説明

塗装付着強さテスト器および同テスト器による塗装付着強さのテスト方法

【課題】可搬式塗装付着強さのテスト器を提供する。
【解決手段】被テスト面としての塗装面に向かって叩打ビット8を叩打して塗装面の塗装付着強さテスト器において、叩打ビット8を内蔵し、外径が片手で握り得る程度の寸法の本体部1と、叩打ビット8が塗装面に向かって垂直方向に叩打できるように本体部を保持するガイド20とでテスト器全体を可搬式に形成し、本体部1を片手で握って塗装面に押しつけて、本体部1内のコイルバネのバネ力により叩打ビット8を塗装面に向かって叩打し、叩打ビット7の叩打面9に設けた複数列の突状による塗装面に付けられた叩打模様に基づいて当該塗装面の塗装付着強さの良否の判断を行うようにした点を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装面に塗装された塗装の付着強さを測定するテスト器および同テスト器による塗装付着強さのテスト方法に関し、特に細径の鋼線を捲回するためのリ−ルのような重量物体の表面(被塗装面)に塗装された塗装の付着強さを測定するのに好適な塗装の付着強さテスト器、および同テスト器による塗装付着強さのテスト方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装の付着強さの測定は、例えばJIS規格では、スガ式磨耗試験機を用い、静止状態にある回転輪に取り付けられた研磨紙に対して、乾燥塗膜を摩擦させることによって、その耐磨耗性を測定する方法(耐磨耗性試験)が規定されている。
このほか、乾燥塗膜を半球状の先端をもつ針でひっかくことによる貫通に対する抵抗を特定の条件下で測定する試験方法(引っかき硬度試験))もJISで規定されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の塗装の付着強さの測定は、いずれも専用の試験機を必要とするため、経済的に不利であるばかりか、試験操作が煩雑である。また被測定物を試験機まで運ばなければならないので、被測定物が細径の鋼線を捲回するためのリ−ルのような重量の大きな物である場合、被測定物の試験機への運搬に多大の労力を必要とするなどの課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、塗装の付着強さのテスト器を可搬式とした点に特徴を有する。
具体的には、本発明は、被テスト面としての塗装面に向かって叩打ビットを叩打して同塗装面の塗装付着強さをテストする塗装付着強さテスト器において、上記叩打ビットを内蔵し、かつ外径が片手で握り得る程度の寸法の本体部と、上記叩打ビットが上記塗装面に向かってほぼ垂直方向に叩打できるように上記本体部を保持するガイドとで全体構造を可搬式に形成され、上記本体部に上記叩打ビットを上記塗装面に叩打するためのコイルバネが内設され、同本体部を片手で握って上記塗装面に押しつけることにより、上記コイルバネのバネ力により上記叩打ビットが塗装面に向かって自動叩打されることを特徴とする。
【0005】
また、上記叩打ビットの叩打面に複数列の突状部が設けられていることを特徴とする。
【0006】
さらに、本発明の塗装付着強さのテスト方法は、上記被テスト面としての塗装面に向かって上記叩打ビットを叩打し、同叩打ビットの叩打面に設けられた上記複数列の突状部により上記塗装面に付けられた叩打模様に基づいて、当該塗装面の塗装付着強さの良否の判断を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の塗装付着強さテスト器は、可搬式であるので、被テスト面に当該テスト器を持ち運ぶことで塗装付着強さテストを行うことができる。したがって、本発明の塗装付着強さテスト器による被テスト面の塗装付着強さテストは、被テスト物の重量を全く考慮する必要がなく、さらに、本体部を被テスト面に押しつけるという簡単な操作で行うことができるので、テストの操作およびコストを従来の方式に較べて著しく低減することが可能となる。
【0008】
また、叩打ビットが被テスト面としての塗装面に対してほぼ垂直方向に叩打することができるように本体部がガイドで保持されているので、テストの操作が極めて簡単となり、不馴れな作業者でも、正確に操作することが可能となる。
【0009】
さらにまた、塗装面に付けられた叩打模様と、予め用意しておいた標本とを比較して、当該塗装面の塗装付着強さの良否を、たとえばA級、B級、C級というように区別してその製品(例えばリ−ル)の品質管理に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図に示す実施形態により具体的に説明する。
