説明

塗装システム

【課題】環境および省エネルギーの観点から中塗り塗膜を省略しても、従来の中塗り塗膜を含む複層塗膜と比較して遜色ない仕上がり外観および意匠性(色相、発色性)を得ることができる塗装システムの提供。
【解決手段】被塗物の表面に電着塗膜を形成する2槽の電着槽;および電着塗装される被塗物を搬送する搬送手段;を少なくとも備える電着塗装システムであって、 該2槽の電着槽が、明度指数L値が25以上60未満である硬化電着塗膜が形成されるカチオン電着塗料組成物(1)を含む第1電着槽、明度指数L値が60以上90以下である硬化電着塗膜が形成されるカチオン電着塗料組成物(2)を含む第2電着槽である、電着塗装システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体などの大型被塗物の塗装に有用な塗装システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの基材の表面には、種々の役割を持つ複数の塗膜を形成して、基材を保護すると同時に美しい外観が付与されている。自動車車体等の塗装は一般に、導電性基材である被塗物に電着塗装がなされ、次いで中塗り塗装、上塗り塗装がなされている。
【0003】
しかし、近年、省エネルギーおよびコストダウンの要請から、上記塗装工程の1部を省く方法も採用されつつある。この簡略化の1態様として、中塗り塗装を省く方法がある。
【0004】
電着塗装により得られる電着塗膜は、一般に黒色または灰色などの無彩色である。中塗り塗装を省いて、電着塗膜の上に白色または有彩色の上塗り塗料組成物を直接塗装する場合、上塗り塗膜の隠ぺい性が不十分であるためにその下にある電着塗膜の色の影響を受けてしまうことがある。この場合、上塗り塗料組成物を塗装しても、目的とする色彩を有する複層塗膜を得ることができない。
【0005】
このような不都合を回避すべく、例えば、特開2002−79172号公報(特許文献1)には、工程1として、自動車ボディなどの金属製被塗物に、塗膜の塗色が灰色、又は黒であるカチオン電着塗料(1)を塗装して電着塗膜を形成する工程、工程3として、カチオン電着塗膜(1)を有する被塗物に、塗膜の塗色が有彩色、又は白であるカチオン電着塗料(2)を塗装して電着塗膜を形成する工程、さらに、工程6として、カチオン電着塗料(2)とマンセル表示の色相で同系色の有彩色、又は白の上塗り塗料を塗装する工程を特徴とする塗膜形成方法が開示されている。特許文献1には、この方法によって上塗り塗膜の下地隠ぺい性が改善され、中塗り塗装工程を省略することが可能になると記載されている。しかしながら、この方法は1つの被塗物に2度電着塗装を行う方法であり、本発明とは異なるものである。
【0006】
また、特開2002−113413号公報(特許文献2)には、工程(1)として、自動車ボディなどの袋構造を有する金属製被塗物に、カチオン電着塗料(A)を塗装して電着塗膜を形成する工程、工程(3)として、カチオン電着塗膜(A)を有する被塗物に、カチオン電着塗膜(A)が未硬化のままカチオン電着塗料(B)を塗装する工程を特徴とする塗膜形成方法が開示されており、さらに、この塗膜形成方法は、カチオン電着塗料(B)の塗色が、次に塗装される上塗り塗料(C)の塗色とマンセル表示の色相で同系色の有彩色、又は無彩色の白であるカチオン電着塗料(B)を塗装することを特徴とする。しかしながら、この方法もまた、1つの被塗物に2度電着塗装を行う方法であり、本発明とは異なるものである。
【0007】
また、特開2002−35691号公報(特許文献3)には、工程1として、自動車ボディなどの金属製被塗物に、塗膜の塗色(色彩)が有彩色又は無彩色の白であるカチオン電着塗料を塗装して電着塗膜を形成する工程、工程4として、下地の電着塗膜の塗色と、マンセル表示の色相で同系色の有彩色、又は無彩色の白である上塗り塗料を塗装する工程を含むことを特徴とする塗膜形成方法が開示されている。この方法によって、上塗り塗膜の下地隠ぺい性が改善され、中塗り塗装工程を省略することが可能になる。この方法は、電着塗料と上塗り塗料が同系色であることを特徴とする。一方、自動車ボディの塗色としてユーザーの要望に応じるため、種々の色が求められている。このような現状においてこの方法で塗装を行う場合は、塗装する色の数に応じた設備を設けなければならず、設備費用面で不利である。
【0008】
また、特開2002−53997号公報(特許文献4)には、工程1として、自動車ボディなどの金属製被塗物に、塗膜の色彩(塗色)が有彩色、又は無彩色の白であるカチオン電着塗料を塗装して電着塗膜を形成する工程、工程4として、下地の電着塗膜の塗色と、マンセル表示の色相で同系色の有彩色、又は無彩色の白である上塗り塗料を塗装する工程であり、該塗料が着色ベースコート(A)、メタリックベースコート(B)、クリアートップコート(C)の3層を塗装する工程を含むことを特徴とする塗膜形成方法が開示されている。この方法もまた、上記と同様に設備費用の面で不利である。
【0009】
また、特開2002−159909号公報(特許文献5)には、工程1として、自動車ボディなどの袋構造を有する金属製被塗物に、塗膜の色彩(塗色)が有彩色、又は白であるカチオン電着塗料(I)を塗装して電着塗膜を形成する工程、工程3として、さらに上記工程で作成した塗板に、塗膜の色彩(塗色)が有彩色、又は白であるカチオン電着塗料(II)を塗装して電着塗膜を形成する工程、工程5として、カチオン電着塗料(II)の塗膜の塗色と、次に塗装される上塗り塗料の塗色がマンセル表示の色相で同系色の有彩色又は白である上塗り塗料を塗装する工程で、該上塗り塗料が着色ベースコート(A)、メタリックベースコート(B)、クリアートップコート(C)の3層を塗装する工程を含むことを特徴とする塗膜形成方法が開示されている。この方法もまた、上記と同様に設備費用の面で不利である。
【0010】
また、特開2002−248412号公報(特許文献6)には、工程1として、自動車ボディなどの金属製被塗物に、その組成物中に導電剤を含有し硬化塗膜の塗膜固有抵抗が1012Ω・cm以下となるカチオン電着塗料(A)を塗装し、水洗後、得られた塗膜を硬化乾燥する工程、工程2:カチオン電着塗膜(A)を有する被塗物に、塗色が有彩色、又は白であるカチオン電着塗料(B)を塗装し、水洗後、得られた塗膜を硬化乾燥する工程、工程3:さらに上塗り塗料(C)を塗装し、得られた塗膜を硬化乾燥する工程、により塗膜を形成することを特徴とする塗膜形成方法が開示されている。この方法もまた、上記と同様に設備費用の面で不利である。
【0011】
また、特開2002−339099号公報(特許文献7)には、工程1として、自動車ボディなどの袋構造を有する被塗物に、塗色が有彩色、又は白であるカチオン電着塗料(1)を塗装して塗膜を形成する工程、工程3として、上記工程で得られた被塗物に、カチオン電着塗料(2)を塗装して塗膜を形成する工程、工程5として、カチオン電着塗料(1)の塗膜の塗色と、マンセル表示の色相で同系色の有彩色、又は白の上塗り塗料を塗装する工程で、該上塗り塗料が、着色ベースコート(A)、メタリックベースコート(B)、クリアーコート(C)の3層からなる上塗り塗料を塗装する工程を特徴とする塗膜形成方法が開示されている。この方法もまた、上記と同様に設備費用の面で不利である。
【0012】
また、当該分野では、環境および省エネルギーの観点から中塗り塗膜を省略しても、従来の中塗り塗膜を含む複層塗膜と比較して遜色ない仕上がり外観および意匠性(色相、発色性)を得ることができ、さらに、塗装工程において生じる揮発性成分を低減(低VOC)することができ、そして優れたメンテナンス性を有し塗装設備コストを削減することができる新たな塗装システムの開発が望まれている。
【0013】
【特許文献1】特開2002−79172号公報
【特許文献2】特開2002−113413号公報
【特許文献3】特開2002−35691号公報
