塗装方法
【課題】噴霧される塗料粒子の種々の噴霧幅に対して目的とする色味を得ることが可能となり、もって塗料のロスを低減することができ、しかも目的とする色味を得るための塗装条件を迅速に決定することができる塗装方法を提供する。
【解決手段】塗装装置1の制御装置60は、噴霧される塗料粒子の広がりの幅を示す噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、被塗物上の塗料の色味を制御する。
【解決手段】塗装装置1の制御装置60は、噴霧される塗料粒子の広がりの幅を示す噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、被塗物上の塗料の色味を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の中塗りや上塗りの塗装工程においては、量産化を図るため、台車に搭載された自動車のボディがコンベアで搬送されて、ロボットやレシプロ型塗装機により自動塗装が行われる。
【0003】
また近年は、エアスプレーガンを用いた塗装方法に代わり、ベルカップを備えた回転霧化式塗装機を使用することが多くなっている。
【0004】
さらに最近では、従来よりも大きな吐出量で塗料を吐出させるとともに、ベルカップを超高速回転させて塗料を微粒化させ、結果的に塗装能力が従来よりも向上した回転霧化式塗装機が開発されている(非特許文献1参照)。このような塗装機を使用することにより、塗装機の数を従来よりも減少させた構成で、同一面積の被塗物を塗装することが可能となる。また、上記塗装機は、例えば塗装の途中で、噴霧される塗料粒子の広がりを示す噴霧パターンの大きさを変えることが可能である。これにより、塗料が被塗物からはみ出して無駄に噴霧されるオーバースプレーの発生を抑えることができ、したがって塗料のロスを低減することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】RB1000 series、[online]、ABB株式会社、平成20年8月6日検索、インターネット<URL:http://www.abb.co.jp/product/seitp327/5469b0422ebd2725c1257466003ac207.aspx?productLanguage=jp&country=JP>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記塗装機において、噴霧パターンの大きさ(以下、「噴霧幅」ともいう。)を変えて塗装を実施する場合には、その噴霧パターンの大きさにより、噴霧される塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が変化する。ここで、塗料粒子の被塗物面への衝突速度が大きい程、塗料中に含まれる光輝材が被塗物面に対して平行に配向し易くなってメタリック感が大きくなる。
【0007】
このため、塗料粒子が被塗物面に衝突した時の衝突エネルギー量の差異が原因で、塗料中に含まれる光輝材の配向が変化することにより発色が変化してしまい、目的とした色味を得られないという外観品質上の問題があった。
【0008】
一方、外観品質を確保するという理由から塗料粒子の飛行速度の変化を抑えるために、噴霧パターンの大きさを積極的に変化させる塗装を行わない方針を採用すれば、噴霧パターンの変化量が狭い範囲内に制限されてしまう結果、オーバースプレー量の多い状態で塗装せざるを得ず、塗着効率が悪化するというコスト上の問題がある。
【0009】
また、新たな塗色を採用する段階において、種々の噴霧パターンに対する発色の制御方法が明確でないため、各噴霧パターンごとに、目的とした色味を得るための塗装条件を検討する必要がある。このため、新たな塗色を採用するまでに多大な検討時間を要するというリードタイム上の問題がある。
【0010】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、噴霧される塗料粒子の種々の噴霧幅に対して目的とする色味を得ることが可能となり、もって塗料のロスを低減することができ、しかも目的とする色味を得るための塗装条件を迅速に決定することができる塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一側面によれば、被塗物表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する塗装方法が提供される。前記塗装方法は、噴霧される塗料粒子の広がりの幅を示す噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、前記被塗物上の塗料の色味を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、噴霧される塗料粒子の噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、被塗物上の塗料の色味が制御される。したがって、噴霧される塗料粒子の種々の噴霧幅に対して目的とする色味を得ることが可能となり、もって塗料のロスを低減することができる。しかも、新たな塗色を採用する段階において、目的とする色味を得るための塗装条件を迅速に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかる塗装装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】図1に示される回転霧化式塗装機およびその制御構成を示す図である。
【図3】色味とメタリック感との関係を示す図である。
【図4】噴霧パターンの大きさによって、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が変化する様子を説明するための図である。
【図5】塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度とメタリック感との関係を説明するための図である。
【図6】塗料粒子の粒径および塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度がメタリック感に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。
【図7】図6のグラフを3次元で示すグラフである。
【図8】塗料の吐出量およびベルカップの回転数が塗料粒子の粒径に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。
【図9】第1のシェーピングエアの風量および第2のシェーピングエアの風量が塗料粒子の飛行速度に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。
【図10】オーバースプレーの発生を説明するための図である。
