説明

塗膜形成装置および塗膜形成方法

【課題】断面形状が複雑な塗装対象物などでも均一な塗膜を形成でき、且つ、塗膜形成を完了した塗装対象物から付着媒体を除去する工程が不要な塗膜形成装置を提供する。
【解決手段】塗膜形成材料で被覆された多数の媒体Bを装入可能な容器2と、塗装対象物Cを容器2内に懸吊する懸吊部4,5と、容器2の全体を振動させる加振器Vと、加振器Vにより加振されている容器2内の媒体層から塗装対象物Cを引き出す引出機構2Dと、塗装対象物Cに懸吊部4,5を介して横向きの衝撃力を加える打撃機構8とを備える塗膜形成装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜形成材料で被覆された多数の媒体を装入可能な容器と、塗装対象物を前記容器内に懸吊する懸吊部と、容器の全体を振動させる加振器とを備えた塗膜形成装置および同装置を用いた塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の塗膜形成技術に関連する先行技術文献情報として下記に示す特許文献1がある。この特許文献1に記された塗膜形成技術では、粘着剤層または塗料層(いずれも塗膜形成材料)で被覆された多数の鋼球など(転写媒体)を塗装対象物と共に容器に装入し、容器を外力で加振させると、鋼球の粘着剤または塗料が塗装対象物の表面に転写される。塗装対象物が長尺のチャンネル状部材の場合でも、容器内に垂直に懸吊しておくことで、塗装対象物の内側面も含めて比較的均一な塗膜を形成できる。
【0003】
尚、先ず粘着剤層で被覆された鋼球を用いて塗装対象物の表面に粘着剤層を転写し(予備工程)、次工程として、こうして得られた塗装対象物の粘着剤層の上に、塗料層で被覆された鋼球を用いて目的の塗料層を転写する(本塗装工程)塗膜形成方法もよく知られているが、ここでは便宜的に粘着剤層と塗料層とのいずれも塗膜と呼ぶことにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−154698号公報(0046段落、図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記された塗膜形成装置では、塗膜形成を完了した塗装対象物を媒体層から回収すると、塗装対象物の表面に多数の媒体が付着している傾向があり、これらの付着媒体を塗装対象物から圧搾空気や特殊な工具などで除去するために新たな工程や設備を設ける必要があった。また、新たな除去工程によって付着媒体のみでなく塗膜も塗装対象物から剥離する傾向があるため、事前に余分な厚さの塗膜を形成しておく必要があった。さらに、この場合、除去した付着媒体や剥離した塗膜を回収し、場合によっては廃棄する必要が生じた。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上に例示した従来技術による塗膜形成装置が与える課題に鑑み、断面形状が複雑な塗装対象物などでも比較的均一な塗膜を形成でき、且つ、塗膜形成を完了した塗装対象物から付着媒体を除去するための工程が不要な塗膜形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による塗膜形成装置の第1の特徴構成は、
塗膜形成材料で被覆された多数の媒体を装入可能な容器と、
塗装対象物を前記容器内に懸吊する懸吊部と、
前記容器の全体を振動させる加振器と、
前記加振器により加振されている前記容器内の媒体層から前記塗装対象物を引き出す引出機構と、
前記塗装対象物に前記懸吊部を介して横向きの衝撃力を加える打撃機構と、を備えている点にある。
【0008】
本発明の第1の特徴構成による塗膜形成装置では、媒体塗装対象物は、加振器による振動によって媒体と頻繁に衝突することで媒体の塗膜形成材料を転写されるため、断面形状が複雑な塗装対象物にも均一な塗膜を形成できる。しかも、媒体塗装対象物が引出機構によって容器内の媒体層から引き出される際に、打撃機構によって塗装対象物に横向きの衝撃力が加えることができるため、媒体塗装対象物の表面に付着している媒体を衝撃によって効果的に除去し、容器内に落下させることができる。したがって、塗膜形成を完了した塗装対象物から付着媒体を除去するための別工程や外部に落下散乱した媒体を回収する工程が不要な塗膜形成装置が提供された。
