説明

塗膜の補修方法及び補修塗膜

【課題】−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する塗膜の補修に際しても、補修部位の傷を目立たなくする塗膜の補修方法及びこれにより得られる補修塗膜を提供すること。
【解決手段】−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する塗膜における耐傷付き塗膜層の補修部位を補修する塗膜の補修方法であって、(1)補修部位に、−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料を塗装して、第1補修塗膜部を形成する工程、(2)工程(1)の後に実施され、第1補修塗膜部の表面側部分を除去する工程、及び(3)工程(2)の後に実施され、表面側部分を除去した第1補修塗膜部の表面側の補修部位に、−20℃における伸び率が5%以上である補修塗膜部を形成する第2塗料を塗装して、第2補修塗膜部を形成する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜の補修方法及び補修塗膜に係り、更に詳細には、−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する塗膜の補修方法、及び補修塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、上塗り塗装された被塗装物の塗膜に、いわゆるブツによる塗装不具合が生じていた場合、その部位に補修が施される。
上塗り塗装の補修方法には、塗装不具合が生じている部位を研磨し、次いで、上塗り塗装に用いた塗料と同一種類の上塗り塗料を塗装し、しかる後、研磨する方法がある。
しかし、耐傷付き性に優れる塗膜の場合、この方法では塗装不具合が生じていた部位がきれいに研磨できないため、その部位に傷が残るという問題があった。
そこで、耐傷付き性を有する軟質塗膜の補修方法として、軟質塗膜に冷風を吹き付けて、塗膜硬度を変動させた後、研磨作業を行う方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−282778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の補修方法であっても、−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する塗膜については、十分な研磨作業を行うことができないため、依然として補修部位に傷が残るという問題があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する塗膜の補修に際しても、補修部位の傷を目立たなくする塗膜の補修方法を提供することにある。
また、このような塗膜の補修方法により得られる補修塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、次の[1]〜[3]の要件を満足する塗膜の補修方法とすることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する塗膜における耐傷付き塗膜層の補修部位に、−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料を塗装して、第1補修塗膜部を形成する工程(1)を含む。
[2]工程(1)の後に実施され、第1補修塗膜部の表面側部分を除去する工程(2)を含む。
[3]工程(2)の後に実施され、表面側部分を除去した第1補修塗膜部の表面側の補修部位に、−20℃における伸び率が5%以上である補修塗膜部を形成する第2塗料を塗装して、第2補修塗膜部を形成する工程(3)を含む。
【0006】
即ち、本発明の塗膜の補修方法は、−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する塗膜における耐傷付き塗膜層の補修部位を補修する塗膜の補修方法であって、以下の工程(1)〜(3)を含む。
(1)補修部位に、−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料を塗装して、第1補修塗膜部を形成する工程
(2)工程(1)の後に実施され、第1補修塗膜部の表面側部分を除去する工程
(3)工程(2)の後に実施され、表面側部分を除去した第1補修塗膜部の表面側の補修部位に、−20℃における伸び率が5%以上である補修塗膜部を形成する第2塗料を塗装して、第2補修塗膜部を形成する工程
【0007】
また、本発明の補修塗膜は、−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する補修塗膜である。
