説明

塗膜の剥離方法

【課題】 電着塗膜の剥離を容易に、かつ、効果的に行うことができる塗膜剥離方法を実現する。
【解決手段】 電着塗装治具16は、コンベア15により搬送され、浸漬剥離槽11aの剥離液20に浸漬される。ここで、ほとんどの塗膜は剥離、除去されるが、剥離液20に浮遊する剥離した塗膜が電着塗装治具16の表面に再付着した状態で浸漬剥離槽11aから引き上げられる。続いて、電着塗装治具16は、噴射工程の噴射部12内に搬送される。噴射部12では、電着塗装治具16が噴射室12を通過する間に、浸漬工程で用いる剥離液20を10%の濃度に希釈した噴射用剥離液21が隈無く噴射される。このとき、噴射用剥離液の化学的な剥離力と、噴射による物理的な剥離力との相乗効果により、電着塗装治具16の表面に再付着した塗膜を完全に除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物の塗膜を剥離する塗膜剥離方法に関し、樹脂塗料、特に、カチオン型電着塗料が電着塗装された治具から塗膜を剥離する剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車ボディなどの被塗物に対する塗装方法として、耐食性や装飾性の向上のために、被塗物を塗料層内に陰極、または、陽極として浸漬し、他方の電極との間に電流を流すことによって、塗料の電気泳動により被塗物に塗料の被膜を形成する電着塗装が行われている。
図8は、従来の電着塗装装置及び電着塗装方法の一例を示す説明図である。電着塗装装置31は、電着液32を貯留する舟形の電着槽33と、被塗物Pを電着液32へ浸漬させ、矢印の方向に搬送するための図示しないコンベアと、コンベアに併設された電力供給ライン34と、被塗物Pを吊り下げた状態で保持し、電力供給ライン34より供給される電流を流すための導電性を有する電着塗装治具35と、被塗物Pを電着塗装するための電極36と、直流電圧を印加する電源37とを備えている。
洗浄・脱脂工程、化成処理工程などの前処理が行われた被塗物Pは、図の左方より電着槽33の電着液32に浸漬され、右方に向かって、搬送される。被塗物Pが電着槽33の電着液32中を搬送される間に、被塗物Pと電極36との間に電源37により電力供給ライン34から電着塗装治具35を介して所定の電圧が印加される。このとき、イオン化した塗料が電気泳動により被塗物Pの表面に移動し、表面にて不溶化、析出することにより被塗物Pの塗装が行われる。被塗物Pを電着槽33から取り出した後、約200℃で加熱して硬化させることにより電着塗膜が形成される。
【0003】
電着塗装では、被塗物Pを保持する電着塗装治具35を通じて、被塗物Pに電流が流されるため、電着塗装治具35の塗料に浸漬された部分にも塗装が行われてしまう。その結果、塗装された部分が絶縁されるので、次に塗装する場合に被塗物に電流が流すことができなくなってしまう。
そこで、水酸化ナトリウムなどの強アルカリ性の剥離剤に電着塗装治具35を浸漬し、表面の塗膜を除去することが行われている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開平5−185024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、自動車ボディなどの塗装ラインにおいては、アミノ基を導入したエポキシ樹脂などのカチオン型樹脂塗料を用い、被塗物を陰極として電着を行うカチオン電着塗装が数多く採用されている。
ところが、カチオン電着塗装による電着塗膜は、密着力が大きく、電着塗装治具に強固に密着するため、従来の剥離液に浸漬するだけでは、短時間で完全に除去することは困難であった。
そのため、電着塗装治具を剥離液に浸漬した後に、ブラッシングや高速高圧で噴射された粉体または水によって塗膜に衝撃を加え、塗膜を剥離させるブラスト法を行うことがある。しかし、この方法を採用すると、塗膜の剥離工程が増えて効率が悪くなる上に、電着塗装治具の変形や損傷が生じることがあった。