【特許文献4】特開2002−53997号公報
【特許文献5】特開2002−159909号公報
【特許文献6】特開2002−248412号公報
【特許文献7】特開2002−339099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、環境および省エネルギーの観点から中塗り塗膜を省略しても、従来の中塗り塗膜を含む複層塗膜と比較して遜色ない仕上がり外観および意匠性(色相、発色性)を得ることができる塗装システムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述の課題に鑑み鋭意研究した結果、2槽の電着槽を利用し、得られる硬化電着塗膜の明度指数を制御することによって、中塗り塗膜形成工程を省略した新たな塗装システムを見出した。従って、本発明は以下を提供する。
【0016】
被塗物の表面に電着塗膜を形成する2槽の電着槽;および電着塗装される被塗物を搬送する搬送手段;を少なくとも備える電着塗装システムであって、
該2槽の電着槽が、明度指数L値が25以上60未満である硬化電着塗膜が形成されるカチオン電着塗料組成物(1)を含む第1電着槽、明度指数L値が60以上90以下である硬化電着塗膜が形成されるカチオン電着塗料組成物(2)を含む第2電着槽である、電着塗装システム。
【0017】
本発明の電着塗装システムにおいて、好ましくは、前記カチオン電着塗料組成物(1)は、酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)を含み、該酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)の重量比率は、
8.5≧(b)/{(a)+(b)}×100>1.4
であり、
前記カチオン電着塗料組成物(2)は、酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)を含み、該酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)の重量比率は、
1.4≧(b)/{(a)+(b)}×100≧0
である。
【0018】
また、本発明は、上記の電着塗装システム;上塗りベース塗装システム;および上塗りクリヤー塗装システム;を包含する、複層塗膜形成塗装システムに関する。
【0019】
さらに、本発明は、上記の電着塗装システムを用いて硬化電着塗膜が形成される電着塗膜形成方法であって、
該電着塗膜形成方法は下記工程、
第1電着槽または第2電着槽のいずれかに被塗物を浸漬して電着塗装して電着塗膜を形成し、得られた電着塗膜を加熱硬化させて硬化電着塗膜を得る工程、
を包含する、電着塗膜形成方法に関する。
【0020】
また、本発明は、上記の複層塗膜形成塗装システムを用いて複層塗膜が形成される複層塗膜形成方法であって、
該複層塗膜形成方法は下記工程、
第1電着槽または第2電着槽のいずれかに被塗物を浸漬して電着塗装して電着塗膜を形成し、得られた電着塗膜を加熱硬化させて硬化電着塗膜を得る工程、
得られた硬化電着塗膜の上に、上塗りベース塗料組成物を塗布し、未硬化の上塗りベース塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の上塗りベース塗膜の上に、上塗りクリヤー塗料組成物を塗布し、未硬化の上塗りクリヤー塗膜を形成する工程、および
未硬化の上塗りベース塗膜および上塗りクリヤー塗膜を硬化させる加熱硬化工程、
を包含する、複層塗膜形成方法に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の塗装システムによれば、中塗り塗膜を省略することができる。また、本発明の塗装システムによれば、中塗り塗膜を省略しても、従来の中塗り塗膜を含む複層塗膜と比較して遜色ない仕上がり外観および意匠性(色相、発色性)を得ることができる。さらに、本発明の塗装システムによれば、塗装工程において生じる揮発性成分を低減(低VOC)することができる。さらに、本発明の塗装システムは、中塗り塗膜形成工程を含んでいないので、総工程数を減少することができ、省エネルギーを達成することができる。これにより、中塗り塗膜形成に関する維持管理などの塗装設備コストおよび労力を削減することができ、さらに、メンテナンス性に優れるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、例えば、自動車車体および自動車部品などの大型の被塗物の塗装に有用な塗装システムに関し、詳細には、電着塗装システム、上塗りベース塗装システムおよび上塗りクリヤー塗装システムを包含する複層塗膜形成塗装システムに関する。
【0023】
以下、電着塗装システム、上塗りベース塗装システムおよび上塗りクリヤー塗装システムについてそれぞれ詳細に説明する。
【0024】
電着塗装システム
本発明の電着塗装システムは2槽の電着槽、すなわち、被塗物の表面に電着塗膜を形成する第1の電着槽および第2の電着槽を備える。第1の電着槽および第2の電着槽は、下記にて詳細に説明するカチオン電着塗料組成物(1)および(2)をそれぞれ含む。第1電着槽または第2電着槽のいずれかの電着槽にて被塗物上に電着塗装を施して被塗物の表面に電着塗膜を形成し、加熱硬化の後、硬化電着塗膜を得ることができる。
【0025】
本発明で用いる搬送手段としては、特に限定されず、現行で広く実施されているスリッパーディップ方式の他、入出槽時の被塗物の角度を制御することができる搬送手段、タクト式搬送手段および回転浸漬式搬送手段などが挙げられる。
【0026】
入出槽時の被塗物の角度を制御することができる搬送手段としては、特に限定はなく、例えば、特開2005−335945号公報に示される公知の搬送手段などが挙げられる。このような搬送手段は、被搬送体の位置制御が容易であるという利点を有しており、被搬送体の姿勢を大きく変化させることが可能である。そして、このような搬送手段を用いることによって、被塗物を傾けた状態で、電着槽に入槽させ、そして同様に出槽させることができ、電着塗装ライン長を大幅に短縮できる。そのため、本発明の塗装システムが2またはそれ以上の電着槽を備えることが可能となる。また、生産リードタイムも短縮することができる。さらに、このような搬送手段は、電着槽内での被塗物の揺動が可能であり、細部のゴミおよび気泡を除去し、電着塗装品質を向上することができる。また、電着塗料組成物使用量を低減することができるので、コストおよびエネルギーを大幅に削減することができる。
【0027】
タクト式搬送手段としては、被塗物を吊り下げて搬送し、電着槽中の電着塗料組成物に被塗物を浸漬することができる搬送手段であれば特に限定されず、当業者に公知の搬送手段を使用することができる。
【0028】
回転浸漬式搬送手段としては、電着槽中の電着塗料組成物に被塗物を回転しながら浸漬することができる搬送手段であれば特に限定されず、当業者に公知の搬送手段を使用することができる。回転浸漬式搬送手段を使用することによって、被塗物を回転させながら電着槽に入れることで、気泡の発生を防ぐことができる。また、電着塗装ライン長を大幅に短縮することが可能である。
【0029】
上記搬送手段を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