【図11】各種の噴霧パターンを用いて塗装する様子を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態にかかる塗装装置の概略を示す全体構成図、図2は、図1に示される回転霧化式塗装機およびその制御構成を示す図である。
【0016】
本実施形態の塗装装置1は、例えば自動車のボディ等の被塗物の表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する塗装装置である。
【0017】
図1に示すように、塗装装置1は、ベルカップ11を備えた回転霧化式塗装機10と、ベルカップ11の回転数を調節する回転数調節装置51と、塗料の吐出量を調整する吐出量調節装置52と、ベルカップ11の背面側から吹き出されるシェーピングエアの風量を調節する風量調節装置53と、被塗物上の塗料の色味を制御する制御装置60とを有している。
【0018】
風量調節装置53は、ベルカップ11の背面側から被塗物に向けて吹き出される第1のシェーピングエアの風量を調節する第1風量調節装置53aと、第1のシェーピングエアの吹き出し方向よりも被塗物に向かって外側に開いた角度で吹き出される第2のシェーピングエアの風量を調節する第2風量調節装置53bとから構成されている。
【0019】
回転数調節装置51は、具体的には、図示しないエア供給源に接続されるエア供給チューブ54の途中に配設されるエア流量(風量)調節用弁である。また、吐出量調節装置52は、具体的には、図示しない塗料供給源に接続される塗料供給チューブ55の途中に配設されるポンプである。また、風量調節装置53は、具体的には、図示しないエア供給源に接続されるエア供給チューブ56a、56bの途中に配設されるエア流量(風量)調節用弁である。
【0020】
回転霧化式塗装機10は、当該回転霧化式塗装機10を被塗物の表面に対向する位置に移動させるためのロボット70のアームの先端に取り付けられる。このロボット70は、例えば広域動作が可能な6軸制御タイプの塗装用ロボットである。
【0021】
図2に示すように、回転霧化式塗装機10のベルカップ11は、回転するカップ状の噴霧頭である。ベルカップ11は、内側に塗料拡散面12が形成されるベル本体13と、このベル本体13の塗料拡散面12の底部に配置され、塗料拡散面12上に塗料を供給するための複数の塗料供給孔14が形成されたハブ部15と、ハブ部15の後方、つまり塗料拡散面12と反対側に配置されるコマ部材16とを備えている。ハブ部15とコマ部材16との間には空間が形成されており、この空間は、ハブ部15の後面に衝突した塗料を集めて複数の塗料供給孔14に安定的に導くための塗料分配室17を構成している。
【0022】
ベルカップ11の後方には、エアモータ21などの駆動手段により回転される中空シャフト22が取り付けられる。中空シャフト22の先端側にはテーパ軸部が形成されており、このテーパ軸部はベル本体13のテーパ孔に挿入されて嵌着される。また、テーパ軸部のさらに先端側には雄ねじ部が形成されており、この雄ねじ部がベル本体13の雌ねじ部に螺合させられる。中空シャフト22の内部中央には、塗料分配室17に塗料を送るための塗料供給管23が配置されている。
【0023】
ベル本体13の塗料拡散面12の形状は、カップ状ないしは皿状の形をなしており、被塗物方向に向かって広がる略円錘状の面であって、回転軸を含む平面による断面に現れる断面線が直線ないしは凹状の曲線となるような面とするが一般的である。ベル本体13の塗料拡散面12の外縁部には、回転軸方向に概略沿って切られた多数の図示しない溝が形成されており、塗料を外縁部から糸条に放出させるようになっている。
【0024】
また、回転霧化式塗装機10は、ベルカップ11の背面側から被塗物に向けてエアを吹き出す第1のエア吹出口31と、当該第1のエア吹出口31から吹き出されるエアの吹き出し方向よりも被塗物に向かって外側に開いた角度でエアを吹き出す第2のエア吹出口32とを有している。なお、エア吹出口31、32は、複数の孔から構成されていてもよく、あるいはリング状のスリットから構成されていてもよい。前述した第1のシェーピングエアSA1は第1のエア吹出口31から吹き出され、第2のシェーピングエアSA2は第2のエア吹出口32から吹き出されるようになっている。塗料粒子はシェーピングエアによって被塗物に向けて飛行する。
【0025】
図2に示すように、第1のシェーピングエアSA1と第2のシェーピングエアSA2の風量の比率を変化させることにより、噴霧される塗料粒子の広がりを示す噴霧パターンの大きさが変化する。ここでは、第1のシェーピングエアSA1は、その風量を大きくすることにより噴霧パターンを小さくする(縮める)作用があり、第2のシェーピングエアSA2は、その風量を大きくすることにより噴霧パターンを大きくする(広げる)作用がある。ここで、噴霧パターンの大きさ、すなわち噴霧幅は、噴霧される塗料粒子の広がりの幅を示す。
【0026】
なお、上記した回転霧化式塗装機10の構造は一例であり、各種構造の回転霧化式塗装機10が使用され得る。
【0027】
ここで、使用される塗料は、アルミフレーク等の光輝材を含んでおり、被塗物表面に塗装された場合にメタリック感(光輝感)を与える。メタリック感は、市販のメタリック感測定器(関西ペイント株式会社製)によってIV(Intensity Value)値を測定することによって客観的に表され得る。具体的には、レーザ光源から直進性の強いレーザ光線を塗装面に投射すると、投射された光はメタリック塗膜内の光輝材表面で多重反射を繰り返し、光輝材のならびに応じた反射光となる。この投射光と反射光の比率を表したものがIV値である。またはX-rite社 MA68IIなど分光測色計のメタリック感指標であるFI値(フロップインデックス)によっても表す事が可能である。
【0028】
図3は、色味とメタリック感との関係を示す図である。図3に示すように、色味はメタリック感を表すIV値と強い相関を持っていることがわかる。なお、色味とは、自動車塗装用語で塗装基準色に対する色の差をいう。基準色に対する統一基準板を作成し、基準板に対する実車での色の差を色味と称して、ライン管理が行われている。
【0029】
制御装置60は、噴霧される塗料粒子の噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、被塗物上の塗料の色味を制御する。
【0030】
より具体的には、制御装置60は、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きく、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が大きい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きくなる関係に基づいて、塗料粒子の粒径および飛行速度を調整することによって、被塗物上の塗料の色味を制御する。
【0031】
