説明

塗装方法及びアクリル樹脂板

【課題】洗浄工程後のごみの付着を抑制するとともに、洗浄工程後に付着したごみを塗膜内に残留させない塗装方法を提供する。
【解決手段】板状の被塗布物1を洗浄する洗浄工程S2と、洗浄工程S2によって板状の被塗布物1に付着した水分を除去する乾燥工程S3と、板状の被塗布物1に対して塗膜形成に必要な量以上の塗料を掛け流す塗装工程S4と、板状の被塗布物1に塗布された塗料を硬化させる塗料硬化工程S5とを少なくとも備え、板状の被塗布物1を懸垂支持させた状態で上記各工程S2、S3、S4、S5を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、板状の被塗布物に対して、塗膜内にごみを残留させること無く塗料を塗布する塗装方法及びこの塗装方法を用いて塗装されるアクリル樹脂板に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂板は、軽量で且つ耐衝撃性に優れ、さらに透明度も良好であることから、以前よりガラスの代用品として広く使用されている。
【0003】
ところが、アクリル樹脂は、ガラスに比べて耐擦傷性が劣るとともに、帯電しやすく、静電気によってごみが付着し易いため、従来より、表面硬化用溶剤や帯電防止用溶剤等の塗料を塗布して、耐擦傷性や導電性の向上を図ってきた。
【0004】
塗料の塗布方法としては、シャワーフローコート(例えば特許文献1参照)、ローラーコート、スプレー塗装、ディッピング塗装等が挙げられる。なお、塗装工程としては、一般的に、アクリル樹脂板に付着したごみを洗い流す洗浄工程、洗浄による水分を除去する乾燥工程、アクリル樹脂板に塗料を塗布する塗装工程、塗料を硬化させる塗料硬化工程の4工程がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−210400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、これら公知の塗装方法は、種々の問題を抱えていた。具体的には、シャワーフローコートやローラーコートの場合、アクリル樹脂板を平置きした状態で上記各工程を行うため、空気中を漂う埃等のごみが付着し易い。そのため、乾燥工程から塗装工程の間にアクリル樹脂板にごみが付着することがあり、この場合、アクリル樹脂板に付着したごみは塗膜内に残留することとなる。また、塗装工程から塗料硬化工程の間に塗膜表面にごみが付着する虞もあった。
【0007】
スプレー塗装の場合は、塗装工程において必ずしもアクリル樹脂板を平置きする必要がないため、塗装工程中でのごみの付着を抑制できるが、塗料を細かい粒として噴射するため、塗料が白濁してしまい、透明性を必要とする製品(例えば窓ガラス代替品等)には使用することができなかった。また、洗浄工程を終え、乾燥工程から塗装工程の間にアクリル樹脂板にごみが付着した場合には、このごみが塗料に巻き込まれて塗膜内に残留することとなっていた。
【0008】
ディッピング塗装の場合、塗装工程においてアクリル樹脂板を懸垂支持するため、ごみの付着を抑制できるが、水槽内の塗料液面に浮かぶごみがアクリル樹脂板を引き上げる際に付着してしまうため、結局のところ、ごみが塗膜内に残留することとなっていた。
【0009】
このように、上記に示した塗装方法では、洗浄工程においてごみを除去したとしても、洗浄工程以降にごみが付着し、このごみが塗膜内に残留する可能性があるため、ごみの混入が目立ち易い窓ガラス代替品としてのアクリル樹脂板を塗装するには、今だ改善の余地があった。
【0010】
そこで、この発明は、上記の不具合を解消して、洗浄工程後のごみの付着を抑制するとともに、洗浄工程後に付着したごみを塗膜内に残留させない塗装方法及びアクリル樹脂板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の塗装方法は、板状の被塗布物1を洗浄する洗浄工程S2と、洗浄工程S2によって板状の被塗布物1に付着した水分を除去する乾燥工程S3と、板状の被塗布物1に対して塗膜形成に必要な量以上の塗料を掛け流す塗装工程S4と、板状の被塗布物1に塗布された塗料を硬化させる塗料硬化工程S5とを少なくとも備え、板状の被塗布物1を懸垂支持させた状態で上記各工程S2、S3、S4、S5を行うことを特徴としている。
【0012】
また、板状の被塗布物1を懸垂支持させた状態で、上記各工程S2、S3、S4、S5間の移動を行うことを特徴としている。
【0013】
さらに、塗料として、帯電防止用溶剤又は表面硬化用溶剤を用いている。