更に、剥離槽内で剥離して浮遊している塗膜が、電着塗装治具に再付着してしまうことがあった。
【0006】
そこで、本発明は、電着塗膜の剥離を容易に、かつ、効果的に行うことができる塗膜剥離方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、塗膜剥離方法において、被塗物を第1の剥離液に浸漬し、被塗物の塗膜を剥離する浸漬工程と、この浸漬工程の後に、第2の剥離液を前記被塗物に残った塗膜に噴射して、前記残った塗膜を剥離する噴射工程とを有する、という技術的手段を採用する。
【0008】
請求項2に記載の発明では、塗膜剥離方法において、被塗物を第1の剥離液に浸漬し、被塗物の塗膜を剥離する浸漬工程と、この浸漬工程の後に、被塗物を第3の剥離液に浸漬し、前記第3の剥離液を撹拌することにより被塗物に残った塗膜を剥離する撹拌浸漬工程とを有する、という技術的手段を採用する。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の塗膜剥離方法において、前記塗膜が、カチオン電着塗膜を含む塗膜である、という技術的手段を採用する。
【0010】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の塗膜剥離方法において、前記第1の剥離液は、強アルカリ水溶液と高沸点溶剤とを主成分とする、という技術的手段を採用する。
【0011】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の塗膜剥離方法において、前記第1の剥離液は、前記高沸点溶剤を40重量%以上60重量%以下含有している、という技術的手段を採用する。
【0012】
請求項6に記載の発明では、請求項4または請求項5に記載の塗膜剥離方法において、前記強アルカリ水溶液は、水酸化カリウム水溶液である、という技術的手段を採用する。
【0013】
請求項7に記載の発明では、請求項1または請求項3ないし請求項6のいずれか1つに記載の塗膜剥離方法において、前記第2の剥離液は、10重量%以上の濃度の前記第1の剥離液である、という技術的手段を採用する。
【0014】
請求項8に記載の発明では、請求項2ないし請求項6のいずれか1つに記載の塗膜剥離方法において、前記第3の剥離液は、15重量%以上の濃度の前記第1の剥離液である、という技術的手段を採用する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、塗膜剥離方法において、被塗物を第1の剥離液に浸漬し、被塗物の塗膜を剥離する浸漬工程と、この浸漬工程の後に、第2の剥離液を被塗物に残った塗膜に噴射して、残った塗膜を剥離する噴射工程とを有するため、浸漬工程において大部分の塗膜を剥離させた後、噴射工程において、塗膜の再付着などにより残った塗膜を、剥離液の化学的作用と、噴射の物理的作用との相乗効果により剥離させて完全に除去できるので、塗膜の剥離を容易に、かつ、効果的に行うことができる塗膜剥離方法を実現することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、塗膜剥離方法において、被塗物を第1の剥離液に浸漬し、被塗物の塗膜を剥離する浸漬工程と、この浸漬工程の後に、被塗物を第3の剥離液に浸漬し、第3の剥離液を撹拌することにより被塗物に残った塗膜を剥離する撹拌浸漬工程とを有するため、浸漬工程において大部分の塗膜を剥離させた後、撹拌工程において、塗膜の再付着などにより残った塗膜を、剥離液の化学的作用と、撹拌の物理的作用との相乗効果により剥離させて完全に除去できるので、塗膜の剥離を容易に、かつ、効果的に行うことができる塗膜剥離方法を実現することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明のように、塗膜が、接着力が強固なカチオン電着塗膜を含む塗膜である場合でも、効果的に剥離することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明のように、強アルカリ水溶液と高沸点溶剤とを主成分とする第1の剥離液を用いると、高沸点溶剤により強アルカリ水溶液が塗膜に浸透しやすくなり、塗膜が膨潤することにより、強アルカリ水溶液による塗膜の剥離力が増大するので、特に有効である。