【0009】
本発明による塗膜形成装置の他の特徴構成は、前記打撃機構は前記衝撃力を前記引出機構による引き出し操作中に継続的に付与可能に構成してある点にある。
【0010】
本構成であれば、引出機構によって塗装対象物が容器内の媒体層から引き出されている間は継続的に横向きの衝撃力が加えられるので、塗装対象物の表面に付着している媒体がより確実に振り落とされる。
【0011】
本発明による塗膜形成装置の他の特徴構成は、前記引出機構として前記容器の底部に設けた排出口から前記媒体が排出されることで前記塗装対象物を前記媒体層から引き出す点にある。
【0012】
本構成であれば、加振によって媒体が排出口から少しずつ排出されることで、媒体層−空気界面が自動的に下降していくので、結果的に、塗膜形成された塗装対象物を媒体層から引き出すことになる。塗装対象物を上向きに引き上げる装置を引出機構として設ける必要がないため、長尺状の塗装対象物を処理する際にも特に大きな建屋を必要としない。また、塗膜形成用の媒体は排出口の下に設けた回収容器で回収し、次回に使用するための再生工程に容易に手渡すことができる。
【0013】
本発明による塗膜形成装置の他の特徴構成は、前記塗装対象物を上下に繰り返し移動させる昇降操作機構が設けられている点にある。
【0014】
本構成であれば、引出機構によって容器内の媒体層から引き出される塗装対象物に対して打撃機構によって横向きの衝撃力を加える操作に加えて、塗装対象物を上下に繰り返し移動させることで、特に管状や断面が樋状などの塗装対象物の内面に媒体が詰まって流動しなくなる現象が抑制されるので、このような塗装対象物の内面に付着し易い媒体も効果的に振り落とされる。
【0015】
本発明による塗膜形成方法の第1の特徴構成は、
懸吊された塗装対象物を容器内に設置する設置工程と、
前記容器に塗膜形成材料で被覆された多数の媒体を装入し、塗装対象物を媒体層に埋没させる装入工程と、
前記容器を振動させる加振工程と、
前記加振工程の間に前記媒体層から前記塗装対象物を所定速度で引き出す引出工程と、
前記塗装対象物に横向きの衝撃力を加える打撃工程と、を備えた点にある。
【0016】
本発明の第1の特徴構成による塗膜形成方法では、媒体塗装対象物は、加振工程による振動によって媒体と頻繁に衝突することで媒体の塗膜形成材料を転写されるので、断面形状が複雑な塗装対象物にも均一な塗膜を形成できる。しかも、引出工程によって容器内の媒体層から引き出される媒体塗装対象物に対して、打撃機構によって塗装対象物に横向きの衝撃力を加えることができるため、塗装対象物の表面に付着している媒体を衝撃によって効果的に除去し、容器内に落下させることができる。したがって、塗膜形成を完了した塗装対象物から付着媒体を除去するための別工程や外部に落下散乱した媒体を回収する工程が不要となった。
【0017】
本発明による塗膜形成方法の他の特徴構成は、前記引出工程の間に前記打撃工程を継続的に実施する点にある。
【0018】
本構成であれば、塗装対象物が引出工程によって容器内の媒体層から引き出される間は塗装対象物に対して継続的に横向きの衝撃力が加えられるため、塗装対象物の表面に付着している媒体は、媒体層の表面で塗装対象物の周囲に位置する多数の流動的な媒体によって効果的に洗い落とされる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による塗膜形成装置および塗膜形成方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
図1(a)に示す塗膜形成装置20は、加振器Vに連結された概して円筒状の振動容器2と、ワイヤ4(索状体の一例)などを介して塗装対象物Cを振動容器2内に懸吊するブロック状の懸吊体5とを備える。加振器Vは、振動容器2に対して、主に水平面に沿ったX軸およびY軸方向の振動成分を与える。塗膜形成材料としての未硬化の粘着剤または塗膜で被覆された多数の鋼球B(転写媒体の一例)を振動容器2に装入し、加振器Vによって振動容器2を加振させると、鋼球Bの粘着剤または塗膜が塗装対象物Cの表面に転写される。ここでは、長尺状のチャンネル部材を塗装対象物Cとして想定している。