本実施形態では特に、噴霧幅が被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位における粒径を、第1の部位における粒径よりも小さい所定値に調整することによって、被塗物上の塗料の色味を制御する。ここでは、制御装置60は、被塗物上の第1の部位における塗料の色味と、被塗物上の第2の部位における塗料の色味とが同一となるように、第2の部位における粒径を、第1の部位における粒径よりも小さい所定値に調整する。これにより、被塗物に対して統一された色味にコントロールした塗装が可能となる。
【0032】
ここで、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きく、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が大きい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きくなる関係について説明する。
【0033】
図4は、噴霧パターンの大きさによって、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が変化する様子を説明するための図である。図4に示すように、大きい噴霧パターン(飛行速度ベクトルA)の場合の塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度Axは、小さい噴霧パターン(飛行速度ベクトルB)の場合の塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度Bxよりも小さいことがわかる。
【0034】
図5は、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度とメタリック感との関係を説明するための図であり、図5(A)は飛行速度が小さい場合の光輝材の配向状態、図5(B)は飛行速度が中程度の場合の光輝材の配向状態、図5(C)は飛行速度が大きい場合の光輝材の配向状態をそれぞれ模式的に示す断面図である。図5に示すように、被塗物25に対して垂直な方向の飛行速度が大きくなると、塗料粒子の被塗物面への衝突速度が大きくなって、塗料中に含まれる光輝材24が被塗物25の表面に対して平行に配向し易くなり、結果的にメタリック感が大きくなる。
【0035】
すなわち、図4および図5から、噴霧パターンが小さくなると被塗物25に対して垂直な方向の飛行速度が大きくなり、光輝材24が被塗物25の表面に対して平行に配向し易くなってメタリック感が大きくなることがわかる。一方、噴霧パターンが大きくなると被塗物25に対して垂直な方向の飛行速度が小さくなり、光輝材24が被塗物25の表面に対して平行に配向しにくくなってメタリック感が小さくなることがわかる。
【0036】
また、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程、被塗物上の塗料のメタリック感が大きくなることが実験により判明した。これは、塗料粒子の粒径が小さい程、塗料粒子が被塗物表面上で当該表面に沿って引き延ばされて平らになるため、光輝材24が被塗物25の表面に対して平行に配向し易くなるものと考えられる。
【0037】
図6は、塗料粒子の粒径および塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度がメタリック感に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。図6に示すように、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きく、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が大きい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きくなることがわかる。
【0038】
例えば、シルバー(光輝材はアルミのみ)を塗色として実験した場合、以下の回帰式が得られた。
IV値=187.64−1.13*粒径+10.54*粒子飛行速度
ここで、粒径の単位はμm、粒子飛行速度の単位はm/sである。
【0039】
なお、一般に、IV値が所定の推奨値以上であると光輝材の配向が良い状態であり、本来のメタリック感が得られるとされている。すなわち、図6に示すように、IV値が所定の推奨値以上となる範囲が、制御装置60による制御範囲とされる。
【0040】
図7は、図6のグラフを3次元で示すグラフである。図7に示すように、粒径、粒子飛行速度、およびIV値(メタリック感)の関係は面Pで表される。図7において、制御範囲は二点差線で示す平面よりも図中上方の範囲となる。図7の面P上の領域Paは比較的大きな粒子を比較的速い速度で被塗物にぶつける塗装方法を採用する場合を示し、領域Pbは比較的小さな粒子を比較的遅い速度で被塗物に塗着させる塗装方法を採用する場合を示している。
【0041】
したがって、噴霧パターンの大きさを変えて塗装する場合、すなわち塗料粒子の飛行速度が異なる塗装をする場合には、粒径を中間因子として制御することにより、IV値(メタリック感)を一致させることができ、もって色味を制御することが可能となる。つまり、噴霧パターンの大きさに関わらず、色味をコントロールすることができる。
【0042】
次に、具体的な塗装条件である塗料の吐出量、ベルカップの回転数、およびシェーピングエアの風量をコントロールすることにより、塗料粒子の粒径および飛行速度を制御することができる点について説明する。
【0043】
図8は、塗料の吐出量およびベルカップの回転数が塗料粒子の粒径に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。図8に示すように、吐出量が大きくなる程粒径は大きくなり、ベルカップの回転数が大きくなる程粒径は小さくなることがわかる。したがって、回転霧化式塗装機10のベルカップ11の回転数および塗料の吐出量を調節することにより、塗料粒子の粒径を調整することが可能である。
【0044】
図9は、第1のシェーピングエアの風量および第2のシェーピングエアの風量が塗料粒子の飛行速度に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。図9に示すように、シェーピングエアの風量が大きくなる程飛行速度が大きくなることがわかる。したがって、シェーピングエアの風量を調節することにより、塗料粒子の飛行速度を調整することが可能である。なお、前述したように、第1のシェーピングエアと第2のシェーピングエアの風量の比率を変化させることにより噴霧パターンの大きさを容易に変化させることができる。
【0045】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用を説明する。
【0046】
塗着効率を考慮した塗装条件の設定は以下のように行われる。まず、実施される塗装内容に応じて、必要な単位時間当たりの塗布量が設定される。
【0047】
そして、塗着効率の観点から、塗料が被塗物からはみ出して無駄に噴霧されるオーバースプレーの発生を抑えるべく、噴霧パターンの大きさ(例えば大と小の2種類。但し3種類以上も可能。)を設定する。
