説明

塗膜及び、その塗膜を形成した塗装物

【課題】 ポリ乳酸は、結晶性が高いために毒性のあるクロロホルムなどのハロゲン系の有機化合物にしか溶解せず、塗料に使用される揮発性有機化合物にはほとんど溶解しない。また無理に前記揮発性有機化合物に結晶性の高いポリ乳酸を溶解させ、塗料化しても形成される塗膜は、ポリマー間のつながりがなく、ポリ乳酸の微粉体か塗膜中に分散しているかのような非常に脆い塗膜となる。その結果、手で直接及び/又は間接的に触れる部分に塗膜を形成した塗装物においては、手の脂汗や汗などにより、経時的に塗膜が劣化し、使用できない問題があった。
【解決手段】 手で直接及び/又は間接的に触れる部分に塗膜を形成した塗装物において、前記塗膜を、少なくとも非結晶性ポリ乳酸と、非結晶性ポリ乳酸分子中に含まれる官能基と反応する架橋剤と、揮発性有機化合物を混合してなる塗料により形成した塗装物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも手で直接及び/又は間接的に触れる部分に形成した塗膜及び、前記塗膜を形成した塗装物に関するものであり、例えば塗装物として万年筆やボールペンやシャープペンシルなどの筆記具や、口紅やアイライナーなどの容器、釣り竿、ドアノブ、手摺りなどが挙げられる。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源(石油資源)を原料とする従来の合成樹脂は、焼却時に二酸化炭素を大気中に放出し、二酸化炭素濃度を増加させ、地球温暖化に悪影響を与えていることが非常に問題となっている。
一方、植物資源を原料とする生分解性樹脂は、植物が成長する過程で吸収した二酸化炭素を焼却時に放出するだけで、大気中の二酸化炭素濃度に影響を与えないことが知られている。所謂カーボンニュートラルの考え方である。
具体的には、以下の通りである。
1) 植物は成長する段階で、大気中の二酸化炭素を吸って、酸素を放出する。
2) 前記植物を原料とする塗料より得られた塗料を被塗物に塗装し塗装物を得る
3) 前記塗装物を廃棄(焼却)すると、生分解すると共に二酸化炭素を大気中に放出する。
4) しかし3)で放出する二酸化炭素は、1)で植物が吸った二酸化炭素量と同じであると言われていることがら、大気中の二酸化炭素濃度は変化しない。
5) 1)〜4)の繰り返しをカーボンニュートラルと称されている。
このカーボンニュートラルを利用した植物由来塗料は、次世代環境型塗料として研究開発が盛んに行われている。所謂カーボンニュートラル系の塗料である。
【0003】
【特許文献1】特開2001−294792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンニュートラル系塗料や、カーボンニュートラル系塗料を塗布してなる塗装物として、ポリ乳酸を主成分とする被覆剤および被覆物(特許文献1)が知られている。しかしポリ乳酸は、結晶性が高いために毒性のあるクロロホルムなどのハロゲン系の有機化合物にしか溶解せず、塗料に使用される揮発性有機化合物にはほとんど溶解しない。また無理に前記揮発性有機化合物に結晶性の高いポリ乳酸を溶解させ、塗料化しても形成される塗膜は、ポリマー間のつながりがなく、ポリ乳酸の微粉体か塗膜中に分散しているかのような非常に脆い塗膜となる。その結果、手で直接及び/又は間接的に触れる部分に形成した塗膜においては、手の脂汗や汗などにより、経時的に塗膜が劣化し、使用できない問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明は、手で直接及び/又は間接的に触れる部分に形成した塗膜において、前記塗膜を、少なくとも非結晶性ポリ乳酸と、非結晶性ポリ乳酸分子中に含まれる官能基と反応する架橋剤と、揮発性有機化合物を混合してなる塗料により形成したことを第1の要旨とし、前記非結晶性ポリ乳酸分子中に含まれる官能基が、カルボキシル基及び/又は水酸基を有する非結晶性ポリ乳酸であることを第2の要旨とし、前記架橋剤が、イソシアネート基及び/又はカルボジイミド基を有する架橋剤あることを第3の要旨とし、前記揮発性有機化合物が、エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、炭化水素系有機溶剤から選択される混合有機溶剤であることを第4の要旨とし、前記塗膜を筆記具用部材に形成したことを第5の要旨とするものである。