図1は、本発明の塗装システムの好ましい態様の概略説明図である。この態様は、被塗物の表面に電着塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物(1)を含む第1電着槽および被塗物の表面に電着塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物(2)を含む第2電着槽;および電着塗装される被塗物を搬送する搬送手段を少なくとも備える電着塗装システムを包含する。上記搬送手段を用いて第1電着槽または第2電着槽のいずれかに被塗物を浸漬し、電着塗装して電着塗膜を形成し、得られた電着塗膜を加熱硬化させて硬化電着塗膜を得ることができる。図1に示す態様は、さらに、電着塗装システムで得られた硬化電着塗膜の上に上塗りベース塗料組成物を塗布して上塗りベース塗膜を形成する工程を包含する上塗りベース塗装システムおよび/または得られた塗膜の上に上塗りクリヤー塗料組成物を塗布して上塗りクリヤー塗膜を形成する工程を包含する上塗りクリヤー塗装システムを包含する。
【0031】
本発明の電着塗装システムは、明度指数L値が25以上60未満、好ましくは30以上60未満、より好ましくは35以上60未満である硬化電着塗膜が形成されるカチオン電着塗料組成物(1)を含む第1電着槽、ならびに、明度指数L値が60以上90以下、好ましくは70以上90以下、より好ましくは75以上85以下である硬化電着塗膜が形成されるカチオン電着塗料組成物(2)を含む第2電着槽を備える。
【0032】
明度指数L値が25以上60未満の硬化電着塗膜は、濃色の上塗り塗装に適しており、明度指数L値が60以上90以下の硬化電着塗膜は、淡色の上塗り塗装に適している。ここで、濃色とは、例えば、ブラック、ブラックメタリック、ブルーメタリック、グリーン、ブルーマイカ、パープルマイカ、シルバーメタリック、ブルー、グリーンメタリック、グリーンマイカ、オレンジ、オレンジマイカ、グレーメタリック、グレーマイカ、ゴールド、ゴールドメタリック、ゴールドマイカ、ブラックマイカなどの塗色を指し、淡色とは、ホワイト、パール、パールホワイト、レッド、レッドマイカ、イエロー、イエローマイカなどの塗色を指す。
【0033】
なお、明度指数L値は、JIS Z8729に準拠して求められ、その数値が増加するに従い被測定物質の白色度が増すこと、その数値が低下するに従い被測定物質の黒色度が増すことを意味する。明度指数L値は、例えば、「CM512m−3」(ミノルタ社製変角色差計)を用いて測定することができる。
【0034】
本発明で使用するカチオン電着塗料組成物は、上記範囲の明度指数L値を有する硬化電着塗膜を得るために、顔料として、酸化チタンおよびカーボンブラックを含む。
【0035】
カチオン電着塗料組成物(1)は、酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)を含み、酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)の重量比率は、
8.5≧(b)/{(a)+(b)}×100>1.4、好ましくは
6.1≧(b)/{(a)+(b)}×100>1.4、より好ましくは
4.8≧(b)/{(a)+(b)}×100>1.4である。
【0036】
重量比率を上記の範囲に設定することによって、明度指数L値が25以上60未満の濃色の上塗り塗装に適した硬化電着塗膜を得ることができる。
【0037】
カチオン電着塗料組成物(2)は、酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)を含み、酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)の重量比率は、
1.4≧(b)/{(a)+(b)}×100≧0、好ましくは
0.7≧(b)/{(a)+(b)}×100≧0、より好ましくは
0.4≧(b)/{(a)+(b)}×100≧0である。
【0038】
重量比率を上記の範囲に設定することによって、明度指数L値が60以上90以下の淡色の上塗り塗装に適した硬化電着塗膜を得ることができる。
【0039】
カチオン電着塗料組成物(1)によって形成される硬化電着塗膜の上に濃色上塗りベース塗膜および上塗りクリヤー塗膜を形成することによって、濃色の複層塗膜を首尾よく形成することができ、カチオン電着塗料組成物(2)によって形成される硬化電着塗膜の上に淡色上塗りベース塗膜および上塗りクリヤー塗膜を形成して、淡色の複層塗膜を首尾よく形成することができる。このように、形成する複層塗膜の色に応じて、第1電着槽または第2電着槽のいずれかで電着塗膜を形成するかを選択して複層塗膜を形成することによって、中塗り塗膜を省略しても、優れた塗膜仕上がり外観を有する複層塗膜を形成することができる。
【0040】
以下、本発明で使用するカチオン電着塗料組成物についてさらに詳細に説明する。
【0041】
カチオン電着塗料組成物
【0042】
本発明で用いるカチオン電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤および顔料を含む。
【0043】
好ましい態様において、カチオン電着塗料組成物(1)およびカチオン電着塗料組成物(2)は、いずれも、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、ならびに顔料として上記酸化チタンおよびカーボンブラックを含む電着塗料組成物である。
【0044】
アミン変性エポキシ樹脂
本発明で用いるアミン変性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。このアミン変性エポキシ樹脂は、特開昭54−4978号、同昭56−34186号などに記載されている公知の樹脂でよい。
【0045】
アミン変性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0046】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0047】
特開平5−306327号公報に記載される、下記式:
【0048】
【化1】

【0049】
[式中、Rはジグリシジルエポキシ化合物のグリシジルオキシ基を除いた残基、R’はジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた残基、nは正の整数を意味する。]で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をアミン変性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0050】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネート硬化剤とポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去する方法が挙げられる。
【0051】
特に好ましいエポキシ樹脂はオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂である。耐熱性及び耐食性に優れ、更に耐衝撃性にも優れた塗膜が得られるからである。
【0052】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されており、公知である。
【0053】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖延長することができる。
【0054】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0055】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0056】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数の種類を併用して用いてもよい。
【0057】
ブロックイソシアネート硬化剤