【0019】
更に、請求項5に記載の発明のように、第1の剥離液が前記高沸点溶剤を40重量%以上60重量%以下含有している場合に、最も効率的に剥離することができる。
【0020】
特に、請求項6に記載の発明のように、第1の剥離液の強アルカリ水溶液として水酸化カリウム水溶液を用いる場合に、効率的に剥離することができる。
【0021】
特に、請求項7に記載の発明のように、第2の剥離液は、10重量%以上の濃度の第1の剥離液である場合に、最も効率的に剥離することができる。
【0022】
特に、請求項8に記載の発明のように、第3の剥離液は、15重量%以上の濃度の第1の剥離液である場合に、最も効率的に剥離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
〈第1実施形態〉
次に、この発明の第1実施形態について図を参照して説明する。
まず、第1実施形態に係る塗膜剥離方法を実施する際に用いる剥離装置の主要構成について図1及び図2を参照して説明する。図1は、第1実施形態に係る剥離方法を実施する際に用いる剥離装置の縦断面透視説明図であり、図2は、噴射部を電着塗装治具の搬送方向(図1の左側)から見た説明図である。
【0024】
(剥離装置による塗膜の剥離方法)
第1実施形態の剥離方法を行うための剥離装置について、図1を参照して説明する。
剥離装置1は、自動車のボディなどの被塗物を吊り下げた状態で保持する電着塗装治具16を剥離液20へ浸漬する浸漬工程を行う浸漬部11と、噴射用剥離液21をシャワー状に噴射する噴射工程を行う噴射部12と、塗膜剥離後の電着塗装治具16を洗浄する洗浄工程を行う洗浄部13と、洗浄後の電着塗装治具16を乾燥させる乾燥工程を行う乾燥部14と、電着塗装治具16を装着し、搬送するコンベア15を備えている。
【0025】
浸漬部11には、後述する組成からなる剥離液20を貯留する舟形の浸漬剥離槽11aが設けられている。また、浸漬剥離槽11aには、剥離液20の液温を制御するための温度調節装置11bが設けられており、剥離液20は95℃になるように制御されている。
【0026】
剥離液20は、ペイントールMG−720(ミリオン化学(株)製)とペイントールMG−710A(ミリオン化学(株)製)とを7:3の割合で混合したものである。後述する剥離試験条件を示す図3に記載のように、剥離液20は、高沸点溶剤と強アルカリである水酸化カリウムとを主成分とし、高沸点溶剤60重量%と、水酸化カリウム13重量%と、その他の成分としてアミン類及び界面活性剤とからなる。ここで、高沸点溶剤としては、フェニルカルビノール及びグリコールエーテル類が用いられている。また、高沸点溶剤により強アルカリ水溶液が塗膜に浸透しやすくなり、塗膜が膨潤することにより、水酸化カリウムのケン化作用による塗膜の剥離力を増大させることができる。
【0027】
電着塗装治具16は、ステンレス鋼(SUS304)製のハンガー状の治具であり、被塗物を吊り下げて保持するとともに電力を供給するための電極として作用する。電着塗装治具16は、電着塗装後の被塗物が所定の場所で下された後に、コンベア15により浸漬剥離槽11aに向かって搬送される。その後、電着塗装治具16は、浸漬剥離槽11aの剥離液20に浸漬され、浸漬剥離槽11aを浸漬時間5分で通過する。このとき、ほとんどの塗膜は剥離、除去されるが、剥離液20に浮遊する剥離した塗膜が、電着塗装治具16の表面に再付着する。つまり、電着塗装治具16は、表面に剥離した塗膜が再付着した状態で浸漬剥離槽11aから引き上げられる。
