説明

塗装ブース用空調システム

【課題】あまりエネルギーを使用することなく、且つ/又は、あまり費用を掛けないで動作して所望の結果を得るシステムを提供すること。
【解決手段】スプレーブースで使用される外気を調節する調節システムである。外気は、調節された後、スプレーエリアからコーティング材のミスト、塵及び汚染物を取り去るために使用される。調節システムは、外気を加熱、冷却、加湿及び除湿して、変動可能な目標値に調節する。この変動可能な目標値は、乾球温度と相対湿度とによって拘束されており、費用及び/又はエネルギーを最小に抑えることに基づいて選択される。更に、目標値の選択は、将来予想される天候状態に基づいて行われることも可能である。将来予想される天候状態は、限定された領域における以前の天候状態及び天候の傾向の数学的なプロファイルで決定される。限定された領域とは、スプレーブースを備える製造プラントを包囲する地理的な領域である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブースの空気の取り扱いシステムに関する。詳しくは、本発明は、塗装ブースで使用される外気の調節方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば車体がコンベヤで連続的にスプレーブースを通り抜けるように搬送されている間に塗装される場合、(ブースの外で)調節された空気の質は非常に重要である。基本的には、外気(大気)は、スプレーブース内に送られる前に調節エリアを通る。調節された空気は、吸気ファンによって、プレナム室に導かれ、次いで、所定の流速で下方に排出されてスプレーブース内に入る。スプレーブース内において、調節された空気は、蒸発した有機溶剤を含むコーティング材のミストとともに排出ファンによってスプレーブースの下方に排出される。空気が下方へ流れて排出されるので、塗装された車体表面の品質低下を引き起こす可能性のあるコーティング材のミスト又は塵がスプレーブース内で散乱して漂流することはない。また、この下方への空気流は、スプレーブース内の作業者の労働環境の安全にも貢献する。
【0003】
外気を適正に処理するために、周知のスプレーブースシステムは、外気を調節エリアに通して、外気の性質を調整する。調節エリアは、塵又は汚染物を除去するフィルタと、外気を暖めるための予熱器及び再熱器と、外気を加湿及び冷却する加湿器と、外気を冷却する冷却コイルとを、備えており、これらの装備で調節された空気を一定の温度及び湿度でスプレーブース内に送り込む。典型的な高生産量車両スプレーブースで塗装が安全且つ適正に行われるためには1分当たり100000立方フィートを超える空気流が必要なので、この調節エリアの役割は重要である。
【0004】
周知のスプレーシステムは、上記のような構成を実現させるために、調節システムの入口にあるセンサがリアルタイムで外界の天候のデータを収集する反応型制御システムを使用している。その際、PID(proportional integral derivative)制御アルゴリズムを使用するPLC(programmable logic controller)は、調節システムが外気を所望の目標値に調整するための適正な設定条件を決定する。
【0005】
所望の目標値は、特定の乾球温度及び相対湿度と、を有する。乾球温度は、空気に晒されており放射及び水分から遮蔽されている温度計によって測定される空気の温度である。相対湿度は、空気中の水蒸気量と、その空気が同温で保持できる最大の水蒸気量と、の比である。
【0006】
特定の乾球温度及び相対湿度からなる目標値は空気線図上で特定できる。この空気線図は、一定の圧力における空気の物理的な特性を示すグラフである。空気線図は、乾球温度、湿球温度、露点、相対湿度、混合比、比エンタルピー及び比体積等の空気の各種特性に関係している。特定の高さにおける空気の全特性のうちの2つの特性のみを最初に知ることによって、該空気の全ての特性を決定することができる。好ましくは、空気線図を構成するデータは、制御器のルックアップテーブルに記憶されており、これによって、空気調節システムの制御は簡素化される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の周知のシステムは、外気を目標値に調整する際、どのような方法が最も経済的に効率が良いのか或いはどのような方法が最もエネルギーの面で効率的であるのかを考慮していない。更に、目標値は、所定の範囲内で旧来から固定されている値であり、外気の状態に従って所定の範囲内で変わるものではない。また、周知のシステムは、将来予想される外気の状態に基づいて外気を調整するものではない。従って、あまりエネルギーを使用することなく、且つ/又はあまり費用を掛けないで動作して、所望の結果を得るシステムを提供するためには技術的な余地が依然としてかなりある。