【0048】
図10は、オーバースプレーの発生を説明するための図である。図10(A)に示すように、塗装機10が小さい噴霧パターンで被塗物25を塗装する場合、オーバースプレーは殆ど発生しない。一方、図10(B)に示すように、塗装機10が大きい噴霧パターンで被塗物25を塗装する場合、被塗物25の端部外方Cにおいてオーバースプレーがかなり発生してしまう。これに対し、本実施形態では、例えば図10(C)に示すように、塗装機10が大小2種類の噴霧パターンで被塗物25を塗装するように設定される。この場合、オーバースプレーの発生を抑えることができ、塗料のロスを低減することができる。
【0049】
図11は、各種の噴霧パターンを用いて塗装する様子を示す概略斜視図である。図11(A)は図10(A)に対応している。図11(A)に示すように、塗装機10が小さい噴霧パターンで塗装する場合、オーバースプレーは殆ど発生しないが、塗装のために塗装機10を多数回往復させる必要がある。図11(B)は図10(C)に対応している。図11(B)に示すように、塗装機10が大小2種類の噴霧パターンで塗装する場合、オーバースプレーの発生を抑えることができ、しかも塗装のために塗装機10を少ない回数往復させれば済む。
【0050】
ここで、噴霧幅が被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位における粒径を、第1の部位における粒径よりも小さい所定値に調整する。すなわち、図6のグラフを参照して、被塗物上の第1の部位におけるIV値と第1の部位とは異なる第2の部位におけるIV値とが同一となるように塗料粒子の粒径を設定する。このとき、塗料の吐出量、ベルカップの回転数、およびシェーピングエアの風量をコントロールすることにより、塗料粒子の粒径および噴霧パターンを制御する。このように塗装条件を調節するだけで、容易に塗料粒子の粒径および飛行速度を制御することができる。
【0051】
そして、塗装装置1が例えば自動車のボディ等の被塗物25の表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する場合、制御装置60は、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程被塗物25上の塗料のメタリック感が大きく、塗料粒子の被塗物25に対して垂直な方向の飛行速度が大きい程被塗物25上の塗料のメタリック感が大きくなる関係に基づいて上述のように設定された塗装条件にしたがって、塗料粒子の粒径および飛行速度を調整することによって、被塗物25上の塗料の色味を制御する。
【0052】
したがって、本実施形態によれば、種々の噴霧パターンに対して目的とする色味を得ることが可能となり、もって塗料のロスを低減することができる。しかも、新たな塗色を採用する段階において、目的とする色味を得るための塗装条件を迅速に決定することができる。
【0053】
本発明は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々改変することができる。
【0054】
例えば、上記した実施形態では、噴霧幅が被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位における粒径が、第1の部位における粒径よりも小さい所定値に調整されるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、噴霧幅が被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位の塗料のメタリック感を第1の部位よりも大きくする場合、第2の部位における粒径を、塗料のメタリック感が第1の部位と第2の部位とで同一となる第1の部位における粒径よりも小さい所定値に対して小さくなるように調整し、第2の部位の塗料のメタリック感を第1の部位よりも小さくする場合、第2の部位における粒径を前記所定値に対して大きくなるように調整する構成にも適用され得る。ここで例えば、制御装置60は、被塗物上の第1の部位における塗料の色味と、被塗物上の第2の部位における塗料の色味とが予め決められた異なる色味となるように、第2の部位における粒径を、前記所定値よりも小さい第2の所定値、或いは前記所定値よりも大きい第3の所定値に調整する。このような構成によれば、被塗物に対して自由に色味をコントロールした塗装が可能であり、例えば、被塗物の部位ごとに色味を変えることにより、意匠性ある塗装(グラデーション等)が可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 塗装装置、
10 回転霧化式塗装機、
11 ベルカップ、
21 エアモータ、
24 光輝材、
25 被塗物、
31 第1のエア吹出口、
32 第2のエア吹出口、
51 回転数調節装置、
52 吐出量調節装置、
53 風量調節装置、
53a 第1の風量調節装置、
53b 第2の風量調節装置、
60 制御装置、
Ax、Bx 被塗物に対して垂直な方向の飛行速度、
SA1 第1のシェーピングエア、
SA2 第2のシェーピングエア。
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の中塗りや上塗りの塗装工程においては、量産化を図るため、台車に搭載された自動車のボディがコンベアで搬送されて、ロボットやレシプロ型塗装機により自動塗装が行われる。
【0003】
また近年は、エアスプレーガンを用いた塗装方法に代わり、ベルカップを備えた回転霧化式塗装機を使用することが多くなっている。
【0004】
さらに最近では、従来よりも大きな吐出量で塗料を吐出させるとともに、ベルカップを超高速回転させて塗料を微粒化させ、結果的に塗装能力が従来よりも向上した回転霧化式塗装機が開発されている(非特許文献1参照)。このような塗装機を使用することにより、塗装機の数を従来よりも減少させた構成で、同一面積の被塗物を塗装することが可能となる。また、上記塗装機は、例えば塗装の途中で、噴霧される塗料粒子の広がりを示す噴霧パターンの大きさを変えることが可能である。これにより、塗料が被塗物からはみ出して無駄に噴霧されるオーバースプレーの発生を抑えることができ、したがって塗料のロスを低減することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】RB1000 series、[online]、ABB株式会社、平成20年8月6日検索、インターネット<URL:http://www.abb.co.jp/product/seitp327/5469b0422ebd2725c1257466003ac207.aspx?productLanguage=jp&country=JP>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記塗装機において、噴霧パターンの大きさ(以下、「噴霧幅」ともいう。)を変えて塗装を実施する場合には、その噴霧パターンの大きさにより、噴霧される塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が変化する。ここで、塗料粒子の被塗物面への衝突速度が大きい程、塗料中に含まれる光輝材が被塗物面に対して平行に配向し易くなってメタリック感が大きくなる。