【0028】
続いて、電着塗装治具16は、噴射工程の噴射部12内に搬送される。図2に示すように、噴射部12には、複数の噴射口が配列され、噴射用剥離液21を噴射するノズル12aが電着塗装治具16の搬送方向の両脇に縦方向に配置されている。また、ノズル12aは、図1に示すように電着塗装治具16の搬送方向の両脇に3列ずつ配置されており、電着塗装治具16が噴射部12を通過する間に、噴射用剥離液21が毎分200Lで隈無く噴射される。
噴射用剥離液21は、浸漬工程で用いる剥離液20を10重量%の濃度となるように希釈したものであり、タンク12bより供給されて使用される。噴射用剥離液21の濃度は、10重量%以上に維持する必要があるが、電着塗装治具16の表面に残存している剥離液20により逐次濃い剥離液20が補充されるため、特に管理しなくても10重量%以上の濃度を維持することができる。
【0029】
電着塗装治具16は噴射部12を30秒で通過する。このとき、噴射用剥離液の化学的な剥離力と、噴射による物理的な剥離力との相乗効果により、電着塗装治具16の表面に再付着した塗膜を完全に除去することができる。
【0030】
その後、洗浄部13に搬送された電着塗装治具16には、毎分1000Lの水が噴射され、残存している剥離剤が洗浄除去される。
続いて乾燥部14において熱風乾燥され、コンベア15から取り外され次の使用に備えて所定の位置に保管される。
【0031】
(剥離条件の検討)
本願発明者らは、カチオン型電着塗料により電着塗装された電着塗装治具を用いて、剥離液の組成及び浸漬条件を変えた場合の剥離効果を確認する実験を行い、浸漬工程及び噴射工程における剥離条件を検討した。塗膜の剥離効果は、実験後の電着塗装治具の表面を目視にて観察し、塗膜が剥離した部分の面積率により評価した。
【0032】
(実験方法)
実機に用いる電着塗装治具16にカチオン型電着塗料による電着塗装を施したものを用いて、比較例との比較を行った。
洗浄・脱脂工程、化成処理工程などの前処理が行われた電着塗装治具16の表面に、エポキシ樹脂ベースのカチオン型電着塗料「サクセード#80(デュポン神東・オートモティブ・システムズ株式会社製)」を用いて電着塗装を行った。電着塗料の液温は28℃とし、100Vにて2分間の通電処理後、水洗、予備乾燥を経て、160℃で19分間の加熱硬化を行い、厚さ15μmの塗膜を形成した。
【0033】
図3に、剥離試験条件を示す。比較例として用いる剥離液は、ペイントールMG−720(ミリオン化学(株)製)である。この剥離液は、高沸点溶剤(フェニルカルビノール及びグリコールエーテル類)、水酸化カリウム及びアミン類を主成分としている。高沸点溶剤の量は30重量%であり、本願実施形態に係る剥離液の半分である。
浸漬工程では、浸漬時間は5,10分の2水準とした。また、実際の工程において一旦剥離した塗膜が再付着する現象を模擬するために、剥離液中にはカチオン型電着塗料を添加した。塗料の添加量は1リットル当たり0(添加なし)、50,100gの3水準について試験を実施した。剥離液の温度は95℃になるように制御した。
噴射工程において、比較例では水洗のみを行い、第1実施形態では10重量%の噴射剥離液の噴射を室温にて30秒間行った。
【0034】
(剥離効果の比較)
剥離試験結果について、図4を参照して説明する。
図表中の%は剥離した部分を目視により評価した剥離面積率を示す。剥離面積率の前の記号は剥離効果を示しており、◎を最良とし、以下、○、△、×の順で剥離効果が高いことを示す。