【0008】
従って、スプレーブースで使用される外気を良好に調節する方法が当業界で求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はスプレーブース用の外気を調節する方法及び装置に関する。特に、本発明は、車両用のスプレーブースに使用される外気を調節する方法及び装置に関し、外気を調節するために消費されるエネルギーの量及び/又は費用を使用して、所定の範囲内にある目標値を決定する。
【0010】
詳しくは、本発明は、外気が所定範囲内の変動可能な目標値に調整される調節システムに関する。変動可能な目標値の選択は、スプレーブース内で安全な状態を維持するとともに車両の塗料の欠陥を最小限にすること等の、目標値を選択する際の考慮すべき従来事項に基づいている。しかし、本発明の変動可能な目標値の選択は、外気を調節する際に使用するエネルギーの量を最小にすること、及び/又は、外気を調節する際に掛かる費用を最小にすることにも関係している。更に、本発明は、予想される将来の天候状態に基づいて、変動可能な目標値を選択することを任意で考慮してもよい。例えば、変動可能な目標値が直近の天候状態ではなく将来予想される天候状態に基づいて選択する際、比較的少ないエネルギー又は比較的少ない費用で済ませることができる。
【0011】
本発明によると、制御器は、外気の乾球温度及び相対湿度の測定値等の外界の天候データを、天候データの数学的なプロファイルとともに利用して、調節システムの設定条件を決定する。この設定条件は、最も経済的なものか或いはエネルギーの面で最も効率的なものである。或いは、この設定条件は、最も経済的であるとともにエネルギーの面で最も効率的なものである。数学的なプロファイルは、限定された領域における以前の天候状態及び天候の傾向に基づいている。この限定された領域とは、ブースエリアを備える製造プラントを直接包囲する領域である。
【0012】
本発明の上記特徴及び他の更なる特徴は以下の記載及び添付図面から明白である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1〜図3を参照すると、本発明に係わる車体のスプレー塗装の際に使用される空気の調節システム10が示されている。調節システム10は、調節エリア12とブースエリア14とで構成されている。調節エリア12は、制御器16と、入口18と、吸気温度センサ20と、吸気湿度計22と、第1フィルタ24と、予熱器26と、冷却コイル28と、加湿器30と、再熱器32と、吸気ファン34と、を備えている。
【0014】
ブースエリア14は、上方プレナム部36と、下方プレナム部38と、スプレーエリア40と、下方エリア42と、に分割されている。上方プレナム部36は、入口44と、拡散プレート46と、を備えており、下方プレナム部38は、第2のフィルタ48と、天井フィルタ50と、を備えている。上方プレナム部36は、更に、ブース温度センサ52と、ブース湿度計54と、を備えている。スプレーエリア40は、本実施例では車両である対象物58に塗料又はコーティング材を塗布するスプレー設備56を備えている。スプレーエリア40の下方には、スクラッバー60と排気ファン62とが在る。
【0015】
調節エリア12は、基本的に、ブースエリア14の上方に位置しており、大体、入口18は建物の屋上に在る。しかし、調節エリア12の位置は特別重要なものではない。一番重要なのは、大量の空気へのアクセスである。
【0016】
図2に示されるように、吸気温度センサ20と、吸気湿度計22と、予熱器26と、冷却コイル28と、加湿器30と、再熱器32と、吸気ファン34と、ブース温度センサ52と、ブース加湿器54と、排気ファン62と、は制御器16に電気的に接続されている。しかし、上記部品20、22、26、28、30、32、34、52、54、62を制御器16に接続するためのワイヤレス通信手段又は光ファイバ通信手段等の他の手段を用いることも可能である。
【0017】