そして、本発明においては、耐傷付き塗膜層は、その一部に、−20℃における伸び率が5%未満である第1補修塗膜部と−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部とをこの順に積層した補修塗膜構造を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上述の[1]〜[3]の要件を満足する塗膜の補修方法とすることなどとしたため、−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する塗膜の補修に際しても、補修部位の傷を目立たなくする塗膜の補修方法を提供することできる。
また、このような塗膜の補修方法により得られる補修塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の塗膜の補修方法及び補修塗膜の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の塗膜の補修方法の第1の実施形態であって、積層塗膜の補修方法の一例における積層塗膜の概略的な断面状態を示す説明図である。
同図(A)に示すように、この積層塗膜は、下塗り塗膜層10、中塗り塗膜層20、上塗り塗膜層30を有し、かかる上塗り塗膜層30は、ベースコート塗膜層32とクリヤー塗膜層34から構成されている。
本例においては、耐傷付き塗膜層はクリヤー塗膜層34から構成されており、クリヤー塗膜層34の−20℃における伸び率は5%以上である。
また、クリヤー塗膜層34には異物(いわゆるブツ)が付着して形成される異常部40がある。
【0011】
ここで、上記−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜としては、例えば塗膜中にポリロタキサンを含有したものを挙げることができるが、これに限定されるものではない。即ち、例えば日本ペイント株式会社製ポリウレエクセル0−1200とポリウレエクセルH1200硬化剤クリヤーを適用することもできる。
そして、上述のポリロタキサンを含有する塗膜の伸び率は、例えば塗膜中におけるポリロタキサンの含有量、ポリロタキサンにおける環状分子の包接度や修飾度などを調整することにより、5〜20%の範囲内で調整することができる。
具体的には、塗膜中のポリロタキサン含有量を1〜90質量%、環状分子の包接度を0.06〜0.61、修飾度を2%以上とすればよい。
なお、環状分子の包接度とは、直鎖状分子に包接される環状分子の最大包接量(個数)に対する実際の直鎖状分子の包接量(個数)の比をいう。
また、環状分子の修飾度とは、環状分子の水酸基が修飾され得る最大の水酸基数に対する環状分子の修飾された水酸基数の比をいう。
【0012】
なお、同図(A)中に、本例における補修部位34’を二点鎖線で囲むことにより示す。補修部位34’は、少なくとも異常部40を包含する範囲に設定すればよく、詳しくは後述するが、その大きさは適宜選択することができる。
【0013】
補修に当たっては、まず、同図(B)に示すように、補修部位34’を研ぎ、異常部40を少なくとも除去する。
補修部位を研ぎ、異常部を除去するに際しては、例えばダイヤモンドラッピングフィルムやサンドペーパーなどの研磨材を用いて研ぎを行えばよい。また、この異常部を除去するに際して、異常部の周囲を平滑にすることが、後の塗膜形成が容易になるという観点から好ましい。この範囲が補修部位となるが、異常部の形状によっては、その周囲を平滑にする必要がない場合がある。
【0014】
次に、同図(C)に示すように、異常部40を除去した補修部位34’に、第1塗料を塗装して、−20℃における伸び率が5%未満である第1補修塗膜部34aを形成する。
第1補修塗膜部を形成するに際しては、例えば−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料を用いることを要するが、補修塗膜の外観を損ねることがなければその成分については特に限定されるものではない。
【0015】
ここで、上記−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料としては、例えばポリロタキサンを含まないBASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:フローシャイン#1000とBASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:ベルコートNo.6200を用いることができる。