【0007】
このため、塗料粒子が被塗物面に衝突した時の衝突エネルギー量の差異が原因で、塗料中に含まれる光輝材の配向が変化することにより発色が変化してしまい、目的とした色味を得られないという外観品質上の問題があった。
【0008】
一方、外観品質を確保するという理由から塗料粒子の飛行速度の変化を抑えるために、噴霧パターンの大きさを積極的に変化させる塗装を行わない方針を採用すれば、噴霧パターンの変化量が狭い範囲内に制限されてしまう結果、オーバースプレー量の多い状態で塗装せざるを得ず、塗着効率が悪化するというコスト上の問題がある。
【0009】
また、新たな塗色を採用する段階において、種々の噴霧パターンに対する発色の制御方法が明確でないため、各噴霧パターンごとに、目的とした色味を得るための塗装条件を検討する必要がある。このため、新たな塗色を採用するまでに多大な検討時間を要するというリードタイム上の問題がある。
【0010】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、噴霧される塗料粒子の種々の噴霧幅に対して目的とする色味を得ることが可能となり、もって塗料のロスを低減することができ、しかも目的とする色味を得るための塗装条件を迅速に決定することができる塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一側面によれば、被塗物表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する塗装方法が提供される。前記塗装方法は、噴霧される塗料粒子の広がりの幅を示す噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、前記被塗物上の塗料の色味を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、噴霧される塗料粒子の噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、被塗物上の塗料の色味が制御される。したがって、噴霧される塗料粒子の種々の噴霧幅に対して目的とする色味を得ることが可能となり、もって塗料のロスを低減することができる。しかも、新たな塗色を採用する段階において、目的とする色味を得るための塗装条件を迅速に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態にかかる塗装装置の概略を示す全体構成図である。
【図2】図1に示される回転霧化式塗装機およびその制御構成を示す図である。
【図3】色味とメタリック感との関係を示す図である。
【図4】噴霧パターンの大きさによって、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が変化する様子を説明するための図である。
【図5】塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度とメタリック感との関係を説明するための図である。
【図6】塗料粒子の粒径および塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度がメタリック感に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。
【図7】図6のグラフを3次元で示すグラフである。
【図8】塗料の吐出量およびベルカップの回転数が塗料粒子の粒径に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。
【図9】第1のシェーピングエアの風量および第2のシェーピングエアの風量が塗料粒子の飛行速度に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。
【図10】オーバースプレーの発生を説明するための図である。
【図11】各種の噴霧パターンを用いて塗装する様子を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態にかかる塗装装置の概略を示す全体構成図、図2は、図1に示される回転霧化式塗装機およびその制御構成を示す図である。
【0016】
本実施形態の塗装装置1は、例えば自動車のボディ等の被塗物の表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する塗装装置である。
【0017】
図1に示すように、塗装装置1は、ベルカップ11を備えた回転霧化式塗装機10と、ベルカップ11の回転数を調節する回転数調節装置51と、塗料の吐出量を調整する吐出量調節装置52と、ベルカップ11の背面側から吹き出されるシェーピングエアの風量を調節する風量調節装置53と、被塗物上の塗料の色味を制御する制御装置60とを有している。
【0018】
風量調節装置53は、ベルカップ11の背面側から被塗物に向けて吹き出される第1のシェーピングエアの風量を調節する第1風量調節装置53aと、第1のシェーピングエアの吹き出し方向よりも被塗物に向かって外側に開いた角度で吹き出される第2のシェーピングエアの風量を調節する第2風量調節装置53bとから構成されている。
【0019】
回転数調節装置51は、具体的には、図示しないエア供給源に接続されるエア供給チューブ54の途中に配設されるエア流量(風量)調節用弁である。また、吐出量調節装置52は、具体的には、図示しない塗料供給源に接続される塗料供給チューブ55の途中に配設されるポンプである。また、風量調節装置53は、具体的には、図示しないエア供給源に接続されるエア供給チューブ56a、56bの途中に配設されるエア流量(風量)調節用弁である。
【0020】
回転霧化式塗装機10は、当該回転霧化式塗装機10を被塗物の表面に対向する位置に移動させるためのロボット70のアームの先端に取り付けられる。このロボット70は、例えば広域動作が可能な6軸制御タイプの塗装用ロボットである。
【0021】
図2に示すように、回転霧化式塗装機10のベルカップ11は、回転するカップ状の噴霧頭である。ベルカップ11は、内側に塗料拡散面12が形成されるベル本体13と、このベル本体13の塗料拡散面12の底部に配置され、塗料拡散面12上に塗料を供給するための複数の塗料供給孔14が形成されたハブ部15と、ハブ部15の後方、つまり塗料拡散面12と反対側に配置されるコマ部材16とを備えている。ハブ部15とコマ部材16との間には空間が形成されており、この空間は、ハブ部15の後面に衝突した塗料を集めて複数の塗料供給孔14に安定的に導くための塗料分配室17を構成している。
【0022】