【0006】
被塗物の材質は、塗装できる材料であればよく特に限定されない。具体的には、アルミニウムまたはその合金、銅またはその合金、鉄またはその合金、亜鉛またはその合金、マグネシウムまたはその合金、チタンまたはその合金、金またはその合金、銀またはその合金、白金またはその合金、スズまたはその合金、ニッケルまたはその合金などの金属材料、塩化ビニル、ポリスチレン、アクリル、ポリカーボネート、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体、アクリロニトリルスチレン共重合体、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリアミド、ナイロン、ポリアセタール、ポリ乳酸、澱粉樹脂(澱粉を主成分とする樹脂)、ポリヒドロキシアルカン酸などの熱可塑性樹脂材料、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー、シリコーン、スチレンブタジエン、ウレタン、ブタジエン、イソプレン、フッ素などの合成ゴムや天然ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、ポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂材料、アルミナ、ジルコニア、陶磁器、ガラスなどのセラミック材料、木材、紙、石などの天然材料などを用いることができる。
特に本発明においては、被塗物としてバイオマス樹脂(植物などを原料とする樹脂)が被塗物も含めたカーボンニュートラルが可能となるために好適に使用できる。具体的には、下記の2種類に分類できる。
1)植物などを原料とし、自然界の微生物によって分解する樹脂(以下、バイオマス生分解性樹脂と称す)
2)植物などを原料とし、自然界の微生物によって分解しない樹脂(以下、バイオマス非生分解性樹脂と称す)
バイオマス生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、澱粉樹脂(澱粉を主成分とする樹脂)、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリエステル(脂肪族)などが挙げられ、バイオマス非生分解性樹脂としては、ポリウレタン樹脂、天然ゴムなどが挙げられる。
また、これらの材料は1種または2種以上の混合物であってもよい。さらに、これらの材質には、予め湿式めっき法や乾式めっき法、塗装、印刷、化成処理やクロメート処理などの公知の方法により、ニッケルやクロムや黒クロムなどの金属めっき層、あるいは金や銀やパラジウムなどの貴金属めっき層、塗膜層、印刷層、接着層、酸化物層などの下地処理層を形成してもよい。
【0007】
非結晶性ポリ乳酸は、分子構造中に1個以上の官能基を有し、非結晶性のものであれば特に限定されない。本発明における非結晶性とは、樹脂のすべての分子配列が不規則なもの(非結晶性ポリ乳酸)や、一部の分子配列が不規則なもの(結晶性を低下させたポリ乳酸)を示している。
具体的には、非結晶性ポリ乳酸として乳酸単位のD,L比の異なるポリ−DL−乳酸(PDLLA)や、結晶性を低下させたポリ乳酸としてポリ−L−乳酸にD−乳酸を共重合させたポリ−L−乳酸(PLLA)などが挙げられる。
また、官能基としては、カルボキシル基、水酸基などの一種又は二種以上を有していれば良い。
【0008】
架橋剤は、イソシアネート基及び/又はカルボジイミド基を有する架橋剤であれば特に限定されない。具体的には、脂肪族系、芳香族系、トリメチロールプロパンなどのポリオール化合物と反応させたアダクト体、ビューレット体、イソシアヌレート体などのフリーのイソシアネート基を有するポリイソシアネート樹脂、イソシアネート基をオキシム化合物などでブロックしたポリイソシアネート樹脂、カルボジイミド樹脂、カルボジイミド変性イソシアネート樹脂などが挙げられる。
【0009】
特に、カルボキシル基と水酸基とを有し非結晶ポリ乳酸と、カルボジイミド変性イソシアネート樹脂は、水酸基とイソシアネート基がウレタン架橋反応をし、硬化型の塗膜が得られ、手の脂汗や汗などにより劣化を抑制する効果とともに、空気中の水分により加水分解するポリ乳酸から生じるカルボキシル基及びフリーのカルボキシル基がカルボジイミド基と経時的に反応し塗膜の劣化を抑制する効果があるので好適に使用できる。
