説明

塗膜構造

【目的】 虹現象中における着色反射層の色と補色関係にある波長の色を有効に低減するとともに、着色反射層からの発色をより鮮やかならしめる。
【構成】 所定の基板1上に形成された着色反射層2と、該着色反射層2の表層側において均一且つ緻密に配設された再帰反射材3,3・・と、該再帰反射材3,3・・の表層側に設けられたクリヤー層4とを備えた塗膜構造において、前記クリヤー層4の染料色を前記着色反射層2の色と同系色となすようにしている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本願発明は、塗膜構造に関し、さらに詳しくは再帰反射材層を含む塗膜であって宝石のような透明感と輝き、深み感をもつ塗膜の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から、再帰反射光を利用した高輝度反射塗膜は良く知られており、例えば交通標識、安全標識等に用いられている。この高輝度反射塗膜としては、図1に示すように、所定の基板1上に形成された着色反射層2と、該着色反射層2の表層側において均一且つ緻密に配設された再帰反射材3,3・・と、該再帰反射材3,3・・の表層側に設けられたクリヤー層4とを備えた構成のものが良く知られている(例えば、特開昭63ー229176号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記のような構成の高輝度反射塗膜は、再帰反射材3において再帰反射された再帰反射光Iの存在によって高輝度(換言すれば、宝石のような透明感と輝き、深み感)を発揮するため、これを自動車外板用塗膜として利用しようとする試みが近年行なわれるようになってきている。
【0004】ところが、再帰反射材3から出る光には、前述した再帰反射光Iのほかに若干の虹光I′が存在するため、該虹光I′の存在によって塗膜の透明感、質感等が損なわれるおそれがある。例えば、着色反射層2としてブルーメタリック系のものを使用した場合、該着色反射層2の色と補色関係にある赤系統の虹光I′が現れることとなって透明感、質感等が損なわれるおそれがある。
【0005】本願発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、虹現象中における着色反射層の色と補色関係にある波長の色を有効に低減するとともに、着色反射層からの発色をより鮮やかならしめることを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本願発明では、上記課題を解決するための手段として、所定の基板上に形成された着色反射層と、該着色反射層の表層側において均一且つ緻密に配設された再帰反射材と、該再帰反射材の表層側に設けられたクリヤー層とを備えた塗膜構造において、前記クリヤー層の染料色を前記着色反射層の色と同系色となすようにしている。
【0007】
【作用】本願発明では、上記手段によって次のような作用が得られる。
【0008】即ち、再帰反射材に入射する光からクリヤー層の色と補色関係にある色の光成分が吸収カットされ、且つ再帰反射材からでる虹光もクリヤー層において吸収されるとともに、再帰反射光はクリヤー層によってより鮮明な色調となって得られることとなる。
【0009】
【発明の効果】本願発明によれば、所定の基板上に形成された着色反射層と、該着色反射層の表層側において均一且つ緻密に配設された再帰反射材と、該再帰反射材の表層側に設けられたクリヤー層とを備えた塗膜構造において、前記クリヤー層の染料色を前記着色反射層の色と同系色となして、再帰反射材に入射する光からクリヤー層の色と補色関係にある色の光成分を吸収カットし且つ再帰反射材からでる虹光をもクリヤー層において吸収するようにしたので、虹現象は発生するものの、虹現象該中における着色反射層の色と補色関係にある波長の色を有効に低減できることとなり、虹現象のない極めて高い質感が得られるという優れた効果がある。
【0010】また、再帰反射光がクリヤー層によってより一層鮮明な色調となって得られるので、着色反射層からの発色もより鮮やかになるという優れた効果もある。
【0011】
【実施例】以下、添付の図面を参照して、本願発明の好適な実施例を説明する。
【0012】本実施例の塗膜構造も、従来技術の項において説明したものと大略同構造とされている。
【0013】即ち、本実施例の塗膜構造は、図1に示すように、所定の基板1上に形成された着色反射層2と、該着色反射層2の表層側において均一且つ緻密に配設された再帰反射材3,3・・と、該再帰反射材3,3・・の表層側に設けられたクリヤー層4とを備えて構成されている。