本発明の塗装付着強さテスト器は、叩打ビットを備えた本体部と、同叩打ビットが塗装面(被テスト面)に向かってほぼ垂直方向に叩打できるように上記本体部を保持(固定)するガイドとから構成される。
始めに、本発明の塗装付着強さテスト器の主要部(以下「本体部」という)について説明する。図4はその全体構成図であり、図5は同分解組立て図である。
【0011】
本体部1は、図4、5に示す通り、円筒体10と円筒体10の基端側に螺着される筒体11とからなる。
円筒体10は、鋼管製の中空筒体からなる。円筒体10の先端側には、径が円筒体10よりも若干小さな肉厚のトリガ−ピン19受入れ用の鋼管製の中空筒体からなる筒体11が螺合しており、これら円筒体10と筒体11とで、後に詳述するように、ガイド20の上側板部材3を挟持する構成となっている。円筒体10の基端部にヘッドプラグ17の受入れ用雄ネジ10aが刻設されている。
【0012】
筒体11の先端部は叩打ビット8の受入れ用の丸穴11aを有する先端部11が一体形成されており、この丸穴11aと筒体11の内部に形成の丸穴の先端縁との境界部にも段部11bが形成され、この段部11bは叩打ビット8の受止めストッパ−8aを止めるよう形成されている。
【0013】
円筒体10と筒体11とは同一軸芯状に組み立てられ、その中空筒体内に、基端側から順に、トリガ−ピン14、第1圧縮コイルバネ15、ハンマ−ピン13が挿入され、最後にヘッドプラグ17が円筒体10の雄ネジ10aに着脱自在に螺入締結されている。なお、この組立ては、円筒体10と筒体11とをガイド20の上側板部材3を挟さんで両部材を上側板部材3に固定してから行う。符号17aは基端面から内向くバネ受け凹溝を示している。このヘッドプラグ17を円筒体10から取り外して上記の構成部品をその組立てとの逆順序で抜き出すことにより、これらの点検や交換などを行うことができることはいうまでもない。
【0014】
トリガ−ピン14は大径な頭部14aと首部14bと小径な脚軸部14cとをそなえた鋼棒からなり、その頭部14aが叩打ビット8のヘッド部8aに押し付け固定され、他方第1圧縮コイルバネ15は円筒体10に設けたストッパー部10bへ押しつけ固定されるようになっている。
【0015】
トリガ−ピン14の部14aとストッパー部10bとの間に、第1圧縮コイルバネ15がトリガ−ピン14の脚軸部14cへ巻き付けられて配設されている。この第1圧縮コイルバネ15の切り離し一端部15bはトリガ−ピン14の首部14bの脚軸部14c側の段部に当接し、第1圧縮コイルバネ15の切り離し他端部15aは、約1巻き分だけ変形された状態としてストッパー部10bに接支しており、この構成によりトリガ−ピン14の脚軸部14cがハンマーピン23の中心孔13aと偏心するように変向された状態になっている。
【0016】
ハンマ−ピン13はその中心部にトリガ−ピン14の脚軸部を逃がし入れる中心孔13aを備えた鋼材からなり、ヘッドプラグ17と向かい合う相互間に介挿された第2圧縮コイルバネ16の背圧を受けて、円筒体10のヘッドプラグ17側のストッパー部10cに押しつけられる構成となっている。
つまり、第2圧縮コイルバネ16の張力(弾圧勢力)は第1圧縮コイルバネ15のそれよりも強く設定されており、トリガ−ピン14の脚軸部14cと、ハンマ−ピン13における対応的なトリガ−ピン14の脚軸部14cを逃がし入れる中心孔13aとは、芯出し状態を連通した構成となっている。
【0017】
この実施形態の塗装付着強さ簡易テスト器の本体部1は上述の構成となっており、その叩打ビット8の先端面を被テスト塗装面に叩打して当該塗装面の付着強さのテストを行うのであるが、そのテスト方法を次ぎに述べる。
【0018】
本体部の丸穴11aに所定の叩打ビット8を装着してから、本体部1を被テスト(塗装)面に対して垂直状に保持し(本体部1を被テスト塗装面に対して垂直状に保持するガイドについては後に詳術する)、本体部1(円筒体10と筒体11の部分)を片手で握り持って本体部1を被テスト(塗装)面に強く押しつける。
【0019】
そうすると、第1圧縮コイルバネ15の付勢力に抗してトリガ−ピン14が退動する。トリガ−ピン14の退動により脚軸部14cが、ハンマーピン13の中心孔13aに対する当初の偏芯状態から芯出し状態となる。この状態になるや否や、引続き第2圧縮コイルバネ16の強い背圧を受けたハンマ−ピン13とトリガ−ピン14とによって、叩打ビット8が自動的に叩打運動を起こし、被テスト塗装面を叩打することになる。叩打力は第2圧縮コイルバネ16のバネ力の調節により調節することができる。