図2は、予熱器26と冷却コイル28と加湿器30と再熱器32とが制御器16に接続されていることを示しているが、予熱器26と冷却コイル28と加湿器30と再熱器32とは、アクチュエータ及び制御弁に接続されており、このアクチュエータ及び制御弁が制御器16に接続されていることを理解されたい。アクチュエータ及び制御弁は、本発明では中心的な存在ではないので、図示されていない。
【0018】
吸気温度センサ20は、外気が入口18に入る際にこの外気の温度を測定して、この測定された温度の情報は制御器18に送信される。更に、吸気湿度計22は、外気が入口18に入る際にこの外気の絶対湿度を測定する。吸気湿度計22及びブース湿度計54は、当業界では周知であり、任意で乾球温度を感知する。湿度計22、54は、水分が物質に吸収されるとその物質の電気抵抗が変化するという原理に基づいて動作する。従って、2本の導線間を通る電流の抵抗と空気の電気抵抗とを比較すれば、絶対湿度が決まる。絶対湿度は相対湿度に変換可能である。
【0019】
若しくは、乾球温度と湿球温度とを測定することによって相対湿度を決める。乾球温度と湿球温度とを制御器16に入力した後、制御器16は空気線図に似たルックアップテーブルにアクセスして、外気の相対湿度を知ることができる。
【0020】
前述したように、空気線図は、一定の圧力における空気の物理的な特性を示すグラフである。空気線図は、乾球温度、湿球温度、露点、相対湿度、混合比、比エンタルピー、比体積等の空気の各種特性に関連している。特定の高さにおける空気の全特性は、そのうちの2つの特性のみを最初に知ることによって、決定される。空気線図からのデータは、全て、制御器16のルックアップテーブルに記憶されていることが好ましい。
【0021】
予熱器26及び再熱器32は、周知のように、外気を加熱するものであり天然ガス又は油によって点火される。又は、予熱器26及び再熱器32は、周知のように、電気抵抗ヒータを使用して外気を加熱する。予熱器26は、寒い天候時に、外気を加熱して、その後、その外気をブースエリア14で使用するために重要である。再熱器32は、暖かい天候時に、外気が冷却コイル28によって冷却された後で、その外気をブースエリアが求める程度まで加熱するために重要である。
【0022】
第1のフィルタ24、第2のフィルタ48及び天井フィルタ50(まとめてフィルタ24、48、50)は、任意で提供されており、数多くの役目を果たす。例えば、フィルタ24は外気から粒子を取り除き、フィルタ48、50は、調節された空気から微粒子を取り除く。フィルタ24、48、50の素材は当業界で周知の様々な素材である。
【0023】
冷却コイル28は外気の温度及び湿度を調整する。冷却コイル28は、吸気温度センサ20によって生成される信号に応じて必要なときに、外気から余分な水を取り除くように動作可能である。冷却コイル28の内部を流れるクーラント/冷媒流体と外気との間での熱伝達が良好に行われるために、冷却コイル28は金属製の管状材料で構成されていることが好ましい。銅製の管状材料で冷却コイル28が構成されていると更に好ましい。
【0024】
加湿器30は、複数のノズル(不図示)を備えており、これら複数のノズルは、加湿器に入ってくる外気流に面している。外気流に面する位置にノズルが配置されているので、調節システム10に入る水は確実に完全に蒸発し、調節されているときの外気を良好に加湿させる。しかし、他の種類の加湿器を使用してもよく、本発明は、本書の加湿器30に限定されない。
【0025】
吸気ファン34及び排気ファン62は、当業界では周知の高性能速度可変型のファンである。
【0026】
図3は調節エリア12を示している。冬の動作モードにおいて、先ず最初に、予熱器26は外気を暖める。次いで、外気は第1のフィルタ24を通過する。そして、加湿器30は、外気の絶対湿度/相対湿度を調整する。
【0027】
夏の動作モードにおいて、最初、外気は第1のフィルタ24を通過する。次いで、冷却コイル28は外気を冷却する。外気が冷却コイル28を通過した後、再熱器32は、外気を加熱して、外気に対する最終的な温度調整を行う。
【0028】
冬の動作モード及び夏の動作モードの両方のモードにおいて、外気は、再熱器32の付近の領域を去った後、吸気ファン34を通過する。吸気ファン34を通過した外気は、調節された空気としてみなされる。調節エリア12の全体のレイアウト及び構造は当業界で周知のものである。
【0029】