通常、本例の場合のように、クリヤー塗膜層を補修する場合には、同一又はほぼ同一の外観のクリヤー塗膜層を形成するクリヤー塗料を用いることが好ましい。このようなクリヤー塗料には、例えば顔料や光輝材などが含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
また、第1塗料が、常乾型や焼付け型、紫外線硬化型、電子線硬化型などの塗料である場合には、それぞれに応じた硬化処理を行う必要がある。
具体的には、メラミン硬化型アクリル塗料やメラミン硬化型ポリエステル塗料、2液型アクリルウレタン塗料、2液型ポリエステルウレタン塗料などを挙げることができる。また、その溶剤としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤などの炭化水素系溶剤を挙げることができる。更に、シリコンなどの他の添加剤が含まれていてもよい。
【0016】
更に、同図(D)に示すように、第1補修塗膜部34aの表面側部分を除去する。
第1補修塗膜部の表面側部分を除去するに際しては、例えばダイヤモンドラッピングフィルムやサンドペーパーなどの研磨材を用いて研磨を行えばよい。また、この表面側部分を除去するに際して、第1補修塗膜部の残部である内側部分の表面を平滑にすることが、後の塗膜形成が容易になるという観点から好ましい。
ここで、第1補修塗膜部の表面側部分とは、第1補修塗膜部の残部である内側部分の表面と積層塗膜の最表面とで囲まれる補修部位34”を形成し得る範囲である。
【0017】
しかる後、同図(E)に示すように、表面側部分を除去した第1補修塗膜部34aの表面側の補修部位34”に、第2塗料を塗装して、−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部34bを形成して、所望の補修積層塗膜1が得られる。
第2補修塗膜部を形成するに際しては、例えば−20℃における伸び率が5%以上である補修塗膜部を形成する第2塗料を用いることを要するが、補修塗膜の外観を損ねることがなければその成分については特に限定されるものではない。
【0018】
ここで、上記−20℃における伸び率が5%以上である補修塗膜部を形成する第2塗料としては、例えばポリロタキサンを含有したものを用いることができるが、これに限定されるものではない。即ち、例えば日本ペイント株式会社製ポリウレエクセル0−1200とポリウレエクセルH1200硬化剤クリヤーを用いることもできる。また、第2補修塗膜部と補修部位以外の耐傷付き塗膜層の組成は同一であってもよく、異なっていてもよい。更に、これらの伸び率については同一であることが望ましい。
通常、本例の場合のように、クリヤー塗膜層を補修する場合には、同一又はほぼ同一の外観のクリヤー塗膜層を形成するクリヤー塗料を用いることが好ましい。このようなクリヤー塗料には、例えば顔料や光輝材などが含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
また、第2塗料が、常乾型や焼付け型、紫外線硬化型、電子線硬化型などの塗料である場合には、それぞれに応じた硬化処理を行う必要がある。
具体的には、メラミン硬化型アクリル塗料やメラミン硬化型ポリエステル塗料、2液型アクリルウレタン塗料、2液型ポリエステルウレタン塗料などを挙げることができる。また、その溶剤としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤などの炭化水素系溶剤を挙げることができる。
【0019】
なお、第2塗料を塗装して、−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部34bを形成した後、ダイヤモンドラッピングフィルムやサンドペーパーを用いて、第2補修塗膜部を研磨してもよい。これにより、例えば補修部位と未補修部位との境界が目視で確認できる場合には、補修部位の傷をより目立たなくすることができる。また、このとき、補修部位においては第2補修塗膜部の下側には第1補修塗膜部があるので、未補修部位よりも研磨し易い。
【0020】
このようにして得られる補修積層塗膜1は、−20℃における伸び率が5%以上であるクリヤー塗膜層34から成る耐傷付き塗膜層を有する補修塗膜である。
また、かかるクリヤー塗膜層34から成る耐傷付き塗膜層は、その一部に、−20℃における伸び率が5%未満である第1補修塗膜部34aと、−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部34bとをこの順に積層した補修塗膜構造を有している。
そして、補修部位の傷が目立たない補修塗膜となる。
【0021】
また、図示しないが、クリヤー塗膜層だけでなく、ベースコート塗膜層にまで異物(いわゆるブツ)が付着して成る異常部が達している場合であっても、本発明を適用することができる。