【0021】
本発明による塗膜形成装置20の最大の特徴は、振動容器2の下端に鋼球Bの排出口2D(引出機構の一例)が設けられている点と、懸吊体5に横向きの衝撃力を加えるハンマー部8(打撃機構の一例)が設けられている点である。振動容器2は漏斗状の底部を備え、その漏斗状の下端に排出口2Dがシャッタ3によって開閉操作可能に設けられている。排出口2Dは基本的に前記底部の平面視における中心に配置されている。
【0022】
すなわち、先ず、図1(a)に示すように、ワイヤ4で塗装対象物Cを振動容器2に懸吊した状態(設置工程)にする。次に、図1(b)に示すように、塗装対象物Cの全長が鋼球Bの層に埋没されるように、排出口2Dをシャッタ3で閉鎖した状態で多数の鋼球Bを振動容器2に装入する(装入工程)。引き続き、一定の時間(数秒間など)に亘って加振器Vで振動容器2を振動させる(加振工程)。この段階で一部の鋼球Bから粘着剤または塗膜が塗装対象物Cの表面に転写される。
【0023】
次に、図1(c)に示すように、今度は排出口2Dを開放して、再び加振器Vで振動容器2を振動させながら、懸吊体5に対してハンマー部8による衝撃力を継続的に加える。ハンマー部8は懸吊体5を所定の周波数(例えば1回/秒)で主に水平面に沿ったX軸またはY軸方向から打撃する。すると、鋼球Bの粘着剤または塗膜が転写される現象と平行して、振動容器2内の鋼球Bが一定の速度で排出口2Dから排出される。鋼球Bの排出に従って振動容器2内の鋼球Bの層の表面は下降していくので、塗膜形成された塗装対象物Cが次第に露出されていく(引出工程)。
【0024】
鋼球Bが排出されている間はハンマー部8による衝撃(打撃工程)も継続的に平行して行われるので、その衝撃がワイヤ4を介して塗装対象物Cに伝わり、塗装対象物Cの表面に付着している鋼球Bが効果的に除去され、周囲の鋼球Bの層の上に落下しながら塗装対象物Cが露出されていく。
【0025】
ハンマー部8からの衝撃が塗装対象物Cに伝わった瞬間には、塗装対象物Cが鋼球Bの層の中で微細に移動することが予測されるため、この瞬間的な微細な移動によって、塗装対象物Cの周囲に存在する多数の鋼球Bが、塗装対象物Cの表面に付着している鋼球Bを洗い取るという機構が考えられる。尚、ハンマー部8による衝撃が塗装対象物Cに効果的に伝えられるように、懸吊体5はコイルバネ6などの弾性部材を介して建屋などに支持してもよい。
【0026】
因みに、仮にハンマー部8による打撃工程を実施しなければ、塗装対象物Cは表面に多数の鋼球Bを付着させたまま鋼球Bの層から露出されていくため、鋼球Bを除去する別の工程が必要となる。
【0027】
排出口2Dから排出された鋼球Bは回収容器10に回収される。回収された鋼球Bは粘着剤または塗膜の残存量などに応じて、適宜、洗浄工程または新たに粘着剤または塗膜を担持させる再生工程に送られる。
【0028】
設置工程では、塗装対象物Cは基本的に平面視における振動容器2の中心に懸吊すればよい。排出口2Dがある中心を通る鉛直軸心の近傍に位置する鋼球Bが最も速く排出されるので、特に塗装対象物Cがチャンネル材など非回転対称形の断面形状を備える場合には、振動容器2の中心に懸吊すれば、塗装対象物Cの内面側に鋼球B(媒体)が滞留する傾向が抑制されて都合が良い。
【0029】
尚、一般的には、一つの塗装対象物Cに対して、先ず、粘着剤層で被覆された鋼球Bを用いて、塗装対象物Cの表面に粘着剤層を転写する予備工程を実施し、次に、予備工程で塗装対象物Cの表面に形成された粘着剤層に対して、塗料で被覆された鋼球Bを用いて塗料層を転写する本塗装工程を実施する。
これらの予備工程と本塗装工程とは、粘着剤層または塗料層の付着状況や処理目的に応じて、複数回繰り返してもよい。
【0030】
〔別実施形態〕
〈1〉排出口からの媒体排出による引出機構の代わりに、ワイヤ4を介して塗装対象物を媒体層から上向きに引き出す引き上げ装置を設けてもよい。引き上げ装置によって塗装対象物を引き上げながら、打撃機構によって懸吊部を介して横向きの衝撃力を加えることで、付着している媒体を塗装対象物から除去する効果が同様に得られる。
【0031】