本発明で使用するブロックイソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネートが好ましい。ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0058】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビウレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等が挙げられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0059】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーも硬化剤として使用してよい。
【0060】
ポリイソシアネートは、脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートであることが好ましく、更に好ましくは脂肪族ポリイソシアネートである。形成される塗膜が耐候性に優れるからである。
【0061】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0062】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0063】
ブロック剤としては、低温硬化(160℃以下)を望む場合には、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムおよびβ−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤、及びホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系ブロック剤を使用するのが良い。
【0064】
顔料
【0065】
本発明で使用するカチオン電着塗料組成物は、酸化チタンおよびカーボンブラックに加えて、さらに必要に応じて、着色顔料、体質顔料などの顔料を含有していてもよい。
【0066】
顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等、が挙げられる。電着塗料組成物中にこれらの顔料が含まれる場合の顔料の量は、カチオン電着塗料組成物の固形分に対して1〜30重量%であるのが好ましい。
【0067】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0068】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性溶媒としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は、顔料100質量部に対して固形分比20〜100質量部の量で用いる。顔料分散樹脂と顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。
【0069】
他の成分
上記カチオン電着塗料組成物は、上記成分の他に、上記ブロックイソシアネート硬化剤のブロック剤解離を促進する触媒などを含んでもよい。このような触媒として、例えば、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫化合物、N−メチルモルホリンなどのアミン類、ストロンチウム、コバルト、銅などの金属塩などが挙げられる。触媒の濃度は、カチオン電着塗料組成物中のアミン変性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤合計の100固形分質量部に対し0.1〜6質量部であるのが好ましい。
【0070】
カチオン電着塗料組成物の調製
本発明で用いられるカチオン電着塗料組成物は、上に述べたアミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤、及び顔料分散ペーストを水性溶媒中に分散することによって調製される。また、通常、水性溶媒にはアミン変性エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0071】
使用される中和酸の量は、アミン変性エポキシ樹脂及びブロックイソシアネート硬化剤を含むバインダー樹脂固形分100gに対して、10〜25mg当量の範囲であるのが好ましい。上記下限は15mg当量であるのがより好ましく、上記上限は20mg当量であるのがより好ましい。中和酸の量が10mg当量未満であると水への親和性が十分でなく水への分散が困難となるおそれがある。一方、中和酸の量が25mg当量を超える場合は、析出に要する電気量が増加し、塗料固形分の析出性が低下し、つきまわり性が劣る状態となるおそれがある。
【0072】
ブロックイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にアミン変性エポキシ樹脂中の1級、2級アミノ基、水酸基、等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分な量が必要とされる。好ましいブロックイソシアネート硬化剤の量は、アミン変性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との固形分重量比(アミン変性エポキシ樹脂/硬化剤)で表して90/10〜50/50、より好ましくは80/20〜65/35の範囲である。アミン変性エポキシ樹脂とブロックイソシアネート硬化剤との固形分量比の調整により、造膜時の塗膜(析出膜)の流動性および硬化速度が改良され、塗膜の平滑性が向上する。
【0073】
カチオン電着塗料組成物に通常含まれる有機溶媒としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等が挙げられる。
【0074】
カチオン電着塗料組成物は、上記のほかに、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。また、アミノ基含有アクリル樹脂、アミノ基含有ポリエステル樹脂等を含んでもよい。
【0075】
電着塗装工程
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となるおそれがある。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0076】
被塗物は、予め、浸漬、スプレー方法等によりリン酸亜鉛処理等の表面処理の施された導体であることが好ましいが、この表面処理が施されていないものであってもよい。また、被塗物は、電着塗装を行うに当り陰極になり得るものであれば特に制限はなく、金属基材が好ましい。
【0077】
電着塗装工程は、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。
【0078】
電着塗膜の膜厚は、好ましくは5〜40μm、より好ましくは10〜25μmとする。膜厚が5μm未満であると、防錆性が不充分となるおそれがある。一方40μmを超えると、塗料の浪費につながる。
【0079】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼付けることによって、焼き付け硬化された電着塗膜が形成される。
【0080】
図1に示すように、本発明の電着塗装システムは、第1電着槽および第2電着槽を備えることによって、形成する上塗り塗膜での色に応じて、第1電着槽または第2電着槽のいずれかで電着塗膜を形成するかを選択して上塗り塗膜を形成することによって、中塗り塗膜を省略しても、優れた塗膜仕上がり外観を有する複層塗膜を形成することができる。また、同一塗装ラインで、濃色塗装用の電着塗膜ならびに淡色塗装用の電着塗膜を形成することができ、電着塗装にかかるコストを低減することができる。
【0081】