この場合には、例えば、まず、補修部位の異常部を少なくとも除去し、−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成するベースコート塗料を塗装し、ベースコート補修塗膜部を形成する。
次いで、必要に応じて、ベースコート補修塗膜部の表面側部分を他のベースコート塗膜層と同程度の厚みになるまで研磨して、除去する。
次いで、補修部位に−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料(クリヤー塗料)を塗装し、第1補修塗膜部を形成する。
次いで、第1補修塗膜部の表面側部分を除去する。
更に、表面側部分を除去した第1補修塗膜部の表面側の補修部位に、第2塗料(クリヤー塗料)を塗装して、−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部を形成する。
しかる後、必要に応じて、第2補修塗膜部を研磨する。これにより、所望の補修積層塗膜が得られる。
【0022】
更に、図示しないが、補修部位がハジキによる凹形状である場合であっても、本発明を適用することができる。この場合には、補修部位を研ぐ工程が必要ない場合もある。
例えば、まず、ハジキによる凹形状の補修部位に−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料(クリヤー塗料)を塗装し、第1補修塗膜部を形成する。
次いで、第1補修塗膜部の表面側部分を除去する。
更に、表面側部分を除去した第1補修塗膜部の表面側の補修部位に、第2塗料(クリヤー塗料)を塗装して、−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部を形成する。
しかる後、必要に応じて、第2補修塗膜部を研磨する。これにより、所望の補修積層塗膜が得られる。
【0023】
図2は、本発明の塗膜の補修方法の第2の実施形態であって、他の積層塗膜の補修方法の一例における積層塗膜の概略的な断面状態を示す説明図である。
同図(A)に示すように、この積層塗膜は、下塗り塗膜層10、中塗り塗膜層20、上塗り塗膜層30を有し、かかる上塗り塗膜層30は、エナメル塗膜層36から構成されている。
本例においては、耐傷付き塗膜層はエナメル塗膜層36から構成されており、エナメル塗膜層36の−20℃における伸び率は5%以上である。
また、エナメル塗膜層36には異物(いわゆるブツ)が付着して形成される異常部40がある。
【0024】
ここで、上記−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜としては、例えば塗膜中にポリロタキサンを含有したものを挙げることができるが、これに限定されるものではない。即ち、例えば日本ペイント株式会社製ポリウレエクセル0−1200とポリウレエクセルH1200硬化剤クリヤーを適用することもできる。
そして、上述のポリロタキサンを含有する塗膜の伸び率は、例えば塗膜中におけるポリロタキサンの含有量、ポリロタキサンにおける環状分子の包接度や修飾度などを調整することにより、5〜20%の範囲内で調整することができる。
具体的には、塗膜中のポリロタキサン含有量を1〜90質量%、環状分子の包接度を0.06〜0.61、修飾度を2%以上とすればよい。
【0025】
なお、同図(A)中に、本例における補修部位36’を二点鎖線で囲むことにより示す。補修部位36’は、少なくとも異常部40を包含する範囲に設定すればよく、詳しくは後述するが、その大きさは適宜選択することができる。
【0026】
補修に当たっては、まず、同図(B)に示すように、補修部位36’を研ぎ、異常部40を少なくとも除去する。
補修部位を研ぎ、異常部を除去するに際しては、例えばダイヤモンドラッピングフィルムやサンドペーパーなどの研磨材を用いて研ぎを行えばよい。また、この異常部を除去するに際して、異常部の周囲を平滑にすることが、後の塗膜形成が容易になるという観点から好ましい。この範囲が補修部位となるが、異常部の形状によっては、その周囲を平滑にする必要がない場合がある。
【0027】
次に、同図(C)に示すように、異常部40を除去した補修部位36’に、第1塗料を塗装して、−20℃における伸び率が5%未満である第1補修塗膜部36aを形成する。
第1補修塗膜部を形成するに際しては、例えば−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料を用いることを要するが、補修塗膜の外観を損ねることがなければその成分については特に限定されるものではない。
【0028】