比較例では、剥離液に塗料の添加がない場合(0g/L)には、剥離時間5分では剥離面積率が40〜50%の△評価、剥離時間10分では剥離面積率が70〜80%の○評価であった。塗料添加量が50g/Lの場合には、剥離時間5分では剥離面積率が20〜30%の×評価、剥離時間10分では剥離面積率が50〜60%の△評価であった。塗料添加量が100g/Lの場合には、剥離時間5分では剥離面積率が0〜10%の×評価、剥離時間10分では剥離面積率が20〜30%の×評価であった。剥離液に塗料の添加がなく(0g/L)、かつ、剥離時間が10分の場合を除いて、剥離面積率は60%以下であり、相当量の塗膜が残存し、十分な剥離効果が得られなかった。また、塗料の添加量が多い場合には、塗料の付着による剥離効果の低下が顕著に認められた。
一方、第1実施形態では各条件ともに完全に塗膜を剥離することができた(◎100%)。
【0035】
(高沸点溶剤の濃度の影響)
高沸点溶剤の量は、多いほど剥離効果が向上することが期待できるが、廃液処理の容易さ、水酸化カリウムの溶解度の関係から上限は60重量%であるため、濃度は40〜60重量%が好ましい。
【0036】
(浸漬時間の影響)
浸漬時間を長くするためには、搬送ラインの速度を遅くする、もしくは、浸漬剥離槽を長くする必要がある。前者では工程の効率が低下し、後者では設備が大きくなることによりコストが増大する。したがって、塗膜を十分に剥離させることができる時間で、かつ、できるだけ短くすることが好ましい。本実施形態では、5分で十分な剥離効果が得られているため、5〜10分程度の浸漬時間を確保することが望ましい。
【0037】
(処理温度の影響)
剥離効果を向上させるためには、剥離液の温度を上昇させて、剥離液の化学活性を高めることが効果的であるが、浸漬槽は巨大であるため、むやみに温度を上げないことがエネルギー効率の点からも有利である。そこで、剥離液の温度は十分な剥離効果が得られる80〜120℃が十分な剥離効果と省エネルギーとを両立させるため、好ましい。
【0038】
(噴射工程における剥離液の濃度の影響)
噴射工程では、浸漬工程で用いた剥離液20を希釈した噴射用剥離液21を用いる。剥離効果は噴射用剥離液21の濃度が高い方が大きいため、剥離液20を希釈せずに用いてもよいが、安全性や廃液処理の観点からは、できるだけ薄い方が好ましい。
図5は、噴射用剥離液21の濃度の剥離効果に対する影響を示す図表である。浸漬工程における条件は、塗料の添加量は100g/L、浸漬時間は5分である。噴射用剥離液21の濃度が5%の場合、再付着した塗膜を除去しきれず全体の40〜50%しか剥離できず、剥離効果は大きく低下した。一方、濃度が10%の場合には十分な剥離効果が得られた。したがって、噴射工程における噴射用剥離液21の濃度は、浸漬工程における剥離液20の濃度の10%以上が好ましい。
【0039】
[第1実施形態による効果]
(1)以上のように、上記第1実施形態の塗膜剥離方法を使用すれば、浸漬部11における浸漬工程で大部分の塗膜を剥離させた後、塗膜の再付着などにより残った塗膜を、噴射部12における噴射工程で噴射用剥離液21の化学的作用と、噴射の物理的作用との相乗効果により剥離させて完全に除去できるので、塗膜の剥離を容易に、かつ、効果的に行うことができる塗膜剥離方法を実現することができる。
特に、塗膜が、接着力が強固なカチオン電着塗膜である場合でも、効果的に剥離することができる。
【0040】
(2)剥離液は、強アルカリ水溶液と高沸点溶剤とを主成分とすると、高沸点溶剤により強アルカリ水溶液が塗膜に浸透しやすくなり、塗膜が膨潤することにより、強アルカリ水溶液による塗膜の剥離力が増大するので、特に有効である。
その中でも、高沸点溶剤を40重量%以上60重量%以下含有している場合に、最も効率的に剥離することができる。
【0041】
(3)特に、剥離液は、水酸化カリウム水溶液を含有する場合に、高沸点溶剤との相互作用により、塗膜を効率的に剥離することができる。
【0042】
(4)噴射工程で使用する剥離液は、10重量%以上の濃度の剥離液である場合に、最も効率的に剥離することができる。また、剥離液を希釈して用いることができるので、排水処理が容易である。
