチル−2−エチル−5−メチル−5−オキシカルボニル−1,3−ジオキサン,2−メチル−2−エチル−5−エチル−5−オキシカルボニル−1,3−ジオキサン、2−メチル−2−イソブチル−5−メチル−5−オキシカルボニル−1,3−ジオキサン,2−メチル−2−イソブチル−5−エチル−5−オキシカルボニル−1,3−ジオキサン等を例示できる。
【0037】
複素環系有機化合物(B)のうち、好ましいものは、分子量400〜2000のジまたはトリオールと、α−[5−(1,3−ジオキサニル)]プロピオン酸とからなるジまたはトリエステルである。ここで分子量が400〜2000のジまたはトリオールを選択すると、塗膜の架橋密度が良好となり、親水性が不足することもない。
具体的には、ポリエチレングリコール600#ジ[α―〔5−(1,3−ジオキサニル)〕]プロピオネート、ポリエチレングリコール1000#ジ[α―〔5−(1,3−ジオキサニル)〕]プロピオネート、ポリエチレングリコール1500#ジ[α―〔5−(1,3−ジオキサニル)〕]プロピオネート、ポリエチレングリコール2000#ジ[α―〔5−(1,3−ジオキサニル)〕]プロピオネート、ポリグリセリン#500ジ[α―〔5−(1,3−ジオキサニル)〕]プロピオネート、ポリグリセリン#750トリ[α―〔5−(1,3−ジオキサニル)〕]プロピオネートが挙げられる。
なお「♯」の前の数値は、ポリエチレングリコールやポリグリセリンの分子量である。
【0038】
[親水性増強剤(C)]
本発明の塗料組成物は、親水性増強剤(C)を含有する。親水性増強剤(C)は、塗料組成物に対してより一層の親水性を付与するとともに、塗料組成物の塗装性や耐汚染性を良好にするものである。
本発明で使用する親水性増強剤(C)は、上記式(2)で表される化合物か、上記式(3)で表される化合物のうちの少なくとも1種の反応性乳化剤である。
【0039】
このように親水性増強剤(C)として反応性乳化剤を使用すると、この反応性乳化剤は、塗料組成物を塗布して焼き付けた後には塗膜から流出しないため、塗料組成物の塗装性を向上させ、また、塗膜の親水性を向上させ持続させる。また、流出により環境に負荷をかけることもない。ここで仮に、反応性のない通常の乳化剤を使用すると、このような乳化剤は塗膜中で単に分散・乳化して存在しているために、雨水などにより塗膜から簡単に流出してしまい、その効果が失われてしまう。特に塗料組成物がエアコンのフィンに塗装された場合には、エアコンの稼働時に生成する凝縮水の流下により、塗膜に水が作用し、乳化剤が系外に流出しやすい。このような現象は、環境汚染の要因となるおそれもあり好ましくない。
【0040】
また、式(2)および式(3)中、hおよびjはいずれも10〜30の整数である。10未満では、塗料組成物に親水性を付与することができず、一方、30を超えると、親水性が高くなりすぎて、水分の流下による塗膜の耐性やその持続性が低下する傾向にある。
【0041】
[親水性潤滑付与剤(D)]
本発明の塗料組成物は、親水性潤滑付与剤(D)を含有する。親水性潤滑付与剤(D)は、塗膜の親水性、耐汚染性を高めるとともに、塗膜の潤滑性を高め、プレス加工などに適したものとするために使用され、親水性グラフト共重合体(A)と反応性を有するものである。
親水性潤滑付与剤(D)は、上記式(4)〜(6)で表される化合物のうちの少なくとも1種である。これらのものはエーテル結合を多く有し、アルカリ性において分解し難い点でも好ましく、これらを使用することで塗料組成物に耐アルカリ性を付与することができる。
【0042】
式(4)中、aおよびbは2〜12の整数であり、(CHCHO)p部分の分子量は2000〜13000である。ここで分子量が2000未満では、塗膜の潤滑性が不十分となり、プレス加工性が低下する。一方、13000を超えると、塗膜とした際の強靱性が高まるが、このものの結晶性が不足し、結果的に潤滑性が不足する。
式(5)中、qは50〜150の整数で、dは2〜12の整数である。qが50未満では、塗膜の親水性と潤滑性が低下し、150を超えると、塗膜とした際の強靱性が高まるが、このものの結晶性が不足し、結果的に潤滑性が不足する。また、dが2未満ではコストの点で好ましくなく、12を超えると塗膜の親水性が低下する。
式(6)中、EO/PO比は40〜90/10〜60(ただし、EO+PO=100とする。)である。ここでEOが40未満では、塗膜の親水性が低下し、90を超えると塗膜とした際の強靱性が高まるが、このものの結晶性が不足し、結果的に潤滑性が不足する。また、eおよびfは2〜12の整数である。eおよびfが2未満ではコストの点で好ましくなく、12を超えると塗膜の親水性が低下する。さらに、式(6)の化合物は、その分子量が700〜5000である。分子量が700未満では、親水性、潤滑性が不足し、500を超えると製造が難しく、そのためにコスト高となる。
【0043】
[塗料組成物]