第1電着槽を使用することによって明度指数L値が25以上60未満の硬化電着塗膜が得られ、第2電着槽を使用することによって明度指数L値が60以上90以下の硬化電着塗膜が得られる。形成する上塗り塗膜での色に応じて、これらの電着槽を使い分けることによって、中塗り塗膜形成を省略するにもかかわらず、従来の中塗り塗膜を含む複層塗膜と比較して遜色ない仕上がりおよび意匠性が得られることとなる。つまり、本発明によって、電着塗膜の上に上塗りベース塗膜を形成する際、中塗り塗膜形成が不要となる。以下、上塗りベース塗装システムおよび上塗りクリヤー塗装システムについて詳細に説明する。
【0082】
上塗りベース塗装システム
本発明で用いる上塗りベース塗装システムは、上記電着塗装システムで得られた硬化電着塗膜の上に、上塗りベース塗料組成物を塗布し、未硬化の上塗りベース塗膜を形成する工程を包含する。
【0083】
本発明で用いる上塗りベース塗料組成物として、塗装分野で一般的に使用される上塗りベース塗料組成物を使用することができる。上塗りベース塗料組成物は、例えば、塗膜形成性樹脂および必要に応じて硬化剤を含む。
【0084】
塗膜形成性樹脂としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリエーテル樹脂等、当業者によく知られているものが挙げられ、これらは、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびフッ素系樹脂の少なくとも一種であることが好ましい。
【0085】
上記塗膜形成性樹脂には、硬化性を有するタイプと、ラッカータイプがあるが、通常、硬化性を有するタイプのものが使用される。硬化性を有するタイプの場合には、樹脂成分として、アミノ樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、アミン系、ポリアミド系、イミダゾール類、イミダゾリン類、多価カルボン酸等の硬化剤を含み、加熱または常温で硬化反応を進行させることができる。また、硬化性を有しないラッカータイプの塗膜形成性樹脂と、硬化性を有するタイプとを併用することも可能である。硬化剤は、アミノ樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物の少なくとも一種であることが好ましい。
【0086】
上記樹脂成分が硬化剤を含む場合には、塗膜形成性樹脂と硬化剤との割合としては、固形分質量比で、塗膜形成性樹脂/硬化剤が90/10〜50/50であり、好ましくは塗膜形成性樹脂/硬化剤が85/15〜60/40である。硬化剤が10%未満では、塗膜の硬化性が充分ではない。一方、硬化剤が50%を超えると、塗料の貯蔵安定性が低下したり、塗膜物性が低下したり、塗膜外観が悪くなる恐れがある。
【0087】
さらに、上塗りベース塗料組成物には、所望により、その他の添加剤を含有させることができる。具体的には、着色顔料(例えば、有機系のアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料等、無機系の黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等、また体質顔料として、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、タルク等)、光輝材、改質剤、紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、分散剤、消泡剤、沈降防止剤、硬化触媒、酸化防止剤、表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤などを配合することができる。当業者は、選択する添加剤に応じて、その使用量を適宜決定することができる。
【0088】
上塗りベース塗料組成物の形態としては、有機溶剤型、水性型(例えば、水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれでもよい。
【0089】
上塗りベース塗料組成物の製造方法としては、特に限定されず、塗膜形成性樹脂、必要に応じて硬化剤および/またはその他の添加剤をニーダーまたはロール等を用いて混練、分散する等の当業者に公知の方法を用いることができる。
【0090】
上塗りベース塗料組成物の塗布方法としては、特に限定されず、当業者によく知られた方法を挙げることができ、例えば、エアースプレー塗装、例えば、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、又は、エアー静電スプレー塗装と、通称「μμ(マイクロマイクロ)ベル」、「μ(マイクロ)ベル」、「メタベル」等と呼ばれる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法により、乾燥膜厚8〜20μmとなるように塗布することが好ましい。
【0091】
さらに、未硬化の上塗りベース塗膜を加熱硬化工程(例えば、120〜160℃、25分〜35分)に付して、硬化上塗りベース塗膜を得ることができる。
【0092】
本発明の塗装システムにおいて、中塗り塗膜を省略しても、上述のように、硬化電着塗膜の明度指数L値が25以上60未満であれば、濃色の上塗りベース塗料組成物をその上に首尾よく塗装することができ、また、明度指数L値が60以上90以下であれば、淡色の上塗りベース塗料組成物をその上に首尾よく塗装することができる。
【0093】
また、未硬化の上塗りベース塗膜を、上記加熱硬化することなく、次の上塗りクリヤー塗装システムに供してもよい。
【0094】
上塗りクリヤー塗装システム
本発明で用いる上塗りクリヤー塗装システムは、上記上塗りベース塗装システムで得られた塗膜の上に、上塗りクリヤー塗料組成物を塗布し、未硬化の上塗りクリヤー塗膜を形成する工程を包含する。
【0095】
本発明で用いる上塗りクリヤー塗料組成物として、塗装分野で一般的に使用される上塗りクリヤー塗料組成物を使用することができる。上塗りクリヤー塗料組成物としては、特に限定されず、例えば、塗膜形成性樹脂、必要に応じて硬化剤およびその他の添加剤を含む塗料組成物を挙げることができる。
【0096】
上記塗膜形成性樹脂としては、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0097】
透明性又は耐酸エッチング性等の点から、上記塗膜形成樹脂としてアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂と、硬化剤としてアミノ樹脂及び/又はポリイソシアネート樹脂との組み合わせ、あるいは、カルボン酸・エポキシ基硬化系を有するアクリル樹脂及び/又はポリエステル樹脂等を用いることが好ましい。
【0098】
上塗りクリヤー塗料組成物の塗料形態としては、有機溶剤型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、また必要により、硬化触媒、表面調整剤等のその他の添加剤を用いることができる。
【0099】
なお、水性型クリア塗料組成物の例としては、上記塗膜形成性樹脂を塩基(例えば、3級アミン、ジメチルエタノールアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなど)で中和して水性化した樹脂を含有するものも挙げることができる。この中和は、重合の前又は後に塩基を添加することにより行うことができる。
【0100】
上塗りクリヤー塗料組成物の塗装方法としては、例えば、スプレー法、ロールコーター法などが挙げられ、乾燥膜厚30〜40μmとなるように塗布することが好ましい。
【0101】
未硬化の上塗りクリヤー塗膜を加熱硬化工程(例えば、120〜160℃、25分〜35分)に付して、硬化上塗りクリヤー塗膜を得ることができる。
【0102】
また、前工程の未硬化の上塗りベース塗膜と共に、未硬化の上塗りクリヤー塗膜を加熱硬化工程(例えば、120〜160℃、25分〜35分)に付して、硬化上塗りベース塗膜および硬化上塗りクリヤー塗膜を同時に得てもよい(2コート1ベーク法(2C1B))。