【0014】本実施例の場合、基板1としては自動車用外板が用いられ、着色反射層2としては従来公知の手法であるブルーメタリック塗装により得られた塗膜が用いられている。また、再帰反射材としては、径50μ程度のガラスビーズ3,3・・が用いられている。さらに、クリヤー層4としてはブルー系染料入りのカラークリヤー層が用いられている。
【0015】上記のように構成すると、ガラスビーズ3,3・・に入射する光I0からクリヤー層4の色(即ち、青色)と補色関係にある色(即ち、赤色)の光成分が吸収カットされ且つガラスビーズ3,3・・からでる虹光I′もクリヤー層4において吸収されることとなる。従って、虹現象は発生するものの、該虹現象中における着色反射層2の色(即ち、青色)と補色関係にある波長の色(即ち、赤色)を有効に低減できることとなり、極めて高い質感が得られることとなる。
【0016】また、再帰反射光Iは同系色のクリヤー層4によってより一層鮮明な色調となって得られるため、着色反射層2からの発色もより鮮やかになる。
【0017】ところで、クリヤー層4の膜厚T(μ)を一定(例えば、40μ)として、クリヤー層5中におけるブルー系染料の濃度C(wt%)を種々変えて得られる塗膜質感Fを調べたところ、図2に示す結果が得られた。
【0018】これによれば、ブルー系染料の濃度C=0.5〜5wt%の範囲において良好な質感が得られることがわかる。なお、C≦0.5wt%の範囲(即ち、領域X)においては、ブルー系染料による赤色成分の吸収効果が不足するため赤色系の虹光が目立ち質感が悪くなるし、C≧5wt%の範囲(即ち、領域Y)においては、クリヤー層4における染料濃度が高すぎて再帰反射強度が低下するため質感が悪くなる。
【0019】なお、上記染料濃度Cによる質感への影響はクリヤー層4の膜厚Tによっても当然変わるので、染料濃度Cを種々変えてクリヤー層4の膜厚T(μ)と染料透過率R(%)との関係を調べたところ、図3に示す結果が得られた。
【0020】上記結果によれば、例えば染料透過率R=53(%)に関して染料濃度Cと膜厚Tとの関係を考察すると、染料濃度Cが2倍となると、膜厚Tを約1/2となることがわかる。このことは、染料濃度Cが高くなると、クリヤー層4における単位厚さ当たりの光吸収度が高くなるためと推察できる。なお、この傾向は、ブルー系染料を用いた場合に限らず他の有彩色でも同様である。
【0021】そして、染料透過率Rが53〜80%の範囲がクリヤー層4として適当であることを勘案すると、図3において領域Zで示す範囲において効果が大きいことがわかる。
【0022】さらに、虹光I′における赤の波長特性(換言すれば、反射率L)を、従来例(即ち、無色クリヤー層を用いたもの)Aと本実施例(膜厚T=40μ、染料濃度C=4wt%)Bとを比較して調べたところ、図4に示す結果が得られた。
【0023】これによれば、本実施例のものの場合、虹現象中における赤の波長fが従来例のものに比べて大幅に低減していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明の実施例にかかる塗膜構造を示す断面図である。
【図2】クリヤー層(膜厚40μ)におけるブルー系染料濃度Cと塗膜の質感Fとの関係を示す特性図である。
【図3】クリヤー層におけるブルー系染料濃度Cをパラメータとしたクリヤー層の膜厚Tと染料透過率Rとの関係を示す特性図である。
【図4】従来例と本実施例とにおいて波長f(μm)と反射率Lとの関係を示す特性図である。
【符号の説明】
1は基板、2は着色反射層、3は再帰反射材(ガラスビーズ)、4はクリヤー層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定の基板上に形成された着色反射層と、該着色反射層の表層側において均一且つ緻密に配設された再帰反射材と、該再帰反射材の表層側に設けられたクリヤー層とを備えた塗膜構造であって、前記クリヤー層の染料色が前記着色反射層の色と同系色とされていることを特徴とする塗膜構造。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate


【公開番号】特開平6−170328
【公開日】平成6年(1994)6月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−325487
【出願日】平成4年(1992)12月4日
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)