ベルカップ11の後方には、エアモータ21などの駆動手段により回転される中空シャフト22が取り付けられる。中空シャフト22の先端側にはテーパ軸部が形成されており、このテーパ軸部はベル本体13のテーパ孔に挿入されて嵌着される。また、テーパ軸部のさらに先端側には雄ねじ部が形成されており、この雄ねじ部がベル本体13の雌ねじ部に螺合させられる。中空シャフト22の内部中央には、塗料分配室17に塗料を送るための塗料供給管23が配置されている。
【0023】
ベル本体13の塗料拡散面12の形状は、カップ状ないしは皿状の形をなしており、被塗物方向に向かって広がる略円錘状の面であって、回転軸を含む平面による断面に現れる断面線が直線ないしは凹状の曲線となるような面とするが一般的である。ベル本体13の塗料拡散面12の外縁部には、回転軸方向に概略沿って切られた多数の図示しない溝が形成されており、塗料を外縁部から糸条に放出させるようになっている。
【0024】
また、回転霧化式塗装機10は、ベルカップ11の背面側から被塗物に向けてエアを吹き出す第1のエア吹出口31と、当該第1のエア吹出口31から吹き出されるエアの吹き出し方向よりも被塗物に向かって外側に開いた角度でエアを吹き出す第2のエア吹出口32とを有している。なお、エア吹出口31、32は、複数の孔から構成されていてもよく、あるいはリング状のスリットから構成されていてもよい。前述した第1のシェーピングエアSA1は第1のエア吹出口31から吹き出され、第2のシェーピングエアSA2は第2のエア吹出口32から吹き出されるようになっている。塗料粒子はシェーピングエアによって被塗物に向けて飛行する。
【0025】
図2に示すように、第1のシェーピングエアSA1と第2のシェーピングエアSA2の風量の比率を変化させることにより、噴霧される塗料粒子の広がりを示す噴霧パターンの大きさが変化する。ここでは、第1のシェーピングエアSA1は、その風量を大きくすることにより噴霧パターンを小さくする(縮める)作用があり、第2のシェーピングエアSA2は、その風量を大きくすることにより噴霧パターンを大きくする(広げる)作用がある。ここで、噴霧パターンの大きさ、すなわち噴霧幅は、噴霧される塗料粒子の広がりの幅を示す。
【0026】
なお、上記した回転霧化式塗装機10の構造は一例であり、各種構造の回転霧化式塗装機10が使用され得る。
【0027】
ここで、使用される塗料は、アルミフレーク等の光輝材を含んでおり、被塗物表面に塗装された場合にメタリック感(光輝感)を与える。メタリック感は、市販のメタリック感測定器(関西ペイント株式会社製)によってIV(Intensity Value)値を測定することによって客観的に表され得る。具体的には、レーザ光源から直進性の強いレーザ光線を塗装面に投射すると、投射された光はメタリック塗膜内の光輝材表面で多重反射を繰り返し、光輝材のならびに応じた反射光となる。この投射光と反射光の比率を表したものがIV値である。またはX-rite社 MA68IIなど分光測色計のメタリック感指標であるFI値(フロップインデックス)によっても表す事が可能である。
【0028】
図3は、色味とメタリック感との関係を示す図である。図3に示すように、色味はメタリック感を表すIV値と強い相関を持っていることがわかる。なお、色味とは、自動車塗装用語で塗装基準色に対する色の差をいう。基準色に対する統一基準板を作成し、基準板に対する実車での色の差を色味と称して、ライン管理が行われている。
【0029】
制御装置60は、噴霧される塗料粒子の噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、被塗物上の塗料の色味を制御する。
【0030】
より具体的には、制御装置60は、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きく、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が大きい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きくなる関係に基づいて、塗料粒子の粒径および飛行速度を調整することによって、被塗物上の塗料の色味を制御する。
【0031】
本実施形態では特に、噴霧幅が被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位における粒径を、第1の部位における粒径よりも小さい所定値に調整することによって、被塗物上の塗料の色味を制御する。ここでは、制御装置60は、被塗物上の第1の部位における塗料の色味と、被塗物上の第2の部位における塗料の色味とが同一となるように、第2の部位における粒径を、第1の部位における粒径よりも小さい所定値に調整する。これにより、被塗物に対して統一された色味にコントロールした塗装が可能となる。
【0032】
ここで、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きく、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が大きい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きくなる関係について説明する。
【0033】
図4は、噴霧パターンの大きさによって、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が変化する様子を説明するための図である。図4に示すように、大きい噴霧パターン(飛行速度ベクトルA)の場合の塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度Axは、小さい噴霧パターン(飛行速度ベクトルB)の場合の塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度Bxよりも小さいことがわかる。
【0034】
図5は、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度とメタリック感との関係を説明するための図であり、図5(A)は飛行速度が小さい場合の光輝材の配向状態、図5(B)は飛行速度が中程度の場合の光輝材の配向状態、図5(C)は飛行速度が大きい場合の光輝材の配向状態をそれぞれ模式的に示す断面図である。図5に示すように、被塗物25に対して垂直な方向の飛行速度が大きくなると、塗料粒子の被塗物面への衝突速度が大きくなって、塗料中に含まれる光輝材24が被塗物25の表面に対して平行に配向し易くなり、結果的にメタリック感が大きくなる。
【0035】
すなわち、図4および図5から、噴霧パターンが小さくなると被塗物25に対して垂直な方向の飛行速度が大きくなり、光輝材24が被塗物25の表面に対して平行に配向し易くなってメタリック感が大きくなることがわかる。一方、噴霧パターンが大きくなると被塗物25に対して垂直な方向の飛行速度が小さくなり、光輝材24が被塗物25の表面に対して平行に配向しにくくなってメタリック感が小さくなることがわかる。