【0014】
本発明のアクリル樹脂板は、上記塗装方法を用いて塗装されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
この発明の塗装方法によれば、板状の被塗布物を懸垂支持させた状態で、洗浄工程、乾燥工程、塗装工程、塗料硬化工程を行うため、各工程中でのごみの付着を抑制することができる。また、懸垂支持した状態で、塗膜形成に必要な量以上の塗料を掛け流すため、乾燥工程から塗装工程の間に、板状の被塗布物の表面にごみが付着した場合でも、余剰塗料によってごみを洗い流すことができる、すなわち、塗装工程が、板状の被塗布物に対する塗膜形成と洗浄とを兼ねているため、塗膜内のごみの残留を抑制することができる。また、板状の被塗布物の両面を同時に処理することができ、作業効率の向上を図ることができる。また、板状の被塗布物の表面や塗膜の傷付きを防止できるとともに、作業に必要な床面積を小さくすることができる。
【0016】
また、板状の被塗布物を懸垂支持させた状態で各工程間の移動を行うため、移動中における板状の被塗布物へのごみの付着を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の塗装方法の一連の工程を示すブロック図である。
【図2】板状の被塗布物の懸垂支持状態を模式的に示すものであって、(a)は巻き上げ機から垂下されたフックによって懸垂支持された状態を示す側面図、(b)は移動ラックによって懸垂支持された状態を示す側面図である。
【図3】板状の被塗布物を洗浄している状態を模式的に示した側面図である。
【図4】板状の被塗布物に塗料を塗布している状態を模式的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の塗装方法を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明の塗装方法の一連の工程を示したブロック図である。図2は、板状の被塗布物を懸垂支持した状態を模式的に示すものであって、(a)は巻き上げ機10から垂下されたフック11によって懸垂支持された状態を示す側面図、(b)は移動ラック20によって懸垂支持された状態を示す側面図である。
【0019】
本発明においては、図2(a)、(b)に示すように、巻き上げ機10から垂下されたフック11又は移動ラック20によって板状の被塗布物(アクリル樹脂板)1を懸垂支持する。巻き上げ機10は、例えば建物の天井30側に配設されたレール31上に設置され、レール31に沿って水平方向に移動可能とされている。また、移動ラック20は、例えば建物の床面40に敷設されたレール41上に設置され、レール41に沿って水平方向に移動可能とされている。そして、天井30側に配設されたレール31と床面40に敷設されたレール41とが、平面視連続するようにして設けられており、これらレール31、41上を移動可能な巻き上げ機10又は移動ラック20を用いることで、アクリル樹脂板1が常に懸垂支持された状態のまま、図1に示す一連の工程をたどることができるようになっている。
【0020】
図3は、アクリル樹脂板1を洗浄している状態を模式的に示した側面図である。図中、50、50は洗剤及び純水を噴射させてアクリル樹脂板1に付着したごみを洗い流すために、アクリル樹脂板1の両面に向かって配設されたノズルである。ノズル50は、ポンプ51を介して洗剤や純水を貯蔵するタンク52へと接続されている。また、ノズル50から噴射された洗剤や純水は、ノズル50の下方に配設された洗浄液回収槽53によって受け止められる構成となっている。なお、ノズル50は洗剤を噴射させるものと純水を噴射させるものとをそれぞれ別々に設けても良い。また、洗浄液回収槽53を設けず、そのまま排水するようにしても良い。
【0021】
図4は、アクリル樹脂板1に塗料を塗布している状態を模式的に示す側面図である。図中、60、60は塗料を流出させてアクリル樹脂板1に塗料を塗布するために、アクリル樹脂板1の両面に向かって配設されたノズルである。ノズル60は、例えば10μm以上のごみを除去可能な第1のフィルタ61及び第1のポンプ62を介して塗料を貯蔵するタンク63へと接続されている。ノズル60から流出された塗料は、アクリル樹脂板1に塗膜として付着するが、アクリル樹脂板1から流れ落ちた余剰塗料は、ノズル60の下方に配設された塗料回収槽64によって受け止められる。塗料回収槽64は、例えば30μm以上のごみを除去可能な第2のフィルタ65及び第2のポンプ66を介してタンク63と接続されており、塗料回収槽64によって受け止められた余剰塗料は、第2のフィルタ65、第2のポンプ66、タンク63、第1のポンプ62、第1のフィルタ61を経由して再びノズル60から流出される構成となっている。