説明

塗装治具

【課題】 塗装過程において大型プラスチック成形品を変形させることなく保持することのできる塗装治具を提供する。
【解決手段】 赤外線乾燥炉を備えた塗装装置内で大型プラスチック成形品を吊り下げて保持する塗装治具4であって、この塗装治具4は、熱膨脹による歪み変形が生じない金網6で構成され、この金網6の大型プラスチック成形品の裏面と接する側の面には、ガラスクロス,カーボンクロスの積層面7が一体化されている。また、金網6の表面には、フロン入りの耐熱性塗料の膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物である大型プラスチック成形品を、加熱乾燥式の赤外線乾燥手段を備えた塗装装置内で吊り下げ保持する塗装治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大型プラスチック成形品を塗装する際には、大型プラスチック成形品を治具で吊り下げ保持した状態で塗装装置の赤外線乾燥炉内に送っている。
【特許文献1】特開平5−057237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、塗装装置の赤外線乾燥炉内を移送される際に、炉内温度は130℃〜180℃程度となっており、この炉内で、例えばFRP製の吊り下げ塗装治具が熱により面膨脹し、これにより歪みが生じやすく、塗装治具に熱膨脹歪みが生ずると、塗装治具に保持されている大型プラスチック成形品に変形が生じやすくなるという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は上記従来の問題点に鑑み案出したものであって、大型プラスチック成形品に変形を生じさせることのない塗装治具を提供せんことを目的とし、その請求項1は、赤外線乾燥手段を備えた塗装装置内で被塗装物である大型プラスチック成形品を吊り下げ保持する塗装治具であって、該塗装治具は、熱膨脹による歪み変形が生じない金網で形成されているとともに、該金網には、前記被塗装物の裏面と接する面にガラスクロス,カーボンクロスの積層面が一体化されていることである。
また、請求項2は、前記金網の表面にはフロン入り耐熱塗料による塗装膜が形成されていることである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の大型プラスチック成形品を吊り下げ保持する塗装治具は、熱膨脹による歪み変形が生じない金網で形成されているとともに、金網には、大型プラスチック成形品の裏面と接する面にガラスクロス,カーボンクロスの積層面が一体化されていることにより、大型プラスチック成形品が塗装治具に保持されて赤外線乾燥炉内を移送される際に熱を受けても、塗装治具は金網で形成されているため、内側へは膨脹が生じても外側へ膨脹することがなく、熱による変形歪みが生じにくくなり、そのため大型プラスチック成形品を変形させることがない。
また、金網の大型プラスチック成形品の裏面と接する側には、ガラスクロス,カーボンクロスの積層面が一体化されているため、この平滑な積層面が大型プラスチック成形品に接触し、大型プラスチック成形品に金網の凹凸が影響を与えることがなく、大型プラスチック成形品が変形することがない。なお、ガラスクロス,カーボンクロスの積層面が存在しないと、大型プラスチック成形品に金網の凹凸が移ってしまい不良品となってしまう。
【0006】
また、金網の表面にはフロン入り耐熱塗料による塗装膜が形成されていることにより、金網に塗料が付着したような場合でも、フロン入り耐熱塗料による塗装膜が形成されているため、例えば化成ソーダ液等で容易に付着した塗料を落とすことができ、塗装治具の掃除がしやすいものとなる。
【実施例】
【0007】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1は、塗装装置における赤外線乾燥炉の内部概略図であり、塗装装置の一部をなす赤外線乾燥炉1内には、間隔をおいて複数の赤外線ランプ1a,1a,1aが設けられており、赤外線ランプ1a,1a,1aからの赤外線により、塗装された被塗装物が乾燥されるものである。
【0008】
内部の天井側には、ガイドレール2が設けられており、このガイドレール2に吊り下げフック3を介して複数の塗装治具4,4が吊り下げ支持されており、各塗装治具4に被塗装物である大型プラスチック成形品5が保持されて、ガイドレール2に沿って徐々に移送されて乾燥されるものである。
【0009】
図2のように、大型プラスチック成形品5には予め上部及び下部部位に貫通孔5a,5a,5aが形成されており、この貫通孔5aは組立て時等にビス,ボルト等を通すために形成されているものである。
【0010】
図2のような形状の大型プラスチック成形品5を吊り下げ保持するために、大型プラスチック成形品5の裏側面と同形状の曲面の塗装治具4が用いられており、例えば図3に示すように、塗装治具4は、鉄,アルミニウム,ステンレス製等の金網6で大型プラスチック成形品5の裏面と同形状に形成されている。
【0011】
この図3の塗装治具4を構成する金網6は、複数の縦材6a,6aと複数の横材6b,6bで構成されて、プレス型により大型プラスチック成形品5の裏面と同形状をなすように曲面状に形成されており、プレス成形される際に、補強用に裏側へ膨出状にリブ部P,Pが一体形成されたものである。なお、リブ部は、金網6全体に縦,横,斜め等に凹または凸条に形成しておくこともでき、リブ部で金網6の歪みを防ぐことができる。