【0036】
また、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程、被塗物上の塗料のメタリック感が大きくなることが実験により判明した。これは、塗料粒子の粒径が小さい程、塗料粒子が被塗物表面上で当該表面に沿って引き延ばされて平らになるため、光輝材24が被塗物25の表面に対して平行に配向し易くなるものと考えられる。
【0037】
図6は、塗料粒子の粒径および塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度がメタリック感に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。図6に示すように、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きく、塗料粒子の被塗物に対して垂直な方向の飛行速度が大きい程被塗物上の塗料のメタリック感が大きくなることがわかる。
【0038】
例えば、シルバー(光輝材はアルミのみ)を塗色として実験した場合、以下の回帰式が得られた。
IV値=187.64−1.13*粒径+10.54*粒子飛行速度
ここで、粒径の単位はμm、粒子飛行速度の単位はm/sである。
【0039】
なお、一般に、IV値が所定の推奨値以上であると光輝材の配向が良い状態であり、本来のメタリック感が得られるとされている。すなわち、図6に示すように、IV値が所定の推奨値以上となる範囲が、制御装置60による制御範囲とされる。
【0040】
図7は、図6のグラフを3次元で示すグラフである。図7に示すように、粒径、粒子飛行速度、およびIV値(メタリック感)の関係は面Pで表される。図7において、制御範囲は二点差線で示す平面よりも図中上方の範囲となる。図7の面P上の領域Paは比較的大きな粒子を比較的速い速度で被塗物にぶつける塗装方法を採用する場合を示し、領域Pbは比較的小さな粒子を比較的遅い速度で被塗物に塗着させる塗装方法を採用する場合を示している。
【0041】
したがって、噴霧パターンの大きさを変えて塗装する場合、すなわち塗料粒子の飛行速度が異なる塗装をする場合には、粒径を中間因子として制御することにより、IV値(メタリック感)を一致させることができ、もって色味を制御することが可能となる。つまり、噴霧パターンの大きさに関わらず、色味をコントロールすることができる。
【0042】
次に、具体的な塗装条件である塗料の吐出量、ベルカップの回転数、およびシェーピングエアの風量をコントロールすることにより、塗料粒子の粒径および飛行速度を制御することができる点について説明する。
【0043】
図8は、塗料の吐出量およびベルカップの回転数が塗料粒子の粒径に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。図8に示すように、吐出量が大きくなる程粒径は大きくなり、ベルカップの回転数が大きくなる程粒径は小さくなることがわかる。したがって、回転霧化式塗装機10のベルカップ11の回転数および塗料の吐出量を調節することにより、塗料粒子の粒径を調整することが可能である。
【0044】
図9は、第1のシェーピングエアの風量および第2のシェーピングエアの風量が塗料粒子の飛行速度に与える影響を示す、実験により得られたグラフである。図9に示すように、シェーピングエアの風量が大きくなる程飛行速度が大きくなることがわかる。したがって、シェーピングエアの風量を調節することにより、塗料粒子の飛行速度を調整することが可能である。なお、前述したように、第1のシェーピングエアと第2のシェーピングエアの風量の比率を変化させることにより噴霧パターンの大きさを容易に変化させることができる。
【0045】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用を説明する。
【0046】
塗着効率を考慮した塗装条件の設定は以下のように行われる。まず、実施される塗装内容に応じて、必要な単位時間当たりの塗布量が設定される。
【0047】
そして、塗着効率の観点から、塗料が被塗物からはみ出して無駄に噴霧されるオーバースプレーの発生を抑えるべく、噴霧パターンの大きさ(例えば大と小の2種類。但し3種類以上も可能。)を設定する。
【0048】
図10は、オーバースプレーの発生を説明するための図である。図10(A)に示すように、塗装機10が小さい噴霧パターンで被塗物25を塗装する場合、オーバースプレーは殆ど発生しない。一方、図10(B)に示すように、塗装機10が大きい噴霧パターンで被塗物25を塗装する場合、被塗物25の端部外方Cにおいてオーバースプレーがかなり発生してしまう。これに対し、本実施形態では、例えば図10(C)に示すように、塗装機10が大小2種類の噴霧パターンで被塗物25を塗装するように設定される。この場合、オーバースプレーの発生を抑えることができ、塗料のロスを低減することができる。
【0049】
図11は、各種の噴霧パターンを用いて塗装する様子を示す概略斜視図である。図11(A)は図10(A)に対応している。図11(A)に示すように、塗装機10が小さい噴霧パターンで塗装する場合、オーバースプレーは殆ど発生しないが、塗装のために塗装機10を多数回往復させる必要がある。図11(B)は図10(C)に対応している。図11(B)に示すように、塗装機10が大小2種類の噴霧パターンで塗装する場合、オーバースプレーの発生を抑えることができ、しかも塗装のために塗装機10を少ない回数往復させれば済む。
【0050】
ここで、噴霧幅が被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位における粒径を、第1の部位における粒径よりも小さい所定値に調整する。すなわち、図6のグラフを参照して、被塗物上の第1の部位におけるIV値と第1の部位とは異なる第2の部位におけるIV値とが同一となるように塗料粒子の粒径を設定する。このとき、塗料の吐出量、ベルカップの回転数、およびシェーピングエアの風量をコントロールすることにより、塗料粒子の粒径および噴霧パターンを制御する。このように塗装条件を調節するだけで、容易に塗料粒子の粒径および飛行速度を制御することができる。
【0051】
そして、塗装装置1が例えば自動車のボディ等の被塗物25の表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する場合、制御装置60は、噴霧する塗料粒子の粒径が小さい程被塗物25上の塗料のメタリック感が大きく、塗料粒子の被塗物25に対して垂直な方向の飛行速度が大きい程被塗物25上の塗料のメタリック感が大きくなる関係に基づいて上述のように設定された塗装条件にしたがって、塗料粒子の粒径および飛行速度を調整することによって、被塗物25上の塗料の色味を制御する。
【0052】
したがって、本実施形態によれば、種々の噴霧パターンに対して目的とする色味を得ることが可能となり、もって塗料のロスを低減することができる。しかも、新たな塗色を採用する段階において、目的とする色味を得るための塗装条件を迅速に決定することができる。