調節された空気は、その後、入口44を介してブースエリア14に入り、上方プレナム部36の拡散プレート46の周囲を通過する。調節された空気は、拡散プレート46によって、確実に上方プレナム部36内で均等に分散する。調節された空気は、その後、下方プレナム部38の第2のフィルタ48を通過して、天井フィルタ50を通って、スプレーエリア40内に入る。ブースエリア14のレイアウト及び構成は、本発明の中心的なものではなく、その他の周知のブースのレイアウトも可能である。スプレーエリア40において、調節された空気は、塗料又はコーティング材の塗布を行うスプレー設備56からコーティング材のオーバースプレー/ミスト、及び/又は、塵を吸収する。オーバースプレー及び/又は塵をスプレーエリア40から取り除くことによって、コーティング過程の質は向上し、作業者が吸い込む空気の質は向上し、スプレーエリア40で爆発が起こる危険性は低下する。
【0030】
ブースエリア14の上方プレナム部36に位置するブース温度センサ52及びブース湿度計54は、ブースの乾球気温及び絶対/相対湿度をそれぞれ感知し、このブースの乾球気温及び絶対/相対湿度を制御器16に通知する。またブース湿度計54は、任意で、ブースの乾球気温を感知して制御器16に通知することもできる。
【0031】
調節された空気は、スプレーエリア40を通り抜けた後、スクラッバー60を備える下方エリア42を通過する。調節された空気は、下方エリア42を通り抜ける間に清潔な状態になり、スプレーエリア40で捕獲された汚染物が取り除かれる。調節された空気は、その後、排気ファン62によって排出される。
【0032】
スプレーエリア40における調節された空気の適正な温度及び相対湿度は、コーティング作業には非常に重要である。例えば、塗料の粘度は、スプレーエリア40内の温度に依存する。更に、相対湿度が十分に高くない場合、スプレーエリア40内で発生する火花によって爆発が起きる可能性がある。可燃性のある領域では、相対湿度は少なくとも55%であることが望ましい。また、相対湿度が適正に制御されていない場合、塗料/コーティング材に使用される溶剤が適正に急速に流れることができないとともに塵を制御することができない可能性がある。
【0033】
図4は、旧来の調節システムによる外気の調節を空気線図に示したものである。この図4に示された例において、外気は、温度が約35℃、相対湿度(RH)が50%であり、この温度及び相対湿度は、典型的な夏日の温度及び相対湿度を示すものである。この従来の調節システムは、約22.8℃及び65%のRHである旧来の目標値を使用している。この旧来の目標値は、温度及び相対湿度の許容値の範囲の中心になるように選択された点である。この許容値の範囲は、ブースエリア14で使用される塗料の供給体によって提供される情報に基づいている。前述したように、外気を調節することによって、ブースエリア14の安全を保つとともに、車両58の塗装表面の品質の欠陥を最小限にする。
【0034】
図4に示された例において、予熱器26及び再熱器30は作動しない。先ず、外気は冷却コイル28を通過して、外気は約16℃及び100%のRHになるように冷却される。そして、この部分的に調節された空気は、再熱器32を通過して、暖められて、求められるような22.8℃及び65%のRHの調節された空気となる。しかし、この旧来の方法が外気を過剰に冷却していることは図6に示される本発明の方法を観ると明らかである。この過剰な冷却は、結果的には、エネルギー及び費用の浪費となる。このような過剰な冷却が行われてエネルギー及び費用の浪費を招く理由は、外気が常に旧来の目標値に調節されており、本発明で示されるその他の許容可能な目標値(例えば、変動可能な目標値)に調節されないことである。
【0035】
図5は、変動可能な目標値の許容可能(適正)な値を示している。この例では、前述の旧来の目標値である約22.8℃及び65%のRHの他に、22.8℃から±2.8℃の温度範囲と65%から±5%のRHの範囲とからなる許容可能な状態の範囲があり、この範囲の限界値は、ほぼ平行四辺形状となって空気線図上に示されている。また、許容可能な状態の範囲は、22.8℃から±2.8℃の温度範囲と65%から±15%のRHの範囲とからなるものでもよい。しかし、RHの範囲は65%から±5%の範囲であることが好ましい。許容可能な状態の範囲は、旧来の目標値の場合のように、塗料の供給体によって提供される。本発明においては、更に、外気を常に旧来の目標値に調節する代わりに、本発明の制御器16は、外気を変動可能な目標値に調整するように調節システム10に指示する。図示された例では、変動可能な目標値は、調節された空気が22.8℃±2.8℃であり相対湿度が65%±5%という限定事項によって拘束されているだけである。制御器16は、後述するように、費用或いはエネルギーの消費を最小にする変動可能な目標値を選択する。