【0103】
また、上塗りクリヤー塗料組成物の硬化または未硬化塗膜上に、さらに、上塗りクリヤー塗料組成物を塗布し、加熱硬化工程(例えば、120〜160℃、25分〜35分)に付して、さらなる硬化上塗りクリヤー塗膜を形成してもよい。
【0104】
なお、各未硬化塗膜形成の後、加熱硬化(焼付け)処理で用いられる温度より低い温度でプレヒートを行なってもよい。
【実施例】
【0105】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0106】
製造例1:カチオン電着塗料組成物Aの調製
製造例1−1 アミン変性エポキシ樹脂の調製
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)95部およびジブチル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル50部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物に、ビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体53部を添加した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0107】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0108】
続いて、ビスフェノールA61部およびオクチル酸33部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。その後、反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン11部、N−エチルエタノールアミン24部およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、アミン変性エポキシ樹脂(樹脂固形分80%)を得た。
【0109】
製造例1−2 ブロックイソシアネート硬化剤の調製
ジフェニルメタンジイソシアナート1250部およびMIBK266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチル錫ジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えてブロックイソシアネート硬化剤を得た。
【0110】
製造例1−3 顔料分散樹脂の調製
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0111】
次いで、適当な反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0112】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ、初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させ、次いで、120℃に冷却した後、先に調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0113】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散用樹脂を得た(樹脂固形分50%)。
【0114】
製造例1−4 顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに製造例1−3で得た顔料分散樹脂を84部、二酸化チタン
(デュポン株式会社製、タイピュアR900)48.7部、カーボンブラック(キャボットスペシャルティ・ケミカルズ社製、ブラックパールズ280)1.3部、焼成カオリン50部、ジブチル錫オキシド4.2部およびイオン交換水100.0部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分50%)。
【0115】
製造例1−5 バインダー樹脂エマルションの調製
製造例1−1で得られたアミン変性エポキシ樹脂と製造例1−2で得られたブロックイソシアネート硬化剤とを固形分比で80/20で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0116】
製造例1−6 カチオン電着塗料組成物の調製
製造例1−5で得られたバインダー樹脂エマルション259部および製造例1−4で得られた顔料分散ペースト107部と、イオン交換水394部とを混合して、塗料固形分20%のカチオン電着塗料組成物Aを得た。
【0117】
製造例2:カチオン電着塗料組成物Bの調製
製造例1に従い、製造例1−4で得られた顔料分散ペーストの代わりに、サンドグラインドミルに製造例1−3で得た顔料分散用樹脂を84部、製造例1−4と同種の二酸化チタン49.8部、カーボンブラック0.2部、焼成カオリン50部、ジブチル錫オキシド4.2部およびイオン交換水100.0部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して得た顔料分散ペースト(固形分50%)使用して、カチオン電着塗料組成物Bを調製した。
【0118】
製造例3:カチオン電着塗料組成物Cの調製
製造例1に従い、製造例1−4で得られた顔料分散ペーストの代わりに、サンドグラインドミルに製造例1−3で得た顔料分散用樹脂を84部、製造例1−4と同種の二酸化チタン47.6部、カーボンブラック2.4部、焼成カオリン50部、ジブチル錫オキシド4.2部およびイオン交換水100.0部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して得た顔料分散ペースト(固形分50%)使用して、カチオン電着塗料組成物Cを調製した。
【0119】
製造例4:カチオン電着塗料組成物Dの調製
製造例1に従い、製造例1−4で得られた顔料分散ペーストの代わりに、サンドグラインドミルに製造例1−3で得た顔料分散用樹脂を84部、製造例1−4と同種の二酸化チタン50部、焼成カオリン50部、ジブチル錫オキシド4.2部およびイオン交換水100.0部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して得た顔料分散ペースト(固形分50%)使用して、カチオン電着塗料組成物Dを調製した。
【0120】
製造例5:上塗りベース塗料組成物aの調製
日本ペイント社製商品名「アクアレックスAR−2000レッド」(水性レッド塗料組成物)をシンナー:イオン交換水、45秒/No.4フォードカップ/20℃の条件で希釈して上塗りベース塗料組成物aを調製した。
【0121】
製造例6:上塗りベース塗料組成物bの調製
日本ペイント社製商品名「アクアレックスAR−2000ホワイトパール」(水性パールホワイト塗料組成物)をシンナー:イオン交換水、45秒/No.4フォードカップ/20℃の条件で希釈して上塗りベース塗料組成物bを調製した。
【0122】
製造例7:上塗りベース塗料組成物cの調製
日本ペイント社製商品名「アクアレックスAR−2000シルバー」(水性シルバーメタリック塗料組成物)をシンナー:イオン交換水、45秒/No.4フォードカップ/20℃の条件で希釈して上塗りベース塗料組成物cを調製した。
【0123】
製造例8:上塗りベース塗料組成物dの調製
日本ペイント社製商品名「アクアレックスAR−2000ブラック」(水性ブラック塗料組成物)をシンナー:イオン交換水、45秒/No.4フォードカップ/20℃の条件で希釈して上塗りベース塗料組成物dを調製した。
【0124】
製造例9:上塗りクリヤー塗料組成物の調製