〈2〉鋼球Bの排出または上記引き上げ装置による塗装対象物Cの引出工程の間に、懸吊しているワイヤ4を介して塗装対象物Cを周囲の鋼球Bの層に対して概してX−Y面と垂直なZ軸に沿って繰り返し昇降させる昇降操作機構を設けてもよい。この昇降操作によって、特に管状などの塗装対象物Cの内面に鋼球Bが詰まって流動できなくなる現象が抑制される。その結果、管状や樋状などの塗装対象物Cの内面に付着し易い鋼球Bも効果的に除去できる。昇降操作機構としては、ワイヤ4の上方に、ワイヤ4、懸吊体5またはコイルバネ6を上下に往復移動させる巻き上げ装置などを設けてもよい。或いは、塗装対象物Cの継続的な上下振動が自然に生じるようにコイルバネ6の弾性係数を設定してもよい。
【0032】
〈3〉塗膜形成を左右する鋼球Bの排出速度を制御する目的で、排出口2Dの実質的な内径を変更する機構を設けることも可能である。
【0033】
〈4〉加振器VのON/OFF制御、振動数や振幅などを、塗装対象物Cや鋼球Bの特性に応じて調整する制御ユニットを設けてもよい。また、排出口2Dから排出される鋼球Bの排出速度や排出の有無を検出する検出手段を設け、この制御ユニットが同検出手段の検出結果に基づいて、排出口2Dの開度、加振器VのN/OFF、振動数や振幅などを制御するように構成してもよい。
【0034】
〈5〉塗装対象物Cを、ワイヤ4などの索状体ではなく、板バネなどの弾性体を用いて懸吊しても良い。或いは、塗装対象物Cをロッド状の剛体を用いて懸吊しても良いが、この場合は、塗装対象物Cは、付着している鋼球Bが加振器Vによる振動容器2の横揺れ成分によって除去されながら媒体層から引き出される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
塗膜形成材料で被覆された多数の媒体を装入可能な容器と、塗装対象物を容器内に懸吊する懸吊部と、容器の全体を振動させる加振器とを備えた塗膜形成装置を、塗膜形成を完了した塗装対象物から付着媒体を除去する工程が不要となるように改良する技術として利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
B 鋼球(転写媒体、塗膜形成材料)
C 塗装対象物
V 加振器
2 振動容器
2D 排出口(引出機構)
4 ワイヤ(索状体)
5 懸吊体
6 バネ
8 ハンマー部(打撃機構)
20 塗膜形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成材料で被覆された多数の媒体を装入可能な容器と、
塗装対象物を前記容器内に懸吊する懸吊部と、
前記容器の全体を振動させる加振器と、
前記加振器により加振されている前記容器内の媒体層から前記塗装対象物を引き出す引出機構と、
前記塗装対象物に前記懸吊部を介して横向きの衝撃力を加える打撃機構と、を備えた塗膜形成装置。
【請求項2】
前記打撃機構は前記衝撃力を前記引出機構による引き出し操作中に継続的に付与可能に構成してある請求項1に記載の塗膜形成装置。
【請求項3】
前記引出機構として前記容器の底部に設けた排出口から前記媒体が排出されることで前記塗装対象物を前記媒体層から引き出す請求項1または2に記載の塗膜形成装置。
【請求項4】
前記塗装対象物を上下に繰り返し移動させる昇降操作機構が設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の塗膜形成装置。
【請求項5】
懸吊された塗装対象物を容器内に設置する設置工程と、
前記容器に塗膜形成材料で被覆された多数の媒体を装入し、塗装対象物を媒体層に埋没させる装入工程と、
前記容器を振動させる加振工程と、
前記加振工程の間に前記媒体層から前記塗装対象物を所定速度で引き出す引出工程と、
前記塗装対象物に横向きの衝撃力を加える打撃工程と、を備えた塗膜形成方法。
【請求項6】
前記引出工程の間に前記打撃工程を継続的に実施する請求項5に記載の塗膜形成方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−206719(P2011−206719A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78465(P2010−78465)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】