【0036】
図6は、外気に対する本発明の調節の手順(経路)を空気線図で示したものである。外気の状態は図4における外気の状態と同じである。しかし、本発明は、外気を旧来の目標値である22.8℃及び65%のRHに調節するのではなく、約25.6℃及び70%のRHからなる変動可能な目標値に調節するので、エネルギー及び金銭の節約となる。つまり、変動可能な目標値に到達するように外気を冷却する場合、旧来の目標値の場合ほど冷却する必要はないので、エネルギー及び金銭の節約となる。
【0037】
図7及び図8は、外気を旧来の目標値に到達させるまでの調節手順と、外気を本発明の変動可能な目標値に到達させるまでの調節手順と、を示しており、両者を以下で比較する。図7及び図8において、外気は温度が約31.3℃及びRHが50%である。図7に示されるように、従来の調節システムは、外気を冷却して16℃及び100%のRHにしてからこの外気を加熱して従来の目標値である22.8℃及び65%のRHにすることによって、外気の調節を行う。しかし、図8に示されるように、本発明の外気の調節は、外気を冷却して約25.6℃及び70%のRHにするだけである。図6及び図8の2つの例では変動可能な目標値が約25.6℃及び70%のRHであるが、図5に示された許容可能な状態の範囲以内であれば、その他の目標値でもよい。
【0038】
変動可能な目標値の選択は、エネルギー消費を最小にすることに基づいている。例えば、外気を或る目標値まで調節する際、その或る目標値が外気の状態に近くすることによって、消費するエネルギーは、外気を旧来の目標値に調節する場合に比べて、全体的に少なくすることができる。従来の外気調節方法は、外気を固定された目標値に常に調節するものであった。外気を調節する際、調節する外気の目標値を空気線図上で外気の状態に近い値にすることは過去に考慮されていなかった。従来の方法は、外気の状態を考慮せずに、固定された目標値に外気を機械的に調節するものであった。また、従来の方法は、どのような目標値にすれば、消費するエネルギーを最小限に抑えられるのかという観点に関連するものではなかった。
【0039】
変動可能な目標値の選択は、また、費用を最小にすることに基づくこともできる。これは、外気の状態に最も近い目標値を選択することによって使用されるエネルギーを少なくするか、或いは、高価であると思われている或る形態のエネルギーの使用を最小にする目標値を選択することによって実現可能である。外気の状態に最も近い目標値を選択する過程は、エネルギーを最小にする前述の過程と同じなので、以下では、高価であると思われている或る形態のエネルギーの使用を最小にすることに焦点を当てて説明を行う。
【0040】
エネルギーを比較的多く使用するが費用の面で比較的効果のある変動可能な目標値に外気を調節することによって、費やす金銭を少なくすることができる。
この目標値が費用の面で比較的効果である理由は、エネルギーの価格がエネルギーの形態毎に異なることに起因している。前述したように、従来の外気調節方法は、外気を常に同じ目標値に調節する。これは、外気を調節する際に、調節される外気の目標値を空気線図上で外気の状態に近い値にすることを考慮していない。例えば、エネルギーはその種類によって単位原価が異なるので、金銭の節約をするためには、エネルギーを多く消費する方法で外気を調節する場合があることが考えられる。
【0041】
また、エネルギーの費用は1日を通じて変動する。エネルギー需要のピークがエネルギー供給を超えないようにするために、公共団体は、エネルギーを使用する時刻に従って、選択されたエネルギーの種類によって課す料金を異ならせている。例えば、電気の公共団体は、電気がピーク時に使用されているとき、料金を割増している。制御器16は、各種エネルギーの様々な費用を時刻に関連させている。これによって、制御器16は、様々なエネルギーの価格が変動する場合であっても、最も費用の面で効率的な目標値を選択することができる。
【0042】