【0020】
叩打ビット8の叩打面9には、図7〜図10に示す通り、直線状の突起9aが複数本並列状に突出形成されている。
突起9aは、図8、10に示す通り、断面をほぼ半球形状に形成されている。この半球形状の突起9aの径は、当該リ−ルに巻き付けられる線材の径のほぼ2倍(あるひはそれ以下)程度が望ましい。
【0021】
次ぎに、本体部1を被テスト塗装面に対して垂直状に保持するためのガイド20について説明する。
ガイド20は、図1〜3に示すように、3本の同じ形状の円柱体(柱体)2と各円柱体2の上下側に配設される上側板部材3、下側板部材4と、各円柱体2に緩く嵌挿され両板部材3、4間に配設されたコイルバネ5(各コイルバネ5は同じ材質、形状、自然長さ、バネ強さのものである)とからなる。
【0022】
各円柱体2の上端部および下端部に雄ネジが螺設されており、下端部の雄ネジは各下側板部材4に螺設された雌ネジ部に螺合して各円柱体2の下端部を下側板部材4に固定する。また各上側板部材3には雄ネジの貫通可能な孔(図6参照)が形成されていて、雄ネジはこの孔を貫通して上側板部材3の上側に突出しこの突出部でボルト6に螺合する構成となっている。上側板部材3の内面にコイルバネ5のバネ受け凹部3aが形成されている。下側板部材4の内面にもコイルバネ5のバネ受け凹部4aが形成されている。したがって、各コイルバネ5は、正確には、バネ受け凹部3aとバネ受け凹部4aとの間に配設されている構成である。
【0023】
このようにして、この実施形態のガイド20では、上側板部材3を下方(またはコイルバネ5に反力のよる上方)に移動させるとき、3本の円柱体2が上側板部材3の移動を案内するので、上側板部材3を下側板部材4に対して、平行状体を保持したまま上下方向に移動させることができる。またボルト6は上側板部材3の上方向移動のリミッタ−としての機能も有する。
【0024】
さらに、上側板部材3の中心部に、筒体12の基端側に突出形成された雄ネジ12aが貫通可能な開口部9が形成されており、この開口部9に筒体12の基端側の縁面部12bが先端側から当接する段部9aが突出形成されている。円筒体10内側の先端側端面よりのところに、雄ネジ12aに螺合する雌ネジ10dが形成されていて、雄ネジ12aに雌ネジ10dを円筒体10と筒体12とを両者間に上側板部材3を挟んだ状態で螺合することにより、本体部1を上側板部材3に固定することができる。この固定状態時、段部9aの先端側面に筒体12の基端側の縁面部12bが圧接し、段部9aの基端側面に円筒体10の先端側縁面10eが圧接していている。
このようにして、本体部1はガイド20に密に保持される(固定される)ことになる。このとき、叩打ビット8の先端は下側板部材4より外側に突出しないような寸法関係に設定されている(図1参照)。
【0025】
上述の構成のガイド20は、本体部1を取り付けた状態で可搬可能な、たとえば片手で本体部1あるいは円柱体2を握り持って運搬可能な重量、形状に形成されている。
【0026】
この実施形態の塗装付着強さ簡易テスト器は上述の構成となっており、その叩打ビット8の先端面を被テスト塗装面に叩打して当該塗装面の付着強さのテストを行うのであるが、そのテスト方法を次ぎに述べる。
【0027】
本体部の丸穴11aに所定の叩打ビット8を装着してから、本体部1を取り付けたガイド20を被テスト(塗装)面上に載置する。このとき、本体部1および叩打ビット8は被テスト塗装面に対して自動的に垂直状態に設定される。この状態で本体部1(円筒体10と筒体11の部分)片手で握り持って本体部1を被テスト(塗装)面に強く押しつける。
【0028】
そうすると、本体部1(叩打ビット8)がガイド20の下側板体4から突き出され、本体部1(円筒体10と筒体11の部分)を介して付加される押しつけ力により叩打ビット8が押しつけられる。その結果、叩打ビット8によりトリガ−ピン14が第1圧縮コイルバネ15の付勢力に抗して退動する。トリガ−ピン14の退動により脚軸部14cが、ハンマーピン13の中心孔13aに対する当初の偏芯状態から芯出し状態となる。この状態になるや否や、引続き第2圧縮コイルバネ16の強い背圧を受けたハンマ−ピン13とトリガ−ピン14とによって、叩打ビット8が自動的に叩打運動を起こし、被テスト塗装面を叩打することになる。叩打ビット8の叩打力は第2圧縮コイルバネ16のバネ力の調節により調節することができる。
【0029】