本発明の塗料組成物は、固形分換算で、上述した親水性グラフト共重合体(A)100質量部に対して、複素環系有機化合物(B)が30〜160質量部、親水性増強剤(C)が25〜300質量部、親水性潤滑付与剤(D)が15〜80質量部の範囲で配合されることが好ましい。より好ましくは、親水性グラフト共重合体(A)100質量部に対して、複素環系有機化合物(B)が70〜120質量部、親水性増強剤(C)が90〜200質量部、親水性潤滑付与剤(D)が25〜55質量部である。
ここで複素環系有機化合物(B)が30質量部未満では、架橋性の不足、塗膜の基材への密着性の低下が懸念され、160質量部を超えると、架橋性が高くなりすぎる結果、親水性が不足する可能性がある。親水性増強剤(C)が25質量部未満では、親水性が不十分となりやすく、300質量部を超えると、親水性は高く発現するものの、その持続性が低下する傾向にある。親水性潤滑付与剤(D)が15質量部未満では、塗膜の潤滑性が不足してプレス加工性が不十分となりやすく、80質量部を超えると、親水性は高く発現するものの、その持続性が低下する傾向にある。
【0044】
Ind.Eng.Chem.51,1361(1959)には、ポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸を反応させると、水に不溶の会合体を形成すると記載がある。確かに、ポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸を1:1のモル比で会合させ得られた物質は水不溶性となる。高分子量のポリオキシエチレンやオキシエチレンとオキシプロピレンとの共重合体も同様な性質を示す。しかし、このモル比を1:1から外すことによって、ポリエチレンオキサイドとポリアクリル酸の両成分が徐々に水に溶出することが判明した。また、ポリエチレンオキサイドを、カルボキシル基を有するポリマーのアルカリ金属水酸化物水溶液で部分中和させた物質は、水に対して溶解性を有する会合体を形成することを発見した。
本発明の塗料組成物は、この知見に基づいて完成されたものである。すなわち、糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)を主鎖とする親水性グラフト共重合体(A)の残存酸基と、ポリエチレンオキサイド鎖を有する複素環系有機化合物(B)と、同様にポリエチレンオキサイド鎖を有する親水性潤滑付与剤(D)とが会合体を形成し、この会合体が水によって徐々に溶出することにより、塗膜に付着した汚染物質を同時に流出させ、その結果、優れた耐汚染性を発揮させるのである。
【0045】
[フィン、フィンの製造方法および熱交換器]
以上説明したように、本発明の塗料組成物は、親水性、塗膜の密着性、潤滑性、プレス加工性、耐アルカリ性などを備え、しかも、経時的な粘度低下も抑制されている。よって、エアコンなどにおける熱交換器のフィンの表面への塗膜の形成に適している。
すなわち、本発明の塗料組成物によれば、アルミニウム系材料の表面に、この塗料組成物を塗布し、焼付けした後、アルミニウム系材料をフィンにプレス加工などで加工する方法で、好適にフィンを製造することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
[親水性グラフト共重合体(A)の製造]
攪拌器、温度計、滴下ロート、窒素導入管および還流冷却器を備えた3Lの五ツ口セパラブルフラスコに、2210gのイオン交換水と、表1に記載の澱粉を表2に示す分量で仕込み、窒素気流下、昇温1時間、糊化温度90〜95℃で6時間攪拌することにより、糊化澱粉を得た。
澱粉として未加工タピオカ澱粉(タイ国品)を使用したものを糊化澱粉(a11)、ヒドロキシプロピルエーテル型タピオカ澱粉を使用したものを糊化澱粉(a12)、リン酸架橋型タピオカ澱粉を使用したものを糊化澱粉(a13)、ヒドロキシプロピルエーテル型とリン酸架橋型混合のタピオカ澱粉を使用したものを糊化澱粉(a14)とした。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
次に、これを内温30℃に冷却し、キサンタンガム(商品名:ケルザンS、三晶(株)製)またはアルギン酸ナトリウム(富士化学工業(株)製)を投入し、2時間攪拌してグラフト幹水溶液を得た。
さらに、表3に記載の分量で各単量体を投入し、レドックス助触媒として乳酸(試薬、和光純薬工業(株)製)を各成分総量の0.05質量%となるように加えて攪拌しながら、滴下ロートから重合触媒として35質量%過酸化水素水(試薬、和光純薬工業(株)製)を各成分総量の1質量%滴下し、30〜35℃で8時間反応させて、樹脂濃度が10質量%のグラフト共重合体(a111〜a114、a121〜a124,a131〜134、a141〜144)を得た。
なお、同様に比較例用として、樹脂濃度10質量%のグラフト共重合体を得た。具体的には、グラフト幹が糊化澱粉(a11〜a14)のみからなるグラフト共重合体(a110、a120、a130、a140)、糊化澱粉と増粘多糖類とを主鎖とし、カルボキシル基を有する単量体(a4)含まない二元共重合体がグラフトしたグラフト共重合体(a115、a135)、スルホン酸基を有する単量体(a5)を含まない二元共重合体がグラフトしたグラフト共重合体(a116、a136)である。
【0050】
【表3】