任意で、予想される将来の天候条件を把握した上で、エネルギーを節約するという原則又は費用を節約するという原則を適用することもできる。前述したように、本発明は、限定された領域における以前の天候状態及び天候の傾向に基づく天候データの数学的なプロファイルを利用している。この限定された領域とは、ブースエリア14を備える製造プラントを直接包囲する地理的な領域である。
【0043】
詳しくは、天候状態は、外気の相対湿度及び乾球温度という2つの変数で構成されている。各変数は、以下の動的系の有限差分方程式で予測される。
n+1−X=f(X)−X
【0044】
時刻tn+1における状態は、時刻tにおける状態の関数である。時刻tn+1における状態は、制御器16に予め設定された間隔で保管されている状態データ値を部分的に内挿してから予め設定された時間間隔で外挿することによって決定される。この予め設定された時間間隔は、典型的に、15〜60分である。予想される変数は、1次微分方程式によって誤差を決定することによって絶えず修正/更新される。この1次微分方程式は、最初に予想された状態と新たな時刻tにおける状態との変数の偏差の加重合計としてモデル化されたものである。モデルの速さの誤差は、時間で前進(陽)積分されて、実際の予想の誤差を決定する。前述の有限差分方程式から得られた予想される変数は、制御器16にフィードフォワードされて、調節システム10を正しく制御する。
【0045】
従って、予想される将来の天候状態に基づいて、制御器16は、予想される将来の天候状態に比較的密接に合致する目標値に外気を調節することが有効であると判断できる。この判断によって、比較的多くのエネルギーが最初に使用されるが、将来の天候状態が変化する度に調節システム10が動作条件を繰り返し変更する必要はないので、必要とされるエネルギーは全体的には比較的少ない。
【0046】
本発明を使用する方法は図9に示されている。ステップ100において、外気の乾球温度及び相対湿度が感知される。次いで、ステップ110において、変動可能な目標値が制御器16によって決定及び選択される。前述したように、変動可能な目標値は、どの目標値が消費するエネルギーを最小にするのか、又は、どの目標値が最も経済的なのかに基づいて、決定及び選択される。更に、この分析は、限定された領域における以前の天候状態及び天候の傾向に基づいて行うことができる。
【0047】
ステップ110を実行するために、制御器16は、許容可能な状態の範囲以内にある様々な目標値に外気を調節するのに必要なエネルギーを算出する。その際、エネルギーの使用を最小にすることを目標にして外気を調節する場合、エネルギーを最小量だけ消費する目標値であると判断された目標値が選択される。費用を最小にすることを目標にして外気を調節する場合、制御器16は、各種の目標値に対応する費用を見積もり、費用が最小となる目標値が選択される。この動作は、制御器16が各種のエネルギーの費用を記憶しているので、可能となる。任意で、各種のエネルギーの費用は、前述したような変動するエネルギーの料金を反映している。前述したように、制御器16は、各種エネルギーの費用を記憶しているので、費用の面で最も効果的な目標値を選択することができる。エネルギーの価格が時刻に従って変動する場合でも、調節システム10は、費用を最小にして動作する。ステップ120において、選択された目標値に基づいて外気が調節される。
【0048】
適正に調節された空気をスプレーエリア40に供給することは非常に重要である。同時に、外気を調節することは、非常に高価で多量のエネルギーを必要とする過程である。従って、本発明は、これらの問題を変動可能な目標値を利用して対処している。本発明の調節システム10は、固定された旧来の目標値に外気を調整する必要はない。むしろ、外気は、空気の品質に対する要求を全て満たす特定の温度及び相対湿度に調節される。このとき、外気を旧来の目標値に調節する場合に比べて、使用するエネルギー及び/又は費用は少ない。
【0049】
最小量のエネルギーを消費する目標値が費用の面で最も効果的な目標値とはならないことが時折ある。従って、本発明は、エネルギーの面で最も効率的な目標値及び/又は最も経済的な目標値を制御器16が決定して選択できるようになっている。例えば、制御器16は、予熱器26を作動させるために天然ガスを比較的多く使用するが冷却コイル28を作動させる電気をあまり多くは使用しない変動可能な目標値に外気を調節することによって、消費するエネルギーの量は最小になると判断できる。このような変動可能な目標値を選択した結果、外気を常に旧来の目標値に調節する場合に比べて、全体的なエネルギーの消費が少なくなる。