【0010】
揮発性有機化合物は、非結晶性ポリ乳酸を溶解できるものであれば良く特に限定されない。具体的には、エステル系、ケトン系、アルコール系、エーテル系、炭化水素系などの有機溶剤を用いることができる。
また、これらの有機溶剤は1種または2種以上の混合有機溶剤であってもよい。特に混合有機溶剤は、塗膜形成時における有機溶剤分の蒸発速度をコントロールができ、塗膜外観を向上させる点で優れている。
具体的には、塗膜形成時において被塗物表面に付着した塗料が塗膜になる時間が、塗膜外観の一つである平滑性に影響を及ぼす。塗料中の有機溶剤がある温度に達したとき急激に蒸発すると、被塗物表面に付着した塗料のレベリング性のための動きを阻害し、平滑性が低下する(1種の有機溶剤の場合)。これを防止するために沸点の異なる有機溶剤を混合し、混合有機溶剤が蒸発する温度に幅を持たせ、且つ蒸発速度を遅くすることで、被塗物表面に付着した塗料がレベリング性を発現しながら塗膜となり、平滑性が向上するものである。
【0011】
本発明における塗料は、少なくとも非結晶性ポリ乳酸と、非結晶性ポリ乳酸分子中に含まれる官能基と反応する架橋剤と、揮発性有機化合物を含有していれば良いが、テルペン系樹脂やロジン系樹脂などの粘着性付与剤や、パラフィン系オイルなどの柔軟剤、カーボンブラック、タルク、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、無機顔料、有機顔料などの充填剤、ゼオライト、シリカゲルなどの吸着剤、鱗片状ガラスフレークの表面をニッケルや銀などの金属もしくは金属酸化物で被覆した特殊顔料、アルミニウムまたはその合金、銅またはその合金、鉄またはその合金、亜鉛またはその合金、マグネシウムまたはその合金、チタンまたはその合金、金またはその合金、銀またはその合金、白金またはその合金、スズまたはその合金、ニッケルまたはその合金、クロムまたはその合金、コバルトまたはその合金などの金属粉体、前記金属の酸化物や窒化物などを公知の方法により粉砕したメタリック顔料などを必要に応じて添加することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ポリ乳酸の結晶性を低下させるためにポリ−L−乳酸にD−乳酸を10〜20mol%位共重合させた非結晶性ポリ乳酸を用いることにより、揮発性有機化合物に容易に溶け塗料化することが可能となる。
さらに前記ポリ乳酸の分子構造中に官能基を有することで、前記官能基と相補的に反応する架橋剤と結合し、その結果ポリマー同士の連結が強固となった(架橋反応した)塗膜が得られ、手で直接及び/又は間接的に触れる部分に塗膜を形成した塗装物においても、手の脂汗や汗などにより、経時的に塗膜の劣化が防止することができる。
また、カルボキシル基と水酸基とを有し非結晶ポリ乳酸と、カルボジイミド変性イソシアネート樹脂は、水酸基とイソシアネート基がウレタン架橋反応をし、硬化型の塗膜が得られ、手の脂汗や汗などにより劣化を抑制する効果とともに、空気中の水分により加水分解するポリ乳酸から生じるカルボキシル基及び非結晶ポリ乳酸の分子構造中のカルボキシル基がカルボジイミド基と反応し、水分による劣化を抑制することができる。
さらに、塗料における揮発性有機化合物は、重要な要素である。塗料において揮発性有機化合物は、単体で使用しても良いが、一般的には数種の揮発性有機化合物を混合した混合有機溶剤が使用される。その理由の一つとして、単体の揮発性有機化合物では、その揮発性有機化合物の沸点を過ぎた温度で急激に塗料を塗布し被塗物表面に付着した塗膜(以下、ウエット塗膜と称す)中の揮発性有機化合物分が急激に揮発し、ウエット塗膜のレオロジー特性をコントロールする為の時間が得られにくく、外観特性が悪化を誘発する要因となるためである。
そこで沸点の異なる揮発性有機化合物を数種混合することで、揮発温度範囲を広げ、且つ樹脂成分との溶解性を変えることで、揮発時のレオロジー特性をコントロールしやすくすることが可能となる。
本発明においても、ポリ乳酸を非結晶とすることで、エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、炭化水素系有機溶剤などの揮発性有機化合物への溶解性が向上し、沸点及びポリ乳酸への溶解性を考慮した揮発性有機化合物の選択が可能となる。その結果、ウエット塗膜の状態で発現するレオロジー特性(レベリング性)をコントロールする重要な要因であるウエット塗膜内の有機溶剤分の蒸発速度をコントロールでき、外観特性の悪化を防止することができる。