【0051】
表中の略号は以下の内容を示す。
HEA:アクリル酸−2−ヒドロキシエチルエステル(大阪有機化学(株)製)、
HEMA:メタアクリル酸−2−ヒドロキシエチルエステル(三菱レイヨン(株)製)
HPA:アクリル酸−2−ヒドロキシプロピルエステル(大阪有機化学(株)製)
AA:アクリル酸((株)日本触媒製)
MAA:メタアクリル酸(三菱レイヨン(株)製)
MMA:無水マレイン酸(武田薬品(株)製)
MMM:マレイン酸モノメチルエステル(黒金化成(株)製)
ATS:アクリルアミド−N−ターシャリ−ブチルスルホン酸(東亜合成化学(株)製)
KS:ケルザンS 三晶(株)製、
AS:アルギン酸ソーダ(富士化学工業(株)製)
【0052】
その後、表4および表5に記載の塩基性化合物を用いて中和反応を行い、実施例用として、親水性グラフト共重合体(A05)〜(A20)の10質量%液を得て、比較例用として、グラフト共重合体(A01)〜(A04)および(A21)〜(A24)の10質量%液を得た。
なお、中和反応は、まず水酸化アルカリ金属水溶液を加えてpH4.5〜4.6とし、その後さらにアンモニア水を加えることで最終的にpH6程度とした。各塩基性化合物を加えたことによる具体的なpHの値は、表4および5の各塩基性化合物の右横欄に記載した。
また、これらの数平均分子量も表4および表5に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
表中の略号は以下の内容を示す。
NA:10質量%水酸化ナトリウム水溶液
K:10質量%水酸化カリウム水溶液
NH:10質量%アンモニア水溶液
【0056】
[複素環系有機化合物(B)の製造]
(1,3−ジオキサン環を有するカルボン酸(b)の製造)
α、α−ジメチロールプロピオン酸1モルとα−パラオキシメチレン1.35モル又はアセトン1.8モル、p−トルエンスルホン酸12gを触媒として8時間反応させて、α−〔5−(1,3−ジオキサニル)〕プロピオン酸(5DOXA)、α−〔2,2−ジメチル−5−(1,3−ジオキサニル)〕プロピオン酸(5DOXMA)を得た。
【0057】
ついで、表6の各成分を用い、エステル化反応を行い、複素環系有機化合物(B11)〜(B16)の10質量%水溶液を得た。
【0058】
【表6】