ここで、上記−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料としては、例えばポリロタキサンを含まないBASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:フローシャイン#1000とBASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:ベルコートNo.6200を用いることができる。
通常、本例の場合のように、エナメル塗膜層を補修する場合には、同一又はほぼ同一の外観のエナメル塗膜層を形成するエナメル塗料を用いることが好ましい。このようなエナメル塗料には、例えば顔料や光輝材などが含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
また、第1塗料が、常乾型や焼付け型、紫外線硬化型、電子線硬化型などの塗料である場合には、それぞれに応じた硬化処理を行う必要がある。
具体的には、メラミン硬化型アクリル塗料やメラミン硬化型ポリエステル塗料、2液型アクリルウレタン塗料、2液型ポリエステルウレタン塗料などを挙げることができる。また、その溶剤としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤などの炭化水素系溶剤を挙げることができる。更に、シリコンなどの他の添加剤が含まれていてもよい。
【0029】
更に、同図(D)に示すように、第1補修塗膜部36aの表面側部分を除去する。
第1補修塗膜部の表面側部分を除去するに際しては、例えばダイヤモンドラッピングフィルムやサンドペーパーなどの研磨材を用いて研磨を行えばよい。また、この表面側部分を除去するに際して、第1補修塗膜部の残部である内側部分の表面を平滑にすることが、後の塗膜形成が容易になるという観点から好ましい。
ここで、第1補修塗膜部の表面側部分とは、第1補修塗膜部の残部である内側部分の表面と積層塗膜の最表面とで囲まれる補修部位36”を形成し得る範囲である。
【0030】
しかる後、同図(E)に示すように、表面側部分を除去した第1補修塗膜部36aの表面側の補修部位36”に、第2塗料を塗装して、−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部36bを形成して、所望の補修積層塗膜1が得られる。
第2補修塗膜部を形成するに際しては、例えば−20℃における伸び率が5%以上である補修塗膜部を形成する第2塗料を用いることを要するが、補修塗膜の外観を損ねることがなければその成分については特に限定されるものではない。
【0031】
ここで、上記−20℃における伸び率が5%以上である補修塗膜部を形成する第2塗料としては、例えばポリロタキサンを含有したものを用いることができるが、これに限定されるものではない。即ち、例えば日本ペイント株式会社製ポリウレエクセル0−1200とポリウレエクセルH1200硬化剤クリヤーを用いることもできる。また、第2補修塗膜部と補修部位以外の耐傷付き塗膜層の組成は同一であってもよく、異なっていてもよい。更に、これらの伸び率については同一であることが望ましい。
通常、本例の場合のように、エナメル塗膜層を補修する場合には、同一又はほぼ同一の外観のエナメル塗膜層を形成するエナメル塗料を用いることが好ましい。このようなエナメル塗料には、例えば顔料や光輝材などが含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
また、第2塗料が、常乾型や焼付け型、紫外線硬化型、電子線硬化型などの塗料である場合には、それぞれに応じた硬化処理を行う必要がある。
具体的には、メラミン硬化型アクリル塗料やメラミン硬化型ポリエステル塗料、2液型アクリルウレタン塗料、2液型ポリエステルウレタン塗料などを挙げることができる。また、その溶剤としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤などの炭化水素系溶剤を挙げることができる。更に、シリコンなどの他の添加剤が含まれていてもよい。
【0032】
なお、第2塗料を塗装して、−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部36bを形成した後、ダイヤモンドラッピングフィルムやサンドペーパーを用いて、第2補修塗膜部を研磨してもよい。これにより、例えば補修部位と未補修部位との境界が目視で確認できる場合には、補修部位の傷をより目立たなくすることができる。また、このとき、補修部位においては第2補修塗膜部の下側には第1補修塗膜部があるので、未補修部位よりも研磨し易い。
【0033】
このようにして得られる補修積層塗膜1は、−20℃における伸び率が5%以上であるエナメル塗膜層36から成る耐傷付き塗膜層を有する補修塗膜である。