また、架橋した塗膜を形成することで、常に手と接触する筆記具の部材(軸体や、頭冠や先金、クリップ、飾りリングなど)上に塗膜を形成しても、手の脂汗や汗などにより経時的に塗膜の劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、非結晶性ポリ乳酸と、架橋剤と、揮発性有機化合物からなる塗料より塗膜を形成したことを最も主要な特徴とし、非結晶化したポリ乳酸を用いることで容易に揮発性有機化合物に溶け塗料化が可能となり、ポリ乳酸の分子構造中の官能基と架橋剤とがウレタン結合やエステル結合にともなう反応硬化することで手の脂汗や汗などにより経時的な塗膜の劣化を抑制する目的を実現した。
【0014】
(実施例1)
真鍮製の、外径10mm、長さ100mmである横断面外形状が円形の材料の、塗料を塗布する面(塗布面)に、バフ研磨を施して表面を平滑にし、ジクロロメタンで脱脂処理し被塗物とした。
次に水酸基を有する非結晶性ポリ乳酸として「バイロエコールBE−400(東洋紡績(株)製)」に、酢酸イソブチル(エステル系有機溶剤)を重量比で、1:9(バイロエコール:酢酸イソブチル)の割合で混合溶解し、固形分が10wt%の架橋剤を含まない塗料(以下、ベース塗料と称す)を得た。次にベース塗料に前記水酸基と反応するイソシアネート基を有する架橋剤として「コロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製)」を10:1(ベース塗料:架橋剤)の割合で混合しカーボンニュートラル系塗料を作製した。
次に前記カーボンニュートラル系塗料を被塗物にスプレー塗装した後、150℃、20分の条件で乾燥し塗膜を得た。
【0015】
(実施例2)
アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS樹脂)製の外径10mm、長さ100mmである横断面外形状が円形の材料の、塗料を塗布する面(塗布面)に、バフ研磨を施して表面を平滑にし、イソプロピルアルコール(IPA)で脱脂処理し被塗物とした。
次にカルボキシル基を有する非結晶性ポリ乳酸として「バイロエコールBE−910(東洋紡績(株)製)」に、酢酸イソブチル(エステル系有機溶剤)を重量比で、1:9(バイロエコール:酢酸イソブチル)の割合で混合溶解し、固形分が10wt%の架橋剤を含まない塗料(以下、ベース塗料と称す)を得た。次にベース塗料に前記カルボキシル基と反応するカルボジイミド基を有する架橋剤として「カルボジライトV−9(日清紡績(株)製)」を10:1(ベース塗料:架橋剤)の割合で混合しカーボンニュートラル系塗料を作製した。
次に前記カーボンニュートラル系塗料を被塗物にスプレー塗装した後、60℃、60分の条件で乾燥し塗膜を得た。
【0016】
(実施例3)
アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS樹脂)製の外径10mm、長さ100mmである横断面外形状が円形の材料の、塗料を塗布する面(塗布面)に、バフ研磨を施して表面を平滑にし、イソプロピルアルコール(IPA)で脱脂処理し被塗物とした。
次に水酸基とカルボキシル基を有する非結晶性ポリ乳酸として「バイロエコールHYD−006(東洋紡績(株)製)」に、揮発性有機化合物(混合有機溶剤)として「アクリル・ウレタン用シンナー(日本ペイント(株)製、炭化水素系有機溶剤とエステル系有機溶剤の混合有機溶剤)」を重量比で、1:9(バイロエコール:混合有機溶剤)の割合で混合溶解し、固形分が10wt%の架橋剤を含まない塗料(以下、ベース塗料と称す)を得た。次にベース塗料に前記水酸基と反応するイソシアネート基を有する架橋剤として「コロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製)」を10:1(ベース塗料:架橋剤)の割合で混合しカーボンニュートラル系塗料を作製した。
次に前記カーボンニュートラル系塗料を被塗物にスプレー塗装した後、60℃、60分の条件で乾燥し塗膜を得た。
【0017】
(実施例4)
アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS樹脂)製の外径10mm、長さ100mmである横断面外形状が円形の材料の、塗料を塗布する面(塗布面)に、バフ研磨を施して表面を平滑にし、イソプロピルアルコール(IPA)で脱脂処理し被塗物とした。
次に水酸基とカルボキシル基を有する非結晶性ポリ乳酸として「バイロエコールHYD−006(東洋紡績(株)製)」に、揮発性有機化合物(混合有機溶剤)として「アクリル・ウレタン用シンナー(日本ペイント(株)製、炭化水素系有機溶剤とエステル系有機溶剤の混合有機溶剤)」を重量比で、1:9(バイロエコール:混合有機溶剤)の割合で混合溶解し、固形分が10wt%の架橋剤を含まない塗料(以下、ベース塗料と称す)を得た。次にベース塗料に前記カルボキシル基と反応するカルボジイミド基と、前記水酸基と反応するイソシアネート基を有する架橋剤として「カルボジライトV−5(日清紡績(株)製)」を10:1(ベース塗料:架橋剤)の割合で混合しカーボンニュートラル系塗料を作製した。
次に前記カーボンニュートラル系塗料を被塗物にスプレー塗装した後、60℃、60分の条件で乾燥し塗膜を得た。
【0018】
(実施例5)
アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS樹脂)製の筆記具用軸体(ジェイクラブボールペンB5用軸体(ぺんてる(株)製))の塗料を塗布する面(塗布面)に、バフ研磨を施して表面を平滑にし、イソプロピルアルコール(IPA)で脱脂処理し被塗物とした。
次に水酸基とカルボキシル基を有する非結晶性ポリ乳酸として「バイロエコールHYD−006(東洋紡績(株)製)」に、揮発性有機化合物(混合有機溶剤)として「アクリル・ウレタン用シンナー(日本ペイント(株)製、炭化水素系有機溶剤とエステル系有機溶剤の混合有機溶剤)」を重量比で、1:9(バイロエコール:混合有機溶剤)の割合で混合溶解し、固形分が10wt%の架橋剤を含まない塗料(以下、ベース塗料と称す)を得た。次にベース塗料に前記水酸基と反応するイソシアネート基を有する架橋剤として「コロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製)」を10:1(ベース塗料:架橋剤)の割合で混合しカーボンニュートラル系塗料を作製した。
次に前記カーボンニュートラル系塗料を被塗物にスプレー塗装した後、60℃、60分の条件で乾燥し塗装物を得た。その塗装物に筆記具用の部材を組み込み筆記具(ジェイクラブボールペンB5(ぺんてる(株)製)を得た。
【0019】
(実施例6)
ポリ乳酸樹脂「エコディアCA11−002」(東レ(株)製)を射出成形にて筆記具用軸体(ジェイクラブボールペンB5用軸体(ぺんてる(株)製))を作製した。その軸体の塗料を塗布する面(塗布面)に、バフ研磨を施して表面を平滑にし、イソプロピルアルコール(IPA)で脱脂処理し被塗物とした。
次に水酸基とカルボキシル基を有する非結晶性ポリ乳酸として「バイロエコールHYD−006(東洋紡績(株)製)」に、揮発性有機化合物(混合有機溶剤)として「アクリル・ウレタン用シンナー(日本ペイント(株)製、炭化水素系有機溶剤とエステル系有機溶剤の混合有機溶剤)」を重量比で、1:9(バイロエコール:混合有機溶剤)の割合で混合溶解し、固形分が10wt%の架橋剤を含まない塗料(以下、ベース塗料と称す)を得た。次にベース塗料に前記水酸基と反応するイソシアネート基を有する架橋剤として「コロネートL(日本ポリウレタン工業(株)製)」を10:1(ベース塗料:架橋剤)の割合で混合しカーボンニュートラル系塗料を作製した。
次に前記カーボンニュートラル系塗料を被塗物にスプレー塗装した後、60℃、60分の条件で乾燥し塗装物を得た。その塗装物に筆記具用の部材を組み込み筆記具(ジェイクラブボールペンB5(ぺんてる(株)製)を得た。
【0020】
(比較例1)
アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS樹脂)製の外径10mm、長さ100mmである横断面外形状が円形の材料の、塗料を塗布する面(塗布面)に、バフ研磨を施して表面を平滑にし、イソプロピルアルコール(IPA)で脱脂処理し被塗物とした。
次に水酸基とカルボキシル基を有する非結晶性ポリ乳酸として「バイロエコールHYD−006(東洋紡績(株)製)」に、揮発性有機化合物(混合有機溶剤)として「アクリル・ウレタン用シンナー(日本ペイント(株)製、炭化水素系有機溶剤とエステル系有機溶剤の混合有機溶剤)」を重量比で、1:9(バイロエコール:混合有機溶剤)の割合で混合溶解し、固形分が10wt%の架橋剤を含まない塗料(以下、ベース塗料と称す)を得た。