【0043】
〈第2実施形態〉
次に、この発明の第2実施形態について図を参照して説明する。なお、前述の第1実施形態と同じ構成については、同じ記号を使用するとともに、説明を省略する。
【0044】
(剥離装置による塗膜の剥離方法)
第2実施形態の剥離方法を行うための剥離装置について、図6を参照して説明する。
剥離装置2は、浸漬部11と、撹拌浸漬用剥離液50を撹拌しながら電着塗装治具16を浸漬する撹拌浸漬工程を行う撹拌浸漬部41と、洗浄部13と、乾燥部14と、電着塗装治具16を装着し、搬送するコンベア15を備えている。
【0045】
撹拌浸漬部41には、撹拌浸漬用剥離液50を貯留する舟形の撹拌浸漬剥離槽41aが設けられている。撹拌浸漬剥離槽41aには、撹拌浸漬用剥離液50を撹拌するための撹拌装置41bが設けられており、撹拌浸漬用剥離液50は電着塗装治具16の浸漬中に撹拌されている。ここで、撹拌浸漬用剥離液50は、浸漬工程で用いる剥離液20を15重量%の濃度となるように希釈したものを使用した。
【0046】
電着塗装治具16は、剥離工程でほとんどの塗膜を剥離、除去した後に、表面に剥離した塗膜が再付着した状態で、コンベア15により撹拌浸漬剥離槽41aに向かって搬送される。電着塗装治具16は、撹拌浸漬剥離槽41a内で撹拌されている撹拌浸漬用剥離液50に浸漬され、撹拌浸漬剥離槽41aを浸漬時間30秒で通過する。このとき、撹拌浸漬用剥離液50の化学的な剥離力と、撹拌による物理的な剥離力との相乗効果により、電着塗装治具16の表面に再付着した塗膜を完全に除去することができる。
【0047】
(撹拌浸漬用剥離液50の濃度の影響)
本願発明者らは、カチオン型電着塗料により電着塗装された電着塗装治具を用いて、撹拌浸漬工程における剥離液の濃度の剥離効果に対する影響を検討した。塗膜の剥離効果は、実験後の電着塗装治具の表面を目視にて観察し、塗膜が剥離した部分の面積率により評価した。
図7は、撹拌浸漬用剥離液50の濃度の剥離効果に対する影響を示す図表である。浸漬工程における条件は、第1実施形態と同様に、塗料の添加量は100g/L、浸漬時間は5分である。撹拌浸漬用剥離液50の濃度が5%、10%の場合、再付着した塗膜を除去しきれず、前者では全体の10〜20%、後者では全体の40〜50%しか剥離できなかった。
一方、濃度が15%の場合では、再付着した塗膜完全に剥離することができ、十分な剥離効果が得られた。したがって、噴射工程における撹拌浸漬用剥離液50の濃度は、浸漬工程における剥離液20の濃度の15%以上が好ましい。
【0048】
[第2実施形態による効果]
(1)以上のように、上記第2実施形態の塗膜剥離方法を使用すれば、浸漬部11における浸漬工程で大部分の塗膜を剥離させた後、塗膜の再付着などにより残った塗膜を、撹拌浸漬部41における噴射工程で撹拌浸漬用剥離液50の化学的作用と、撹拌の物理的作用との相乗効果により剥離させて完全に除去できるので、塗膜の剥離を容易に、かつ、効果的に行うことができる塗膜剥離方法を実現することができる。
【0049】
(2)撹拌浸漬工程で使用する剥離液は、15重量%以上の濃度の剥離液である場合に、最も効率的に剥離することができる。また、剥離液を希釈して用いることができるので、排水処理が容易である。
【0050】
[他の実施形態]
(1)最良の形態の剥離方法は、最良の形態に記載した電着塗膜以外にも適用可能である。例えば、粉体塗装膜、アクリル−ウレタン塗膜、アニオン型電着塗料などを用いた場合に適用してもよい。この方法を使用した場合でも、前述した第1実施形態及び第2実施形態の形態の効果を奏することができる。
【0051】
(2)噴射工程で用いる剥離液は、60℃以下に加温してもよい。この方法を使用した場合、剥離液の化学活性が高くなるため、剥離効果を向上させることができる。また、この方法を使用した場合でも、前述した第1実施形態最良の形態の効果を奏することができる。