【0050】
若しくは、本発明は、最も経済的な変動可能な目標値を決定して選択できる。多くの場合、エネルギーの形態が異なれば、掛かる費用も異なる。更に、エネルギーは、消費時間によって単価が異なる場合がある。例えば、予熱器26を作動させるのに使用される天然ガスは、冷却コイル28を作動させるのに使用される電気に比べて、エネルギー単位当たりでは、あまり高価なものではないときがある。また、冷却コイル28を作動させるのに使用される電気は、時刻によって費用が多く掛かったり又は少なくて済む場合がある。外気を調節するのに使用される複数のエネルギーの種類の相対的な費用に基づいて、その時点で最も経済的な形態のエネルギーを利用する変動可能な目標値を選択することができる。本発明は、外気を調節する際に、エネルギーの消費を最小にすること、及び/又は、全体の費用を最小にすること、に基づいて、変動可能な目標値が選択されることを教示している。
【0051】
本願開示は、車両をスプレー塗装する調節システム10の説明であるが、該調節システム10は、器具又は子供の玩具等の物を塗装するのにも使用可能である。更に、調節システム10は、塗料を塗布するスプレーブースとは対照的に、コーティング材を塗布するコーティングブースとともに使用してもよい。
【0052】
上述したように、本発明は、従来の型の装置に関する多くの問題を解決する。しかし、本発明の本質を説明するために図示及び記載された部品の構成、素材及び詳細事項は、特許請求の範囲で示される本発明の範囲及び原理から逸脱しなければ、当業者によって各種変更可能であることは理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】スプレーブース調節システムの前断面図。
【図2】本発明のスプレーブース調節システムの各種構成部品同士の関係を示す概略図。
【図3】調節エリアの側断面図。
【図4】外気に対する従来の調節手順を示す空気線図。
【図5】変動可能な目標値の許容可能な値の範囲を示す空気線図。
【図6】本発明に係わる外気に対する調節手順を示す空気線図。
【図7】外気に対する従来の他の調節手順を示す空気線図。
【図8】本発明に係わる外気に対する他の調節手順を示す空気線図。
【図9】本発明に係わる方法を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0054】
14 スプレーブース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーブースで使用する外気を調節する方法であって、
前記外気の乾球温度を感知するステップと、
前記外気の相対湿度を感知するステップと、
特定の乾球温度と特定の相対湿度とを有する目標値を選択するステップと、
前記外気を前記目標値に調節するステップと、
を含み、
前記目標値を選択するステップは、前記外気を調節するために必要なエネルギーの量を最小限にすることに基づくことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記特定の乾球温度は所定の温度範囲内にある請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記特定の乾球温度は20℃と25.6℃との間にある請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記特定の相対湿度は所定の相対湿度範囲内にある請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記特定の相対湿度は50%と80%との間にある請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記特定の相対湿度は60%と70%との間にある請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記目標値を選択するステップは、更に、限定された領域における以前の天候状態と天候の傾向とに基づく数学的なプロファイルに基づいている請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記限定された領域は、前記スプレーブースを備える製造プラントを直接包囲する領域である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、更に、前記目標値に調節された外気を前記スプレーブースのスプレーエリアに供給するステップを含んでいる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