叩打ビット8の叩打面9には、図7〜図10に示す通り、直線状の突条9aが複数本並列状に突出形成されている。
突条9aは、図8、10に示す通り、断面をほぼ半球形状に形成されている。この半球形状の突条の径は、当該リ−ルに巻き付けられる線材の径のほぼ2倍(あるひはそれ以下)程度が望ましい。
本体部1を被テスト塗装面から取り除くと被テスト塗装面に叩打ビット8の叩打による叩打痕31が残る。
【0030】
図11(a)、(b)、(c)に叩打痕の一例を示す。
図11(a)のように、叩打による塗料のはがれがない場合、その被テスト塗装面の塗装付着強さを「A」と判定する。
図11(c)のように、叩打による塗料のはがれが多く見られる場合、その被テスト塗装面の塗装付着強さを「C」と判定する。
図11(b)のように、叩打による塗料のはがれが少なく見られる場合、その被テスト塗装面の塗装付着強さを「B」と判定する。ここで、塗装付着強さは、「A」、「B」、「C」の順に良好である。
【0031】
このようにして、本発明によれば、簡単な操作で被テスト塗装面に対して叩打ビット8を直角方向に叩打することができる。そして被テスト塗装面に残った叩打痕から、当該被テスト塗装面の塗装付着強さを格付けすることができ、これにより塗装面の品質管理の精度を向上させることが可能となる。
しかも上記の操作は簡単かつ単純なので、操作員の技量によりテスト結果が左右されるおそれが少ないので、塗装面の品質管理精度を一定水準に保つことができる。
【0032】
さらに、本発明の塗装付着強さテスト器は携帯式であるため、被テスト体が重量の大な場合や遠方にあるような場合、そのような(重い)被テスト体をテスト器まで運ばなくても、本発明の塗装付着強さテスト器を被テスト体に持ち運んで塗装面の塗装付着強さを簡易にテストすることができるので、塗装面の塗装付着強さテストのコストの低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の1実施形態に係る塗装付着強さテスト器の一部断面側面図である。
【図2】同グリップの一部断面側面図である。
【図3】同グリップの底面図である。
【図4】同本体部の断面図である。
【図5】同本体部の分解・組立て図である。
【図6】図1のA矢部を拡大して示す断面図である。
【図7】同叩打ビットの側面図である。
【図8】同叩打ビットの正面図である。
【図9】同叩打ビットの底面図である。
【図10】図8のB矢部の拡大図である。
【図11】(a)、(b)、(c)は叩打痕の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1:本体部
2:円柱体
3:上側板部材
4:下側板部材
5:コイルバネ
6:ボルト
7:開口部
8:叩打ビット
9:叩打面
9a:突条
10:円筒体
11:先端部
11a:丸穴
12:筒体
13:ハンマ−ピン
14:トリガ−ピン
15:第1圧縮コイルバネ
16:第2圧縮コイルバネ
20:ガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被テスト面としての塗装面に向かって叩打ビットを叩打して同塗装面の塗装付着強さをテストする塗装付着強さテスト器において、
上記叩打ビットを内蔵し、かつ外径が片手で握り得る程度の寸法の本体部と、上記叩打ビットを上記塗装面に対してほぼ垂直方向に叩打するべく上記本体部を保持するガイドとで全体構造を可搬式に形成され、
上記本体部に上記叩打ビットを上記塗装面に叩打するためのコイルバネが内設され、同本体部を片手で握って上記塗装面に押しつけることにより、上記コイルバネのバネ力により上記叩打ビットが塗装面に向かって自動叩打されることを特徴とする塗装付着強さテスト器。
【請求項2】
上記叩打ビットの叩打面に複数列の突状部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の塗装付着強さテスト器。
【請求項3】
上記被テスト面としての塗装面に向かって上記叩打ビットを叩打し、同叩打ビットの叩打面に設けられた上記複数列の突状部により上記塗装面に付けられた叩打模様に基づいて、当該塗装面の塗装付着強さの良否の判断を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の塗装付着強さテスト器による塗装付着強さのテスト方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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