【0059】
表中の略号は以下の内容を示す。
5DOXA:α−〔5−(1,3−ジオキサニル)〕プロピオン酸
5DOXMA:α−〔2,2−ジメチルー5−(1,3−ジオキサニル)〕プロピオン酸
PEG:ポリエチレングリコール
【0060】
また、PEG600、PEG1000およびPEG2000は、それぞれ分子量600、1000及び2000のポリエチレングリコールを示し、これらは全てライオン(株)製である。
【0061】
[親水性増強剤(C)]
親水性増強剤として、表7に示すものを使用した。
【0062】
【表7】

【0063】
(C11)〜(C41)は以下の通りである。
(C11)アクアロンKH20:上記式(2)で示される化合物であって、式(2)中、Rは炭素数10〜11のアルキル基で、hは20である。Aは−SONHである。
(C21)アクアロンRN20:上記式(3)で示される化合物であって、式(3)中、Rは炭素数9のアルキル基で、jは20である。Bは−Hである。
(C31)アクアロンHS20:上記式(3)で示される化合物であって、式(3)中、Rは炭素数9のアルキル基で、jは20である。Bは−SONHである。
(C41):上記式(2)で示される化合物であって、式(2)中、Rは炭素数10〜11のアルキル基で、hは20である。Aは−Hである。
【0064】
[親水性潤滑付与剤(D)]
親水性潤滑付与剤(D)としては、本実施例では、二塩基性酸素酸タイプのものと、二塩基性酸素酸アミドタイプのものを使用した。
二塩基性酸素酸タイプのものは、出発物質として特殊な有機酸を用いて製造された反応性の物質である。有機酸として、エチレンオキサイド付加体の末端の水酸基が二塩基性酸素酸でエステル反応によってエステル化され、さらにこの末端にカルボキシル基を有するものを使用した。そして、この有機酸をアンモニア水で中和することにより、反応性の物質である二塩基性酸素酸タイプのものを得た。
また、二塩基性酸素酸アミドタイプは、この特殊な有機酸を酸アミド化し、さらに、メチロ−ル化した反応性の物質である。
これらの具体的な製造方法を以下に説明する。なお、エチレンオキサイド付加体の製造法については、例えば、柴田満太、斎藤政博、秋本新一共編の「アルキレンオキサイド重合体―製造方法・特性および用途―」1990年(海文堂出版)に記載されている。
【0065】
(親水性潤滑付与剤(D)のベースの製造)
まず、次のようにして、親水性潤滑付与剤(D)のベースを製造した。
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管及び還流冷却器を付した1L容積の四つ口セパラブルフラスコに、表8記載の原料を全量加え、マントルヒーターで、内温を70〜75℃に上昇させた。内容物が溶解すれば、攪拌を開始し、85〜90℃で2時間、さらに内温を115〜120℃に上昇させて3時間攪拌を続け、白色固体の親水性潤滑付与剤(D)のベース(d111)〜(d114)を得た。
【0066】
【表8】

【0067】
また、親水性潤滑付与剤のベース(d111)と同様にして、表9記載の原料から、白色固体の親水性潤滑付与剤のベース(d121)〜(d123)を得た。
【0068】
【表9】

【0069】
さらに、親水性潤滑付与剤のベース(d111)と同様にして、表10記載の原料から、白色固体の親水性潤滑付与剤のベース(d131)と(d132)を得た。
【0070】
【表10】

*青木油脂工業(株)製である。
【0071】
(二塩基性酸素酸タイプの親水性潤滑付与剤の製造)
上記表8〜10に示す各ベースをアンモニア水でpH7.5〜8に調整し、イオン交換水で固形分20質量%に調整した二塩基性酸素酸タイプの親水性潤滑付与剤(D111)〜(D114)、(D121)〜(D123)、(D131)〜(D132)を表11のように得た。
【0072】
【表11】

【0073】
(二塩基性酸素酸アミドタイプの親水性潤滑付与剤の製造)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管及び水分離器付き還流冷却器を付した1L容積の四つ口セパラブルフラスコに、表12記載の原料を全量加え、マントルヒーターで、内温を80〜85℃に上昇させた。内容物が溶解した後、攪拌を開始し、90〜95℃で尿素を加え、内温を徐々に140℃に上昇させた。生成する水を分離しながら5時間攪拌を続け、内温を最高180℃まで上昇させることで、黄色固体の酸アミドを得た。次に、酸アミドをイオン交換水で40質量%水溶液にし、パラオキシメチレンを加え、pH5で、95℃で5時間メチロール化反応させ、イオン交換水で固形分20質量%に調整し、黄褐色液体の二塩基性酸素酸アミドタイプの親水性潤滑付与剤((D211)〜(D214)、(D221)〜(D223)、(D231)〜(D232)を得た。
【0074】
【表12】