次に前記ベース塗料を被塗物にスプレー塗装した後、60℃、60分の条件で乾燥し塗膜を得た。
【0021】
(比較例2)
アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS樹脂)製の外径10mm、長さ100mmである横断面外形状が円形の材料の、塗料を塗布する面(塗布面)に、バフ研磨を施して表面を平滑にし、イソプロピルアルコール(IPA)で脱脂処理し被塗物とした。
次に結晶性ポリ乳酸として「テラマックTE−1030(ユニチカ(株)製)」を粉砕し微粉体としたものに、揮発性有機化合物(混合有機溶剤)として「アクリル・ウレタン用シンナー(日本ペイント(株)製、炭化水素系有機溶剤とエステル系有機溶剤の混合有機溶剤)」を重量比で、1:9(テラマック:混合有機溶剤)の割合で混合分散し、固形分が10wt%の架橋剤を含まない塗料(以下、ベース塗料と称す)を得た。
次に前記ベース塗料を被塗物にスプレー塗装した後、60℃、60分の条件で乾燥し塗膜を得た。
【0022】
<手の脂汗に対する塗膜耐性評価(人工油汗試験)>
下記の組成の人工油汗を染みこませた布または紙を、実施例及び比較例で得た塗装物の塗装面に密着させるように貼り、温度70℃、湿度95%の環境下に4時間放置した後、塗装物から前記布または紙を除去する。次にJIS K 5600−5−6「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」に規定されているクロスカット法(1mmの正方形を10×10コマ(計100コマ))にて密着性を評価する。尚、評価は、100コマの碁盤目内で塗膜が残ったコマ数とした。
<人工油汗の組成>
オリーブ油 40wt%
イソプロピルミリステアレート 20wt%
オレイン酸 13wt%
その他添加剤 27wt%
【0023】
<水に対する塗膜耐性評価(恒温恒湿試験)>
実施例及び比較例で得た塗装物を温度70℃、湿度95%の環境下に1週間放置後、塗装物を温度70℃、湿度95%の環境下から取りだし常温に戻す。次にJIS K 5600−5−6「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)」に規定されているクロスカット法(1mmの正方形を10×10コマ(計100コマ))にて密着性を評価する。尚評価は、100コマの碁盤目内で塗膜が残ったコマ数とした。
【0024】
<外観特性(塗膜平滑性)の評価>
JIS K 5600−4−3:1999「塗料一般試験方法−第4部:塗膜の視覚特性−第3節:色の目視比較」に準じた色観察用照明(自然昼光照明)下で目視にて外観特性を評価した。なお評価は、塗膜平滑性の有無とした。
以上の評価を表1に示す。
【0025】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
手で直接及び/又は間接的に触れる部分に形成した塗膜において、前記塗膜を、少なくとも非結晶性ポリ乳酸と、非結晶性ポリ乳酸分子中に含まれる官能基と反応する架橋剤と、揮発性有機化合物を混合してなる塗料により形成したことを特徴とした塗膜。
【請求項2】
前記非結晶性ポリ乳酸分子中に含まれる官能基が、カルボキシル基及び/又は水酸基を有する非結晶性ポリ乳酸であることを特徴とする請求項1記載の塗膜。
【請求項3】
前記架橋剤が、イソシアネート基及び/又はカルボジイミド基を有する架橋剤あることを特徴とする請求項1記載の塗膜。
【請求項4】
前記揮発性有機化合物が、エステル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、炭化水素系有機溶剤から選択される混合有機溶剤であることを特徴とする請求項1記載の塗膜。
【請求項5】
請求項1〜4記載の塗膜を筆記具用部材に形成したことを特徴とする塗装物。

【公開番号】特開2010−83942(P2010−83942A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252648(P2008−252648)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】