また、かかるエナメル塗膜層36から成る耐傷付き塗膜層は、その一部に、−20℃における伸び率が5%未満である第1補修塗膜部36aと、−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部36bとをこの順に積層した補修塗膜構造を有している。
そして、補修部位の傷が目立たない補修塗膜となる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。具体的には、以下の各例に記載したような操作を行い、図1に示したような塗膜の補修方法を実施し、これにより得られた補修塗膜を評価した。
【0035】
<積層塗膜の準備>
各例で用いた積層塗膜は、以下のようにして作製した。
まず、リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(日本ペイント社製、製品名:パワートップU600M)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した後、160℃で30分間焼き付けた。
次に、中塗り塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:ハイエピコNo.560、グレー)を、乾燥膜厚が30μmとなるように塗装した後、140℃で30分間焼き付けた。
更に、2液型ウレタン塗料のベースコート塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:ハイウレタンNo.7000、黒色)を、乾燥膜厚が10μmとなるようにスプレー塗装した。
しかる後、ウェットオンウェットで−20℃における伸び率が30%である耐傷付き塗膜を形成する耐傷付き塗膜形成用クリヤー塗料を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、80℃で30分間焼き付けて、本例に用いる積層塗膜を得た。
【0036】
なお、耐傷付き塗膜形成用クリヤー塗料は、以下のようにして作製した。
(1)PEGのTEMPO酸化によるPEG‐カルボン酸の調製
ポリエチレングリコール(PEG)(分子量5000)10g、TEMPO(2,2,6,6‐テトラメチル‐1‐ピペリジニルオキシラジカル)100mg、臭化ナトリウム1gを水100mLに溶解させた。市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度5%)5mLを添加し、室温で10分間撹拌した。余った次亜塩素酸ナトリウムを分解させるために、エタノールを最大5mLまでの範囲で添加して反応を終了させた。
50mLの塩化メチレンを用いた抽出を3回繰り返して無機塩以外の成分を抽出した後、エバポレーターで塩化メチレンを留去し、250mLの温エタノールに溶解させてから冷凍庫(−4℃)中に一晩おいて、PEG‐カルボン酸のみを抽出させ、回収し、乾燥した。
【0037】
(2)PEG‐カルボン酸とα‐CDを用いた包接錯体の調製
上記調製したPEG‐カルボン酸3g及びα‐シクロデキストリン(α‐CD)12gをそれぞれ別々に用意した70℃の温水50mLに溶解させ、双方を混合し、よく振り混ぜた後、冷蔵庫(4℃)中に一晩静置した。クリーム状に析出した包接錯体を凍結乾燥して、回収した。
【0038】
(3)α‐CDの減量及びアダマンタンアミンとBOP試薬反応系を用いた包接錯体の封鎖
上記調製した包接錯体14gをジメチルホルムアミド/ジメチルスルホキシド(DMF/DMSO)混合溶媒(体積比75/25)20mLに分散させた。
一方、室温でDMF10mLにベンゾトリアゾール‐1‐イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP試薬)3g、1‐ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)1g、アダマンタンアミン1.4g、ジイソプロピルエチルアミン1.25mLをこの順番に溶解させた。この溶液を上記調製した分散液に添加し、すみやかによく振り混ぜた。
スラリー状になった試料を冷蔵庫(4℃)中に一晩静置した。一晩静置した後、DMF/メタノール混合溶媒(体積比1/1)50mLを添加し、混合し、遠心分離して、上澄みを捨てた。上記のDMF/メタノール混合溶液による洗浄を2回繰り返した後、更にメタノール100mLを用いた洗浄を同様の遠心分離により2回繰り返した。
得られた沈殿を真空乾燥で乾燥させた後、50mLのDMSOに溶解させ、得られた透明な溶液を700mLの水中に滴下してポリロタキサンを析出させた。析出したポリロタキサンを遠心分離で回収し、真空乾燥又は凍結乾燥させた。