【0075】
[塗料組成物の製造]
以下の表13〜17に示す配合比で、先に得られた親水性グラフト共重合体(A05〜A20)と比較例用のグラフト共重合体(A01〜A04,A21〜A24)、複素環系有機化合物(B11〜B16)、親水性増強剤(C11、C21、C31、C41)、親水性潤滑付与剤(D111〜D114)、(D121〜D123),(D131〜D132)、(D211〜D214),(D221〜D223)、(D231〜D232)と、イオン交換水とを混合し、5質量%濃度の塗料組成物を得た。
なお、表13〜17に記載の配合比は、(A)成分については固形分濃度10質量%の液としての配合比、(B)成分については固形分濃度10質量%の液としての配合比、(D)成分については固形分濃度20質量%の液としての配合比である。(C)成分については固形分としての配合比(すなわち、固形分濃度100質量%としての配合比)である。よって、これらの実質的な配合比(固形分換算での配合比)を求める際には、各成分の固形分濃度を考慮する必要がある。
そして、これらの塗料組成物を、それぞれアルミニウム合金材の表面に0.5μmの厚さに塗布後、焼き付けし、このアルミニウム合金材からドローレスプレス加工でフィンを製造し、熱交換器に組み込んだ。
このフィン表面の水濡性(親水性接触角)、塗膜の密着性、潤滑性、耐汚染性、プレス加工性、耐アルカリ性について評価した。その結果を表18に示す。
【0076】
【表13】