このように、余剰塗料を循環させる構成としていることで塗料を無駄なく使用することができる。また、第1及び第2のフィルタ61、65を設けていることで、アクリル樹脂板1にごみが付着しており、このごみが余剰塗料に混入した場合でも、また、塗料に元からごみが含まれていた場合でも確実にごみを取り除くことができ、塗膜内へのごみの残留をより一層抑制することができる。なお、第1及び第2のフィルタ61、65の除去可能なごみの大きさは、例示であり、必要に応じて適宜変更可能である。
【0022】
次に、図1に基づいて、本発明の塗装方法について詳細に説明していく。
【0023】
アクリル樹脂板1を塗装するにあたって、まず、塗装準備工程S1として、アクリル樹脂板1に懸垂支持用の治具70を取り付ける。治具70の取付は、アクリル樹脂板1を作業台に平置きして、治具取付孔をアクリル樹脂板1の外周側一辺に略等間隔に穿設するとともに、この治具取付孔に対して治具70を挿通させることで行う。そのため、クランプ等でアクリル樹脂板1を把持する場合に比べて安定した取り付けとなる。
【0024】
次に、平置き状態のアクリル樹脂板1を反転機に載せて立設させる。そして、例えば建物の天井30側に配設されたレール31上に設置され、レール31に沿って水平移動可能な巻き上げ機10から垂下されたフック11に治具70を掛け、巻き上げ機10によってアクリル樹脂板1を吊り上げることにより、図2(a)に示すように、アクリル樹脂板1を懸垂支持する。そして、懸垂支持されたアクリル樹脂板1を、例えば静電気除去器(イオナイザー)を用いて除電するとともに、エアブローによってアクリル樹脂板1の表面に付着しているごみを除去する。さらに、アクリル樹脂板1の表面に傷が付いていないか等の検査を行った後、アクリル樹脂板1をフック11から移動ラック20に掛け変えて洗浄区画へと移動させる。なお、移動ラック20は、図2(b)に示すように、立設されたアクリル樹脂板1よりも高い位置に治具70を掛け止めることができるように構成されており、移動ラック20に掛け変えられたアクリル樹脂板1は、懸垂支持された状態で移動することとなる。
【0025】
次に、洗浄工程S2として、アクリル樹脂板1を再び移動ラック20からフック11に掛け変えて、洗浄液回収槽53上に移動させる。そして、図3に示すように、洗浄液回収槽53の上方に位置し、アクリル樹脂板1の両面に向かって配設されたノズル50、50から、アクリル樹脂板1の両面に向かって洗剤を噴射し、さらに純水によって洗浄する。なお、この洗浄工程S2においても、アクリル樹脂板1は常に懸垂支持された状態である。その後、エアブローで水分を飛ばした後、再びフック11から移動ラック20に掛け変えて、乾燥区画へと移動させる。
【0026】
乾燥工程S3では、アクリル樹脂板1を移動ラック20ごと、乾燥機の中に搬入して乾燥を行う。乾燥工程S3終了後、移動ラック20にアクリル樹脂板1を懸垂支持させた状態のままで塗装区画へと移動させる。
【0027】
次に、塗装工程S4として、アクリル樹脂板1を再び移動ラック20からフック11に掛け変えて、塗料回収槽64上に位置させる。そして、図4に示すように、塗料回収槽64の上方に位置し、アクリル樹脂板1の両面に向かって配設されたノズル60、60から、アクリル樹脂板1の両面に向かって塗料を流出させることで、アクリル樹脂板1に塗料を塗布していく。この際、塗料の量は、塗膜形成に必要な量以上、具体的には、余剰塗料がアクリル樹脂板1の表面を勢い良く流れ落ちる量をノズルから流出させる。なお、塗料として、例えば導電性ポリマー塗料からなる帯電防止用溶剤(AS−H03Q:信越ポリマー株式会社)等を用いることで、アクリル樹脂板1の帯電を防止し、ごみの付着を抑制することができる。塗料を塗布した後、懸垂支持した状態でアクリル樹脂板1を数分間放置して余剰塗料を落下させる。そして、アクリル樹脂板1をフック11から移動ラック20に掛け変えて、塗料硬化工程へと移動させる。
【0028】
塗料硬化工程S5では、上記の乾燥工程S3と同様にアクリル樹脂板1を移動ラック20ごと、乾燥機の中に搬入することで塗料に含まれる溶剤を気化させ塗料の硬化を促す。なお、熱や紫外線によって硬化する塗料を使用した場合は、適宜、熱や紫外線を与えて塗料を硬化させる。塗料硬化工程S5終了後、移動ラック20にアクリル樹脂板1を懸垂支持させた状態のままで検査区画へと移動させる。
【0029】