上記のDMSOに溶解、水中で析出、回収、乾燥のサイクルを2回繰り返し、最終的に精製ポリロタキサンを得た。
【0039】
(4)シクロデキストリンの水酸基のヒドロキシプロピル化
上記調製したポリロタキサン500mgを1mol/LのNaOH水溶液50mLに溶解し、プロピレンオキシド3.83g(66mmol)を添加し、アルゴン雰囲気下、室温で一晩撹拌した。1mol/LのHCl水溶液で中和し、透析チューブにて透析した後、凍結乾燥し、回収した。
【0040】
(5)ポリロタキサンの疎水基修飾
上記調製したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン500mgにモレキュラーシーブで乾燥させたε‐カプロラクトン10mLを添加し、室温で30分間撹拌し、浸透させた。2‐エチルへキサン酸スズ0.2mLを添加し、100℃で1時間反応させた。
反応終了後、試料を50mLのトルエンに溶解させ、撹拌した450mLのヘキサン中に滴下して析出させ、回収し、乾燥して、疎水性修飾ポリロタキサンを得た。
得られた疎水性修飾ポリロタキサンは、H−NMR及びGPCで同定し、所望のポリロタキサンであることを確認した。なお、α−CDの包接度は0.06であり、疎水性修飾基による修飾度は0.02であった。
【0041】
(6)耐傷付き塗膜形成用クリヤー塗料の調製
上記調製した疎水性修飾ポリロタキサンをトルエンで濃度が10%となるように溶解した。
しかる後、アクリル・メラミン硬化型クリヤー塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:ベルコートNo.6200)に溶解した疎水性修飾ポリロタキサンを疎水性修飾ポリロタキサンの含有量が20質量%となるように添加して、本例に用いた耐傷付き塗膜形成用クリヤー塗料を得た。
【0042】
(実施例1)
まず、上記準備した積層塗膜において、耐傷付き塗膜であるクリヤー塗膜層に生じたブツによる異常部を、サンドペーパー(3M社製、トライザクト(登録商標)A5)を用いて研ぎ、異常部を除去した。
次いで、異常部を除去した補修部位に、−20℃における伸び率が3%である第1補修塗膜部を形成する第1塗料の一例である第1’塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:フローシャイン#1000)を塗装し、80℃で30分間焼き付けて、第1補修塗膜部を形成した。
更に、形成した第1補修塗膜部を、住友3M社製ポリッシュパープルを用いて研磨し、第1補修塗膜部の表面側部分を除去した。
しかる後、表面側部分を除去した第1補修塗膜部の表面側の補修部位に、−20℃における伸び率が30%である第2補修塗膜部を形成する第2塗料の一例である第2’塗料(耐傷付き塗膜形成用クリヤー塗料)を塗装し、80℃で30分間焼き付けて、第1補修塗膜部を形成した。これにより、補修積層塗膜を得た。
なお、第1補修塗膜部の伸び率は、第1’塗料を錫箔上に塗布し、80℃で30分間焼き付けて得た塗膜を剥離して得た遊離塗膜を、引っ張り試験(温度:−20℃、引っ張り速度:50mm/分)に供し、株式会社島津製作所製のAGS−H 50Nを用いて測定した。
【0043】
(実施例2)
−20℃における伸び率が3%である第1補修塗膜部を形成する第1塗料の一例である第1’塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:フローシャイン#1000)に替えて、−20℃における伸び率が2%である第1補修塗膜部を形成する第1塗料の一例である第1”塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:ベルコートNo.6200)を塗装し、80℃で30分間焼き付けて、第1補修塗膜部を形成したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。これにより、補修積層塗膜を得た。
【0044】
(比較例1)
−20℃における伸び率が3%である第1補修塗膜部を形成する第1塗料の一例である第1’塗料(BASFコーティングスジャパン株式会社製、製品名:フローシャイン#1000)に替えて、−20℃における伸び率が7%である第1補修塗膜部を形成する第2”塗料(日本ペイント株式会社製ポリウレエクセル0−1200とポリウレエクセルH1200硬化剤クリヤー)を塗装し、80℃で30分間焼き付けて、第1補修塗膜部を形成したこと以外は、実施例1と同様の操作を繰り返した。これにより、補修積層塗膜を得た。
上記各例の補修方法における仕様の一部を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
[性能評価]