マックフローO−1800W−2クリヤー(日本ペイント社製酸エポキシ硬化型クリヤー塗料組成物)をシンナー:EEP(エトキシエチルプロピオネート)/S−150(エクソン社製芳香族系炭化水素溶剤)=1/1、30秒/No.4フォードカップ/20℃の条件で希釈して上塗りクリヤー塗料組成物を調製した。
【0125】
実施例1:複層塗膜の形成
実施例1−1
第1電着槽に製造例1で調製したカチオン電着塗料組成物Aを入れ、第2電着槽に製造例2で得られたカチオン電着塗料組成物Bを入れて、第1電着槽および第2電着槽の両方を用意した。冷延鋼板(JIS G 3141:SPCC−SD、150×70×0.8mm)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂し、得られた鋼板に、化成処理を施すことなく、第2電着槽にて乾燥塗膜が15μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た(明度指数L値=75)。硬化電着塗膜上に、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aをエアースプレー塗装にて13μm塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板に製造例9で調製した上塗りクリヤー塗料組成物をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分焼付けを行い、複層塗膜を有する試験片を作製した。
【0126】
実施例1−2
実施例1−1に従い、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例6で調製した上塗りベース塗料組成物bを用いて、実施例1−1と同様にして試験片を作製した。
【0127】
実施例1−3
実施例1−1に従い、第2電着槽の代わりに第1電着槽を使用し、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例7で調製した上塗りベース塗料組成物cを用いて、実施例1−1と同様にして試験片を作製した(硬化電着塗膜の明度指数L値=47)。
【0128】
実施例1−4
実施例1−1に従い、第2電着槽の代わりに第1電着槽を使用し、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例8で調製した上塗りベース塗料組成物dを用いて、実施例1−1と同様にして試験片を作製した(硬化電着塗膜の明度指数L値=47)。
【0129】
【表1】

【0130】
実施例2:複層塗膜の形成
実施例2−1
第1電着槽に製造例3で調製したカチオン電着塗料組成物Cを入れ、第2電着槽に製造例4で得られたカチオン電着塗料組成物Dを入れて、第1電着槽および第2電着槽の両方を用意した。冷延鋼板(JIS G 3141:SPCC−SD、150×70×0.8mm)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂し、得られた鋼板に、化成処理を施すことなく、第2電着槽にて乾燥塗膜が15μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た(明度指数L値=80)。硬化電着塗膜上に、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aをエアースプレー塗装にて13μm塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板に製造例9で調製した上塗りクリヤー塗料組成物をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分焼付けを行い、複層塗膜を有する試験片を作製した。
【0131】
実施例2−2
実施例2−1に従い、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例6で調製した上塗りベース塗料組成物bを用いて、実施例2−1と同様にして試験片を作製した。
【0132】
実施例2−3
実施例2−1に従い、第2電着槽の代わりに第1電着槽を使用し、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例7で調製した上塗りベース塗料組成物cを用いて、実施例2−1と同様にして試験片を作製した(硬化電着塗膜の明度指数L値=35)。
【0133】
実施例2−4
実施例2−1に従い、第2電着槽の代わりに第1電着槽を使用し、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例8で調製した上塗りベース塗料組成物dを用いて、実施例2−1と同様にして試験片を作製した(硬化電着塗膜の明度指数L値=35)。
【0134】
【表2】

【0135】
比較例1:複層塗膜の形成
比較例1−1
第1電着槽に製造例3で得られたカチオン電着塗料組成物Cを入れ、第1電着槽のみを用意した。冷延鋼板(JIS G 3141:SPCC−SD、150×70×0.8mm)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂し、得られた鋼板に、化成処理を施すことなく、第1電着槽にて乾燥塗膜が15μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た(明度指数L値=35)。硬化電着塗膜上に、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aをエアースプレー塗装にて13μm塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板に製造例9で調製した上塗りクリヤー塗料組成物をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分焼付けを行い、複層塗膜を有する試験片を作製した。
【0136】
比較例1−2
比較例1−1に従い、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例6で調製した上塗りベース塗料組成物bを用いて、比較例1−1と同様にして試験片を作製した。
【0137】
比較例1−3
比較例1−1に従い、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例7で調製した上塗りベース塗料組成物cを用いて、比較例1−1と同様にして試験片を作製した。
【0138】
比較例1−4
比較例1−1に従い、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例8で調製した上塗りベース塗料組成物dを用いて、比較例1−1と同様にして試験片を作製した。
【0139】
【表3】

【0140】
比較例2:複層塗膜の形成
比較例2−1
第2電着槽に製造例2で得られたカチオン電着塗料組成物Bを入れ第2電着槽のみを用意した。冷延鋼板(JIS G 3141:SPCC−SD、150×70×0.8mm)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂し、得られた鋼板に、化成処理を施すことなく、第2電着槽にて乾燥塗膜が15μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た(明度指数L値=75)。硬化電着塗膜上に、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aをエアースプレー塗装にて13μm塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板に製造例9で調製した上塗りクリヤー塗料組成物をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分焼付けを行い、複層塗膜を有する試験片を作製した。