【0053】
本発明は、上記した実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内において、種々改変することができる。
【0054】
例えば、上記した実施形態では、噴霧幅が被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位における粒径が、第1の部位における粒径よりも小さい所定値に調整されるが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、噴霧幅が被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位の塗料のメタリック感を第1の部位よりも大きくする場合、第2の部位における粒径を、塗料のメタリック感が第1の部位と第2の部位とで同一となる第1の部位における粒径よりも小さい所定値に対して小さくなるように調整し、第2の部位の塗料のメタリック感を第1の部位よりも小さくする場合、第2の部位における粒径を前記所定値に対して大きくなるように調整する構成にも適用され得る。ここで例えば、制御装置60は、被塗物上の第1の部位における塗料の色味と、被塗物上の第2の部位における塗料の色味とが予め決められた異なる色味となるように、第2の部位における粒径を、前記所定値よりも小さい第2の所定値、或いは前記所定値よりも大きい第3の所定値に調整する。このような構成によれば、被塗物に対して自由に色味をコントロールした塗装が可能であり、例えば、被塗物の部位ごとに色味を変えることにより、意匠性ある塗装(グラデーション等)が可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 塗装装置、
10 回転霧化式塗装機、
11 ベルカップ、
21 エアモータ、
24 光輝材、
25 被塗物、
31 第1のエア吹出口、
32 第2のエア吹出口、
51 回転数調節装置、
52 吐出量調節装置、
53 風量調節装置、
53a 第1の風量調節装置、
53b 第2の風量調節装置、
60 制御装置、
Ax、Bx 被塗物に対して垂直な方向の飛行速度、
SA1 第1のシェーピングエア、
SA2 第2のシェーピングエア。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する塗装方法であって、
噴霧される塗料粒子の広がりの幅を示す噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、前記被塗物上の塗料の色味を制御することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記噴霧幅が前記被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位における前記粒径を、前記第1の部位における前記粒径よりも小さい所定値に調整することを特徴とする請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
前記噴霧幅が前記被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位の塗料のメタリック感を前記第1の部位よりも大きくする場合、前記第2の部位における前記粒径を、塗料のメタリック感が前記第1の部位と前記第2の部位とで同一となる前記第1の部位における前記粒径よりも小さい所定値に対して小さくなるように調整し、
前記第2の部位の塗料のメタリック感を前記第1の部位よりも小さくする場合、前記第2の部位における前記粒径を前記所定値に対して大きくなるように調整することを特徴とする請求項1に記載の塗装方法。
【請求項4】
ベルカップを備えた回転霧化式塗装機が用いられ、前記回転霧化式塗装機のベルカップの回転数および塗料の吐出量を調節することにより前記粒径を調整し、前記ベルカップの背面側から吹き出されるシェーピングエアの風量を調節することにより前記噴霧幅を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装方法。
【請求項5】
前記シェーピングエアは、前記ベルカップの背面側から前記被塗物に向けて吹き出される第1のシェーピングエアと、前記第1のシェーピングエアの吹き出し方向よりも前記被塗物に向かって外側に開いた角度で吹き出される第2のシェーピングエアとを有することを特徴とする請求項4に記載の塗装方法。
【請求項1】
被塗物表面に光輝材を含む塗料を噴霧して塗装する塗装方法であって、
噴霧される塗料粒子の広がりの幅を示す噴霧幅に応じて当該塗料粒子の粒径を調整することによって、前記被塗物上の塗料の色味を制御することを特徴とする塗装方法。
【請求項2】
前記噴霧幅が前記被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位における前記粒径を、前記第1の部位における前記粒径よりも小さい所定値に調整することを特徴とする請求項1に記載の塗装方法。
【請求項3】
前記噴霧幅が前記被塗物上の第1の部位よりも大きい当該被塗物上の第2の部位の塗料のメタリック感を前記第1の部位よりも大きくする場合、前記第2の部位における前記粒径を、塗料のメタリック感が前記第1の部位と前記第2の部位とで同一となる前記第1の部位における前記粒径よりも小さい所定値に対して小さくなるように調整し、
前記第2の部位の塗料のメタリック感を前記第1の部位よりも小さくする場合、前記第2の部位における前記粒径を前記所定値に対して大きくなるように調整することを特徴とする請求項1に記載の塗装方法。
【請求項4】
ベルカップを備えた回転霧化式塗装機が用いられ、前記回転霧化式塗装機のベルカップの回転数および塗料の吐出量を調節することにより前記粒径を調整し、前記ベルカップの背面側から吹き出されるシェーピングエアの風量を調節することにより前記噴霧幅を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装方法。
【請求項5】
前記シェーピングエアは、前記ベルカップの背面側から前記被塗物に向けて吹き出される第1のシェーピングエアと、前記第1のシェーピングエアの吹き出し方向よりも前記被塗物に向かって外側に開いた角度で吹き出される第2のシェーピングエアとを有することを特徴とする請求項4に記載の塗装方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−75910(P2010−75910A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107961(P2009−107961)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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