各例の補修積層塗膜を研ぎ:トライザクト(登録商標)A3、粗磨き:ポリッシュパープル、仕上げ:エクストラファイン(全て住友3M社製)を用いて研磨し、傷の消失度を目視により評価した。得られた結果を表1に併記する。
【0047】
表1より、本発明の範囲に属する実施例1及び2は、−20℃における伸び率が5%未満である第1補修塗膜部を形成し、第1補修塗膜部の表面側部分を除去し、−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部を形成することなどとしたため、補修部位の傷を目立たなくすることができた。
【0048】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
上記の実施形態では、積層塗膜の場合について説明したが、例えば−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層のみを有する単層塗膜の場合についても、本発明を適用することができる。
また、上記の実施形態では、クリヤー塗膜層やエナメル塗膜層が所定の耐傷付き塗膜層を構成する場合について説明したが、例えばクリヤー塗膜層とベースコート塗膜層の双方が所定の耐傷付き塗膜層を構成する場合についても、本発明を適用することができる。
更に、上記の実施形態では、下塗り塗膜層、中塗り塗膜層及び上塗り塗膜層を備える積層塗膜の場合について説明したが、所定の耐傷付き塗膜層を有する塗膜であれば中塗り塗膜層を設けない積層塗膜の場合についても、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の塗膜の補修方法の第1の実施形態であって、積層塗膜の補修方法の一例における積層塗膜の概略的な断面状態を示す説明図である。
【図2】本発明の塗膜の補修方法の第2の実施形態であって、他の積層塗膜の補修方法の一例における他の積層塗膜の概略的な断面状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0050】
1 積層補修塗膜
10 下塗り塗膜層
20 中塗り塗膜層
30 上塗り塗膜層
32 ベースコート塗膜層
34 クリヤー塗膜層
34’,34”,36’,36” 補修部位
34a,36a 第1補修塗膜部
34b,36b 第2補修塗膜部
36 エナメル塗膜層
40 異常部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する塗膜における耐傷付き塗膜層の補修部位を補修する塗膜の補修方法であって、以下の工程(1)〜(3)
(1)補修部位に、−20℃における伸び率が5%未満である補修塗膜部を形成する第1塗料を塗装して、第1補修塗膜部を形成する工程、
(2)上記第1補修塗膜部の表面側部分を除去する工程、
(3)上記表面側部分を除去した第1補修塗膜部の表面側の補修部位に、−20℃における伸び率が5%以上である補修塗膜部を形成する第2塗料を塗装して、第2補修塗膜部を形成する工程、
を含むことを特徴とする塗膜の補修方法。
【請求項2】
上記補修部位を研ぐ工程(0)を上記工程(1)の前に付加して成ることを特徴とする請求項1に記載の塗膜の補修方法。
【請求項3】
上記第2補修塗膜部を研磨する工程(4)を上記工程(3)の後に付加して成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜の補修方法。
【請求項4】
上記耐傷付き塗膜層を形成する耐傷付き塗膜形成用塗料、第1塗料及び第2塗料として、クリヤー塗料、クリヤー塗料及びベースコート塗料、又はエナメル塗料を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の塗膜の補修方法。
【請求項5】
−20℃における伸び率が5%以上である耐傷付き塗膜層を有する補修塗膜であって、
上記耐傷付き塗膜層の一部に、−20℃における伸び率が5%未満である第1補修塗膜部と−20℃における伸び率が5%以上である第2補修塗膜部とをこの順に積層した補修塗膜構造を有することを特徴とする補修塗膜。
【請求項6】
上記耐傷付き塗膜層が、クリヤー塗膜、ベースコート塗膜及びクリヤー塗膜をこの順に積層した積層塗膜、又はエナメル塗膜から成ることを特徴とする請求項5に記載の補修塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−213956(P2009−213956A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57610(P2008−57610)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】