【0052】
(3)強アルカリ水溶液は、水酸化カリウム水溶液以外にも水酸化ナトリウム水溶液など剥離効果が高い水溶液を使用することができる。この方法を使用した場合でも、前述した第1実施形態の(1)、(2)及び(4)の効果及び第2実施形態の効果を奏することができる。
【0053】
(4)高沸点溶剤は、フェニルカルビノール及びグリコールエーテル類以外にも、強アルカリ水溶液が塗膜に浸透しやすくし、塗膜を膨潤させる溶剤を使用することができる。この方法を使用した場合でも、前述した第1実施形態及び第2実施形態の形態の効果を奏することができる。
【0054】
[各請求項と実施形態との対応関係]
剥離液20が、請求項1に記載の第1の剥離液に、噴射用剥離液21が第2の剥離液にそれぞれ対応する。また、撹拌浸漬用剥離液50が、請求項2に記載の第3の剥離液に対応する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1実施形態の剥離方法を実施する際に用いる剥離装置の縦断面透視説明図である。
【図2】噴射部を電着塗装治具の搬送方向から見た説明図である。
【図3】剥離試験条件を示す図表である。
【図4】剥離試験結果を示す図表である。
【図5】噴射用剥離液21の濃度の剥離効果に対する影響を示す図表である。
【図6】第2実施形態の剥離方法を実施する際に用いる剥離装置の縦断面透視説明図である。
【図7】撹拌浸漬用剥離液50の濃度の剥離効果に対する影響を示す図表である。
【図8】従来の電着塗装装置及び電着塗装方法の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1、2 剥離装置
11 剥離部
12 噴射部
20 剥離液(第1の剥離液)
21 噴射用剥離液(第2の剥離液)
41 撹拌浸漬部
50 撹拌浸漬用剥離液(第3の剥離液)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物を第1の剥離液に浸漬し、被塗物の塗膜を剥離する浸漬工程と、
この浸漬工程の後に、第2の剥離液を前記被塗物に残った塗膜に噴射して、前記残った塗膜を剥離する噴射工程とを有することを特徴とする塗膜剥離方法。
【請求項2】
被塗物を第1の剥離液に浸漬し、被塗物の塗膜を剥離する浸漬工程と、
この浸漬工程の後に、被塗物を第3の剥離液に浸漬し、前記第3の剥離液を撹拌することにより被塗物に残った塗膜を剥離する撹拌浸漬工程とを有することを特徴とする塗膜剥離方法。
【請求項3】
前記塗膜が、カチオン電着塗膜を含む塗膜であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗膜剥離方法。
【請求項4】
前記第1の剥離液は、強アルカリ水溶液と高沸点溶剤とを主成分とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の塗膜剥離方法。
【請求項5】
前記第1の剥離液は、前記高沸点溶剤を40重量%以上60重量%以下含有していることを特徴とする請求項4に記載の塗膜剥離方法。
【請求項6】
前記強アルカリ水溶液は、水酸化カリウム水溶液であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の塗膜剥離方法。
【請求項7】
前記第2の剥離液は、10重量%以上の濃度の前記第1の剥離液であることを特徴とする請求項1または請求項3ないし請求項6のいずれか1つに記載の塗膜剥離方法。
【請求項8】
前記第3の剥離液は、15重量%以上の濃度の前記第1の剥離液であることを特徴とする請求項2ないし請求項6のいずれか1つに記載の塗膜剥離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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