【0141】
比較例2−2
比較例2−1に従い、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例6で調製した上塗りベース塗料組成物bを用いて、比較例2−1と同様にして試験片を作製した。
【0142】
比較例2−3
比較例2−1に従い、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例7で調製した上塗りベース塗料組成物cを用いて、比較例2−1と同様にして試験片を作製した。
【0143】
比較例2−4
比較例2−1に従い、製造例5で調製した上塗りベース塗料組成物aの代わりに製造例8で調製した上塗りベース塗料組成物dを用いて、比較例2−1と同様にして試験片を作製した。
【0144】
【表4】

【0145】
以下に示す色相変動評価に従って、実施例または比較例の複層塗膜と、標準塗装塗板との色差△Eを評価した。結果を表5〜8に示す。
【0146】
標準塗装塗板の作製
冷延鋼板(JIS G 3141:SPCC−SD、150×70×0.8mm)を、日本ペイント社製サーフクリーナー53を用いて脱脂し、得られた鋼板に、化成処理を施すことなく、カチオン電着塗料「パワートップU−50」(日本ペイント社製)を含む電着槽にて乾燥塗膜が15μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た。硬化電着塗膜上に、グレー色の中塗り塗料「オルガP−2グレー」(日本ペイント社製、ポリエステル・メラミン樹脂系塗料)を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で20分間焼き付けて、中塗り塗膜を形成した。得られた中塗り塗膜上に、各実施例または比較例で用いた上塗りベース塗料組成物をエアースプレー塗装にて13μm塗装し、80℃で3分プレヒートを行った。更に、その塗板に製造例9で調製した上塗りクリヤー塗料組成物をエアースプレー塗装にて35μm塗装した後、140℃で30分焼付けを行い、複層塗膜を有する標準塗装塗板を作製した。
【0147】
色相変動評価
標準塗装塗板と、実施例または比較例の試験片について、色彩色差計(ミノルタCR300、ミノルタ社製)を用いて、L*値、a*値、b*値を測色し、下記式から△Eを求めた。これらの数値は、数値間の差が小さい程、色差が小さく色相の変化が少ないことを示す。
【0148】
【数1】

【0149】
式中、L*、a*及びb*は、L*a*b*表色系(CIE 1976)による、被測定物の色を表すのに用いられる指標である。この表色系では、L*は明度を表し、明度L*は、その数値が増加するにしたがい被測定物質の白色度が増し、その数値が低下するにしたがい黒色度が増すことを意味する。そして、a*およびb*は、色相と彩度を示す色度を表す。a*およびb*は、クロマティクネス指数と呼ばれ、色の方向を表す。a*は0を基準とし、数値がマイナスになる場合は被測定物質の色相において緑色度が、数値がプラスになる場合は赤色度が増すことを意味する。また、b*は0を基準とし、数値がマイナスになる場合は被測定物質の色相が青色度を、プラスになる場合は黄色度を増すことを意味する。なおa*b*ともに0の場合は、色味がない無彩色となる。
【0150】
評価基準
○:△Eが1以下である。
△:△Eが1より大きく、3以下である。
×:△Eが3より大きい。
【0151】
【表5】

【0152】
【表6】

【0153】
実施例1および2の塗装システムでは、2つの電着槽を使い分けて電着塗装することによって、中塗り塗装を省略しても、上塗りベース塗料組成物の塗色(濃色・淡色)に関わらず、優れた意匠性(色相、発色性)を得ることができる。
【0154】
【表7】

【0155】
【表8】

【0156】
比較例1および2の塗装システムでは、2つの電着槽のいずれか一方を使用して電着塗装を行い、中塗り塗装を省略しているが、上塗りベース塗料組成物の濃淡に応じて、首尾良く意匠性(色相、発色性)を提供することができない。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の塗装システムによれば、中塗り塗膜を含まない複層塗膜を形成することができ、塗装設備コストの削減および省エネルギーを達成することができる。また、本発明の塗装システムによれば、中塗り塗膜を省略しても、従来の中塗り塗膜を含む複層塗膜と比較して遜色ない意匠性(色相、発色性)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】図1は、本発明の塗装システムの好ましい態様の概略説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物の表面に電着塗膜を形成する2槽の電着槽;および電着塗装される被塗物を搬送する搬送手段;を少なくとも備える電着塗装システムであって、
該2槽の電着槽が、明度指数L値が25以上60未満である硬化電着塗膜が形成されるカチオン電着塗料組成物(1)を含む第1電着槽、明度指数L値が60以上90以下である硬化電着塗膜が形成されるカチオン電着塗料組成物(2)を含む第2電着槽である、電着塗装システム。
【請求項2】
前記カチオン電着塗料組成物(1)は、酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)を含み、該酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)の重量比率は、
8.5≧(b)/{(a)+(b)}×100>1.4
であり、
前記カチオン電着塗料組成物(2)は、酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)を含み、該酸化チタン(a)およびカーボンブラック(b)の重量比率は、
1.4≧(b)/{(a)+(b)}×100≧0
である、
請求項1記載の電着塗装システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電着塗装システム;上塗りベース塗装システム;および上塗りクリヤー塗装システム;を包含する、複層塗膜形成塗装システム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電着塗装システムを用いて硬化電着塗膜が形成される電着塗膜形成方法であって、
該電着塗膜形成方法は下記工程、
第1電着槽または第2電着槽のいずれかに被塗物を浸漬して電着塗装して電着塗膜を形成し、得られた電着塗膜を加熱硬化させて硬化電着塗膜を得る工程、
を包含する、電着塗膜形成方法。
【請求項5】
請求項3記載の複層塗膜形成塗装システムを用いて複層塗膜が形成される複層塗膜形成方法であって、
該複層塗膜形成方法は下記工程、
第1電着槽または第2電着槽のいずれかに被塗物を浸漬して電着塗装して電着塗膜を形成し、得られた電着塗膜を加熱硬化させて硬化電着塗膜を得る工程、
得られた硬化電着塗膜の上に、上塗りベース塗料組成物を塗布し、未硬化の上塗りベース塗膜を形成する工程、
得られた未硬化の上塗りベース塗膜の上に、上塗りクリヤー塗料組成物を塗布し、未硬化の上塗りクリヤー塗膜を形成する工程、および
未硬化の上塗りベース塗膜および上塗りクリヤー塗膜を硬化させる加熱硬化工程、
を包含する、複層塗膜形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−41084(P2009−41084A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209091(P2007−209091)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】