【0077】
【表14】

【0078】
【表15】

【0079】
【表16】

【0080】
【表17】

【0081】
【表18】

【0082】
なお、評価及びその基準を以下に示す。
(1)親水性接触角A:試料を240時間水道流水に浸漬した後、水滴の接触角を測定した。
○;20°未満の接触角。
×;20°を超える接触角。
(2)親水性接触角B:試料を240時間蒸留水中に浸漬した後、水滴の接触角を測定した。
○;30°未満の接触角。
×;30°を超える接触角。
(3)親水性接触角C:試料を揮発性プレス油に60秒間浸漬した後、150℃で3分間処理したものの水滴の接触角を測定した。
○;30°未満の接触角。
×;30°を超える接触角。
(4)親水性接触角D:試料を水道流水に8時間浸漬した後、80℃のオーブンで16時間乾燥する工程を14回繰り返し行い、その後水滴の接触角を測定した。
○;30°未満の接触角。
×;30°を超える接触角。
【0083】
(5)塗膜の密着性:
DRY:試料表面を面圧5kg/mで擦った時の試料表面の塗膜の剥がれ状態を肉眼観察した。
WET:試料表面を水で濡らした後、面圧5kg/mで擦った時の試料表面の塗膜の剥がれ状態を肉眼観察した。
○;剥離全く無し。
△;一部剥離あり。
×:全面的に剥離した。
(6)潤滑性:
試料表面に揮発性プレス油を塗布し、バウデンーボーデン式摩擦試験機で表面の動摩擦係数を測定した。
○;動摩擦係数0.1未満
×;動摩擦係数0.1以上
【0084】
(7)耐汚染性A:
15リットル容のガラス容器の底に4種類(フタル酸ジオクチル、ステアリン酸、パルミチン酸、ステアリルアルコール)の汚染物質を各3gづつシャーレに入れて置き、ガラス容器に試料を吊してラップで密封した。ガラス容器ごと100℃に24時間加熱し、試料が汚染物質の蒸気に晒されて汚染された後、水滴の接触角を測定した。
○;20°未満の接触角。
×;20°を超える接触角。
(8)耐汚染性B:
市販の煙草(MILDSEVEN ONE 1 MENTHOL〔日本たばこ産業(株)製〕)の吸殻の葉100gとイオン交換水500gをビーカーに入れ、24時間攪拌し濾過して得た煙草の葉の抽出液に、30分間浸漬した汚染試料を80℃で5分間乾燥した後、水滴の接触角を測定した。
○;20°未満の接触角。
×;20°を超える接触角。
(9)プレス加工性:
成型品の良・不良具合と金型への焼付けを観察した。
○;製品不良率10%以下であり、金型への焼付け無し。
△;製品不良率10%を超え、20%未満であり、金型への焼付け無し。
×;製品不良率20%以上、又は金型への焼付けが発生したもの。
(10)耐アルカリ性:
ショーワ株式会社製のアルミフィンクリーナーを水でpH10に希釈した液に、試料を2分間浸漬し、塗膜の剥離状態を肉眼観察した。
○:剥離全く無し。
△:剥離一部有り。
×:殆ど剥離。
【0085】
以上から明らかのように、各実施例のものは、優れた親水性、塗膜の密着性、耐汚染性、プレス加工性、耐アルカリ性を示し、また、熱交換器を稼動させた場合にも、汚染性物質の付着による親水性の低下が認められなかった。これに対し各比較例のものは、上述の特性のうち、少なくとも1つの特性が不良であり、フィンへの塗装には適さないものであった。
さらに、各実施例で得られた塗料組成物は、経時的に粘度低下せず、取扱いに問題がなかった。一方、増粘多糖類を使用していない比較例1〜4の塗料組成物は、経時的に粘度低下が認められた。
【0086】
このように本発明の塗料組成物は親水性(水濡れ性)に富み、したがって水滴が付着しても、水滴は拡がり、塗膜としたときに通風抵抗を高めることはない。
また、塗膜の密着性が良いので耐久性に富み、よって、親水性の耐久性や、耐蝕性も優れる。さらに汚染物質の付着による熱交換器の熱交換効率の低下がない。
また、本発明のフィンの製造方法によれば、フィン製造時にアルミニウム系材料表面の塗膜が潤滑性に優れているから、予め塗膜を形成しておいた材料をプレス加工しても金型が損傷し難い。したがって、金型は耐久性に富み、フィンの製造コストは低廉となる。そして、潤滑性に優れていることはプレス加工に際しての潤滑剤の使用量を少なくし、潤滑剤の使用量を少なくした場合には後工程での潤滑剤の除去が簡単となるという利点もある。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊化澱粉(a1)と増粘多糖類(a2)とからなる主鎖に、ヒドロキシ基を有する単量体(a3)と、カルボキシル基を有する単量体(a4)と、スルホン酸基を有する単量体(a5)とがグラフト重合し、さらに酸基が部分中和された親水性グラフト共重合体(A)と、
下記式(1)で表される1,3−ジオキサン環を有するカルボン酸(b)から誘導される1,3−ジオキサン環を2個以上有する複素環系有機化合物(B)と、
下記式(2)で表される化合物、下記式(3)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性増強剤(C)と、
下記式(4)で表される化合物、下記式(5)で表される化合物、下記式(6)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性潤滑付与剤(D)とを含有することを特徴とする塗料組成物。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【請求項2】
前記糊化澱粉(a1)がイモ類澱粉(a11)の糊化物であり、
前記増粘多糖類(a2)がキサンタンガムおよび/またはアルギン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記糊化澱粉(a1)と前記増粘多糖類(a2)との質量比は、95/5〜99.5/0.5((a1)+(a2)=100)であり、
前記糊化澱粉(a1)と前記増粘多糖類(a2)との合計100質量部に対して、前記単量体(a3)が5〜20質量部、前記単量体(a4)が40〜80質量部、前記単量体(a5)が5〜35質量部であり、かつ、
前記親水性グラフト共重合体(A)の数平均分子量は、3000〜500000であることを特徴とする請求項1または2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記複素環系有機化合物(B)は、分子量400〜2000のジまたはトリオールと、α−[5−(1,3−ジオキサニル)]プロピオン酸とからなるジまたはトリエステルであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項5】
固形分換算で、前記親水性グラフト共重合体(A)100質量部に対して、前記複素環系有機化合物(B)が30〜160質量部で、前記親水性増強剤(C)が25〜300質量部で、前記親水性潤滑付与剤(D)が15〜80質量部であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の塗料組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の塗料組成物から形成された塗膜が表面に形成されたことを特徴とするフィン。
【請求項7】
アルミニウムまたはアルミニウム合金の表面に、請求項1ないし5のいずれかに記載の塗料組成物を塗布し、焼付けした後、該アルミニウムまたはアルミニウム合金をフィンに加工することを特徴とするフィンの製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載のフィンを備えていることを特徴とする熱交換器。


【公開番号】特開2007−84693(P2007−84693A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275472(P2005−275472)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】