スプレーブースで使用する外気を調節する方法であって、
前記外気の乾球温度を感知するステップと、
前記外気の相対湿度を感知するステップと、
特定の乾球温度と特定の相対湿度とを有する目標値を選択するステップと、
前記外気を前記目標値に調節するステップと、
を含み、
前記目標値を選択するステップは、前記外気を調節するのに必要な費用を最小限にすることに基づくことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記目標値を選択するステップは、更に、限定された領域における以前の天候状態及び天候の傾向に基づく数学的なプロファイルに基づいている請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記限定された領域は、前記スプレーブースを備える製造プラントを直接包囲する領域である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記特定の乾球温度は所定の温度範囲内にある請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記特定の乾球温度は20℃と25.6℃との間にある請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記特定の相対湿度は所定の相対湿度範囲内にある請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記特定の相対湿度は50%と80%との間にある請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記特定の相対湿度は60%と70%との間にある請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記方法は、更に、前記目標値に調節された外気を前記スプレーブースのスプレーエリアに供給するステップを含んでいる請求項10に記載の方法。
【請求項19】
スプレーブースに使用される外気を調節するシステムであって、
前記外気が前記スプレーブースに送られる前に前記外気を冷却する冷却コイルと、
前記外気が前記スプレーブースに送られる前に前記外気を加熱する予熱器と、
前記外気が前記スプレーブースに送られる前に前記外気を加湿する加湿器と、
前記外気が前記スプレーブースに送られる前に前記外気を加熱する再熱器と、
前記冷却コイルの動作と前記予熱器の動作と前記加湿器の動作と前記再熱器の動作とを制御して、前記外気の乾球温度及び相対湿度を目標値の温度及び湿度にそれぞれ調整する制御器と、
を備えており、
前記目標値の温度及び湿度は、感知された大気の状態に基づいて変動可能であり、
前記目標値の温度及び湿度は、前記外気を前記スプレーブースで使用されるのに適した状態に調節するために要するエネルギーの量を減らすために選択されていることを特徴とするシステム。
【請求項20】
前記選択された目標値の温度は所定の温度範囲内にある請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記選択された目標値の温度は20℃と25.6℃との間にある請求項20に記載のシステム。
【請求項22】
前記選択された目標値の湿度は所定の湿度範囲内にある請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記選択された目標値の湿度は50%と80%との間にある請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記選択された目標値の湿度は60%と70%との間にある請求項22に記載のシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−307531(P2008−307531A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−144272(P2008−144272)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】