【0012】
なお、図6の要部縦断面拡大構成図で示すように、金網6に、吹き付け,どぶ付け,焼き付け等により、フロン入り耐熱塗料の塗装膜10を形成させておくと、後に金網6に塗料が付着した場合でも、容易に付着した塗料を化成ソーダ液等で落とすことができ、塗装治具4の掃除が容易なものとなる。
なお、図5は、金網6の要部を拡大した斜視構成図である。
【0013】
なお、金網6の上端縁及び下端縁には、間隔をおいて円錐形状等の係入ピン8,8,8を形成させておき、各係入ピン8,8,8が、大型プラスチック成形品の貫通孔5a内に嵌め込みできるように構成されている。
また、金網6には、ガイドレール2から垂設される吊り下げフック3と連結するために吊り下げ用ナット9,9,9が上縁に設けられている。
なお、吊り下げ用ナット9内に吊り下げフック3の下端を螺合させて、吊り下げフック3に吊り下げ用ナット9を介して塗装治具4を吊り下げ状に設置できるものである。
【0014】
また、この金網6の大型プラスチック成形品5の裏面に接触する側の面には、積層面7が一体化されている。
この積層面7は、ガラスクロス,カーボンクロスを耐熱性の硬化樹脂で積層させ、完全に熱硬化させて形成したものであり、大型プラスチック成形品5の裏面と同形の型内でガラスクロス,カーボンクロスを耐熱性の硬化樹脂を介在させて積層厚が0.5mm〜0.7mm位になるように積層形成されたものであり、この積層面7と金網6は、耐熱性接着剤によって一体化されている。なお、ガラスクロス,カーボンクロスの積層厚が0.7mm以上となると、膨張のおそれがあるため、それ以下の積層厚が好ましい。
【0015】
このような金網6と積層面7を一体化させた塗装治具4を用いて、図4に示すように、大型プラスチック成形品5を吊り下げ保持することができ、大型プラスチック成形品5の裏面にピッタリと塗装治具4が図4のように当接し、大型プラスチック成形品5を強固に保持することができ、しかも係入ピン8,8,8が貫通孔5a,5a,5a内に係入されて、しっかりと塗装治具4で大型プラスチック成形品5を保持できるものである。
【0016】
しかも、大型プラスチック成形品5の裏側面には、平滑なガラスクロス,カーボンクロス製の積層面7がピッタリと密着状に当接されるため、金網6は直接、大型プラスチック成形品5に接触することがなく、そのため、赤外線乾燥炉1内で大型プラスチック成形品5が熱により軟化した時にも、金網6の凹凸が大型プラスチック成形品5に影響を与えることがなく、平滑な積層面7で大型プラスチック成形品5の変形を防ぐことができるものである。
なお、金網6は熱膨脹が生じても、内側へ膨脹して、外周側には広がりが生じないために、金網6が変形することはなく、そのため大型プラスチック成形品5は全く変形のない状態で良好に赤外線乾燥炉1内で乾燥されるものとなる。
【0017】
なお、本例では、大型プラスチック成形品5を例示しているが、その他の形状の大型プラスチック成形品5であっても、その大型プラスチック成形品5の裏面と同形状の、金網6と積層面7で構成される塗装治具4を用意して、この塗装治具4で、がたつくことなく大型プラスチック成形品5を保持して、良好に塗装が行えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】赤外線乾燥炉内の概略斜視構成図である。
【図2】大型プラスチック成形品の一例を示す拡大斜視構成図である。
【図3】塗装治具の一例を示す斜視構成図である。
【図4】図3の塗装治具で図2の大型プラスチック成形品を保持した状態の縦断面構成図である。
【図5】塗装治具を構成する金網の要部拡大斜視図である。
【図6】塗装治具の拡大縦断面構成図である。
【符号の説明】
【0019】
1 赤外線乾燥炉(塗装装置)
1a 赤外線ランプ
2 ガイドレール
3 吊り下げフック
4 塗装治具
5 大型プラスチック成形品
5a 貫通孔
6 金網
6a 縦材
6b 横材
7 ガラスクロス,カーボンクロスの積層面
8 係入ピン
9 吊り下げ用ナット
P リブ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線乾燥手段を備えた塗装装置内で被塗装物である大型プラスチック成形品を吊り下げ保持する塗装治具であって、該塗装治具は、熱膨脹による歪み変形が生じない金網で形成されているとともに、該金網には、前記被塗装物の裏面と接する面にガラスクロス,カーボンクロスの積層面が一体化されていることを特徴とする塗装治具。
【請求項2】
前記金網の表面にはフロン入り耐熱塗料による塗装膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の塗装治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−26562(P2006−26562A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−210644(P2004−210644)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(598141903)
【Fターム(参考)】