検査工程S6として、アクリル樹脂板1を移動ラック20からフック11に掛け変え、塗膜内へのごみの残留や傷等の有無を検査する。そして、検査工程S6終了後、立設状態のアクリル樹脂板1を反転機に載せて平置き状態にし、治具70を取り外すとともに、パレットに載置することで製造を完了する。
【0030】
このように、本発明の塗装方法によれば、上記各工程S1〜S6や各工程S1〜S6間の移動において、特に洗浄工程S2から塗料硬化工程S5までの間、アクリル樹脂板1を常に懸垂支持しているため、各工程中S1〜S6や移動中でのごみの付着を抑制することができる。また、懸垂支持した状態で、塗膜形成に必要な量以上の塗料を掛け流すため、万一、アクリル樹脂板1の表面にごみが付着していた場合でも、余剰塗料によってごみを洗い流すことができる。また、懸垂支持した状態であるため、アクリル樹脂板1の両面を同時に処理することが可能となり、作業効率の向上を図ることができる。また、各工程中S1〜S6や移動中、常に懸垂支持されているため、アクリル樹脂板1の表面や塗膜の傷付きを防止できるとともに、作業に必要な床面積を小さくすることができる。そして、ごみの付着を抑制しているため、例えば窓ガラスの代用品としての使用に最適なアクリル樹脂板1を製造することができる。
【0031】
以上に、この発明の具体的な実施形態について説明したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することが可能である。例えば、上記実施例においては、板状の被塗布物1としてアクリル樹脂板が使用されていたが、透光性を有するものであれば異なる板材であっても良い。また、アクリル樹脂板を懸垂支持する手段として、巻き上げ機10と移動ラック20とが使用されていたが、いずれか一方のみを使用して一連の工程S1〜S6及びその間の移動を行うようにしても良い。また、上記実施例においては、アクリル樹脂板1に対して帯電防止用溶剤のみが塗布されたが、2種類の塗料(例えばプライマーとトップコート)を塗布しても良い。この場合、塗装工程S4において、まずプライマーを塗布し、次に塗料硬化工程S5にてプライマーを硬化させた後、再び塗装工程S4に戻ってトップコートを塗布し、その後、塗料硬化工程S5にてトップコートを硬化させるようにすれば良い。なお、2種類の塗料を用いるものとしては、特に限定されるものではないが表面硬化用溶剤が挙げられ、この場合、プライマーとして例えばアクリル樹脂塗料(サーコートプライマー:株式会社動研)、トップコートとして例えばシリコン系樹脂塗料(サーコート:株式会社動研)が用いられる。3種類以上の塗料を用いる場合には、塗装工程S4及び塗料硬化工程S5を必要回数繰返せば良い。
【符号の説明】
【0032】
1・・アクリル樹脂板、S2・・洗浄工程、S3・・乾燥工程、S4・・塗装工程、S5・・塗料硬化工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被塗布物(1)を洗浄する洗浄工程(S2)と、洗浄工程(S2)によって板状の被塗布物(1)に付着した水分を除去する乾燥工程(S3)と、板状の被塗布物(1)に対して塗膜形成に必要な量以上の塗料を掛け流す塗装工程(S4)と、板状の被塗布物(1)に塗布された塗料を硬化させる塗料硬化工程(S5)とを少なくとも備え、板状の被塗布物(1)を懸垂支持させた状態で上記各工程(S2)(S3)(S4)(S5)を行うことを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
板状の被塗布物(1)を懸垂支持させた状態で、上記各工程(S2)(S3)(S4)(S5)間の移動を行うことを特徴とする請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
塗料として、帯電防止用溶剤又は表面硬化用溶剤を用いる請求項1又は2に記載の塗装方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの塗装方法を用いて塗装されることを特徴とするアクリル樹脂板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−245401(P2011−245401A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120102(P2010−120102)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(594165033)株式会社ニダイ精工 (11)
【Fターム(参考)】